アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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水銀と同時投稿!
こちらの方はかなり長期間開けてしまいました……申し訳ありません。



第五十九話

 

side 美亜

 

「外来本かぁ……ここにはいっぱいあるのね」

 

私は先ほどまで読んでいた本を元の本棚に戻しながら、他の本を見て呟く。

 

「ここにあるのは普通の外来本ばかりです。正直、私は読み飽きましたよ」

 

「そりゃあ、こんだけあれば読み飽きるよな……お、F○IRY TAILまである」

 

「あ、それは最近入荷してきたものですよ。しかも全巻揃ってます」

 

「これも幻想入りしてるのか……それとも偶然流れてきただけなのか?」

 

影月さんの言葉に私と小鈴さん、そして近くにいた優月さんは揃って首を傾げる。

 

 

阿求さんの数時間にも及ぶ取材(という名の質問責め)を終えた私たちは、紫さんの提案で人里の様々な場所を回って観光をしている。

ちなみに慧音さんは寺子屋で教師としての仕事、白蓮さんは自らのお寺でやる事があるようで先ほど帰り、映姫さんと小町さんも仕事へと戻っていった。紅魔館の人たちも皆、戻っていった(理由はレミリアさんとフランさんが帰って寝たいと言い出したかららしい。吸血鬼は基本的に夜活動するので、朝や昼間は本来眠っている時間だとか)。

 

 

春を告げる妖精が人気で妖怪も訪れるという花屋、阿求さんのとても大きいお屋敷、藍さんがたまに大好物の油揚げを買いに来るという豆腐屋、魔理沙さんの両親が営む大手道具店(尚、魔理沙さんはここに来るのを凄まじく拒んでいた。どうやら深い事情があるみたい)などと回ってきて、次に来たのがここ。

 

「貸本屋、鈴奈庵ねぇ……」

 

人里にある一件の古い木造建築の店ーーー鈴奈庵と書かれた暖簾が玄関に出ているこのお店は、影月さんが今呟いたように貸本屋さんだ。

お店にあるほとんどの本が外来本ーーー外の世界から流れてきたものらしく、このお店では貸し出しの他に本の販売、さらには印刷や製本も行なっているそう。

 

「版木に墨をつけて刷る方法か」

 

「私たちの住んでる時代から見たら珍しいですよね」

 

「幻想郷には印刷機とか無いからねぇ。君たちの学園で初めて印刷機を見た時はすごく驚いたもんだよ。はっきりと、しかも綺麗な色がついてそっくりそのまま増刷されるからさ」

 

「印刷機!?どんなものですか!?」

 

そう言いながら妹紅さんが笑うと、小鈴さんが食いついた。そういえば、妹紅さんと香さんは最初のうちは、科学の進んだ世界の色んな物に興味津々で驚いてたりしてたっけ……。

今、妹紅さんが言っていたように印刷機などで驚くのは当然の事、他にはテレビやコンロ、水道とかにも驚いていたのを思い出す。

前者の二つは幻想郷や過去の世界には無い物で驚き、後者に至っては普段井戸から水を組んでいるような時代だったりしただろうから、蛇口を捻れば水が自動で出る事に驚いたみたい。

……どっちにしても、二人は数日もしないうちに色んな物を使いこなせるようになっていったけど。

 

「それにしても、色んな本があるな。有名な漫画とかもあるぞ?」

 

「あ、オカルト系雑誌がこんな所に」

 

「これは……阿求さんが書いてるという幻想郷縁起ですか」

 

私たちはそれぞれ気になった本のタイトルを見たり、その本を取って読み始める。

私が手に取ったのは、日本の怪異や七不思議が書かれた本だった。

 

(沖ノ島、旧吹上トンネル、新城島……外の世界も影月さんたちの世界と似通ってるみたいね。どれも見た事も聞いた事もある物ばかりだなぁ……)

 

私はその本を本棚へと戻し、ふと影月さんの方へと視線を向けた。

その影月さんはというと、紫さんの読んでいる本を覗き込んでいる。霊夢さんと魔理沙さんも一緒になって覗いている。

 

