アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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殺破遊戯(キリング・ゲーム)》も原作四巻ももう少しで終わりです!



第三十五話

side no

 

半世紀以上前に世界を恐怖に陥れた兵器の口から放たれたのは全てを灰燼(かいじん)とする黄金の一閃だった。

その一閃はとても太く、全てをその眩い光で照らしていくと同時に大地を抉り取っていく。逃げ遅れた月光や仔月光が次々と光の中に飲み込まれ、消え去っていく中ーーー《蒼焔》が黄金の光の中から現れ、黄金の光と共に爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカ、な……。なぜ……なぜだーーーなぜ生きている、九重透流ーーーっ!!」

 

そう叫ぶ《K》の視線の先にはーーー

 

「何度、同じ事をーーー大切な人をーーー絶対に護る為だ!」

 

無傷で立つ透流がいた。そう、彼は無事に《位階昇華(レベルアップ)》を果たし、《(レベル4)》になった。それと共に彼は《焔牙(ブレイズ)》の真の《力》を悟った。

その《力》を持って、全てを消し去ろうとした光を断ち切ったのだ。

 

「さあーーー終わらせようぜ!《K》!この一撃で、結末(けり)をつけてやる!」

 

「九重……透流ーーーーっ!!」

 

そう叫んで再び走り出す。そして安心院が操作した月光を踏み台にして、透流は《K》に向かって跳んだ。

一方、プラズマ砲の反動でほうけたままのRAYの頭部で《K》は悪意と殺意を込めて、腰にあったグレネードランチャーを構え、引き金を引くもーーー

 

透流は《楯》を備えた左手を突き出し、叫んだ。

 

「牙を断てーーー《絶刃圏(イージスディザイアー)》!!」

 

《力在る言葉》によって《焔牙(ブレイズ)》が真の《力》を解放し、結界を作り出した。

その半透明の結界に擲弾が触れーーー凄まじい爆発を起こした。

直撃すれば《超えし者(イクシード)》と言えど、命を失うであろうその威力はーーー透流にかすり傷一つつける事が出来なかった。

 

「バカ、なぁっ!?」

 

爆発の中から無傷で飛び出した透流の姿に、《K》の顔が驚愕で歪む。

 

「貫きーーー穿()ち砕けぇっ!!」

 

 

 

 

透流の一撃ーーー雷神の一撃(ミヨルニール)を叩き込まれて、《K》がRAYをも巻き込んで地面に叩きつけられる中、透流は空中で仲間たちの方を見た。

皆、嬉しそうな顔でこちらに走ってくるのを見て、自らの頬も緩むーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事ーーー」

 

 

 

 

『ーーーっ!?』

 

 

だが突如聞こえた第三者の声で、緩んでいた緊張が一気に高まる。

透流が着地し、警戒をしながら声の聞こえた方向ーーー倒れ伏している《K》とRAYの上空を見るとーーー

 

「まあ、死んだ仲間の事で我を忘れて戦いに突っ込もうとしたりする所はまだまだ未熟だがーーー二度目の実践の割には中々の戦果だ。敵の指揮官を最小限の被害で抑えたからな」

 

「し、少佐ーーー?」

 

紅蓮の炎を操り、宙に浮くザミエルがいた。そして合流し、透流の後ろにいた優月が絞り出すかのように彼女の()()を言う。

 

「ほお……」

 

「な、なぜ貴女が……?」

 

「忘れたのかな?この戦争()()()、開始十五分経過で何が起こるのかーーー」

 

二十時ジャストで始まったこの戦いは先ほどまで一つだけ、ある条件が発生していなかった。

それは開始から十五分経過すると学園サイドと、《K》たちのサイド、どちらにも属さない第三の勢力が現れるというものーーー

その条件が今ーーー発生した。

 

「という事はあんたが第三勢力って事か……という事はここに着いてすぐに感じたあの桁外れの気配は……!」

 

「ほお……小僧、気付いていたのか。あれでもハイドリヒ卿は抑えておられたのだがな」

 

「やっぱり……この建物内にラインハルトが……」

 

「なん、だって……?」

 

「黒円卓首領が……!?」

 

「そう驚く事でもあるまい。ハイドリヒ卿は前々からこの世界に関して興味を持たれていたからな。それに、ハイドリヒ卿と我ら大隊長をこの宴に招待したのは貴様らの上官だ」

 

「朔夜さんが……!?」

 

全員がその事実に衝撃を受けている中ーーー紅蓮の赤騎士(ルベド)は細葉巻を咥え、火を灯す。そして紫煙を吐き出しながら名乗った。

 

「貴様らの上官が何の目的で、我らをこの宴に招待したのか、私には皆目見当もつかぬがねーーーさあ、無駄話もここまでにするとしよう。私は聖槍十三騎士団黒円卓第九位大隊長、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ。我らが主、ハイドリヒ卿の命によりこのゲームに推参した。さあ、残り十三分ーーー私を、そしてハイドリヒ卿を楽しませろ。さもなければーーー私の炎で燃やし尽くしてやる」

 

