アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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うい、戦闘回です。
今回あるキャラの能力の拡大解釈があるので、そこはご了承を。

今年の七夕の願いは「dies iraeのアニメが成功しますように」ですかね(笑)


第五十六話

side 影月

 

「ーーーというわけで、なんとか無事に妹紅を見つける事が出来た。捜索に協力してくれた君たちと多くの者たちに感謝する」

 

寺子屋内の客間兼和室で慧音は目の前に座っている五人の人物に頭を下げた。

その五人の人物の反応はというとーーー

 

「と言っても、特に私たちは何もしてないわ」

 

「そうね。結局妹紅は外の世界にいたって話だし……」

 

メイド服を纏った銀髪の女性と、人形のような姿をしている金髪の女性は呆れながらそう言いーーー

 

「外の世界なら、私たちにはどうにも出来ませんからね……」

 

「まあまあ、いいじゃないですか。無事に妹紅さんも見つけれたので、終わり良ければすべて良し!です!」

 

何やら幽霊のようなものを従えている白色の髪の女性は苦笑いをし、霊夢と似たような巫女服を着た緑色の髪の女性は、元気よくそう締めくくった。

すると今度は法衣を着て、九つの金色の尻尾を生やしている女性が紫に向かって話す。

 

「それで紫様、そちらの四人が紫様の言っていたゲストですか?」

 

「ええ、私が妹紅を見つけるまで彼らが妹紅の衣食住を提供してくれていたそうよ。何度も悪いけど、自己紹介お願い出来るかしら?」

 

「ああ」

 

そう紫に紹介された俺たち四人は、メイド服の女性、人形のような女性、幽霊?を従えた女性、巫女服の女性、狐の尻尾が生えている女性に自己紹介をした。

そして俺たちの自己紹介が終わると、今度は向こう側も自己紹介をしてきた。

紅魔館という館で働いているメイドだという十六夜咲夜(いざよいさくや)(魔理沙曰く、完全で瀟酒(しょうしゃ)な従者)。

魔法の森という場所に住んでいる人形を操るという魔法使い、アリス・マーガトロイド(魔理沙曰く、七色の人形遣い)。

冥界の白玉楼に住む剣術指南役兼庭師で、人間と幽霊のハーフだという魂魄妖夢(こんぱくようむ)(魔理沙曰く、半人半霊の庭師)。

守矢神社という場所の風祝(かぜはふり)だという東風谷早苗(こちやさなえ)(魔理沙曰く、祀られる風の人間)。

紫の式で、最強の妖獣と名高い九尾の狐であるという八雲藍(やくもらん)(魔理沙曰く、策士の九尾)。

そうしてお互いに軽い自己紹介を終えた俺たちの間には少しの間、謎の無言が続いたがーーーそれに耐え兼ねたのか、妖夢が口を開く。

 

「あの〜……。それで貴方たちはなぜ幻想郷に?」

 

「友人を助ける為だ。後は観光だな」

 

「友人を助ける?」

 

首を傾げる五人を見て、俺たちはとある事故によって目覚めなくなってしまった友人がいる事。そしてその友人は一命をとりとめたが、魂が抜けていて、それをなんとかする為にこの幻想郷に来たという説明をした。

 

「魂……ですか」

 

「丁度いいわ。妖夢、白玉楼に戻ったら幽々子に事情を説明して、明日にでも連れてきてくれないかしら?」

 

「いいですけど……来ますかね?幽々子様……」

 

「大丈夫よ、私の頼みですもの。それに幽々子も暇してるだろうからきっと来るわ」

 

「暇してるって……まあ、冥界には咲いてない桜を見る位しか娯楽が無いからな」

 

そう言って扇で口元を隠して笑う紫に苦笑いしながら魔理沙が同調する。

 

「ってなると、後は閻魔の方ね。紫、ちゃちゃっとスキマを通って呼んできなさいよ」

 

「嫌よ。顔見られた瞬間に二時間位説教されそうだもの」

 

「説教されるような事があるのか……」

 

「まあ、紫だしねぇ」

 

萃香が笑ってそう言うが、俺的には紫はあまり説教されるような事はしていない気がするんだが……。

 

「ならどうするのよ?幽々子だけじゃどうにもならない事もあるかもしれないでしょ?」

 

「……それはその時考えるわ……」

 

余程顔を見せたくないのか……。紫がこんなに避けようとするその閻魔様に俺は興味が湧いた。

 

「そんなに会いたくないのか?その閻魔様って……」

 

「そうだな……非常に生真面目なお方なのだが……説教臭くてな、私も出来るだけ会いたくはない」

 

藍はそう言って苦笑いをした。

閻魔様がいる場所は、妖怪にとっては居心地が悪く、彼女が現れるとどんな妖怪も姿を隠すらしい。

だから真っ当な人間にとっては味方のようなものだが、ここにいる者たちからすると、説教臭く非常に面倒くさい相手との事だ。

 

「紫も言ってたけど、本当に説教好きな相手でね。私の時なんか博麗の巫女としての仕事をしっかりしろって説教を三時間位受けたわ……」

 

「私も顕界と冥界の結界に関して説教を受けた事があります……」

 

「あ、うちの神社もありましたよ。説教が終わった後は、私も神奈子様も諏訪子様も足が痺れて、しばらく立てませんでした……」

 

「私もお嬢様と受けた事があります。説教後はお嬢様が泣き出して大変でした」

 

