アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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待たせたな!
……いや、本当に投稿待たせてしまいました……すみません!

紫「まあ、最近作者の仕事が忙しくなってきてるから少しは許してあげてちょうだいね?」

これからもこんな不定期更新していきますので……どうかよろしくお願いします!
ではどうぞ!



第五十八話

 

side ???

 

初めの目覚めはよく分からない感覚だった。

とても長い間眠っていたようなーーーそれともほんの一瞬、刹那の間だけ眠っていたようななんとも言えない感覚。

 

「ーーーう、ううっ……」

 

いや、よくよく考えれば眠っていたという感覚とも少し違う。この感覚は何と言うか……別の世界から別の世界へと移動する際に感じるような感覚だった。

とはいえ私は別の世界から別の世界へと移動などした事が無いから、あくまでそんな感じがするだろうなと思った感じなのだが。

 

「う……ここは……?」

 

そして私は重く感じる自らの瞼をゆっくりと開き、周りを見渡す。

そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「ーーーーーー」

 

見慣れない豪華な装飾が施されている荘重かつ絢爛な、大伽藍とも神殿とも思わせる部屋。さらに部屋の奥にはこの場所の主が座るであろう玉座もあった。

そんな生きている内に一度も来れないような場所で私はただ呆然としながら床に座っていた。

 

「ーーーなぜだ……?私は……確か……」

 

なぜ私がこのような場所で寝ていたのか、全く心当たりが無い。

私はそれなりに名の知れた流派を受け継ぐ、一人のしがない少女だ。

そんな私がこんな豪華な場所の床で寝ていたなんてーーー

 

「目が覚めたかな?」

 

そんな状況判断を頭の中で必死に考えていた私の耳に厳かに、しかし滑らかで張りのある男性の声が届いた。

その声に私は即座に立ち上がりながら視線を後ろへと向ける。そこにはーーー

 

「ーーーっ!!あ、貴方は……!?」

 

「ふむ……卿と二人きりで話すのはこれが初か。自己紹介は互いにいらぬだろう?橘流十八芸を受け継ぎし者よ」

 

忘れもしない聖槍十三騎士団黒円卓の首領、ラインハルト・ハイドリヒが奈落の底を思わせるような黄金の瞳を私ーーー橘巴に向けて言った。

 

 

side ??? →side 橘

 

 

 

 

「来たまえ。卿とは一度、こうして顔を合わせて語り合ってみたかった」

 

そう言ったラインハルトは私の横を通り過ぎ、玉座へと向かおうとする。

 

「……あ、の……ここ、は……?」

 

そんな彼に対して私が聞けたのは、ここに来た事の無い者ならば一番最初に問いかけるだろう、ありきたりな質問だった。

なのにそのありきたりな質問を問いかけただけだというのに、先ほどから私の体の震えが止まらない。

ああ、間違い無い。私のこの体の震えは恐怖だ。百年以上前から存在しているという強大な力を持つという魔人の集団の首領ーーーそんな文字通り化け物と言える存在が今、私の横を通り過ぎて目の前にいる。その事実を知って恐怖しない者など他にいるだろうか。

 

「そこまで畏る必要は無い。今日は無礼講だ、いつもの口調で構わん。ここはヴェヴェルスブルグ城。我らが黒円卓始まりの地であり、カールからは永劫殺し合い続ける地獄などと陳腐に評された、曰く、戦場を求める者たちのヴァルハラだ」

 

ラインハルトは私に背を向け、玉座がある階段を上がっていく。

 

「若い卿らは知らぬだろうが、昔日の我々は皆この城で語らい、共に練磨した」

 

第二次世界大戦中ーーー第三帝国と呼ばれて、恐れられた国にあった城。

 

「登城を認められた騎士は百を超える。ヒムラー、ヘス、ハウスホーファー、ディードリヒ、アイケ、マンシュタイン、マルセイユ……そしてルーデル、ヴィットマン。名前くらいは知っていよう」

 

ラインハルトの口から告げられた名前はかつての第三帝国の重鎮、または戦場の英雄たちの名前だった。特にルーデルとヴィットマンは私も知っている。

ルーデルは確かソ連戦車を五百両以上、軍用車両を八百台以上、そして戦闘機を九機撃墜した戦果を持つ撃墜王と呼ばれた空軍所属の軍人で、ヴィットマンは敵戦車を百三十両以上撃破した戦車兵だった筈だ。

 

「ここは彼らが定めたヴァルハラ。死後の英雄が集う歓喜の天(グラズヘイム)だ。最も、当時の面子で未だ残っているのは私しかおらんがな」

 

「……それはつまり、彼らは……」

 

「卿の思っている通りだ。彼らは皆、この城となっている」

 

ラインハルトの能力については、大まかにだが如月から聞いている。

曰く、「城」という場所で死んだ者を取り込んで、自らの軍勢として率いる能力だと。

 

「所で、卿はアウターヘブン(OUTER HEAVEN)という思想を知っているかね?」

 

するとラインハルトは玉座に腰を下ろして私を見ながら、そう問いかけてきた。

しかし私はその思想を聞いた事が無い。それを悟ったのか、ラインハルトは薄っすらと寒気を感じるような笑みを浮かべながら話す。

 

アウターヘブン(OUTER HEAVEN)とは二十世紀史上最強と言われた一人の兵士が提唱したものでな。兵士たちが何者にも管理されず、絶え間無い戦争の普遍世界の実現を夢見たのだ。簡単に言ってしまえば、「戦士が唯一生の充足を得られる世界」。まさに兵士たちにとって天国の外側(アウターヘブン)と言って差し支えない理想郷だ」

 

