アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
それと影月の創造詠唱を変更させていただきました。過去の話の詠唱も変更してありますのでご了承ください。
side no
「妖夢〜」
「……なんでしょうか」
「このお団子、もう百五十本位食べたいわ」
「またですか!もう三百五十本も食べたじゃないですか!」
どこまでも澄み渡る冬の青空に、呑気そうな声とそれに対して怒るような声が響き渡る。
呑気な声を発した西行寺幽々子は、つい数分前まで大量の団子が積まれていて、今は大量の串しかない場所を指さしながら、自らの従者に団子の追加を命じる。
そんな幽々子に怒鳴った従者、魂魄妖夢はさらに続ける。
「もうっ!幽々子様の食べた団子だけで今日いくら使ったと思ってるんですか!?もうこれ以上はダメです!」
「えぇ〜……。まだまだ食べ足りないのに……」
そんなやり取りが交わされる横で優月、美亜、香は山積みにされた団子の串を見て唖然としていた。
「この量を……幽々子さんが……しかも僅か数分で……」
「三百五十本ってすごいですね……」
「まだ決闘も始まってないんだけどね……」
そういう優月の脳内には、某有名ゲームのキャラクターの姿が思い浮かんでいた。
そう、なんでも吸い込むあのピンク玉の事である。
「これがいつもの光景よ……」
「幽々子は大食いでな。人里にある料理屋では際限無く食べ物を食べ尽くすから、ピンクの悪魔とか言われて恐れられてるぜ」
(カー○ィですね……完全に)
優月は口には出さず、そう思った。
そしてはぁ〜と疲れたようなため息をついた妖夢の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?妖夢さん」
「……なんとか今日の買い物分はあるので、大丈夫です」
自らの財布の中を確認して、疲れたように再度ため息をはく妖夢に、優月は苦笑いした。
「大変そうですね……食費とか……」
「はい……。
「七割……」
その予算というのがどれくらいもらっているのかは知らないが、かなりの出費である事は想像に容易いだろう。
「あはは……気にしなくていいですよ。いつもの事で慣れていますから……」
そう言って疲れたように笑う妖夢に同情しない者などいるのだろうか?少なくとも優月は同情した。
「……何かあったら頼ってください。私も出来るだけ力になります」
「そのお気持ちだけでもありがたいです……」
そんなしみじみとしたやり取りを見ていた慧音と藍は、お互いに顔を見合わせて苦笑いを溢した。
「それより次は鬼と人間の戦いなんですね……」
「ああ。ってか元々こっちの決闘の方がメインだぜ。そもそもこの決闘と、さっきの決闘を企画したのは萃香だしな」
一方、少し離れた場所にいる阿求は先ほど優月たちが戦っていた場所にいる者たちに視線を向けて呟き、それを聞いた魔理沙が説明をする。そう、先ほどの戦いはいわば前座であり、メインイベントはこれから始まるのだ。
「実は私的にこっちの決闘の方が興味あるんだよなぁ……」
「え?なぜですか?」
「……早苗、お前ロボットって好きか?」
「大好きです!!」
突然の質問だったにも関わらず、即答である。
「なら早苗もこっちの決闘の方が興味あるだろうな。何しろさっき私がチラッと見た限りでは、物凄い奴が出てきたからな!」
「物凄い奴!?それってもしかしてもしかしなくてもロボットですよね!?」
「ああ、もしかしなくてもロボットだぜ!なんでも聞いた所によると、影月たちの世界で昔活躍していたロボットらしいぜ?」
「おおっ!!それはすごく興味ありますね!!」
「だろ!?」
大凡女の子らしからぬ話題でテンションが上がる二人の会話を聞いていた白蓮は、優月に聞く。
「彼はロボットを出す能力者なのですか?」
「違いますよ。ロボットーーーというか、あれを出して操れるのは兄さんの能力故だと思います」
「影月さんの能力?」
「まあ、それは見ていけば分かると思いますよーーーじゃあ、ゆっくり観戦しましょうか」
そうこうしている内にどうやら決闘準備が整ったようで、優月は視線を影月と腰の瓢箪の酒を飲んでいる萃香へと向けた。
「じゃあ、次はあんたたちね。さっきはあんたの妹に色々とヒヤヒヤさせられたんだから、もう大怪我とか大事を起こさないでよ」
「善処しよう。まあ、相手の力加減にもよるけどな」
「萃香もあまり派手にやらないようにね」
「分かってるよ〜」
お酒を飲みながら言う萃香を見て、本当に分かってるのか小一時間位問いただしたい霊夢だったが、萃香は鬼だし酔っていてもそういう約束は破らないだろうと結論付けた。
「じゃあ始めるわよ」
その言葉を聞いた影月は左手を前にかざして静かに紡ぐ。
「形成
Yetzirah―」
その言葉にラインハルト・ハイドリヒの神槍には今だ遠く及ばないまでも、圧倒的な威圧を放つ神槍が現れる。
「神約・勝利の神槍
Gunguniru Testament」
その神槍は見る者の目を引きつけ、圧倒的な威圧を持って周囲の者たちにのしかかる。
優月の《
そしてそんな規格外の威圧を最も近くで受けている霊夢と萃香はーーー
「ーーーこの力、依姫以上じゃないかしら」
「ーーーこりゃあ大変な奴に決闘を申し込んじゃったねぇ」
霊夢は今まで戦った中で、最も強かった八百万の神をその身に降ろす能力者の名を呟いて、その人物すら凌駕するんじゃないかと内心戦慄し、萃香はその言葉と裏腹に好戦的な笑みを浮かべた。
「じゃあーーー始めようか。霊夢」
「ーーー決闘準備」
その言葉に影月と萃香はお互いに視線を交わせ、開始の合図を待つ。そして霊夢の決闘開始を告げる声が響く。
「ーーー開始!」
その合図と共に萃香が目の前から掻き消える。
一瞬で影月の左側面に移動した萃香は拳を影月の胴体目掛けて振り抜く。
その速さは先ほど決闘を行っていた妖夢よりも数段速い。彼女は鬼という人外であるが故に、身体能力はずば抜けている。半人半霊という人間の部分がある妖夢とは比べものにならない程の身体能力を持っているのだ。
しかしその魔性的な速さの攻撃に影月は冷静に反応して対処していた。
拳を神槍の柄で受け流した影月はそのまま反撃に転ずる。しかし横に薙ぎ払われた神槍は何者にも当たる事無く、空を切る。
その手応えを確認した影月はすぐさま槍を引き戻して、次の右側正面からの攻撃を防ぐ。その反動で僅かにバランスが崩れた影月の懐に萃香が潜り込み、アッパーを繰り出す。
だがその攻撃はあらかじめ予想ーーーいや、予知していたのか影月は紙一重の所でアッパーを後方に飛んで回避する。
目に見えない程の速度で移動し、山をも軽く砕く拳を容赦無く振るう鬼と、それを冷静に対処する光り輝く神槍を持つ青年。その二人の攻防によって、数テンポ遅れて起きる火花と轟音を聞いている周りの観衆たちは唖然となる。
もちろんその理由は影月にある。幻想郷にて力では右に出る者はいないと言われ、その速さも天狗にも負けないとまで言われている鬼と互角に渡り合う人間ーーーその事実に唖然としない者が一体どこにいるというのだろうか?