ザミエルの威圧感が跳ね上がる中ーーー唐突に巨大な何かが地震や砂埃を起こしながら、着地する。それはーーー

 

「ふ……まだ、私には……最後のRAYが……残っている……!まだ……終わってない……!」

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

倒れ伏している《K》がそう言うと同時に最後のーーー三機目のRAYが咆哮を上げる。

 

「三機目……面倒だぜ……」

 

「ふん……戦勝国の兵器か」

 

そう吐き捨てる安心院とザミエル。そしてRAYは宙に浮かぶザミエルへと狙いを定めた。

 

「私とやるつもりか、面白い。まずは貴様から燃やしてやる。まあ所詮機械如き、私の敵では無いがなーーー来い!」

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

ザミエルの声に反応したかのように咆哮を上げたRAYは、即座に背部のミサイルハッチを開く。一方のザミエルは腕を振るい、背後に魔法陣を出現させ、そこから百を超えるシュマイザーと五十挺程のパンツァーファウストを出現させた。

RAYは背部のミサイルをザミエルに狙いを定めて撃ち出した。発射されたミサイルは不規則に回転して飛び回り、とても標的に当たるとは思えない動きをする。

だが、これは相手を混乱を誘い、一つでも多くのミサイルが当たるようにわざとこのような動きをするのである。

しかし、その程度の動作で動揺するザミエルでは無かった。ザミエルは数百挺のシュマイザーをミサイルに向けて撃ち出し、迎撃する。

 

それが終わると今度はザミエルがパンツァーファウストを撃ち出す。約五十程の弾頭がRAYの背後を除く、全身へ飛んでいく。それに対してRAYは後ろへ大きく下がりながら、両腕部と両脚部の機銃で弾頭を迎撃していく。

 

「ふむ、機械にしては中々いい動きをする。だがーーーこれはどうだ?」

 

ザミエルがそう言うと、背後の魔法陣からさらにパンツァーファウストが現れ、撃ち出される。

そんな持久戦となったこの戦いは、数十秒程続いたが、RAYが段々と押されていった。押されている理由は機銃のバーストを防ぐ為に一部機銃の発射を控えて、銃身を冷やしたりしていたのだが、いつまでもそのような事が出来るわけでも無くーーーついにRAYの弾幕が途切れてしまった。

と同時に撃ち落とせなかった弾頭が一斉にRAYへ襲い掛かる。

 

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

 

まるで生物が痛みを感じ、叫ぶかのような咆哮を上げたRAY。しかしその姿は爆煙ですぐに見えなくなってしまった。

ザミエルは攻撃をやめ、背後に魔法陣を浮かべたまま、煙の向こうにいるであろう敵に葉巻の煙を(くゆ)らせながら警戒を向ける。

 

「……終わったんでしょうか?」

 

「まさか……でもあれだけ撃ち込まれたから、終わってないとも言い切れないけど……」

 

ユリエの呟きに安心院がそう返すがーーー次の瞬間、突然煙が晴れた。そこにはーーー大口を開け、何かを収束しているRAYがいた。

 

「生きてた!」

 

「またプラズマ砲か!?」

 

「いや、それならRAYの口が金色に輝いているはずだ。あれは赤いーーー電気が起きているようだから水圧カッターでもないな」

 

そんな考察を透流や影月がしている中、ザミエルはーーー

 

「ーーーその光、もしやーーー」

 

ザミエルがそう言う中、RAYの口の輝きが最高まで達しーーー爆ぜた。

 

「ーーーっ!」

 

ザミエルは刹那の間に、魔法陣から火球を撃ち出し、RAYの口から放たれた何かとぶつかり合う。

瞬間、凄まじい衝撃と風圧が巻き起こり、周りにあった様々な物を吹き飛ばした。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

『ーーーーーー!!?』

 

当然、比較的近くにいた透流たちや月光、仔月光も吹き飛ばされる。

一方、ザミエルが撃ち出した火球とRAYの口から放たれたエネルギーは凄まじい風圧と音を出しながら互いに拮抗していたが、徐々に火球がエネルギーを押し始めていた。

 

「舐めるなぁっ!!」

 

その言葉と共に火球が一気にエネルギーを押し返しーーーRAYの口へと着弾。大爆発を起こした。

 

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

 

RAYは後ろへ大きく仰け反り、そのまま大きな音を立てながら、倒れ込んだ。

 

「ぐっ……RAYが……」

 

《K》が悔しそうにそう言う中、ザミエルが紫煙を吐きながら一息つく。

 

「城の元兵器開発者の髑髏が言っていた物か……確か、荷電粒子砲という奴だったか?形成位階だったとは言え、私の炎と拮抗するとはなーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、皆無事か?」

 

「なんとか……」

 

一方、透流たちは邸宅の扉を突き破り、吹き抜けのホールに倒れていた。

 

「……それにしても中はこうなっているのか。それに二階のあの扉ーーー」

 

「あれを開けられたら、私たちの負けですね」

 

影月が言った通り、奥には大きな階段があり、その階段を登った先に大きな扉がある。

そして次にユリエが言った通り、透流たちはその大扉を抜けられた時点で負ける。

 