絶え間無い戦争の普遍世界……。確かに戦いを求める者たちにとって、その思想はまさに天国だろう。しかしそうなると、その思想を認めない国家との衝突など、辛い事や理解されない事もあるだろう。そういう意味で天国の外側か……。

そこまで考えてふと気付く。

 

「このグラズヘイムはまさにその思想を体現している。永劫殺し合い、死しても生き返って戦い続ける理想郷ーーー卿は今、そのような世界にいるのだ」

 

ラインハルトは気負い無く、そう告げた。

そうなると一つ疑問が出てくる。私はそれを彼に向かって口にした。

 

「なぜ私はここに……もしかして私は貴方に殺されたのですか?」

 

もし彼がそうだと言えば、私はもう二度とこの世界からは逃げられない。永劫殺し合う地獄へと囚われたという事になるのだから…….。

しかしーーー

 

「いいや、私は卿を殺してなどおらぬよ。よく思い出してみるがいい。卿が思い出せる最後の記憶に私はいたかな?」

 

そう言われ、私は最後の記憶を思い出そうとしてーーー

 

「ーーーうっ、げほっ!ごほっ!!」

 

突然湧き上がってきた嘔吐感を咳と共に吐き出した。

 

「大丈夫かな?……記憶が混濁しているのか。ならば私が卿の最後の記憶を教えてやっても構わないがどうするね?」

 

「い、いえ……大丈夫です。全て……思い出しました」

 

さっきの嘔吐感と共に全て思い出した。私がここで目覚める前の記憶をーーー

 

 

『橘……なんで……』

 

 

……そして私が庇った影月()が私の事を心配し、自らを責めているような顔も、全てーーー

 

「ふむ、それならいいが。して先ほどの質問に改めて答えるがーーー」

 

ラインハルトはその黄金の目を少しだけ細めながら言う。

 

「私は卿を殺してなどいない。そもそも卿は死んですらもいないだろう」

 

「……それって……」

 

「卿がここにいる理由は、肉体と魂の繋がりが切れてしまった事にある。魂というのは非常に流されやすいものだ。故に卿の魂はあの世界から出て流され続け、私のグラズヘイムへと入り込んだのだろう。その事自体はさして珍しい事では無い。この世界ではままある事だ」

 

ラインハルトは私にそう説明してくれた。という事は……。

 

「私は……元の世界に戻れるんですか?」

 

私は一縷の希望をかけて、ラインハルトに聞く。

するとラインハルトは少しだけ首を横に振って答える。

 

「その質問には是と答えよう。しかしそのままでは目覚めん。卿が真に目覚めるには、肉体と魂の精神を再び繋げる必要がある」

 

そしてラインハルトはその辺りの事を全く知らない私に、丁寧に説明してくれた。まあ、詳しい事はある程度省くが、私のこの魂とおそらく病室で寝ている植物状態の私の肉体を再び繋げるにはかなり複雑な精神構築作業が必要らしいが、それが上手くいけば私は再び目覚める事が出来るらしい。

 

「しかしその構築作業はかなり高度でな。私がやろうと思えば、最低でも数日は掛かってしまう。一方でカールに頼めば、すぐにでも構築してくれるだろう」

 

「な、ならメルクリウスさんに頼んでくれませんか?」

 

「ふむ、私としてもそうしてやりたいのは山々なのだが……今カールはとある世界に行っていて、手が離せそうにない」

 

「そんな……」

 

ラインハルトの返答に私は絶望した。だがーーー

 

「何、案ずる事は無い。卿の友とその仲間たちがいずれ近い内に卿を蘇らせるだろう」

 

「えっ……?」

 

ラインハルトの告げた言葉の意味が分からない。私の友とその仲間たち……?

 

「あの者ーーー藤原妹紅と言ったか。彼女が住む世界は、様々な能力を持つ魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)していると聞いた。そのような世界ならば、卿をこのグラズヘイムからすくい上げて蘇生させる程度の能力者はいよう」

 

「えっ……ちょ、ちょっと待ってください!それってどういう事ですか!?」

 

「む?ここまで言っても分からないかね?つまり卿の友人たちは幻想郷と呼ばれる場所で、卿を目覚めさせる方法を探しているのだ」

 

ーーーーーーーーー。

 

「嬉し泣きかな?」

 

「えっ……あっ……」

 

ラインハルトにそう言われ、確認するように自分の頬を触ってみると、一筋の濡れた道が両頬に出来ていた。

嬉し泣き……か。そうか、私は嬉しいのだな……。いや、とても信頼している友人たちが私を助ける為にそこまでしているのだ。嬉しくないわけがない。

 

「しかし、友を助ける為に異世界にまで手段を探しに行くとは、なんとも美しく素晴らしい友情だ。卿らのその友情を見ていると昔日の刹那たちを思い出す」

 

ラインハルトはそう言うと玉座から立ち上がり、私の元へと降りてきた。

そして息が掛かりそうな近距離に立つと、優雅さを感じさせる動きで私へと手を差し伸べてきた。

 

「さて、どちらにせよ彼らが卿を助けるのはもうしばらく掛かるだろう。それまで短き間であるが、我が城を案内しよう」

 

「あっ……」

 

どうやらラインハルトは私をエスコートしてくれるらしい。

そんな行動をされたのは九重との任務以来、今回で二回目だが、私は多分恥ずかしさで顔が真っ赤になっているだろう。いや、そもそもラインハルトは人体の黄金比とも呼ばれる程の眉目秀麗なのだから、彼にこのような行為をされて赤面しない女性などほぼほぼいないと思う。

 

「どうしたね?やはり、私が怖いかな?」

 

「っ……」

 

