アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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とても早い更新!やっぱり好きなキャラだと書きやすいですね(笑)
なんか今話で目立っているキャラ二名は色々な意味で作者が贔屓しまくっているなぁ……と改めて感じました(笑)
今回は少し短いですが、お楽しみください!



第四十二話

side 朔夜

 

 

「ーーーお祖父様が行方不明……?」

 

(わたくし)は通話相手である、とある病院の関係者からの言葉を反復し、らしくなく茫然自失となりました。

皐月市から戻り、自らの執務室に入ると見計らったかのように鳴り響いた電話。

それに出てみれば、いきなり私を創り出し、病床に伏していたお祖父様が行方不明ーーー私自身、もうあまりお祖父様に深い思い入れは無い筈なのですが……茫然自失となってしまったという事は、多分心の奥では多少なりとも気にしていたのでしょう。本当にらしくない反応をしてしまいました。

当然、そんな私の反応に気付いた彼らも私を気遣ってくれます。

 

「何?それはどういう事だ?」

 

「朔夜さんの祖父……九十九月心(げつしん)教授が行方不明……?」

 

「シッ!まだ話してるよ。朔夜ちゃん、気にせず説明を聞いて?」

 

その言葉に私は頷き、通話相手の話を聞き始めました。

それによるとお祖父様は今朝、寝ていたベッドから忽然(こつぜん)と姿を消したようで、現在警察やドーン機関の者たちが周辺の捜索をしていると聞かされました。

とは言え、病床に伏しているお祖父様が出歩くという事は考えづらく、警察や組織では誘拐などの可能性も視野に入れているともーーー

それらの報告を聞き終えて電話を切った後、一緒にいる三人に事の次第を伝えました。

するとーーー

 

「そうですか……何事もなければいいですね……」

 

「そうだね……そういえばこの事は朔夜ちゃんのお父さんやお母さんは知っているのかな?」

 

安心院のその言葉に、私はどきりとしました。

なぜなら私はお祖父様の意志を継ぐ為に生み出された存在ーーーつまり人形と言っても差し支えないものであり、そんな私には父や母というような存在はいませんから……。

 

「…………ああ、ごめん。あまり触れられたくない話みたいだね……?」

 

「っ……」

 

安心院は何かしらのスキルを使ったのか、とても申し訳なさそうな顔をしました。

私はそんな彼女の顔を見るのがなんだか悲しくなってきてーーー

 

「いえ、大丈夫……ですわ」

 

顔を俯かせながら答えました。

 

「…………とりあえず僕たちは戻ろうか?透流君たちも待ってるかもしれないし……」

 

「……だな。じゃあ、朔夜。悪いけど……お疲れ様」

 

「ええ……お疲れ様ですわ。今日はありがとうございました」

 

そして三人が出て行き、ドアが閉まると私は執務室から隣にある自室へ移動しました。

部屋には煌びやかなシャンデリア、豪華な真紅の絨毯(じゅうたん)、装飾が細かに施された家具やテーブル、天蓋(てんがい)付きのベッドなどがあり、私はそれらを眺めてふと呟きました。

 

「……いつも過ごしている部屋なのに……なぜこんなに淋しく感じるのでしょう……」

 

そう呟くも、返事は返ってきません。誰も居ないので当然の事なのですがーーーそれがより一層淋しさを引き立てます。

私はそんな気持ちを感じながら、ベッドに座りました。

 

「……月が綺麗……」

 

そして窓から覗く月明かりを見ながら、私はただぼーっとしていましたわ。

その間、私の脳裏で思い返していたのはお祖父様と過ごした記憶ーーー

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーうぅ……ここは……?』

 

『……目が覚めたか、朔夜』

 

『……貴方は……?』

 

『私は九十九月心。お前の祖父に当たる」

 

「……私の……お祖父様……?』

 

『そしてお前は九十九朔夜ーーー私の研究と《操焔(ブレイズ)》の名を継ぎ、神を創り出す為に私が生み出した存在だ』

 

