アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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ちょっとだけ間が空きましたけど投稿です。
今回も新キャラがっ!?
それと2万UA超えました!ありがとうございます!



第四十五話

side no

 

 

時は朔夜が影月に連絡をする数十分前まで遡るーーー

 

 

 

 

 

 

「ああ……やっぱり君では僕を殺せないね、透流」

 

闇を纏った少年が哀しそうにそう言って、微笑む。

 

「そ、んな……」

 

一方、闇を纏った少年に笑みを向けられた透流と呼ばれた少年は、驚愕で目を見開く。

 

「俺が全力で打った雷神の一撃(ミヨルニール)を受けて立ってるなんて……」

 

雷神の一撃(ミヨルニール)ーーー大の大人でも数十メートルは吹き飛び、意識を失うだろう威力を持つ技ーーー透流が現在出せる最大最強の技を胸に打ち込まれた筈の少年はーーー

 

「それじゃあ、そろそろ終わらせようか」

 

傷一つ無く立っていた。彼は無防備に胸を晒して雷神の一撃(ミヨルニール)を受け止めたのだ。

そのような常識的に考えればあるはずもない事が起きたのだ。透流が驚くのも無理は無い。

そして闇を纏う少年ーーー榊は寂しそうに呟いたと思うと、胸元から眩い光が生まれ始めた。()はその光を掴む。

すると光が形を変える。白い刀身に、黒い刃を持つ禍々しい刀へと。

それを見た透流は再び驚き、叫ぶ。

 

「なっ……!?そ、それは、まさか……《焔牙(ブレイズ)》!?」

 

「違うよ、透流。これは君たちのそれとは違う。光から作り出した僕だけの武器、僕の《魂》ーーー《煌牙(オーガ)》」

 

そう言って榊は、ゆっくりと刀の切っ先を天へと向けた。

 

「そんな……榊、お前は一体何者なんだ……?」

 

「僕は君がよく知る鳴皇榊(なるかみさかき)だよ、透流。でも君が聞いているのはそういう意味じゃないんだよね」

 

深淵(しんえん)を思わせる、(くら)く、静かな闇色の瞳が僅かに揺れ、榊は《煌牙(オーガ)》を振り下ろした。

稲妻のような白い閃光が(はし)り、反射的に透流は自らの《焔牙(ブレイズ)》である《楯》を構える。

そんな刹那の間に榊は答える。

 

「僕が何者かーーーそれを知りたいなら、あの時話していたカール・クラフトか影月()にでも聞くといいよ。なぜなら僕は、クラフトやラインハルト、それに影月や優月(彼ら)と同じーーー」

 

 

 

瞬間ーーー《楯》が二つに切り裂かれーーー透流の腕と共に地に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覇道の道を歩みし者ーーーだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれと時を同じくして、とある場所では水銀の蛇の仕業によって、また別の世界の者が迷い込んでいたーーー

 

諏訪原(すわはら)市ーーーPM5:27…

 

 

 

「うわぁ……高い建物……ここがこの街の中心なのかな?」

 

ここは諏訪原市ーーー人口80万人程が住む、海と山に囲まれた地方都市である。

街の歴史は160年程とまだ浅いが、国内でも有名なアミューズメントパークや巨大タワーなどが存在し、人の出入りが盛んな行楽地として栄えている。

 

「前の異変の時以来か……娑婆に出て来るのは……。やっぱり外の世界は進んでるねぇ……」

 

そんな街の中心街に立ち並ぶビル群を見上げて、感嘆の声を上げる一人の少女がいた。

 

「でも以前外に来た時とはなんか雰囲気とかが違う感じがする……本当にここって私が元々いた外の世界なのかね?」

 

そんな一般の人にはよく分からないような事を呟く少女の容姿は、現代の人たちから見ると実に異様なものであった。

腰まで伸びた銀髪に燃え上がるような深紅の瞳、体型は少女らしくほっそりとした華奢(きゃしゃ)な体つき。

そして服装だが、髪には白地に赤の入った大きなリボンが一つと、毛先に小さなリボンが複数ついている。上は白いカッターシャツ、下は赤いモンペのようなズボンをサスペンダーで吊っていて、ズボンには何やら護符のようなものが貼られている。そのズボンの形状は大昔の日本貴族が身に付けていた袴に何処と無く似ている。

