アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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少し間が空いてしまいました……日に日に小説書く余裕が……(汗)



第三十四話

side 影月

 

朔夜が邸宅に入ってから一時間程経ちーーー俺と優月は邸宅の壁にもたれかかって話をしていた。

 

「……優月、あれから何か感じたか?」

 

「……いいえ、兄さんは?」

 

「……俺も感じない」

 

俺たちは敷地内で邸宅の選任ガードマンの邪魔にならないように警備をしていた。

さて、先ほど優月に問いかけた言葉の意味ーーーそれは朔夜が邸宅に入ってから僅か数分後、とてつもない威圧感を感じたからである。そのような威圧感を放つ化け物じみた者が中に居るとなると、朔夜や三國先生の事が心配であるがーーーその威圧感を感じたのはその時だけで、後は一切変わった事は無かった。

 

「あの威圧感ーーーヴィルヘルムやシュライバーとは違う感じだよな……」

 

「彼らのはどちらかと言うと殺気じゃないですかね?あれとは少し違うように感じました。どちらにしても恐ろしいとは思いましたけど」

 

という事はこの宅内にはあの二人よりも格上で、俺たちの知らない存在がいるかーーーあるいはもしかしたらあの二人が忠誠を誓う人がいるのかーーー

 

「……まあ、色んな可能性はあるが、中の事なら俺たちに出来る事は現状無いな」

 

「そうですけど……って、あれ?ユリエさん……?」

 

優月がふと声を上げ、俺もその方向を見てみると邸宅前の広場にある噴水脇で、数人の黒服に囲まれていたユリエと、それに近づく透流が目に映る。

 

「……ユリエが絡まれてる?」

 

「まさか……こんな所でですか?とりあえず行ってみましょう」

 

そう言って、俺たちも彼らの所へ向かおうとしたのだが、ある人物に途中で呼び止められた。

 

「ねぇ、二人とも」

 

「ん?リーリスか?」

 

黄金色の髪(イエローパース)を持つ少女、リーリスは俺たちではなく、邸宅を見上げながら聞いてきた。

 

「あの威圧感を感じたかしら?」

 

「……リーリスもか?」

 

「ええ、透流たちは気付かなかったようだけどね」

 

リーリスは息をはきながらこちらに向き直る。彼女の整った顔は月明かりと宅内にある街頭の光もあって美しく見えたが、珍しく少し疲れたような顔をしていた。

 

「そうか。にしてもよく気付いたな?」

 

「あたしは狩りとか趣味でやるから、自然と鋭敏な感覚は身についたのよ……でもこんな時は恨めしく思うわ」

 

「……そのせいか知らないが、結構疲れてるみたいだな?」

 

「あら?透流はあたしが疲れてるって気が付かなかったのに……影月にはばれちゃったわね。ええ、それに最近疲れてるってサラに言われちゃってね。そんな時にあんなのを感じるのは正直嫌ね……」

 

再び息をはいて苦笑いを浮かべるリーリス。彼女が疲れている原因はおそらく、気落ちしていた透流の心配や、みやびの心配、そして今回の警備で色々警戒しているからだろうと予想する。

 

「リーリスさん」

 

そんな疲れた表情を浮かべるリーリスに優月は近づいていきーーー突然抱きついた。

 

「えっ……?優月、何を……?」

 

「リーリスさん、知ってます?ハグってストレス解消や疲れが取れるんですよ?なので私を抱きしめ返して、少しはストレス解消してください!」

 

「……ちょっと影月」

 

「俺に意見を求めるな……まあ、でも抱きしめ返してやれ……ハグの効果は本当の事だし、これも優月なりの配慮だろうし」

 

そう言われ、リーリスは少し恥ずかしそうな顔をしながらも、優月を抱きしめた。

 

「……優月、いい匂いするわねーーー」

 

「ふふっ、リーリスさんもしますよ♪それになんだか落ち着きます」

 

「あたしも落ち着くわ……」

 

「それにしても……リーリスさんも胸大きい……」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も……」

 

ーーーというやり取りが俺の背後で行われた(上のは声のみ)。

え?なんで見てないのかって?なんか見るのは野暮かなって思っただけだ。

 

「ふふっ、ありがとう♪おかげて少し疲れが取れた気がするわ」

 

「いえ♪私もリーリスさんの役に立ててよかったです!」

 

そんな会話が聞こえたので終わったのか?と思い後ろを見ると、楽しそうに笑っている優月とリーリスがいた。

 

(彼女はやっぱり笑っていた方が似合うな)

 

そんな事を思って自然と口元が緩む。その時護陵衛士(エトナルク)の隊長から集合せよと呼ばれた。

隊長は険しい表情を浮かべていたが、その理由は全員が集合して隊長が話始めた事により明らかとなる。

 

「襲撃がある!?」

 

「三國さんから緊急の連絡が入ったんだ。それによると二十時ジャストに《神滅部隊(リベールス)》とやらの襲撃があるとの事で、襲撃から邸宅を護る為に皆にはこれより配置についてもらう事になる」

 

「……普通の襲撃じゃないだろうな……」

 

「隊長。襲撃がある事もそうですが、どうして正確な時間まで?」

 

