アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

34 / 68
ザトラ「皆様」
影月「新年」
優月「明けまして」

上記三人含むこの小説の登場人物全員『おめでとうございます!』



ザトラ「去年の八月から始まったこの小説、ここまで続いたのは様々な人たちと、少数ながらも意見・感想をくれた人たちのおかげです!その為こうして年も越す事が出来ました!」

優月「お気に入りも100件超えしましたし……皆さん、本当にありがとうございます♪」

影月「2017年ーーー作者は働くんだっけ?」

ザトラ「はい、なのである時期(3月くらい?)からグッと更新遅くなると思います……しかしよほどの事が無い限り、辞めるつもりはありません!」

月見「おっ!言ったねぇ!そんな事言って責任取れんのか?」

ザトラ「責任取れるとは言えませんけど……」

水銀「否、取れると言いたまえ。そしてせめてアニメが放送するまではこの小説も続けたまえ」

リーリス「そういえば、今年だったわね。dies iraeのアニメやるのって」

ユリエ「ヤー、アニメとても楽しみです」

透流「俺もだよ。ユリエ」

みやび「ふふっ、わたしもだよ。ユリエちゃん」

橘「この小説でアニメになっていないのは、dies iraeだけだな。メタルギアは……うん」

トラ「なぜ言葉に詰まる」

安心院「とりあえず今年もこの小説の事よろしく頼むぜ」

朔夜「では、挨拶と茶番はこのくらいにして……後ほどあとがきでお会いしましょう。私たちはコタツに入りながら、ゆっくりテレビでも見させていただきますわ。では新年一発目の「アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹」」


『お楽しみください!』



第三十三話

side 優月

 

《K》が去った日の夕方ーーー透流さんが意識を取り戻しました。

ーーーその日の夕食は、透流さんも合流しましたが、ひどく寂しいものでした。

気を失ったみやびさん、その看病をしている巴さんが医療棟から戻ってこなかったからです。

私たちの誰もが口を開かない重々しい食事中、周囲の会話に耳を傾けてみると、話題は昼間の事ばかりでした。

情報の発信源は広間にいた生徒のようで、闘いがあった事まで知れ渡っていました。その為、様々な憶測と共に視線を向けられました。透流さんたちは居心地が悪そうにしていましたーーー私や兄さんはそんな視線はあまり気にしないようにしていましたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、私たちは透流さんたちと別れてある場所へ向かいました。

 

「朔夜、被害は?」

 

「警備隊員十二名、生徒九名が負傷しましたわ。いずれも少し治療すれば問題無いーーーとの事ですわ。設備の修理については影月が庇ってぶつかった校舎の壁だけですわ」

 

「よかった……」

 

私たちが来た場所はもはや恒例のように来ている理事長室。私たちに加えて安心院さんも集まり、今回の被害状況や、今後の事などを話し合いに来たのです。

 

「とりあえず被害は大変な事にならなくてよかったけど……次は今後の事だね。まずみやびちゃんについてはどうするつもりだい?」

 

「私から口出しする事は何もありませんわ。罰則も致しません。今後の事は彼女に任せますわ。違えた道を見直して再びこの学園で友と共に学ぶと言うならばそれもよし、自らのした事を後悔してこの学園を去ると言うのも構いませんわ」

 

「……はぁ……そっか、まあ最終的には本人の意志だもんね」

 

安心院さんは息をはきながら、座っているソファに身を預ける。

 

「それともう一つ、近いうちにまた会える。とはどういう事でしょう?」

 

「……これは九重透流たちにも明日伝えますが、貴方たちには四日後に行われる実地研修へ参加して頂きますわ」

 

(レベル3)》となった生徒は、ドーン機関の治安維持部隊ーーー護陵衛士(エトナルク)の任務に研修参加する事となるらしいです。早い段階から参加する事で、卒業後の部隊所属がスムーズになるようにという機関からの配慮だそうですが……。

 

「今年は八人も研修資格を得たという事で大変喜ばしい事ですわ。私も機関の上層部も大変嬉しくーーー」

 

「分かった。で?それが何の関係が?」

 

「……研修内容は、私がとある(うたげ)に参加する際の護衛ですの。その場には《神滅部隊(リベールス)》を生み出した人物、《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》と呼ばれるご老人も参加しますわ」

 

「ーーーほお、なるほどな……」

 

つまり、彼についていく形で《K》も姿を見せるかもしれないという事です。

 

「朔夜、前から思っていたが《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》とは何者なんだ?」

 

「……あの方は機関(ドーン)の機密事項ですの。早々簡単には言えませんわ」

 

「……やっぱりか……」

 

兄さんもソファに身を預け、上を向いた。

その姿を見た朔夜さんは一つため息をついてから話始めました。

 

「……これは独り言ですけれどーーー《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》、本名エドワード=ウォーカーは機械工学に精通していて、エンジンや推進システムの開発を行う一方で、人工筋肉などの開発にも熱心な人物……ですわ」

 

『…………』

 

兄さんは上を向いたまま、安心院さんは目を閉じ、私は出された紅茶を飲みながら耳を傾けました。

 

「彼はこれまでの常識を覆す外骨格スーツの開発を唱え、周囲からは理解が得られませんでしたわ」

 

「……外骨格スーツって《装鋼(ユニット)》の事か……俺も独り言を言うが、人工筋肉って随分昔に開発されてなかったか?」

 

兄さんがそう言います。確かに授業予習として昔の事を調べている時にそんな記事を見ました。

確か昔、戦場にそんな機能を持つ兵器が大量投入されたとか……その中で最も興味深く思ったのは、ロケットブースター、人工筋肉、それとスネークアーム(蛇手)というものが搭載されたスーツがあったとか……。

 

「……そうですわね。彼は昔あったその技術をさらに研究していたそうですわ」

 

朔夜さんは仕方なしと言った感じで返答をしてくれました。そして再び独り言を続けました。

 

「十二年前、彼は所属していた機関より突如失踪ーーー以後、《生存競争(サバイヴ)》で姿を見せるまでは消息不明ーーーおそらく《神滅部隊(リベールス)》の所属する組織、ゴグマゴグに身を寄せていたようですわね」

 

朔夜さんは紅茶を一口飲んで、続けます。

 

