異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第10話「帝国の騎士」

あたし達は冒険者組合に報告に来た。

 

相変わらずあたしが来ると静まり返る。

 

新人イジメはいつまで続くのだろうか?

 

クレマンティーヌが受付嬢に特別依頼終了の報告をすると、組合長の所に案内された。

 

きっと特別に褒められるのだろう。

 

あたし達は、アンデッドの群れからこの街を救った英雄なのだから。えっへん。

 

 

組合長から墓場の門を壊した事を怒られた。

 

理不尽だ。

 

確かに墓場の門は壊したけど、アンデッドの侵入は防いだのだ。

 

クレマンティーヌにも抗議させたけど、それとこれとは話は別だと説教された。

 

壊す必要のなかった門を壊して、不必要に街を危険に晒したことが問題らしい。

 

アンデッドの群れを殲滅して、ズーラーノーンの貴重な情報を手に入れた功績があるから、罪には問わないし、クラスも銅からミスリルに昇格させるけど、門の修繕費と引き換えに依頼料と報奨金は無しだと言われた。

 

この世の無常を感じた。

 

この組合長、潰そうかな?

 

いやいや、ダメだ。

 

最低限のルールは守らなきゃいけない。

 

あたしは野蛮人ではなく、知性派だからね。

 

まったく、組合長から殴りかかってくれたら遠慮なく潰せるんだけど。

 

もういいや、今日はオートマトンとクレマンティーヌの二人を抱き枕にして不貞寝しよう。

 

あたし達は宿屋に帰った。

 

 

最近、漆黒と呼ばれる冒険者の噂を聞くようになった。

 

なんでもたった二人だけのチームで、多くの盗賊団の壊滅や、突如現れた強力なモンスターの討伐に成功しているらしい。

 

そこであたしは気付く。

 

オートマトンとクレマンティーヌを冒険者登録していなかったことに。

 

「今更だよねー。別にもういいんじゃないのー」

 

クレマンティーヌ曰く、冒険者組合としては、あたし達は三人纏めて一組だと思っているらしい。

 

確かに単独で依頼を受けることはないから、登録しているのがあたし一人でも問題はないのかな。

 

まあ、確かに面倒くさいし無理に登録しなくていいか。

 

あたしは気にしない事にした。

 

 

帝国には闘技場があるらしい。

 

クレマンティーヌからの情報だ。

 

あたし達は、帝国に向かう事にした。

 

闘技場は誰でも参加できるらしい。

 

あたしより強い奴に会いに行く。というやつだ。

 

さて、どれほどの猛者が待ち受けているのか楽しみだ。

 

 

帝国に向かう道中で、周囲に展開しながら警戒中のオートマトンの偵察部隊が、演習中の帝国軍を見つけた。

 

うむ、この世界の軍隊の練度を確認する絶好の機会だな。

 

見物してみよう。

 

「帝国の軍事演習なんか見ても面白くないよー」

 

クレマンティーヌは興味がないみたいだが、敵を知り己を知れば百戦危うからず。という言葉もある。見ていて損はないだろう。

 

「私達って帝国と戦う予定があったりしちゃうのー?」

 

おや、クレマンティーヌは帝国と戦いたいのかな?

 

「いや、いくら何でも無理っしょ」

 

うん、確かにそうだな。

 

「あれ、認めちゃうんだ。何だか意外だねー、“我らにとって帝国なんぞ敵ではない”とか言うと思っていたんだけどー」

 

「ふふ、あたしは自分を知っているぞ。帝国の人口がどのぐらいかは知らないが、絶対に途中で飽きる」

 

「な、なるほどねー、帝国国民全てを殲滅するなら、途中で飽きちゃいそうだよねー」

 

そうだ。軍を殲滅した後は、ただの作業になってしまうだろう。

 

そんなもの飽きるに決まっている。

 

「うん、暴れるのは闘技場についてからにしようねー」

 

「元よりそのつもりだぞ?」

 

クレマンティーヌが、“そうだよねー、そうだと信じているよー”とか訳の分からない事を口走っている。疲れているのだろうか?

 

「ハァ、この私が抑える方に回るだなんて、世も末だよねー」

 

 

50人程の騎士達が二つに分かれて剣を振るっていた。思ったよりも少ないな。小隊規模の演習なのか?

 

「へぇ、指揮をしているのは大物だねー。あれって、帝国が誇る四騎士の一人、“重爆”のレイナース・ロックブルズだよー」

 

「強いのか?」

 

「私には勝てないよー」

 

なんだ、弱いのか。

 

しばらく見物していたけど、大して興味が湧かなかった。

 

あの程度の軍なら瞬殺できてしまう。

 

「マスター。あの指揮官より、僅かに呪いの気配が感知されました」

 

呪い?

 

帝国の騎士なのに呪われてるの?