「あの扉の奥には、理事長以外に誰がいるんだろうな……」

 

 

 

 

 

 

「あの先には《七曜(レイン)》と呼ばれる者たちと、我らが主、ハイドリヒ卿が()られる」

 

その声に皆が振り向く。そこには葉巻を燻らせ、腕を組みながら歩いてくるザミエルがいた。

 

「お前……!!」

 

「ーーーーーー」

 

「透流君、ユリエちゃん、待って。今突っ込むのは得策じゃない」

 

自然と拳を握る透流と、走り出そうとしたユリエを安心院が止める。

 

「ですが、彼女は隙だらけです。私か優月なら素早くーーー」

 

「いいや、彼女に隙なんて無い」

 

そう言いながら、ザミエルを見る安心院。

隙など無いーーー彼女はそう言うが、ザミエルの姿勢は普通に見れば隙だらけで無防備に見える。

葉巻を吸いながらも腕を組み、僅か数メートル先に立っているだけなのだから。背後には先ほどまであった魔法陣は無い。

どう見ても今の彼女は油断しているように見え、一瞬で距離を詰めて斬り伏せるのは容易であるように思える。だが違うのだ。

 

「ああ、全く隙なんて無い」

 

その立ち方、視線、呼吸に至るまで一切の隙が無い。見る者が見れば分かるしきっと皆、こう言うだろう。

歴戦の軍人ーーー戦士の立ち振る舞いだと。

故に隙を伺い、そこを狙う戦法は通じないと、一部の者たちは悟った。彼女の場合は、真っ向からぶつかって倒すしかないとも。

 

「そこの三人は中々見る目があるようだなーーー他の者は追々見極めるとしよう。さあ、来るがいい。()()()()()()に足るかーーー見せてもらおう」

 

『ーーーっ!!』

 

その言葉に反応し、一気に駆け出す影月と優月と安心院。

それに一歩遅れる形で透流、ユリエ、そしてある程度回復したトラが続く。

リーリスは後ろへ飛び、《(ライフル)》を構える。

 

「絶対に抜かせません!」

 

誰よりも早く赤騎士(ルベド)の前に出たのは優月だった。

素早く間合いに踏み込んだ優月は手にした《(ブレード)》で斬撃を放つ。

その連続する剣戟は閃光のように、苛烈で容赦無く、優美な剣舞(トーテンタンツ)に見える。

その剣戟はある一部の者から見ればとても見覚えのあるものだと言うだろう。それは当然、ザミエルにも言える事でーーー

 

「ーーー小娘。貴様、ベアトリス・キルヒアイゼンという女に会った事はあるか?」

 

ザミエルは優月に問いかける。一見普通に問いかけたように思えるが、腕組みをしたまま後退し、優月の剣戟を全てかわしながらの問いかけである。その姿勢のまま余裕を崩さない。

 

「ベアトリスさんですよね?二回程会った事がありますよ。それが?」

 

優月はそう答えつつも、剣戟の速度を緩めない。その答えにザミエルは含み笑う。

 

「いや、あの小娘と剣筋が似ていたのでな。剣の指南でも受けたか?」

 

「いいえ、でもベアトリスさんは私に大切な事を教えてくれたーーー私に道を照らしてくれた人です」

 

「ほお……」

 

優月は斬撃を放ちながらもそう言い、ザミエルはかわしながらも、少し驚いたような顔をする。その驚きは目の前の少女の言葉や表情などの何かに驚いたのか、それとも別の理由かーーー

 

「ふんっ!」

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「ーーーーーっ!」

 

そこへ左右から影月が《(ランス)》を、安心院が《(ブレード)》を同時に振るい、遠距離からリーリスがほぼ同時にすら聞こえる速さで、五発の銃弾を放った。

だが、それらいずれも当たらず空を切り、銃弾は外れ、飛んでいく。

大きく後退したザミエルに向けて、さらにユリエが、トラが、透流が、そして優月や影月、安心院が立ち代わりながら攻撃し、さらにリーリスが背後から援護するがどの攻撃もザミエルには当たらなかった。

 

 

「くそっ!なんで当たらない……!」

 

攻撃が当たらない事に苛立ちを感じた透流の言葉にザミエルが答えた。

 

「私を何だと思っている?これでも英雄の一角だぞ。一言で言えば経験だ。相手を殺傷させない武器で急所を狙い、即座に無力化させようとする。そんな貴様らの動きは、正直どこを狙うかなど至極読みやすい。欠伸が出るよ。まあ最もーーー」

 

そこからザミエルは近くで《(ランス)》を振るおうとしていた影月を踏み台にして大きく後ろへ飛び、透流はザミエルを追った。

 

「ぐあっ!」

 

「そこの三人と貴様は例外かも知れんがな。三人は戦闘の基本をよく知っている。虚と実だ。それに貴様は攻撃よりーーー」

 

突如として、ザミエルの背後から無数の銃口が出現した。

 

「!?」

 

「守りの方が得意のようだしな」

 