「アメリカ軍部と結びついている秘密組織、ゴグマゴグ。軍事技術の開発を主としていて、その力を背景に現在も北米で最も勢力を持つ組織ーーードーン機関とは違い、表向きの顔を持っていない分、相当な事はしているでしょう」

 

「……なぜ、彼は機密扱いなんだい?」

 

朔夜さんが一息ついた所で、安心院さんが疑問を口にしました。

 

「彼は元々ドーン機関の開発局ナンバー2でしたの」

 

「へえ……」

 

「そんな人物が失踪した上に、敵対組織のゴグマゴグに身を寄せた事が判明して機関の顔は丸潰れーーーその上、失踪する際に自分自身については勿論、研究中だったデータ、開発済みのデータまで全てを抹消して当時の機関は大混乱ーーー分かっているのは先ほどの情報と、最後に研究していたデータの内容……戦争経済時代に稼働していた兵器や大型兵器の事を研究していたというものだけですわ」

 

紅茶を飲み干し、ため息をついた朔夜さんは私たちの顔を見て、笑いかけてきました。

 

「独り言を長々と言って疲れましたわ。少し午睡(シェスタ)を取りたいので影月、優月、安心院の誰でもよろしいので膝枕してくださいません?」

 

朔夜のその言葉に苦笑いした私たちでした。

 

 

ーーーその後、誰が膝枕をするかじゃんけんで決めたのはまた別の話です。ちなみに誰になったかと言うと私でした!

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼近くーーー授業中に校内放送がかかりました。

内容は名前が呼ばれた者は、昼休みに理事長執務室へ来るようにというものでした。呼ばれたのは透流さん、ユリエさん、リーリスさん、巴さん、トラさん、そして私たち兄妹と安心院さんーーー全員《(レベル3)》の人たちという事で朔夜さんが昨日の事を彼らに話すのだろうと予想しました。

透流さんたちはなぜ呼ばれたのか分かっていないようですが……私たちは話しながら執務室へ向かいつつ、医療棟から戻ってきた巴さんと合流しました。

 

「そうか、目が覚めたのか……」

 

「うむ。特に後遺症も無さそうだ」

 

外傷は無かった事は確認していましたし、検査結果でも聞いていたのですが、改めて聞いてほっとしました。

 

「ただ、念の為という事と、周囲への影響を考えて数日間は入院となるそうだ」

 

「仕方ないですね……なら、私たちはお見舞いに行かない方がいいでしょうか?みやびさんも色々気持ちを整理したいでしょうから……」

 

私がそう言うと、巴さんも複雑な表情を浮かべて頷きました。

 

「九重もそうしてくれると助かる」

 

「…………。分かった」

 

「…………それと如月」

 

「ん?」

 

そこで巴さんは兄さんに向き直りました。

 

「昨日はすまなかった。キミが庇ってくれなかったら、私もしばらく入院していたかもしれない。だから……ありがとう」

 

「ああ、気にするな。それに……みやびの見舞いの件も気にしてないからな?彼女ならきっと立ち直って、俺たちの前にまた笑顔を浮かべながら出てきてくれるさ」

 

「……そうだな」

 

その言葉を聞き、皆さんに明るい笑顔が少し戻ったような感じがして、私も少し嬉しくなりましたーーー

 

 

 

 

執務室で話した事は昨日話された事と何ら変わりありませんでした。

実地研修への参加、研修内容、そしてあの老人が参加するという事も……。

ただし巴さんは怪我の影響とみやびさんの傍に居たいという事で辞退しました。

それに対し、朔夜さんは心からの賞賛を送っていましたーーー少なくとも私にはそう見えました。

 

「この場でならば、研修の辞退を口にしても構いませんのよ?貴方たちはまだ学生なのですから」

 

しかしーーー他に辞退する人は居ませんでした。

その後は明後日の集合場所と時間を聞かされた後、透流さんだけ呼び止められていました。何の事だろうとは思いましたが……リーリスさんなどに促されて私たちは気にせず、学食へ向かいました。

 

 

 

 

二日後、土曜日の夕暮れーーー南の裏門を出た先の波止場に私たちは集合し、朔夜さんや三國先生を待っていました。

プレジャーボートで出立し、都内のどこかで降りて護陵衛士(エトナルク)と合流した後、車に乗り換える事になっています。

 

「気をつけてくれたまえよ、九重。くれぐれも無理はしないようにな」

 

「ははっ、分かってるって」

 

「……九重をしっかりと見張ってくれるよう頼んだぞ、ユリエ」

 

「ヤー」

 

「見張るって……。俺はどんな風に思われてるんだ」

 

「無茶してるからだろう?まあ、心配しなくていいぜ?透流君と、ユリエちゃんは僕たちが責任持って見張るからさ」

 

「うむ、キミたちなら少しは安心出来るな」

 

『……安心院だけに?』

 

「ーーーっ!?べ、別にそんな意味で言ったわけでは……はっ!九重!?なぜ笑っているのだ!?」

 

出発前にそんなやり取りをして笑い合っていたら、朔夜さんが三國先生と月見先生を従えてやって来ました。

すぐに出航ーーーとはならず、トラさんが三國先生に呼ばれて何かを話始めていました。

 

「あ〜……留守番は暇でやる気でねーぜ……アタシも行きてぇな」

 

「月見先生、気持ちは分かりますけど……何も無い方がいいじゃないですか。それでも何かあった時はーーー頼みますよ?期待してます!」

 

「ああ、あんたが残ってくれるのは心強い」

 

私と透流さんの言葉を聞いた月見先生は笑みを浮かべーーー

 

「ほほー、《異常(アニュージュアル)》の妹と《異能(イレギュラー)》がこのアタシを心強いとな?ついにデレたか?」

 

「それは無い」

 

「今度の訓練中にパンツ下ろし「デレでは無く信用していますから!だからそれ以上言うのはやめてください……」……くはっ、分かったよ」

 

私は月見先生の危なげな言葉を無理やり遮って話を終わらせました。

そんな事をしていると、トラさんたちの会話が終わったようで出発すると声を掛けられました。

 

「じゃあ行ってくる。留守の間は任せるぜ」

 