質問を受け、隊長も複雑そうな表情を見せる。

 

「すまないが分からない。だが、他にも分かっているのは敵は必ず正門方向からくるとの事。敵の指揮官は必ず邸宅の正面扉の突破を狙ってくるとの事。それと十五分経つとどちらにも所属しない新手の敵が現れるとの事だ」

 

「新手の敵?」

 

「そうとしか聞かされていない。扉の先にはホールがあり、その奥に二回に続く階段があるそうだ。その階段を登った先にある大扉へ、敵指揮官が辿り着いたなら()()()()()。また敵指揮官たちを倒す。もしくは三十分敵の到達を阻めば、()()()()()らしい」

 

「新手の敵ってのは場をかき乱すような奴か……」

 

「敗北と勝利条件、それにいくつかのーーーまるでゲームね」

 

そして隊長はチームで分かれるように指示を出す。

俺たちは人数が多いが、研修生という事で後衛の防備に配された。

 

「ではこれより、任務を開始する!敵は先日、学園を襲撃して多大な被害をもたらした相手だ。全隊員、及び研修生の諸君、妙な条件はあれど今より始まる作戦行動には相応の覚悟を持って配置につくように。これは実戦だ!」

 

締めの言葉で全員に緊張が走った。

 

 

 

 

 

 

 

俺は優月たちと共に持ち場となる場所ーーー

邸内の正面扉から、左右に向かって通路のように広がる二階のテラスの一角に立ち、各チームが敷地内の様々な場所へ散って行く。

 

(このゲーム……さっきの威圧感……もしかしたら新手の敵は……いや、結論を出すのは早いか……)

 

そう思い、戦力を確認する。俺たちの同行者である三國先生は邸内で動けないとの事でここに救援に来る事は事実上無い。

総員二十九名の護陵衛士(エトナルク)は皆《(レベル3)》であり、常人相手ならば圧倒的に戦力が上だ。しかし相手は《神滅部隊(リベールス)》ーーー全員が《装鋼(ユニット)》を身に纏っている筈だから、身体能力はこちらと互角だろう。

戦力差は装備の差と技術次第だと思われる。

神滅士(エル・リベール)》は突撃銃(アサルトライフル)を装備しているから、遠距離では圧倒的に不利だ。こちらも銃は携帯しているのだが、制圧を重視した模擬弾使用の為殺傷力は低い。

故にこちらは如何にして《焔牙(ブレイズ)》を振るえる距離に近付けるかが鍵だ。

しかしーーー隣で物騒な物を弄っている少女に視線を向ける。

 

「安心院、何してるんだ?」

 

「何ってーーー狙撃銃の用意だぜ?」

 

安心院が隣で狙撃銃の準備をしているのを見て、少しあんな風に考えていたのが馬鹿らしくなる。彼女にとっては近接戦も遠距離戦も攻撃する手段があるからだ。

ーーー俺や優月もやろうと思えば遠距離攻撃出来るのだが(槍飛ばしたりとか、雷落としたりとか)。

 

「狙撃銃……随分古い銃だな……確かPSG1か……?」

 

「そうだけど、古い?……ああ、この世界から見たら古いのか」

 

「そうだ、戦争経済から半世紀以上経ってるからな……ちなみに弾は?」

 

「無限に作れるし、実弾だぜ?実戦なんだから当然だろ?」

 

そんな事を言いつつ、準備を進めて、狙撃銃を構えた安心院。

そう答えた刹那ーーー爆発音が響き渡り、空気が振るえる。それが戦いの合図だった。

 

「来たかーーーって、あれは……!?」

 

 

 

 

闇夜に火の粉が舞い散り、炎と煙が立ち上る。燃えているのは戦闘区域外で待機する筈だった黒服の人たちが乗った車だ。次々と、敷地の外へ向かっていた車が爆発する中、俺は暗闇に浮かぶある一点を見て驚愕していた。

 

「あの兵器は……」

 

そこにいたのは半世紀以上前、戦争経済時代にて主に大国で保有されていた兵器。開発当時は高い索敵能力と圧倒的な火力を持つ武装から、空母の戦略的価値が下がるとまで言われていた。

見た目は生物のように滑らかなボディであり、頭部と思われる場所は二つの目が夜という事もあり、不気味に輝いている。そして長い尻尾のようなものも特徴の昔、ネットの画像で見た試作型と同じような形状をしたその兵器はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「RAY……!」

 

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

 

俺の声に返事するかのように、RAYは口を開き咆哮をする。

厳密には咆哮ではなく、金属同士が摩擦で軋むような音なのだが、それが咆哮に聞こえるのだ。

 

「そん、な……」

 

透流が爆発した車とRAYを見て、そんな声をあげる。

 

『これは実戦だ!」

 

そんな言葉がふと脳裏に蘇る。

そうだ、これが実戦。命を掛けて戦う戦争そのものが、今この場に刹那の間だけ現れたのだ。

そんな中、俺は悠々と正門から戦火の中を歩んでくる少年を視認する。

 

「《K》ーーーっ!!」

 

それを視認したのか分からないが、透流が叫ぶ。と同時にユリエが《双剣(ダブル)》を手に、飛び出そうとしーーー

 

