アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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ふっ……待たせたな!
久しぶりの更新です。めっさ遅れました(苦笑)まあ、仕事とかが大変だったので……許してください!
今回は前話の後日談です!どうぞ!



第五十話

side no

 

影月たちが《獣魔(ヴィルゾア)》を倒し、後始末を開始したのと同時刻ーーー昊陵学園敷地内の庭園にて、夜の茶会を(たしな)む者たちが居た。

 

「……無事、制圧完了との事ですわ」

 

操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》ーーー九十九朔夜は、付き人兼護衛が耳元で囁いた言葉を、茶会を楽しむ人物たちへと隠す事なく伝える。

 

「此の度は多大なご協力に感謝しますわ。けれどーーー」

 

紅茶で喉を潤し、黒衣の少女は問う。

 

「メルクリウス様はともかくとして、貴方は《666(ザ・ビースト)》の支配階級ーーー《圜冥主(コキュートス)》の《第一圜(カイナ)》であられるのでしょう?本当によろしかったので?」

 

狂売会(オークション)》が開催されるという情報を(しら)せ、招待状やホテル内の図面等を用意した本当の協力者は目の前にいる二人の男だからだ。

 

構わぬよ(ノンノン)。こちらにも色々と事情があるのでね」

 

「私も構わぬよ。かの《異能(イレギュラー)》の少年にも良き体験が出来たようだからね」

 

協力者である男の名はメルクリウスとクロヴィス。

クロヴィスは《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》として、《七曜(レイン)》に名を連ねる軍服の青年だ。

なぜこの二人が朔夜と共に茶会を嗜んでいるのかーーーそれはかつて《七芒夜会(レイン・カンファレンス)》が行われた際、《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》を終えた後に朔夜はクロヴィスとメルクリウスにお茶会の誘いをしていたからだ。

無論その誘いが、文字通り「皆で楽しみましょう」的なものでは無いという事はクロヴィスもメルクリウスも分かっている。その上で二人は了承した。

そして後日開かれた席で朔夜とクロヴィスの利害が一致し、そこから今回の《狂売会》を舞台にした戦いが引き起こされたのである(メルクリウスはそれに多少手を貸しただけ)。

クロヴィスはカップを口元に運び、口角を上げる。

 

「ふむ、いい香りだ」

 

「こちらからの頂き物ですけれど」

 

「私が用意したものではないがね。貰い物だよ」

 

朔夜はメルクリウスを見ながらそう返答すると、クロヴィスはメルクリウスと話し始めた。

 

(……この方はどういった意図で自らの組織に打撃を与えたのでしょうね)

 

魔女(デアボリカ)》と呼ばれし少女は目の前で魔術師(メルクリウス)と話す青年について思案する。

結社《666(ザ・ビースト)》の支配階級ーーー

非合法組織ゴグマゴグの元幹部ーーー

そして《七曜(レイン)》ーーー《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)

朔夜が知るだけでも、この青年は三つの顔を持つ。

最もゴグマゴグは組織本部が襲撃を受け、消滅している為“元”と付いているが。

青年が如何なる理由で自分の呼び掛けに応えたのかーーー答えは青年の内にのみ在り、黒衣の少女に知る術は無い。

 

(影月なら彼の過去を見てもらってそこから予測出来ますけれど……別に放っておいても大した問題にはならないでしょう)

 

カチャリと小さく音を立ててカップを置き、朔夜はにこりと笑みを浮かべて言う。

 

「ではーーー今後についてのお話をするとしましょう。メルクリウス様、《颶煉の裁者》様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 妹紅

 

 

「妹紅さん、A定食ください!」

「B定食くれませんか?」

 

「はいはい。順番に作るからAかBを選んだ人はそこに並んで、ビュッフェを選んだ人は詰まっちゃうからさっさと行ってくれよ。ちなみに今月のフェアはパスタだ」

 

私はカウンターの向こう側にいる少年少女たちにそう言うと、焼き上がった肉と魚を皿に乗せてトレイに置き、次の肉と魚を焼き始める。

 

「こんにちは!妹紅さん!」

 

「ん、こんにちは。君たちは相変わらず元気だねぇ」

 

「ふわぁ……妹紅さん、こんにちは」

 

「こんにちは。君は眠そうだな。今日の授業中寝てしまったりしたんじゃないかい?」

 

「あ〜……確かに今日の英語の授業は思いっきり寝ましたね……」

 

「英語かぁ……まあ、私もチラッと見たけどあれは寝ちゃうよねぇ」

 

「ですよね〜」

 

焼いている間に話しかけてくる少年少女たちと軽く会話をしながら、私はチラッと視線をある人物へと向けた。その視線の先にはーーー

 

「香ちゃん、まだ〜?」

「はい!B定食お待ちどおさまです!次の人は少し待ってくださいね!」

 

着物の上に割烹着を着た香ちゃんが満面の笑みで、B定食を頼んだ少女へと差し出していた。

 

 

私と香ちゃんは今、昊陵学園という場所の食堂の厨房に立っていた。

なぜ私たちがここにいるのかーーーそれは今から二十日以上前にまで遡るーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、藤原妹紅さん……で、合ってるよな?」

 

「ん?そうだよ。何か用かい?少年」

 

妖怪のような奴を倒した私は、千年以上前の知り合いである香ちゃんと色々と今までの事とかを話していたのだが、突然一人の少年が話しかけてきた。

 

「俺は如月影月って言うんだ。さっきは助太刀ありがとうな?あんたも居てくれたから、さっきの奴も少しは楽に倒せたよ」

 

「お礼なんていらないよ。私がしたいからしただけだからね」

 

私はこっちの世界に来てから、戦闘などが出来なかったので鬱憤が溜まっていた。出来なかったと言っても、ここ数日は熊を相手に戦ったりしていたのだがやはり歯ごたえが無い。やはり本格的に殺り合うなら幻想郷にいる輝夜が丁度いいのだ。

と言っても、数週間前に一人歯応えのありそうな少年と出会ったんだけどね。

 