「へいへい、まー任されてやるよ。留守と言わず、これからもな」

 

「よろしくお願いします!月見先生♪」

 

そう言って私は月見先生を抱きしめました。

 

「ちょっ、《異常(アニュージュアル)》!?恥ずかしいから辞めやがれ!ガキ共が見てるだろうが!?」

 

「ふふっ、ちょっとした感謝の気持ちです♪……迷惑でしたか?」

 

抱きついている私が上目遣いで月見先生を見ると、小声で「うっ……」と言った後、私に聞こえる声で言いました。

 

「いや……正直嬉しーぜ、お前いい匂いするしよ……こっちこそありがとな」

 

それを聞いて、私が笑うと月見先生は少し頬を赤くして、視線を逸らしました。

 

「お?デレかい?ツンデレかい?珍しいねぇ、まあ彼女にそう言われたら嫌とか迷惑だなんて言えないよねぇ?」

 

そこへ安心院さんがにやけながらそう言ってきました。

 

「っ!?うるせー!さっさと乗りやがれ!気をつけろよ!」

 

「お前ら、早く出るぞ……」

 

「っと、今行きます!」

 

私たちが乗り込んで間も無く、ボートはエンジン音を立てて、ゆっくりと動き始めました。

その時ーーー

 

「透流くんっ!皆!」

 

みやびさんが波止場へと駆けてきました。

 

「み、みやび!!どうしてここに……!?」

 

「あ、危ない任務に参加するって、巴ちゃんから聞いて……!だから、あの……気をつけて!皆と一緒に、無事に帰ってきて!!わたし、透流くんや皆に話したい事が沢山あるから!絶対に帰ってきてね!」

 

みやびさんが叫び、それに皆さんが叫びます。

 

「分かった、絶対に帰ってくる!皆と一緒に帰ってくるって約束する!」

 

「もちろんだ!皆で楽しく話すんだって言ったしな!」

 

「みやびさん、ありがとうございます!帰ってきたら……あの時言っていた事ーーーやりますからね!」

 

「うんっ!!」

 

みやびさんが手を振って、いるのが段々と見えなくなってきて、ふと後ろを振り返ると、ユリエさん、リーリスさん、トラさん、安心院さんが見ていました。

 

「……皆、何があろうと勝って、絶対帰ってこようぜ!」

 

兄さんの言葉で私を含め、皆さんは力強く頷きました。

 

「ーーーあの刹那(一瞬)を……また楽しみたい……だから絶対勝ってーーー」

 

そんな兄さんの小さな声は、周りの皆には聞こえず、私にだけ聞こえました。そんな兄さんの大切な想いを、私は照らして、包み込んであげたいと改めて思いました。

 

 

 

 

二十分程後、ボートは川を上っていました。

下船予定場所は襲撃を警戒したダミーを含めて数ヶ所用意してあり、そのうちの一つである川沿いーーー水上バス乗り場へと着きました。

そこで護陵衛士(エトナルク)と合流して、車へと乗り換えました。

リーリスさんと三國先生が朔夜さんと共に高級車へ、私たちは護衛車両へと乗り込みました。周囲を警戒しつつ、三十分程揺られて夜の(とばり)が下りた頃ーーー目的地に着いたと言われ、私たちは目的地を目にして驚きました。

周囲を高い柵に囲まれ、守衛が立つ門を抜けた敷地は都内と思えない程に広く、花と植木が整然と配された緑(あふ)れる西洋庭園となっていました。程なくして庭園の奥に佇む、宮殿のような絢爛(けんらん)な邸宅に到着しました。

邸宅前の広場に車を止め、朔夜さんは降り立つとーーー

 

「貴方たちはこのまま外で待機を。隊長の指示を仰ぎなさいな。影月、優月ーーー頼みますわ」

 

そう言い残して三國先生を従え、出迎えた案内人と共に邸内へ入っていきました。

 

私は朔夜さんを見送り、建物を見上げて、ただならぬ気配の正体を思考していました。

 

(……何でしょうか……この気配……これ程の実力者たちが集っているとは……)

 

「何か一波乱ありそうだな」

 

私はそう思いながら、同時に入っていった黒衣の少女の事を思っていました。兄さんの呟きを耳にしながらーーー

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉をくぐった先は広々とした吹き抜けのホールで、奥には二階へ続く大階段があった。朔夜たちを先導する案内人は階段を登り、その先にある大扉の前で足を止めた。

 

「こちらで御座います」

 

(《七芒夜会(レイン・カンファレンス)》ーーーいよいよですわね……)

 

大扉を前に、流石の朔夜も緊張を覚える。闘いとは無縁の彼女でさえ分かる程、重々しい圧力を感じ取った為だ。

案内人が重い扉を開け放つと、朔夜と三國は豪奢(ごうしゃ)な部屋の中へと入っていく。

天井には(きら)びやかなシャンデリアが室内を照らし、床には美しい紋様の描かれた絨毯(じゅうたん)が敷かれ、中央には豪奢な円卓が置かれていた。

円卓の周囲には八つの椅子が置かれ、その内の四つが埋まっている。

つまり、これから席につく朔夜を除けば、まだ三人到着していないという事だ。

 

「来たな、《操焔(ブレイズ)》の嬢ちゃん」

 

朔夜たちの背後で扉が閉まると、円卓に足を投げ出すといった不作法極まりない男が声を掛けてきた。

四十がらみであろう男の頬は少々赤みを帯びており、飲酒している事が(うかが)える。立ち上がれば一メートル九十を超える巨躯は、常人が対峙したならば畏怖(いふ)を覚えるだろう。けれど男の口元にはにんまりと歯を見せていて、妙に人懐っこさを感じさせる。

朔夜は漆黒の衣装(ゴシックドレス)を摘んで持ち上げつつ、頭を下げた。

 

「ご無沙汰しておりますわ、《冥柩の咎門(グレイヴ・ファントム)》様。そして他の《七曜(レイン)》の皆様にはお初にお目に掛かります。《操焔(ブレイズ)》を継ぎし者ーーー《魔女(デアボリカ)》ですわ。以後お見知りおきを」

 

「おう、改めてよろしくな。……あ、嬢ちゃんの席はそこだから座んな。連れの兄ちゃんの席は無いが勘弁してくれや」

 

