アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
………………はぁ、小説始まります。
side 透流
「……う、う〜ん……あれ?ここは……?」
よく晴れた夏のある日ーーー俺は揺れるバスの中で目を覚ました。
「……ああ、そうだ。俺は……そういえば今、どこを走ってるんだ?」
俺はティーンズモデルをしている妹に差し入れをする為に、バスに乗ったのだが、そんなバスの中で寝てしまう程疲れてたか?と思いつつも、窓の外へ目をやる。
窓の外は海が広がっていていつの間にか、かなり目的地に近付いている事が分かった。
そう思っていると、俺が降りるバス停の名前がアナウンスされた。
「おっ、着くみたいだな。行くか」
俺はバスを降りる為にブザーを鳴らし、立ち上がった。
俺はバスを降りて、少し歩いた所にある海浜公園で妹を探しているとーーー
チリンと涼やかに響いた音色に足を止めて、その方向を向く。
そこには銀色の髪を風に揺らめかせた少女の姿があり、俺は不覚にも見惚れてしまった。
カメラ等の機材を向けられている様子から、どうやら彼女も妹と同じモデルのようだ。
「え……?」
ふと、銀色の少女と視線が合う。
どうして俺を見るんだーーーそんな疑問は直後に解決する。
「お兄ちゃんっ♪」
駆け寄ってきた
「子供じゃないんだから……」
「来るの待ってたんだもん♪」
「……待ってたのは俺じゃなくて、こっちだろ」
「えへへ♡でも、お兄ちゃんに来て欲しかったのも本当だよ♪」
差し入れのアイスが入った袋を見て、妹は屈託無く笑う。
「調子がいいな、音羽は」
「もうっ、本当だよぉ」
「分かった分かった。それよりこれ、他の子の分もあるからな」
「ありがとう。みんなに渡してくるね。……あ、そうだ。あと一時間くらいで終わるみたいだから、一緒に帰ろうね、お兄ちゃんっ」
そう言い残し、音羽は他のモデルの子たちの元へと駆けて行った。
これまで付き添いで撮影現場へ訪れた際に見た顔が何人もいる。
音羽からの差し入れを受け取ったらしく、遠目にだが彼女らに頭を下げられ、軽く手を上げて返す。
三、四歳は年下の女の子たちとはいえ、ああも華やかかつ可愛いとなると何だか照れくさいものだ。
その後、木陰のベンチでのんびりしながら撮影を見ているとーーー
「おや?九重さんではありませんか?」
後ろから声を掛けられる。俺はその声に聞き覚えを感じながら振り向く。そこにはーーー
「ああ、やはり九重さんでしたか。お久しぶりですね。貴方も差し入れか何かを?」
「お久しぶりです。神父さん。俺はちょっとアイスを差し入れに……」
長い金髪のカソックを纏った神父さんーーーヴァレリア・トリファさんがいた。
彼はこの町の教会に住んでいるドイツ人神父だ。外国人らしい見た目だが、こう見えてすごく日本語が堪能であり、顔も中々イケメンだと俺は思う。そしてその顔でされる穏やかな笑顔は子供たちや大人までも癒し、教会へ相談へ行ってそこで元気をもらったという人は多い。
「今日は一人ですか?」
「ええ、リザは買い物がありましてね。残念ながら、私一人で来たんですよ」
この人の奥さんーーーリザ・ブレンナーさんも教会で働くシスターだ。
この人とも俺は何度か会った事があるが、とても美人だ。それに出るとこ出てるし。
母性を感じるような笑みを浮かべるので、こちらも子供たちや大人(主に男性)たちに慕われている。
「というか神父さん、こんなに暑くてもカソックなんですか……」
「すみませんねぇ……他に外出に適した服が無いので仕方ないのですよ。まあ、私はそれほど暑いとは感じていませんがね」
カソックの他に適した服が無いというのはおかしい気がするが、それはこの人にとってはいつもの事なので突っ込まない。
「そういう神父さんも玲愛ちゃんに差し入れを?」
「ええ、テレジアの汗を拭く用のタオルと、熱中症対策の水とーーー」
そしてそこから神父さんは、手に持っていた袋から次々と差し入れを取り出してきた。
この人の娘ーーー
一応どれくらいの溺愛しているのかと言うと、以前教会に食事で音羽と一緒に招かれた時に、俺も音羽も思いっきり引く程である。
玲愛ちゃんに向かって、『美味しいですか?テレジア?』とか『食べさせてあげましょうか?』
とかすごく言っていたのだ。
まあ、それくらいならまだマシかもしれないが、『テレジア、私にあーんしてくれませんか?』と言った時には、俺たちは本当に体を後ろに引く程引いた。
その言葉を聞いた瞬間に、リザさんがいきなり恐ろしい雰囲気に変わって、さっきと変わらない筈なのだが背筋が凍る程の笑みで神父さんを縛り上げにかかっていたり、玲愛ちゃんが絶対零度の目で神父さんを見ながら、『神父様やめて。本当に気持ち悪いから』と言って神父さんが文字通り灰になったのを見てしまい、さらに引いたのだが。
ちなみに玲愛ちゃんにそう言われて灰になってしまった神父さんだったが、次の日には普通に蘇っていつものように玲愛ちゃんを溺愛していたのは、俺は正直すごいと思った。