至近距離で爆ぜる銃火の嵐。三十二連発×二十以上の一斉射撃が透流たちに向かって降り注いだ。

 

「牙を断てーーー《絶刃圏(イージスディザイアー)》!!!」

 

透流が即座に《焔牙(ブレイズ)》の《力》を使い、自分と背後の仲間たちを襲おうとした銃弾を防ぐ。

 

「ぐっ……くぅっ……!」

 

苦しそうな声を上げるもーーー数十秒で数百発を超える弾幕を何とか耐え忍びーーー

 

「……はぁ……はぁ……!」

 

終わったかと息を整え、前を向くとーーー

 

 

 

 

 

「では次だ」

 

目の前には背後から別の火器を出したザミエルがいた。

 

Panzer(パンツァー)

 

パンツァーファウスト、その数二十。

 

Feuer(フォイア)

 

それらが一斉に発射される。

弾頭が半透明な結界に防がれ、爆発する。だがそれも数発の事でーーー

 

「ぐ、あぁぁぁぁぁ!!!」

 

「きゃああぁぁぁ!」

 

「くっ……!?」

 

突如、結界が甲高い音と共に砕け散りーーー残りの弾頭が透流やその周りにいた優月や影月の付近へ着弾する。

 

「トール!?」

 

爆発により大きく背後に吹き飛ばされた彼に悲鳴を上げたのは、彼の《絆双刃(デュオ)》である少女だ。

だが、今は戦いの場である。そんな最中に立ち止まり、視線を敵から外すなどと言う事は狙ってくださいと言っているようなものである。そのような致命的な隙を見逃すようなザミエルではない。

 

「他人の心配か?」

 

「っ!か、はっ……!」

 

動きが止まったユリエに、一瞬で接触したザミエルは膝蹴りをユリエの腹部に放った。

当然、視線も外していたのでその攻撃をユリエは防御する事も回避する事も出来ずに、攻撃を受けて腹部に膝が深々と突き刺さった。

さらにザミエルはユリエの後ろ首を掴み、人形のように放り投げた。

 

「今は戦闘の真っ最中だ。そんな中で心配とは、余裕だな」

 

「っ!!」

 

ユリエは空中で姿勢を整え、二階の手すりを蹴ってザミエルに迫る。

そこへさらに、体勢を立て直した優月が加わり二人の攻撃が始まった。

 

 

優月の振るう《(ブレード)》は先ほど言った通り、優雅な剣舞(トーテンタンツ)のように振るわれ、ザミエルに襲い掛かる。

彼女の攻撃をかわしているザミエルは見れば見るほど、キルヒアイゼンの剣筋によく似ていると思っていた。

このような剣戟になる理由としては、ザミエルは知らないがやはり以前水銀の蛇が話していたように、優月の中にあるベアトリスの残滓の影響だろう。だが、優月の剣筋が将来ベアトリスと同じになるかと言うとそうではないと言える。なぜならば、彼女の中にある残滓はもう一つあるからだ。

 

(まるでキルヒアイゼンと小娘ーーーレオンハルトを合わせたような剣筋だな。それにしても()()か……もしや、クラフトめ)

 

そう。もう一つは螢の残滓。それがある限り、優月の剣筋がベアトリスと全く同じものになるとは言えないだろう。そしてザミエルは昔の位を呼ばれた事に関しても考えたがーーー思い浮かぶのはあの魔術師の顔。それに対し、内心怒りが混ざった思いが生じた。

 

 

そしてもう一人の少女、ユリエは《双剣(ダブル)》を鋭くも豪快に振るう。その動きはどこかの流派のというものではなくーーー

 

(我流か?荒い所も多いが、筋は悪くない)

 

そんなザミエルにしては珍しい好印象を持たれているとは知らない少女は、ただひたすら《双剣(ダブル)》を振るう。

そこへーーー

 

「はっ!」

 

安心院が加わり《(ブレード)》を斬りつける。それをかわしたザミエルは、安心院の側頭部に蹴りを入れる。

蹴られ、声を上げる間も無く床に倒れた安心院ーーーが消える。

 

「なっ……!」

 

それを見て驚いたが、即座に殺気を感じて飛び退き、宙に浮かんだザミエル。その下からはーーー

 

「「「逃がさねーぜ?」」」

 

「!?」

 

()()の安心院なじみが飛び上がってきた。

分身のスキル『心分身(ニーズペーパー)』によって三人に増えた安心院を見たザミエルは、動揺を見せたーーーが、すぐに背後からシュマイザーを出現させ、撃ち出す。

それにより、三人の安心院は瞬く間に蜂の巣にされる。

 

「分身の術と言う奴か?意外だな。この時代にまだ忍者は存在していたのか。だが甘いな」

 

 

 

そして安心院は()()()()()()()

 

「何っ!?くうっ!?」

 

またもや驚くザミエルだったが、背後からの衝撃によってバランスを崩して床に落下していく。

落ちていく中、上を向くとーーー

 

「三人とも囮で背後から本物が攻撃なんて展開、漫画じゃよくある事だろ?それと影月君、サンキュ!」

 