「動かないで!!」

 

リーリスが《(ライフル)》の銃身でユリエの進行方向を遮り、制止する。

 

「持ち場を離れないで!」

 

「ーーーっ!ですが、あの人は私と同じ位の子供がいるのだと……母国で自分の帰りを待っているのだと言っていました……!それなのに……!」

 

ユリエが言っているのは先ほど囲まれて話していた黒服の人の事だろう。確かにそんな事情の人が居たなら、今すぐ飛び出してその人を殺した元凶をすぐにでも叩きに行きたいだろう。

しかしーーー

 

「落ち着いてください!ユリエさん、気持ちは分かりますけど今は戦いの中ーーーつまりここは戦場です。感情的になって、無闇に相手に突っ込むと死にますよ?」

 

「っ……」

 

優月がそう言った事によってユリエは思いとどまる。

 

「その通りだよ。戦場では非情にならないと……やっていけないよ。それよりも皆、暇ならこれを撃ってくれないかな?」

 

そう言って安心院が狙撃銃のリロードの最中に指したのはーーー

 

「ジャベリン?」

 

FGM-148 ジャベリンーーー誘導性の対戦車ミサイルで、その攻撃目標は装甲戦闘車両のみならず、建築物やヘリなども対象に出来る武器だ。それが大量にあった。どこからこんな数を……それよりどうやって用意した!?

 

「どうやってって、僕のスキルに決まってるだろう?あのデカブツ(RAY)に効くかは分からないけど……当たって砕けろってね!」

 

「今、人の心読んだな!?……まあいい、奴には効くと思うぞ?それにーーーあいつらにもな」

 

そう言って俺が指を指した方向を全員が注目する。

 

「……あれは月光か?」

 

「流石トラ、よく知ってたな」

 

「ふんっ、昔、勉強したものを覚えてただけだ」

 

無人二足歩行兵器の月光ーーーそれが大量に宅内へと入ってきた。

月光は《神滅士(エル・リベール)》たちと連携を取りながら、護陵衛士(エトナルク)の掃討を開始した。

 

「構えてロックオンしたら、後は撃てばいいだけだから」

 

「貴様、簡単に言うな……」

 

「言うだけなら簡単だからな。ほら、透流」

 

トラに苦笑いしながら言い、透流にジャベリンを渡す。重さは多少重いとしか感じない。これも《超えし者(イクシード)》だからか。

 

「おっと……これを構えて撃てばいいんだな?」

 

「ああ、月光は普通に当てるだけで破壊出来ると思う。だがRAYは……弱点はあるんだが、ちょっと難しいか……」

 

「兄さん」

 

RAYをどうするか考えていると優月が声をかけてきた。

 

「私がRAYを引き受けます。兄さんたちは月光を減らしてください」

 

「……どうするつもりだ?」

 

俺が聞くと、優月は引き締めた顔で言う。

 

「私が接近して破壊します」

 

『!?』

 

その言葉に全員が驚き、隊長が怒り出す。

 

「危険だ!お前ら研修生を危険な前線にーーーあんな物の前に送れるか!ここからの援護に集中しろ!」

 

「危険なのはここにいても変わりません!それにあれを破壊出来れば一気に戦力を削げます!このままじゃ、三十分も持ちません!」

 

「……隊長さん、僕は優月ちゃんの意見に賛成だよ。ここで時間と戦力を無駄にするくらいなら前線に送った方がいいと思う」

 

「あたしも同意見よ」

 

狙撃をしている安心院とこちらも《(ライフル)》で狙撃しているリーリスが会話に割り込みそう言う。

 

「透流たちはここで援護を頼む。俺は優月についていくよ。《絆双刃(デュオ)》だしな」

 

それを受けた隊長は僅かに沈黙しーーー答えを出した。

 

「分かった。……前線の仲間を頼む。他の研修生も時間はかかるだろうが、前線に送ってやる」

 

「ありがとうございます!ジャベリン一つ持っていきますね!行きましょう兄さん!」

 

「ああ!透流、皆も気をつけろよ!」

 

「お前らもな!」

 

そう言い、俺は二階から優月と共に飛び降り、前線へと向かったーーー

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敷地内はとてつもない激戦に包まれていた。

敷地内のあちこちでは銃声が響き渡り、悲鳴と怒号がこだましていた。

 

「くそっ!あの兵器を何とかしろ!」

 

「む、無理だ!模擬弾でも《焔牙(ブレイズ)》も効いていなーーーぐあっ!」

 

そんな中、護陵衛士(エトナルク)の者たちは突如大量に現れた敵の兵器に苦戦していた。

 

『ーーー!!』

 

月光ーーー正式名称はIRVINGと呼ばれる無人二足歩行兵器。

月光は牛のような声を上げ、機銃を、ミサイルを、護陵衛士(エトナルク)に向け掃射し始める。彼らは回避や物陰に隠れ、攻撃をかわそうとするも、一人の護陵衛士(エトナルク)が黒い球体のような物に取り付かれて動けなくなった。

 

「うわっ!何だこのちっこいのーーーがはっっ!!」

 