無論、それはこの決闘を観戦していた歴戦の強者たちにも言える事だった。
『ーーーーーー』
「あの鬼と渡り合うなんて……」
なぜここまで彼が鬼と互角に渡り合えているのか?それは彼の能力によるものだ。
確率視則ーーー数ある事象が起こる確率を見る事が出来る能力。確率とは物事全てにあるものだ。
例えば今のこの攻防でも次に萃香がどの位置に移動してどのような攻撃を繰り出すのか?と考えると膨大なパターンが思い浮かぶだろう。
正面からの右ストレート。左側面から拳を横に振り抜く。死角となる背後からの蹴りーーー他にもパターンは無限とも言える程に存在する。
しかしその無限とも言える攻撃パターンの中には、他のパターンより多少ながら可能性が高く、繰り出されやすい攻撃パターンというものがある。
影月はそんな膨大な可能性の数々を見て、次に来る攻撃を予測、それに対して有効な防御を取るのだ。
「でも兄さんはまだ本気を出してませんよ。それは萃香さんも同じ事です」
優月がそう言った瞬間、萃香が攻撃をやめて一旦大きく後ろへと飛び下がった。
その顔は獰猛な笑みを浮かべていた。
「やるねぇ……!本気を出していないとはいえ、鬼の私の力と速度についてこれるなんて……!」
「まあ、ちょっとばかり能力は使ってるけどな」
「なるほどねぇ、予測系か……。ならこれでも予測出来るかい?」
そう言った萃香は自身の体を霧へと変化させ始めた。その光景を見た影月は若干目を見開く。
「へぇ、面白いな」
そう面白そうに呟いた影月もまた、神槍を自身の前に構えた。
そして優月と同じように、影月もまた
「我は勝利を見据えし者、あらゆる可能性を操りし者」
「常に仲間を守り、その為ならいかなる残虐なる行為すら厭わない」
紡がれる詠唱は、大切な者たちの為なら自分はどんな運命になろうとも構わないという意志が感じられるものだった。
「たとえその身が血濡れになろうとも常に絶対の勝利を勝ち取った」
「どれほどの恐怖や絶望が待ち受けようとも常に絶対の勝利をもたらした」
「万象全てを操りし我と、この神槍こそが絶対勝利の証」
紡がれる詠唱と共に、影月の神槍がさらに強い光を放ち始める。
「我が敗北することは絶対に許容されることではない」
「我には自らを血に濡らしてまでも守り通さなければならない者たちがいるのだから」
「故に我に挑む者あれば、万象全てを操り勝利をもたらすのだ」
そして詠唱が終わる。発言するのはあらゆる確率を見る確率視則とあらゆる確率を操る確率操作。
「Briah―
創造」
「確率操りし守り人
Wahrscheinlichkeit Manipulieren Moribito」
瞬間、影月の覇道世界が辺りを包み込み、萃香の姿が霧状から元の姿へと戻った。
影月が確率を操作して、萃香の姿を元に戻したのだ。
「何!?」
突然の能力解除に驚いた萃香はその場で驚き、立ち尽くす。
もちろんそんな隙を見せた萃香を影月は見逃がす筈も無くーーー
「ふっ……!」
神気の満ちた神槍を迷い無く萃香の心臓目掛けて突き出す。
それに僅かながら遅れて気が付いた萃香は大きく身を捻って回避する。
しかし回避しきる事は出来ず、神槍が萃香の左肩を僅かに抉る。
「っ……!」
一旦離脱した萃香は先ほど攻撃が当たった左肩をチラリと見る。
見る限り血が出ていたりはしていないので、肉体に関してはそれ程気にする事は無いがーーー
「はぁ……はぁ……。少し当たっただけでこれか……」
魂に決して多くはないが、少なくもないダメージを受けた萃香は、疲弊の色を見せる。
そんな様子の萃香を見ていた影月は苦笑いを浮かべる。
「今のをかわされたか……。完全に取ったと思ったんだけどな」
「ははっ……残念だったねぇ。確かに今のは結構危なかったけど、そう簡単には取られるつもりは無いよ」
「ああ、分かってるさ」
そう言った影月は右手を前に出して、何かを念じるように目を閉じる。
その行為に訝しんだ萃香は、次の瞬間目を見開く。
「さて、それじゃあ次は魔理沙が見たがってたものを出してやるよ」
影月の神槍がもう一つ、右手に現れたのだ。
その現れた神槍を宙に浮かべた影月はとある兵器の名を謳うように告げる。
「
その言葉に反応した神槍は周囲に強烈な光を放つ。
不意打ち気味の閃光に、萃香も周りで見ていた観衆たちも手で顔を覆う。
その光はすぐに収まり、手で顔を覆っていた者たちが視線を影月に戻そうとしてーーー目の前の光景に固まる。
『ーーーーーーーーー!!』
そこには五メートル程の高さの物体がいつの間にか現れていた。上は機械的な装甲を持ち、下は生物的な脚を持つというなんとも奇怪な姿をしたその物体ーーー月光は牛のような声を上げて、大きく跳躍する。
十メートルは軽く超える程の跳躍を見せたそれは、萃香目掛けて落下する。
「ーーーっ!!」
その様子に呆然と立ち尽くして見ていた萃香だったが、すぐに月光の意図を見抜いて後方へと回避しようとする。しかしーーー
「逃がさないぞ?」
『アーイ!』
「うわっ!?なんだこいつ!?」
突然萃香の後ろに黒い球体が飛びついて行動を抑制しようとする。月光を母体とする子機、仔月光である。
とはいえ相手は恐るべき力を持った鬼である。そんな相手に小さな仔月光はいつまでも張り付く事は出来ずーーーすぐさま引き剥がされる。
しかしその回避行動の邪魔は決して無駄では無かった。
「くっ!?」
上から落ちてきた月光は萃香のすぐ目の前へと落ち、数メートルの雪柱が出来上がる。
舞い上がった雪によって、萃香の目の前が真っ白に染まったその時ーーー
「っ!」
何か危険を感じたのか、萃香は上空へと飛ぶ。