「泣き出す程の説教だったのか……?」

 

霊夢、妖夢、早苗がうんざりしたような顔で呟き、咲夜が淡々と答えた。咲夜以外の者たちは心なしか目に光が無いようにも見えるが……まあ、そこはスルーしよう。

 

「でも閻魔様って魂に関して詳しいんだろ?」

 

「詳しいというか、死んだ者の魂を裁くのが彼女の仕事だからな。幻想郷にいる者たちの中で彼女と幽々子様程、魂に詳しい者はいないだろう」

 

「魂……ねぇ。なんかますます会ってみたいな」

 

「そうですね。是非とも会って、魂について色々聞きたいですね」

 

「あんなのと会いたいなんて、物好きねぇ」

 

紫が呆れたように言うが、それでも俺たちの意見は変わらない。

 

「まあ、そこまで言うなら後で連れてくるわ……。他に何か聞きたい事とか言いたい事はあるかしら?」

 

紫が俺たちを見回しながら問うとーーー

 

 

 

「なら私から一つ、二人を呼びに行く前にいいかい?」

 

小さい少女の姿をした鬼、萃香が声を上げる。

紫がそれに構わないと返事をしたのを聞いた萃香は、俺を正面から見据えて言った。

 

「私からーーー鬼からの挑戦状だ。私とお前で一対一の決闘をしないか?」

 

「なっ!?鬼から決闘の申し込みだと!?」

 

「決闘か……内容は?」

 

驚いた反応を見せる周りや、魔理沙の声を余所に萃香に聞く。

まあ、鬼ならば決闘の内容なんて聞くまでも無いと思っているのだが、一応確認は取っておきたい。すると案の定、予想通りの言葉が返ってきた。

 

「互いの命を賭けた戦いーーーってなると紫とか霊夢がうるさくなるから、普通の勝負をしよう。勝敗は相手にまいったと言わせるか、動けなくなるまで……って感じでどうだい?」

 

「なるほど……だが、俺はあまり強くないぞ?」

 

「構わないよ。私としてはただの暇つぶしだしーーー別の世界の人間の実力を見たいだけだからね」

 

俺を見て、不敵な笑みを浮かべながら酒を煽る萃香に俺は苦笑いする。どうやら彼女には俺が普通の人間と違って戦える人間だという事に気付いていたらしい。それにーーー

 

「そっちの優月……だっけ?お前はそこの辻斬り少女と勝負してみな」

 

「えっ!?わ、私ですか!?」

 

「妖夢さんとですか……」

 

突然話題に出された妖夢はオロオロし、優月は妖夢を見て何かを考えているような表情を浮かべる。

 

「二人とも剣の道に生きる者だろう?ならお互いに戦ってみれば、何か得られるものがあるかもしれないよ?」

 

「……なぜ私が剣士だと?」

 

「剣を扱う者っていうのは皆、独特な雰囲気を纏っているものさ。で、やってみるかい?」

 

ケラケラと笑い、萃香は優月を見据える。しかしその目は笑っておらず、数多の修羅場をくぐり抜けてきただろう戦士の目をしていた。

優月もそれを感じたのか、同じような目をして萃香の目を見つめ返した。

 

「……そうですね。私は構いませんよ。妖夢さんは?」

 

「あ、わ、私も大丈夫ですけど……」

 

「なら決まりだね。いいだろう、紫?」

 

「……大事にならなければ、私は構わないわ」

 

「私もよ」

 

「よし、なら表に出ようか」

 

紫と霊夢がそう言ったのを聞いて、満足そうに頷いた萃香はそう言って立ち上がったのだった。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地に降り積もった雪が、天高く上った太陽によって反射してキラキラと光り輝く昼下がり。

多くの人々が午後からの用事を済ませる為に忙しくあちこちを行き交う中、寺子屋へと向かう道を歩いている一人の少女がくしゃみをする。

 

「くしゅん!う〜……。今日も寒いわね」

 

「冬だもの。当然でしょ」

 

可愛らしいくしゃみをした飴色の髪をした着物の少女は、指で鼻を拭きながらそう呟き、それを聞いていた隣の紫色の髪をした着物の少女が突っ込む。

 

「それにしても、今年は寒過ぎる気がするのよねぇ」

 

飴色の髪を鈴が付いた髪留めでツインテールにしている紅色と薄紅色の市松模様の着物を着た少女ーーー本居小鈴(もとおりこすず)は、空を仰ぐ。

 

「今年は厳冬らしいから、まだ後二、三ヶ月位はこの寒さでしょうね」

 

それに紫色の髪をしている黄色い着物を着ている少女ーーー稗田阿求(ひえだのあきゅう)はそう返した。

 

「……今日も暖かくして寝ないと、風邪引くわね」

 

「あら、小鈴も風邪を引くのね」

 

「……それ遠回しに馬鹿にしてない?」

 

「してないわよ」

 

そう言ってくすくす笑う阿求に小鈴は膨れっ面をして、怒ったように言う。

 

「はいはい、どーせ私は風邪も引かない馬鹿ですよーだ」

 

「そこまで怒らなくてもいいじゃない……。って、ん?」

 

その時、阿求の足が突然止まる。それを不思議に思った小鈴は阿求に問う。

 

「どうしたの?」

 

「……今日は寺子屋で何か行事でもする予定があったかしら?」

 