 

周りにスーツなどを着ている人が多い中、明らかに“時代遅れ”の格好をしている少女は、周りから向けられる奇異の目を浴びながらも、全く気にする事無くモンペのポケットに手を突っ込んで歩き始めた。

 

「ってこんな所で呑気に観光しながらそんな事考えてても意味無いか。……どっちにしても、なんで私は幻想郷の外にいるんだろうか?ただ、いつも通り迷いの竹林を見て回ってただけなんだけどなぁ……」

 

歩き出した少女の口から出る意味不明な独り言に、視線を向けていた通行人たちは皆、気味悪がって視線を逸らして少女に道を譲る。少女はそんな事も気付かずに考え事をしながらただ当ても無くふらふらと歩いていた。

 

 

 

今、少女が口にした幻想郷という言葉ーーーそれは何か?

それはこの世界とは全く違う(ことわり)が流れている世界にある場所。

曰くーーー人間や幽霊、妖怪や妖精、さらには神などが共存し合う伝説の土地。

曰くーーー外の世界、つまり現実で消えた物、忘れ去られた物、存在を否定された物が実在すると言われる土地。

曰くーーー幻想郷にいる者たちは皆、国どころか世界を滅ぼせる程の力を持っている者たちが集う土地。

 

そんな数多(あまた)の都市伝説が囁かれ、多くの人たちが眉唾物だと認識している世界から少女ーーー藤原妹紅(ふじわらのもこう)は飛ばされてきてしまったのだ。

 

「まあ、実際外に放り出されるなんてスキマ妖怪()の仕業としか考えられないんだけど……。でも(ゆかり)が何の説明も無く、いきなり私を外に放り出すなんてどんな魂胆があるんだ……?」

 

しばらく歩いていた少女はふとビルの隙間から顔を覗かせる夕陽に目を向けた。傾いた夕陽は空を、地を、そして諏訪原市のビル群を紅に染め上げ、幻想的な風景を生み出している。

だが、そのような美しい風景を目の当たりにしても少女の顔色は暗いままだ。

 

「……私がこっちに来てから二日位か……今頃、慧音(けいね)は私が居ないって大騒ぎしてるかもなぁ……」

 

妹紅は自分にとって数少ない理解者である親友の顔を思い浮かべながら、少し哀しげに呟く。

ちなみに彼女がこの二日間、外の世界で何をしていたのかというとーーー

一日目(放り出された当日)はただひたすらこの周辺の森の中を丸一日うろうろと彷徨い歩き、幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界の綻びを探した。とりあえず結界の綻びさえ見つけられれば、そこから戻れるのではないかーーーそんな淡い期待を持って探していたが、無情にも結界の綻びは見つけだす事は出来ずーーー

二日目も森の中で引き続き、幻想郷に戻る方法を探していたのだが、その最中に偶然にもこの諏訪原市を発見。幻想郷に戻る手段が何かあるかもしれない(ついでに外の世界がどの位進んでいるのか興味もあった)と考え、一日かけて諏訪原市内を隅々まで歩き回った。

まあ、結果として幻想郷に戻る手段は見つからず、ただの観光となってしまったわけだが。

 

「……別の所に行くかぁ……。早く帰る手段を見つけないと……私はやっぱり外の世界より、慧音とかと楽しく酒を飲んでいたり、気兼ね無く輝夜(かぐや)と殺し合いが出来る幻想郷の方がいいし」

 

そう言って、妹紅はこの街から出るべく歩き出した。もうこの街は大方調べ尽くしたから余程の事が無い限り、また来る事はないだろう。

 

そんな事を考えているうちに夕陽は沈み、道路には街灯が灯り始め、ビルからは蛍光灯の灯りが漏れ始め、日中や夕暮れ時とはまた違った雰囲気を持つ別の光が灯り始めてきた。

妹紅はそんな光が灯りゆく様を無感情に見ながら移動していた矢先ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんか焦げ臭いな……」

 

ふと、辺りに漂う何かが焼けるような臭いを感じて、辺りを見回す。すると妹紅がいる場所から少し離れた空に、もうもうと黒煙が上がっているのが見えた。

 

「……あっちか」

 