そして刹那の間も無く、先ほどまで萃香がいた場所を太い何かが薙ぎ払う。それは月光の生物的な脚による回し蹴りだったのだがーーー
「うおおぉぉぉ!!」
その回し蹴りの隙をついた萃香は上空から、月光の装甲へと蹴りを入れる。
その蹴りの衝撃は凄まじく、月光は影月の方に向けて飛ばされる。
しかしそんな迫り来る月光を前にしても、影月は未だ冷静だった。
「メタルギアREX」
彼はすぐに月光を神槍の中に回収し、別の兵器を召喚する。
『ーーーーーーーーー!!!』
次いで現れたのは全高二十メートル以上はあろうかという鋼鉄の兵器。
その姿はまるで遥かな昔に存在していた恐竜を彷彿とさせるような威容を誇る。
「出たーーー!!!」
「すごい!!さっきの牛みたいな声の奴もすごいですけど、こっちもすごいです!!」
その存在が咆哮を上げる様を見た魔理沙と早苗は新しい玩具を買ってもらった子供のように大はしゃぎをしながら鋼鉄の兵器ーーーREXをキラキラした目で見た。
「魔理沙と早苗がすごい喜んでるな……」
「も、妹紅……あれは一体……?」
「ん?ああ……なんつってたっけなぁ……。聞いたけど忘れちゃったよ。香ちゃん覚えてる?」
「……確か、核搭載二足歩行戦車、メタルギアREXだったと思います」
「そうそう、それそれ」
「「核搭載!?」」
その言葉に食いついたのは、外の世界から来た早苗と妖怪の賢者、紫だった。
他の者たちは何それ?と言ったような表情である。
「ちょ……あれにそんな危険なものが搭載されてるんですか!?」
「あ、二人とも安心してください。あのREXに核兵器は搭載されていませんよ?」
そこで優月が二人を安心させるように言う。
「朔夜さん曰く、そこまでの威力を持つ兵器は今の所搭載する予定は無いらしいです。つまりあれは核兵器は持っていません」
「…………ならいいけれど……。それにしてもメタルギアREX、ねぇ……」
紫は興味深そうにREXを眺める。それを不思議に思った美亜が問う。
「どうかしたんですか?」
「あ、いやね……。他の世界にはあんなものがあるのかと思ったのよ」
「私たちの世界では大体百年くらい前の古い兵器ですけどね。なんでも忘れ去られた島に、ボロボロになって放置されていたとか……」
「忘れ去られた島……か。ならいつか幻想郷にもその島の一部とあの兵器が現れてたかもしれないわね……」
幻想郷は全てを受け入れる。それはたとえ愚かな人間たちが巻き起こした戦争の跡であろうともーーー
「紫、核って地底の地獄鴉がやってたあれか?」
「あれがやってたのは核融合。それの用途を少し変えて、外の世界の人間たちが作り出したのが核兵器よ。でもその説明は後にしましょう。今は思う存分楽しまなくちゃね♪」
そう言って紫が視線を向けた先にはーーー
「うおおっ!?危ないな!!」
REXの30mmガトリング砲を走って回避している萃香とーーー
「対戦車誘導ミサイル……」
REXに指示を出し、高みの見物をしている影月が未だ決闘を続けていた。
萃香は影月の創造の影響で、あまり上手く能力を発動出来ないでいた。
「……というか霊夢さんと紫さん、あれ止めなくていいんですか?」
「別に大丈夫でしょ。攻撃を受けてるのが影月だったら止めに行ってるけどね」
「そうね。萃香ならあの程度、問題無いだろうし」
「……今まで見てきて思ったけど、紫さんたちって身内に辛辣だよね……」
そう言って眺める紫たちを見て、美亜はぼそりと呟いた。
その時ーーーREXの放った対戦車誘導ミサイルが萃香の周りに次々と着弾し、爆発と共に雪煙が舞い上がる。
「チッ……!!」
「メタルギアRAYーーープラズマ砲」
視界を雪で覆われ、周りが見えなくなった萃香は小さく舌打ちした次の瞬間、影月の声を僅かながらに聞き取れた萃香は咄嗟に横へと回避する。
すると先ほどまで萃香のいた場所を、どこからか放たれた黄金の一閃が通り抜けた。
萃香に避けられた黄金の一閃はそのまま真っ直ぐ結界の方へと飛んでいき、着弾。
結界にぶつかってエネルギーの行き場を失った黄金の一閃は凄まじい爆発と轟音を巻き起こす。
「な……!今のは!?」
先ほどの一閃に驚いた魔理沙がそう言った瞬間ーーー
「こら!そこの貴方たち!人里で何を暴れているんですか!!」
そこに新たな第三者の声が響き渡る。
「げっ!」
「この声は……!」
「あらあら〜♪四季様じゃない♪」
「あっ、四季様!それと小町さんまで!」
その声を聞いた霊夢や紫は心底嫌そうな顔をし、幽々子や阿求はそう言って声が聞こえた方へ向く。
そこには豪華な装飾を施され、紅白のリボンが付いている帽子をかぶっていて、笏を持っている緑髪の少女と、後ろに赤髪をツインテールにしている少し変わった着物を着ていて、人間の身長以上はある大きな鎌を肩に担いだ女性が人混みの中からゆっくりと歩いて来ていた。
そして緑髪の少女は嫌そうな顔をして固まっている霊夢や紫を発見して言う。
「博麗霊夢、八雲紫。何をそんなに嫌そうな顔をしているんです?」
「べ、別にしてないわよ」
「…………」
「……まあ、それはいいです。それよりもこの騒ぎについて説明しなさい。拒否権はありませんし、虚偽を発言した場合は即刻お説教ですからね?」
「「……はい」」
何があっても逃がさないと言ったような目で言う少女に、霊夢と紫は素直に返事を返すのであった。
side 影月
「……ふむ、つまり今までの話を纏めると……貴方たち四人は別の世界から来たと?」
「そうだ。この幻想郷の外部にある外の世界って所とは、別の場所から来た」
「へぇ〜、やっぱり別の世界ってあるもんなんだねぇ」