「ああ!」

 

背後からの衝撃は斬ったら爆発するスキル『大爆傷(ダイナマイトスマイル)』によるものだ。普段なら背後からの攻撃などは隙が無いザミエルに対しては無意味だ。

しかし、彼女は透流たちをまだまだ脅威になりえないとしか見ていなかった。それが先ほどの一撃が入った要因であり、また影月のおかげでもある。

あらゆる可能性を見、操れる彼にとっては制限があるものの、敵の背後へ気付かれないという可能性を極限まで高めて、仲間の補助をする事位は簡単に出来るのである。

 

「ーーーなるほど」

 

姿勢を整え、ホールの中央に着地したザミエルは笑っていた。

 

「貴様、覇道か。能力を使って小娘の気配に気付く可能性を無くした、あるいは限りなく低くしたのか」

 

「ご名答ーーーというか覇道?」

 

影月は聞きなれない単語を聞き返す。

 

「そうだ。人の願いの種類は二つある。己の内側へ向かう願い、それを求道と言い、そして己の外へ願うものを覇道と言うのだ」

 

「己の外へ……」

 

「そうだ。それに薄っすらと貴様に干渉されている感覚はある。初めからな」

 

「……ベアトリスさんと螢さんは」

 

「彼女らは求道だ。道を照らす光になりたい、と、情熱を絶やすことなく燃やし続けたいーーーだったか。そこの小僧も求道だろう。結界の展開、つまり特殊能力の付加だ。それと肉体変化、それが主に求道の能力だ」

 

「そして覇道は相手に効果を押し付ける……か、よく分かった。がーーー」

 

一瞬で距離を詰めた影月はそのまま《(ランス)》を振るった。

 

「だから何だ!覇道だと何か悪いのか?」

 

その振るわれた《(ランス)》をザミエルは()()()()()()()()

 

「いいや、奇遇だと思ってな」

 

「何が!」

 

そう聞くとザミエルは、笑みを浮かべながら言う。

 

「私も覇道なのだよ」

 

「ーーーっ!?」

 

その瞬間、何かを感じたのか一気に影月は距離を置いた。

 

「共に覇道故、力比べといこうか。貴様らの気概、力ーーー特にそこの小娘は私に攻撃を入れた。それを認め、剣を抜いてやろう。光栄に思うがいい」

 

その言葉と共に紅蓮の炎が噴き上がる。それと共に室内の気温が急激に上昇していき、熱風が猛り狂う。

 

「っ!で、でも貴女の炎は目標を捕らえるまで広がり続ける爆炎でしょう!?そんなものをここで使ったらーーー」

 

そう、ザミエルの能力は敵を捕らえるまで広がり続けるーーーつまり絶対必中の爆炎だ。それを使えば透流たちはどこまで逃げようとも炎から逃れる事が出来ない。ようは詰みの状態になる。だがそれは他の者も巻き込んでしまう。つまりーーー

 

「あの扉の先にいる《七曜(レイン)》という輩や貴様らの上官、そして我が主までも巻き込むーーーか?小娘、中々知っているな」

 

優月の問いに返答する為に口を開いた瞬間、彼女の咥えていた葉巻が室内の温度によって一瞬で燃え尽きた。ザミエルはそんな事を気にせずに言う。

 

「確かにそのようなものもあるが、そんなものは()()()()()()()()()()

 

広域を巻き込み都市規模の破壊を起こす戦略兵器。戦時中はそれが求められたからそのような効果になっただけの事。

だがこれは言うなれば決闘だ。広がり続ける爆心などは、取るに足らぬ雑魚を払う為の余技でしかない。相手が騎士ーーーつまり戦士であるならばそのような技は使わない。

 

「これを知るのは一部の者のみだ。これを受けて貴様らは生きていられるかーーー見物(みもの)だな」

 

急激に上昇し、膨張した大気は圧力となり、透流たちの全身を打ちのめす。

その熱風の中に混じっているのは焼けた鋼鉄と油の匂い。戦場の熱風。

 

「ーーーあれが出るんでしょうか」

 

彼女の聖遺物ーーー威力と規模が桁外れの大火砲が現れる。

 

 

 

「彼ほど真実に誓いを守った者はなく

Echter als er schwür keiner Eide;」

 

「彼ほど誠実に契約を守った者もなく

treuer als er hielt keiner Verträge;」

 

「彼ほど純粋に人を愛した者はいない

lautrer als er liebte kein andrer:」

 

紡がれる詠唱は、一人の男性を想ったものだった。ザミエルの口から紡がれるその言葉に誰しもが耳を傾けてしまう。

 

「だが彼ほど総べての誓いと総べての契約総べての愛を裏切った者もまたいない

und doch, alle Eide, alle Verträge, die treueste Liebe trog keiner er」

 

「汝ら それが理解できるか

Wißt inr, wie das ward?」

 

「我を焦がすこの炎が 総べての穢れと総べての不浄を祓い清める

Das Feuer, das mich verbrennt, rein'ge vom Fluche den Ring!」

 