 

 

 

 

『……何をしている、朔夜』

 

『お祖父様。少々暇でしたので、絵を……』

 

『そんな事を聞いているのではない。なぜ《焔牙(ブレイズ)》の勉強をせずに、そのような意味の無い事をしているのかと聞いているのだ』

 

『そ、それは……気分転換にと』

 

『気分転換ならば時間が無駄にならない有意義な事をするのだな。このような事は意味が無い。もっとしっかりと勉強をするのだ。また夕食を無しにしても構わないのだぞ』

 

『……申し訳ありません』

 

 

 

 

 

『……これはなんだ?朔夜』

 

『今日はお祖父様の誕生日ですから、私からお祝いをしたいとーーー』

 

『そのようなものはいらん。それよりもお前はしっかりと勉強し、お前自身の存在意義を果たす事だけに尽くせ。このような無駄なものに時間を使うな』

 

『………………』

 

 

 

 

 

『…………朔夜、最近決められた時間内に課題が終わっていないそうだな』

 

『お、お祖父様……申し訳ありません』

 

『なぜ勉強が遅れている。答えよ』

 

『………………』

 

『答えよ。言えぬ事なのか』

 

『……その……お祖父様……』

 

『……もしや、愛情などというものが欲しい……などと言うのではあるまいな?』

 

『っ……』

 

『くだらん。そのような感情をお前に向ける必要は無い。お前は私の研究を引き継ぐ為だけにこの世に生を受けたのだ。お前という存在全てはそれを成し遂げる事だけに価値がある。故にお前に愛情などという無駄なものなど向ける意味も価値も無い』

 

『…………っ……』

 

『まだ分からぬか、朔夜。お前はただ私の目的を果たす為だけに生きているのだ。他者から向けられる愛情など単なる邪魔でしかない。そもそもお前にそんな感情を向ける者もいないだろう』

 

『…………っ……!』

 

『己の価値を改めて認識出来たのであれば部屋に戻り勉強をしろ。今度遅れたらどうなるかーーー分かっているな?』

 

『…………はい、お祖父様』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーっ!!」

 

そして私の意識は急激に覚醒する。

 

「…………夢、ですのね……」

 

どうやら昔の事を思っている内に眠ってしまったようですね。

その事に内心ため息をはきつつ、体を起き上がらせようとしますがーーー

 

「…………?」

 

ふと、自分の視線が寝ている時より若干高い事に気付きました。いつの間にか下に枕でも敷いたのか……とも思いましたが、その考えは即座に違うと実感しました。

 

「目が覚めたか……?」

 

「なっ……!?」

 

私が顔を上げると、そこには苦笑いを浮かべている見慣れた顔がーーーここ最近一番多く共に刻を過ごしている恋人の顔が間近にありました。

 

「あっ……えっ……?な、なぜ……?」

 

「ああ、あの後やっぱり心配になってな……飯とかさっさと済ませて、様子を見に来たんだよ」

 

恋人ーーー影月はどこか申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言いました。

 

「ーーーあっ……ひ、膝枕をしてくれて……それになぜそんな顔を……?」

 

「まあな。普通だったら様子を見て、戻ろうと思ったんだけど……せっかく来たから久しぶりに膝枕でもしてやろうかなと思ったんだ。でも膝枕をして少し経ったら突然朔夜がうなされ始めたから……」

 

影月は少し困ったような笑みを浮かべながら謝罪してきました。

 

「ごめんな?俺が膝枕しなかったら、うなされてなかったかもしれない」

 

「いいえ」

 

私は影月の謝罪を否定しました。

 

「どちらにしても、私はうなされていたでしょう……それになんだか貴方が膝枕をしてくれたおかげか目覚めがいいですし、なんだか救われた気持ちになりましたわ。……ふふっ、私が目覚めるまで膝枕をしてくれてありがとうございました」

 

「……ああ」

 

その言葉に驚いたのか、影月は少し目を見開いた後に少し作ったような笑顔で私の頭を撫でてくれました。

 