取り付かれ、その黒い球体を振りほどこうとした護陵衛士(エトナルク)は背後から月光の射撃を受け、倒れ込む。

 

「っ!!おい!大丈夫ーーーあがっ!?」

 

倒れ込んだ彼をを助けようとした護陵衛士(エトナルク)が変な悲鳴を上げて倒れる。なぜ突然倒れたのか?それはーーー

 

『アーイ!』

 

黒い球体ーーー仔月光が背後から飛びつき、電撃を食らわせたからだ。仔月光はその場でぴょんぴょんと跳ね、喜んでいるように見える。その喜びは敵に攻撃を当てれた事に喜んでいるのか、あるいはその当てた相手に対し挑発のような意味でそれをしているのかーーー

 

「ーーーしまっ……!?」

 

そんな仔月光を見ていた若い護陵衛士(エトナルク)の一人が月光の接近に気付かなかった。

月光はその生物的な脚を蹴り出し、彼に無慈悲な死を与えようとしていた。

彼はその迫り来る脚を見ながら、自分はまだ少ししか生きていないのにーーーここでこんな風に終わるのかと思い、覚悟を決めて目をつぶり、来るだろう衝撃に備えた。

 

だが、その衝撃はいつまで経っても来る事は無く、代わりにーーー至近距離からきた爆風が彼を吹き飛ばした。

 

「ーーー!!?」

 

突然吹き飛ばされた隊員は驚き、目を見開く。その目の前には自身を蹴り、その命を奪い取ろうとしていた月光が燃え上がり、爆発していた。

そんなわけが分からない状況の中、倒れようとしていた隊員の体が突然何か柔らかいものに支えられた。隊員はその感覚に疑問を覚え、顔だけ振り向く。そこにはーーー

 

「大丈夫ですか?」

 

かつてその隊員も着た事のある昊陵学園の女子用制服を身に纏った少女が心配そうな顔で彼の顔を覗き込んでいた。隊員はその整った綺麗な顔に見惚れてしまいーーー戦場という状況下にも関わらず赤面した。

 

「あの……」

 

「ーーーっ!は、はい!大丈夫です!」

 

隊員は声を掛けられ、我に返ると即座に飛び起きる。一方の少女は、何やら不思議そうな顔をしていた。

そして隊員は改めて少女に向き直るーーーそこでふと、少女の足元に落ちている武器(ジャベリン)が目に入る。

 

「……それは?」

 

「ジャベリンーーー分かりやすく言うと、誘導ミサイルですね。それでそこの月光を倒したんですよ」

 

少女は先ほどの月光を指しながら言った。月光はバチバチと火花を散らしながら赤々と燃え上がっていて、その生物的な脚からは鼻を突く異臭が発生していた。

 

「ーーーええ、お願いしますーーー貴方に頼みがあります」

 

少女は隊員に向き直り、そう切り出した。

 

「これを、護陵衛士(エトナルク)の皆さんへーーーこれがあれば、あの兵器たちとも渡り合える筈です」

 

そう言って、ガチャンと音を立てて落ちたのはーーー大量のジャベリン。援護をしながら様子を見ていた安心院が護陵衛士(エトナルク)たちの為に武器を作り出したのだ。

 

「ーーーっ!ありがとうございます!皆!これをーーー」

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

その時、隊員の言葉を遮って夜空に咆哮が響く。

 

「RAY……」

 

「優月!どうする!?」

 

呟く少女ーーー優月の背後からジャベリンを抱えた少年ーーー影月がやってきて叫ぶ。

それを聞いた優月は薄っすらと笑みを浮かべて答えた。

 

「破壊します!兄さんはジャベリンをRAYの足元に撃ってください!」

 

「分かった!」

 

影月は即座にジャベリンを構え、ロックオンした瞬間に撃ち出した。

それに少し遅れる形で優月が駆け出し、ミサイルの後を追う。

一方のRAYは優月の接近を確認すると、両膝部の装甲を開いてミサイルを発射し、両腕部と両脚部のターレットに収納された機銃を乱射し始めた。

 

「ーーーっ!」

 

優月は着弾して爆発するミサイルや、そのミサイルに当たって爆発する月光、そして銃弾をかわし、時に銃弾は弾いたりして接近していく。

すると、RAYは右腕を変形させ近接戦闘用のブレードへと変換させ、薙ぎ払った。優月はそれを見ると、目の前に立ち塞がった月光を踏み台にし、天高く跳んで回避した。

RAYのブレードのおかげで破壊されて機能停止する月光や、真っ二つにされる仔月光を下に優月はRAYを見る。

すると突然RAYの右膝部で爆発が起きる。先ほど影月が撃ったジャベリンが脚に命中したのだ。爆発によってRAYは咆哮しながら大きくバランスを崩し、隙を見せた。

 

「ここなら……!」

 

優月はRAYの頭部目掛けて落下し、《(ブレード)》を突き刺した。落下の速度と優月の重さもあって、《(ブレード)》は装甲を貫き、RAYの頭脳ーーー幸運な事にRAYの動きを司る場所ーーーを貫いた。

結果、RAYは目から光が消え、がくんと力なく項垂れた。

 

「と、止まった……?」

 