「そうか。それで一つ聞きたいんだが……」

 

「何?」

 

「これから藤原さんはどうするつもりなんだ?」

 

「妹紅でいいよ。これからどうするか、か……う〜ん……」

 

それは私が前々から考えていた事だった。

幻想郷からこの世界に飛ばされて早数週間、そろそろ山の中をうろうろしているのも意味がないように思えてきた。幻想郷に帰る方法も全く分からないし……。

かと言って人が多くて情報が集まりやすい街に住むというのも難しい。お金も土地勘も無いし……。

 

「……決まってないなら、俺たちから一つ提案していいか?」

 

「何?」

 

「そこの子と一緒にうちの学園に来るのはどうだ?」

 

影月くんは香ちゃんを指してそう言った。

 

「えっ……どうしてですか?」

 

「君ら二人共に対して色々話を聞きたいんだ。どっちも普通の人ってわけじゃないみたいだし」

 

普通じゃないって……まあ、私は老いる事も死ぬ事も無い“ただ”の人間なんだけどね。

香ちゃんも……普通の人間の筈だ。ーーー千年以上前に死んでいただろう事を除けば。

 

「はははっ、争いが収まって一安心って所だな」

 

そこに唐突に聞いた事の無い第三者の笑い声が響き渡った。

 

「ユーゴ!」

 

金髪の美少女に膝枕されている少年が声を上げ、視線を向けた先には屋上に通じる扉に背を預けて笑う白いマフラーの男がいた。

 

「っ……」

 

その男を見た途端、香ちゃんは私の後ろに隠れてその男を睨んだ。

 

「こっちのカタがついたから様子を見に来たんだが、どうやら心配する必要は無かったようだな。だからそこまで警戒しなくてもいいぜ」

 

「見てたなら声を掛けてくれっての……」

 

「自分には全く関係無い女の争いに、割り込むバカがいると思うか?」

 

……ごもっともだ。まあ、輝夜との殺し合いの最中に割り込んでくる氷の妖精とかはいるけどね。

無論、割り込まれた所で私たちは気にしないし、瞬殺するんだけど。

 

「そっちの首尾は?」

 

「ハズレだ。せめて《第四圜(ジュデッカ)》は潰しときたかったんだが、《獣魔(ヴィルゾア)》に足止め喰らってな。……ったく、ぞろぞろと何匹も出て来やがって」

 

「ぞろぞろ何匹もって……一体どれくらいの数を相手にしたんだ……!?」

 

「数えちゃいなかったが、十は下らなかった筈だ」

 

……へぇ、さっきの化け物が十匹以上か……。

 

「あ、あの……妹紅さん、どうしましたか……?」

 

「ん?ああ……あんなのが十匹以上居たなら、殺り甲斐あるだろうなって思っただけさ」

 

香ちゃんが少し怯えたような顔をしているのを見て、私は苦笑いしながら返事した。私はどうやら無意識の内に好戦的な笑みを浮かべていたらしい。

 

「さて、と……。お前らの無事も確認出来た事だし、俺は先にあがらせてもらうぜ。今回は手を組みはしたが、こっちのお偉いさんにもそっちのお仲間にも秘密裏に動いてっから、見つかって面倒な事になる前に、な」

 

「それは私も同じだな。貴様らとこれ以上共にいると面倒な事になりかねん。護陵衛士(エトナルク)には私が居る事を知らんだろうしな」

 

ユーゴと呼ばれた少年と、赤髪の女性は踵を返すと、視線だけをこちらに向けて言う。

 

「じゃあな。お前らが今後も《666(ザ・ビースト)》に関わるってんなら、またどこかで会うかもな」

 

「私とはこれから先、今回のように共闘するという事はおそらく無いだろう。故に、次に私と相まみえた時はお互い敵同士かもしれん。もしそうなったらーーー覚悟しておくんだな」

 

そう二人は言い残して姿を消した。

最後に、夜闇へ白いマフラーと赤いポニーテールを踊らせてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、私たちは影月くんたちが通う昊陵学園という場所へと連れて来られてた。

 

「さて……ここが理事長室だ。ここにはこの学園の最高責任者がいる」

 

私たちにそう言った影月くんは目の前の少し大きめな扉を開けて入り、私たちもそれに続いた。

部屋の中は豪華な装飾が至る所に施されていて、いかにもここで一番偉い人が使用している部屋という感じがした。

 

「戻ったぞ、朔夜に美亜」

 

「おかえりなさい。影月に優月、そして《異能(イレギュラー)》、九重透流と他の皆さまも……」

 

「おかえりなさい。影月さん、約束通り……無事に帰ってきてくれましたね」

 

「ああ、なんとかな……結構最後の方は無事帰れるか少し心配になったけど」

 

「ふふっ、別にいいじゃありませんこと?結果としてこうして帰ってきているんですから」

 

「そうですよ!……まあ、私とか透流さんはちょっと怪我しましたけどね」

 

「あらあら……ならば、この場には参加せずに病棟に治療に向かっても構いませんわ」

 

「いいえ、大丈夫です。せめて話が終わってから病棟に向かいます」

 

「……分かりましたわ」

 

黒衣の少女はそう言うと、フリルやレースの付いたドレスを着た少女と共に私たちを見た。

 

「紹介が遅れましたわ。私はこの昊陵学園の代表を務めている、九十九朔夜と申します」

 

「私は朔夜さんの補佐を務める美亜と言います」

 

その自己紹介に私は少なからず驚いた。こんな見た目十歳程の少女二人が、まさかこの場所の最高責任者とその補佐だとは思わなかったからだ。

なので出会って早々失礼だと思うが、一つ質問してみた。

 

「……二人とも何歳?」

 

「来て早々、一番最初に聞く事が私たちの年齢ですの?……まあ構いませんけれど。十二ですわ」

 

「私は十五歳です」

 

「ほへー……外の世界でもそんなに若くて代表になれるのかい」

 