「…………♪」

 

ですがその笑顔の不自然さは頭を撫でられた事の嬉しさで忘れてしまいました。

撫でられる事が気持ちよく、目を細めて影月の手に自分の頭を押し付けた私でしたがーーー

 

「……なあ、朔夜」

 

「なんですの?」

 

次に影月が言う言葉でその嬉しさや気持ちよさは一瞬で吹き飛んでいきました。

 

「貴女を膝枕した時に……その、何て言うか……貴女がうなされていたから……気になって貴女のうなされていた夢の内容と、貴女の過去を見させてもらったんだが……」

 

「!!?」

 

その言葉に私は、影月の撫でる手を払い除けて起き上がる。

 

「え……?な、なぜ……?」

 

「…………永劫破壊(エイヴィヒカイト)の位階で一番下は活動。活動位階は聖遺物の特性、機能を限定的に使えるーーーって言えば、頭の良い貴女なら気付くんじゃないか?」

 

「……あ……」

 

私はその言葉で、ある事に思い至る。

 

「俺の能力は何度も聞いてると思うが、確率視則と確率操作……活動位階なら大雑把にだけどその人の過去とかを見られるんだ。まあ、過去を知られたくないって強く思ってる人は俺でも創造位階位にならないと見られない。朔夜もその一人だったと思うし、その驚きを見るにそう思ってたんだろ?でも寝ている間なら、強い意識的な防御は失われるんだ。つまり寝てる人ならより深く、詳しく過去を見れるんだ。ーーーどんなに過去を知られたくないって思ってる人でもな。安心院とかならスキルで他人の過去とかもハッキリ見えるのかもしれないけど……俺はそんなものさ」

 

「…………」

 

そうだった。彼はそういう事に長けている人物ーーーだとしたら……。

 

「なら……以前の午睡(シェスタ)の時でも、私の過去は見れた筈でしょう。しかしその口ぶりから察するに、見ていないのでしょうか?なぜその時に……?」

 

その問いに影月はーーー

 

「俺は誰彼構わず過去を盗み見たりしない。あの時は朔夜もぐっすり眠っていたようだし……今日みたいにうなされたりして、気になる反応をしてなかったからな。それにさっき部屋を出て行く時に、今にも泣きそうな声で俯かれたら……流石に気になる」

 

「……っ……」

 

そう言うと、影月は私の頭に手を置きました。

その手は軽く乗せている筈なのに、どこか重く感じました。

 

「皆が昔、幸せだった訳じゃない。俺や優月みたいに特に不自由無く育って、幸せな人はこの世の中多い。でも透流やユリエみたいに大切な人を誰かに殺されたり、《K》みたく暗い人生を送ってきたりと過去に辛い経験をした人も少なくない」

 

「だが」、と付け足して影月は続けました。

 

「俺はこの学園の生徒とか、色々な人の過去を見てきたけど……朔夜の過去が一番辛いと思う。ある目的を果たす為に生み出されてーーーその目的に必要無い物や気持ちは一切与えられなかったし、教えられなかった。親から本来向けられるだろう、愛情もーーーだから貴女はあの時、全てを諦めた。「人間」として壊れてしまったんだよ」

 

「っ……っ……!」

 

影月の言葉が私の中に浸透していき、彼の顔がーーー視界が揺らぎ始める。

 

「ああ、貴女が昔から知っていたリーリスも思ってたみたいだけど……余計な感情は持たず、ただ自分の祖父の言いなりになって、「人間」として壊れた貴女は、まさに「操り人形」って言われても無理はない」

 

「………………」

 