「お言葉に甘えさせて頂きますわ」

 

「ええ、お構いなく」

 

咎門(ファントム)》と呼んだ男の指した席へと、朔夜が歩を進めるとーーー

 

「……所で嬢ちゃん、あいつはどうよ?」

 

「連れてきていますわ。気になるのであれば、ご自分の目でお確かめになっては?」

 

「ん、まあそこまでは別にいいやな」

 

大男の返事を聞きながら朔夜は腰を下ろし、三國は主の背後に立つ。

それを見届けた《咎門(ファントム)》は全体を見回してから喋り出した。

 

「さて、と。始める前に新顔の《魔女(デアボリカ)》の為ってぇ事で、それぞれ自己紹介といくか。まずは改めてこの俺、《冥柩の咎門(グレイヴ・ファントム)》だ。よろしくな、嬢ちゃん。……んじゃ次はお前さんだな、《災核(ディザスター)》」

 

咎門(ファントム)》は左隣に座る若い男へと顔を向ける。

 

「……《煌闇の災核(ダークレイ・ディザスター)》だ」

 

夏場であるにも拘らず、マフラーをする事で顔半分を隠した男は僅かに顔を上げると、朔夜を一瞥して自身の《曜業(セファーネーム)》を告げた。そしてすぐに視線を落とし、沈黙する。

 

(《聖庁(ホーリー)》所属の《聖騎士》様でしたわね)

 

《聖騎士》とは、西欧に拠点を置く歴史ある巨大宗派、その中でも決して日の目を見る事の無い部署ーーー異端審問機関《聖庁(ホーリー)》に所属する者へ与えられる称号である。神の代行者として異端者への裁きを執行する《聖騎士》はその役割上、高い戦闘力を持っていると噂される。

また、ドーン機関は生体超化ナノマシン《黎明の星紋(ルキフル)》という神の道より外れる研究をしている為、《聖庁(ホーリー)》との折り合いがよくない。彼が無愛想な理由に、その辺りも関係しているのだろうと朔夜は考えた。

 

(……永劫破壊(エイヴィヒカイト)に対しても否定的でしょうね)

 

「さて、お次はお前さんだ、《對姫(ディーヴァ)》」

 

咎門(ファントム)》は視線を移動させ、朔夜の左隣に座る清楚な雰囲気を湛えた美女へ振る。

 

「《洌游の對姫(サイレント・ディーヴァ)》です。同じ女性同士、仲良く致しましょう」

 

その笑顔は暖かく安らげる優しいもので、見る者を虜にする事は間違いないだろう。

 

(雰囲気だけなら、誰よりもこの場にそぐわない方ですわね)

 

朔夜はそのような事を思い浮かべながらに笑顔で返す。

 

「是非とも。それとお噂はかねがね耳にしておりますわ」

 

七曜(レイン)》には表の世界で知られている者が数人いるのだが、中でも彼女は最も有名である。

なにしろ彼女は、東欧のとある国の王女なのだから。母国の医療制度発展の為に尽くす、聖女のような優しく美しき王位継承者ーーーしかし、《七曜(レイン)》に名を連ねている以上、油断ならぬ相手なのだと朔夜は肝に銘じる。

 

「んで、次はーーー」

 

「儂じゃな」

 

咎門(ファントム)》の右隣に座る《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》がそう言うも、大男は首を振った。

 

「いいや、まだ爺さんの番じゃないぜ」

 

言いながら《技師(スミス)》と《對姫(ディーヴァ)》の間にある空席へ目を向けた直後ーーー突如、空席の上空へ円形の眩い光が生まれる。

紋様が入った不可思議な光は、無人の席を包み込むように広がっていきーーー弾けた。

直後、空いていた席に華やかな軍服を纏った青年が座っていた。

 

ご無沙汰(サリユ)、諸君。そしてーーーお初にお目に掛かる(アンシャンテ)、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》」

 

「……《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッシス)》様、ですわね?」

 

「その通り」

 

朔夜の確認へ、満足そうに青年が頷いたと同時ーーー

 

「貴様ぁーーーーっ!!」

 

災核(ディザスター)》が巨大な鎌を振りかざし、軍服の青年へと飛び掛かっていた。その死神の鎌が一閃し、刃先が彼の首筋へ当たる寸前で止まる。ーーー否、止められる。

 

「この場では争いを禁じるって言っておいただろうが、《災核(ディザスター)》」

 

二本の指で刃を挟み、死神の鎌を振るわせなかったのは《咎門(ファントム)》だった。寸前までは確かに椅子に座っていたというのに。

 

「どうすんだ?本気でやるってぇなら、まずは俺が相手するぜ?」

 

「ちっ……!」

 

災核(ディザスター)》は舌打ちをし、テーブルを蹴って再び飛び上がり、己の椅子の横へと着地する。

 

「ま、そうして貰えると招待主(ホスト)としてはありがてぇ」

 

「あんたとやり合ってる間に、逃げられるのがオチだ」

 

彼は苛立ちを示すように音を立てて椅子に腰を下ろす。

 

「今のが転移魔法ですわね?」

 

朔夜が先ほどの騒ぎなど気にしない様子で問うと、軍服の青年は頷く。

魔術ーーー公にはされていないものの、実際はこのように実在している。しかし朔夜にとってはあまり珍しいものでは無かった。

 

「転移魔法は初見かね?」

 

「そうでもありませんわ。ここ最近は、息をするかのように魔法や魔術を使う輩をよく見ていますから。それでも僅かな知識しかありませんけど」

 

ーーーメルクリウスや、安心院の事である。最も安心院は使えるという事だけを聞いていて見た事は無いが。

 

「ほう……私の場合は知識ばかりで、魔術そのものはからっきしでね。先ほどの転移も魔術の込められた道具によるものだよ。息をするかのように魔術を使う輩ね……後で聞かせてもらうよ」

 

(彼は《七曜(レイン)》の中では最も情報が少なく、謎が多い人物。少なからず魔術に造詣がある方のようですわね……。それと、《災核(ディザスター)》様とは随分と不仲のご様子で)

 

大きな情報だと心にとどめておく朔夜。

 

「さて、次こそはこの儂ーーー」

 