幻想郷に存在する組織の代表者とも呼べる者たちは皆、人外であり長寿だ。永遠亭の連中も確か月の兎(鈴仙)を除けば全員千歳は下らないし、一番若い紅魔館の主も確か五百歳位の筈だ。

まあ、人間って括りをするなら霊夢とか魔理沙とかも十代位なんだけど。

 

「彼女たちが例外なだけだ……そういうあんたたちはいくつなんだ?」

 

「私は十三です!」

 

「そうだなぁ……私は千三百歳くらいかねぇ」

 

『千三百!?』

 

明るく自らの年齢を言った香ちゃんと違い、私は真顔でさらっと言うと、香ちゃんや影月たちが驚いて声を上げる。実際それ程生きているというのは嘘じゃない。私はとある事情によって、老いる事も死ぬ事も無い体ーーーつまり不老不死の体になったからね。

しかしながら、初対面でそんな事を言っても当然信じてもらえない。

私としては別にここにいる人たちが信じようともそうでなくてもどっちでもいいんだがーーー

 

「千三百歳……なるほど。とりあえずそちらに座ってお話しましょう」

 

「…………あれ?」

 

黒衣の少女、朔夜ちゃんの理解したような反応に私は疑問を感じた。

 

「どうかしましたの?」

 

「いや……今の答え、普通に流されたから……笑える冗談だとか言われると思ってたんだけど……」

 

「……ああ、私にとっては別格驚く事ではありませんわ。この世界には百年以上生きている者もいますし、それこそ気が遠くなる程生きている方もいますから……それに不老不死の方もここには二人いらっしゃいますし」

 

「…………」

 

苦笑いして返す朔夜ちゃんを見て、私は言葉を失う。

何せ初めてなのだ。幻想郷以外で私がそんな事を言っても驚かない人というのは。

それにここに不老不死の奴が二人も……?

私は周りの人たちをぐるっと見渡して、誰が不老不死なのか尋ねようとしたのだが……。

 

「とりあえず、立ち話もあれですから座ってくださいな。不老不死云々は後で話せばいい事ですわ」

 

そう促されて私と香ちゃんはソファに座り、朔夜ちゃんや美亜ちゃんも向かいのソファへと座った。

 

「さて……まずはこちらから色々話しましょうか」

 

 

 

 

 

そして朔夜ちゃんはこの学園の事、《焔牙(ブレイズ)》という魂を武器にする物がある事、そしてさっきのあの妖怪のような者の事を説明してくれた。

 

「人(あら)ざる者……かぁ。外の世界ではそんな奴らもいるんだなぁ……」

 

「ええ、こちらからは一先ずそんな感じですわ。では今度はこちらからお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

先ほど朔夜ちゃんが説明してくれたのは、きっとこの学園の機密事項の一つなのだろう。そんなものを教えてくれたのだから、向こうからの質問も答えなければ失礼だろう。

 

「答えられる範囲だったらいいよ」

 

「じゃあ……外の世界ってさっきから言ってるが、妹紅は別世界の人なのか?」

 

影月くんのその言葉に私は考え込む。

幻想郷は別世界と言えばそうなのかもしれないが……実際幻想郷は外の世界と陸続きで繋がっているらしく、そういう意味では別世界だともはっきり言えない。

そもそも幻想郷とか言っても信じてくれるかどうかも分からない。

 

「う〜ん……私は幻想郷って所から来たんだ」

 

だからと言って、このままうんうん唸ってても話は進まない。なので仕方なく私は幻想郷の事を話す事にした。もしかしたら紫とかに何か言われるかもしれないが別に知った事じゃないし。

幻想郷とはどんな所でどのような者たちが居るのか。それを私なりの言葉で彼らに説明した。

 

「現実で消え去ったり、忘れ去られたり、存在を否定された物や者が集まる場所……か。だから幻想郷なのか」

 

「という事は、妹紅さんも……?」

 

「私の場合は自分で辿り着いたんだ。どっちにしても忘れ去られた者だけどね」

 

そう締めくくると、部屋は静寂に包まれた。

皆それぞれ、私の説明を聞いて腕を組んだり、こめかみに手を当てて考えたりしていた。

そうした沈黙を破ったのは優月ちゃんだった。

 

「……妹紅さん、つまり貴女は……人々から忘れ去られたんですね?」

 

「そういう事だね」

 

「……なぜ?」

 

「…………千三百年も生きていれば色々あるさ」

 

「……教えてくれますか?」

 

「……すまないね。あまり過去の事は話したくなくてね……それに、私の人生なんて聞いていて楽しいものじゃないよ」

 

「……優月、彼女は本当に過去の事は話したくないみたいだ。俺でも見る事が出来ないからな……」

 

影月くんの言葉を聞いた優月ちゃんは若干悲しそうな顔をした後、弱々しく「分かりました」と言った。

 

「他に聞く事はあるかい?」

 

「一つよろしいでしょうか?貴女はなぜその幻想郷から出てきたのでしょう?先ほどの話を聞いた限り、貴女は忘れ去られた存在。ならばこちらにこうして存在しているのは……色々と辻褄(つじつま)が合わないのですけれど……?」

 

「あ〜……その事かい?それが私にもさっぱり分からないのさ。ゆか……スキマ妖怪って奴が気まぐれで私に何かしたのか、あるいは幻想郷で起こる「異変」の類なのか……どっちにしても私にもよく分からないよ」

 

一応私の予想では後者だと思っている。本来、結界の管理者である紫が何も伝えずに私を外に放り出すとは考えづらい。

となると、後は新しい異変という話になるのだが……まあ、私はそういった異変解決の専門家じゃないから詳しい事は分からない。

 

(とりあえず紫が見つけてくれるまで待つか……)

 

私が内心で一人今後の方針を決めていると、今度は香ちゃんの話になった。

 

「で、貴女も幻想郷の方ですの?」

 

「い、いいえ……私も幻想郷なんて初めて聞きました……」

 

それもそうだ。幻想郷なんてよっぽどのオカルト好きじゃないと知らないだろうし。

 