もし俺が神父さんみたいに音羽に『お兄ちゃんなんて大っ嫌い!近寄らないで!』とか言われたら、一週間は寝込む自信がある。そんな俺と比べれば、神父さんはかなりすごいと思ったのだ。
「ーーーの二十個程ですかねぇ。もちろん他の子の分もありますよ?まあ、本当はもっと持ってきたかったのですが、リザに止められましてーーー九重さん?聞いていましたか?」
「聞いてきましたよ。それよりもほら、玲愛ちゃん来ましたよ」
俺がそういうと、神父さんはその方向に勢いよく向いた。その先には先ほどの銀色の少女程では無いが、こちらも少し青みがかった銀髪をした子が無表情のまま歩いてきていた。
「透流お兄さん、こんにちは。差し入れのアイス美味しかったです」
「お礼なんて良いって。それよりも撮影は?」
「私はまだまだ先ですよ。ここに来たのは、透流お兄さんにお礼を言いに来たのと、一応神父様の差し入れを受け取りに来ただけですから」
玲愛ちゃんは無表情のまま、そう告げる。
ちなみに神父さんは叫んだ後、玲愛ちゃんに向かって、ものすごい勢いで話しかけている。
まあ、俺も玲愛ちゃんもいつもの事なので無視してるわけだが。
「透流お兄さん。頼みがあるんだけど……また教会に遊びに来てほしいの。音羽ちゃんとももっと話したいし……」
「ああ、分かった。今度音羽と一緒に遊びに行くからな」
俺がそう言って笑うと、玲愛ちゃんはここに来て始めて笑みを浮かべて、お礼を言ってきた。
そして神父さんの持ってきた差し入れを手に、再び撮影現場へと戻って行った。
「ーーーそれから、撮影最中に変な風に触られたとかはありませんでしたか?ーーーあ、あれ?九重さん、テレジアは……?」
「たった今、差し入れを持って戻って行きましたよ」
それを聞いた神父さんはガックリと肩を落とした。
それからは神父さんも玲愛ちゃんを待つと言って木陰のベンチに座りながら話をしていると、ふとあの銀色の少女が目に映る。
彼女は撮影を終えたらしく、音羽たちの元へ近付いて行く。
音羽は彼女にアイスを渡すと、入れ替わりに噴水へ駆けて行った。
「とーるお兄さん、ですよね?」
その銀色の少女が俺の方へ近付いてきて、突然話しかけてきた事に俺はとても驚いたのだが。
「九重さん?どうしました?」
「違いますか?」
「え?あ、ああ、透流は俺だけどーーー君は?」
先ほど見惚れていた事もあり、どぎまぎしつつ尋ね返す。
「ユリエ=シグトゥーナです。音羽さんから、とーるお兄さんの差し入れを頂戴したので、そのお礼をと思いまして……」
どうやら差し入れたアイスを受け取り、話し掛けてきたようだ。
「気にする事無いって。それより解けないうちに食べてくれ」
彼女の手にあるカップアイスを指すと、彼女は頷きーーー俺の隣に座って食べ始めた。
(なぜここで食べる!?)
他のモデルの子たちの所へ戻るのかと思ったのに……わざわざお礼を伝えに来た事も含め、何か意図でもあるのだろうか?
噴水前で撮影中の音羽を見ながら、何か話さなければと頭を悩ませているとーーー
「ユリエさんーーーでよろしいんですよね?アイスのお味はいかがでしょう?」
「ヤー、とても美味しいです」
「音羽の好きなアイスなんだ」
「そうでしたか」
神父さんの助け舟と、銀色の少女が口元に小さく笑みを浮かべた事をきっかけに、会話が始まる。
やがて彼女はアイスを食べ終えるもーーー立ち上がろうとしない。
「……おや?皆さんの所に戻らなくてよろしいのですか?」
「……今日、初めて会う方ばかりなので、何を話していいのか……」
それは俺も神父さんも同じではーーーと思っていると、ユリエちゃんは音羽に視線を向けながら言葉を続ける。
「音羽さんとは何度か……。撮影で一緒になると、まだ日本に慣れていない私に、いつも話し掛けてくれるのです。私はとても感謝していて、その事をとーるお兄さんから伝えてもらえないかと思いまして……」
彼女が隣に座った意図は、この話を俺にしたかったようだ。
「どうして俺から?」
「……恥ずかしいので」
と僅かに頬を染めて俯く姿はとても可愛く、頭を撫でてあげたくなるーーーが、そんな誘惑を俺は振りほどく。
「ユリエさん、そういう感謝の気持ちは貴女が自分でおっしゃった方がいいですよ。その方が音羽さんも喜ぶでしょう」
「俺も神父さんと同じだ。俺から言うより自分からーーーな?」
「……そうですね。確かにそのとおりです」
神父さんと俺からの言葉に目を丸くし、僅かに間を置いてから彼女はこくこくと頷く。
「頑張れ」
「頑張ってください」
「ヤー」
今度は誘惑に耐えきれず、軽く頭を撫でると彼女はもう一度こくこくと頷いた。
その時、撮影スタッフがユリエちゃんを呼ぶ声が聞こえてくる。撮影の順番が来たようだ。
「すみません。私はこれで」
「ええ、私のテレジアとも仲良くしてあげてください。いずれ教会にも遊びに来てください」
「ヤー」
「音羽とこれからも仲良くしてやってくれよな」
「ヤー。私の方こそ、そうしていただきたいです。それとーーー」
立ち上がり、銀色の少女はその深紅の瞳でじっと俺を見る。