「十分に存じておりますので結構ですわ、《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様」

 

「わははっ。連れないな、嬢ちゃん」

 

にべなく返す朔夜に老人は肩を竦め、大男は笑い声を上げた。

 

「で、最後の一人だがーーー嬢ちゃんが《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ近づけば、自分から姿を見せるだろうよ」

 

「つまり近づかなければお会いする事は敵わないと」

 

「そういうこった」

 

 

「《咎門(ファントム)》、まだ一人残っていますけど……」

 

そこで朔夜の右隣の席を見ながらそう言う《對姫(ディーヴァ)》。確かにこのままでは一つ紹介されていない席がある。

 

「その事だが俺は何も知らねぇぞ?誰か間違ったんじゃねぇか?」

 

「いいえ」

 

そこで朔夜が否定の声を上げた。

 

「私が事前に一つ席を追加するように通したのですわ。勝手な事だとは思いましたけれど……」

 

「だがーーー」

 

来てねぇじゃねぇかという《咎門(ファントム)》の言葉は続く事は無かった。

 

 

 

 

 

『ーーーーーー』

 

部屋の中にいる全員に突如緊張が走る。なぜならここにいる者たちとは別の力を持った者がここに近づいてきている事を皆、感じ取ったからだろう。

朔夜が薄く笑みを浮かべながら扉を見る。

 

「どうやら来たようですわね」

 

その発言と共に全員が大扉へと注目した。その扉がゆっくりと開き始める。扉が開くと同時に徐々に強まる威圧感ーーーそして扉が完全に開くとその威圧感は、生身の人である朔夜や、《技師(スミス)》なら気を抜けば失神ーーー下手をしたら押し潰されそうな程のものになる。

それ程の途方も無い圧倒的な威圧感を放っていたのはーーー

 

「ふむ……見た限り私で最後のようだが、待たせてしまったかね?」

 

腰まで伸ばした金髪と凄烈に輝く黄金の双眸を持った美形の男。それは例えるならばまさしく「人体の黄金比」と言って差し支えない程の美形である。服装は白を基調とした軍服を纏い、黒いコートをマントのように肩にかけている。首には黄金色のエピタラヒリをかけている男はゆっくりと円卓へと歩を進める。

 

「いいえ、丁度貴方様のお話をしていた所ですわーーー初めまして、ですわね。愛すべからざる光(メフィストフェレス)ーーーラインハルト様」

 

朔夜が立ち上がって漆黒の衣装(ゴシックドレス)を摘んで持ち上げつつ、恭しく頭を下げる。その礼は朔夜が出来る最上級の礼であった。

なぜなら彼こそ、聖槍十三騎士団が首領、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒーーーかつて世界を、そして今も裏の世界で恐れられている魔人の集団のトップなのだから。

先ほどの最上級の礼をした事もその事が関係している。もし何か機嫌を損なう事があれば、彼女の学園どころか世界が終わってしまうかもしれないだ。

さらにーーー

 

(まさか大隊長三名もお付きになられるとは……)

 

ラインハルトの背後には、三人の軍服を纏った者たちーーー白騎士(アルベド)赤騎士(ルベド)黒騎士(ニグレド)が静かに控えていた。そんなラインハルトに忠誠を誓う者たちがいる中で一つでも不用意な事を言えば、どうなるかなど誰でも分かるだろう。

誰もが彼らの放つ威圧感をその身に受け、冷や汗を流しながらも注視し、警戒を向けるもーーー

 

「卿がカールの言っていた《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》かね?」

 

「ええ、私の《曜業(セファーネーム)》を覚えていただいていたとは、なんとも光栄な事ですわ」

 

ラインハルトは周りの警戒など気にした様子もなく朔夜と話だした。一方の朔夜は冷や汗をかき、意識をしっかりと保ちながらも、発するべき言葉を慎重に選んで会話をする。もちろん彼女の内心は恐ろしい程緊張していた。

黄金の獣、破壊の君、その称号に恥じない存在感を、朔夜はその小さき体全体で感じていた。

 

「何を言う。私はこれでも礼儀は十分弁える性分なのでな。それに卿もあの者たちと同じ、カールに見定められた者でもある。ならばカールの友である私も、カールの友である卿の事をある程度知っておかなければ失礼極まりないではないか」

 

「……友人……?一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「何かね?」

 

「……メルクリウス様は私の事をなんと仰っていたんですの?」

 

「ふむ……よく会話する相手で、私の知らぬ未知を色々と教えてくれる友だとカールは言っていた。最もあれがそのような事を言う事自体が、私にとっては未知なのだがな。どこか間違っているかね?」

 

「……あながち間違いでは無いですわね。貴方様の事もメルクリウス様から聞いていますわ。曰く、全てを()する。恐ろしいーーー悪魔のような男だと」

 

「悪魔か。確かにカールや刹那もそのような事を言っていたな」

 

「ーーー嬢ちゃん、その人は……」

 

そこで唖然としていた《咎門(ファントム)》が確認するように朔夜に問う。

 

「失礼。私はラインハルトーーー聖槍十三騎士団黒円卓第一位、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒーーー偉大なる魔術師によって愛すべからざる光(メフィストフェレス)と祝福された者だよ」

 

「ラインハルトーーー第三帝国の首切り役人様がどのようなご用でこちらにいらしたのですか?」

 

對姫(ディーヴァ)》が尋ねる。彼女は一見何事も無いかのように見えるがーーー必死に体の震えを抑えていた。

 

「何もそこまで恐れる事もあるまい。私はただ、ここにはいない我が友とそこに居る《魔女(デアボリカ)》にこの宴に招待されただけだ」

 

「その通りですわ。なので気にせず、宴を再開致しましょう?」

 

朔夜はもう慣れたのか、《咎門(ファントム)》へと顔を向けて笑みを浮かべた。ーーーと言っても少しだけ笑みがぎこちない気がするが。

 

「……嬢ちゃん、とんでもねーのと知り合いなんだな……まあ、お越しになったからにはしょうがねぇし、始めるか。おーい!食事を持ってきてくれ!後、誰かさんが土足で汚したからクロスも替えてくれ!」

 

 

 

 

 