「幻想郷の者じゃない……なら、別世界の人か?」

 

「いんや、香ちゃんは別世界から来たんじゃない。これは私の予想だけど……香ちゃんは何らかの事情で過去から来たんじゃないかと思う」

 

「過去から……?」

 

ユリエちゃんが私の言葉を反復して首を傾げた。

それを見て、私は分かりやすいように説明する。

 

「香ちゃんのいた時代は戦国時代……今から千年以上前だからね」

 

「せ、千年以上前……」

 

橘ちゃんや透流くんたちは絶句してるけど、私は気にせず続ける。

 

「香ちゃんは織田信長の妹であり、織田家の姫君なんだよ。まあ、私はちょっとしたきっかけで仲良くなったんだけどね」

 

「織田信長……やっぱりあの戦国武将のか」

 

その時、私の脳内では彼女と出会った日の事が思い出されていた。

 

 

『貴女は……?』

 

『……名乗る程の者じゃない』

 

『あっ……待ってください!その、妖怪に襲われていた所を助けていただきありがとうございます!』

 

『……別にいい。私はただそいつを倒したかっただけだから。別に君を助けたかったわけじゃない』

 

『それでもです!……あの、よければ一緒にお話したいので来てくれませんか?』

 

『…………』

 

 

ーーー長く生きていると昔の記憶とかが風化していき、色々な事を忘れてしまうが、香ちゃんと出会ったあの日と、楽しく話し合った日々は忘れていない。

 

 

『ーーーって事が前にあってさ。酷い目にあったよ』

 

『あははっ!それは災難でしたね』

 

『まったくだよ……おっと、ごめんね?私ばかり話して……』

 

『いいですよ?それよりもっと貴女のお話を聞かせてください!』

 

『……分かった。じゃあーーー』

 

 

彼女と過ごした日々はあの時不老不死となって三百年程経った私の(すた)れた心を癒してくれたものだ。

でもーーー

 

 

『香ちゃん〜、遊びに来たぞ〜。……って、居ないのか?』

 

『あっ!貴女は香姫様のご友人の……』

 

『藤原妹紅だ。なんだか慌ただしいけど何かあったのか?』

 

『じ、実は……』

 

 

 

「でも、香ちゃんはある日を境に数日行方不明になったんだよ」

 

「……どうしてですか?」

 

優月ちゃんの言葉に私は頭を横に振って、香ちゃんを見る。

 

「私にも分からない……でもその後、結局見つからずに死んだ事にされてしまってね」

 

その事を聞いた時は、私も酷く驚いたし、嘆き、悲しんだ。ーーー彼女との会話はあの時の数少ない私の娯楽でもあったし、心の支えだったからーーー

すると香ちゃんは俯きながら、ぽつりぽつりと小さな声で、その日の事を話始めた。

 

「…………私はあの日、兄様の体を奪ったザビエルの所行を知ってしまったんです」

 

「ザビエル?あの魔人か?」

 

魔人ザビエル。昔暴れまわっていたそれなりに強かった魔人だ。香ちゃんが死んだと聞いて、悲しみで手当たり次第八つ当たりしていた私が一瞬で殺ったけどね。それも他の妖怪とかのついでに。

 

「それを知ったザビエルは私は小屋に監禁したんです…………そして私は同年代の少年たちに……」

 

「…………もういい。分かった」

 

辛そうに話す香ちゃんの続く言葉を予想出来たのか、影月くんが遮る。そして一部の人たち以外は顔を歪めた。当然私もだ。

 

「どういう事だ?如月」

 

「……強姦って事よ、巴」

 

『なっ……!』

 

リーリスちゃんの言葉に、透流くん、ユリエちゃん、橘ちゃんが驚いて固まる。

 

「……その位の時代なら、そんな事もあり得なくもないからな……」

 

「……その小屋での記憶は大体三日位しか覚えてません。なので私は……」

 

「死んだ……か」

 

「だからか。あの時、俺に近付かないでって叫んだのは……」

 

「はい……私と近い歳の殿方といると……どうしても怖くなって……」

 

ーーーあいつが犯人だったのか。それを知っていたのなら、あっさり殺らずに苦痛をずっと与えながら殺してやったのにーーーでも、どっちにしても私は知らず知らずの内に香ちゃんの仇を討ってたらしい。

 

「……今までの話から察するに、貴女は過去から来たというよりも、転生してきたと言った方が正しいでしょうね」

 

そこで黙って話を聞いていた朔夜ちゃんが口を開く。

 

「この世界の理は輪廻転生ーーーそれに従って貴女は服や記憶、体などの全てがそのままで転生したのでしょう。メルクリウス様曰く、そのような事も砂漠の砂の中から一粒の塩を探し当てられる位の確率で起きるそうですわ」

 

「……朔夜がなんでそんな色々知ってるのかは突っ込まないが、ともかく天文学的確率で起こる事だって言うのは分かった」

 

朔夜ちゃんに向かって、影月くんが苦笑いすると、私たちに視線を向けた。

 

「で、とりあえずお互いの事はある程度知ったわけだが……これからどうする?」

 

その言葉に改めて私は考える。

私の目的は幻想郷に帰る事だ。だが今現在その方法は発見出来てないし、どうしたらいいのか皆目見当もついてない。それどころか衣食住もろくに確保出来ていない状態なのだ。

まあ、私は不老不死だから別にその三つが無くても何とかなるのだが……。

 

「妹紅さん……」

 

今この場には、古くからの友人(香ちゃん)がいる。彼女はすでにこの学園で保護される事が決まっている。まあ、それはそれで私としては何も文句は無い。ここはさらっと見た限り安全だし、何より心に傷を負った彼女を癒してくれそうな人たちもいる。

私よりも頼れる人は多そうだ。しかしーーー

 

「妹紅さんも一緒にここに居ましょう……?ここならその幻想郷って所の情報も集まるかもしれませんし……」

 

