長年の間、レイナースを苦しめていた呪いは解かれた。
それはあたしが想像していたよりも彼女にとっては、大きな出来事だったようだ。
今まで呪いを解くために稼いだお金の大半を使っていた彼女は、アイテムの代金に見合うほどの蓄えがないから身体で払うと言いだした。
あたしはノーマルだ。
咄嗟にそう言い返したあたしに、彼女は一瞬キョトンとした顔になった後、堪えきれずに笑いを漏らす。
「うふふ、ごめんなさい。それは非常に残念だけど、私は騎士だから戦力として代金に見合う働きをしたいわ」
うん、あたしもそう思っていたよ!
あと、後ろで笑っているクレマンティーヌは覚えていろ。
あたしはまた食事に招待してくれるだけでいいと思っていたけど、それでは彼女の気が済まないらしい。
とは言っても彼女は帝国の四騎士だ。
職務があるだろうから、あたし達に付き合わせるわけにはいかないだろう。
「あら、帝国騎士なんか辞めるわよ」
あっさりと彼女は言い放つ。
元々、呪いを解くための情報を得る為になったようなものだから、呪いが解けた今となっては続ける意味は無いらしい。
「それに貴女について行った方が面白そうだわ」
レイナースは悪戯っぽい笑みを浮かべると“逃がさないわよ”と、いわんばかりに腕を組んできた。
うん、なんだかあたし、リア充っぽい!
そうだ。レイナースとは右腕で組んでいるから。
あたしは、クレマンティーヌを呼んで左腕に組ませる。
オートマトンは正面から抱き締めさせた。
あたしは三者三様の美女達に囲まれた。
おおっ!? あたしってば、モテモテだっ!!
「ねえ、貴女って本当にノーマルなのかしら?」
しまった!? 誤解された!!
あたしは慌ててレイナースの誤解を解く。
それとクレマンティーヌは笑うのを止めろ。
*
レイナースには四騎士を続けてもらう事にした。
私の部隊の所属は諜報部隊だ。もちろん隊長に任命してあげた。クレマンティーヌの情報部隊と上手く連携して欲しいと思う。
「つまりは帝国の情報を探るわけね」
今のところは帝国と事を構える予定はないけど、情報はあって困る事はない。
それにいざという時に、敵の中枢近くにあたしの手の者がいれば、圧倒的に戦略・戦術上有利になるだろう。
なにしろ敵の情報が筒抜けになるのだから。
レイナースに裏切られたら反対にあたしが不利になるけど、彼女のステータスを覗くと、【オーガプリンセス配下】、【諜報部隊の隊長】、【嫁候補】と表示されていたから大丈夫だと思う。ところで、嫁候補ってなんだ?
「ねーねー、レイちゃんも仲間になったんだから指輪を渡してあげなよー」
「指輪ですか、部隊証のようなものでしょうか?」
「ううん、【老化停止】の効果ある指輪だよー、レイちゃんだけ歳をとったら可哀想だよねー」
「そんな指輪が実在するのっ!?」
なるほど、確かにレイナースだけ老化したら部隊運営上、支障をきたすだろう。
あたしは指輪を取り出すとレイナースに渡す。
「これが、【老化停止】の指輪なのですね」
レイナースは震える手で受け取ると、自分の指にそっと嵌める。
「す、凄い魔力を感じます。これほどのマジックアイテムをお持ちとは、貴女は私の想像以上のお方なのですね」
「そうだよー、ただの強いだけの化け物じゃないから、絶対に裏切ったらダメだよー」
「ふふ、裏切る気など元よりありませんが、より強い忠誠心が湧きましたわ。これより誠心誠意お仕えいたします。我が主様」
主様って…まあ、いいか。
「マスター。レイナースとの連絡方法を確立するため、通信系アイテムの使用許可を申請します」
「分かった。使用を許可する」
オートマトンは、二つの手鏡を取り出すと片方をレイナースに渡す。
「その手鏡は、こちらの手鏡との間だけで、持ち主同士の姿と声のやり取りが出来るマジックアイテムです。二つの手鏡の間だけでしかやり取りが出来ない代わりに、探知系魔法に対する秘匿性が高くなっています。通信距離はほぼ無制限と考えて下さい」
「凄いわね。このマジックアイテムだけで戦争の在り方が変わりそうだわ」
「あんたは法国以上のマジックアイテムも持ってそうだよねー」
「法国のマジックアイテム。クレマンティーヌ。法国のマジックアイテムはどのような物があるのですか?」
クレマンティーヌの言葉にオートマトンが興味を示した。
オートマトンはしばらくの間、クレマンティーヌが知り得る限りのマジックアイテムについて聞き出すと、あたしの方に振り向く。
「マスター。法国がワールドアイテム【傾城傾国】を所有していることが判明しました。危険を伴いますが、あのワールドアイテムの放置はより大きな危険に繋がります。ここにワールドアイテムの奪取作戦を具申します」