「美味しい果物の食べ方?」

 

「ええ、ミカンは傷がある方が甘くて美味しいらしいわ」

 

「知ってるぞ?そういう傷の付いたミカンはよく日の当たる外側に実って、栄養を蓄えるから美味いんだよ」

 

「……そういえば今年はまだミカン食べてないわね……」

 

「マジか!?俺たちの方はこの前食ったけど、今年のは中々美味しかったぞ」

 

「私も魔理沙とこの間食べたわ。こたつの中に入りながらゆっくりとね」

 

「こたつに入りながら食べるのは美味しいわよねぇ。……冬眠前に食べようかしら」

 

そこから影月さんと紫さん、霊夢さんと魔理沙さんはどの果物が美味しいかなどといった会話を楽しそうに話出した。

 

「…………」

 

「影月と紫様たち、楽しそうだな」

 

「ふぇっ!?な、なんだ……藍さんね……」

 

いきなり後ろから声が聞こえて思わず変な声が出てしまった私が振り返ると、藍さんが腕を組んで薄っすらと笑みを浮かべながら四人を見ていた。

 

「おっと、失礼。別に驚かせるつもりは無かったのだが……」

 

「分かってますよ。私の方こそいきなり大きな声を出してすみません……」

 

私が謝ると、藍さんは笑ながら構わないさと言ってくれる。

 

「それにしても楽しそう、ですか……」

 

「ああ。ーーーここ最近の紫様はずっと表情が曇っていてな。行方の分からなくなっていた妹紅の事を案じたり、八方手を尽くして探していたりしたのが原因だと思うが……」

 

「妹紅さんが見つかって安心しているんでしょうね」

 

「紫様が笑顔なのはそれだけじゃないと思うがね」

 

「というと?」

 

私が問うと、藍さんは紫さんたちーーーと楽しそうに談笑している影月さんを見る。

 

「あの青年ーーー影月と君たちの存在が大きいのだろうな」

 

「私たちの存在……?」

 

藍さんは無言で頷くと、今度は優月さんの方へと視線を向けた。その視線の先を追うとーーー

 

「んっ?この本ーーー」

 

「あら?どうしたのかしら?」

 

「あ、いえ……随分と有名な本があったので……」

 

そう幽々子さんに返した優月さんは一冊の本を手に取る。その本は影月さんたちの世界に来て、色々と知識をつけた私も知っている本だった。

 

「シャドーモセスの真実?どういう本なんですか?」

 

ひょいと優月の背後から先ほどの声を聞いていた妖夢さんが顔を出して聞く。

 

「これは私たちの世界でベストセラー……ある時期にすごく売れた本なんですよ」

 

「優月ちゃんたちの世界で売れた本……。どんな内容なの?」

 

すると近くで女性もののゴシップ雑誌を読んでいたアリスさんが顔を上げて、興味深そうに尋ねた。

 

「シャドーモセスって島で起きた事件を纏めたものですよ。著者は実際にこの事件に関わっていた人ですし、中々面白いらしいですーーー小鈴さん、これって買えます?」

 

「あ、はい!ちょっと待ってください!」

 

どうやら優月さんはあの本を買うようだ。まあ、影月さんの持ってるメタルギアREXと関係あるから興味を持つのは当然だと思う。

 

「ーーー紫様は嬉しいんだろう。君たちのような人たちがいてくれて」

 

「はい?」

 

そこで先ほど言葉を切った藍さんが続きを話始める。

 

「もう紫様や様々な方たちから聞いていると思うが、私たちは本来なら消えゆく幻想の存在だ。そんな私たちを相手に何の偏見も、恐怖も持たずに普通に親しく接してくれる。理解して存在を認めてくれるーーーそういう外来人は最近、ほぼいなくなってしまってな」

 

藍さんの言葉を聞いて、私は以前紫さんから聞いた話を思い出していた。

 

 

『私たちは本来、忘れ去られて泡沫の夢の如く消える運命ーーー今の外の世界の人間たちは夜を、私たちを信じないし、恐れない。でもーーー中には貴方たちみたいに、今でも恐れ、信じてくれる人たちがいる。そしてそんな人たちが私たちを受け入れてくれるーーーそれが私たちの喜びでもあるのよ』