萃香とガチ決闘を繰り広げてから、大体三時間四十八分が経過した頃ーーー俺たちは寺子屋の客間兼和室で、帽子のかぶった緑髪の少女と赤髪の女性と話をしていた。
ちなみになぜ三時間四十八分も時間が経っているのかというとーーー
「あ〜……長かった……」
「いいじゃない、霊夢は三十分くらいしか説教されてないんだから……。私なんて一時間十五分よ……」
彼女たちの説教が長々と行われたからである。ちなみに残りの一時間五十五分くらいは、俺たちを巻き込んで、幻想郷の決まり事は〜とかそんな事を言われた。
「霊夢と紫は色々言われる事がありそうだからね」
「それよりもなんであの時戦ってた影月と萃香は特にお咎め無しなのよ!!」
「そうよ!個人で映姫に説教されたのは私と霊夢だけなんて不公平だわ!!」
そう反発する霊夢と紫に、緑髪の少女ーーー四季映姫はため息をつきながら話す。
「決闘については阿求や白蓮から聞きました。かなり激しく戦っていてたようですが、周りには極力迷惑を掛けなかったそうじゃないですか」
まあ、確かにあまり危険な攻撃方法は使っていない。REXのガトリングやミサイルは細心の注意を払って使ってたし、プラズマ砲も上空に逸れるように撃った。
かく言う萃香もその辺りは考えていたようで、しっかりと立ち回っていた。なんだかんだで互いに全力を出し合いながら、上手い事立ち回りはしていたのだ。
「「いえーい♪」」
「おやおや、仲がいいねぇ」
俺と萃香は揃ってハイタッチをして霊夢と紫をニヤニヤしながら見る。そんな俺たちの様子を見た赤髪の女性ーーー
そんな俺たちに殺気に近い視線を送る霊夢と紫。そんな事には気が付いていないのか、四季映姫は続ける。
「貴女たちが念の為に張ったという結界もあったので、あまり大きな被害も出なかったようですね。そこについては、私から何も言う事はありません」
「じゃあ、私たちの説教はーーー」
「貴女たちは私の説教を聞いていたのですか?貴女たち二人に言ったのは、今回の決闘の事では無く、ここ最近の貴女たちの行動についてですよ?……まさか話を聞いていなかったなんて言いませんよね?」
「「……言いません」」
「では八雲紫、貴女に対して私が言った事を一つでいいので言ってみてください」
「…………」
その言葉に黙り込む紫。やはりろくに説教を聞いていなかったようだ。霊夢に至ってはめんどくさそうに顔を逸らしている。
「聞いていなかったんですか?ーーーどうやら二人はまだ私の説教を受けたいようですね」
「うえぇ……まだするんですか?四季様」
全身から怒気を放ちながら言う四季映姫に、紫と霊夢はもう勘弁してほしいといったような顔を浮かべる。
そしてそれは俺たちも同じだった。こちらもそろそろ本題を話したい。
「四季映姫さん、紫さんも霊夢さんも反省しているみたいですし、もうそこまででいいと思いますよ?それよりも、私たちは貴女にお話があるのですが……」
「なんですか?今はこの二人に説教をしなければならないのです。だから貴方たちのお話は後で聞きます」
この四季映姫というお方は、どうやら生真面目過ぎるようだ。やる事は先に済ませておきたい性質らしい。
なので俺は彼女の興味をこちらに向ける為に、小声でボソリと呟く。
「……一刻も早く俺たちの友人を助けてほしいんだがな……」
「……友人?」
すると彼女は、紫や霊夢に向けていた怒気を少し収めて、可愛らしく小首を傾げながらこちらを向いた。
「ああ、出来るだけ早く救いたい友人がいるんだ。それにはそこにいる幽々子と、貴女の協力が必要なんだ」
「……ふむ……分かりました。それと私の事は映姫と呼んでくれて構いませんよ」
「あ、私の事は小町って呼んでおくれよ」
映姫は怒気を完全に収めてそう言い、小町はケラケラと明るく笑いながら言った。
「了解だ」
「まあ、それはそれとして、霊夢と紫の説教は存分にしてくれ」
「分かりました。ではなるべく早く終わらせるようにしますね?」
「「ちょっとぉぉぉぉぉ!!」」
ついでに矛先が逸れて安心していた霊夢と紫を突き落とす事も忘れない。
「お待たせしました」
「おっ、いいタイミングだな。こっちももう終わる所だ」
「さあ、妖夢さん……どちらを引くか……選んでください」
「うぅ〜……右……?左……?」
「あ〜……本当に長い長い戦いだったわ……」
「…………」
「霊夢さんと紫さん……お疲れ様です」
それから約一時間後、映姫の長いようで短い説教が終わり、霊夢と紫はぐったりした様子で卓袱台に突っ伏し、美亜は二人に労いの言葉を掛けた。
「てかあんたたちは私たちが説教受けてる時に何してるのよ!?」
「ババ抜き。ちなみに今まで4回連続で妖夢が負けてて、今は五連敗目の瀬戸際だ」
「妖夢は昔からこういう読み合いのゲームは苦手なのよねぇ」
「し、仕方ないじゃないですか!!私は幽々子様や紫様と違って、こういうの得意じゃないんですから……」
とはいえあからさまな手に引っかかり過ぎな気もする。
幽々子に「こっちがババよぉ〜♪」とか言われて、「その手には乗りませんよ!」とか言ってババを引くし(引いたかどうかも表情で分かる)、席替えして妖夢が俺からカードを引く時にさりげなくババのカードを頭一つ分位出していたら、何の迷いも無く引いた。
普通さりげなくカードが一枚出ていたら、少し位は疑うだろう。
「妖夢〜、右よ〜」
「妖夢さん、右ですよ」
「私は右だと思うな〜」
「私も右……かな」
「右ね」
「奇跡が右だと言っています!」
今回一抜けした幽々子、二抜けした白蓮、観戦している小鈴、美亜、咲夜、早苗が言う。
「違うね。左だ」
「私も妹紅さんと同じです!」
「私も左だと思うわ」
「迷う事なんて無いぜ!左だ、妖夢!」