阿求の視線の先では、寺子屋の前で大勢の里の人間が集まっていて、その事に阿求は首を傾げる。一方の小鈴はその光景を興味深そうに見ていた。

 

「ちょっと行ってみない?あんなに集まってたら、阿求だって気になるでしょ?」

 

「それはそうだけど……人混みは苦手なのよ」

 

そう言って渋る阿求の腕を掴んで小鈴は人混みの元へと歩いていく。

そんな寺子屋の前には、道の中心を丸く取り囲むように多くの人が集まっていた。

 

「何が始まるの?」

「おい、なんだこの人だかりは?」

「さあ?俺も知らない」

「なんかあそこにいる人たちが戦うみたいよ?」

「あれって妖夢さんと霊夢さんよね?そしてもう一人知らない子がいるけど……」

「あっちにはスキマ妖怪とか鬼もいるぞ」

「本当だ……。他にも見知った顔の奴らがいるな……」

「前にも宗教家同士の戦いってあったけど、それの続き?」

 

取り囲んでいる者たちの中には、何が始まるのかと興味本位で様子を見ていたり、たまたま近くを通りかかった所で気になって足を止めたり、何やら面白い事が起こりそうだと思って駆けつけた者もいて、何が起きるのかとそれぞれ憶測を話し合っていた。

そんな人たちをかき分けて円の中心へと辿り着いた小鈴と阿求は疲れたように息をはいた。

 

「はぁ〜……やっと中心に着いた……」

 

「結構な人が集まってるみたいね。新しい異変か何かの兆候かしら?」

 

「お?阿求に小鈴じゃないか」

 

「あら?本当ね」

 

「む?二人とも、何か用事か?」

 

その時、二人の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あ、魔理沙さんとアリスさんに慧音さんーーーって藍様や紫様まで!?」

 

「あら、阿求じゃない。おひさー♪」

 

「ご無沙汰していたな、阿求」

 

紫と藍がいる事に驚く阿求に、小鈴は首を傾げる。

 

「阿求、この人は?」

 

「貴女、幻想郷に住んでいるのにこの方たちを知らないの!?この方は幻想郷の賢者、八雲紫様とその式、八雲藍様よ」

 

「へ〜……。ーーーうえぇぇぇっ!?」

 

納得したように頷いた小鈴は次の瞬間、なんとも奇怪な声を上げて驚く。

まあ、幻想郷の創始者である大妖怪とその御付きの妖獣が目の前にいるのだからその反応も仕方ないのだが。

 

「初めまして。貴女の事は阿求から聞いているわ、本居小鈴ちゃん」

 

「はっ!?え、えっと……ご存知になられていたとは、あ、ありがたき幸せ……です」

 

「緊張し過ぎじゃないかしら……」

 

「そこまで緊張しなくてもいいわよ。別に取って食いはしないんだから」

 

変な日本語で返す小鈴にアリスは呆れ、紫は扇で口元を隠しながら笑い、藍は苦笑いをした。

そんな小鈴の様子を尻目に阿求は問う。

 

「それより、妹紅さんを探している筈の貴女がなぜこの人里にいるんです?」

 

「呼んだ?」

 

その時、阿求と小鈴の背後からヒョイっと妹紅が顔を出した。

 

「わっ!?妹紅さん!?」

 

「久しぶりだね、阿求。そして小鈴ちゃんは……初めましてか」

 

「あ、はい……」

 

あまりにも突然の事だった為に、小鈴は掴み所の無い返事を返す。

 

「妹紅に関しては昨日見つかったから問題無いのよ。でもって私がここにいる理由はあそこにいる人たちの案内よ」

 

そう言って紫が少し離れた場所に視線を向ける。その先には頭から二本の角を生やした鬼、紅魔館のメイド、守谷の巫女、そして一人の青年と二人の幼い少女の姿があった。おそらく最後の方の三人が紫の言う案内している人たちだろう。

さらにもう一つ、阿求には気になる事があった。それはーーー

 

「……なぜ白蓮さんまでいらっしゃるんですか?」

 

そう言う阿求の視線の先には、金髪に紫のグラデーションが入ったロングウェーブヘアで、白黒のゴスロリ風のドレスを纏った女性が、件の青年と話をしている姿があった。

彼女は聖白蓮(ひじりびゃくれん)。人間の里近くに命蓮寺(みょうれんじ)というお寺を開いている僧侶である。そんな彼女がなぜここにいるのかというとーーー

 

「なんでも(しょう)がまた宝塔を無くしたようでな」

 

「またですか」

 

ちなみに星とは命蓮寺に住まう虎の妖獣である。毘沙門天の代理として名を馳せているが、よく宝塔を落とすというドジっ虎の欠点がある。

 

「まあ、それはあの寺のナズーリン(鼠の妖怪)が見つけ出したらしいから、特に大事にはならなかったようだが」

 

「あ、見つかったんですか」

 

「ああ。白蓮はちょうどその連絡を受けた時にこの人里にいて、今しがたこの騒ぎを聞きつけてやってきたってわけだ。つまり周りの野次馬と似たような理由でここにいるって事だな」

 

そう言って魔理沙は、何やら時々笑顔を浮かべながら話している白蓮を見る。

 

「何を話してるんでしょう?」

 

「さあな。影月は別の世界の人間だから、それ関係の話でもしてるんじゃないのか?」

 