 

 

「……実際、私も紫様の気持ちはよく分かるよ。私も数日とはいえ、君たちといて楽しいからな。そしてそれはおそらく、他の方たちも……」

 

「……そっか」

 

そう言って藍さんはどこか少し悲しげのある笑みを浮かべた。

きっとこの幻想郷に住んでいる者たちは皆ーーー寂しいのかもしれない。

妖怪はかつて人間を襲い、人間たちはそれに恐怖したそうだ。神は人々の信仰心を集めてそれを力とした。つまりそういった神秘がある日常が常にあったわけだ。

しかしその日常は外の世界が文明を発達させると同時に無くなっていった。人間の心は妖怪や神を信じなくなり、夜の闇の恐怖すらもほとんど無くした。

人々に恐怖や信仰といったものを求めて、それを糧に生きてきた大半の妖怪や神は存在理由を失う。そんな存在理由を失った妖怪は生きる為に、この世界に移住する他無かったーーー

昨日まで当たり前のようにあった日常が壊れた神秘たちはさぞかし悲しく感じただろう。

私はそんな日常が壊れた彼女たちがなぜか異様に愛しく見えた。そう思った理由は分からない。他の人ならそんな事を感じた私の感性はおかしいと思うかもしれない。でも、私はーーー

 

「……私も、皆さんといて楽しいですよ。それに偏見とか……持つわけないじゃないですか。そもそも私もちょっと事情が複雑な不老不死だし……偏見なんて持てる立場でもありません。そして何しろーーー私たちはもう、掛け替えのない友人じゃないですか」

 

「ーーーーーー」

 

悲しく感じる事なんて貴女たちには必要無い。貴女たちには私たちという神秘を信じて、接する者たちがいるのだから。

私は少し離れた所で一緒に笑いながら本を読んでいる香さんと萃香さん、そして先ほどの本を買って嬉しそうにしている優月さんを見て笑っているアリスさんや阿求さんに妹紅さん、そんな優月さんにテンション高く絡んでいく早苗さんを見ながら言う。

 

「無くしたものは戻らない。消えたものは帰らないーーーだから私たちはこの瞬間に出会った奇跡を、貴女たちという友人を、そんな友人たちと過ごす楽しい時間を大事にするんです。決して失わないように……」

 

私は以前、朔夜さんの言っていた言葉を思い出す。

刹那の永遠を望むーーーやっぱりいつ聞いても素敵だと思わざるを得ない渇望(願い)。さらに私は元々の世界が酷かったから尚更そう感じてしまう。

 

「私たちはもうお互いに大切な友人同士です。それに私たちはいつでもこちらに来れますよ。だからそんな悲しそうな顔をしないでください。楽しいんでしょう?なら楽しく笑いましょうよ」

 

どっちにしても、これで私たちがもう二度と幻想郷に行かないという事は無いでしょう。

紫さんも私たちを気に入ってくれてるというなら、頻繁に招き入れてもらう事もあるかもしれませんし。

 

「……そうだな。確かにその通りだ」

 

私の言葉に驚いたような顔をしていた藍さんがそう言って、今度は楽しそうに笑いかけてくれた。

私もそれを見て楽しく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングクリムゾン!!!……今回の僕ってこんな役割しかないのかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貸本屋、鈴奈庵を後にした私たちは現在、人里の外を出て魔法の森と呼ばれる場所へと向かっている。

……いや、正確には魔法の森の入り口にあるとある店へと向かっているらしい。

 

「それで……今向かってるっていうそのーーー」

 

「香霖堂。幻想郷で唯一外の世界の道具、冥界の道具、妖怪の道具、魔法の道具とかを取り扱ってる古道具屋よ。まあ、使えないようなガラクタが一番多いけれど……」

 

話を聞くと、そこの店主は蒐集癖があるらしく、色んな道具が集まっているらしい。さらにその蒐集癖故か、あまり商売向きの人ではないと紫さんは言った。

 

「商売をするような人じゃないって……」

 