ラインハルトの問いに、私は答えられなかった。

確かに彼は怖い。その圧倒的という言葉すらも陳腐に思う位の存在感、破壊的なまでに荒れ狂っている力、そしてその黄金の瞳の奥にある形容し難い感覚にーーー

 

「ふむ……何もそこまで恐怖する事はあるまい。卿はこの城の主である私から見れば客人だ。客人に対して手荒な真似をする程、私は礼を弁えないわけではない」

 

「っ……」

 

ラインハルトは薄っすらと笑みを浮かべながらそう答え、私の顔へと手を伸ばす。それに一瞬何をしようとしているのか分からず、身構えた私だったがーーー

 

「あっ……」

 

ラインハルトの細くしなやかな指先が、私の顎を、頬を、髪を優しく嬲るように愛撫するように動く。その動作に私は凄まじいまでの寒気と快楽を感じる。

 

「っ……んぅっ……ぁ、んぁっ……!」

 

そしてラインハルトは最後に私の頭をぽんと軽く叩く。瞬間ーーー

 

「うっ、ああ……っ!」

 

爆発的に広がった快楽に私は膝を崩して、床に座り込んでしまった。きっと今の私は頬の辺りが真っ赤に染まっているかもしれない。それと同時に息も乱れてきた。

 

「はぁ……はぁ……な、何を……?」

 

「何を、と聞かれてもな。ただ卿の恐怖が少しでも和らぐようにと愛でてみたのだが、どうかね?」

 

どうかねと聞かれても……。ものすごく気持ちよかった……っ!!いや!私はそんな不埒な事は一瞬たりとも思っていない!

 

「す、少しは落ち着きました……!」

 

「それは結構。では参ろうか」

 

そう言うとラインハルトは私へと改めて手を差し出してきた。

その差し出された手を取り、私は立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトに手を引かれ、延々と続く長い長い廊下を共に歩く。床には赤い豪華な装飾が施された絨毯が敷かれ、横を見ればまるで美術品を思わせる彫刻が彫られた柱、天井は何処かの宮殿の天井に描かれているような絵がある。

……正直、こんな豪勢な所にいてもいいのかと疑問に思う。状況が状況だから仕方ないのだが……。

 

「それにしてもこの城って広いですね……」

 

思わず私はそう言ってしまう。まあ、かれこれ玉座の間から出て五分は歩いているのだから、そんな事を言いたくなってしまうのは仕方ないだろう。

 

「そうかね?だが、これからもこの城はもっと大きくなり続けるだろう。我らが永遠の闘争を続ける限り、果ても無く膨れ上がり続ける。壊した事の無いものを見つけるまでーーー」

 

ラインハルトはそう言って、私へと視線を向けた。そんな彼の目を見て、私は悟る。

彼の黄金の瞳の奥に輝き続ける渇望をーーー

 

「我が愛は破壊の慕情。愛でる為にまずは壊す。頭を垂れる弱者も、傅いて跪く敗者も、反逆を目論む不忠も、そして天国も地獄も神も悪魔も、三千大千世界の総てを全力を持って壊す。それこそがーーー」

 

彼の渇望ーーー万象総てが愛しいから壊す。常に闘争を求めている戦神()らしい願いだ。だが私たちのような学生や普通の人からすれば、あまり受け入れたくない渇望だろう。

彼の渇望は先ほど思った通り、常に闘争ーーー戦争を求めている。戦争なんてしたくない、それは今まで何気ないありふれた日常を過ごしている人たちの大半が思うだろう。

もちろん私だってそう思う。いくら《焔牙(ブレイズ)》という戦う武器を持っていても、私たちはつい数か月前まで普通の人だったのだから。

 

「ふむ、話は後ほどとしよう。ここだ」

 

そんな事を思っていると、ラインハルトがある扉の前で立ち止まってそう言った。

ラインハルトが扉をノックすると、扉の向こうから「どうぞ〜」という女性の声が聞こえた。その返事を聞いたラインハルトは扉を開けて、私の手を引いたまま部屋に入る。

 

「おお……」

 

その部屋の内装を見た私は、思わず感嘆の声を上げる。

内装は先ほどの玉座の間と比べるとそこまで派手な豪華さは無いものの、ここもまた大小様々な装飾が部屋中のあちこちに施されていた。

そんな部屋の中心には少し大きめのテーブルと四つのイスがあり、その内の二つのイスはある人物たちが座っていた。

 

「あら、ハイドリヒ卿?」

 

一人は以前学園で行ってた情報開示の時に見た事のある女性だった。

薄っすらと青色が混じった長髪に、泣きぼくろが特徴のグラマラスな女性ーーー確か聖槍十三騎士団第十一位、リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレーナという女性だったか。

 

「私がお呼びしたんですよ。お掛けになってください、ハイドリヒ卿」

 

一方でもう一人の女性に関しては全く見覚えが無かった。

長い白髪にユリエよりも白いのではないかと思う程の白い肌、(はしばみ)色の瞳、修道女を思わせる服装を纏う少女はラインハルトにそう言ってーーー次の瞬間、私に気が付いた。

 

「あら?貴女は?」

 

「あ……初めまして、私は橘巴と申します」

 

「橘巴さんですね。初めまして、私はクラウディア・イェルザレムと申します。貴女もこちらに座って一緒にお茶でもしませんか?丁度席が一つ余ってますし」

 

私の名前を聞いた少女ーーークラウディアさんはそう言って私にも座るように促した。

 

「あ、あの……」

 

「何、遠慮する必要はない。元より、ここには来るつもりだったからな。卿も掛けるといい」

 

一足先に席に座ったラインハルトは私に視線を向けながら言う。

……よくよく考えれば、特に遠慮する意味も無いか。どのみち、このグラズヘイムにいる限りはどう足掻いてもラインハルトの掌の上だ。なら変に断ってしまうよりも従った方が色々と賢いだろう。