「とーるお兄さんも、仲良くして頂けるととても嬉しいです。ですがーーー」
そこで銀色の少女は可愛いらしい笑みを浮かべ、言う。
「まずは、貴方の世界の私をーーー救ってあげてください」
「えっ……?」
突然、銀色の少女が告げた言葉。その意味は俺には分からず困惑しているとーーー
「お兄ちゃんっ」
振り向くと、いつの間にか音羽が笑顔で立っていた。
「お兄ちゃんはこの世界のお兄ちゃんじゃないんだよ?だから早く元の世界に戻って、彼女をーーーユリエさんを助けてあげて?私からのお願いだからねっ♪」
その言葉と共に俺の意識は暗転していったーーー
『ようやく戻ってきたようだね』
暗転した先に待っていたのは、自分の体すらも見えない真っ暗な空間と、俺の脳に直接語りかけてくるような不快感に満ちた声だった。
そもそもここはどこなのだろう。
『ふむ……ここは君にも分かりやすく言えば、世界と世界とを繋いでいるその狭間とでも言うべきかな。先ほどまで君が見ていたのは、君たちが辿ったかもしれない世界ーーーつまりはifの世界の一つを見ていたのだよ』
辿っていたかもしれないーーー?
『そう。例えば君の妹が死んでいなかったとしたら?君が学んでいた道場が無かったとしたら?君が大切にしている
俺のいた世界……そうだ、俺のいた世界はーーー妹があいつに殺されて、俺は復讐の《力》を付ける為にあの学園に入って、そしてそこでユリエと会ってーーー
『そうだ。君の世界は彼女と共に歩む未来がある世界。しかし、今その未来は無くなろうとしている。他ならない彼女自身の手によってーーー』
何ーーー?
『知りたいかな?ならば君の元いた世界に戻るといい。そこに答えがあるのだからーーーそれに、君がいなくなり、あの少女が暴走してしまうのは私としても勘弁願いたい。それでは私が今まで積み上げてきたものが水泡に帰してしまうからね。君の仲間も哀しんでしまうだろう』
……………………。
『さて、私は君を送ってから退散させてもらおうかーーー君たちの進む先に勝利がある事を望んでいるよーーーでは、第一部の最終戦の幕を開けよう』
……ーーーーーーーーーーーーッ!!
闇の中に、何かの音が響いてきた。
それはーーー声。嗤い声だ。誰かが嗤っている。
そうと気付いた時、俺の意識は再び覚醒し始める。
(誰、が……?)
目を開けるも、思考と同様に視界がぼんやりしていて、誰の声なのかがはっきりと分からない。
その時ーーー俺のすぐそばで銀色の何かが揺れる様を視界に捉える。
次第に意識がはっきりしてくると、目に映る光景もクリアになってきてーーー俺は息を呑んだ。
「トール、トール、トール、トール、トール、トール、トール、トール、トール、トール……」
(どうしたんだ、ユリエ……。どうしてそんな顔を……?)
同じ言葉を呟き続け、見開かれた
そしてそんなユリエを見下ろしながら、高らかに嗤う男の存在に気が付く。
(ーーー《K》!そう、だ……俺は……!)
《K》の姿を目にし、記憶が
ユリエと共に、学園に襲撃を仕掛けてきた《K》と闘っていた事を。
闘いの中で、《K》の手にした赤刃に体を貫かれた事を。
どれ程かは分からないが、意識を失っていたようだ。
ユリエはおそらく、俺の姿を死んでしまった父親と重ねて見ているのだろう。とてつもないショックを受けているのだろう。
「…………ュ………ェ…………」
声が出ない。
体も動かない。
一メートルも無い距離の中でユリエは俺の名を口にし続けーーー突然ぷつりと止まる。
(ユリ、エ……?)
銀色の少女はゆっくりと虚空を見上げーーー呟く。
「許……シま、せン……。絶対、ニ……」
そして、銀色の少女から耳を塞ぎたくなるような高音が鳴り響きーーー濃厚な殺気が漂い始めた。
「絶対ニ……。絶対ニ……!絶対ニ許シませン……!!」
憎悪と
「ア……あ、ア……あァアアあああアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッッ!!」
天を仰ぎ、狼が咆哮するかの
まるで鎖を引き千切ったかのような音と共に、音が消えた。
高音はおろか、《K》の嗤い声すらも。
そしてゆらりと、ユリエは無言のままに立ち上がる。
「弔い合戦、といった所でしょうか?ですが、こちらとしてはお付き合いをする気は更々ーーー」
「アァアアアアアアアアアーーーッ!!」
《K》の言葉を遮り、ユリエが咆哮を上げーーー《焔》が銀色の少女の周囲に渦巻き始めた。
その《焔》は、《
ユリエは憎悪と憤怒と殺意を表すような色の《
《焔》は形を変えーーー《
見慣れている筈の《
彼女の瞳に浮かぶ感情を表すかのように、鈍く光る《
その禍々しい様を見て、さすがの《K》も動揺を隠せない。
「……ユリエ=シグトゥーナ……!?貴女は……一体何……!?」
それに対し、ユリエはーーー
「殺す……」
極大の殺気とそのたった二文字の言葉をもって返す。
そして憎悪を撒き散らしながら、銀色の少女は疾走を開始した。
side out…
(ーーーなっ!?速い!?)