香ちゃんはうるうるとした瞳で、私を見上げた。

その目からは一緒に居てほしいとか、もっと一緒に話したいと言った思いが感じられた。やはり安全だと言っても、知らない人たちばかりのここは彼女にとっては怖いらしい。それに久しぶりに会えた私とまた楽しく過ごしたいーーーという感情も見える。

そしてーーー

 

「折角時間も空間も超えて奇跡的に出会えたんだ。この出会いを、刹那を大切にして……一緒に居てやれ」

 

そう言って笑う影月くんの顔を見て、私は答えを出した。

 

「……そうだね。私も香ちゃんと一緒にここに居させてもらおうかな。いいよね?」

 

「構いませんわ。ならば早速貴女たちの部屋を確保しないといけませんわね……そして貴女たちも生徒として……あっ」

 

すると、朔夜ちゃんは考えるような仕草をしてーーー何かを思い出したかのように声を出して、私たちに顔を向けた。

 

「そういえばお二人共、料理は出来ますの?」

 

「えっ?……ま、まあ一応……一時期焼き鳥屋やってたし……」

 

「私も出来ますよ」

 

「ならば、貴女たちはこの学園の生徒としてではなく、生徒や先生方が利用する食堂に入ってもらいましょうか」

 

『………………え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー随分回想が長くなってしまったが、以上が今日までの事の次第だ。

あれから二十日以上経ったが、なんとか私も香ちゃんもこの学園のルールや人たちに慣れてきた。

特に香ちゃんはこの学園のほとんどの人たち(男女問わず)と打ち解けたようで、例の事件で患った男性恐怖症を多少なりとも克服してきている。

学園の人たちと男女問わず打ち解けたりしたのも(ひとえ)に、あの時部屋で話を聞いてくれた影月くんたちや朔夜ちゃんが陰で色々手を回して協力してくれたからだ。

それでもまだ、会った事のない人や知らない人が近付いてきたら、近くにいる知り合いの人を盾に隠れたりしてるのだが……。

 

(まあ、完全には無くならないよね……そこは仕方ないか)

 

トラウマというものは心に大きな傷を付ける。その傷はほぼ永遠に治らない。それは幻想郷で一番の医者であり、月の薬師とも呼ばれるあいつでも治す事は不可能だ。

怪我や病気の治療は出来ても、心の治療というのはいつ、どこの時代でもそう簡単に治るものじゃない。

私もそんな治らずに苦労してきた人たちを多く見てきた。

 

(まあ、香ちゃんは少しずつでもいいから男性恐怖症を治してくれたらいいかな……)

 

「妹紅ちゃん!後は私たちに任せていいから、貴女と香ちゃんもご飯を食べてきていいわよ!」

 

「あいよ」

 

「はい!」

 

そんな事を考えていると、私たちと同じ厨房で調理していたおばさんがそう言ってくれた。

私と香ちゃんは調理を切り上げて、調理室から食堂へと移動し、何を食べようか考え始めた。

 

「う〜ん……何食べようかな……」

 

「私はまたビュッフェにします!」

 

「なら俺たちもビュッフェだな」

 

すると香ちゃんの声の後に背後からここ数十日間で聞き慣れた声が聞こえてきた為、私たちは揃って振り返った。

 

「やあ。……影月くん、眠そうだな?」

 

「ああ……昨日は朔夜の所に夜遅くまで居てな……正直、ちょっと寝不足だ……」

 

そう言って眠そうに欠伸(あくび)をする影月くんとーーー

 

「こんにちは!……兄さん、授業中にうとうとしてましたよね」

 

元気に明るく返事をした優月ちゃんを見て、香ちゃんは笑顔で、私は苦笑いをしながら返事する。

 

「こんにちは!今日はしっかり眠ってくださいね?」

 

「分かってるよ……二人は眠れてるのか?」

 

「はい。しっかりと!」

 

「私も眠れてるね……うん、ここ数日はちゃんと眠れてるよ」

 

私は不老不死になってから千三百年間深い眠りについた事は無かった。以前の私は寝るとなったら、壁に背を付けていつでも起きられるような姿勢をして眠っていたが、ここ数日は香ちゃんと一緒にベッドで寝ている。

そうしてベッドで眠るようになったのも、私の隣にいる幼い少女が出会った時と変わらない純粋な笑みを浮かべて、懇願してきたからだ。

流石にそんな表情をされたら断る事も出来ないし、何より私も彼女と一緒に寝たいという気持ちもあるので一緒に寝ているのだがーーー

 

まあ、閑話休題(それはともかく)ーーー

 

「妹紅は相変わらずの肉か……」

 

「そういう影月くんが持ってるのはペペロンチーノだっけ?後で一口くれないか?」

 

「構わないぜ?」

 

「香さん、後で私のカルボナーラ食べてみませんか?」

 

「いいんですか?でも私の方は代わりに優月さんにあげる食べ物は何も……」

 

「いいんですよ、私は香さんが美味しそうに食べてくれたらそれでいいですから」

 

そんな会話をしながら、私たちはいつも学食の際に座っているテーブルへと向かう。

そんないつものテーブルには先に食事を始めていた透流くんとみやびちゃんがいた。

 

「よお、二人とも明太クリームにしたのか」

 

「おっ、影月たちか。結構悩んで明太クリームにしてな。本当、種類が多いと悩むよな」

 

「そうだね、どれも美味しそうだから悩んじゃうよね」

 

「フェアは一ヶ月ある。ゆっくり食べれるさ」

 

透流くんとみやびちゃんに苦笑いしながら、私たちは席に着いた。

 

「うん、美味しい♪」

 

「ん、明太クリームにして正解だな」

 

パスタを口に運び、みやびちゃんは幸せそうに笑みを浮かべながら呟き、透流くんもみやびちゃんの笑顔につられて頬を緩める。

 

「ちょっと私たちにもくれないかい?」

 

「ん?ああ、いいぜーーーほら」

 

私の問いに透流くんはくるくるとパスタをフォークに巻きつけて、私にそのフォークを差し出してきた。

 

「じゃ、いただきます」

 