その黒煙を目にした妹紅は黒煙が上がる方向へ向かって駆け始めた。

その方向に向かうにつれて、焦げ臭い香りはどんどん強くなっていき、周りで歩いていた人たちも何やら焦げ臭いと言いながら、顔をしかめている。

そんな人たちを尻目に妹紅は走り続けーーーやがて多くの野次馬たちが集まっている場所へと辿り着いた。

 

「ここか……?……ちょいと失礼ーーーああ、ごめんなさい。通してーーーおっと、すまんね」

 

妹紅は多くの野次馬たちの間をすり抜けて、一番前へと向かう。

 

 

 

ーーーそして野次馬たちの最前列に辿り着いた妹紅が見たものはーーー

 

「………………」

 

一棟の十階建てビルの五階か六階位が炎に包まれ、赤々と燃え上がっている様だった。

炎の勢いは強く、ここにいても熱風を感じる程だ。最も、妹紅からしたらこの程度の熱風はあまり熱いと感じていないのだろうが。

 

「…………大丈夫かい?」

 

妹紅は一瞬何かを考えた後、ビルから少し離れた場所で集まって座り込んでいるスーツ姿の男女の元へと駆け寄った。

一部の通行人たちに色々と介護されているスーツ姿の男女らは火事となったビルで働き、逃げ出してきた従業員たちだ。

そんな妹紅の呼びかけに反応した数人の人たちが妹紅を見て、なぜか安心したような顔を浮かべ、一人の女性従業員が返事をする。

 

「わ、私たちは大丈夫です!で、でも……」

 

「でも、なんだい?」

 

何やら言い淀む女性に妹紅は首を傾げるがーーーその答えは他の男性従業員が答えた。

 

「まだ一人ーーー女の子が出てきていないんだ」

 

「何?」

 

そう言って妹紅は、赤々と燃え上がるビルを見やる。

 

「………………」

 

「火災の数分前にビルの中に入って行ってしまってーーー」

 

彼女の瞳は刹那の間だけ、迷ったように揺れ動いたがーーー何かを決意したかのような顔になると、従業員たちに顔を向ける。

 

「なら、私が助けに行くよ」

 

「なっ……!?き、危険です!!さっき消防には連絡したのでそれまで待てばーーー」

 

「それが来るまでにあの建物が崩れてしまったらどうするんだ?……それだったら今すぐ入って助けに行った方がいいじゃないか」

 

「そ、それはそうかもしれないですけど……もしも助けに行った時に崩れたりしたら貴女だって……!」

 

「大丈夫だって。私はちゃんと女の子を連れて無事に戻って来るからさ」

 

そう言って、ニッと妹紅が笑うと従業員たちは驚き、何も言えないような顔になる。

 

「まあ、心配はいらないよ。私はこんな事で死ぬ気は無いし、()()()()()()()

 

妹紅はそう含むように言うと、近くの従業員から少女の容姿を聞いて、周りの制止の声も聞かずに燃え盛るビルの中へと飛び込んで行ったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ーーー火事の現場となっているビルの五階ではまさに地獄絵図と言える様相が広がっていたーーー

 

 

 

 

灼熱の炎がフロアに置かれていたありとあらゆる物を一つ残らず飲み込んでいく。仕事の事が書かれていたであろう書類や、机や椅子、ノートパソコンやコピー機などの機械類、そしてーーー

 

「ほら、こっちだよ〜!」

 

彼ーーーウォルフガング・シュライバーが先ほどまで戦闘という名の蹂躙を行っていたこのビル専属の重武装警備員たちの死体……。

それら全てが炎に包み込まれ、元の原型をとどめない程に焼き尽くされていく。

そう、このビルも以前、シュライバーが南米で襲撃を仕掛けた会社ビルと同じ、とある裏組織が関わっていたのだ。

 

 

シュライバーは現在後ろから追いかけてきている人物を挑発しながら下の階へと降りようとしていた。

彼は下の階ーーー四階へ降りる階段を見つけ、そこへ向かって走り出す。すると背後からシュライバーの姿を丸々飲み込めそうなくらい大きさの火球が飛んできた。

だがーーー

 

「あっ、はァーーー」

 

シュライバーはそれを事も無げに飛び越えた。そして空中で体をひねりながら半回転し、天井に足をつけたかと思うと、そのまま天井を走って四階へと降りていく。

そんなシュライバーの後ろ姿を見つめるのはーーー

 