程なくして豪勢な食事が用意され、会話と共に刻は過ぎて行く。会話は主に料理の味や食材についてのものであったが、《七曜(レイン)》ならではとも言える会話ーーー互いの状況を探るような内容が時折挟み込まれていた。

しかし、部屋に充満していた殺気のせいで無言になる時も多かった(殺気の発信源は主に白騎士)。

ラインハルトも先ほどの威圧を抑えて彼なりに宴を楽しんでいた。ちなみに彼に対して、何かを探るような事を聞いた者は誰もいない。誰もがそのような事を聞くのを躊躇うからである。彼からしたら別に聞かれても構わないと思っているのだがーーー

 

「《魔女(デアボリカ)》、卿に前から尋ねてみたいと思っていた事があってな」

 

「なんですの?」

 

「あの(くだん)の兄妹についてだ。卿は彼らと最も近しい間柄であるらしいな。彼らについて卿はどのように思っているのか、一度卿の口から聞いてみたいと思ってな。よければ聞かせてもらえないかね?」

 

「……そうですわね。二人とも頼りになりますわ。それに何より……このような場で言うのは(はばか)れますが……色々な意味で好きですわ」

 

瞬間、部屋の中の空気が固まる。

彼らの会話に耳を傾けていた《咎門(ファントム)》も《對姫(ディーヴァ)》も《災核(ディザスター)》も《裁者(ジャッジス)》も《技師(スミス)》も誰もが固まった。

その中でただ一人ラインハルトだけは笑みを浮かべていた。

 

「なるほど、カールが言っていた事は本当か。曰く、あの二人に()されたのだと」

 

「……それも間違いじゃありませんわね」

 

「好ましい事だ。実に初々しい」

 

(……嬢ちゃん、あんな顔するんだな……)

 

久しぶりの城以外での宴であり、彼自身興味があったことなのでラインハルトは愉快そうにそう言った。

そんな会話から数分後ーーー

 

 

 

「《()()》は息災かの、《魔女(デアボリカ)》殿?」

 

唐突に《技師(スミス)》が話しかける。

 

「こちらに出向いたのが私の時点で、お察し頂けませんの?」

 

「おやおや、これは失礼した。あやつとはまた酒を飲み交わしたかったのじゃがなぁ」

 

なぜ《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》へ《焔牙(ブレイズ)》の事を聞くのかーーー

それは彼女が本来の《焔牙(ブレイズ)》では無い事に起因していた。

本来の《焔牙(ブレイズ)》とは彼女の祖父の事を指すのだ。しかし彼は三年前に病床に伏した為、朔夜は研究と《曜業(セファーネーム)》を受け継いだのである。

 

「そのような事ーーー」

 

「ふははは、今のは挨拶代わりじゃて。本題はここからじゃ」

 

「あら、そうでしたの。ではこれから楽しいお話を聞かせてもらえますの?」

 

「もちろんじゃよ」

 

その会話に他の《七曜(レイン)》も興味を示して会話に交ざってくる。

 

「フフ、随分と楽しそうな話題を始めるようだ。早く続きを聞かせてもらいたいものだ」

 

「ははっ、俺たち全員が楽しめる話を期待しているぜ、爺さん」

 

「生憎じゃが、其方らは楽しめるというよりも、少なからず恐るやもしれんぞ」

 

裁者(ジャッジス)》と《咎門(ファントム)》へ、老人は意地の悪さを思わせる笑みを浮かべて返す。

 

「では本題といこうかの。とはいえ、儂が何を言おうとしているのか、聡明なる《魔女(デアボリカ)》殿は既に承知済みであろうがの」

 

「……同盟について、ですわね」

 

朔夜の返答に頷く老人。それを見て《裁者(ジャッジス)》が感心の声を上げる。

 

素晴らしい(トレビアン)。まさか《七曜(レイン)》の中より、手を取り合おうという意見が出ようとは」

 

「そいつぁ興味深いね。確かに爺さんの《装鋼(ユニット)》と、嬢ちゃんの《超えし者(イクシード)》は相性がいいかもしれんしなぁ」

 

(そういえば、偵察に出していた髑髏から情報が上がってきていたな。確か彼が作っていた新しい《装鋼(ユニット)》が完成したと……それを交渉の切り札にするつもりか?)

 

ラインハルトは内心でそんな事を考えていた。

 

「返答の前に、質問させて頂きますわ。《黎明の星紋(ルキフル)》は、《適性(アプト)》を持って生まれた者にしか作用しませんの。故に今回の交渉の利は私にはあれど、貴方には利がありません事よ」

 

「当然、《適性(アプト)》については知っておるよ。それにーーー《適性(アプト)》が無くとも《超えし者(イクシード)》へと昇華する事が可能な、新型《黎明の星紋(ルキフル)》の研究を行っている事も知っておる。試験運用の段階まで進んでいる事もな」

 

「……機関から離れてから久しいというのによくご存知な事で」

(……内通者が居ると考えるべきですわね。戻り次第手を打たなければいけませんわ……そういえばラインハルト様に通じる内通者も居そうですわね……ですが別段排除する必要は無いでしょう。警備などを頼んでいますし、後ろ暗い事も特にありませんし……)

 

(ほう……内通者か……まあ、私も潜ませているから何か言えた事ではないな。それに警備という協力関係が成り立っている以上、私の部下が排除される心配も無いだろう)

 

朔夜とラインハルトは内心似たような事を考えていたが、老人の演説は続く。

 

「《装鋼(ユニット)》を《超えし者(イクシード)》が纏った場合の《力》は先日見ていた通りじゃよ。日常生活などという不純物を交えて訓練を施した学生であっても、あれ程の飛躍を見せたのじゃ。純粋な兵士として訓練を施し、戦闘マシーンとして完成した《神滅士(エル・リベール)》へ、新型《黎明の星紋(ルキフル)》を投与したらならばどうなるか、想像してみるがいい!」

 

技師(スミス)》は椅子から立ち上がり、円説に熱を帯び始める。

 

「そやつらは間も無く完成する新たな《力》を手にする事で、更なる高みへ至るのじゃ。その時が真の《神滅部隊(リベールス)》の感性であり、立ち塞がる者全てを凌駕し滅するじゃろうーーーそう、たとえ立ち塞がる者が神であろうとも!!わはははは!」