そのフォークを受け取り、私はぱくりと一口でパスタを食べる。瞬間、私の口の中全体にまろやかな味が広がって思わず頬が緩む。

 

「中々美味しいな。香ちゃんも食べる?」

 

「はい!」

 

さっきから私がパスタを食べる姿を羨ましそうに見ていた香ちゃんに聞くと、彼女はパアッと表情を明るくして返事した。

その返事に私たちは頬を緩め、透流くんは私に返してもらったフォークに再びパスタを巻きつけて、香ちゃんに差し出した。

 

「いただきます。あむっ……う〜ん、とても美味しいです〜♪」

 

香ちゃんは差し出されたフォークを受け取ってパスタを食べると、みるみるうちに頬が緩み、これ以上無いと思える位の満面の笑みを浮かべて上機嫌で言う。

 

「ほう、キミたちは揃って明太子にしたのか」

 

「影月君はペペロンチーノで優月ちゃんはカルボナーラなんだね」

 

そうして私たちが舌鼓を打つ中で、巴ちゃんとなじみちゃんがやってきた。

 

「うん。巴ちゃんは柚子胡椒にしたんだね」

 

「安心院はミートソースか……。ん?二人とも昨日も同じじゃなかったか?」

 

「うむ。こちらへ来て初めて食したが、非常に好みの味でな」

 

「僕はただの気まぐれだぜ」

 

「……橘は俺にいつも肉ばかり食うなって言うくせに……」

 

透流くんの呟きを聞いた巴ちゃんから笑みが消えた。

 

「べ、別に構わないではないか。キミと違って私はバランスよく栄養を摂るようにしているのだからな」

 

確かに彼女のおかずを載せた皿には、肉、魚、野菜とバランスが取れたものが載っている。

それでも動揺しながら言われると、説得力に欠けるのだが。

 

「貴女も肉ばかり食べてないで、他も食べたらどうですか?」

 

「ん?私かい?」

 

すると落ち着いた巴ちゃんが今度は私に向けてそんな事を言ってきた。

私の持ってきたお皿の大体八割は肉だ。後は野菜などだが申し訳程度しか載せていない。

 

「いいじゃないか、私は肉が好きなんだ。それに私は別に偏食したって体に何の影響も無いしな。後敬語やめろって言っただろ……」

 

「あ、ああ……すまない……」

 

というか千三百年も生きてきて、今更食事のバランスとか……私からしたら考える必要も無い事である。

 

「いいよなぁ……妹紅さんはそうやって肉を多く食えて……」

 

同じく肉が大好きな透流くんはそんな事を呟くが、それを聞いた巴ちゃんはぐるっと頭を透流くんの方へ向けて言う。

 

「私も別に肉と同じ位の野菜などを食べれば、それ程文句は言わんよ」

 

「……だとさ。今度から大量の肉と大量のセロリとか野菜を持ってきてやろうか?」

 

影月くんの言葉を聞いた透流くんは顔を真っ青にして首を振った。

 

「ふんっ、本当に貴様は橘や影月たちに毎食見繕ってもらった方がいいんじゃないか」

 

と呆れた声でトラくんが参加してきた。

 

「……ふむ、それもいいかもしれんな」

 

「……私もそれがいいと思いますね」

 

「優月と橘に同じく」

 

「僕も同感」

 

「同意しないでくれ……」

 

頷く巴ちゃん、優月ちゃん、影月くん、なじみちゃんに透流くんは力無くツッコむ。

 

「そ、それなら、わたしに選ばせて貰えないかな?巴ちゃんにバレない程度にお肉を多めに入れることも出来るかなって……」

 

「気持ちは嬉しいけど、橘の目の前で言うのはどうかと思うぞ……」

 

「あっ……。あはははは……」

 

しまったとばかりに苦笑いするみやびちゃんを見て、皆が苦笑いする。

 

「妙な笑い方が聞こえたけど、何かあったわけ?」

 

そこへトレイを手にしたリーリスちゃんが、不思議そうに首を傾げる。

巴ちゃんが簡潔に説明すると、彼女はぷっと吹き出した。

 

「それなら、あたしと一緒に昼食を摂れば解決じゃない。透流が満足するだけのお肉をサラに用意させるわよ。……あ、もちろんあたしの部屋で、ね♪」

 

「リーリス。キミは九重にバランスのいい食事を摂らせたい、という私の話を聞いていなかったのか……?」

 

「あら、夫の望むものをっていうのは妻の務めだと思わない?」

 

「ふえぇっ!?透流さん、リーリスさんと夫婦なんですか!?」

 

「いやいやいや!!違うからな香ちゃん!!リーリスが勝手に言ってるだけだから!」

 

「もう透流ったら♡人前だからって照れなくてもいいのよ?」

 

「照れてねえぇぇぇっ!!」

 

「ふんっ、無駄話もそれくらいにして早く食べたらどうだ……」

 

そう言い捨てたトラくんは、イカスミパスタを口にする。

 

「はぁ……トラはイカスミにしたのか。どうなんだ?」

 

ため息をついて落ち着いた透流くんはトラくんへそんな問いを投げた。

 

「味付けはペペロンチーノに近いが、もっと濃厚な味だと思っていい。程よい甘みにトマトと唐辛子、にんにくによる多重ーーー」

 

「ん、ちょっとくれ」

 

長くなりそうな説明を遮って、一口くれと要望を出す透流くん。

 

「まったく貴様という奴は……」

 

不満げに言いつつも、トラくんはくるくるとパスタをフォークに巻き付ける。

 

「ありがとな。こっちのも食うか?」

 

そう言って二人はそれぞれのパスタが巻き付いたフォークを交換して、ぱくりと互いに一口で食べた。

 

「「………………」」

 

(んっ?)