「………………」

 

以前、南米でシュライバーが出会った桜色の髪をした小柄な少女ーーーオトハだ。

彼女はゆっくりと一歩ずつ歩いて、偶然にも二度目の出会いとなったシュライバーを追う。

 

 

 

階段を降りたオトハは、四階のフロア全体を見渡す。

ここも五階と同じように様々な書類や机などの備品が置かれていた。オトハはそんな隠れる場所や死角の多いこの階のどこかにシュライバーが隠れていると思い、ゆっくりとその小さな掌を突き出した。

そしてその手を斜めにかざし、舞うかのようにゆっくりと振るいながら、小さく呟く。

 

獄炎(ゲヘナ)

 

その言葉と共にーーー腕の軌跡に合わせるように炎が幾度も炸裂した。

連鎖的な爆発と火災によって、四階のフロアは一瞬で五階のような灼熱地獄と化した。

隙間無く爆発させた為、シュライバーも流石にこれは防げず命中しただろう。オトハは内心そう思ったもののーーー

 

「へぇ、オトハはあんな攻撃も出来るんだ」

 

「……アンナ、さん……」

 

先ほどの攻撃を全て回避し、何事も無かったかのようにシュライバーが笑いながら目の前に現れた事でオトハは驚愕する。さらにーーー

 

「でも、それでもまだ僕には触れられないね」

 

その言葉が終わると共にシュライバーの姿が一瞬で消えーーー

 

「ーーーーーーっ!!?」

 

瞬間、オトハの小さな体はまるで風で飛ばされた落ち葉のように軽々と吹き飛ばされた。

 

「くうっ……!」

 

数メートル程吹き飛ばされたオトハは、なんとか体勢を立て直して何が起きたのか確認しようとするもーーー

 

「え……?」

 

直後、顔を上げたオトハの目の前には目を疑うような光景が映った。

オトハから見て右側にあるビルの壁が巨人の鉄槌でも受けたかのように大きく陥没する。さらにビルの床も、天井も同じような陥没が恐ろしい程の速度で出来ていく。

 

「これ、は……?」

 

そんな信じられない光景を見て、オトハは疑問を浮かべる。

なぜあんなに早く床や壁が陥没するのか?目の前にいた筈のシュライバーはどこへ消えたのか?それよりも先ほど吹き飛ばされたのはなぜ?

しかしそんなオトハの疑問に対して返ってきたのはーーー先ほど吹き飛ばされた時と同じくらいの威力を持つ衝撃波と大きな爆音だった。

 

「うあっ……!!」

 

再び大きく吹き飛ばされたオトハは壁に強く叩きつけられ、床へと倒れ込む。

 

「けほっ……こほっ……!」

 

オトハは咳き込みながらも、前を見据える。

目の前には今もなお衰えず増えていく陥没の跡、そしてそんな陥没の跡を追うかのように発生する爆音と爆撃じみた衝撃波。

それらを見たオトハは、ようやくこれら全てが先ほどの少年によって引き起こされている事だと理解して呟く。

 

「……アンナ、さん……速すぎるよ……!」

 

跳び回るシュライバーの姿は触れる事はおろか、視認する事すら出来ない。

警備員の動きより、銃弾より、風よりーーーオトハが今まで見てきた中で何よりも速いスピードスター。

こんな速度で屋外を走り抜けたら、車は吹き飛ばされ、道行く一般人は衝撃波だけで粉々になってしまいそうである。オトハは一般人では無いのでまだ無事だが。

まさに死をばら撒く嵐の化身ーーーシュライバーの暴風(シュトゥルムヴィント)という銘は伊達じゃない。

 

「どうしたんだい?ほら、僕に触れてみなよ。ここにいるからさぁ!そうじゃないとーーー君も、死んじゃうよ?」

 

「っ!獄炎(ゲヘナ)!!」

 

オトハはシュライバーの声がした方向へ向けて手を移動させながら、連鎖爆発を発生させる。

だが、そんな爆発をシュライバーは鼻歌交じりに全て回避しーーーオトハに対して初めての攻撃を仕掛ける。

それは何の変哲も無い、普通の体当たりーーーしかし、その威力は車に跳ね飛ばされるのとは比べものにならないだろう事は想像に容易い。

そんな威力と恐ろしい速度で突っ込んでくるシュライバーにオトハは反応出来ず、呆然と立ち尽くす。

 