「操り人形」ーーーその言葉で涙が溢れ出す。

知られてしまった。自分の最も知られたくない過去をーーー大切な人に。

その瞬間、私の胸に渦巻いたのはーーー恐怖。

今まで隠してきた私の過去を知って、彼はこの後どんな事を言い、どんな行動をするのだろう。幻滅するだろうか。「人間」とは言えない私に嫌悪感を抱くだろうか。

そんな過去を送ってきた私は嫌いだとか言われて、拒絶されてしまうのだろうか。あるいはそんな事すら言ってもらえず、口すらも聞いてくれなくなるのか。

あるいはーーー無言でここから立ち去り、もう会ってくれないのだろうか。

いずれにしても嫌われてしまうーーーそんな感情が私の内に芽生え始めて……さらに涙が溢れ出てくる。

 

「……なぁ、朔夜」

 

「っ!!な、なんですの……?」

 

影月に呼ばれ、咄嗟に目元の雫を拭って俯いて返事を返す。でも顔を上げて彼の顔を見る事が出来ない。

 

 

こんな「操り人形」である私の情けない顔を彼に見せたくない。

そしてもしこの後に続くものが拒絶の言葉だったらーーー彼の顔を見て聞きたくない。もし彼の顔を見て聞いてしまえば、私はもっと壊れてしまうかもしれないーーー私はそんな気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

でもーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーえ……?」

 

影月がしてくれた事は私に対する罵倒でも、無言で立ち去る事でも無くーーー私の体を優しく引き寄せ、抱きしめてくれる事でした。

 

「全く……そんな思いも俺には分かるんだよ。拒絶もしないし、罵倒なんて浴びせない」

 

影月の声はとても優しく、どこか落ち着くものでした。

 

「ああ、貴女は確かに「操り人形」だったかもしれない。でもそれは貴女の祖父の所為(せい)だ。それにーーー今の朔夜はもう自分の意志をしっかりと持った「人間」だよ」

 

「えっ……?」

 

「朔夜はもう祖父の意志に縛られていないんだよ。俺に好きだって告白した時からずっと……な?」

 

その言葉にハッとする。

 

「俺に好きだって言ってくれたその気持ちは、祖父に操られて言った訳じゃないだろう?ーーーそれだけで、朔夜は祖父に掛けられた「操り人形」という束縛を自分で抜け出したんだ」

 

「っ……!」

 

「そして、祖父の言っていた「そんな感情をお前に向ける者はいない」……だっけ?その言葉は俺が否定してやる。俺自身が朔夜に好きだって“愛情”を向けているんだからな」

 

「っ!影月……!」

 

彼のその言葉に私は嬉しくなり、彼を抱きしめ返す。

 

「ずっと淋しかっただろう。普通なら与えられる愛情が、朔夜には一切与えられなかったんだからな……でも、もう大丈夫だ。これからは俺が与えてやる。俺が貴女をずっと愛してやる」

 

「……影月……!」

 

さらに続いた言葉により、私の堰き止められていた涙が止まる事無く流れ出してきました。

 

「だから、ほら……もう泣くなよ」

 

「影月……ありがとう……!私の心の悲鳴に気付いてくれて……!!」

 

「……俺はそう大した事をしてないよ。ただ貴女が助けてとか愛してほしいって感情を強く持っていたからーーー俺は自分の気持ちに従って、それに手を差し伸べただけに過ぎない」

 

そして彼は、私をとても大事そうに、さらに強く、優しく抱きしめてくれた。

 

「大丈夫。朔夜の大切な刹那はまだ過ぎ去っていない。これからだ。これからも俺や優月、安心院や透流たちと楽しく過ごす日々ーーーそれが朔夜の刹那で、俺たちの刹那だ」

 

「……くすっ、それは蓮様の受け売りですの?」

 

「……そうだよ、悪かったな。ーーーでも、俺は蓮が言っていたあの言葉、悪くないと思う」

 

「……ええ、私もそう思いますわ」

 

私たちは抱き合ったまま、お互いの顔を見て笑う。

 

「朔夜」

 

「……はい」

 

「これからもずっと貴女の事を好きでいいか?」

 

「もちろんですわ。私も影月の事を好きでいて……いいでしょうか?」

 

「もちろん」

 

「……ふふっ」

 

「……ふっ」

 

その言葉を聞いて私たちはさらに笑みを深めーーー

 

「ん……」

 