「私も魔理沙と同じよ」
「左だと思うねぇ」
「妖夢、左だ」
それに対して観戦している妹紅、香、阿求、魔理沙、アリス、小町、そして三抜けした藍が言う。
それら二つの意見を聞いた妖夢は、意を決したような顔をする。
「私は……八割当てた藍さんの言葉を信じる!」
そう言って妖夢は勢いよく、優月の持つ右のカードを引いた。
西から差し込む日に照らされたカードに書かれていたのはーーー
「ジョーカーです!」
「うわぁぁぁ!!またですかぁぁぁ!!」
その事実にショックを受けた妖夢は膝と両手を畳について、ズーンとした雰囲気を醸し出す。
そしてそのまま優月が上がって終了。妖夢は五連敗を喫してしまった。
そしてショックを受けていたのは妖夢だけでは無かった。
「酷いわ〜。私の方が藍より当ててるのに〜」
「うっ……。ゆ、幽々子様……申し訳ありません……」
幽々子が心底ショックを受けたという感じに泣き真似をし、妖夢はばつが悪そうに謝る。
ちなみに幽々子は先ほどのような二択の選択肢の時には、ほぼ百パーセントの確率で当てている。
「ちなみに私もよ。感で言っても結構当たるわね」
「奇跡の力です!」
そして咲夜と早苗も同じような確率で当てていた。早苗は奇跡の力とか言っているが、正直信じがたいものである。
「あははっ!辻斬り少女は頭脳より体を動かす方が得意みたいだねぇ」
「確かに妖夢はどちらかと言うとそうだな」
「うっ……」
大笑いする萃香と苦笑いする慧音の言葉に言い返せないのか、妖夢は口を噤んでしまった。
「はいはい、遊びはそこまでにしてください。で、影月さん?」
「ん?ああ、例の話か?」
「ええ、聞かせてください」
「分かった」
そして俺と優月は、映姫に幻想郷に来た理由を一から説明する事にした。
ーーー少年少女説明中ーーー
「皆、僕の事忘れてないかな〜……暇だぜ」
「……なるほど。事情はよく分かりました」
「友達を助ける為、か。泣かせるねぇ。素晴らしい友情だ」
それから数分後、俺たちが幻想郷に来た理由の全てを聞いた映姫は、何かを考え込むような顔をして、小町はうんうんと頷いた。
「是非協力してほしい。貴女と幽々子がいれば、きっと友人を助けてくれると……妹紅と紫が言ってくれたからな」
「…………」
「そういう事だ。閻魔様、頼む」
「私からも頼むわーーーよろしくお願いします」
俺、優月、香、美亜、そして妹紅と紫は揃って映姫へと頭を下げる。
ここで彼女が協力してくれなければ、橘を目覚めさせる事は出来ない。あるいは幽々子だけでも出来るかもしれないが、何かしらの支障があるのは間違いないだろう。
しかしもし断られたら……?そんな考えが頭をよぎる中、息をはく声が聞こえた。
「はぁ……分かりました。でも一日程、時間をください。その方の魂の行方を調べてみます。その方のお名前は?」
「えっ……あ……。橘……巴です」
「橘巴さんですか。戻ったら調べてみましょう。明日報告しますね」
「おっ、よかったねぇ。四季様が動いてくれるそうだよ」
「あ、あの……いいんですか?」
「何がです?」
「そんなにあっさり……」
正直な事を言うと、渋られて断られると思っていた。だが実際はーーー
「あ、ならダメって言った方がよかったですか?」
「いやいや!それも困る!!」
「ならいいじゃないですか。何を言ってるんですか、貴方は」
何やら呆れられた。解せぬ。
「ふふっ、冗談ですよ。どうせ渋られて断られるとか思ってたんでしょう?」
「えっ!?……はい」
「正直でよろしい。優月さんは?」
「私は五分五分位かと……」
「ふむ……。私ってそんなに非情に見えるんですか?」
映姫の問いかけに、霊夢たちは視線を逸らす。
霊夢たちが映姫に対してどのようなイメージを持っているのか、実に分かる行為である。
「……心外ですね。いくら私が閻魔だからって、血も涙もないって訳じゃありませんよ。罪人には容赦しませんけどね」
「私にも容赦無いじゃありませんか……」
「貴女は毎日サボっているからでしょうが!そのサボリが無くて毎日真面目に仕事をしているのなら、私だって少し位は容赦します」
「っ……サボリじゃなくて休憩ーーー」
「口答えしない!!」
「きゃん!」
「ふっ……」
「ふふっ……」
『あはははははっ!』
小町の可愛らしい悲鳴に俺も優月たちも、そして霊夢たちも楽しそうに笑う。
「全く……。あ、そういえば私から一つ、貴方たちに聞いてみたい事があるんですが」
すると今度は映姫がこちらへと体を向けて、そう言ってきた。
「なんだ?答えられる範囲なら、答えるぞ?」
「貴方の能力についてです」
「ん?それはどっちの事を言っているんだ?」
俺の能力は大きく分けて二つ。確率を見たり、操ったりする能力と、機械(兵器)を操るという能力がある。
その二つのうちのどちらの事を聞いているのか分からない俺は、映姫に問い掛けたのだがーーー
「どっち……?貴方は能力を複数持っているんですか?」
「影月だけじゃないよ。優月も似たような感じだったねぇ」
「ああ、そういえば炎になったり、雷になったりしていたな。どっちがお前の本当の能力なんだ?」
「私のあれはどっちも私自身の能力じゃありませんよ」
「そうねぇ。貴女のあれは貴女の中にある二つの別の魂の力だものね」
「どういう事ですか?説明してください」
全員からの説明を求める視線に、俺と優月は揃って顔を見合わせて苦笑いした。
「はぁ……今日は疲れたな……」
「そうだな……私も色々と聞かれたからねぇ」
「私も疲れたわ……特に映姫の説教で……」
「ふふ、三人ともお疲れ様」
「お疲れ〜」