「楽しかったよーーーじゃあね、オトハ」

 

シュライバーの最後の別れの言葉にもオトハは反応出来ずーーー両者の影がついに一つとなる。

必殺の一撃を受けた少女は死に、少年はその少女の魂を取り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死『火の鳥-鳳翼天翔』」

 

 

その刹那、一秒にも満たないほんの僅かな時の中で紡がれたのは、シュライバーでもオトハでも無い第三者の声。

それと同時に、シュライバーの元へと巨大な火の鳥を模した炎弾が火の粉を撒き散らしながら飛んで行く。

 

「ッ!?」

 

突然横から飛んで来た火の鳥に驚愕したシュライバーは真後ろへと即座に反転、素早く加速して回避した。

だがーーー

 

「ーーーーーーッ」

 

そんなシュライバーの動きを読んだのか、新たに現れた火の鳥がシュライバーを捉えるべく迫る。それにシュライバーは瞠目した。

いくら本気のスピードを出してないとはいえ、自らの速さに迫る存在など片手で数える程しかいないからだ。

 

「危なかったな、私がもう少し来るのが遅かったらどうなっていたことやら……」

 

そして先ほどオトハを救った第三者が姿を見せる。

 

「ーーーーーー」

 

その姿にオトハは先ほどとは違う意味で呆然となる。

彼女の目に映ったのは、自身の放つ炎とはまるで違う印象を受ける炎を纏う少女。

熱風で舞う髪は目を奪われる程に美しい銀色に輝き、彼女の燃え上がるような深紅の瞳には強い情念が浮かび上がっていた。

そんな彼女の姿に見惚れてぼーっとするオトハに、少女ーーー妹紅は近付いて問いかける。

 

「嬢ちゃん、怪我は無いかい?」

 

「……あ……はい……」

 

怖がらせないように優しい笑みで問いかける妹紅を見て、我に返ったオトハはたどたどしくも返事を返す。そんな返事を聞いた妹紅は再び優しくオトハに笑いかける。

 

「別に取って食いはしないんだからそんなに怯えなくても大丈夫さ。……それよりもーーー」

 

そう言って妹紅は視線を向ける。そこにはーーー

 

「さぁて、君は誰かな?会った事がないねぇ」

 

先ほど妹紅が放った二つの攻撃をかわしきったシュライバーが薄っすらと狂気の笑みを浮かべて立っていた。

それを見た妹紅もニヤリと笑って答える。

 

「生憎と、この世界に来てまだ二日位しか経ってないからさ……会った事が無いのは当然だよ」

 

「この世界?……ふ〜ん、なるほどね」

 

その言葉にシュライバーは目を細めて、何やら納得したような顔をして妹紅の瞳を見据える。

対する妹紅もシュライバーのあらゆる情念が宿った瞳を見据える。

そんな二人の視線が交わる刹那の沈黙はーーー

 

「ふふっーーー」

 

シュライバーが突如笑い出した事で終わりを告げる。

 

「うふふふ、ふははははは、あははははははははははーーー」

 

狂喜と膨大な殺気を纏った哄笑は辺りに木霊し、燃え盛る炎すらも揺らめかせる。

 

「うふ、うふふふ……いいねぇ、お姉さんのその瞳!その瞳を見てたら久々にノれそうな感じがしてきたよ!」

 

「そりゃ結構ーーー私もなんだか君の瞳を見てたら、()り合いたくなってきたねぇ……」

 

そう言って、互いに狂喜と殺気を纏った笑みを浮かべる二人。その笑みを見たオトハの顔からは見る見る内に血の気が引いていく。

 

「ねぇ、お姉さんの名前が知りたいな。僕たちと同じ戦いに飢えた瞳を持つお姉さんの名前を!」

 

「いつも戦いに飢えてるってわけでも無いんだけどね……藤原妹紅だ」

 

苦笑いしながら名乗った妹紅。それにシュライバーの目が細まった。

 

「フジワラノモコウ?珍しい名前だね……」

 

「まあ、こんな時代にはまず聞かない名前だろうなーーーで、君は?」

 