「まあ、あいつの場合は珍しいものとか使い方が分かったものは基本売らないからな」

 

「えぇ……」

 

それって明らかに商売に向いている性格じゃない……。

ちなみにその事を店主本人も自覚しているらしい。自覚してるならなぜお店をやっているのか……とは思ったけど、突っ込まなかった。

 

「さあ、着いたぜ。ここが香霖堂だ」

 

そんな話をしていると、どうやら目的地に着いたようだ。

人里からおよそ二十分程、薄暗い森の入り口前に建っていたのは和風の一軒家だった。隣にはそれなりに大きい蔵も建っている。

そしてその建物の周りには長い間除雪されていないのか、大量の雪で埋れているものの、様々なものが置かれていた。

 

「道路標識にタヌキの置物、自転車にバスタブ……他にも色々ありますけど、これも全て外の世界から?」

 

「多分そうじゃないか?」

 

「サーフボードとか冷蔵庫まで……なんでこんなものまで流れてくるんだろうな……」

 

「それよりも寒いから早く入りたい……」

 

正直、私の格好はいつもと変わらないゴシックドレスなので、足の方とか寒い。一応デニールの濃いタイツを履いているけど、幻想郷の寒さの方が私の防寒対策より上をいっていたみたいだ。

そんな私に皆さんは苦笑いをして、霊夢さんが先頭になって手早く店へと入る。

もちろん私も寒いので早く中に入ろうとする。

 

「ほら、早く来い。足下気を付けろよ?」

 

「あっ……うん!」

 

すると私より前にいた影月さんが私の手を優しく引いてくれた。

何気に気遣ってくれるのも嬉しい。

 

 

雪を払って店の中へと入った私たちが最初に見たのは、床や机、棚などに大量の物が置かれて溢れかえっている光景だった。

それら物の中には、私たちが知っているような物から全く見た事が無く、使い方も分からないような物まである。

 

「うわ……すごいな」

 

「相変わらず整理されてないし、流行遅れの品ばかりね。もうちょっと来客に優しい店内にしなさいっての……」

 

「来客に優しい店内といっても、ここには大抵そんな事を気にしない君たち位しか来ないだろう?」

 

すると突然、店の奥の方から呆れたような声色で紫さんに反論する男性の声が聞こえた。

その方向を見てみると銀髪の眼鏡を掛けた男性が椅子に座って、手に持っていた本から視線を上げてこちらを見ていた。

さらにーーー

 

「あ、霊夢さんに魔理沙さん!」

 

「いらっしゃーい」

 

その男性の近くで何かをしていたらしい二人の少女もこちらを見てそう言った。

 

「あら、菫子(すみれこ)じゃない。最近神社の方に来てなかったけどどうしたの?」

 

「あはは……期末テストの勉強してて、あまり寝れなかったんですよ。流石に今回のテストは真面目にやらないとまずかったので」

 

黒い帽子を被り、眼鏡を掛けている女の子は霊夢さんにそう言いながら苦笑いを浮かべる。

そこから霊夢さんや魔理沙さんと楽しげに話し出す彼女を見て、私たちは内心驚いていた。

 

「……影月さん、彼女……」

 

「ああ……」

 

私や影月さんたちが彼女に視線が釘付けになったのは、彼女の服装が私たちにとってよく見慣れているものだったからだ。さらに先ほど彼女が言った期末テストという単語ーーーこれらの事から彼女が何者なのかは大体想像出来る。

 

「なあ、君は……外の世界の学生なのか?」

 

「え……?た、確かにそうですけど……なんで分かったんですか?」

 

「だって……そんな制服着てたら……ねぇ?」

 

優月さんがそう言う通り、彼女は菫色のチェック柄の冬用ベストと、同じく菫色のチェック柄の長めのスカートを着けていた。

その格好はどう見ても、どこかの学校の指定制服にしか見えない。

 

「さらに先ほど期末テストって言ってましたし」

 

「あ〜、少し前はそんな時期だったもんなぁ」

 

「えっ?もしかして……」

 

「ああ。俺たちも君と同じ学生だ」

 

「本当ですか!?」

 

「嘘ついてどうするんですか」

 