「んんっ……」

 

そして、私たちはどちらからともなく唇を重ね合わせました。

お互いの気持ちを確かめ合うかのように、長くーーー

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………安心院さん、もういいですよ」

 

「……いいの?もう二人の様子を見なくて」

 

「いいんですよ。それにこれ以上見るのは無粋じゃないですかね?」

 

「……それもそっか」

 

寮内のとある一室で優月と安心院は隣合って座っていた。

理由は優月の兄と幼い少女の様子を安心院のスキル経由で見る為だ。

だがそれも、二人が口づけをした時点で様子見をやめる。これ以上見るのは本当に野暮だからだ。

 

「はぁ……それにしても、優月ちゃんはいいの?」

 

「何がです?」

 

安心院は二段ベッドの下に寝転がって優月に問い、優月はその質問に対して首を傾げる。

 

「二人があんなに仲良くなっちゃってさ。優月ちゃんは嫉妬したりしないのかなって思ってね」

 

「嫉妬、ですか……」

 

優月は少し考えて答えた。

 

「まあ、少しはしますよ。でも、仕方ないかなって思います」

 

「仕方ない?」

 

「はい、私だって兄さんが大好きです。でも朔夜さんは兄さんが好きみたいですし、兄さんも朔夜さんが好きみたいですからね。相思相愛の二人の間に入り込むなんて真似は私には出来ませんよ」

 

さらに優月は続ける。

 

「そして兄さんは朔夜さんと同じくらい私の事も大事にしてくれていると信じていますから……最愛の妹として。ならそれでいいじゃないですか」

 

「…………影月君はすごく信用されてるみたいだね」

 

優月の笑みを見て、安心院が苦笑いしながらそう言う。

 

「多分、兄さんは安心院さんの事も大事にしてくれていると思いますよ。分かりづらいと思いますけど……」

 

「そうかなぁ……あまりそう感じないぜ」

 

「ふふ……安心院さんもいつか分かる時が来ると思いますよーーーじゃあ、寝ましょうか?兄さんはさっきのを見た限り、多分戻ってこないでしょうから下のベッド使っても大丈夫じゃないですかね?」

 

「…………いや、今日も優月ちゃんの所に寝ようかな。ダメかい?」

 

安心院がそう言うと、優月は一瞬驚いたような顔をした後に、満面の笑みを浮かべてーーー

 

「いいですよそれじゃあ一緒に寝ましょうか?」

 

「そうだね」

 

そして部屋の電気を消し、二人はベッドに向かい合うようにして横になる。

 

 

 

 

そうしては各々、思い通りの事をし、眠りにつくーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい?君たちはそんな程度で僕と遊べる気か?」

 

「か、構うな!弾幕をばら撒け!声が聞こえた所には集中的に撃つんだ!」

 

その頃、南米のとある会社ビルではウォルフガング・シュライバーが襲撃をかけていた。

この会社ビルは一般社会に上手く溶け込んではいるもののーーーその偽装の下は、とある裏組織の息が掛かっている重要施設だ。

それが証拠に、このビル内にいる警備員が重武装をして突撃銃(アサルトライフル)をぶっ放すなど、普通の会社ではありえない話である。

 

「くそっ!弾がーーー」

 

そんな警備員の一人が弾切れとなった銃を床に投げ捨て、腰のホルスターにある拳銃を手に取ろうとしたが、どこからか放たれた銃弾に頭を撃ち抜かれて即死する。

 

「ほらほら、こっちだよ〜当てれるものなら当ててみな〜!」

 

シュライバーは片手に持つルガーを警備員たちに向けたまま、挑発する。

 

「なっ!?子供!?」

 

ここで初めて姿を見せたシュライバーに一人の警備員が驚くがーーー

 

「ほらほら、早く撃たないとーーー君たちの方が死んじゃうよ?」

 

シュライバーはその驚いた警備員の眉間に銃弾を無慈悲に撃ち込み、その警備員を即死させる。

 

