異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

10 / 46
第9話「ズーラーノーン」

先に進むと顔色の悪いハゲが待ち受けていた。

 

ハゲの後ろにはスケリトル・ドラゴンが控えている。

 

この時点であたしのやる気は急降下する。どうやら敵は、対魔法詠唱者を想定していたようだ。

 

スケリトル・ドラゴンは魔法耐性が多少高かった気がするが、あたしはぶん殴ればいいだけだ。それにオートマトン達の銃撃も通常弾は物理ダメージの為、魔法耐性は関係ない。

 

ハゲの方は、何だか気持ちの悪い顔色をしている。

 

殴っても大丈夫なのか? 病気でも持っていそうだな。

 

「やっほー、カジッちゃん元気ー」

 

あたしの後ろに隠れてついてきたクレマンティーヌが、親しげにハゲに手を振っている。

 

おいおい、いくらボッチでも友達は選んだ方がいいぞ。

 

「クレマンティーヌ!?貴様っ、やはり裏切ったか!」

 

「やだなー、私達って最初から仲間じゃないよねー。ただの利用し合う関係に過ぎなかったじゃん」

 

クレマンティーヌが、全く悪びれずに笑いながら酷いことを言っている。よかった、友達じゃなかったんだな。

 

いや、利用し合う関係だと……もしかして。

 

「愛人だったとか?」

 

「止めてよ!? いくら私にだって選ぶ権利ぐらいあるわよ!!」

 

クレマンティーヌが、何時もの間延びした喋り方を忘れるほど強烈に嫌がった。向こうのハゲが若干、傷付いた顔になった気がした。

 

それならいいか、さっさと終わらせて冒険者組合に報告しに行こう。

 

あたしはスケリトル・ドラゴンを指差す。

 

次の瞬間、四方八方から集中砲火を浴び、スケリトル・ドラゴンは一秒と持たずに砕け散る。

 

「そなた達の戦いぶりから勝てぬとは思っておったが、儂の切り札までもがこうも容易く倒されるとはな。ここまでくれば、逆に小気味よいわ」

 

ハゲが何だか潔いことを言っている。

 

何だかつまらない。

 

ここはお約束として、ハゲは逆上して襲いかかってくるもんじゃないのかな?

 

「儂の夢もここまでか」

 

ハゲは遠い目をしてブツブツ言っている。

 

正直に言おう。

 

すこぶる気持ち悪い。

 

「お母さん、ごめんなさい」

 

あたしこそ、ごめんなさい。

 

気持ち悪くて耐えられない。

 

顔色の悪いハゲが、遠い目をして涙を流す。

 

限界です。許して下さい。

 

「我が娘達よ。撃て」

 

「イエス、マスター。撃つ」

 

きっと、オートマトン達も気持ち悪かったのだろう。ハゲを射程内に捉えていた全員が撃ちまくって、ハゲがいた場所がクレーター状に穿たれていた。

 

「うわー、容赦ないねー。でもズーラーノーンの情報を得なくて良かったのー?」

 

しまった。

 

たが、心配はいらない。

 

死者から情報を得る方法など、いくらでもあるのだから。

 

「ここは墓場だし、アンデッドにして呼び出そう」

 

アイテムボックスに死蔵していた【不死者創造】の魔法スクロールを取り出す。

 

使うのは初めてだから上手くいくは分からないけど、失敗しても別に構わないだろう。

 

スクロールを手にしたあたしは……これって、どうやって使うの?

 

「これでハゲを呼び出せ」

 

「イエス、マスター」

 

オートマトンが使ってくれた。

 

 

あたしの足元に、歓喜しながら忠誠を誓っている骸骨がいた。

 

ハゲをリッチにして呼び出したらこうなった。意味が分からない。

 

「良かったねー、カジッちゃんの夢にこれで一歩近付いたって感じだよねー」

 

「おお、クレマンティーヌよ。お主の事を誤解しておった。お主が口添えしてくれたお陰で、儂は不死者として蘇ることが出来たそうじゃな」

 

「うんうん、たっぷりと恩に着てねー」

 

「分かっておるぞ。こうなればもう、ズーラーノーンなんぞに用はない。儂が知り得る情報は全て渡そう」

 

まあ、目的は果たせるみたいだからいいかな。

 

クレマンティーヌが、ハゲ(生きていてもハゲ、リッチになってもハゲ)からズーラーノーンの情報を聞き出してくれた。

 

あたしはハゲが気持ち悪いから、少し離れていた。オートマトン達も気持ち悪かったみたいで、一緒に離れていた。もしかして、あたしの感情がオートマトン達に伝わっているのかな?

 

「やっほー、情報は全部聞いといたよー」

 

どうやら終わったようだ。

 

リッチになったハゲは、何やら研究したい事があるそうだ。それが終わるまでは仕えるのは待って欲しいとのこと。

 

もちろん寛大なあたしは百年でも千年でも研究に専念しなさい。と言っておいた。

 

ハゲは感激してた。

 

そういえば、オートマトンには寿命はないけど、オーガプリンセスの寿命はどうなっているのかな?

 

「あたしの寿命は何年ぐらいだ?」

 

試しにオートマトンに聞いてみた。知っているかな?

 

「イエス、マスター。約200年です」

 

長いような、短いような、よく分からん。

 

「そうか。ところで、あたしの寿命が尽きたとき、お前達はどうなるんだ?」

 

「イエス、マスター。マスターの死と同時に機能停止します」

 

「あれ、それだとあたしのお墓を作ってくれる人がいないよね?」

 

「イエス、マスター。提案があります」

 

「なんだ?」

 

「マスターが【老化停止】のアイテムを着用する事を具申します」

 

そういえば“ユグドラシル”の装飾品には、色々な効果のあるアイテムが多かった。

 

【老化停止】の効果がついたアイテムも結構あったけど、加齢の概念がなかった“ユグドラシル”では、単にアイテムの説明欄に書かれている情報に過ぎなかった。

 

現実になったここだと、本当に老化が止まるのかな?

 

あたしは【老化停止】の効果がついた指輪を取り出す。

 

「うわー、凄い魔力を感じるんだけどー、本当に老化が止まるのー?」

 

クレマンティーヌが興味津々で指輪を見つめている。

 

そうか、クレマンティーヌも女の子だから老化は気になるよね。

 

そうだ。いきなり自分がはめるのも心配だし、クレマンティーヌで試してみよう。

 

あたしは、同じ指輪を取り出すとクレマンティーヌに渡す。

 

「はめていいぞ」

 

「うわー!? ありがとー!!」

 

クレマンティーヌが飛び跳ねるように喜ぶと指輪をはめる。

 

指輪をはめた瞬間、クレマンティーヌを包むように指輪から光が放たれると、クレマンティーヌの身体に吸い込まれていった。

 

うん、本当に効果があるみたい。

 

オートマトンが、ステータスの鑑定が出来るアイテムを使いながらクレマンティーヌを観察していたけど、納得したように頷くと、あたしに向かって指輪をはめるように促してきた。

 

「ふふ、やっぱり私は実験体だったみたいね」

 

アイテムの実験だったことには、クレマンティーヌは気付いてたみたいだけど、それでも構わないぐらいに【老化停止】は魅力的だったようだ。

 

「私もはめたままで良いのよね?」

 

あたしが頷くと、クレマンティーヌはニンマリと笑った。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。