「祓いを及ぼし穢れを流し熔かし解放して尊きものへ

Ihr in der Flut löset auf, und lauter bewahrt das lichte Gold,」

 

「至高の黄金として輝かせよう

das euch zum Unheil geraubt.」

 

あれは戦争用の制約に過ぎないと言うのならこれは一体なんなのだろうか。その答えはこの詠唱が完成すれば分かるだろう。

 

「すでに神々の黄昏は始まったゆえに

Denn der Götter Ende dämmert nun auf.」

 

「我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる

So - werf' ich den Brand in Walhalls prangende Burg.」

 

そしてーーー

 

「創造

Briah―」

 

彼女の望む世界ーーー大焦熱地獄(ムスペルヘイム)が現れる。

 

「焦熱世界・激痛の剣

Muspellzheimr Lævateinn」

 

 

 

『ーーーっ!?』

 

ホールの景観は一変し、対峙する者たちを残して周囲の景色が変わる。さらに密閉されているのか、呼吸が酷くし辛い。

周囲は黒く染まり、ザミエルの背後からはあらゆるものを焼き尽くすだろう煉獄の炎が見えた。

 

「ここはーーー?」

 

透流が横の黒い壁ーーー筒状になっている壁を触り、確認する。

 

「これは鉄?鋼か……?」

 

「それに筒状……ここは砲身の中か?」

 

ドーラ列車砲、狩りの魔王(ザミエル)、その中に呑み込まれたのか?と思い、トラが言うとーーー

 

「……これが絶対必中の究極系ですか」

 

「そうだ。絶対に逃れられぬとはこういう事だ。逃げ場など、最初からどこにも存在しない世界(モノ)を言う」

 

「で、ですが砲身内なら後ろにーーー」

 

「砲口は無かったわ、ユリエ」

 

少し離れ、透流たちより後ろにいたリーリスが息をはきながら近付いてきた。

 

「どうするのよ。完全に詰んだわよ?」

 

「ーーーくっ……安心院!!脱出は!?」

 

「ーーー『腑罪証明(アリバイブロック)』とか使ってるけど……ダメだ」

 

「逃がさんよ。貴様のスキルとやらも、私の世界の前では無力だ。貴様の創造も少しずつ押し潰しているぞ」

 

すでに炎はザミエルを半ば以上に飲み込んでいた。

 

「もう私を取れると思わぬ方がいい、万策尽きたな。足掻くのも構わんが、何をしてもどうにもならんとより絶望を深めるだけだ。受け入れろ。諦観して座すがいい」

 

周りは囲まれ、目の前には触れれば蒸発する程の炎。ザミエルはすでにその炎に飲まれ、接近戦で彼女を倒す事はすでに不可能。最も近付いた所で倒せるとは思えなかった。リーリスの弾丸も通じず、影月の創造も押され、安心院のスキルも通じない。まさに八方塞がりである。奇跡でも起こらぬ限り覆らない現実がそこにはあった。

だがーーー

 

「俺が食い止める!」

 

それでも諦めぬ者がいた。透流は一歩前へ出て、《楯》を構える。

 

「トールーーー!」

 

「透流ーーーさん」

 

「無駄な事をーーー」

 

「俺は皆で帰る!約束を守らなければいけないからな!!ーーー牙を断てーーー《絶刃圏(イージスディザイアー)》!!」

 

結界が張られ、紅蓮の炎と結界がぶつかり合うーーーが、それもほんの刹那の間で、無情にも結界はすぐに割れーーー透流が、そして透流の手を引き、共に炎から距離を取ろうとしたユリエが、炎に飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー筈だった。

 

だがここに一つの奇跡が起こるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 優月

 

「透流ーーーさん」

 

私たちの目の前に出た透流さんは、《焔牙(ブレイズ)》の《力》を使って食い止めようとしましたがーーー容易く結界は砕け散り、透流さんとユリエさんはその炎に飲まれようとしていました。

私は結界が砕けた瞬間から、全ての光景がスローモーションに感じていました。そして目の前で大切な友人が後、一秒も無い中命を落とすだろう瞬間を見ていて、ある想いが湧き上がりました。

 

 

 

 

『私がーーー彼らを、皆を救って、約束を守らないとーーー』

 

 

 

 

 

「日が沈み、月が昇る。それは古より変わらない理」

 

「私は日の光を望み、理に従い、夜が明けるのを待った」

 

刹那、私の頭に浮かんで口から紡ぎ出されたのは、ベアトリスさんのものでもなく、螢さんのものでもない。私自身の魂に刻まれていた詠唱でした。

 

「しかし月は永く私の上に浮かび、私の望む日を昇らせない」

 

「月だけが照らす暗闇の世界で私は思う」

 

「日の光が恋しい。大切な人たちの笑みを照らす光がほしい」

 

私は皆が笑顔でいてほしい。それを少しでも長く照らしたい。

でも私じゃ力不足で、そんな事は出来ないと思っていました。

けれどーーー

 

「それなら、私が日の光となろう。永く、永く、皆を照らし続ける為に」

 