「っ!貴様ぁぁぁぁ!!」

 

それを見た警備員たちは死んだ仲間の仇と言わんばかりに銃を乱射するもーーー

 

「よっーーーほっーーーっと」

 

側宙やバク宙を駆使して、それらの弾を全てかわすシュライバー。

遊んでいるのか、ニヤニヤと笑いながら、見せつけるかのように回避している。

 

「なんだあの少年!?」

 

「おい、あれはあるか!?」

 

「ああ!」

 

「んん?」

 

そこで警備員の一人がある物をシュライバーに向ける。

それはホーミング誘導式のミサイルだった。

 

「それなら僕に当てられると思ってるのかい?」

 

「くらえ化け物め!!」

 

シュライバーの言葉には耳を貸さずに、警備員は狙いをつけた誘導ミサイルのスイッチを押す。

それと同時に誘導弾が射出され、シュライバー目掛けて突き進む。

 

「アハ、アハハ、アハハハハハハハハハ!!」

 

その光景を目の当たりにし、突如狂ったように哄笑するシュライバー。

その様を見て、警備員たちの背筋には凍る程の冷たい何かが押し当てられた感覚がした。

それは言うなればーーー殺気だ。もちろんそれを発しているのは彼である。

 

「遅いんだよ、ノロマが!!」

 

そう言うと同時にシュライバーの姿が目の前から消えーーー

 

「がっ!」

「ぐっ、がぁ!」

「あがっ!」

「ぐあっ!」

 

瞬く間に残っていた警備員たちが断末魔の悲鳴を上げて倒れ込み、絶命する。

 

「今の僕に攻撃を当てたいんなら僕の不意を突くか、せめてマッハ以上の速度で攻撃しないとねぇ……さて、それじゃあここも終わったし、戻ろうかな」

 

シュライバーはつまらなさそうに自らが殺した死体を一瞥し、二丁拳銃を仕舞って立ち去ろうとする。

だがーーー

 

「ーーーーーー」

 

ふと、背後に何者かの気配を感じる。

シュライバーは振り返る事無く、その気配の正体を考え始める。

 

敵の新手?ーーー違うだろう。

彼は向かってくる警備員は数分と掛からず全員応援を要請させる間も無く撃ち殺したので、新たな増援がもう来たとは考えにくい。

 

ではこのビルで働いていた関係者?ーーーそれも違うだろう。

シュライバーは逃げ遅れた一般人か、重要な立場にいる一般人位しか殺していない。前者は逃げ遅れたから自業自得、後者は絶対に逃がしてはいけないという命令故に殺している。さらに、こんな銃撃戦が繰り広げられていた建物の中にすぐに戻ってくる人などほぼ皆無だろう。

 

ならば第三の可能性はなんだろうと思考するシュライバーがある事に気付く。

 

(ん?この気配ーーー女の子かな?)

 

シュライバーは振り返る事無く、気配だけで性別とおおよその年齢ーーー女の子だと判断する。

本来ならば気配だけで性別とおおよその年齢などが分かると言っても、誰しもがそのような事は眉唾物だと言うだろう。

だがそれを出来ると胸を張って言えるのが、このウォルフガング・シュライバーだ。

 

彼は今まで数多くの人を殺し、喰らってきた。男性も女性も幼い子供も老人も、多くの者を殺した。

彼の眼帯が着けられた右目に詰め込まれている死者の数は、実に十八万五千七百三十一人。

雑魂の塊ではあるものの、単純な数で言えばこれは同じ大隊長のマキナとエレオノーレの三倍以上であり、団員の中でも最高の数である。

直接殺した人数の世界新記録であり、今も昔もそして未来も、おそらくこれからも増え続けるだろうこの記録は絶対に破られる事は無い。

 

それ程の人を殺した彼だ。気配だけで大体の事を察する程度の事など造作も無く出来てしまうのである。

 

「ねぇ君、どうしたのかな?こんな所に来ても何も……」

 

大体の考察を終えたシュライバーはここでようやく振り返る。

 

 

