先に進むと顔色の悪いハゲが待ち受けていた。
ハゲの後ろにはスケリトル・ドラゴンが控えている。
この時点であたしのやる気は急降下する。どうやら敵は、対魔法詠唱者を想定していたようだ。
スケリトル・ドラゴンは魔法耐性が多少高かった気がするが、あたしはぶん殴ればいいだけだ。それにオートマトン達の銃撃も通常弾は物理ダメージの為、魔法耐性は関係ない。
ハゲの方は、何だか気持ちの悪い顔色をしている。
殴っても大丈夫なのか? 病気でも持っていそうだな。
「やっほー、カジッちゃん元気ー」
あたしの後ろに隠れてついてきたクレマンティーヌが、親しげにハゲに手を振っている。
おいおい、いくらボッチでも友達は選んだ方がいいぞ。
「クレマンティーヌ!?貴様っ、やはり裏切ったか!」
「やだなー、私達って最初から仲間じゃないよねー。ただの利用し合う関係に過ぎなかったじゃん」
クレマンティーヌが、全く悪びれずに笑いながら酷いことを言っている。よかった、友達じゃなかったんだな。
いや、利用し合う関係だと……もしかして。
「愛人だったとか?」
「止めてよ!? いくら私にだって選ぶ権利ぐらいあるわよ!!」
クレマンティーヌが、何時もの間延びした喋り方を忘れるほど強烈に嫌がった。向こうのハゲが若干、傷付いた顔になった気がした。
それならいいか、さっさと終わらせて冒険者組合に報告しに行こう。
あたしはスケリトル・ドラゴンを指差す。
次の瞬間、四方八方から集中砲火を浴び、スケリトル・ドラゴンは一秒と持たずに砕け散る。
「そなた達の戦いぶりから勝てぬとは思っておったが、儂の切り札までもがこうも容易く倒されるとはな。ここまでくれば、逆に小気味よいわ」
ハゲが何だか潔いことを言っている。
何だかつまらない。
ここはお約束として、ハゲは逆上して襲いかかってくるもんじゃないのかな?
「儂の夢もここまでか」
ハゲは遠い目をしてブツブツ言っている。
正直に言おう。
すこぶる気持ち悪い。
「お母さん、ごめんなさい」
あたしこそ、ごめんなさい。
気持ち悪くて耐えられない。
顔色の悪いハゲが、遠い目をして涙を流す。
限界です。許して下さい。
「我が娘達よ。撃て」
「イエス、マスター。撃つ」
きっと、オートマトン達も気持ち悪かったのだろう。ハゲを射程内に捉えていた全員が撃ちまくって、ハゲがいた場所がクレーター状に穿たれていた。
「うわー、容赦ないねー。でもズーラーノーンの情報を得なくて良かったのー?」
しまった。
たが、心配はいらない。
死者から情報を得る方法など、いくらでもあるのだから。
「ここは墓場だし、アンデッドにして呼び出そう」
アイテムボックスに死蔵していた【不死者創造】の魔法スクロールを取り出す。
使うのは初めてだから上手くいくは分からないけど、失敗しても別に構わないだろう。
スクロールを手にしたあたしは……これって、どうやって使うの?
「これでハゲを呼び出せ」
「イエス、マスター」
オートマトンが使ってくれた。
*
あたしの足元に、歓喜しながら忠誠を誓っている骸骨がいた。
ハゲをリッチにして呼び出したらこうなった。意味が分からない。
「良かったねー、カジッちゃんの夢にこれで一歩近付いたって感じだよねー」
「おお、クレマンティーヌよ。お主の事を誤解しておった。お主が口添えしてくれたお陰で、儂は不死者として蘇ることが出来たそうじゃな」
「うんうん、たっぷりと恩に着てねー」
「分かっておるぞ。こうなればもう、ズーラーノーンなんぞに用はない。儂が知り得る情報は全て渡そう」
まあ、目的は果たせるみたいだからいいかな。
クレマンティーヌが、ハゲ(生きていてもハゲ、リッチになってもハゲ)からズーラーノーンの情報を聞き出してくれた。
あたしはハゲが気持ち悪いから、少し離れていた。オートマトン達も気持ち悪かったみたいで、一緒に離れていた。もしかして、あたしの感情がオートマトン達に伝わっているのかな?
「やっほー、情報は全部聞いといたよー」
どうやら終わったようだ。
リッチになったハゲは、何やら研究したい事があるそうだ。それが終わるまでは仕えるのは待って欲しいとのこと。
もちろん寛大なあたしは百年でも千年でも研究に専念しなさい。と言っておいた。
ハゲは感激してた。
そういえば、オートマトンには寿命はないけど、オーガプリンセスの寿命はどうなっているのかな?
「あたしの寿命は何年ぐらいだ?」
試しにオートマトンに聞いてみた。知っているかな?
「イエス、マスター。約200年です」
長いような、短いような、よく分からん。
「そうか。ところで、あたしの寿命が尽きたとき、お前達はどうなるんだ?」
「イエス、マスター。マスターの死と同時に機能停止します」
「あれ、それだとあたしのお墓を作ってくれる人がいないよね?」
「イエス、マスター。提案があります」
「なんだ?」
「マスターが【老化停止】のアイテムを着用する事を具申します」
そういえば“ユグドラシル”の装飾品には、色々な効果のあるアイテムが多かった。
【老化停止】の効果がついたアイテムも結構あったけど、加齢の概念がなかった“ユグドラシル”では、単にアイテムの説明欄に書かれている情報に過ぎなかった。
現実になったここだと、本当に老化が止まるのかな?
あたしは【老化停止】の効果がついた指輪を取り出す。
「うわー、凄い魔力を感じるんだけどー、本当に老化が止まるのー?」
クレマンティーヌが興味津々で指輪を見つめている。
そうか、クレマンティーヌも女の子だから老化は気になるよね。
そうだ。いきなり自分がはめるのも心配だし、クレマンティーヌで試してみよう。
あたしは、同じ指輪を取り出すとクレマンティーヌに渡す。
「はめていいぞ」
「うわー!? ありがとー!!」
クレマンティーヌが飛び跳ねるように喜ぶと指輪をはめる。
指輪をはめた瞬間、クレマンティーヌを包むように指輪から光が放たれると、クレマンティーヌの身体に吸い込まれていった。
うん、本当に効果があるみたい。
オートマトンが、ステータスの鑑定が出来るアイテムを使いながらクレマンティーヌを観察していたけど、納得したように頷くと、あたしに向かって指輪をはめるように促してきた。
「ふふ、やっぱり私は実験体だったみたいね」
アイテムの実験だったことには、クレマンティーヌは気付いてたみたいだけど、それでも構わないぐらいに【老化停止】は魅力的だったようだ。
「私もはめたままで良いのよね?」
あたしが頷くと、クレマンティーヌはニンマリと笑った。