昔、ハマっていた“ユグドラシル”がサービス終了する。
そのニュースをネットで知ったあたしは、久しぶりにログインする事にした。
かつては圧倒的なスケールのヴァーチャル世界と、その自由度から熱狂的なファンが多くいたオンラインゲームだったけど、時代の流れには逆らえなかったみたいだ。
まあ、かくいうあたしも昔は毎日のようにログインしていたのに、今では他のゲームにハマっているから仕方ない事なのだろう。
“ユグドラシル”にログインしたあたしは、久しぶりに自分のアバターの姿を見て、感慨にふける。
ここでのあたしは、ただの人間ではなく強大な力を持つオーガだった。
オーガというと、大きな人食い鬼のイメージが強いだろうけど、あたしの姿はアマゾネスに近い。
見た目だけなら少し大柄で筋肉質の赤髪赤眼の女性だ。頭にある目立たない程度の、小さな二つの角もアクセサリーにしか見えないだろう。
オーガの最上級クラスの“オーガロード”に到達した者だけのイベントである、種族イベント“オーガの滅亡”をクリアした特典で、あたしは隠しクラスの“オーガプリンセス”になった。
そのせいで、あたしは折角のオーガだというのに人間みたいな姿になってしまったのだ。
ヴァーチャルだと分かっていても、チビりそうな程の恐怖を見る者に与える“オーガロード”で、他のプレイヤーを“蹂躙”するのが大好きだったあたしとしては、残念でしかなかった。
そう“蹂躙”だ。
一時期の“ユグドラシル”では、異形種狩りが流行っていたが、あたしはそれを逆に狩るのを楽しんでいた。
オーガという種族は、筋肉バカのように思われているけど、あたしから言わせるとトンデモない勘違いだ。
圧倒的な体力と攻撃力を持ち、種族的な弱点はなく、進化先によっては魔法すら使いこなす。そして、その野生的な恐怖を感じさせるビジュアルを合わせれば、PK狩りにこれ以上にうってつけな種族はないだろう。
“オーガロード”まで進化すれば魔法耐性も高くなり、選んだ職業による補正と、苦労して集めた神器級の装備で守備を固めれば、後は肉弾戦で蹂躙できる。
弱点としては、遠距離攻撃の手段が少ない事と大規模な範囲攻撃方法を持っていないことだろう。
あたしの場合は、前者の弱点を傭兵NPCで補い、後者は無視した。
別に範囲攻撃がなくても、ぶん殴り続けていればいいだけだもんね。
傭兵NPCは手に入れる方法は色々あったけど、使っているプレイヤーは少なかった。
なんといってもAIが馬鹿すぎて単調な攻撃しか出来なかったからだ。
あたしの場合は、迷宮で拾ったオートマトン(機械人形)12機を遠距離用の移動砲台として使っていた。
要はあたしが敵に近づくまでの時間さえ稼げればいいのだ。
思い出したからオートマトンも呼び出してみる。
オートマトンは12機とも軍服姿の黒髪黒目の美人さん達だ。
12機は同型機のため外観も同じだった。ついでにあたしは実際には使っていなかった残りのオートマトンも全部出してみる。
外観は同じだけど、近接戦闘用12機、偵察用12機、医療・兵站用12機そして工作用12機の合計60機があたしが持つオートマトン全数だ。
目的別で揃えたのは、ただの趣味だ。
ちなみに外観は手を加えることも可能だったけど、同じ顔の方が無機質で不気味な恐怖を与えそうだったから、そのままにしておいた。
全く同じ顔のオートマトン達が撃ちまくる中、恐ろしいオーガが突っ込んでくる姿はそれは素晴らしいものだ。
プレイヤーなら是非一度は体験すべき素敵体験だと思う。
もっともそれは、あたしがオーガプリンセスになってしまったから効果半減になってしまった。
期待してくれた方、ごめんなさい。
などと下らない事を考えていたら、サーバー停止の時間が目前になってしまった。
あたしは目の前で跪くオートマトン達に、格好をつけて最後の訓示を述べる。
こういうのは、様式美だからやるべきなのだ。
「我が愛する娘達よ。もうじき“ユグドラシル”は滅ぶ。だが、我らも滅ぶのだろうか? 否、我らは地獄の戦場を生き抜いてきた精鋭だ。“ユグドラシル”が滅ぶというのなら、次の戦場に赴くのみだ。我が愛する娘達よ。我に続け」
そして、あたし“達”は世界の最後を迎え、新たな戦場に旅立った。