 

「で、では……」

 

そう判断した私は恐る恐るだが、その茶会へと参加したのだった。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昊陵学園内、理事長室ーーー十二月二十六日、AM9:30…

 

side 朔夜

 

年に一度の聖夜が過ぎ去り、今年も残り数日という時の流れの速さを実感させられている今日この頃ーーー

 

「ーーーよし、と……。んーっ……」

 

書き上げた書類を提出用の入れ物に入れた(わたくし)は、手に持っていたペンを机の上に置いて、大きく伸びをしながらイスから立ち上がりました。

 

「今日は随分と早く終わりましたわね……」

 

そう呟きながら、提出用の入れ物に入った数枚の書類を見る。今日やるべき事はその数枚の書類の確認などを含めて、これだけなので今日の私の仕事は終わり。

しかしいつもなら二、三日は眠れない位の量の仕事をこなしているので、何か物足りないような気がします。

 

「……そんな事を思っているから、影月や優月にワーカーホリックと称されて、休め休めと言われるんでしょうね……」

 

そう呟き、自らが仕事中毒になっている事を改めて痛感する。影月たちからはもう少しゆっくりと日々を過ごしてもいいんじゃないかとよく言われてるからなぁ……とどこか他人事のように思いながら、ふと窓の外から学園の方へと視線を向ける。

そこにはいつもなら、教科書やら授業で使う道具やらを持っている生徒はおらず、代わりに和気あいあいとした雰囲気で楽しそうに同級生と話しながら歩いている生徒たちが数名見られる。

なぜ授業道具を持たない生徒たちがこの時間帯に外にいるのか?それは昨日から昊陵学園が冬季休業期間ーーーつまり世間一般でいう冬休みに入ったからだ。

全国の高校から見て、少し遅い冬休みに入ったこの学園は一月の半ば程度まで休み。その間、この学園に通っている生徒はそれぞれ思い思いの休みを過ごすようです。

実家に帰省して家族や友人とゆったり過ごす者、実家には正月の間だけ顔を出して残りはこの学園でゆっくり過ごす者、そして色々な理由によって実家には帰らずに学園で過ごす者ーーー

 

「はぁ……用意していたローズティーでも淹れましょうか……」

 

「あら、なら私たちの分も淹れてもらえるかしら?」

 

「おっす!遊びに来たぜ!お嬢様!」

 

私がそのような事を考えながら、少し前に用意していたお気に入りのお茶を淹れようと思っていると、突然部屋の入り口から少し上から目線の聞きなれた声と女性にしてはガラの悪い口調の声が聞こえてきた。

 

「リーリス、璃兎、いつも言っていますけれどーーー」

 

「ノックして返事を聞いてから入れって言うんでしょ?でもいいじゃない、私たちはそんな事しなくてもいいくらい長い付き合いなんだから」

 

「そうだぜ!あまり気にすんなって!」

 

「…………」

 

そんな事をニコニコと笑いながら言うリーリス(友人)璃兎(教員)にため息をつく。そして今度はその後ろから部屋に入ってきた者たちに対して半眼を向けながら言う。

 

「貴方たちに対しても同じですわ。せめてノック位はしなさい」

 

「あ、いや、俺たちはしようと思ったんですけど……」

 

「「ノックなんてする必要無いわよ」と言ってリーリスが先に扉を開けてしまったので……」

 

「あはは……すみません、理事長」

 

「お嬢様が申し訳ありません……朔夜様」

 

「ふんっ、全くこの女は……」

 

そこには苦笑いを浮かべている九重透流や穂高みやび、相変わらず無表情のユリエ=シグトゥーナ、謝罪するリーリスの執事であるサラ、呆れた顔をする虎崎葵、そして豪快に笑っている辰乃龍太朗(たつのりゅうたろう)がいる。

 

「何か言ったかしら?」

 

「ああ、言ったとも」

 

「喧嘩をするなら他所でやってくださいな。ローズティー、淹れませんわよ?」

 

「……分かったわよ」

 

「……ふんっ」

 

私がそう言うと、顔を突き合わせて睨み合っていたリーリスと葵がお互いに顔を逸らしました。

 

「相変わらずの仲ですわね……まあ、とりあえず座ってくださいな」

 

私はそう言いながら九つのカップを出し、その内の一つのカップにローズティーを注いで、それをもう一度ポットの中に戻します。

この注いでは戻す行為を繰り返す事でより深い色味や香り、そして味が引き出されるのです。

ちなみに前までは三國や他の者にローズティーを淹れてもらってたのですが、影月や優月や安心院、さらにここにいる彼らが頻繁に遊びに来るようになったり、美亜が私と一緒に寝るようになってから自分で淹れるようになりました。

まあ、その理由は……察せるでしょう?大切な彼らに私の淹れたお茶を味わってもらいたい……そんなありふれた理由。

そうして数回程繰り返して、いい香りと色合いになってきたローズティーを、来客用のソファに座った者たちや立っている者たちに出し終えた私は先ほどまで自らが仕事をしていたイスへと座って彼らに向き直りました。

 

「でーーー用件は何でしょう?まさかただ単にお茶しに来た、というわけでは無いでしょう?」

 

まあ、リーリスの事を考えるならただお茶をしに来たというのも考えられなくもないが、何やらそのような感じがしない。

 

「ん〜……そうね。ちょっと気になる事があってね」

 

「何ですの?」

 

私がそう聞くと、リーリスはどこか面白いものを見つけたような笑顔を浮かべてーーー

 

「影月たちが行った幻想郷って所を見たくなっちゃってね。皆誘って見に来たのよ」

 