《K》が構えようとした瞬間、ユリエはすでに《K》の目の前へと迫っていた。
ユリエの速さはこれまでとは比べものにはならずーーー《
そんな速さから放たれた音速を追い抜かす斬撃を、《K》は咄嗟に背後に跳ぶ事でぎりぎり回避する。《K》が回避出来たのはただの直感。昔から様々な戦場を渡り、培ってきた直感が彼を救ったのだ。
しかし完全にはかわしきれず、頬に一筋の傷跡が残された。
「くっ、これは……!?」
驚きを浮かべる《K》へ、ユリエは間髪入れずに追撃を仕掛ける。
「It's never permittedーーーIt's never permitted!」
絶対に許さないと叫び続けながら、振り下ろされた白刃は惜しくも赤刃で防がれるーーーが、ユリエは力任せにそのまま振り抜いた。
「くっ……!」
《K》の体が後方へ大きく弾かれる。
いくら《
「アァアアアアアアアアアーーーーーーー!!!」
もはや獲物を狙う銀色の狼と化した少女は、
彼女はすでに自我や理性などは吹き飛んでおり、ただ殺戮を巻き起こす怒れる銀狼と化していた。
もはや彼女の速さはこの場にいる誰にも追い抜かせないものとなっている。彼女を上回るのは現在黒円卓で二番目に速いベアトリスの創造を使える優月と、そのベアトリス本人、そして絶対的な最速を誇る黒円卓大隊長、ウォルフガング・シュライバー、後は黄昏の守護者であり、流出位階に達している藤井蓮とラインハルト・ハイドリヒとメルクリウスのみだろう。
「どのような手を隠し持っていたのかは分かりませんが、大人しくしてもらいましょうか!!」
背の《
《K》はそれを襲い来る銀狼に狙いを定めてーーー撃ち出した。
数え切れない程の光弾が撃ち出され、それらが一斉にユリエへと襲い掛かる。
(避けきれない……!!)
内心透流がそう叫ぶのも無理は無い。撃ち出された光弾はもはや機関銃の千の掃射より多く、もはや完全な面攻撃とも言える。いくら小柄なユリエであっても、潜り込める隙間は無い。正面から突破するならば《
しかし光弾は触れると爆発するので、叩き落とそうとしても全くの無傷というわけにもいかないだろう。それに完全な面攻撃に対してそれを行うのはあまりにも現実的ではない。
ーーーかわせる空間の消去。
そんな攻撃を潜り抜けるのは不可能ーーー透流も、そして《K》も間違いなくそう考えた筈だ。
そんな考えと共に見えた筋道をーーー
「ーーーアアアアアアアアアア!!!!」
ユリエは文字通り、その雄叫びによって消し飛ばした。
「バ、カな……!!?」
(こ、声でーーー光弾を吹き飛ばした!!?)
その光景に《K》は驚愕の声を上げながらその端正な顔を歪め、透流は目を見開いた。
ユリエは声でーーー狼が咆哮するかの如く、咆哮によって光弾の
なぜこのような事が出来たのかーーーそれはユリエ自身の速度にある。大気は音速を超えた瞬間に、物理的な壁へと変わる。ならば音速などすでに超えたユリエが生み出すのは、すでに壁どころか鉄槌だろう。彼女はその大気に自らの叫びを付加させて、押し出す事で自分の通り抜ける隙間を無理やりこじ開けたのだ。
もはや彼女が発する叫び声や、息などの全てに圧倒的な殺意や威圧が掛かっていた。
古来より狼の吼えは魔を討ち払う。
相手の光弾は魔とは言い難いが、強い魔の前ではその光弾がなんであろうと敵う事は無いだろう。
そして阻むものが何もなくなったユリエはそのまま《K》に近付きーーー激しい斬撃の嵐を浴びせ始めた。
一撃、二撃、三撃ーーー凄まじい剣速による攻撃を、《K》はなんとか銃を剣にして防いだり、受け流す。
しかし四方八方から襲いかかる攻撃全てを防御する事など不可能でありーーー《K》の纏う《
「ぐっ、はっ……!?この私が防ぎきれないなど……!!」
ユリエの振るう牙に《K》の反応が徐々に遅れ始めーーー
「アアァァアアアアアアッッ!!!」
ユリエの《
銃剣は派手な爆発音を立てて四散した。
「おのれぇぇぇぇ!!!」
《K》はほんの一瞬の隙をついて、宙へと逃れてユリエと大きく間合いを取る。
一方のユリエは疾走をやめ、自らの牙が届かない宙にいる《K》を睨みつける。
「ふははは!!まさか貴女がこのような《力》を隠し持っていたとは……ですが残念ですね。その《力》を最初から出せたのならば、九重透流は死ななかったでしょうに……。