透流さんの意志()を見て、目が覚めました。出来る出来ないではなく自分の意志を信じて、やってみる事が大切なんだとーーー

 

「故に私は祈る。この理を打ち砕き、願わくば愛しき者たちを救済する日の光とならん事を」

 

この地獄から皆を救う為に、私は光になる。

そして地獄の炎が二人に触れる前に私の世界は完成した。

 

「Briah―

創造」

 

「日を導く太陽の神子

Kind der Sonne führen zu Gott」

 

 

 

 

「馬鹿なっ!?」

 

詠唱が終わると同時に、私の周りは砲身の中ではなく、一面の花畑と澄み渡るような青い空が広がり、そして空には全てを優しく照らす太陽が照り輝きました。その世界は地獄を押し返していき、炎に巻き込まれようとしていた透流さんとユリエさんの場所まで押し返しました。

 

「……?え……生きてる!?」

 

「……ヤ、ヤー……どういう事でしょう……?」

 

「優月ーーーこれはーーー」

 

「私の望む世界ですよ」

 

混乱する皆さんを見て、笑みを浮かべてながら兄さんにそう返しましたがーーー

 

 

 

「私の世界を塗り潰すとはな……まあいい。押し潰してやろう」

 

「うっ……くうぅ……」

 

「トール!こっちへ!」

 

炎に飲み込まれているザミエルの声が聞こえると、とてつもない力が私の体に掛かってきました。

と同時に、透流さんたちが立っていた場所が花畑から再び砲身の中へと戻っていきます。

このままでは押し返されてしまいます。

 

「っ、くっ……」

 

「ーーーザミエルの世界を縮小ーーー」

 

そこでふと、兄さんがそう呟いたかと思うとーーー

 

「ーーーむ?これは……」

 

その言葉が聞こえたと思うと同時にーーー私の世界がザミエルの世界を塗り潰し始めました。

 

「なっ!?」

 

「……出来た……すごい……まさかこの空間にいるだけで出来なかった事が出来るとはーーー」

 

兄さんのその言葉の意味ーーーそれを聞いた私は、この世界の効果を理解しました。それは私と私の認めた者たちのみに補助効果があるというものです。恐らくは攻撃力、防御力の上昇、傷の回復、そしてーーーその人の能力を強化する効果があるのだと思いました。

きっと兄さんの可能性操作もそういう効果によって、強化されているんでしょう。

 

 

そしてついにザミエルが私の世界へ入り込むと同時に私は駆け出し、《(ブレード)》をザミエルの首を斬り飛ばそうとしたその瞬間ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこまで』

 

 

神託のように響き渡った声が、圧力と共に私たちの動きは止まった。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『白熱した所悪いが、約束の時間が経った。ゲームは終了。各々、創造を解きたまえ』

 

突如響き渡ったその声は逆らえないような圧力を発していた。その圧力に押され、影月と優月は創造を解く。

そして景色がホールに戻ると、彼らは他の第三者の視線を感じた。その視線が気になり、二階の大扉に視線を向けようと振り返るとーーー

 

「ぐっ……!!」

 

「っ!はぁ……!」

 

「っっ……!」

 

「っ……!!」

 

「っ……すごい力……」

 

「……ああ……」

 

「………………」

 

各々、振り返った瞬間に体に掛かっていた圧力が更に増し、全員が膝をついた。そこにはーーー

 

「先ずは労いをかけねばな。ザミエル、卿の戦いは我らにとっても良い一興となった。さらに結果的にとは言え、兄妹の片割れの力を覚醒させた事も称賛に値する。卿の忠義、実に大義なり。城に帰還し、十全ではないその身体を存分に癒すがよい」

 

「jawohl!」

 

鬣のような金髪、そしてまさに人体の黄金比と称されるに値する均整の取れた体格、さらに眉目秀麗と言って差し支えない程の顔ーーーそして愉悦を混じえた黄金の瞳を眼下の者たちに向け、笑みを浮かべるのはーーー聖槍十三騎士団黒円卓第一位、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。黒円卓の首領だった。

恭しく頭を垂れたザミエル卿は主のその言葉が至高であると、感激しながらも、返事をして一瞬で姿を消した。それを見送ったラインハルトは自分の爪牙をかなりの所まで追い込んだ者たちを見る。

 

「さてーーー卿らとこうして話をするのは初となるな。自己紹介は必要かね?」

 

「……いらないな。ある程度の情報は知ってる」

 

「なるほど、シュピーネが流した情報か。それは重畳」

 

「無事でよかったですわ」

 

そこで聞き覚えのある声がラインハルトの背後から聞こえたと思うと、朔夜さんと三國先生が歩み出てきた。

 

「理事長……」

 

「朔……理事長」

 

「……理事長に三國先生、よくこの圧力の中、普通にしていられますね……」

 

透流と影月がラインハルトと並ぶ朔夜を見て内心驚いている中、優月が苦笑いで朔夜に問う。それに対し、朔夜も無言ながら苦笑いで返答をした。

そして朔夜がラインハルトへと問う。

 

「さて、ラインハルト様、私の学園の生徒は貴方にとってどう映ったのでしょう?感想を聞きたいですわ」

 