「……やっぱりその事ですのね」

 

おおよそ予想していましたが、やはり用件はそれですか。

 

「それにしても皆誘ってとは……貴方たちは実家に帰省などはしないんですの?」

 

確か彼らは学園に長期外出届けは出していない筈。本来実家などに帰省するならそのような書類は必要なのですが……。

 

「……朔夜、分かってるでしょ?私たちの親しい友人が大変な状態になって、それをなんとかする為に別の友人が異世界へ行ってるっていうのに、自分たちだけ呑気に実家へ帰るなんて……私には出来ないわ。それは多分、他の皆も」

 

そう言うリーリスに璃兎以外の者たちが頷く。

 

「……まあ、分からなくはありませんけれど……リーリスやみやびなどはご両親が心配なされているのでは?」

 

「あたしは別に問題無いわ。事情を話したら了承してくれたし……」

 

「わ、わたしも大丈夫です。今年は家族と年を越せなくて残念ですけど……ここで帰っちゃったら巴ちゃんの為に頑張ってる影月くんたちに申し訳無いなって思っちゃって……」

 

そう言って恥ずかしそうに笑うみやびに、全員が苦笑いを浮かべる。

まあ、確かに今のこの状況の中で自分だけ家に帰ろう、なんて事はあまり思えないでしょう。仮に私が彼らの立場だったとしても同じような選択をするでしょうし。

 

「……まあ、その辺りに関しては私がとやかく言えるものではありませんから、各々自由になさい。それで話を戻しますけれどーーー幻想郷を見たいと?」

 

「ええ、お願い出来るかしら?」

 

それを聞いた私はローズティーを一口飲んだ後に席を立ち上がり、リーリスたちに近付きながら右手を前へと出す。

するとそこに強い力を発している銀色の神槍が現れた。

 

「……朔夜、貴女それ扱えたの?」

 

「ええ、こうして目の前に呼び出したり、消したり出来る程度には。貴方たちもやろうと思えば出来ると思いますけれど?」

 

「……今は遠慮しておくわ。それよりも早く見ましょ♪」

 

それに頷いた私たちは神槍に触れる。

瞬間ーーー私たちの脳内に影月の五感が流れ込んできた。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 影月

 

「ーーーでは次の質問をしてもいいでしょうか?」

 

「……まだあるのか?」

 

「はい」

 

俺は寺子屋の縁側に座り、隣で筆とメモ帳を持ちながら真剣な眼差しの阿求を見て、ため息をはいた。

 

「……それはいいが、もう取材を始めてから二時間位経ってるぞ?疲れないのか?」

 

「私は大丈夫ですよ?それよりももっと影月さんからお話を聞きたいです!影月さんから聞いたお話の全ては私にとって、どれも興味深いものばかりですからね!」

 

「……さようですか」

 

つまり疲れよりも興味の方が勝ってると。俺や優月よりも見た目年下なのに仕事熱心な事で……ってそれを言うなら朔夜も同じか。

まあ、彼女の場合は俺たちに会うまで祖父の意志に縛られて必死にやっていたから、その時の名残が抜けていないのだろうが。

 

「まだ聞きたい事はいくつもあります!影月さんの出したあの兵器の事とか、優月さんの能力とか……」

 

「阿求、仕事熱心なのは分かるけれど少し休憩したら?影月も疲れたんじゃないかしら?」

 

「そうだぞ、温かいお茶も淹れたから少し休憩するといい」

 

キラキラとした笑みを浮かべながら質問の内容を言う阿求に対して、紫と慧音が阿求を窘めながら縁側を歩いてきた。

それを聞いた阿求はハッとして、何やら正気に戻ったような顔になって俺を見る。

 

「あっ……すみません。影月さん、お疲れですか……?」

 

「全然、と言いたい所だけどほんの少し疲れたな。少し向こうの様子でも見て休憩しようぜ」

 

「……お疲れでしたのにすみません」

 

「構わないよ」

 

若干申し訳なさそうに頭を下げる阿求に俺と紫と慧音は顔を見合わせて苦笑いした。

なぜ俺が阿求の取材を受けているのかーーーそれは今日の朝まで遡る。

今から二時間程前の朝七時頃、人里に住んでいる人たちが今日も一日頑張ろうと色々準備をしている朝早い時間に阿求が寺子屋に泊まっていた俺たちを訪ねて来たのだ。

そんな早い時間に阿求が俺たちに会いに来た理由は、彼女が記しているという書物に俺たちの事を記載する為だそうだ。

彼女が記しているという書物、幻想郷縁起は幻想郷に住む妖怪などの人外や、妖怪退治や異変解決を行う人物などを記載しているものらしい。

人間の生活や安全を確保する為に書かれているそんな書物に、俺たちのような違う世界から来た人たちを書き記すのはおかしいのではないかと阿求に言った所ーーー

 

「幻想郷縁起は千年以上続く由緒ある書物です。しかし最近の幻想郷は新たなものを受け入れるなど色々と変化し始めています。故にこの幻想郷縁起もその変化に伴い、貴方たちのような別の世界から来たという人物なども接近的に書き記していきたいんです」

 

と彼女は答えた。新しい事を取り入れて、今までのものをより良いものへと昇華させるーーー実にいい考えだ。

そう思った俺たちは彼女の取材を承諾した。まあ、その結果がこんなに長い質問責めになるとは思わなかったが……。

そんな事を思っていた俺は寺子屋の中庭へと視線を向けた。そこには俺が出したメタルギアRAYと優月たち、そして昨日出会った幻想郷の人たちがいた。

 

「ふおぉぉぉっ!!!昨日とは違うロボットですよ!!魔理沙さん!!」

 