苦笑いして言った優月さんの言葉に少女は、テンション高く影月さんたちと話始めました。

 

 

 

それから数分後、比較的落ち着いた少女と先ほどまで空気だったもう一人の少女、男性と私たちはお互いに自己紹介した。

 

「さっきは急にテンション高くなってすみません……。私は宇佐美菫子(うさみすみれこ)って言います。東深見高校の一年生です」

 

「東深見高校……俺たちの世界では聞いた事が無いなぁ……」

 

「俺たちの……世界?」

 

「ああ。そしてそっちはーーー」

 

「僕は森近霖之助(もりちかりんのすけ)。この香霖堂を営んでいる。そしてこっちが名無しの本読み妖怪ーーー皆、朱鷺子(ときこ)って呼んでるよ」

 

「よろしくお願いしますね!菫子さん、霖之助さん、朱鷺子さん!」

 

「よろしくね〜」

 

優月さんに笑顔で答えた朱鷺子さん。結構可愛い笑みを浮かべるなぁ。

 

「それで、君たちはここに何の用なんだい?買い物をするなら歓迎するよ」

 

「ん〜、紫から面白そうな場所があるって聞いてな。興味があったから来たんだよ」

 

「確かに紫さんの言う通り、いろんな物があって面白そうですね〜。あ、兄さん!こんな所にファミコンありますよ!ファミコン!」

 

そう言って優月さんがゲーム機を指さすのを見て、私や影月さんは苦笑いした。

 

「へぇ……外の世界から流れてきた物を知ってるみたいだね」

 

「まあな。俺たちも別の世界から来たわけだし」

 

「……さっきから聞いてて思ったんですけど、別の世界って外の世界の事ですよね?」

 

「彼らは違うわ。この幻想郷の外の世界の者では無いの。正真正銘、彼らは全く別の世界の人たちよ」

 

「つまり俺たちは外の世界から来た君と違って、完全に異世界人ってわけだ」

 

影月さんと紫さんの説明に菫子さんたちが驚いた顔をする。

私はそんな彼女たちへの説明を影月さんと紫さんに任せて、店内を見て回る事にした。説明はあの二人がしてくれるだろうし、せっかくこんな面白そうなお店に来たんだから色々見て回りたい。

それは優月さんや香さんも同じのようで、説明は影月さんたちに任せて彼女たちも他の幻想郷の人たちと共に、店内を歩き回って品物を物色していた。

 

(それにしても色々あるなぁ……あ、これってもしかしてガラケー?)

 

私も品物を物色して歩いていると、ふと気になった道具を見つけたので手に取ってみる。

少し大きい折りたたみ式の携帯ーーー私も話とか写真で見た事はあるけど、こうして実際に手に取るのは初めてだ。

確か、ガラケーとは他の生態系と孤立して独自の進化を遂げた生物のいるガラパゴス諸島の事を指しているとか……。日本独自で色んな機能を持たせたからそんな名前が付いたとどこかの記事に書かれていたのを見た事がある。

ちなみにスマホもそういう日本独自の機能が色々と付いているのでガラスマと呼ばれる事もあるみたい。

まあ、そんな誰にしているのかも分からない脳内説明もこれ位にして……私はガラケーを元の場所に置いて、今度は近くにあったスマホを手に取る。

 

「……これ結構古い機種ね……電源付くのかな?」

 

試しに電源を付ける操作をやってみると、起動画面になった。どうやらまだまだ現役で動くようだ。

 

「おっ、何いじってんだ?」

 

「あ、それって遠くの人と会話する道具ね」

 

「それって前に霖之助さんがこれ位にしか使えないとか言って、文鎮代わりにしてたわね。確か……」

 

「スマホって奴よ。美亜、使えるの?」

 

すると私の後ろから話しかけてきた霊夢さん、魔理沙さん、アリスさん、朱鷺子さんが私が持っているスマホを興味津々に見始めた。

 

「一応は使えます。ただこれ結構古い機種ですねーーーあ、パスワード設定されてない……」

 

普通に横にスワイプしたらホーム画面が開いた。このスマホを持ってた人はパスワード設定しなかったのだろうか。

 