「ウウッ……」
ユリエが呻きーーー更に殺気が膨れ上がった。
「……黙レ……黙レェェェェ!!!貴方が居なケレバ……トールハ……トールハ……!!」
ユリエは更に憎悪を増した目をキッと標的に向け、膝を折り、体を沈み込ませてーーー地を蹴った。
「愚かな!空は私の
残されたもう一つの銃をユリエに向け、《K》が嗤う。
実際、《
そんな事をしてもただ自分から標的にしてくれと言っているようなものである。
撃ち落とされる。
透流がそう思った刹那ーーーユリエが
「なっ!!?」
その様に透流も《K》も驚愕し、目を疑う。
ユリエは自らの速度で出来た大気の塊を足場にして、光弾を避けながら縦横無尽に駆け抜ける。
「It's never permittedーーー!」
「貴女は一体ーーー何者なのです!ユリエ=シグトゥーナ!!」
《K》はそう叫ぶも、無情にもユリエは《K》の目の前へと接近しーーー右の剣を水平に振り抜いて、もう一つの銃剣を破壊する。
次いで左の剣で《K》を斬り裂く。
月を背後に銀色の少女は舞い踊り、紅の飛沫が夜空に舞い散る。
ある種、幻想的な光景と言えるだろう。だがーーー
「がっ!ぐあぁぁぁぁ!!」
深い傷を負った《K》が落下しながら上げる叫び声で、その光景は殺し合いの最中に起きた光景なんだと再認識させられる。
《K》は地面に激突する寸前、翼の力を発動させ、地に叩きつけられる事を避けたがーーー
「Everything be poundedーーー!」
全て砕け散れと叫ぶユリエが、《K》に追いつき、四方八方から斬り刻み始めた。
中空に浮かぶ《K》はもはや竜巻に弄ばれる花びらーーーそれよりも酷い有り様となっていた。
当然そのような攻撃に晒されると《
「なっ!
《K》の最後の武器が真っ二つにされ、彼の武器は全て失われてしまった。
残された手段は隙を突いて空へと逃げ、そのまま離脱する事くらいだろう。
「ーーーーーーッッ!!」
だが、目の前の鎖を引き千切った獣から逃げ切れるだろうか?
ここまでの状況を見ているならば誰もが言うだろう。それは不可能だと。
こんな状況で逃げ切れたのならば、それは余程の幸運であったのだと言える。
かと言って立ち向かうのも無謀だ。《K》はすでに全ての武器を失っているので、もし戦うのであれば素手である。素手で音速を超える相手を倒すなど夢物語だろう。
つまり《K》は完全に詰んだのだ。
縦横無尽の攻撃が終わりを告げた直後、《K》は地に膝をつく。
装甲の厚い部分のおかげで致命傷だけは免れているものの、もはや決着は明らかだ。
ユリエはこの後、《K》が立ち向かってこようとも、飛び立ってどこまで逃げようとも、大切な人を奪ったーーーあるいは奪おうとした彼に牙を突き立てて、闘いを終わらせるだろう。
だがーーー
「ダメ、だ……。ユリ、エ……」
それを良しとしない者が今、立ち上がろうとしていた。
透流は痛みと苦しさの中で、ある言葉が脳裏で再生されていた。
『まずは、貴方の世界の私をーーー救ってあげてください』
(もう……やめてくれ、ユリエ……!)
透流は《K》を殺そうとしているユリエを見る。
彼女は俺の為に怒り、《K》を殺そうとしている。
それが分かっていても尚、透流は強く願う。
《K》は敵だ。逃しでもしたら、先の闘いのように再び死を撒き散らす存在として帰ってくるかもしれない。だからこそ透流も彼を殺そうとした。
それなのに今、彼はユリエにこれ以上剣を振るう事を、命を奪う事をやめてくれと心から望んでいた。
(……ははっ、矛盾してるなぁ……)
それどころかこれから先も、彼女の小さな手を血で染めてほしくないーーーその血が、彼女が追う父の仇のものであっても、と透流は思っている。
透流自身が妹の仇を取る事を望んでいるのに、同じ《
(俺のエゴだって事くらい分かってる……!だけどそれでもーーー)
残る力を振り絞り、透流は駆け出す。
ここでユリエが《K》の命を奪ってしまえば、もう後戻りは出来なくなる。
もしそんな事を許してしまえばーーー今まで過ごしてきた彼女との日常がーーー彼女の幸せそうな笑みが失われてしまう気がして、透流は
(ユリエ、俺はキミを護りたい……!キミの心を救って、護りたいんだ!!)