時刻は九時を少し回り、辺りが闇に包まれてそれなりに時間が経った頃ーーー俺は妹紅、紫、慧音、萃香と共に、寺子屋の縁側に座って暗い夜空から降ってくる雪を眺めていた。
ちなみに優月たちは今日一日色々とあったからか、疲れて眠っている。
「すまないな……。色々お世話になった上に泊めてもらって……」
「別に構わないさ。君たちは特に泊まる当ても無かったんだろう?それに私としても妹紅の友人を放っておく事は出来ないからな」
そう言って笑う慧音に俺は再度、お礼を言った。
実際、俺たちは特に泊まる当ても無く、最終的には迷いの竹林と呼ばれる場所にある妹紅の家に向かおうとしたのだがーーー
『ふむ……特に泊まる当ても無いなら、うちに泊まっていってくれないか?個人的には妹紅の世話をしてくれたお礼をしたいんだ』
そう言ってくれた慧音のご厚意に甘えた俺たちは、今日ここに泊めてもらう事になったのだ。
まあ、それはそれとしていいのだがーーー
「なんで紫と萃香も泊まってるんだ?」
俺は扇で口元を隠している紫と、紫色の瓢箪を煽っている萃香を半眼で見る。
彼女たち以外はそれぞれ自分の家に帰ったというのに、なぜ彼女たちはここにいるのだろうか?
「あら、今の私は貴方たちを幻想郷に連れてきて、色々と手伝ってあげてるサポート役なのよ?そんな私が貴方たちと離れるなんて愚行でしょう?」
紫はそう言って苦笑いする。紫は俺たちの頼み事を聞いてくれて、さらに手伝ってあげると言ってくれた立場にある。そう言った手前、俺たちと離れるのはあまり得策では無いのだろう。
でもーーー
「それだけじゃないだろう?他には、まだ俺たちを警戒しているからとか……色々理由はありそうだ」
「あら、そんな事は無いわーーーと言いたい所だけれど、まあ〜、少し前まではちょっと警戒していたわ」
まあ、その警戒も無理は無い。
特殊な戦闘技術を学んでいる学園から来て、人外と互角に渡り合える奴が自分の住んでる世界に来たら誰だって警戒するだろう。
だがーーー
「少し前までって事は、今は警戒してないのか?」
「ええ、貴方たちはこの幻想郷の脅威とはなり得ない。むしろいい刺激になってくれる。私はそう思ったのよ」
そう答えた紫になぜと聞くと、紫は「秘密よ♪」と言って笑った。その笑顔は彼女の可愛らしさと、妖艶さが感じられるような笑みだった。
それに一瞬見惚れてしまった俺だったが、すぐに意識を戻して今度は萃香へ問いかける。
「そ、それで萃香はなぜここに?」
「ん〜?そりゃあ簡単な理由さ」
そう言った萃香は俺へともたれかかってきた。彼女のいい香りとほんの少しだけ感じる不快感を感じない酒臭が鼻腔をくすぐる中、萃香は言う。
「私は君たち……特に君が気に入ったのさ。強いし、ノリもいいし……。そしてーーー」
そこで区切った萃香は俺の方へと顔を向けて、明るい笑顔を浮かべて言った。
「私や紫たちみたいな幻想の存在を何の抵抗も無く受け入れてくれたからね」
「……?抵抗なんてする必要無いだろ?君たちは今もここにしっかり存在しているんだから」
彼女たちは幻想の存在だと言った。本来の世界にはいないーーーいや、かつてはいたという存在だと。
「でも今の外来人たちでそんな考えを持ってる人は珍しいんだ。……大半の奴はあり得ないと言って、私たちを信頼せずに受け入れようとしない。例え目の前に鬼の角が生えた私が存在していたとしても、目を塞ぎ、耳を塞ぎ、心を塞ぐ」
紫は以前言っていた。この幻想郷の外にある人間たちの世界には科学が溢れ、妖怪や神などの神秘を信じる人がほとんどいなくなってしまったと。
「私たちは……忘れ去られた存在だ。そんな奴らが手を取り合って生まれたのがこの幻想郷だ。そして私たちはこの世界で協力して生きていかないと、存在そのものが消えてしまう」
「……実際、この世界で私たちと協力出来なかった妖怪や神などは皆消えていった」
妹紅の言葉を補足するように慧音が言う。昼間に聞いた話だが、慧音も人間では無いという。
彼女は人間と
白沢ーーー徳の高い為政者の前に現れて、知識を授けるという中国の聖獣だ。そして彼女の能力もその白沢と非常に関係深いものだった。
曰く、歴史を食べる程度の能力と、歴史を創る程度の能力ーーーどちらも歴史に関係する能力であり、多くの知識を司る能力だ。
慧音はその能力を持っているが故に、共存出来なかった妖怪や神などの末路をよく知っているのだろう。
「そんな私たちが何よりも嬉しい事ーーーそれは私たちという幻想の存在を信じて、受け入れてくれる人の存在なんだよ」
「…………」
「貴方たちは幻想の存在である妹紅を助け、同じく幻想の存在である私たちまで受け入れてくれて、頼ってくれた……。それが心から嬉しいのよ」
「きっと幽々子もね」と笑いながら言う紫。
そんな彼女たちを見て、俺は短く、そして強く言っていた。
「君たちは幻想の存在なんかじゃない」
その言葉を聞いた彼女たちは驚きの表情を浮かべるが、俺は構わず続ける。
「俺たちは現実に生きている。それは君たちだって同じなんだ。良い事もあれば悪い事もあるし、満たされない欲を抱えて飢えてもいるさ」
自分はどうなっても構わないから、大切な人たちの為に絶対の勝利を……。そんな馬鹿げた願望を持っていて、心の底でいつまでも満たされず、思い続けるが故に渇きは消えない。
それは彼女たちだって同じだろう。
妹紅は以前、不老不死の自分がなんとか死ねる方法は無いのかと考える事があると言っていた。
紫はこの幻想郷が長く、いつまでも続く事を常に考えていると言っていた。
そうした不満、不安、喜び、悲しみ、そして色んな考えーーーそんな感情や思いを抱いている者は果たして幻想の存在と言えるのだろうか?