 

高笑いをあげて宣言する老人へ、それぞれが思い思いに口を開く。

 

「ぶちあげたなぁ、爺さん。それがあんたの道ってぇわけか」

 

素晴らしい(トレビアン)。神をも凌駕し、滅すーーーそれ故に、《神滅士(エル・リベール)》と名付けたという事か」

 

「全てをとは、随分と壮大な事ですね」

 

「……《聖庁(ホーリー)》所属の俺を前に神殺し宣言とはな」

 

そこで唐突に殺気が膨れ上がり、部屋の空気が今までに無い程凍り付いた。誰しもが先ほどの比ではない程の冷や汗をかく中、殺気を放っていたのはーーー

 

「貴様のような劣等如きの業で神を殺す?随分と舐めて出たものだなーーー貴様ら劣等如き、我らに及ばんと言うのにか?」

 

「殺すって言った?ーーー僕が忠誠を誓ったハイドリヒ卿を?やっと僕の事を抱きしめてくれた彼女を殺すって言うのかい?」

 

「……俺の兄弟や女神の居場所を壊すと言うなら、俺も黙ってはいない」

 

黒円卓大隊長三人だった。三人の殺気を特に当てられている《技師(スミス)》は歯をガチガチと鳴らして恐怖に震えていた。

 

「抑えろ、ザミエル、マキナ、シュライバー。彼らは現在の我らの役割を知らぬ故に言っているのだ。仕方あるまい」

 

それを咎めるのはラインハルト。それと同時に薄まる殺気、もちろん完全には無くならないが。

 

「……ですが、ラインハルト様。彼らの反応もまた仕方の無い事ですわ。彼らにとっての神と言えるべき者は貴方ーーーあるいは話に聞く女神様だけでしょうから。それを殺すとなれば……穏やかではないですわ」

 

朔夜がそう言うと、視線が一斉に朔夜に集まる。集まる視線は主に説明を求めるものだが、それを気にしない朔夜はラインハルトへと視線を向けた。

 

「それよりも、私は貴方の意見を聞いてみたいですわ。話していただけます?」

 

「先ほどの演説の、かね?ふむ……」

 

ラインハルトもまた、周りの事を気にした様子も無く考え始める。

 

「特に興味も湧かん。先日の実験体も見ていたが、あの程度の《力》、我が軍勢の一髑髏にも及ばん。それにーーー卿も興味は無いであろう?」

 

「くすくす……《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様に一つ疑問がありますわ。なぜ、個の高みを目指すのでは無く、(むれ)としますの?」

 

「……ふははっ、知れた事を。群の前では個など取るに足らんからじゃ。歴史を紐解いてもそれは証明されておるわ。どれ程の英雄豪傑であろうと決して個ではなく、部下が、協力者がおるのじゃからな」

 

老人の言っている事は正しい。現にラインハルトもそうだ。彼の内に渦巻く者たちがいなければ、これ程の実力も力も無い。と言っても彼一人でも人間離れしている所は多いのだが。

それにもう一つ言うならば、個で群を一瞬で蹴散らすような存在が後々生まれるのだが、その事を知っているのは今この場で一人のみである。

 

(質量の桁が違えば相性や戦法、技術や数に意味など無い……)

 

その人物は頭の中でその言葉を反服した後、話を聞き始めた。

 

「《操焔(ブレイズ)》を次ぐ為に生を受けし《魔女(デアボリカ)》よ。《絆双刃(デュオ)》というシステムや護陵衛士(エトナルク)などという部隊を作り上げた《操焔(ブレイズ)》ならば、群がどれ程重要なのかを理解出来るじゃろう?」

 

「ええ、十分に。それで答えですわね……」

 

「そうじゃ、今一度同盟についての答えを頂けるかの」

 

改めて答えを求める老人へ、朔夜は笑いながら答えた。

 

「残念ながら、私は既に別な者たちと協力関係ですわ。ですのでそちらの件はお断りしますわ」

 

「なっ……!?」

 

「それはそれは……《魔女(デアボリカ)》、その者たちとは?」

 

裁者(ジャッジス)》が問うもその表情は薄っすらと笑みを浮かべている。おそらく目星をつけているのだろう。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓ーーーラインハルト様やメルクリウス様に協力して頂いてますわ。後はもう一人と……」

 

おそらく期限ありですけどね。と朔夜は内心で呟く。

 

「《魔女(デアボリカ)》とは学園の警備という事で協力をしている。先の襲撃ーーー《魔女(デアボリカ)》の滞在していた島にはシュライバーを。学園にはマキナとザミエルを送ったのは私とカールの指示だ。卿らの情報網にもこの三人が現れたと引っかかってないかね?」

 

「しかし、それよりも前ーーーあの二人の時はまだ同盟を……!」

 

技師(スミス)》が言っているのはあらもーどの件だろう。

 

「あのモールでの事かね?あれは卿の《装鋼(ユニット)》を入手しろと私がマレウスに命じたのだ。ベイはただあの兄妹と決着をつけたいという理由でついていっただけ。確かにあの時は協力関係の話は無かったが……後々の利害が一致したからな」

 

「……貴方は《装鋼(ユニット)》の事を詳しく知っているんですか?」

 

「然り、それにーーーベアトリクス=エミール=イェウッド。卿の研究についても私は知っているぞ。無論、言うまでも無くカールもな」

 

「ーーーっ!!?」

 

對姫(ディーヴァ)》が初めて動揺する。探りを入れた結果、予想外の切り返し方をされたのだ。この反応も当然と言える。

そこで《技師(スミス)》がテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「こ、小娘……儂ではなく第三帝国の残党共と手を組みおって……!」

 

「機関を裏切った貴方にそんな事を言われる筋合いはありませんわ。それに新型《黎明の星紋(ルキフル)》でしたわね……あれの開発は中断していますわ。もっといい物が手に入りましたから、元より貴方の目的は挫かれていましたの」

 

「なんじゃと!?」

 

老人は唖然とし、それを嘲笑う表情で朔夜は続ける。

 

「元より私は神を殺すなどと言う妄言に微塵も興味ありませんわ。むしろその言葉に遺憾を感じざるを得ませんわ。殺せない者を殺すなど……」

 