透流の脳裏にはこの四ヶ月、《
『それがお兄ちゃんの一番大切な人に対する想いなんだね』
その走馬燈の最後に透流の脳内に、今は亡き妹の声が聞こえた気がしてーーー
『羨ましいなぁ……私もそんな風に想われたかったなぁ……ふふっ♪まあ、それは仕方ないけどね』
透流はその声に背を押された気がして、頬を緩める。そしてーーー
『なら、私にその想いは本当なんだ〜って見せてほしいな♪お兄ちゃんならきっと出来るって思ってるからね♪だから絶対に諦めないでーーー頑張って♪」
「ああ!!」
透流はそれに力強く返事をした。
そして透流は銀色の少女の前に立ち塞がり、透流は願いを《力》へ変える。
「ユリエの牙を断てーーー《
その言葉と共に透流は結界を一箇所へ集中して三重に展開する。
そしてその《力》が、振り下ろされた白刃を阻む。
「なぜだ……なぜ貴様が私を護る!?九重透流ーーーっ!!」
《K》の絶叫とほぼ同時に、透流の《魂》とユリエの《魂》がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が広がる。木々は大きく揺れ、建物が軋む中ーーー透流は苦痛に顔を歪めていた。
「ぐっ……!」
三重に張られた結界を、ユリエは食い破ろうと全力で突撃してくる。
透流は全力で彼女を止める為に、結界を必死に維持するがーーーピシッと高い音を立てて、一枚目の結界にヒビが入る。
「be poundedーーー!!」
そしてユリエが叫び、先ほどよりも《力》を入れるとーーー甲高い音を立てて、一枚目の結界が砕け散る。
「ぐうぅぅ……ユリ、エ……!」
透流は一枚目の結界が、砕け散った事によって、《魂》が悲鳴を上げる。しかし彼はその悲鳴を押し殺し、結界を維持し続ける。そして二枚目の結界にユリエが衝突する。
しかしーーー
「ア、ア……アアアアア!!!」
ユリエが《
「う、ぐあぁぁぁ!!」
二枚目の結界が砕け散った事による《魂》の疲弊と、最後の結界にユリエが衝突した事により、透流の体には更なる負担がかかる。
一方のユリエの勢いは収まらない。それどころかどんどん《力》を増していく。
「ユリエ……もうやめてくれ!!もういいんだ!頼むから……いつものユリエに戻ってくれ!!」
透流はユリエの目を見据えて、自分の気持ちを精一杯伝えるもののーーー
「ーーーーーーーーーッ!!」
ユリエの勢いは収まらずーーーピシッと高い音を立てて、最後の結界にもヒビが入る。
「……ユリエェェェェェ!!!」
透流は最後の《力》を振り絞り、結界を一瞬だけ強化した。これで止まってくれと、
すると、とある偶然が起きた。
結界の強さが増した事により、銀色の少女の手から《
そしてユリエが仰け反ると同時に透流も限界を迎えたのか、結界が消え去った。
透流は何とか防ぎ切った事を安堵するもーーー
まだ終わっていない。
「ウ、ァア、ァアアアアアーーーッッ!!」
再び咆哮を上げ、ユリエは
「ユリエ、もういい……!もういいんだ!!」
透流は叫びながら踏みだし、銀色の少女の小さく細い体を抱きしめた。
「俺は死んでいない!生きているから、こんな奴を手に掛ける事は無いんだ!!だからーーー戻ってくれ。俺の知っているいつものユリエに戻ってくれ……!」
「ウ……アァ……トー……ル……?」
透流の名を口にすると共に、ユリエの手から《
「ああ、俺だ」
頷き、ユリエの頭を優しく、丁寧に撫でる。
「トール……。トール………!」
ユリエが目を潤ませながら透流の胸に顔を埋める。
だがーーー闘いはまだ終わっていない。
「ふっ、ふふっ、はははは……。とんだ茶番を見せられたものです。あまつさえ、貴方に助けられると言う屈辱まで受けるとは、想像もしていませんでしたよ……!」
距離を取って立木に手を掛けながら、《K》が憤怒で顔を歪ませ、抱き合った彼らを睨み付ける。
「お前を助けた覚えは無い。俺はユリエを止めるために動いただけだ」
ユリエを解放して《K》に向き合うと、透流は透流にとっての事実を述べる。
「どのような理由であろうと、結果的に貴方に助けられたと言う事実がある事は確かだ。
「ならどうする?素手で俺たちに挑むか?」
《K》の纏った《
「くくっ、それは否定出来ませんがーーーまだ最終兵装がありますよ!!」
残された二枚の翼が、《K》の言葉に呼応して組み合わさる。《K》はそれをーーー二連装の巨大な銃を手に取り、腰だめに構えた。
「これぞ《
駆動音と共に、これまでとは比べものにならない量の赤光がマズルへと集まっていく。
「ご丁寧に説明どうも……でも俺たちが当たると思ってるのか?」
あれに当たれば、肉体の一片も残さずに消し飛ばされるだろう。だが回避にさえ集中すれば、かわせない筈は無い。
そして二発目を放たれる前に、《
だがーーー
「ええ、そんな事は想定内です。ですが、銃口の向きを考えればすぐに理解出来る筈ですよ。
「ーーーっ!」
その一言で、透流は《K》の狙いを察する。
透流たちの数百メートル後方にはーーー寮がある。
