精密射撃は、命中率上昇の効果があるが単発の射撃だ。
そして、全オートマトンといっても60機しかいない。
本来であれば、大地を埋め尽くすほどの群れに対して選ぶ攻撃方法ではなかった。
だが、ビーストマンという種族は、人間の10倍ものステータスを持っている上に、死を恐れない害獣だ。
狙いが荒い砲撃や、命中率が低いガトリング砲などでは、撃ち漏らしが出てしまうだろう。
一匹でも背後の村に通してしまえば、それはあたしの敗北も同然だ。
それ故に命中率が最も高い精密射撃を選択した。
オートマトン達は、確実に狙いをつけてビーストマンを一撃で屠る。
だけど、普通なら次の瞬間にはビーストマンの大群に飲み込まれていただろう。
そう、普通ならだ。
あたしのオートマトン部隊は普通じゃない。
あたしの目の前では、凄まじい速度でビーストマン共が撃ち殺されていく。
オートマトン――“ユグドラシル”で、あたしの傭兵NPCだった存在。そのステータス値は同レベルのプレイヤーより一割ぐらい低い値だった。
だけど、今のオートマトンは同レベルのプレイヤーのステータス値を大きく超えている。
“オーガプリンセスの加護”このスキルは、配下のNPCに自分のステータス値の1割をボーナス値として与えるものだ。
たった一割だ。本来ならこれでオートマトンは、同レベルのプレイヤーと同じステータス値になるだけだった。
だけど、今のあたしのステータス値は、信仰によるボーナス値により、元の数値より遥かに大きくなっている。
その一割を与えられたオートマトンも、戦闘特化のカンストプレイヤーを遥かに凌駕するほどのステータス値になっていた。
基本性能が底上げされ、各種の補助魔法による強化を受けたオートマトンの射撃速度は常識を超えている。
うん、あたしもこれにはビックリだよ。
見渡す限りの範囲にいるビーストマン共が、瞬く間に眉間を撃ち抜かれて絶命していく光景は、いっそ清々しいものがある。
オートマトン1機で、一秒で8匹は撃ち殺しているから60機で480匹。
十秒だと4800匹になり、一分で28800匹になる。
オートマトン達は互いに【思考連結・記憶共有】をしているとかで、獲物が重なることもなく、効率的にビーストマン共を狩っていく。
そういえば、【思考連結・記憶共有】とはどんな感じなんだろう?
前に聞いた時には、“個にして群、群にして個。という感覚です”なんて、よく分からない返事をオートマトンはしていたけど。
頭の中で、常に自分会議を開いている感じなのかな?
うーん。こんな感じかな?
あたし①「今日の議題は、夕御飯のメニューについてです」
あたし②「はい、今夜は焼肉定食がいいです!」
あたし③「異議あり! あたしは鍋が食べたいです!」
あたし④「それならあたしは煮込みシチューが食べたいぞ!」
あたし⑤「いやっ、今夜こそは魚料理が食べたい!」
あたし⑥「待て待て、あたしは店主のオススメ料理が気になるぞ」
あたし⑦「早まるな! 前回はそれでクソまずい創作料理が出てきただろう!」
あたし⑧「今日は食欲がないからアッサリとしたものでいいんじゃないか?」
あたし⑨「どうしたんだ!? まさか病気か!?」
あたし⑩「いや待てっ、こいつの記憶に何かあるぞ!」
あたし⑧「ぎくっ!?」
あたし⑩「こいつ、一人で何か食ってたぞ!!」
あたし⑧「ちっ、ばれたか!」
あたし⑨「分かったぞ!! こいつ大事に取っておいた“ユグドラシル”の高級菓子を全部食いやがった!!」
あたし⑧「フハハハッ、戦略的撤退!!」
あたし⑧以外「「「てえめっ!!ぶっ殺す!!」」」
・・・。
うん、オートマトン達って凄いね!!
*
オートマトン部隊は凄まじいまでの戦果を挙げていく。
だけど、ビーストマンの死骸の山を作りながらも徐々にビーストマン共は、あたし達のもとに近付いてくる。
「マスター。最終防衛線を維持するため、敵軍への特攻の許可を願います」
オートマトンの特攻。
それは魔導エンジンを暴走させての自爆攻撃の事だった。
恐らくは、たった一機の自爆で、大地を埋め尽くす程のビーストマンの群れを殲滅可能だろう。
この自爆攻撃は、指向性を持たせる事も可能なため、あたし達の方には被害をもたらす事もないだろう。
「却下する。お前達が消滅する事は、あたしが死ぬまで許さない。つまり、永遠に許可しない」
当然だけど、あたしは却下した。
まったく、何を考えているんだか、オートマトン達には永遠にあたしの面倒を見るという、とても大事なお仕事があるというのに。
「イエス、マスター。それでは最終防衛線維持のため、マスターが頑張って下さい」
あれ、勿論あたしが頑張るつもりだったけど、オートマトンから言われると、なんか違和感があるんだけど?
「イエス、マスター。それは気のせいです」
そっか! オートマトンが言うなら間違いないよね!
「イエス、マスター。マスターが素直すぎて将来が心配です」
「ちょっと! あんた達の漫才はいいから早くあいつらを何とかしてよね!!」
クレマンティーヌが、あたしにしがみ付きながら耳元で叫ぶ。
相変わらずの痴女ルックだから、クレマンティーヌのおっぱいの感触が凄く伝わってくる。
むにゅむにゅです。
「うがー! 私のおっぱいなんか、いくらでも揉ませてあげるから早く何とかしてよっ!!」
10m程先まで迫ってきたビーストマン共が、よっぽど気になるらしく、クレマンティーヌが大胆な事を言ってくる。
ダメだよ、クレマンティーヌ。もっと自分の事を大切にしなきゃいけないよ。
でも、後でおっぱいは揉ませてね。
あたしはクレマンティーヌから確約を得ると、アイテムボックスから久しぶりに愛棍棒を取り出す。
あたしの身の丈を大きく超える棍棒に陽光聖典達がどよめく。
ふふ、やっぱり女の子が巨大な棍棒を持つ姿はインパクトがあるらしい。
「な、なんと強大な力を発する神器なのだ!?」
陽光聖典の隊長が叫んだ。
神器?
そうそう、神器級の棍棒だよ。よく知ってたね。
「マスター。そろそろ、クレマンティーヌが漏らしそうです。彼女の名誉の為、さっさと害獣共を殲滅して下さい」
「漏らさないわよ!? あんたは何を言っちゃってくれてんのよ!!」
よかった。どうやらクレマンティーヌにも羞恥心があったみたいだ。
ここで、“あら、お漏らしって気持ちいいのよ”とか言われたらどうしようかと思ったよ。
「うぅ…あんたもいい加減にしてよぉ」
いかん。
本気でクレマンティーヌが限界のようだ。
さっさと害獣共を殲滅するとしよう。
あたしは愛棍棒を持つ手に力を込めと、無造作に振るう。
“ビチャ”
濡れたような音と共に、残り5mまでの距離に迫っていたビーストマンの大群が眼前から消え失せた。
あたしの前には砕け散った夥しい肉片と、血に濡れた紅い大地が広がっていた。
「さて、戻るぞ」
「イエス、マスター。これより帰投します」
あたしの声に反応してくれたのは、オートマトンだけだった。