「俺にとって幻想の存在って言うのは、生きる事も死ぬ事も出来ず、全てを手に入れていて何も求めない奴の事だと思っている。正直、そんな存在はこの世界に生まれてきた事自体が間違っていると俺は思う」
そうした俺の持論からすると、少なくとも目の前にいる彼女たちは、俺にとっては幻想の存在では無くなる。
「でも紫たちは皆、毎日飢えていていて、それが満たされる事を求めてる。それが満たされるか満たされないかは別として、そんな思いを持っている限り、君たちは幻想の存在じゃないと俺は思う。だから俺は、俺たちは君たちを受け入れる事が出来るんだ」
「「「「…………」」」」
もちろん俺のこの持論が正しいとは言わない。しかし少なくとも目の前にいる少女たちに何か考えさせるきっかけにはなったようだ。
「……やっぱり私は君が気に入ったよ!まさか私たちにそんな事を言ってくれるとはねぇ」
俺にもたれかかっていた萃香は太陽のように眩しい笑顔を浮かべる。その笑顔は本当に心の底から笑っているような、清々しいものだった。
「……ふふっ、本当に嬉しい事を言ってくれるわね。ーーー飽いていればいい、飢えていればいい。何を思って、何をしても満たされない。でもそれでいい。そう思えない者はその時点で滅びるしかないのね……」
紫は自分の心に自戒するかのように呟いた。それこそが今を生きているという事なんだと改めて確認しながらーーー
「……私は生きてもいないし、死んでもいない存在だけど……死にたいって思ってるから、心はまだ死んでないんだな」
妹紅は暗い空から降ってくる雪を見ながら、誰に言うでもなく静かに呟いた。
「……そうか……良い意見を聞かせてもらった。ありがとう、影月」
慧音は先ほどの言葉に対して、何か考え込んでいるようだったが、俺に向き直って頭を下げた。
「俺は特に大した事は言ってないよ。ただ思った事を言っただけだ」
「影月にとっては大した事じゃないのかもしれないが、私たちからしたら本当に嬉しい事なんだぞ?」
「ええ、本当にね……。いい話を聞かせてもらったわ。ありがとう、影月」
ニコリと優しく微笑みながらお礼を言う紫に、俺はまたもや見惚れてしまう。
本当にーーーこの世界に住む人たちは笑顔が素敵だ。ここにいる四人然り、昼間に話した人たち然りーーー
「さてーーー」
そして紫は持っていた扇を目の前でスッと横に移動させる。するともはや見慣れたスキマが現れ、そこから一つの飲み物が出てきた。
「とても素敵な意見を聞かせていただいたお礼といってはなんだけど……暖かくて美味しいお茶なんていかがかしら?」
「おっ!ちょうどいいな。段々寒くなってきたから、ここら辺で暖まりたいと思ってたんだ」
「ふふっ、それは重畳♪萃香たちも飲むわよね?」
「いただくよ〜。お酒ばかりでも飽きるからねぇ」
「私も少しだけ肌寒くなってきたからな。遠慮無くいただくよ」
「私も是非ともいただこう。あ、それと……妹紅、ちょっとくっついてもいいか?」
「慧音はまたそれかぁ……。でもいいよ。……あっ!それならついでに紫も萃香も一緒に影月にくっついて暖を取らないか?その方がもっとあったかくなるだろう?」
「はぁ!?いやいや、ちょっと待て!なんで俺にくっついて暖を取ろうとするんだよ!?」
「ダメなの?」
「ダメかい?」
「ダメなのか?」
「ダメなのか?」
「えっ!?い、いや、ダメじゃないけど……」
いきなり四人が揃ってこちらを見てきたので、一瞬どもってしまった。そしてついでに構わないと暗に言っているような返事をしてしまった。
「ふふっ♪なら早速ーーーあら、影月って意外とあったかいわねぇ♪」
すると紫はすすっと移動して、俺の左隣にぴったりとくっつく。
すると当然彼女の香りも自然と漂ってくる事となりーーー右隣からもたれかかっている萃香の香りと紫の大人の女性のいい香りが混ざり合い、俺の鼻腔と理性を刺激する。
「なら私たちは後ろから抱きつこうか、慧音」
「ああ」
すると今度は後ろから妹紅の白く細い腕と、慧音の白い腕が絡められる。
「ちょ……!本当にいきなりどうしたんだ、四人とも……!?」
その時の俺の脳内は混乱状態になっていた。なにせ四人の美少女が暖を取る為に抱きついてきたのだ。そんな状況になって混乱しない奴が果たしているだろうか?