つまりは、かわせば寮の皆を見殺しにする事になると、《K》は言っている。
「さあ!どうします?かわしてお友達を見捨てるかーーー貴方自身の体で止めるか!!」
そんな選択肢を《K》は出すがーーー九重透流という人物はどちらを選ぶのか。それは《K》にも分かりきっていた。
「……止めてやる!肉体が消え去っても、《魂》だけで防いでやるさ!!ユリエ、離れていてくれ」
透流は銀色の少女が巻き込まれないようにと配慮するもーーーユリエは首を横に振った。
「ナイ、離れません。絆を結びし者たちは、
そう言ってユリエは透流の手を握る。
「ユリエ……ありがとう」
「ナイ、気にしないでください」
「九重透流……ユリエ=シグトゥーナ……!結局貴方たちは最後まで私を苛立たせてくれましたね……!ですが、これで終わりです!さあ、二人仲良く消え去りなさい!!」
《K》がそう言いーーー二連装の銃口に集められた殺意と悪意の牙が、巨大な赤色の光と化して放たれる。
瞬間赤色の光が着弾、大爆発を起こしーーー衝撃波と煙が広がった。
「ふぅ……なんとか間に合ったな」
しかしーーー土煙が辺りを包む中、突然聞こえた声に《K》は再び顔を歪める。
「その声はーーー如月影月!!貴様も私の邪魔をするのか!!」
《K》がそう叫ぶと同時に土煙が一気に晴れる。そこにはーーー
「ーーーーーーな、何だ、これは……!!?」
《K》は驚きのあまり目を見開き、固まる。
それは無事だった透流とユリエも同じでありーーー
「ーーーあ、あの兵器は……?」
そう呟く透流と、無言で目を見開くユリエの視線の先にはーーー核搭載二足歩行戦車、メタルギアREXが先ほどの赤光の射線を遮るかのように、頭を
そして驚きはそれだけに留まらず。
「よお!今日は俺たちの記憶に残る最高の夜だな!」
いつもと変わらない雰囲気で、透流たちの後ろから話しかけてきた
side 影月
一言で言えば、間一髪間に合った。
まずは先ほどの状況に至る前の事を話そうと思う。
あの後、俺は朔夜にREXを受け取ると言った後、実際に動かしてみて不具合が無いか確認したり、細かい調整や操作の練習をした。
そしてある程度慣れた頃、俺も地上の戦闘の援護に向かおうとしたのだがーーー肝心のREXをどうするのかで、朔夜と共に悩む事になった。
朔夜が言うには兵器搬入口はあるにはあるのだが、そこから出るとなると透流たちが闘っている場所はかなり遠く、さらにREXによって学園の設備を踏み付けてしまう可能性があるのでどうしようかと悩んでいたのだがーーー
『う〜ん……影月の《
と、朔夜が突然荒唐無稽な事を言い出した。
普段なら出来ないだろうと言って切り捨てるのだが、朔夜の提案だから、やるだけやってみようという事でREXの内部に俺の《
するとREXは瞬きする間に忽然と消え、俺の手元には《
《槍》の中からはREXの気配を感じ、俺と朔夜は共に喜んだ(抱き合ったり)。
その後は朔夜と別れ、急いで透流たちが闘っている場所へ到着。すぐにREXを召喚して、《K》の攻撃を防いで上の状況に戻る。
「……で、透流とユリエー?いつまで固まってるんだ?」
そして俺は脳内でどこかの誰かに説明していた時からずっと気になっていた事を突っ込む。
すると俺に呼び掛けられた事によって我に返ったのか、透流が聞いてくる。
「え、影月!いつここに……それよりもあの兵器は!?」
「あ〜……その話は後で話してやるよ。それよりも今はーーー」
俺はREXを横に動かし、REXの向こう側にいた《K》を見据える。
「久しぶりだな《K》ーーーいや、ケヴィン=ウェイフェア」
「っ!!?な、なぜその名を……!!?」
俺が《K》の失った名前を口にすると、《K》が驚愕する。
俺はそれに対してニヤニヤしながら説明を始める。
「学園の情報網じゃないぞ?俺個人の能力だ。ーーー俺の能力は確率視則と確率操作でね。まあ、確率操作は限界があるし、確率視則もそれ程広く使えるわけではないんだが……副作用的なものでその人の過去を見れたり、少し先の未来が見えたりするんだ」
「み、未来が見える……!?」
「まあ、驚くのも無理はないよな。これを使いこなせればーーー人を操る事だって可能だからな」
俺はユリエにそう言った後、《K》を再び見る。
「ふむ……君には兄がいたようだな?」
「ーーーっ!」
俺は《K》の過去を覗き、次々と彼の過去を言っていく。
「スポーツも勉強も常にトップで、君はそんな兄に多少のコンプレックスを持っていたものの、自慢の兄だと尊敬していたんだな」
「………………」
「しかし、ある日君を助けようとした兄が命を落としてしまったんだな。そこから君の家庭は崩壊した」
「……な、なあ、影月……」
透流が何かを訴えかけるかのような視線を俺に向けるも、無視して続ける。
「やがて、君は捨てられた……裏の世界の人間に、金で売られたのか……売られた先は兵士を養成する施設。君はそこで名を失い、コードネームで呼ばれるようになってーーー地獄が始まった」