「うわっ!すごく綺麗な絵!しかも動きも滑らかね!」

 

「そしてなんか四角いのがいっぱい出てきたな」

 

「これはアプリってものなんですけど……ほとんどゲームアプリしか入ってないなぁ……」

 

表示されたアプリの約八割はゲームアプリ……しかもネット環境が無いと満足に遊べないものばかりだ。

それを確認した私はスマホの電源を落とした。

 

「あっ!なんで終わらすんだよ?」

 

「特に面白いものが無かったからね」

 

そう言いながらスマホを元の場所に戻し、文句を言う魔理沙さんに苦笑いする。

 

「あら〜?何かしら、これ?」

 

すると今度は少し離れた所から、幽々子さんの声が聞こえる。その方向を見てみると、何やら少し大きめのゴーグルを持っている幽々子さんと、それを見て首を傾げている妖夢さん、妹紅さん、香さんがいた。

というかあのゴーグルみたいな奴って……。

 

「VRゴーグルまであんのか、ここ……」

 

「おや?VRゴーグルを知ってるとは驚いたよ。それも君たちの世界にあったのか?」

 

「昔にな。今はもっとすごいぜ?」

 

もっとすごいってVRシートの事かな?でも確かにあれは五感全てが本物だって錯覚する位のVR空間を体験出来るからね。VRシートってすごい。

 

「ほう、VRシートにVR体験か……興味深いね。是非とも体験してみたいものだ」

 

「……貴方たちの世界ってそこまで進んでるのね」

 

「実際、VRシートって俺たちが生きてる時代から百年位前の技術なんだけどな。VRゴーグルはもっと前だし」

 

「す、すごい……!」

 

紫さんや早苗さん、藍さんや菫子さんがそう驚くのも無理は無いと思う。実際、私も影月さんたちの世界に来た当時はその事にすごく驚いた。

そもそも私の世界ではVRなんて聞いた事も無かったし。

 

「ふふっ……って、あれ?」

 

そんな事を考えていると、今度は優月さんが霖之助さんの方を見て何やら疑問を感じたかのような声を上げる。

 

「ん?どうした、優月」

 

「あ、いえ……。その……霖之助さん」

 

「なんだい?何か気になる商品があるなら言ってごらん」

 

霖之助さんが笑顔でそう言うと、優月さんは何やら微妙な顔をしていたものの、少しして何か意を決したかのような顔をして言う。

 

「そこにある剣を見せてくれませんか?」

 

そう言って優月さんが指さす先には、まるでどこかの鉄くずの中から引っ張り出してきたかのようにボロボロになっている一振りの古びた剣が置かれていた。

 

「……この剣に興味があるのかい?」

 

「はい。あ、そんなに険しい顔しないでください。別に欲しいというわけではないので……」

 

「……なら別に構わないよ」

 

霖之助さんは一つため息をはいて、優月さんの方へ剣を持って近付いていく。

その行動に全員がなぜか注目する中ーーー優月さんがその剣へと触れた瞬間ーーー薄っすらと赤く、淡い光が刀身から溢れ出した。

 

「っ!?」

 

「…………やっぱりですか……」

 

「っ!おい、香霖!あれは普通のボロい剣じゃなかったのか!?」

 

その現象に魔理沙さんが霖之助さんに詰め寄るように質問をする。

後々、魔理沙さんが落ち着いた後に聞いたのだが、あれは以前魔理沙さんが霖之助さんにあげた鉄くずの中から出てきた剣らしく、霖之助さん本人も大した剣じゃないと言っていたらしい。

でもーーー

 

「霖之助さん、この剣ーーー緋々色金(ひひいろかね)で出来てますよね?」

 

「なんだって!?」

 

「……まさか外来人に見破られるとは参ったよ。その通り、それは草薙(くさなぎ)(つるぎ)というものだ」

 

「草薙の剣……三種の神器か」

 