妹紅の問いかけに、シュライバーは二丁の拳銃を取り出しながら己が矜恃(きょうじ)にして最大の栄誉を名乗った。

 

「僕は聖槍十三騎士団黒円卓第十二位大隊長、ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル」

 

「……コクエンタク……どれも聞いた事無いや。……それよりもお互い名乗ったし、早く始めようか。私はこの子を連れて早く脱出しなきゃいけないからね」

 

そう言って、妹紅はオトハの頭を優しく撫でた。

 

「あ……」

 

その撫で方はオトハにとって、どこか懐かしさを感じさせるものであり、もっと撫でてもらいたいと思ったがーーー妹紅はある程度優しく撫でると、「続きはまた今度な?」と言って手を離し、シュライバーへと向き直った。

 

「嬢ちゃんは少し下がってな。私はちょいとこいつを一発殴るなりして、決着つけるから」

 

「あははは!やっぱり面白いよお姉さん、僕を殴るって?出来るもんならやってみろよぉ!!」

 

そうして二人は同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

妹紅は再び火の鳥を生み出し、シュライバーへと放ちながら接近する。火の鳥は火の粉を撒き散らしながら、目の前の少年を焼き尽くさんと飛翔する。

しかしーーー

 

「もうその攻撃じゃ、僕の不意はつけないよ」

 

シュライバーは飛翔する火の鳥を上を飛び越し、自らに降りかかってくる火の粉を銃撃で相殺させながら、妹紅へと一瞬で距離を詰める。

 

「不滅『フェニックスの尾』」

 

一方の妹紅は走りながらも、次のスペルカードを発動した。

瞬間、妹紅の周囲に高密度の弾幕が現れる。

 

「ならこれも全てかわせるだろうーーーね!」

 

すでに妹紅の周りには数百を超える炎弾がひしめき合いーーー彼女が手を振り下ろすと同時にひしめき合っていた炎弾が爆ぜ、シュライバーへと一斉に襲いかかる。

 

「あははははは、無駄無駄無駄ァッーーー」

 

しかしシュライバーはその高密度の弾幕の隙間を縫うように駆け抜ける。

そしてついに妹紅(ターゲット)の目の前まで辿り着いたシュライバーはーーー

 

「はぁっ!!」

 

妹紅の手加減無しで放たれた拳を彼女の背後に回り込む事で回避する。

そして彼は飛び上がって回転しながら妹紅に鉈のような踵を落とす。

 

「いっつ〜……中々重い一撃だねぇ」

 

妹紅は即座にそれに反応、自らの腕で踵落としを受け止めて、お返しとばかりに至近距離で弾幕を放つ。

 

「ーーーーーー」

 

流石にこれ程の至近距離からの弾幕はかわせないのか、シュライバーは身を翻して飛んで距離を取り、二つの銃口を妹紅へと向けながら再び不可視の神速となって駆け抜け始めた。

 

「じゃあ今度は僕の番だ、避けてみろよぉ!」

 

その言葉と共に二つの銃口から一気に火が噴く。

連続で吐き出される弾丸は百発以上。もはや拳銃の常識などとうに超えているその弾数はもはや完全な面攻撃だ。

それに対し妹紅はーーー

 

「ぐっ……滅罪『正直者の死』!」

 

放たれる銃弾が体に突き刺さる痛みに耐えながらも、新たなスペルカードを発動させる。

スペルカードが発動した途端、妹紅の周りからは新たな弾幕が現れ、シュライバーに再び襲いかかる。

 

「あははははは!それも無駄だよぉ!」

 

しかしそれでも彼には当たらない。迫り来る弾幕などはどれ一つ擦りもせず、シュライバーは発達した犬歯で少女の首を噛み千切らんと接近する。

がーーー

 

「来たね……!」

 

妹紅は恐るべき速さで迫ってくるシュライバーを正面に見据えて、不敵に笑った。

先ほど妹紅が放った弾幕はどれもライン状に並んで飛んでいくもので、相手の動きを制限する為のものだ。妹紅はその弾幕を使い、シュライバーの走るルートを限定し、誘導したのだ。

 

「どんな攻撃でも絶対避けるんなら……これしか当てる方法はないーーーねっ!」

 

妹紅はそう言って、眼前に迫るシュライバー()を薙ぎ払うようにレーザーを放った。

 

「ーーーっ!?」

 