 

 

 

 

瞬間ーーーシュライバーに向けて炎が放たれ、()ぜた。

 

耳をつんざく激しい音と共に辺り一面が炎に包まれ、燃やし尽くされる。

先ほどシュライバーが殺した警備員の死体が焼け、辺りに死体が焼ける異臭が漂う中ーーー

 

「いきなりだねぇ。でもその程度じゃ、僕には当たらないよ?」

 

シュライバーは先ほど強行など無かったかのように平然と炎に包まれた道を歩いていた。

先ほどの攻撃を刹那の間に回避したのだ。そして先ほどの炎を放った者にそう笑いかけながら目を向ける。

そこにはーーー

 

「………………」

 

上着のフードを目深に被った小柄な少女が掌をシュライバーに向けて佇んでいた。

あまりにも深くフードを被っている為、その顔と表情は分からない。がーーー

 

「驚いたかい?そりゃあそうだろうねぇ?う〜ん……その反応を見る限り、僕が初めてかな?さっきの一撃をかわしたのは……」

 

シュライバーの目はしっかりとその少女の反応を見抜いていた。軽く笑いながら話しかけるシュライバーに対して少女が取った行動は……。

 

「アナタは……誰……?」

 

そう問い掛けながら、シュライバーに向けたままの掌から炎を撃ち出した。

それを今度は危なげなく、目に見える程の速さでかわして彼は答える。

 

「僕かい?僕は聖槍十三騎士団黒円卓第十二位大隊長、ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル。呼びづらいなら僕の本名のアンナって呼んでくれていいよ」

 

「アンナ……?」

 

「そう。よかったら、君の名前も教えてくれるかな?」

 

シュライバーは三度(みたび)放たれた炎を跳躍でかわしながら聞く。

その時、室内に充満していた熱風が舞い上がる。熱風は強く、少女が被ったフードを大きく揺らして捲り上げーーー少女の素顔が明らかになる。

その顔にシュライバーはーーー

 

(ん〜……ツァラトゥストラとかユサシロウと似た顔……日本人かな)

 

そういう感想を抱く。だがこの少女の顔はある者たちから見れば、とても驚き、目を疑うだろう。なぜならーーー

 

 

 

 

 

 

 

「私、はーーーオトハ……」

 

その少女の顔は()()()()()()()()()()()()透流の妹、音羽の顔そのものだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……オトハも逃げたかな?」

 

それから僅か数分後、シュライバーは一人、崖の上に佇んでいた。

そしてそのシュライバーの視線の先には赤々と燃え盛る一棟のビルがある。あの後、オトハと名乗った少女があの炎でビルを燃やし尽くしたのだ。

 

「面白い子だったなぁ……オトハ、オトハね……また会ってみたいよ」

 

あの後、ビルが火災により崩れ始め、シュライバーとオトハはそれぞれ別れて逃げ出した。

シュライバーは危なげなくこうして無事に逃げ出してきたが、彼はあの少女がしっかり逃げ切れたのか気になっていた。

 

「なんだろう……あの少女とはまた会う気がするなぁ……それに僕もまた話してみたいし……」

 

シュライバーは珍しく、人殺しをしている時に浮かべる狂気的な笑みではなく、親しい友人に会った時の少年のような笑みを浮かべていた。

 

「まあ、あの子を殺すのはまた今度ーーーさて、僕も帰ろ〜っと」

 

その言葉は虚空へと溶け込んでいきーーーそれと同時にシュライバーも音も無く姿を消した。

 




作者が好き過ぎて少々贔屓気味になってしまう双方の作品キャラ……それは朔夜とシュライバーでした(笑)

作者はdies iraeでシュライバーが一番好きだったりします(笑)
ちなみにその後に続くのはベアトリス(二番)、獣殿(三番)となります。

一方のアブソリュートでは朔夜が一番、次いで榊(二番)、ユリエ(三番)ですかね……。

……この好きなキャラランキング的なもので一話作れるかな…………無理か(苦笑)

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

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