草薙の剣ーーー八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)と共に三種の神器の一つ。

武力の象徴であり、八岐大蛇(やまたのおろち)が退治された際に体内から見つかったと言われる神剣だったっけと思い起こす。

ちなみになぜ私がこんな事を知っているのかというと、朔夜さんの影響。前の世界から本を読むのが好きだった私は、暇さえあれば朔夜さんの持っている蔵書や学園の図書室で様々な本を読んでいるのだ。それこそ様々な国の神話の本とかもね。

 

「それにしても、なぜ君が持つとそこまで輝くんだろうね?」

 

「……私の魂、ですかね」

 

そう呟く優月さんに私や影月さんはなるほどと頷く。そういえば優月さんの魂にはベアトリスさんと螢さんの魂の残滓が混じっていると朔夜さんから聞いた事がある。

なら緋々色金で出来た剣を聖遺物として扱っている螢さんの魂が、同じく緋々色金で出来たこの剣に反応するというのも分からなくはない話だと思う。

 

「聖遺物、緋々色金(シャルラッハロート)……でも神剣という割には質が今一……聖遺物にはなり得そうですけどね」

 

「俺たちの世界の緋々色金(シャルラッハロート)とこの世界の緋々色金(それ)を比べない方がいい。あっちとこっちじゃ色んな意味で格が違い過ぎるからな」

 

「ですねぇ……」

 

影月さんの言う通りだ。実際にあっちの世界の方が色んな意味でぶっ飛んでるし。

 

「本当は軽く刀身に炎でも纏わせてみたかったんですけど……ほんの少しだけやっただけでも砕けそうですし、何より室内でやる事ではないのでやめておきます。霖之助さん、お返しします」

 

「さらっと物騒な事を言うね、君は……まあ、霊夢たちより常識があるみたいでいいけど」

 

「ちょっと、霖之助さん。それだと私たちが非常識みたいな言い方じゃない」

 

「少なくとも店内で商品が濡れるのも構わずに雪を払ったり、挨拶も無く速攻ストーブで暖まろうとする時点で常識がなってないと思うのだが。君と魔理沙位だよ、そんな事してたのは」

 

半眼の霖之助さんに言われた霊夢さんと魔理沙さんは少しばつが悪そうに視線を逸らした。

そういえば霊夢さんと魔理沙さんは私が店内に入った時には、すでにストーブで暖まってたなぁ。頭と帽子に払えなかった(あるいは払わなかった)雪を乗せたまま。

 

「というかそこまで見ていて何も言わなかった貴方も貴方だけどねぇ……」

 

「まあ、それはそうだが……」

 

自らもばつが悪そうに答えた霖之助さんに私たちは揃って苦笑いを浮かべた。

それから私たちは香霖堂で夕方になるまで様々な物を見たり、触れたりして一日を楽しんだ。

 

 

ーーー本当に楽しい一日だったと思う。以前のあの辛い拷問を受けていた世界では考えられない位に。

ーーー今思えばあんな事があったからこそ、私はここにいれるのかもしれない。

 

「ーーー影月さん、優月さん、安心院さん……そして他の皆さんも……ありがとう」

 

そしてこんな楽しくて嬉しい時間をくれたのは、私の好きな二人の兄妹ともう一人の少女。そして多くの友人たちだというのを改めて実感した私は寺子屋へと帰る道すがら、一人小さく感謝の言葉を呟いた。

私をあの辛い世界の記憶から救い出してくれてーーー

常に私を気遣ってくれてーーー

私にこんなかけがえのない時間をくれてーーー

そんな思いを込めて呟いた言葉は前を歩いていた優月さんと横を歩いていた影月さんに届いたのかーーー私の方を見て優しく微笑んでくれたのはーーー気のせいじゃないと思いたい。

 




今回ちょっと駄文だったかなぁ……?と思う私ですが、いかがでしょうか?
さて、今回投稿が遅れた理由としてはまあ、仕事とkkkプレイしてたからです。
いや〜……やってると、どんどん新しい小説のイメージが湧き出てきて筆が進まなかった(笑)
まあ、kkk小説は今は書きませんけどね。機会というか、進み具合によっては……書くかも……?

あ、それと安心院さんはちゃんと幻想郷編が終わったら普通に出てきますからね?(笑)

誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!

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