「「別の世界の人間!!?」」

 

その時、魔理沙の口からさらっと出た驚愕の事実に阿求と小鈴が大声を上げた。無論、周りの人たちは何があったと阿求たちに視線を向けるが、彼女たちはそんな視線など気にならない程に驚いていた。

 

「ああ、紫曰くな」

 

「彼とあそこの少女二人ーーーそして妖夢と対峙している彼女は、この幻想郷の外の世界の人ではなく、全く別の世界の人たちよ」

 

その言葉に驚いた阿求と小鈴は紫の指す方へと視線を向ける。

そこには見覚えのある少女が二人と、見覚えの無い一人の少女が立っていた。

 

「それじゃあ、まずはあんたたちからね。ルールは萃香の言った通り、剣術も体術も弾幕も何でもありの真剣勝負。でも出来る限り大怪我しないようにね。敗北条件は相手が降参するか戦闘不能になるまで。一応、私と紫で周りに被害が出ないように簡易的な結界は張っておくわ。何か聞く事は?」

 

一人は博麗霊夢。彼女は他の二人の少女の間で、これから始まる勝負のルールを改めて確認している。それに答えるのはーーー

 

「ありません」

 

白玉楼の半人半霊の庭師、魂魄妖夢とーーー

 

「私もありません」

 

別の世界から来たという人間、如月優月だ。

二人の少女は霊夢にそう返事を返すと、妖夢は楼観剣(ろうかんけん)を構えた。

そして優月はーーー

 

 

「形成

Yetzirah―」

 

 

本来の《焔牙(ブレイズ)》の力を解放する言葉を静かに紡ぐ。

その言葉と共に右手には光が収束し、そこから彼女専用の武器である一つの剣が現れる。

 

「へぇ……」

 

「おぉ……」

 

「何ですか!?あれ!?」

 

「ーーーーーー」

 

「あれが《焔牙(ブレイズ)》……」

 

それを見た霊夢や魔理沙などは目を見開いて驚いたり、興味深そうに目を細めている。阿求は聞いた事も無い詠唱により現れたその武器にとても驚き、小鈴は呆気にとられる。そして紫は昨日知り合った()()である朔夜の言っていた自らの魂を用いるという武器を目の当たりにして、そう呟いた。

 

 

「雷炎の剣

Thunder flame Schwert」

 

 

焔牙(ブレイズ)》に秘められた真名を優月が告げた瞬間、聖剣からは圧倒的とも言えるーーーしかしそれでいてどこか優しさに満ち溢れた威圧感が発せられ、彼女たちや周りの人々にのしかかる。

 

『っ!?』

 

「っ……!かなりの威圧ね……」

 

「これは……本気を出した神奈子様よりもすごいかもしれませんね……」

 

「あの子……ここまで神々しい力を放つなんて……」

 

周りの人々のほとんどがその強大な威圧に息を飲み、咲夜や早苗、白蓮がそう言う中、萃香が呟く。

 

「予想以上の力だねぇ……これじゃあ、あの辻斬り少女は勝てないかな?」

 

そんな誰に言うわけでも無い呟きは、周りの喧騒の中に消える。

 

「……じゃあ、始めるわ。ーーー決闘準備」

 

そして強大な威圧を間近に受け、驚愕の表情を浮かべていた霊夢は改めて表情を引き締めて言う。

それに先ほどの威圧感に圧されて少し呆然としていた妖夢は楼観剣を構え直し、妖夢を見据えていた優月もその手に持った得物を構えた。

 

「ーーー開始!」

 

霊夢がそう言い放って巻き込まれないように即座に離れた瞬間、妖夢が十メートル程の距離を一歩で詰める。

その速さは常人ならばすぐさま見失い、気付く事も無く真っ二つに両断されるだろう。事実、今この場にいる観衆たちは実際に妖夢の姿を見失っていた。

だがーーー

 

「ーーー中々速いですね」

 

『っ!?』

 

妖夢の動きをしっかりと()で見ていた優月は自分の武器で振り下ろされた楼観剣を受け止めていた。それを見た観衆は驚きの声を上げる。

 

「…………」

 

しかし受け止められる事は予想していたのか、妖夢は冷静に剣を振るい始める。

唐竹割り、袈裟斬り、横一文字斬り、逆袈裟、突きーーー妖夢は剣術の基本となるそれらの攻撃を、フェイントなどを駆使して繰り出していく。

妖夢の剣戟を見た観衆たちは揃って歓声を上げる。偶然とはいえ、随分久しぶりに見た人外の決闘なのだからその歓声も当然と言えるだろう。

しかしその歓声は妖夢のその達人級の太刀筋に対してのものだけでは無かった。

 

「いい太刀筋ですね。よく鍛錬しているって分かりますよ」

 

そう感想を述べながら攻撃を受け止めたり、かわしたりしている優月の動きにも釘付けとなった群衆たちはさらにより一層湧き上がる。

 

「……あれが白玉楼の剣士の実力ですか……」

 

「そういえばお前さんは、あの辻斬り少女の戦いを見た事が無いんだっけねぇ。どうだい?初めて見た感想は?」

 

「……私が封印された時代でも、あれ程の腕を持った剣士はあまり見かけませんでしたね。でも……」

 

「すごいわね。優月、全部捌いてるわ」

 

咲夜の言う通り、優月は今も尚一撃たりとも攻撃をその身に受けていなかった。それは瞠目する事であり、感心に値するものであるのだがーーー

 

「っ……!」

 

このままでは埒が明かないと判断したのか、妖夢は大きく後ろへ飛び下がって宙に浮く。

そして振るう刀の剣閃から弾丸を生み出し、それを優月に飛ばしてきた。

その数はまさしく面とも言えるレベルの弾幕で、かわせる隙間はほんの僅かしか見当たらない。しかしその状況を前に優月はーーーニコリと笑って謳い出した。

 

「Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba

かれその神避りたまひし伊耶那美は」

 

優月の口から詠唱(いのり)が紡がれる。それと同時に彼女の体から炎が現れて揺らめき始める。

 

「an der Grenze zu den Landern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.