隊員が呟く中、優月は《(ブレード)》を引き抜き、地面へ着地する。すると月光が待ってたと言わんばかりに蹴りを放った。

 

「はっーーーせいっ!」

 

それを危なげなくかわし、可愛らしい掛け声と共に振るわれた《(ブレード)》は、月光の上部と下部を繋ぐ関節部を切断。月光はそのまま機能停止し、音を立てて倒れる。

 

「ふぅ……」

 

着地し、息をはく優月の背後から跳躍した月光がその両脚で優月を踏み潰そうとする。しかしーーー横から飛んできた銀色の槍に月光は頭脳を貫かれ、着地地点から数メートル横に逸れて倒れた。

 

「兄さん、ありがとうございます!」

 

「ああ、こっちこそRAYを倒してくれてありがとうな」

 

(二人とも、ちょっといいかな?)

 

とそこに、二人の脳内に頼りになる人の声が響いた。

 

(安心院さん?どうしました?)

 

(頼りになるなんて……ごほん。後衛に奇襲があってね。今、透流君たちが防いでるんだけど……二人とも、前衛は僕が援護してるから透流君たちの方に回ってくれないかな?どうも押されてるみたいで……。場所は邸宅前ーーー噴水がある広場だよ)

 

(分かった。すぐ行く!)「優月!行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、後衛の透流たちは敵の奇襲により撹乱され、窮地に立たされていた。

奇襲をした《神滅士(エル・リベール)》たちはなんとか退ける事は出来たが、その際にトラが気絶し、隊長もやられてしまった。その間に《神滅部隊(リベールス)》の部隊は先に進み、部隊長である《K》は噴水のある広場まで来ていた。そして《神滅士(エル・リベール)》の隊員に目の前に立ち塞がる少年に銃口を向けさせるように指示を出した。

 

「さて、どうしますか?貴方に向けられた銃口は五つーーーいつでも撃てる状況です。そんな中、貴方は本気でユリエ=シグトゥーナを、ミス・ブリストルを、隊長殿を護りきれると思えているのですか?」

 

「っく……!!」

 

もちろん透流はこんな状況でも護りたいーーーそう思っている。

 

隣にいる深紅の瞳(ルビーアイ)を持つ《絆双刃(デュオ)》の少女を。

 

背後で静かに状況を見据えながら、内心どうするか必死に考えている蒼玉の瞳(サファイヤブルー)の少女を。

 

《K》の不意をついたナイフ攻撃により、気を失ってしまった仲間思いな隊長を。

 

しかしーーー状況はあまりにも絶望的、ただの絵空事を口にしているのと変わらなかった。

 

 

 

 

ーーーだが、それでも。

 

 

「それでも俺は、絶対に護ってみせる!!」

 

彼は護るという意志は決して失ってはいないし、失うわけにはいかないのだから。

 

「くっ……はっ、ははははっ!!愚かですね!現実から目を背け、ただただ理想のみを語るとは心底滑稽です。はははははっ、はーっはっはっは!!」

 

《K》は笑う。愚者たる彼を見て心底嗤う。これ以上の晒し者はいないと言うかのように。

だがーーー

 

 

 

 

 

 

「いいじゃないか!理想を追い求めて、それを叶えようとするのは!それにーーーその渇望(願い)をただの理想だと思わない方がいいぜ?世の中何が現実になるかーーー分からないからな!」

 

そんな意志を滑稽だと笑わず、むしろ素晴らしい意志だと言ってくれる者がいた。

その場にいる者たちが、声の聞こえた方を向く。そこにはーーー

 

「ええ、その渇望(願い)が強ければーーーその意志もきっと叶えられます!」

 

「影月……!優月……!」

 

「待たせたな!」

 

透流やユリエ、リーリスにとって頼りになる二人が、立っていた。そしてーーーその魂に刻まれた異界の法則(ルール)を発言させる為、詠い出した。

 

「Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba

かれその神避りたまひし伊耶那美は」

 

「私はあらゆる可能性を操り、常に勝利を見据えし者

大切な者たちを守るために自らの武器を振るう者」

 

二人は自らの渇望を表す言葉を紡ぎ始める。

 

「なっーーー!何をしているんですか!早くあの二人を撃ちなさい!」

 

《K》は二人の膨れ上がる威圧感を危険と感じ、部下に射撃を命令する。

しかし誰も引き金を引かない。なぜならーーー

 

「an der Grenze zu den Landern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.

出雲の国と伯伎の国、その堺なる比婆の山に葬めまつりき」

 

「Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,

ここに伊耶那岐」

 

「das er mit sich fuhrte und die Lange von zehn nebeneinander gelegten

御佩せる十拳剣を抜きて」

 

「Fausten besas, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.

