アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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メルクリウスめ……もうすでに逃げてたか……あ、今回で一応閑話最後です……戦闘はもう少しお待ちください!
ではどうぞ!



第三十一話

side 影月

 

「…………」

 

「影月、なんかふらふらだな。どうした?」

 

「昨日色々あってな……」

 

「何かあったのかい?僕は昨日君たちの部屋にいなかったから知らないけど」

 

俺はふらふらしながら寮の廊下を透流とユリエ、安心院と共に歩いていた。

優月と追いかけっこをした次の日、俺は寝不足となっていた。

その理由は昨日の夜まで遡るーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝るか、優月」

 

「……はい」

 

昨日の夜、部屋で優月とかわした一番最初の会話はそれだった。

ちなみに安心院は後で本人から聞いたが、別のクラスメイトの部屋へ遊びに行って一緒に寝たらしい。……一番最初に言ってた事(俺の中にいる等々)はなんだったんだと思ったのはここだけの話だ。

話を戻すが、俺と朔夜に対する誤解(誤解じゃないけど)は優月を捕まえて、色々と説明をして納得してもらったもののーーーやはりあんな事があった後だから、当然ながら昨日は気まずい空気が部屋中に流れていて、とても居心地が悪かった。

 

「……兄さん、私のベッドで一緒に寝ませんか?」

 

「って事は上か……分かった」

 

この時の俺は今日の優月に対する罪悪感を感じていたから、この頼みに対して断る事なく了承した。

ちなみに優月に対する罪悪感とは、今まで優月に隠して朔夜と付き合っていた事や、研究で呼ばれたなどの嘘を付いていた事などだ。

 

 

手早く寝る準備をし、優月が先にベッドへ潜り込む。

そして俺は電気を消してから二段ベッドの上に登り、優月の隣へ寝転がる。

 

「兄さん、ちょっとこっち向いてください」

 

「え?あ、ああ……」

 

寝転がると背後から優月がそう言ってきた。なんだろう?と思いながら優月の方へ体を向けるとーーー

 

 

 

いきなり優月が抱きついてきた。

 

「……優月?何して……むぐっ!?」

 

さらにそのまま唇を奪われた。しかもーーー

 

「ん……うぅん…………ちゅ……」

 

「……んっ……ちゅ……」

 

舌まで入れてきた。なんだこの三連発……。

俺は驚きながらも何とか気持ちを冷静にし、抱きついてきた優月を突き離す事なく、舌を合わせていく(どこで知識を得たのか知らないが、朔夜より上手かった)。突き離さなかった理由はやはり罪悪感を感じていたからだ。そして幾分か経った後ーーーお互いの口が離れ、混ざり合った唾液がシーツの上に垂れる。

 

「はぁ……はぁ……んんっ」

 

「はぁ……はぁ……優月?突然どうしたんだ?普段こんな事しないだろう?」

 

俺は息を整えながら優月に問う。普段おとなしい優月がこんな大胆な事をしてきた事に疑問を覚えたのだ。……まあこんな事をしようと思う心当たりはいくつか思いつくのだが。

そう思って優月の返答を待っていると、少しうつむいていた優月が顔をあげる。その顔はーーー少し頬が赤くなっていたが、目には涙が浮かんでいた。

 

「……勝手にしてごめんなさい。でも、悔しかったんです……朔夜さんに先を越された事が」

 

「何が悔しかったんだ?」

 

「……先に言われてしまった事が、です」

 

俺は優月の事(この時の気持ちはこうだろうとか)は色々と知っているつもりだったのだがーーーこの事に関しては何を先に言われ、悔しかったのかは分からなかった。

そして優月は意を決したような顔をして言った。

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、ずっと好きでした。兄妹としてとかじゃなく、一人の女性として……」

 

「……えっ?」

 

「こんな事言うのもおかしいですよね……でもそう思ってたんです」

 

優月が?俺の事を?好き?しかも女性として?ーーーつまり、恋人とかそういう意味で?

俺の頭の中は突然告げられたその言葉によって真っ白になった。

そして数十秒間、たっぷりと思考停止していた頭は少しずつ冷静を取り戻していき、なんとか言葉を絞り出す。

 

「好きだって……本当に?」

 

「……はい。……でも、やっぱり迷惑ですよね……」

 

なんとか絞り出した言葉を優月は肯定するとーーーなぜか目を潤ませ、再び泣き出してしまった。

 

「怖かったんですよ……だって私たちは兄妹ですから、こんな事言うのはおかしい、じゃないですか……ううっ、だから言えなかったんですよ。言ったら、何かが壊れてしまう気がして……」

 

「……優月……」

 

「でも、兄さんが朔夜さんとキスしていたのを見たら、耐えられなくなって……だから、私は!前から兄さんとしたかったキスを……ええ、それがただの自己満足だって分かってます。グスッ、でも……どうしてもしたかったんです……それに私は嬉しいです。突然やったのに……拒絶しないで受け入れてくれて……」

 

「優月」

 

「だから、私はもう満足です。言いたかった事言えましたし、したかった事出来てよかったです。後は朔夜さんとーーー」

 

「優月!!」

 

「っ!?」

 

俺は声を荒げて、優月の溢れ出る辛そうな言葉を遮った。

 