出雲の国と伯伎の国、その堺なる比婆の山に葬めまつりき」

 

その詠唱(いのり)は「情熱を永遠に燃やし続けていたい」と願った女性の渇望を表したもの。

 

「Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,

ここに伊耶那岐」

 

優月はメルクリウスによって、自らの魂に融合している彼女の魂の残滓を無意識に発動する。

 

「das er mit sich fuhrte und die Lange von zehn nebeneinander gelegten

御佩せる十拳剣を抜きて」

 

「Fausten besas, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.

その子迦具土の頚を斬りたまひき」

 

周りの者たちがそんな優月の様子に見惚れている間に、詠唱は終わりを迎える。

 

「Briah―

創造」

 

発現するのは、自らの肉体の炎化。

 

「Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.

爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」

 

 

詠唱を終えた瞬間ーーー優月は迫る弾幕に自ら突っ込んでいく。

 

「っ!?」

 

自ら死地へと飛び込んでくる事は予想していなかったのか、弾幕を飛ばしていた妖夢は驚いて息を飲む。そしてその後に続いた光景を目にして、彼女はさらに瞠目した。

 

「私は炎ーーー斬る事も、穿つ事も、弾に当たる事も無いーーー」

 

弾幕も、斬撃も、妖夢の攻撃全てが優月の体をすり抜けていくその光景にーーー周りで戦いを見ていた者たちも瞠目し、ざわめく。

 

「グレイズーーーってレベルじゃないわね」

 

「ああ、あれは完全に透過しているな。幻想郷でも似たような技を持ってる奴もいるが……あそこまで簡単にどんどん透過していく奴は初めて見たぜ」

 

「格好いい……!」

 

アリスと魔理沙が冷静に評価する中、阿求は優月の動きと能力に唖然とし、小鈴は目をキラキラと輝かせながらその光景を目に焼き付けていた。

そして全ての攻撃をすり抜けた優月は未だ呆然としている妖夢に剣を突き立てようとしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら〜?やられちゃうわよ?妖夢」

 

「ーーーっ」

 

「っ!?」

 

突然聞こえてきた第三者の声に対して、優月は大きく後ろへと飛び下がって声のする方へと顔を向けた。

一方の妖夢も、その聞き覚えのあるーーーというより毎日聞いているその声に驚きを隠せないままに顔を向けた。

周りの観衆たちも突然聞こえてきた声に対して、騒ぐのをやめてそこへと視線を向けた。

そんな多くの者たちの視線が集まっていた先にはーーー

 

「昼を過ぎても帰ってこないからこうして来てみれば、決闘してたのねぇ」

 

青い着物を纏い、特徴的な模様の書かれた三角巾を青いモブキャップを被る桃色の髪をした女性が、扇で口元を隠すようにしてフワフワと浮きながらこちらへとやってきていた。

 

「ゆ、幽々子様!?なぜここに……!?」

 

「さっき言ったじゃない。いつまで経ってもお昼ご飯作りに戻ってきてくれないから様子を見に来たのよ」

 

そう言ってくすくす笑う幽々子に妖夢に対するお昼ご飯を作らなかった怒りの感情は感じられない。

それよりも、今この状況の方が心底興味があるとでも言いたいような雰囲気を纏っていた。

 

「……幽々子、いつの間に私と霊夢の結界をすり抜けたのかしら?」

 

「霊夢さん、彼女は……?」

 

西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)。あんたたちが会いたがってた白玉楼の亡霊よ」

 

美亜の問いかけにそう答えた霊夢の言葉によって、影月、美亜、香は少なからず驚く。

まあ、探していた人物が向こうからこのような形で現れたのだから、その反応も無理は無いだろう。

そして少なからず彼女が現れた事に驚いたのは、周りの者たちも同じだった。

そんな空気など微塵も感じていない幽々子は、優月に視線を向けた。

 

「それにしても、貴女ーーー中々奇妙な魂ね。私は西行寺幽々子。貴女は?」

 

「……貴女が紫さんの言っていた幽々子さんですか……。初めまして、如月優月と申します」

 

優月は友人を救える手段を持つ彼女の機嫌を損なわないように、丁寧に挨拶をする。

それに幽々子はくすくすと笑い、扇を仰ぐ。

 

「そこまで畏まらなくていいわ。気軽に幽々子って呼んでちょうだい。それよりもーーー貴女の中にあるもう一つの魂、見せてくれないかしら?」

 

瞬間、幽々子の周りに無数の桃色の蝶が現れ始めーーー刹那の間も待たずに、優月へと襲いかかった。

 

「ーーーっ!?」

 