「……黙ってください」
「生き残る為に色々な地獄を経験した……その中で君の精神は壊れてしまったようだな。ーーー君が透流を気に入らない理由は、君の兄さんと全く同じ事を言っていたからだろう?」
「俺?」
「君に対して兄さんが言っていた言葉はーーー『ケヴィン。困った事があったらすぐに言えよ。兄ちゃんが必ず護ってやるからな』」
「ーーー黙れ……」
「その言葉に対して、精神が壊れた君が思ったのはーーー『兄さん、どうして助けに来てくれないの?必ず護るって言ってたのに、嘘つき……』」
「黙れ……!」
「それ以来、君は誰かを護るって言葉を聞くたびにその人たちを殺した。そして残された人たちに示したんだ。必ず護るなんて出来るわけがないって……」
「黙れ!黙れぇぇぇ!!!」
すると《K》が俺の言葉を遮りながら巨大な銃を構える。
と、同時に俺もREXを《K》へと向かわせる。
「君は結局ーーー寂しかったんだろう?そして、誰かを護るって言った人を殺したのもーーー残された人たちに自分の苦しみを感じてもらいたかったんだろう?」
「如月影月……!黙れ!お前に何が分かる!!知ったような口をきくなぁぁぁぁぁ!!!」
《K》が呪詛の如く俺の名を叫ぶもーーーその前にREXが立ち塞がる。
「寂しかったのはよく分かるさ。でも、それを他人に押し付けるのは良くないな」
そしてREXは片脚を持ち上げて、《K》に狙いを定める。
「お前のその気持ちは同情するが……他人まで道連れにするんじゃねぇ!こっちは迷惑なんだよ!……とりあえず、お前はしばらく寝ていろ……」
その言葉が終わると共に、REXがその片脚を振り下ろした。
それから十分後ーーー俺は警備隊の人たちや、騒ぎを聞いて駆け付けてきた生徒の皆と共に、今回の戦闘の後始末を手伝っていた。
「兄さん!」
「ん?」
そこで俺を呼ぶ声が背後から聞こえ、その方向を向くと優月が駆けてきた。
「はぁ……はぁ……兄さん!無事ですか?」
「ああ、俺に怪我は無いよ。透流とユリエはちょっとあれだけどな」
あの後警備隊が現れた事で気が抜けたのか透流は気を失ってしまい、怪我も酷かったのでそのまま病棟の救急救命室へ運ばれていった。
一方のユリエは、怪我よりも精神的なダメージが大きいようで彼女もまた病棟へ運ばれていった。
まあ、どちらもなんとか大丈夫だろうと思いつつも、今度は俺が優月に聞く。
「月見先生は?」
「月見先生も救急救命室です……ひとまず一命は取り留めたので一安心出来ますよ」
「とりあえず誰も死なずになんとかなったか……」
ちなみに《K》はREXで踏み潰していない。あれはただのハッタリであり、本当は《K》のすぐ隣に脚を振り下ろしたのだ。ハッタリをした理由?REXの細かい操作を練習する為ーーーってのは嘘だぞ?だからそんな悪魔を見るような目で俺を見るな!!
まあ《K》は代わりに非殺傷の《槍》で貫いて、意識を失わせておいた。その方が暴れる事も無いだろうと思ったからだ。
「如月!無事だったか!」
「影月くん、怪我は無い?」
「ふんっ、貴様もあのバカのように怪我をしていないだろうな?」
そこへ橘、みやび、トラ、タツが駆けてくる。
「ああ、俺は無傷さ……それより運ばれた透流の方がよっぽどの重傷だが」
「まあ、あのバカはそう簡単には死なないだろうから、僕は少しも心配していないがな」
「……へ〜……」
「……影月、その疑いの目をやめろ!」
そんなやり取りをトラとしていると、突然くいくいと袖を引かれる。その方向を向くと、みやびが恐る恐る聞いてくる。
「ねぇ、影月くん……あれ何かな……?」
みやびが指を指した先にあったのは、直立した状態のREXだ。
「ああ……怖いのか?別にあれは噛み付いたりしないぞ?俺が操ってるし……」
「そ、そうなの?」
俺はああ、と頷いてREXを動かす。
俺の《
REXはコックピットのある頭部を地面へと着き、お座り状態になる。
そして俺はREXの頭部へ飛び乗り、《K》の攻撃を受けた部分を確認してみたがーーー少しの跡も付いていなかった。
「……これはREXが頑丈なのか、それとも俺の《力》で強化されたのか……?」
首を傾げて少し考えるも、最終的にどちらでもいいかという結論に至る。
そしてこの後も後始末を続け、俺が眠りについたのは夜中の一時ごろだった。
後半ちょっと適当になってしまったかな?と思いましたがーーー大目に見てください(苦笑)
神父「それにしてもザトラさん、随分疲れているようですがいかがしました?」
あ〜……実は第三十八話は昨日出すつもりだったんですよ。でも間違ってメモを消してしまって……急いで書いて出したんですよ。
神父「……ええっ!?ザトラさん!貴方はこの量を一日で書いたと……?」
まあ、そうですね……でも私より文字数多い人はいくらでもいますからね……。まあとりあえず大変だったという話ですよ。
それはともかくとして、誤字脱字・感想意見等、是非ともよろしくお願いします。