 

するとふと、みやびちゃんとリーリスちゃんが自身の手にあるフォークを透流くんたちへ、交互に視線を向けている事に気付く。

何処と無く強い圧を感じさせていた二人だがーーー突然二人揃って立ち上がり、先を争うかのようにフォークへそれぞれのパスタを巻き付けた。

 

「と、透流くんっ、これっ、食べてみない!?」

「くっ!!」

 

本当に先を争っていたらしい二人の勝負はみやびちゃんに軍配に上がったが……。

 

「はい、透流くん。間接キ……じゃなくて、あーん♪」

 

「……ねぇねぇ、みやびちゃん。透流君も明太クリームだけど……」

 

「あ……」

「何をしているのだ、みやび……」

 

なじみちゃんの指摘に気付いたみやびちゃんは唖然とし、巴ちゃんは頭を抱える。

 

「しかも透流との間接キスなら、もう私と香ちゃんがしたよ。みやびちゃんは見てなかったっけ?」

 

「…………あっ!」

「なんですってぇ!?」

 

そしてその後の私の発言に、みやびちゃんは思い出したかのように声を出し、リーリスちゃんは思いっきり叫ぶ。

 

「残念だったな二人とも。既に最初の間接キスは妹紅と香によって取られてたんだよ」

 

にやにやと面白そうに言った影月くんの言葉を聞いた二人はガクッと崩れ落ちた。

 

「あ、はは……そう、だったね……」

 

「そ、そんな……先を越されてたなんて……」

 

「まったく……騒がしいですわね」

 

「皆さん、お疲れ様」

 

そんなやりとりをしていると、呆れたような顔をしている朔夜ちゃんと苦笑い気味の美亜ちゃんが近付いてきた。

 

「朔夜……珍しいな、ここに来るなんて。いつもなら理事長室で食事するんじゃないのか?」

 

「そうですけれど、たまにはこちらで貴方たちと共に昼食でもと思いまして……」

 

そう言った朔夜ちゃんは影月くんの隣に。美亜ちゃんは朔夜ちゃんの隣へと座った。

 

「……で、朔夜さんはペスカトーレ、美亜さんはナポリタンですか……」

 

側近として彼女たちの後ろに着いていた三國先生がテーブルに置いた二人の食事を見て、優月ちゃんが呟く。

 

「ええ、意外と好きですのよ。食べてみます?」

 

「おっ、じゃあお言葉に甘えて……」

 

「……惚気かぁ……朔夜ちゃんって影月くんと優月ちゃんにはデレるよね」

 

「それだけ信頼してるんだろう?ちなみに僕にもデレるぜ。二人程じゃないけどね」

 

そんな影月くんと朔夜ちゃんのやりとりを横目で見ながら話しているとーーー

 

「皆さん、どうしたのですか?」

 

今度はユリエちゃんがやってきて、そう問いかけながらテーブルへと着いた。

 

「あ〜……実はかくかくしかじか……」

 

「ヤー、まるまるうまうまといわけですね」

 

私の説明で理解したらしいユリエちゃんはトレイに載った料理を食べ始める。

 

「ユリエは天ぷらうどんにしたのか」

 

ほかほかと湯気が立つ天ぷらから、とても美味しそうな香りが漂ってくる。

 

「……今日の夜は天ぷらうどん食べようかな……」

 

「あっ、いいですね」

 

私と優月ちゃんがユリエの天ぷらうどんを見て、そんな事を言っているとーーー

 

「二人とも、大丈夫?」

 

「あはは……私がはりきってもダメだったんだ……」

 

「透流の妻の私が……遅れを取ったなんて……」

 

「勝手に夫にするな……」

 

美亜ちゃんが未だ先ほどの私の発言にショックを受けているみやびちゃんとリーリスちゃんを、心配そうに気にかけている姿が映る。

 

「余程私たちが先にか、間接キスしていたのがショックだったんですね……」

 

「そりゃそうさ。だって透流君はリーリスの夫だからね」

 

「……いい加減にしないと泣くぞ」

 

そんな会話をしていると、やがてタツくんや月見先生もやってきて、いつもの顔ぶれが揃った。

そしてそれぞれのメニューの話や今日の授業や訓練についての話をした。

無論、私や香ちゃんは話を聞いていただけだが、中々に有意義な時間を過ごせた。

 

 

 

そして食後に全員で緑茶を飲みながら話をしていた時ーーー香ちゃんが何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「あっ、そういえば……私、お茶菓子作ってきたんですよ!皆さん食べます?」

 

「お茶菓子か……食後にちょうどいいかもな」

 

「おっ、それは是非ともいただきたいねぇ」

 

透流くんとなじみちゃんがそんな事を言う中、私は何か嫌な予感がしたので彼女に問いかける。

 

「…………香ちゃん、そのお茶菓子って何?」

 

「私が一生懸命作ったお団子ですよ〜」

 

「おっ、団子はアタシも好きだぜ!早速出せよ!」

 

その瞬間、背筋がゾッとする感覚がした。

確か香ちゃんの作る団子はーーー

 

「というわけで、皆さん召し上がってみてください!」

 

と、内心戦慄している私の様子など気付く事もなく、香ちゃんはどこからかお皿に盛られた団子をテーブルへと乗っける。

 

「うっ……これは……」

 

「うわっ……ちょっと……」

 

「……何?この色……」

 

「ぐ……なんだこれ……」

 

「ヤー、七色の団子ですね」

 

「やっぱりこれかぁ……」

 

透流くん、なじみちゃん、リーリスちゃん、月見先生はそれを見た瞬間に顔を大きく歪め、ユリエちゃんは興味深そうにそれを眺め、私は嫌な予感が的中した為に空を仰いだ。

そこには平皿に載せられ、七色の暗い色を発している謎の物体X……一応形状的には団子と分かる物があった。

 

「……妹紅さん、やっぱりって言いました?」

 

そこで隣で青い顔をした優月ちゃんが私に小声で問いかけてきた。

私もそれに小声で返す。

 

「ああ、香ちゃんって料理は一流なんだけど団子だけはどうにもならなくてね……私とか料理の達人って呼ばれてる人が、一から香ちゃんに団子の作り方を教えたんだけど……結局、最終的にはああなるんだよね……」

 