完全に不意を突かれた優月は驚き、その場で立ち尽くしてしまった。

そしてーーー無数の桃色の蝶と、その後ろから幽々子が撃ち出していた色とりどりの弾幕が優月に着弾し、雪が舞い上がる。

雪が宙を舞い、優月の姿を覆い隠す光景に幻想郷の実力者たちの顔がどんどん青ざめていく。

その中で最も青ざめた顔をしていたのは紫だった。

 

「っ!何してるのよ!幽々子!!」

 

紫が幽々子に怒る理由ーーーそれは幽々子が先ほど撃ち出した弾が弾幕ごっこ用の威力の低い弾では無かったからだ。つまりーーー

 

「……幽々子の奴、優月を()()()()()()……!」

 

「そ、そんな……!」

 

「こ、殺した……?」

 

魔理沙の怒りを含んだ言葉に、ようやく事を理解した阿求と小鈴も顔を青ざめさせる。

それを聞いていた周りの観衆たちも揃って状況を理解し、顔を青ざめさせて立ち尽くす。

人は予想外の出来事があると、よく動きや思考が止まってしまうという。今この場にいる者たちはそれを体現していた。

そんな中、先ほど怒鳴った紫と怒気を浮かべている霊夢と魔理沙、そして優月を救助しようと思い立った白蓮が呆然と立ち尽くしている妖夢と、立ち昇る雪煙を黙って見つめている幽々子の元へ駆け出そうとしたがーーー

 

「待て」

「待つんだ」

 

そんな四人の前に立ちはだかったのは、他でも無い優月の兄の影月とこの決闘をしようと言った萃香だった。

その行動に対して苛立ちを感じた霊夢は、影月と萃香を睨みながら言う。

 

「ーーー邪魔よ。もう決闘どころの騒ぎじゃなくなったわ。そこをどいて」

 

「そうだぜ!早くしないと優月が……!」

 

「そうです。もし優月さんが生きているなら……早く助けないと亡くなってしまうかもしれないんですよ?」

 

白蓮のその悲しげな声には、様々な思いが含まれていた。

ーーー白蓮にはかつて伝説の僧侶と呼ばれた弟がいた。その弟は若くして亡くなり、姉である白蓮の心に深い傷を付けた。

大切な者が目の前で死ぬーーーそんな悲しみを彼には味わってほしくない。

その思いで白蓮は影月を見るが、彼は何も言わない。

一方の萃香も無言のまま、雪煙を見つめていた。

 

「ーーー影月、幽々子の方は私と霊夢に任せて。あんな事した理由を絶対に聞き出して謝らせるわ。萃香は私たちと幽々子を、貴方は魔理沙、白蓮と一緒に優月をーーー」

 

「だからーーー」

 

紫の言葉に、影月はため息をはきながら言った。

 

「待てって言ってるだろ。まだーーー決闘は終わってないんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、雷が落ちたような轟音と衝撃が結界内から響いてきた。

 

『なっ!!?』

 

予想だにしなかったその音と衝撃に、紫たちは揃って驚きの声を上げる。

それに対して影月はニッと笑って言った。

 

「だから言っただろ。まだ終わってないんだよ。それに優月や俺もあの程度の攻撃で死んだりはしない。ーーー俺たちも人外だからな」

 

「やっぱりねぇ。私の目に狂いは無かったよ、君たちもただの人間じゃない。正真正銘のーーー強者だ」

 

そして結界内で舞っていた雪煙が晴れる。そこにはーーー

 

 

「雷速剣舞 戦姫変生

Donner Totentanz―Walkure」

 

 

全身に傷を負って腹部から多くの血を流していながらも、その碧眼に強い意志を宿した優月の姿があった。

剣が、身体が、魂が、戦神の稲妻へと変生した彼女の姿を見た幽々子はニコリと笑う。

 

「なるほど、それが貴女に混ざっているもう一つの魂の姿ね」

 

幽々子がそう言った瞬間ーーーまさしく迅雷一閃と言えるべき速さの攻撃が放たれる。

 

 

「ーーー速いわねぇ」

 

しかしその一閃は幽々子が後ろに若干身を引いた事によって空を切る。そのまま幽々子は扇を振りかざして、弾幕を撃ち出しながら後退する。

 

「妖夢、今度こそ彼女を倒してみなさい」

 

「っ!はい!!」

 

主人の言葉にようやくフリーズしていた思考が動き始めたのか、妖夢は長刀の楼観剣ともう一つの短刀ーーー白楼剣(はくろうけん)を構えて宣言する。

 

「六道剣『一念無量劫』」

 

そう宣言した妖夢は自分の周りに八芒星の形をした斬撃を繰り出しながら、弾幕を放ち始めた。

その弾幕の数と密度はもはやスペルカードを宣言して行う弾幕ごっこよりも凄まじい。

しかしその激しい攻撃は雷速となった優月の前では意味をなさなかった。

 

「っ!?速い!!」

 

妖夢の放つ斬撃と弾幕を優月はその速度や透過を使って回避していく。

その速度は歴戦の強者足る妖夢ですら、目で追えない程の速さである。

 

「はぁっ!」

 

目にも留まらぬ速さを駆使し、ほぼ一瞬で妖夢の目の前へと到達した優月は、非殺傷の聖剣を振るう。

その斬撃を受けた妖夢は魂に大きなダメージを負い、その場に崩れ落ちて気絶する。

 

「妖夢さん!!」

 