それに息を呑んだシュライバー。脅威のスピードで突進していた彼にレーザーを避ける術は無い。

急停止した所でどちらにせよ当たってしまうし、今から神速で後退したとしても無理だ。上や左右も逃げる隙間も無い程の弾幕のトンネルに覆われていて動く事は出来ない。

 

 

 

もはや誰がどう見ても完全に決着がついたーーー妹紅も、そして今まで陰に隠れてこの戦闘を見ていたオトハもそう思った。

がーーー

 

「ーーーーーー」

 

血走ったシュライバーの隻眼が妹紅の視線とぶつかる。

そこに渦巻くのは判別不能な狂気の混沌。縦に細長い獣めいた瞳孔が微かに揺らめき、口許が吊り上がる。

 

 

 

 

 

「形成

Yetzirah―」

 

 

極限まで遅まったような世界の中で、紡ぎ出されたのはーーー

 

 

「暴嵐纏う破壊獣

Lyngvi Vanargand」

 

 

 

 

 

紡ぎ出された言葉が終わると共に、弾幕とレーザーが打ち消される程の爆発が起こった。

オトハはそれに驚き、耳を塞ぎながらうずくまった。

 

「ううっ……」

 

そうして耳鳴りが徐々に収まってきたのを確認したオトハは顔を上げる。

そこにはーーー

 

「……今のもかわされたか……」

 

薄っすら苦笑いを浮かべながらも驚愕している妹紅とーーー

 

「残念〜、もうちょっとで当たる所だったよ」

 

立ち込める土煙の向こうからケラケラと笑うように言うシュライバーの声が聞こえた。

それと共に、辺りに吐き気を催す程の濃厚な血の匂いと排気ガスの匂いが充満し始めた。

 

「……う……」

 

「……この匂い。全く、今まで君は何人の人を殺してきたんだ?少年」

 

その匂いにオトハは鼻と口を押さえて匂いを遮断し、妹紅はそんな匂いを嗅いでさらに苦笑いを浮かべた。

 

「ん〜……まあ、十万は超えてるかな?あんまり詳しくは覚えてないんだよね」

 

一方この濃厚な血の匂いを発しているであろう声の主は、どこまでも明るい声で妹紅の疑問に答えた。

 

「さて、それじゃあそろそろ僕も本気を出そうかなーーーって思ったんだけど、どうやら時間切れみたいだね」

 

「……?」

 

オトハが首を傾げたその言葉の意味はーーー天井が大きく崩れ落ちた事で理解する。

 

「ハイドリヒ卿に目的が済んだらすぐに戻ってこいって言ってたからなぁ……本当に残念だよ、久々に楽しめる相手に会ったのにさ。ま、次にお預けだね」

 

「……はっ、ありがたい事だね。まあ、私もこんな状況で牙を向ける程戦闘狂じゃないし。それに今まで忘れてたけど後ろの嬢ちゃん助ける事が目的だからね。でもまた次に会ったら、今度こそ殺してやるから覚悟しなよ?」

 

「僕を殺す……か。楽しみにしてるよフジワラノモコウ!……アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハハーーーーーーッ!!」

 

妹紅の言葉にシュライバーは哄笑しながら、エンジン音を響かせて去って行った。

すると辺りの空気が徐々に普通の空気へと戻っていく。

 

「……はぁ……」

 

元に戻った空気を大きく吸い込んで、胸に溜まった腐臭を入れ替えるオトハに妹紅は近付いていく。

 

「嬢ちゃん、大丈夫?」

 

「…………はい」

 

妹紅はオトハの目線に合わせてしゃがみ込んで、再び優しく笑いかけた。

 

「ごめんね?私の個人的な欲求の為に巻き込んじゃって……」

 

「……大丈、夫……」

 

そう言うも、シュライバーと妹紅の殺気を微量ながらも当てられていたオトハの声は震えていた。

 

「…………ねぇ、嬢ちゃん。私と一緒にここから逃げよっか。その時にさっき怖がらせたお詫びもするから……ね?」

 

妹紅の優しい問いかけに、オトハは俯きながらも小さく頷いた。それを確認した妹紅は再び優しい笑みを浮かべて、オトハと手を繋ぐ。

 

「じゃあ、こっちに来てーーー」

 