「すげぇな!!影月たちの世界のロボットってどれもかっこよすぎだぜ!!」

 

昨日と似たようなテンションでRAYの周りをはしゃぎながら飛び回る早苗と魔理沙。

ってか女の子でああいう兵器とかに興味を持つのってかなり珍しい気がする。

 

「へぇ〜……これが仔月光というロボットですか……こうして見てみると結構可愛いものですね」

 

「聖さんもそう思います?やっぱり仔月光って可愛いですよね〜♪」

 

「優月さんも聖さんもそう思う?私も同じだよ」

 

「……可愛いかどうかは別として、どうやって動いてるのか……興味が尽きないわ。ねぇ、上海?」

 

「シャンハーイ!」

 

『アーイ!』

 

「む〜……本当にどうやって動いてるんでしょうね……」

 

「そうですね……少なくとも私たちには分かりそうもないです」

 

「よっ……と。ほら、萃香」

 

「ほいっと、返すぞ、妹紅」

 

「ちょっと、妹紅さんと萃香さん!?仔月光でキャッチボールしないでくださいよ!?」

 

そして、RAYから少し離れた所では仔月光を持って話している白蓮、優月、美亜や、仔月光と一緒にぴょんぴょん飛び跳ねている人形を見ているアリスや映姫や小町、そして仔月光を優しくキャッチボールしている妹紅と萃香、それにツッコミを入れている香がいた。

ってか妹紅と萃香、勝手に仔月光でキャッチボールするなし。

 

「あら、以外と柔らかいわね。この足」

 

「本当ですね。機械の足とは思えないです」

 

「なるほど……これだけ生物的な足なら、昨日の決闘の時の跳躍の高さにも納得がいくな」

 

「うぅ……カエルみたいで気持ち悪い……」

 

「本当にね。こんなのが幻想郷に大量発生したら面倒だけど」

 

そんな仔月光に興味を持っている者たちからそれなりに近い場所では、月光の足を触っている幽々子、妖夢、藍、小鈴、霊夢がいる。

ちなみに霊夢さん、昔はその兵器……大量発生してらっしゃいましたよ。あの仔月光(ちっちゃいの)と一緒に。

ちなみに映姫と小町がなぜこの場にいるのかというと、昨日の例の話の途中報告に来たのだ。

それによると橘の魂は今だ見つかっておらず、他の場所を担当している閻魔にも協力してもらって探しているらしい。それの報告と、俺たちの様子が気になったからという理由で彼女たちはここにいる。

そしてそんな彼女たちに混じって、昨日は見なかった初めましての者たちもいた。

 

「お嬢様、これが昨日お話したロボットでございます」

 

「ふ〜ん……これがねぇ」

 

咲夜の説明を聞いた悪魔のような羽を持つ吸血鬼の少女ーーーレミリア・スカーレット(来て早々お互いに自己紹介した。魔理沙曰く、濃霧の吸血鬼)は、目の前にあるメタルギアRAYをまじまじと見つめる。

 

「こんなに大きい人工物、見た事無いわね」

 

「パチュリー様が前に作った月ロケットより大きいですね〜」

 

「うわ〜……すごいですね……そして重そう……」

 

「美鈴なら持てるんじゃない?」

 

「私ではちょっと持ち上がりそうに無いですね……お嬢様か妹様なら持てるのでは?」

 

そんなRAYの足元では先ほど知り合った魔法使いというパチュリー・ノーレッジ(魔理沙曰く、動かない大図書館)、小悪魔のような見た目の小悪魔(二つ名は無し、俗称はリトルというらしい)、妖怪だという紅美鈴(魔理沙曰く、華人小娘)、そしてレミリア・スカーレットの妹であるフランドール・スカーレット(魔理沙曰く、悪魔の妹)がRAYを見上げて話していた。

 

「ねぇ、咲夜。これって動かないの?」

 

「そんな事は無いと思いますけど……」

 

そう二人が言った次の瞬間ーーー

 

『ーーーーーーーーー!!!』

 

「うわあぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!!」

 

RAYを突然動かし、レミリアと咲夜の目の前で咆哮をしてみた。するとレミリアは大きな叫び声を上げて後退し、咲夜は息をのみながらレミリアと共に後ろへと下がった。

当然足下にいた紅魔館組や、他の幻想郷住人たちも驚いていた。

 

「び、びっくりした……」

 

「は、はい……いきなり動き出して咆哮してきましたからね……」

 

「……今の咆哮、どうやって出してるのか気になるわ」

 

そんな反応を示す彼女たちを見て、ニヤニヤしていると隣に座った紫にペシッと扇子で叩かれた。

 

「何してるのよ!」

 

「ん〜?だってあそこまで興味持たれた上に、動かないの?って言うのが聞こえたら……ああいうイタズラしたくなるだろ?」

 

「貴方ねぇ……だからって言っても限度があるでしょう?今の私は力を抑えてるのよ?あれの咆哮が結界の外にいるブン屋にでもバレたら面倒な事にもなるわ……」

 

ちなみにブン屋とは鴉天狗である射命丸文という人物を指すらしい。なんでも幻想郷一面白い!という謳い文句の文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)を書いているらしい。

ちなみに俺や優月たちも朝に文々。新聞を見てみたが、かなり新鮮味を感じたので、それなりに興味はある。

とはいえ新聞と聞くとあまりいいイメージが湧かないので、取材を受けるのは遠慮したいが。

 

「ふぅ……さて、それではそろそろ質問を続けていいでしょうか?」

 

「……いいけど、後どれ位質問あるんだ?」

 

「後十五個位です。早ければ三十分程で終わりますよ?」

 

「分かった。それじゃあサッとやって人里観光に行くか!」

 