「大丈夫、気絶しただけだよ」

 

悲鳴のような声を上げる阿求に対して、妹紅が宥めるように言う。

そんな妹紅の隣で今までの戦いを見ていた慧音が呟く。

 

「……あれ程の怪我をしているのにあの速さとは……」

 

「鴉天狗といい勝負をしそうね……」

 

「……いや、もしかしたら(あや)より速いかもしれないぜ」

 

アリスと魔理沙がそう呟く中、少し離れた所で様子を見ていた霊夢たちもまた呟いていた。

 

「……優月、本当に怪我をしてるの?完全に動きが見えないわ……。もしかしたらオカルト使ってた時のあんたより速いんじゃない?」

 

「そうですね……。もし私があの時のオカルトを使っても彼女には絶対に追いつけないでしょう」

 

「確か白蓮さんのオカルトって『首なしライダー』でしたっけ?」

 

「ええ、だから幻想郷では珍しいバイクに乗ってたんですけど……」

 

「貴女より優月の方がおそらく速いわね」

 

霊夢や早苗、白蓮に咲夜がそう話している横で、紫と藍は何やら思案顔を作っていた。

 

「……紫様、あの姿になってからの彼女の姿と太刀筋ーーー見えました?」

 

「……全くよ。藍は?」

 

「私も見えませんでした……。もし私が妖夢の立場だったとしたら、彼女と同じ結末になっていたと思います」

 

妖怪の賢者と九尾の狐、名のある二人の人外の目をもってしても見えないその速度は驚愕に値する。しかしーーー

 

「……そうなると一つ気になる事が出てきます」

 

「なぜ、幽々子が初撃を回避出来たのか……ね?」

 

常人である阿求や小鈴などはもちろん視認出来ず、数多の異変を解決してきた歴戦の強者である妖夢や咲夜、早苗や魔理沙も視認出来ない。さらに名のある人外である紫と藍も視認出来ずに、博麗の巫女である霊夢も視認出来ていないようだった。

ならばなぜ、誰にも補足出来ない程の速さを持った攻撃を幽々子は回避出来たのか?

 

「……幽々子さん、なぜこんなに私の攻撃を回避出来るんですか?」

 

優月は幽々子に向かってそう言いながら、雷速の速さで連続した斬撃を放つ。

その斬撃全てを紙一重でかわす幽々子は苦笑いを浮かべた。

 

「何も特別な事はしてないわ。ただ私の能力をちょっと使ってるだけよ」

 

幽々子の能力は『死を操る程度の能力』。それは文字通り、死の無い蓬莱人以外の生きとし生ける者たちを問答無用で葬れる能力である。さらに彼女は幽霊、霊体となった存在も操る事が出来るという能力もあるのだ。

 

「ーーーそんな、まさか……ありえないわ」

 

幽霊、霊体とは即ち生物が『魂』となった状態である。それを幽々子は操れるとなると、必然的に彼女は魂を見る、あるいは感知する事が出来るという風にも言い換えられる。

つまり幽々子はーーー

 

「高速で動く優月の魂を補足して、回避してるのか……!?」

 

能力を使っての位置補足と千年以上亡霊として存在してきた経験を活かして、彼女は優月の速度と互角に渡り合っていたのだ。

 

「と言っても、私にだって予測の限界はあるわ。現に今だってーーー」

 

瞬間、幽々子の左腕に斬撃が命中する。

 

「うっ……。かなりギリギリなのよ」

 

今の優月の攻撃は、相手の体に傷を負わせない代わりに魂がダメージを受けるようになっている。

亡霊というある意味、魂そのままの存在である幽々子は自らの左腕に走った初めて感じる奇妙な痛みに、顔を僅かに歪める。

 

「でも、ここまで私の攻撃をかわせた人は本当に数える程しかいませんよ」

 

「あら、やっぱり?ちなみに私は貴女の攻撃をかわせた何人目の亡霊なのかしら?」

 

「……亡霊って括りなら、貴女が最初ですね。生きてる人も含めたら……四人目位ですかね」

 

優月は幽々子の緊張感の無い問い掛けに苦笑いしながら答える。

ちなみに今の優月の攻撃をかわせる他の三人は、ザミエル、影月、安心院である。

 

「亡霊って括りなら私が初めてなのね。嬉しいわぁ♪」

 

「……今日の幽々子、なんか活き活きしてるわね」

 

「……最近どこにも出かけてなかったからじゃないですか?以前妖夢が三ヶ月位、白玉楼にこもっていたと言ってましたから……」

 

「……ニートだったのね」

 

「ニートだったんですか……」

 

「ニートなのか……」

 

「ニートだったのか」

 

「ニートだったんですねぇ」

 

「ニートねぇ」

 

『ニート?』

 

藍の言葉に美亜、香、影月、妹紅、早苗、紫と外の世界に詳しい(あるいは詳しくなった)者たちは幽々子を見てそう言い、霊夢など他の者たちは首を傾げた。

 

「さて、それじゃあそろそろ決着をつけましょうか」

 

そんなやり取りなど露知らない幽々子は扇を掲げて告げる。

 

「亡舞『生者必滅の理 -魔境-』」

 

そう告げた瞬間、幽々子の背後に御所車(ごしょぐるま)の書かれた巨大な扇が現れる。

 

「さあ、私の本気の弾幕ーーー受けてみなさい」

 