「お、のれっ……!小娘が知ったような口を……」

 

「ーーー《魔女(デアボリカ)》。先から思っていたのだが、卿は一体()()()()()()()()()()()?」

 

ラインハルトがその黄金の眼光を細くし、朔夜へと向ける。それを受けた朔夜はーーー

 

「貴方たちの事はもちろん、メルクリウス様が望む理想の結末もーーー」

 

「ふふ、ふはははは……なるほど、これも歌劇をより高みへ導く為の演出か」

 

無視をされ続けた老人は再びテーブルを叩いて怒鳴る。

 

「貴様ら……!儂を、儂の技術を侮辱した事を後悔させてやるわ!!待機させておる《神滅部隊(リベールス)》を突入させてくれる!!」

 

「くすくす……そのような事をしてよろしいのでしょうか?」

 

「おいおい、爺さん。この宴は争い厳禁だとさっきも言っただろうが。嬢ちゃんも煽るな……」

 

一触即発の状況になり、《咎門(ファントム)》や《裁者(ジャッジス)》が収めようとするもーーー

 

 

 

 

 

「そう言うのであれば、一つゲームをしてみてはいかがかな?」

 

 

 

「カールか……卿、この場に来ないつもりでは無かったか?」

 

「そのつもりだったのだが、ふと思いついた事があって推参した次第だ」

 

ラインハルトの背後からいつの間にか現れたメルクリウスが場の空気を収めると同時に注目が集まった。

ちなみに彼の格好はボロボロのローブを纏っていた。彼を知っている者たちからすれば何ら珍しい姿では無かったが、彼を知らない者たちの反応は様々だったーーーが、《對姫(ディーヴァ)》は他とは違い、愕然とした顔をして「ふじーーー様……?」などと言っていたのはまた別の話である。

 

「ふむ……して、いきなり現れてゲームとはどういう事かね?」

 

「何、簡単な事だよ。どうやら《技師(スミス)》殿はこのままでは納得しないご様子。ならば()()が一番優れた(むれ)であるのか、互いに争うゲームで納得してもらうのが一番良いと思ってね。そして何より一番の理由はとても面白い一興になると思ったからだ。幸い手駒は多いようだからそこの問題は無いだろう。無論ゲームである以上、ルールは設けるが」

 

「ーーーつまり代理戦争ゲームと言う事ですの?」

 

「然り」

 

朔夜の言葉に頷くメルクリウス。そして朔夜と《技師(スミス)》は双方とも笑みを浮かべて、そのゲームを了承した。

 

「面白そうですわ。是非とも参加させていただきますわ」

 

「……よかろうて。どちらがより優れた群を作り上げたか、思い知らせてやるわい」

 

「……そして獣殿、貴方にもこのゲーム、参加していただきたい」

 

「……何?」

 

互いに笑みを浮かべて睨み合っていた二人だったがその言葉でメルクリウスの方へと向く。

 

「貴方では無く、三騎士のいずれか一人だ。もちろんルールはきつくするが……一方的な勝負(虐殺)にならない事は約束するし、彼らにもさせよう。無論これはゲーム故、下手な遠慮はいらんよ」

 

「……相分かった。ザミエル、卿が行くが良い」

 

心得ました、我が主(ヤヴォール・マインヘル)!」

 

 

 

 

 

ややあって、外の様子を映すモニターが部屋に運び込まれる様を見ながら、朔夜は想う。

 

(《殺破遊戯(キリング・ゲーム)》……。影月、優月ーーー他の皆もどうか無事で……)

 

 

 

 

その想いはどこに行く事もなく、朔夜の胸の内にとどまったーーー

 




ザトラ「新年一発目いかがでしたでしょうか?」

影月「いつもより長いな?それに分かりづらい所もいくつかーーー」

ザトラ「やめてください……色々書き方考えてあれなんですから……私文才無いなぁ……」

ベアトリス「そんなに落ち込まないでください!仕方ないじゃないですか……文才無いのは」

ザミエル「馬鹿娘、それは励ましてるのか?それとも馬鹿にしてるのか?」

ザトラ「……そういえば関係無い事ですけど昨日、ベアトリスさんがものすごく赤面しながら告白してきた夢を見たんですけど」

ベアトリス「へ?」

ザミエル「ほう……」

影月「そういえば作者がdies iraeを知ったきっかけって、ベアトリスさんだっけ?そして女性diesキャラの中で一番好きなのもベアトリスさんだっけ?」

ザトラ「はい。だからそんな夢見たんでしょうね……まあ、大好きなキャラですし」

ベアトリス「えっ……ええっ!?」

ザトラ「私は感謝してるんですよ?貴女のおかげでdies iraeを知ったんですし」

リーリス「そうね。貴女がいなかったら私たちもこうやって共演してなかったわけだし」

優月「私たちも生まれませんでしたし」

朔夜「私も影月と優月を好きになってませんでしたわ」

透流「この小説が書かれる事もなかったな」

ザトラ「なのでーーー」

『ありがとうございます!ベアトリス(さん)!』

ベアトリス「ーーーちょっ、ええっ!?マ、マレウス、ど、どうしたら……?」

ルサルカ「感謝されてるんだから受け取っておきなさいよ〜」

リザ「珍しくうろたえてるわね……ベアトリス」

安心院「うろたえるって言ったら、朔夜ちゃんもうろたえる事多いよね?」

ザトラ「この作品で一番キャラ崩壊してますからね」

朔夜「うっ……分かってますわ。でも展開上仕方ありませんわ!まさか私が後々ーーー」

シュライバー「ちょっとサクヤちゃん、ネタバレはダメだよ!」

ザトラ「……まあ、彼女たちをいじるのはこれくらいにして……皆さん、今年もこの小説をよろしくお願いします!それでは皆さん、締めましょうか?この小説が末長く続きますようにーーー」

黄金「我らのアニメが成功する事を願いーーー」

朔夜「そして皆様にとって今年がより良い一年でありますようにーーー」

マリィ「そして、皆が幸せでありますようにーーー」

水銀「故に今宵、正月限りの集まりに幕を引こう。では最後に諸君らにこの言葉を送らせてもらおう」








―未知の結末を知るー
(Acta est fabula)
!』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。