俺はそう言って阿求との問答を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーさて、では次で最後の質問です」

 

「やっとか……」

 

そして四十五分程経った頃、阿求の言っていた時間より少しだけ長くなったが、いよいよ最後の質問と聞いて俺はようやくこれで最後かと思い、ため息をはいた。

 

「兄さん、お疲れ様です。最後の質問もしっかり答えましょうね?」

 

「影月さん、早く幻想郷を見て回ろう?」

 

「ああ……」

 

阿求に呼ばれて後半から問答に参加した優月と、俺の膝の上に座っている美亜に返事をして、俺は阿求に向き直る。

 

「さあ、最後の質問はなんだ?」

 

「貴方たちの世界に存在する魔人の集団とやらに興味があるのです。是非とも教えてくれませんか?」

 

「「………………」」

 

その最後の質問はある意味予想外で、俺と優月は無言のまま顔を見合わせる。

そんな俺たちの反応を見た紫や慧音、さらに先ほどまで向こうの方でメタルギアと遊んでいて、それにも飽きたのか、こちらに集まって話を聞いていた幻想郷の人たちが揃って怪訝そうな顔をする。そして質問をした阿求本人はそんな俺たちの反応を見て、慌てたように弁解する。

 

「あ……別に言いたくないのならいいんですよ?無理矢理聞くのは私としてもあまりしたくないですし……」

 

「う〜ん……別に話してもいいですけど……聞いてもそんなに面白い話じゃありませんよ?」

 

「構いません。それよりも大丈夫ですか?何か言いにくい話でしたら本当にーーー」

 

「いや、大丈夫だ。……それで、俺たちの世界に存在する魔人の集団についてだったよな」

 

周りの視線をあまり気にしないようにして、俺は頭の中で知っている情報を整理して、話出した。

 

「そうだな……事の始まりは俺たちが今生きている時代から大体百八十年位前になる」

 

「貴方たちの世界で百八十年前というと……人間たちの愚かな争い、第二次世界大戦が始まった頃ね?」

 

「そうだ。というか幻想郷の外の世界と俺たちの世界の歴史って似通ってるんだな……」

 

「第二次世界大戦?」

 

外の世界に詳しい紫や藍、早苗は第二次世界大戦というものがなんなのか分かっているので普通の顔をしているものの、他の者たちは首を傾げた。

 

「外の世界、そして影月の世界でも起きた世界規模の酷い戦争よ」

 

「そんな空前絶後の大戦争が始まって間も無く、とある一つの国である組織が結成された」

 

「その組織の名前は「聖槍十三騎士団黒円卓」。その組織に属する副首領が生み出したある秘術をその身に宿した十三人の魔人の集団です」

 

「聖槍十三騎士団……で、その秘術とは?」

 

阿求は手に持っていたメモ帳に、組織名を流暢な字で書いた後に聞いてきた。

 

永劫破壊(エイヴィヒカイト)というものだ。人のあらゆる想念や血を吸い続けた聖遺物というものと契約して、超越した力を得る事が出来る秘術中の秘術」

 

「想念……ですか」

 

「そう。信仰心とか怨念とかだ。その条件さえ満たしていれば、形はどうであれ聖遺物と呼べる代物になる。例えば剣や槍は当然として、多くの人の首を斬り落としたギロチン、大戦中に使われた兵器ーーー列車砲やバイクといったものや、とある人物が書いた拷問日記、吸血鬼伝説の元となった人物の血液、果ては人そのもの……」

 

「すげぇな……なあ、それって私たちでも使えるのか?」

 

魔理沙の問いに俺は幻想郷の者たちの顔を見渡す。

 

「……どうだろうな?霊夢とか魔理沙は難しいと思うが、紫や映姫とかの人外なら使えるかもな。まあ、失敗したら聖遺物に自分の魂喰われるらしいが」

 

「何!?」

 

「そもそも常人なら最初の位階にすら制御出来ずに自滅するらしい」

 

それだけ永劫破壊(エイヴィヒカイト)というのは使える人を選ぶそうだ。朔夜に言わせれば、「生まれから超人でなければお話にもならない」との事だ。

それから俺たちは永劫破壊(エイヴィヒカイト)や聖槍十三騎士団について彼女たちに話した。その話を聞いていた彼女たちの反応は様々だった。

ある者は興味深そうに聞き、またある者はそんな規格外の組織が別の世界に存在している事に恐怖し、またある者は特定の情報に疑問や怒りを示していたりした。

特に映姫は永劫破壊(エイヴィヒカイト)を行使するには、人間の魂が必要と聞いて怒りを露わにしていた。

 

「生物を殺して、その魂を聖遺物の中に取り込んで糧とする……度し難い秘術ですね。輪廻転生の法を無視しています」

 

「だが、昔の世界は輪廻転生の世界では無かったそうだ。なんでも永劫回帰という法が流れていた世界らしい」

 

ちなみにこの説明も朔夜の受け売りである。彼女はメルクリウスからこのような説明を受けたらしいが……今だに朔夜に対してこのような事を教えたメルクリウスの真意が分からない。しかし蓮や司狼によると、少なくとも気まぐれで教えたわけでは無く、何かしらの考えがあって教えたのだろうとの事だ。

 

「永劫回帰……」

 

紫が噛み締めながら呟くのを尻目に、俺は永劫破壊(エイヴィヒカイト)が生み出された理由を話した。

 

永劫破壊(エイヴィヒカイト)が編み出された理由はただ一つ、新世界の神を生み出し、永劫回帰の法を定めた旧神を打ち倒す為。本来回帰すべき魂を聖遺物という媒介に溜め込むことによって、旧神の下に還る魂の流れを塞き止めるんだ」

 

