異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第13話「ワールドアイテム」

ワールドアイテムとは、“ユグドラシル”のチートアイテムの総称だ。

 

神器級ですら遠く及ばないほどの効果をもつそれを一つでも持っていれば、“ユグドラシル”のバランスを崩しかねない程の力を発揮する。と言われていた。

 

実はあたしも一つ持っていたりする。

 

あたしが持つワールドアイテムは、【精霊王の門】と呼ばれる首飾り型のアミュレットだ。

 

これの効果は、完全なる転移だ。

 

殆どの人は、たかが転移がワールドアイテムなのかと疑問に思うだろう。あたしも最初は思った。でも、この【精霊王の門】の恐ろしさを知ればそんな言葉は出てこないだろう。

 

なんとこれは、行ったことのない“どんな場所”でも転移可能であり、また登録をした相手を強制的に転移で呼び寄せることが出来るのだ。

 

【精霊王の門】は、一人用のアイテムだけど、呼び寄せる方には人数制限がなかった。

 

そして転移できる“どんな場所”には、自分が所属していないギルド施設内すら含まれる。

 

つまり、いきなり敵対ギルドの最深部に転移が出来るし、それから大勢の仲間を呼び出して内部から襲いかかる事もできる。

 

この破格のワールドアイテムがあれば、トップギルドになる事すら容易かもしれない。

 

もっとも、ソロプレイヤーのあたしでは、大した使い道は無かったけどね。

 

例えば、敵対ギルドの最深部に一人で転移しても、あたしには呼び出せる仲間なんていないからタコ殴りにされるだけだ。

 

ダンジョンのゴール地点にいきなり到達する事も出来たけど、途中のイベントを飛ばしてゴールに転移してもクリアイベントは起きなかった。

 

うん、あたしにとってはハズレワールドアイテムだったかな。

 

でも、そんなハズレワールドアイテムとは違い、法国が所有する【傾城傾国】は危険だった。

 

対象者を問答無用で洗脳してしまう効果があるのだ。たとえ洗脳無効のスキルや種族特性を持っていても関係なくだ。

 

あたしは思った。

 

オートマトンが洗脳されたら誰があたしのご飯を作ってくれるのだ!?

 

由々しき事態だ。

 

オートマトンが危険を顧みずに法国から【傾城傾国】を奪取することを具申するはずだ。

 

最優先事項として、あたしはこの奪取作戦を遂行する事に決めた。

 

 

「では、私は帝国内部にて情報収集の任務に従事しますね」

 

レイナースには予定通り、帝国四騎士として活動を続けてもらいながら諜報部隊として活動してもらう。

 

「定期連絡を忘れるな。非常時には渡した転移魔法のスクロールを使用して部隊に合流しろ」

 

「心遣いに感謝します。我が主様」

 

一人離れて活動を行う、彼女の身を守るために幾つかのマジックアイテムを渡しておいた。

 

「レイちゃんは、帝国にいるんだから安全だよねー、むしろ私達の方が危険だと思うよー」

 

法国から【傾城傾国】を奪取すると告げた時は、素に戻って動揺していたクレマンティーヌだったけど、あたしも同じワールドアイテムを所持している事を知ると、呆れたように溜息を吐いたあと、腹を括ったみたいだ。

 

「では、法国に向かうぞ」

 

「イエス、マスター」

 

「朗報を期待しててねー」

 

「我が主様。オートマトン殿そして、クレマンティーヌ殿、御武運を」

 

レイナースに見送られて、あたし達は帝国を後にした。

 

遠ざかる帝国を見ながらあたしは誓う。

 

次に来る時は必ず闘技場に行ってみせると。

 

 

法国に向かう途中で、あたし達はその法国の部隊に取り囲まれていた。

 

警戒に当たっていた偵察部隊が事前に察知していたが、情報を得るために敢えて接触する事にした。

 

「ようやく捉えたぞ、クレマンティーヌよ。奪った【叡者の額冠】を素直に渡せば、この場での処刑はせぬ」

 

「あらまー、私の追手だわー。風花聖典は暇だねー」

 

「法国の特殊部隊か」

 

「そうだよー、スレイン法国が誇る「六色聖典」の一つだよー」

 

以前に聞いた話だと風花聖典は、他国の情報収集を主な任務とする情報部隊のはずだ。

 

ん?

 

んん?

 

情報部隊?

 

クレマンティーヌと一緒だな!

 

「え? いやまあ、一緒といえば一緒なのかなー?」

 

「そんな裏切り者と一緒にするなっ!!」

 

ありゃ、本気で怒ってるみたい。

 

「クレマンティーヌ。お前、嫌われてるんだな」

 

クレマンティーヌの肩を優しく叩いてあげる。落ち込まなくても大丈夫だよ。今はあたし達がいるからね。

 

「その生暖かい目が、すごくムカつくんだけどー」

 

そうだ。ダメ元で交渉をしてみよう。

 

「分かった。お前達の言う通り、【叡者の額冠】は返そう。その代わり、【傾城傾国】をくれないか?」

 

「……そうか、この場での処刑を望むんだな」

 

「あんたって、本物の馬鹿だったんだね」

 

「クレマンティーヌ、今更ですよ。マスターは、筋金入りの本物です。舐めないでいただきたい」

 

あれ、駆け引きとかもなしで交渉決裂なんだ。この世界の人達は気が短すぎない?

 

「あの内容だと交渉の余地はないよねー」

 

「マスター。ここは“ユグドラシル”とは違います。貴重なアイテムのトレードは基本的に不可能です」

 

そうか、“ユグドラシル”の頃は、アイテムのトレードは当たり前だったけど、この世界だと違うんだね。

 

ソロプレイヤーだったあたしにとって、アイテム集めには便利だったんだけど。

 

そういえば、“ユグドラシル”で知り合ったペロロンなんとかっていう、バードマンには随分とお世話になったものだ。

 

初めてのアイテムトレードの交渉中に、あたしが女だと口を滑らしたら、貴重なアイテムを破格のトレード率で交換してくれるようになったのだ。

 

あたしが神器級の装備を数多く揃えられたのも、考えてみればあのバードマンが、貴重な素材を惜しげもなく、最下級ポーションとトレードしてくれたお陰だろう。

 

この程度の素材なんか、うちのギルドに幾らでも転がっているから気にしなくていいよ。などとトレードする度に言ってくれていた事を思い出す。

 

結局、あたしはあのバードマンとしかアイテムトレードをしなかったが、どうしてあんなトレード率で応じてくれていたんだろう?

 

うーん。

 

はっ!? そうか!!

 

「【傾城傾国】と【最下級ポーション】をトレードしよう!!」

 

 

「アホかぁあああああっ!!!!」

 

 

“クレマンティーヌの突っ込みレベルが1上がった”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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