そう言って妹紅はオトハと共に、割れた窓へと近付く。

 

「どう、するの……?」

 

「ん〜……そうだね。まずは背中に乗ってくれる?」

 

「え……?」

 

「早くしないと、ここ崩れちゃうよ」

 

妹紅のお願いにオトハは戸惑ったものの、妹紅のその有無を言わせない言葉に気圧され、渋々妹紅の背中へと乗った。

 

「それじゃあーーー嬢ちゃんにはお詫びとして少しの間だけ、いいものを体験させてあげよう。これからの事は他の誰にも言っちゃダメだからな?」

 

妹紅は窓に手を掛けながら振り返って、にかっと大事な秘密を教えた子供のような笑みをオトハに向けた。

 

「それじゃーーーしっかり掴まって!」

 

その言葉と共に妹紅は窓からバッと飛び出した。

 

「〜〜〜〜!!」

 

あまりにも突然の行動に、オトハは驚いて目を瞑った。

落下して、地面に叩きつけられるーーーそう思ったものの、いつまで経ってもその来るべき衝撃は来ない。

不思議に思ったオトハはゆっくりと瞼を開きーーー目を輝かせた。

 

 

「わぁ……!」

 

眼下に見えるのは、建物の明かりなどで光り輝く諏訪原市の街並み。そして上を見ると綺麗な満月と満天の星空がある。

 

「どうだい?中々綺麗なものだろう?」

 

それに見惚れていると、オトハを背負って飛ぶ妹紅の声が聞こえた。

妹紅の背中からは紅蓮に燃える炎で象られた鳥のような翼が生えていて、オトハはふと、その炎に触れてみた。その炎は全くと言っていい程オトハにとっては熱くない。むしろ触れるとなぜか昔懐かしいような気分になった。

 

「おっと、あまり羽に触れるなよ?そんなに身を乗り出して落ちても知らないぞ〜」

 

そう言ってケラケラ笑う妹紅にの言葉に、オトハは慌てて妹紅の背中にしがみついた。

その様を見た妹紅は再び笑い出し、それにつられてオトハもまた笑みを浮かべた。それはここ最近浮かべなかったオトハにとっての心の底からの楽しそうな笑みだった。

 

「さて……もう少しだけ飛んだら近くに降ろしてやるよ。……そんな悲しそうな顔をするなって……また会ったらやってやるから……な?」

 

「……うん!」

 

 

そうして不死鳥は綺麗な月を背景に天高く飛翔して行ったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、日本国内でとあるニュースが駆け巡った。

見出しは「諏訪原市のビル火災。原因は夜空に舞う不死鳥か!?」という何も知らない人からしたら何それ?と言える見出しだった。

内容は昨日諏訪原市内で一棟のビル火災が起きた際、全くの同時刻に諏訪原市上空で赤く燃え上がる鳥のような謎の物体が目撃された為、一部の一般人などがこの不死鳥が原因で火災が起こったのではないか?と言うものであった。

この謎の物体は多くの人の目に触れており、さらに写真も動画なども数多く撮影された。

しかしどの写真も動画も靄がかかったように不鮮明であり、一部のマニアやUMAを深く研究している機関などがそれらの解析などをしたもののーーー終ぞ、その火の鳥の正体は分からなかった。

 

 

 

 

あの夜ーーー一そんな多くの人から注目を浴びた火の鳥の影に隠れて、二人の少女が楽しそうに笑いながら飛翔していたのは誰も知らないーーー

 




というわけで水銀によって新たな被害者、藤原妹紅さんがやってきました(苦笑)彼女の登場は当初から決まってましたけど……ようやく出せた……。ちょっと戦闘好きな妹紅になったけど……大丈夫だよね?
妹紅ってザミエル卿と火力比べでドンパチしまくりそうだな〜……とか思ってる作者です(苦笑)まあ、今回はシュライバー卿と軽く殺りあってしまいましたけど(苦笑)
彼女はこれからどう関わっていくのでしょうか?そして紫様や幻想郷の皆さんの反応は?
まあ、それは後々書くかもしれないので置いておいて……。

妹紅のスペルカードは原作を見て、一部仕様を変えさせていただきました。戦闘シーンでおかしい所があったりしたのならば、ご意見よろしくお願いします。

尚、美亜については次回書く予定です。

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

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