香ちゃんの団子は彼女の兄である信長曰く「殺人団子」と表現される程の物体であり、食べた人のほとんどが生死の境をさまよう程の味なのだ。

かく言う私も不老不死で無ければあの時死んでいたかもしれない……。

 

「皆さん、どうしました?食べないんですか?」

 

「あ、私はもうお腹いっぱいなので結構ですわ」

 

「私も同じく……」

 

「僕もだ」

 

すると真っ先に言い訳を考えて逃げたのは朔夜ちゃんと美亜ちゃん、そしてトラくんだ。それに香ちゃんは残念そうな声色で言う。

 

「そうですか……なら仕方ないですね。他の皆さんはどうですか?」

 

「う……」

 

「えっと……」

 

朔夜ちゃんと美亜ちゃんとトラくんが最初に無難な理由を考えて逃げたので、後に続く皆も適当に理由を考えて逃げようとしたのだがーーータツくんがそんな物体Xの一つへと手を伸ばして、躊躇なくぱくりと食べた。

 

「なっ!?タツ!?」

 

「おおう……あれを普通にぱくりといったな……」

 

そんな驚く私たちとは裏腹に、タツくんはもぐもぐと口を動かす。

 

「……あ、あれ?タツ、なんともないのか?」

 

影月くんの困惑した問いにタツくんは頷いて、ごくんと団子を飲み込む。

そして中々刺激的な味だと感想を述べて笑った。

 

「団子で刺激的な味って……。なあ《異常(アニュージュアル)》、食べてみろよ」

 

「人に進める位ならあんたも食べろよ……」

 

「ア、アタシは後ででいい……」

 

「……に、兄さん、ちょっと食べてみますか……?」

 

「……そ、そうだな。香ちゃんが作った物だし……一つくらいは……」

 

「……そうだね」

 

次に影月くん、優月ちゃん、なじみちゃんが何か意を決したような顔をして団子をそれぞれ一つずつ手に取った。

 

「じゃあ……」

 

「「「いただきます」」」

 

そして三人は同時に団子を口の中に放った。

いつものメンバーどころか、周りの生徒たちが見守る中、団子を数秒間咀嚼(そしゃく)した彼らはごくんと飲み込んで感想を述べる。

 

「…………なんて言うんだろうな。この味」

 

「う〜ん……なんでしょうね……美味しいというのも何か違う気がしますし……かと言って食べられないわけでもない……」

 

「色々食べてきた僕でも、形容出来ない味だなぁ……まあでも、強いて言うなら……」

 

「「「個性的な味?」」」

 

「なんだその個性的な味って……」

 

「むぅ……個性的な味ですか……」

 

三人の感想に半眼で突っ込む透流くんだったが、それを聞いた影月くんは「食べてみるといい」と言って、団子を差し出した。

 

「とりあえず、他の皆もどうだ?周りにいる奴らも興味があるなら食べてみろ」

 

そう言って朔夜ちゃん、美亜ちゃん、トラくん以外のいつものメンバー(私も含む)に団子を一つずつ配り終えた影月くんは、周りで見ていた生徒たちにもそう声をかけた。

 

「どうする?」

「僕はパスする……」

「あたしも……」

「じゃああたしは一つ食べてみようかな。味が気になるし」

「じゃあ俺も食べてみるか」

「俺も俺も!」

 

すると何人かの勇敢な生徒たちが団子の周りへと集まり、団子を一つ残らず取っていく。そしてその生徒たちの手に団子があるのを確認した私は代表して声を上げる。

 

「じゃあ皆、覚悟はいい?」

 

『おおっ!』

 

「じゃあせーので食べようか……」

 

『せーの!』

 

そして全員が一斉に口の中に団子を放り込む。

 

「うぐっ!?」

 

瞬間、私が最初に感じたのは何とも言えない匂いだった。明らかに食べ物が出すような匂いではないのだが、不思議と吐き気を催す程の匂いでもなく、なんとも形容し難い匂いーーー

その次に感じたのは食感だ。団子のように柔らかいなと思えば、突然ガリッというような硬い食感も感じるし、他にも七種類位の食感が感じられた。

そして肝心の味だが……。

 

「……すごく、なんとも言えない味……でも前食べた時よりマシになってる……前なんて本当に死にかけたのに……」

 

「だろ?ある意味個性的な味だよな……ってか前は死にかける程の物だったのか、これ……」

 

影月くんの言葉に同意しようと、頷こうとした直後ーーー

 

「ぐふぉあっ!!」

 

「ごふっ!!」

 

「ぐふおぉっ!?」

 

「ぐはぁっ!なんだこれ……げほっ、がほっ!!」

 

「ううっ……香ちゃんごめん!わたしもう無理!」

 

「す、すまない……私も無理だ!」

 

「お、俺も!!」

「あたしも!!」

 

私以外の人たち(透流くんたち含む)の一部が苦しそうに暴れた後にバタッと倒れ、みやびちゃんや巴ちゃんなどは口を押さえて顔を真っ青にしながら、どこかへ駆けていく。

気が付くと、団子を食べた人たちほとんどがその場から消えていた。

 

「皆、トイレで吐いてるのかなぁ……」

 

「なんで貴方たちは無事なんですの?」

 

朔夜ちゃんが先ほどの惨状を見て、顔を青ざめながら聞いてくる。

 

「なんでだろうな……胃が丈夫なのか、俺たちの味覚がおかしいかのどっちかじゃね?」

 

「……また私は失敗したんですね……」

 

「香ちゃん……暫くの間、団子作るのやめてね……」

 

 

 

その後、大量の人たちが学園の病棟に駆け込んだという話を聞いたのは、それから数十分後の事である。




結構微妙な感じの内容かなって書いてから思いましたが……うん、あまり気にしないでおこう。仕事が忙しいのがいけないんだ……(遠い目)

あ、前書きで言いましたが、本当に更新遅れて申し訳ありません!もう夜もあっという間に眠ってしまうので本当に書けませんでした……。改めてお詫び申し上げます!

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!
では、また次回!

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