その子迦具土の頚を斬りたまひき」

 

《K》の部下の《神滅士(エル・リベール)》たちも、そして透流たちも二人に魅入っていたからだ。

方や、その胸に抱いた情熱を絶えず燃やし続ける為に、全身に炎を纏いながらも詠う少女とーーー

 

「我は勝利を見据えし者、あらゆる可能性を操りし者」

 

「常に仲間を守り、その為ならいかなる残虐なる行為すら厭わない」

 

「たとえその身が血濡れになろうとも常に絶対の勝利を勝ち取った」

 

「どれほどの恐怖や絶望が待ち受けようとも常に絶対の勝利をもたらした」

 

「万象全てを操りし我と、この神槍こそが絶対勝利の証」

 

「我が敗北することは絶対に許容されることではない」

 

「我には自らを血に濡らしてまでも守り通さなければならない者たちがいるのだから」

 

「故に我に挑む者あれば、万象全てを操り勝利をもたらすのだ」

 

方や、大切な人たちを守る為に絶対的な勝利をもたらしたいと、圧倒的な存在感を放ちながら詠う少年に。

その様を見てふと、誰かの声が響く。

 

「ーーー綺麗」

 

それと同時に一人の《神滅士(エル・リベール)》がやっと我に返ったのか、手にした突撃銃(アサルトライフル)を優月に向かい撃ち出した。

だがーーー

 

「「Briah―

創造」」

 

彼らの法則(ルール)が完成する方が早かった。

 

「Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.

爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」

 

「確率操りし守り人

Wahrscheinlichkeit Manipulieren Moribito」

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

優月は自らの体を炎と化し、通り抜ける銃弾に構わず《K》たちへ突っ込む。

一方の影月はーーー

 

「ーーーーーー」

 

何やら小声で呟いた後、《K》の背後で銃を撃っている《神滅士(エル・リベール)》を見据える。

するとーーー銃声が消えた。

 

「ーーーっ!?な、何だ!?」

 

「くそっ!ジャムりやがった!」

 

「俺もだ!」

 

「行け!優月!」

 

偶然かそれとも必然か、五人の《神滅士(エル・リベール)》の突撃銃(アサルトライフル)が弾詰まりを起こした。

そんな隙を優月は逃す筈は無く、纏っていた炎を剣に乗せて薙ぎ払う。

 

「くっ……!」

 

《K》は飛び退き回避するも、《神滅士(エル・リベール)》が三人、その炎に焼かれる。

そして残る二人は銃の異常を直し、優月に狙いをつけるもーーー二つの異なる銃声によって倒れこむ。

一つは当然リーリスの《(ライフル)》。そしてもう一つはーーー

 

「間に合ってよかったぜ」

 

「安心院……」

 

安心院が構えていたコルト・ガバメントだった。

 

「……なぜ、そんな古い銃ばかり……」

 

「なぜって……そりゃあ、タグに「メタルギア(兵器のみ)」って書いてあるから、その作品に出ていた銃を出そうかなって思ってね」

 

「そんな理由!?」

 

リーリスがそう突っ込みを入れ、辺りに気まずい雰囲気が流れる。

が、透流が咳払いをして《K》に言う。

 

「……とりあえず、形勢逆転って奴だな、《K》」

 

「くっ……!!」

 

端整な顔が歪む。それは自分が不利な状況に立たされた事を認めている証拠だ。

 

「一応言っておくけど、あたしは朔夜と違って、あんたが撤退するって言っても易々(やすやす)とは逃がさないわよ」

 

「……貴方を逃せば、今夜と同じ哀しみを再び生み出すと思いますので」

 

金と銀の髪を持つ二人の少女は、《K》を透流たちの中心に置くような位置取りをする。

 

「覚悟しろ、《K》。相応の報いは受けて貰うぞ」

 

透流は拳を鳴らしながら、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

「ふふふ……はははははは……」

 

このような状況に至っても《K》は笑っていた。まるで先ほど顔を歪めたのが嘘のように静かに、不気味に笑っていた。

そんな様子の《K》に透流たちは凄まじい不安に駆られる。

 

「何がおかしい!!」

 

「ははは……ふふっ、確かに部下も倒されて、形勢逆転ですね……ですがーーー」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、《K》の背後に何かが()()し、大きな地震が起こり砂埃が舞い上がる。

 

「っ!?なんだ!?」

 

そして砂埃が晴れるとそこにはーーー

 

「RAY……!」

 

「まだいたのか!」

 

RAYが静かにこちらを睨んで立っていた。

 

「ええ、さすがに一機だけでは心もとないと思いましたからね。待機させていたんですよ」

 

そう言い、《K》はRAYの頭部へと跳躍し、着地する。

 

「さて、これでも形勢逆転と言えるでしょうか?一機目と同じようにそう簡単には破壊させませんよ!」

 

《K》がそう言うと同時ーーーRAYが咆哮する。と同時に大量の月光と仔月光が現れ、攻撃を始める。護陵衛士(エトナルク)のおかげで数はかなり減ったと思われたがーーー

 

「まだこんなに……!」

 

「……ふぅ……全く、面倒くさいなぁ……」

 

そこで安心院が息をはいて、構えを解く。

 

「安心院?」

 

「月光とちっちゃいのは僕に任せてくれよ」

 

そう言って、彼女が目を閉じると月光と仔月光の動きがまるで金縛りにあったかのように止まる。

 

「ーーーん?どうしたんですか?」

 

「無駄だぜ。こいつら全員ーーー僕らの味方になったから」

 

安心院がそう言うと同時、月光が雄叫びを上げながらRAYへ攻撃を開始する。

 