その言葉に少し考え込む素振りを見せた後、ラインハルトは感想を言った。

 

「ふむ……中々に魅せられる戦いだった。各々、まだ実戦経験が少ないにも関わらずこれだけの戦果を出すのは称賛に値する。特にザミエルの創造を一時的とはいえ、押し返したそこの少女には惜しみない祝福を送ろう」

 

「……褒められているのに、この微妙な気分は何なんでしょう?」

 

その言葉に透流や、影月が苦笑いを浮かべた。

 

「卿はどう思う?カールよ」

 

「ふふ……ふふふふふふ……」

 

そこでラインハルトの隣にボロボロのローブを纏った男が不気味に笑いながら、いつの間にか現れていた。その事に驚いた透流たちだが、その男の顔を見て、さらに驚愕した。

 

「なっ!?」

 

「……兄さん……?」

 

「影月そっくりね……」

 

その男の顔は影月と瓜二つだった。というより、影月をもう少し大人にした感じと言えばいいだろう。しかし顔は影月と相似しており、声までそっくりなのだ。

 

「私もそこの少女には、獣殿と全く同じ思いを抱いていたよ。私からも祝福を送らせてもらおう」

 

「くすくす……これで貴方の目的にまた一歩……ですわね」

 

メルクリウスは不気味に笑い、朔夜もまた妖艶な笑みを浮かべた。メルクリウスは仕方のないものの、朔夜の笑みもまた不気味な雰囲気を放っていた。

 

「さて、これにて宴はお開きだそうだが、後始末はどうするね?よければこちらで処理するが……」

 

そこで話は変わり、後始末を誰が引き受けるかという話になる。ラインハルトは折角呼んでもらったのだからそれくらいの事はしようかと言ったがーーー

 

「いいえ、ここは私たちが請け負いますわ。今回の件は《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》を承諾した私に全ての責任がありますわ。今宵、私の判断のせいで多くの者が血を流し、命を落としました。故にーーー」

 

「罪滅ぼし、かな?今宵この場で多くの者が死んだ事に対しての」

 

「……ええ」

 

朔夜が頷いて少し俯くと、ほんの僅かな間静寂がその場を支配しーーーラインハルトが口を開いた。

 

「相分かった。そういうならば後の事は卿に任せよう。ではーーーカール」

 

「ええ、ではーーー」

 

メルクリウスが呟くと同時にラインハルトとメルクリウスの姿が薄れていく。

 

「今宵の宴、実に甘美だった。卿らの戦い、決して忘れぬよ。いずれまた会おうーーー勝利万歳(ジーク・ハイル)

 

「またいずれーーー次に会う時にはーーー我が愚息もーーー」

 

その言葉と共に彼らは消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、別部隊の護陵衛士(エトナルク)が到着して救難、消火活動が行われた。生存者は隊長を含めて十六名。その中には優月が助けた若い隊員もいて、優月と安心院は彼から感謝の言葉を言われ、今後も頑張ってほしいと言われた。

彼らはドーン機関の関連病院へと緊急搬送されていった。

 

 

そしてーーー《神滅部隊(リベールス)》の持ち込んだ無人兵器は、朔夜が研究の為という事で学園の地下へと運ばれる事となった。

その事にドーン機関は難色を示していたが、朔夜がこの無人機たちを調べて、ゴグマゴグに対抗する何かを見つけたいと言った為、仕方なく了承した。

ーーー無論、そのような理由で朔夜は無人機を引き取ったわけではないが、本当の理由を影月たちやドーン機関に知られるのは後の話である。

 

 

一方、邸宅の騒ぎについてはかなりの大事になった。大きな爆発や凄まじい衝撃波、強い光、果ては牛のような声を発していたロボットを見たとか、恐ろしい声を上げる恐竜(RAY)を見たなどの報告も上がった。これだけの騒ぎだったのだから仕方の無い話である。

 

後日、ニュースに取り上げられた報道の内容は、『お忍びで来日していた東欧のとある国の王女が医学の勉強会を行っていた所を、テロ組織が破壊活動に乗じての誘拐を目論んだ。目撃されたロボットはその国の王女の父親が配備した警備用ロボットとの事」

というものになっていた。

後半は隠蔽するのに厳しい内容だとは思ったが、大きく表沙汰になる事は無かった。精々、ゴールデンタイムに『半世紀前の兵器!』などと紹介される程度で済んだ。

 

 

こうして多くの死者や負傷者、さらには様々な人の注目を浴びる事になった事件だったが、《超えし者(イクシード)》や《神滅部隊(リベールス)》、さらに半世紀以上前から存在している組織の大隊長及び、首領、副首領がいたという事実は表沙汰にならず、事件は終息したのだった。




明日ってか、投稿日的に今日ですね……作者は残り少ない学校があります……と言っても、特に小説には問題ないですが……

朔夜「なら言わないでくださいな。頑張って書いてくれれば問題はありませんから。では誤字脱字・感想意見等、是非ともよろしくお願いしますわ!」

……よろしくお願いします!

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