 

「そういえば、帝国四騎士の重爆は呪いのせいで、顔半分が酷い状態になってるって聞いた事あるよー」

 

クレマンティーヌの言葉に、女騎士の顔を注視する。長い髪で隠しているけど、確かに顔の右半分が歪んでいる。それに膿も出ているみたいだ。

 

「指揮官は兵士達の士気を鼓舞する役割がある。あの状態の女指揮官では、兵士達の士気も落ちるだろう」

 

兵士達の士気を鼓舞する方法は色々あるが、女指揮官の場合なら、その美貌も重要な要素となる。

 

「あたしを見れば分かるだろう」

 

「イエス、マスター。マスターの美貌は世界一です」

 

「へー、そうなんだー」

 

なんだかクレマンティーヌの棒読みの言葉が気になる。でもまあ許してやろう。妬まれるのも美人税だというからな。

 

尤もあたしは本来、美貌で兵士の士気を鼓舞するタイプではなく、強大で雄々しいオーガロードの肉体美で士気を鼓舞するタイプだったのだ。

 

その頃のあたしに会っていれば、クレマンティーヌはあたしに惚れていたかもしれない。残念ながら今はオーガプリンセスになってしまったけど。

 

「オ、オーガロードって伝説に出てくる化け物じゃない……オーガプリンセスは聞いたことないけど、それって進化したのよね? その姿が真実の姿なのよね?」

 

「その通りです。今のマスターは、知性なき凶暴で凶悪だった頃のマスターとは別物です。あの頃は血に飢えたモンスターでしたが、今のマスターは、知性派を気取るだけの最低限の知能を得た、亜人と言えなくもない存在にクラスアップしています」

 

「…あんたが本当にあいつに忠誠を誓っているのかに疑問を感じるのは私の気のせいかしら? まあいいわ。今のあいつは悪い奴…かもしれないけど、私に危害を加える奴ではないものね。ただ、あいつがオーガロードに戻りたいとか言っても戻らせないでね」

 

「勿論です。クレマンティーヌ。今のマスターは私も気に入っています。オーガロードには、絶対に戻らせません。それと言っておきますが、マスターの正体を漏らした場合、クレマンティーヌには酷い目に遭ってもらいますよ」

 

「勝手に教えといて酷すぎない!? もちろん死んだって漏らさないわよ!! 絶対、死んだ方がマシな目に遭わせる気でしょう!!」

 

「安心して下さい。死んでも何度でも蘇らせて酷い目に遭ってもらいますから」

 

「いっそのこと記憶を奪ってよぉおおおっ!!」

 

何やらオートマトンとクレマンティーヌが楽しそうだ。

 

女同士の禁断の愛でも芽生えたのかな?

 

そんな時だった。帝国の女指揮官が、演習を見物をしているあたし達に気付いて声を掛けてきた。

 

「初めまして、貴方達は旅の方達かしら。軍事演習なんて見物しても楽しくないでしょう?」

 

意外と物腰の柔らかい人物のようだ。

 

目付きはキツイが、それは人の事を言えないから気にしない。

 

「えーと、ビジバシと殺気を飛ばしてきてるんだけど?」

 

「マスターにとって、この程度の殺気は認識さえしないレベルです」

 

「私も人の事は言えないけど、随分と殺伐とした人生を歩んでない?」

 

「常在戦場。武士(もののふ)とは、そんな生き物です」

 

「もののふってなにー?」

 

背後がうるさいけど、今回は指揮官が相手だから、こちらもあたし(指揮官)が相手をしよう。

 

決して、相手の口調が柔らかいからではなく、指揮官同士だからだ。

 

「いや、随分と熱が入っていて見応えは十分にあった。帝国は良い兵士に恵まれているらしいな」

 

とりあえず社交辞令を言ってみる。これでも日本人だからね。今でも日本人といえるかは分からないけど。

 

「ふふ、そうかしら。ところで、貴女とそちらの彼女は珍しい服装だけど、どこのご出身なのかしら?」

 

服装?

 

おおっ!

 

そういえば、あたしとオートマトンは軍服だった。

 

エンリ以外は誰も突っ込んでくれなかったから忘れてた。

 

「あんたみたいな物騒な雰囲気の奴に指摘するなんて、随分と豪胆な奴がいたものねー」

 

「カルネ村のエンリ。かつてマスターを導いた者だ」

 

うん、王国まで道案内をしてくれたね。

 

「ええっ!? この化け物に師匠がいるの!?」

 

クレマンティーヌ、あんまり口が悪いと全身タイツを着させるよ。

 

「全身タイツ……初めて聞くけど、絶対に着たくない気がする」

 

ブルリと身を震わせるクレマンティーヌ。

 

流石は生粋の痴女。全身タイツが体を隠す衣服だと本能で察したようだ。

 

「ふふ、随分と楽しそうね。その様子だと他国の間者とかじゃないようね」

 

なんだ、あたし達を他国の間者かと疑っていたのか。

 

「こんな目立つ格好をした間者はいないよねー」

 

いやいや、ビキニマントのクレマンティーヌには言われたくないよ?

 

「誰がビキニマントよ!? ところでビキニってなに?」

 

マントは分かるのか。

 

「うふふ、本当に愉快な人達のようね。それに色々と珍しい事にも通じていそうね」

 

女指揮官は、何かを思案するとあたし達に笑顔を向けてきた。

 

「もし、良かったら今夜のお食事にご招待させてもらえないかしら? その代わりと言ったら何なのだけど、貴女達の知っている珍しいお話を聞かせて欲しいわ」

 

あ…

 

生まれて初めて食事に誘われた。

 

きっと今日は、あたしの記念日になるだろう。

 

「イエス、マスター。おめでとうございます」

 

 

 

 

 

 

 


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