「……なるほど、それが血栓のように詰まっていき、最終的には弾けて溢れ出す。そしてその状態で旧神に挑むと……」

 

「……神を打ち倒す為なんて随分と思い切った事を言うわね。でもそんな魔術程度じゃどうにもならないでしょ」

 

白蓮が理解したように呟き、霊夢が馬鹿らしいと首を振りながら言う。

確かに俺たちも最初は霊夢と同じような反応だった。そんな魔術じゃ神なんて倒せる筈無いと、そもそも神なんて存在しないだろうと。

しかしそんな俺たちの考えは、朔夜の説明とーーー聖槍十三騎士団黒円卓首領、ラインハルト・ハイドリヒを一目見ただけで変わった。

 

「いいや、永劫破壊(エイヴィヒカイト)の最高位階、流出に到達した者はいる。……そいつは本当に神を倒せそうな程の力を溢れ出させていたよ。多分俺たちを含むここにいる全員が束になっても勝てないだろうな」

 

『なっ……!?』

 

それ程、ラインハルト・ハイドリヒという相手は規格外なのだ。そしてそれと同等だという存在が他にもいる。

藤井蓮、メルクリウス、そしてマリィ……とまあ、これは言わなくてもいいだろう。

 

「ちなみに俺たちの身に宿っているのも永劫破壊(エイヴィヒカイト)の一種だ。だから俺たちは永劫破壊(エイヴィヒカイト)を宿した奴らと殺し合いが出来る」

 

「という事は、貴方たちも殺人を?」

 

映姫の鋭く、冷たい視線に優月は首を振る。

 

「いいえ、私たちの永劫破壊(エイヴィヒカイト)は他人の魂を燃料にはしません。私たちは自分の魂を原動力にしているんです」

 

俺たちに宿る永劫破壊(エイヴィヒカイト)は他人の魂を使わない代わりに、自らの魂の質に様々な事が左右されるという特徴を持つ。

それは傷の治る速度だったり、力の大きさだったり……。他にも色々あるが話すと長くなるのでこの辺にしておく。

 

「じゃあ以前、幽々子様が言っていた事は……?」

 

「それって私の内にある二つの他の魂についてですか?」

 

そんな妖夢の疑問に答えたのは、あの時にそのような事を言った幽々子本人だった。

 

「その二つの魂についてはその秘術とやらによって取り込まれたものでは無いと思うわ。そうねぇ……何者かがその二つの魂が優月ちゃんの魂に融合させたんじゃないかしら?」

 

「「………………」」

 

そう言われ、俺と優月の脳裏によぎるのはあの魔術師の顔だった。そんな事を出来そうな奴はあの魔術師以外に想像出来ない。というか前から思ってたが、メルクリウスは何の為に優月に別の魂を入れたのだろうか?

 

「……まあ、とりあえず俺たちの世界にいるその組織についてはそんな所だ。他に何か質問は?」

 

話を切り上げ、俺は幻想郷の者たちにそう問いかける。

するとーーー

 

「一ついいかしら?」

 

俺の隣に座っていた紫が真剣な面持ちと声色で手を上げた。

 

「なんだ?」

 

「……貴方たちは輪廻転生や永劫回帰の事を説明に入れていたけれど……それらについて、どこまで知っているのかしら?」

 

紫の質問は輪廻転生などの理に関する質問だった。

確かにさっきまでの説明にそれらの理について少しだけ触れたりしていたが、正直俺たちはそこまでその理とやらに詳しいわけではない。

 

「今のこの世界の理って事位だ。後の詳しい事はそれ程……」

 

後はマリィが黄昏の女神で輪廻転生の理を流している位か。

その返答を聞いた紫は、何かを考えるような素振りをした後ーーー俺や優月の瞳の奥を見据えるように見つめて言った。

 

 

 

 

 

「ならーーーもしよ?この世の理ってものを知れる機会があったら……知りたい?」

 

「……知っているのか?この世の理とは何なのか?とか」

 

「さあ、どうかしらね。でも、もし知れるとしたらどうする?」

 

もし知れるとしたら?そんなの知りたいに決まってる。

永劫回帰とか輪廻転生とか、いい加減何の事なのか理解もしたい。

そんな思いで優月に視線を向けると、優月も俺を見ていたのか視線が合って苦笑いされる。優月も同じ事を思っていたらしい。

ならば、俺たちが紫に答える言葉は一つ。

 

「「知りたい」」

 

俺と優月は揃って同じ言葉を答えた。

すると紫はフッと笑ってから言う。

 

「そう……ならいつか知れるといいわね♪」

 

「そんな事言って、本当は知ってるんじゃないんですか?」

 

「さあ、どうかしらね〜」

 

優月の追求する言葉をのらりくらりとかわして、紫は立ち上がり、俺の手を掴んだ。

 

「さて、それじゃあ影月たちの取材も終わったから、皆で里の観光でも行きましょうか?」

 

「…………ああ、そうだな」

 

そんな様子の紫に苦笑いを浮かべながら、俺は膝にいる美亜と共に立ち上がるのだった。

 




本当はもう少し長くしようと思ったんですが、この辺りで区切ります。

紫「この小説ではレミリアはかりちゅま吸血鬼にはならないのね」

はい。基本私の小説の東方キャラは原作寄りの人物像にしてありますので……。

紫「って事は、映姫もロリじゃないのね?」

はい。ってかこの小説ではもうロリキャラ結構出てるじゃないですか……。

朔夜「そうですわね。私を筆頭に美亜や香など……」

改めて言いますが、私はロリコンじゃありませんからね!?

紫「これだけ出しといて説得力無いわぁ……」

……とりあえず今日はこの辺で。
誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!(感想いただきたい……)

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