そして幽々子が扇を優月に向けた瞬間、かわす隙間も無い高密度の弾幕と無数の桃色の蝶が優月へと襲いかかる。

 

「生憎とーーーもう一発も当たるつもりはありません!」

 

相対する優月もそう叫び、決着をつけるべく弾幕の中へと飛び込んでいく。

 

「ーーー綺麗」

 

そんな二人の決闘を見ている美亜が思わずそう呟く。

幽々子がばら撒く殺人的な量の弾幕を、青い閃光と化して疾風迅雷の速さでかわしていく優月。二人は本気の決闘をしているが、周りの者からすれば彼女たちの戦いは実に魅せられるものであった。

しかし終わりは唐突に訪れた。

 

「っ!!」

 

幽々子が突然、少しだけ顔を歪めて弾幕の密度を緩めてしまったのだ。

原因は先ほどの優月の左腕の攻撃で傷付いた魂の疲弊であった。

そのほんの僅かな隙。それを見逃がす優月では無かった。

 

 

 

「……チェックメイトです」

 

「…………」

 

その僅かな隙をついた優月は一気に幽々子へと接近して、その首筋に聖剣を突き立てていた。

少しでも動けば首を攻撃され、一瞬で意識が刈り取られるだろう事を悟った幽々子は小さく息をはいて言った。

 

「……降参よ、まいったわ」

 

幽々子がそう言ったのを聞いた優月は聖剣を幽々子の首から離した。

その時、勝負が終わった事を確認した影月たちが一斉に駆け寄ってくる。

 

「優月、無事!?早くその怪我を治療しないと……!」

 

「慧音!寺子屋から応急セットを!」

 

「ああ、今すぐ持ってーーー」

 

「待ってください、慧音さん。それに霊夢さんに魔理沙さんも大丈夫ですよ。もうほぼ治ってますから……」

 

「え?」

 

そう言って優月が服を少しめくって、腹部の傷を見せる。

そこは血で赤く濡れてはいるものの、傷痕はほとんどふさがっていた。血の後が無いと、怪我をしたとは到底分からないだろう。

 

「傷が無い……!?」

 

「これだけの血を出したのに、もう治っているのか……」

 

「だから言っただろう?俺たちも人外なんだ。あれぐらいなら数分で治る」

 

影月が苦笑いしながら言った言葉に、皆が言葉を失う中ーーー

 

「で、説明してくれるわよね?幽々子」

 

少し離れた場所で幽々子を睨みつけながら言う紫の声で、皆の視線がそちらに向く。

 

「説明って何の説明かしら?」

 

「とぼけないでちょうだい。いきなり現れたのは別に構わないわ。でもその後、すぐに彼女に攻撃した理由を説明してちょうだいって言ってるのよ」

 

「ああ、それについてね」

 

紫の発言に意味が分かったと頷いた幽々子は、人懐っこい笑みを浮かべながら言う。

 

「ただ彼女の中にある特異な二つの魂の力を見たかっただけよ。その為にちょっと手荒な事をしたけれど……。そうじゃないと見れなさそうだったし、その甲斐はあったわ」

 

「力……優月が纏ってた炎と雷の事か?」

 

魔理沙の問いかけに幽々子は頷く。それに怒ったように白蓮が噛み付く。

 

「だからって……いきなり攻撃する必要はないでしょう?本当にそれで優月さんが命を落としたらーーー」

 

「いいえ」

 

そこで幽々子が白蓮の言葉を遮って言う。

 

「そこの蓬莱人の側にいる子は違うけれど……他の三人は本当に死なないわ。多分私の能力を使ったとしても、効果はそれ程無いと思うし」

 

「幽々子の能力の効果が無い?」

 

「どういう事よ、幽々子?」

 

それはつまり影月、優月、美亜は蓬莱人と同じかそれ以上の存在と言える。

 

「そっちの子ーーー」

 

「あ、美亜といいます」

 

「美亜ちゃんね。彼女はただ彼女の魂に不死の魔術が掛けられてるってだけなんだけど……。優月ちゃんとーーー」

 

「影月だ。如月影月」

 

「あら、なら二人は兄妹なのね。まあ、それはともかく貴方たち二人には、私の能力程度なら弾く強力な魔術みたいなのが掛けられてるわ。貴方たち、心当たりは?」

 

「……ああ、ある」

 

魔術のようなものーーーそれはあの水銀の蛇が仕組んだあれ以外に無いだろう。

 

「まあ、それは後で話しましょう。それより今はーーー」

 

『今は?』

 

「お腹が空いたから何か食べたいのよねぇ」

 

大きなお腹の音を鳴らしながら、今までの空気をぶち壊す事を言った幽々子に周りに集まっていた者たちは揃ってずっこけそうになった。

 

「ちょうどいいわ。妖夢〜、ちょっとお団子でも買ってきてくれないかしら〜?」

 

そして今度は気絶している妖夢を揺すり始めた幽々子を見て、ある者は呆然とし、ある者はため息をはき、ある者は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

こうして優月と妖夢の決闘は、優月の勝利。

さらに乱入してきた幽々子も優月が倒したという結果に終わったのだった。




拡大解釈したのは幽々子様の能力に関するところです。公式では魂を補足出来る等は書いてありませんが、魂を操れるならって気持ちで書きました。
どこか文章などでおかしいところがありましたら、ご報告ください。

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

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