「なっ!!」

 

「驚いただろ?機械を操作するスキル『機械には操られない(オペレイトマシン)』だぜ。これで全部、君の敵にーーー」

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

だが、RAYはそのような事は事など知らぬと言うように咆哮を上げた。

 

「なっ……操れない!?」

 

「RAYを……操れない!?」

 

安心院と影月が驚きながらも、RAYを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふふ……そのような技でようやく佳境に入り始めた前座を早々と終わらせるのは認めんよ。故にーーー』

 

『存分に狂い、踊りたまえ。君たちの戦いは、我らを楽しませる為の楽器なのだからーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーーーーーーー!!!!』

 

そしてRAYが二度目の咆哮を上げ、背部に搭載されたミサイルと両膝部のミサイルを撃ち出し、機銃を乱射し始めた。ミサイルと機銃の雨は絶え間無く続き、透流たちとRAYの間にいる月光や仔月光は次々とその攻撃により、破壊されていく。

 

「ははははっ!このRAYがいる限り、私は負けませんよ!」

 

「くそっ……これじゃあ近付けない!」

 

「ならーーー貴方を討てば、それは動かなくなります」

 

「ーーーっ!?ユリエさん!」

 

そこでユリエが《双剣(ダブル)》を手に駆け出す。勝利条件は敵指揮官を倒す事ーーーつまり《K》を倒せばいいとユリエは結論を出したのだ。優月も制止の声を掛けながら、一足遅く追いかけるが、ユリエはただ《K》だけを見据えて、走って行く。道中、落ちてくるミサイルなどは避けつつ接近するユリエを見て《K》は息をはきながら言う。

 

「それ程私が許せませんか……まぁ丁度いいでしょう。九重透流、貴方が護ると言っていた彼女を、私が目の前で殺してあげましょう」

 

《K》は数本のナイフと空になった円盤鞘(サークルストレージ)をユリエへ投げつける。

無論、不意を打って、このような弾幕の中だったとしてもそんな攻撃を喰らう彼女ではない。

しかしユリエがナイフをかわし、その円盤鞘(サークルストレージ)もかわした直後、それが赤い光を一瞬放った。

 

「ーーーっ!ユリエ、逃げろぉっ!!」

 

光に気が付いた透流が警告を飛ばすと同時、轟音と共に円盤鞘(サークルストレージ)が爆発を起こした。

爆発によって起きた煙でユリエの姿が見えない中、さらに運が悪い事にRAYのミサイルが着弾ーーー爆発した。

 

「ユリエーーー!!!」

 

透流が叫び、駆け出そうとするもーーー影月が制止させる。

 

「待て!今行くとお前も危険だ!」

 

「でもっ!ユリエが……ユリエが……!」

 

「はっはっはっは!どうですか!?九重透流!大事な彼女が貴方の目の前で失われて!今の貴方の気持ちが知りたいですね。教えてくれますか?護ると言った彼女が死んで、今どんな気持ちですか!?」

 

「くっ……うぅ……」

 

「透流……」

 

《K》が狂気の笑みを浮かべながら、透流に問いかける。

間違い無くユリエは吹き飛んで跡形も無くなってしまった。煙が晴れたその場に彼女はいなく、それがさらに透流やリーリスに絶望感と哀しみをもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがーーー影月だけは哀しみを纏いつつも返事を返す。

 

 

「……今の気持ち?そんなのーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「最高の気分です!!」」

 

『!!!??』

 

二つの声が聞こえた刹那ーーーRAYのバランスが大きく崩れる。

 

「なっ!?一体何がーーーがっ!?」

 

背後からの斬撃を受け、ゆっくりと振り向く《K》の視線の先にはーーー

 

「やっと貴方を斬れました」

 

双剣(ダブル)》を振り抜いた姿勢で《K》を見ているユリエが。そしてRAYの足下ではーーー

 

「なんとか装甲破壊出来ました……」

 

優月とバラバラになったRAYの左脚の装甲が散らばっていた。

その光景に影月は口元に笑みを浮かべ、透流とリーリスは唖然とする。

 

「ユ、ユリエ……?」

 

「ヤー、心配を掛けてすみません。トール」

 

「不意をついて接近する為だったから仕方ないさ……まあ、俺は心配してなかったけど」

 

「私の事も心配してなかったんでしょうねぇ?兄さんには確立視則と確立変動がありますからね……私たちの事、ろくに心配してなかったんでしょう?」

 

「いや、俺の能力でも出来ない事はあるから全然心配してないって訳じゃ……優月、怒ってる?」

 

「いいえ!色々援護してくれてありがとうございました!」

 

「絶対怒ってるねぇ……影月君、後で二人に謝りなよ?」

 

安心院の苦笑いと共にため息をはく影月。

影月の能力ーーーそれは先ほど優月が言ったように確立視則と確立変動。

どのような能力かと言うと、先ほどの《神滅士(エル・リベール)》のジャムを引き起こしたのも彼が、確立視則で起こる可能性を見て、確立変動で絶対詰まるように操作したのである。

他にもユリエと優月がRAYに接近していた際、ミサイルが当たらないように少しだけ干渉していた。と言っても、大体は優月がついてるからなんとかなると思っていたのでそこまで大きく干渉はしてなかったが。