「え〜、特に理由は無いわよ?でも強いて言うなら……貴方にくっつきたいからね♪」
紫のその言葉に萃香が頷き、後ろの二人も頷いたかのような感覚が伝わる。
まあ、くっついている分暖かくはなってるのでいい事はいいのだがーーー
「はぁ……。お茶を飲んだら寝ようと思ったんだけどな……」
「あら、まだまだ夜はこれからよ?もっと語り合いましょうよ♪今日は貴方たちという素敵な人たちと出会えた記念すべき日なんだから」
「……ああ、そうだな」
もう考える事を諦めた俺は紫にそう返事を返す。そんな俺の返事を聞き、表情を明るくして頷いた四人を見て、今日は寝るのが遅くなりそうだと思ったのだったーーー
side out…
幻想郷縁起・控書
十二月二十六日。
今日の正午過ぎ、私が
新たな異変かと思い、私と友人がそこへ向かうと、博麗の巫女や命蓮寺の住職、守谷の巫女や紅魔館のメイド、さらには妖怪の賢者たるスキマ妖怪などの幻想郷の実力者たちが集まっているのを確認。
さらに約二ヶ月程前から行方不明となっていた蓬莱人、藤原妹紅の姿も確認した。
その後、この騒ぎの原因をスキマ妖怪の八雲紫他、霧雨魔理沙などに尋ねてみた所、別の世界から来たという四人の人間ーーー異世界人たちが幻想郷の人外たちと決闘を行おうとしている事を教えてもらった。
外の世界とは違い、魔法などの神秘も存在するという世界の住人だというその者たちの内の一人、如月優月は半人半霊である魂魄妖夢と妖夢の主である西行寺幽々子を倒し、如月優月の兄であるという如月影月は鬼である伊吹萃香と互角に渡り合うという、彼らが本当に人間なのかと疑問を持つ程の決闘を見せてくれた。
後に幻想郷の閻魔である四季映姫と、その部下である小野塚小町が乱入してきた事により、騒ぎは一旦鎮静した。
その後、寺子屋にて彼らの世界の事や、なぜ幻想郷に来たのかなどの理由を聞いた。
彼らの世界は外の世界よりも少しばかり科学が進んでいるらしく、魔術などの類も一般の者たちには知れ渡っていないが存在するという事、そんな彼らの世界にはとある魔人の集団がいるという事、そして彼らは大切な友を助ける為にこの幻想郷にやって来たなどの興味深い話の数々を聞く事が出来た。
特に彼らの世界に存在するという魔人の集団にはとても興味があるので、いずれ彼らにその辺りの事を詳しく尋ねてみようと思う。
文々。新聞・十二月二十六日、一面の記事にて。
幻想郷に新たな脅威、異世界人とは何者なのか?
十二月二十六日正午過ぎ頃、人里にてちょっとした決闘が行われていた事が判明した。
数年前にも人里では宗教家たちがそれぞれ自らの信仰を集める為に、あらゆる場所で決闘をしていたが、今回の決闘はそのような事情で行われたものではないようだ。
あいにくと騒ぎを聞きつけた私が現場に到着した頃には全て終わってしまったらしく、その決闘を観戦していた観客などから話を聞く事ぐらいしか出来なかった。しかしそれらの話を纏めてみると、かなり興味深い話ばかりだった。
まず、その決闘を行っていたのは幻想郷屈指の実力者である白玉楼の庭師、魂魄妖夢とその主である西行寺幽々子、そしてかつては我ら天狗の上司であった鬼の伊吹萃香という並の者どころか、余程の強者でも勝つ事は難しいだろうと思わせる歴戦の強者たちであったという事。対してそんな彼女たちの相手は異世界から来たという特殊な力を持った人間たちだったという。
聞いた話によると、異世界から来たという人物は四人いて、その内二人が先述した彼女たちと決闘を行ったらしい。
その異世界人の片方は体に炎や雷を纏い、目にも留まらぬ速さで魂魄妖夢と西行寺幽々子を攻撃していたらしく、もう一人の異世界人に至っては、巨大なロボットのようなものを呼び出したという普通の人間にしては信じられないような能力を持っていたという話を聞けた。
さらにこの決闘を観戦していたのは人里の者たちだけでは無く、博麗の巫女や命蓮寺の住職、さらにはスキマ妖怪などの実力者たちもその中にいたらしい。
さらには約二ヶ月程前から行方不明となっていた藤原妹紅の姿を見たという者もいる事から、件の異世界人たちは藤原妹紅と何かしらの関係があるのではないかと当記事は推測する。
その後、異世界人たちは博麗の巫女などの実力者たちと共に寺子屋の中へと入って行ったと聞き、突撃取材を敢行しようと試みたが、スキマ妖怪である八雲紫のスキマ妨害により、突撃取材は断念。仕方なく張り込みを続け、夕刻頃に寺子屋から出てきた関係者と思われる者たちに取材をしようと試みたが、関係者の全員は私の取材申し込みを適当に受け流しながら、そそくさとそれぞれの家へと帰ってしまった。
唯一捕まえる事の出来た博麗の巫女、博麗霊夢に話を聞いてみても次のような返答しかもらえなかった。
「あ〜?異世界人?何言ってるのよ。私たちは妹紅が見つかったって紫から聞いたから、寺子屋に集まってただけよ。それなのに異世界人がここにいたとか、決闘があったとか……そんな夢みたいな事を言ってる暇があるなら、私の異変解決の武勇伝でも書きなさいよ。あ、それと妹紅が見つかったって新聞に書いておきなさいよ?」
その日は結局、決定的な情報を得る事が出来ずに終わってしまった。
しかし博麗の巫女はああ言っていたものの、異世界人がいるという話は最早紛れもない事実だと思われる。もしそれが嘘の情報だとしても、そんな嘘で何か得をする者がいるとは到底考えられないし、目撃者も数多くいる。
いずれにしろ、この出来事についての関係者には更に追求をしていくつもりだ。
影月はハーレムを作って……とはなりませんよ?ええ、フラグは建ててますけど回収はしません!まあ、フラグ回収してもいいんですけど……。時間とか諸々の事情で少し難しいかな〜と……すみません。
ちなみに最後の方の文々。新聞について、霊夢たちが文を無視したのは単にめんどくさかったからです。一度絡まれると、納得するまで質問責めされるから適当に受け流して帰るという(苦笑)まあ、少しながら紫が霊夢たちに対して口添えもしていたのでそそくさと帰ったんですけどね(苦笑)
誤字脱字・感想意見等、よろしくお願いします!