 

「……ふっ、ふふ……まだ終わってませんよ!」

 

「!?」

 

そこで突然《K》がユリエの腕を掴んで、RAYの前方へと放り投げた。

 

「確かに不意はつかれましたが、倒すまでには至りませんでしたね……仕方ありません、最後のシナリオを変えますか。全員一つ残らずーーー消し去ってあげましょう」

 

「っ!?ユリエさん!」

 

《K》の発言の意図を察した優月は再び自らを炎と化して、ユリエの元へと跳んだ。一方、放り投げられたユリエは驚きながらも空中で体制を整え《K》を見るがーーー目の前にあったのはRAYの口が開く所であり、ユリエは頭の中ではそれが何を意味するのか分からず、落下しているにも関わらず呆然としていた。

 

「透流ーーーーっ!!!」

 

そんな状況の中、頭から流れ出る血を手で押さえつつ、気絶から目が覚めたトラが叫んだ。

 

「何をしているバカモノがぁっ!!早くユリエをーーー皆を護るんだ!!奴はーーー」

 

トラがそう叫ぶ中ーーー空中で優月がユリエを抱きかかえ、離脱しようとした時、RAYの口内から金色の光が発生し始めた。

 

「あれはーーーあのRAY、水圧カッターじゃなくてプラズマ砲か!?」

 

「プラズマ砲?」

 

RAYの口内には元々水圧カッターという水を圧縮して放出し、鉄や装甲などを切り裂く武装が搭載されていたのだが、時代は進んでサイボーグが活躍する時代になると、多くの兵器の装甲はチタン合金などになり、水圧カッターではそれらの装甲に対して効果が薄くなってしまった。なので水圧カッターの代わりとして換装されたのがプラズマ砲なのだ。それを今、発射しようとしている。

 

「あんなの喰らったらーーー文字通り消え去るぞ!」

 

「何っ!?」

 

「だから貴様が皆を護るんだ!!諦めるな!僕が知っている九重透流という男は、諦めという言葉など知らんバカだ!大バカモノだ!!だからーーー」

 

トラが透流に向かって何かを投げる。

 

「貴様が九重透流である為に、そいつで貴様の意志を貫いてみせろ!!」

 

透流が受け取ったそれはーーー特殊形状の噴射式注射器(ジェットインジェクター)だった。そしてトラの言葉で透流は二日前の出来事を思い出す。

 

 

 

二日前、透流はこの任務の一人だけ理事長室に残された。その際に朔夜からこの噴射式注射器(ジェットインジェクター)を渡され、特別に昇華の儀を行う資格を得た。しかしその時の透流はこの中の《力》を拒否した。

拒否した理由は、共に闘った仲間を差し置いて、自分一人だけ昇華の機会を与えられるのがいいとは思わなかったから。皆と競い合った上で誰よりも上にーーー強い《力》を求めたいと思い、一人でそれを求める事を拒否した。

 

それを朔夜はこう言った。

 

『くすくす。とても高潔で昂然(こうぜん)たる意志を持った生徒が当学園に在籍している事を、心から喜ばしく思いますわ。ですがーーー』

 

『……?』

 

続く言葉が気になり、首を傾げる透流。

 

『一つ覚えておきなさい。貴方がどれほど素晴らしい意志を持っていようとも、世界は必ずしもそれを許容してはくれませんの。……とりわけ世界に蔓延(はびこ)る悪意となれば、尚の事。でも、貴方が何があってもその意志を貫き通すのであればーーーこの《力》はきっと貴方の仲間ーーーしいては、この世界の為になると私は信じていますわ』

 

朔夜は妖艶な笑みを浮かべ、そう言ったーーー

 

 

 

そして今の状況。目の前に護らなければならない人がーーー大切な仲間たちがいる。その仲間たちは今、世界に蔓延る悪意によって危険に晒されている。

故に透流はその悪意に抗い、払う為に《力》を求める。

己の意志を突き通す為に、大切な仲間や様々な人をーーーそして皆で一緒に帰ると言った約束を守る為に。

 

そんな事を思い出しながら、透流は前へ走り出していた。そしてユリエと優月とすれ違う際にーーー

 

「透流さん、信じてます!」

 

「トール……!」

 

その言葉で心に浮かんだ感情は何なのか、透流には分からない。だがーーー

 

「ああ、任せろ!」

 

大きな声でそう返事をして、敵を見据える。

 

「意志?意志が何の力になるんですか!全くどこまで愚かな人たちなのか!」

 

「いいや、意志は《力》になる!俺はーーーこの意志を、そしてこの意志を信じてくれた皆を信じる!それこそが俺が《力》を得る資格になる!」

 

「何を言おうと無駄な足掻きです!!さあ、意志が力に敗れる瞬間を己の体で味わいなさい!」

 

RAYの口内は既に金色に染まり、稲妻がほとばしって今にも吐き出されそうだった。

そして透流もインジェクターを首筋に当てる。

そして透流がトリガーを引いたのと同時にーーー黄金の一閃が全てを無に帰す為に撃ち出された。

 




続くーーー
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