「もういい……そんな辛い事、言わないでくれ。優月、お前はそれでいいのか?」

 

「いい…………わけないじゃないですか。本当は嫌ですよ!でも兄さんには朔夜さんがいるじゃないですか……それに私は妹なんですよ!?」

 

「妹とか誰が先に付き合ってるとか関係無い!!……いいか、優月……俺に嘘を付くのはいい。だが自分に嘘をつくのはやめてくれ」

 

「…………」

 

「好きだって言うのなら、愛してほしいって言えよ!そうしたら……俺は今まで以上に大事にしてやるし、愛してやる!朔夜も優月も……どっちもだ!……好きって言われた後にそう言われると悲しいし、なんとかしたいって思うんだーーー改めて聞く。優月はどうしたい?本音を言ってくれ」

 

「……私は……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、その後はいい雰囲気になって、朝まであんな事やこんな事を優月ちゃんとしてたんだね?」

 

「おい……まあ、否定はしないが……」

 

「……影月、お前なぁ……」

 

「……そうですか」

 

というわけで三人にはちょっとだけ真実を変えて教えた。

反応としては安心院は面白そうに笑ってるし、透流は若干頬を赤くしながら睨まれ、ユリエは頬を赤く染めてうつむいていた。

透流とユリエの反応は大体予想通りだったが、安心院は頬を染めるどころか全く気にしていないようだった。……こういう話は慣れてるのだろうか?

 

 

話を戻すが寝不足と言っても、今日は週末で午前中で授業と訓練が終了したので、さっきまで三時間ほど寝ていた。

その後廊下へ出ると、透流とユリエがトレーニングルームへ向かうというので俺らも付いていくというのが今の状況だ。その向かう途中、一階玄関で話し込む四人の女子とばったり出会う。

 

橘、リーリス、サラ、優月だ。

 

「やあ、キミたちはこれからトレーニングルームかい?」

 

「そのつもりだ」

 

「俺はなんとなく付いてきただけだが」

 

「影月君に同じく。そっちは何を話していたんだい?」

 

「これから外へ買い物へ行くから、その話をしてたのよ」

 

とリーリスから答えが返ってきた。外とは敷地外の事である。

 

「巴さん、私は兄さんと安心院さんにちょっと話があるので連れて行っていいですか?」

 

「ああ、分かった。頼んだよ」

 

優月は橘に確認を取ると、俺と安心院を呼んで部屋へと向かう。

そして自室に戻った所で優月からある話を聞いて、それである準備を始めたのはまた後の話ーーー

 

 

 

夕食時、リーリスが食堂に姿を見せなかった。

俺や優月などはなぜ姿を見せないのか理由は知っているものの、透流だけは不思議そうな顔をしていた。

 

「リーリスはどうしたんだろうな?」

 

「おかげで落ち着いてご飯を食べる事が出来ました」

「ふんっ、別にあの女など居ようが居まいが、どうでもいいだろう」

 

「ははは……」

 

リーリスと馬が合わないユリエ&トラの返答を聞いて透流は苦笑いする。

 

「外せない用事でもあったんですかね?リーリスさん、何かと忙しいみたいですし」

 

「私もそう思うぞ」

 

「ふふっ、わたしもそう思うよ」

 

透流に話を合わせたのは優月、橘、そしてみやびだった。

明るい笑顔で話に乗ったみやびだがーーー

 

(……臨海学校以来、少しふさぎ込んでいたが最近はそれが嘘みたいに明るいな。でも先日、更衣室で声を荒げたらしいし……少し気になるな)

 

臨海学校が終わってしばらくの間、みやびは誰の目から見ても分かる位に落ち込んでいた。俺も以前よほど落ち込んでいたのを気にして声をかけたのだがーーーみやびは襲撃の時に助けてくれたお礼を言った後に逃げるように去っていったのだ。

それ以来話しかけようかと何回か思ったのだが、彼女の精神状態的にあまり話しかけない方がいいかもしれないと判断し、見守る事にした。

 

しかしそんなある日ーーー俺たちが安心院と初めて出会ったあの日以来、みやびはとても明るくなった。

吹っ切れたと言えば聞こえはいいが、そんな感じにはどうしても見えなかった。何があったのか、それが一つ目の気になる事だ。そして先日、更衣室であるアクセサリーを見せてもらおうとした吉備津に向かって声を荒げて怒ったと優月から聞いた時は、とても気になったものだ。

彼女はそんな簡単に声を荒げるような性格だったか?とーーーその二つが主に気になった事だが、実は三つ目の気になる事が最近出てきた。それはーーー

 

(声を荒げた原因のあのアクセサリー……安心院は老人からもらったって言ってたな……それに力を与えるとか言われてたらしいし……)

 

その声を荒げる原因となったアクセサリー……一体なんなのだろうか?老人が言う力とは一体?

 

「ん?」

 

「どうした、透流」

 

そんな思考を続けていた俺の意識を現実に引き戻したのは、透流とトラの声だった。

 

「いや、みやびと橘がどうして付いてくるのかって思ってさ」

 

透流とユリエ、トラとタツ、そして俺たちの部屋は二階だがみやびと橘の部屋は三階の女子フロアだ。

そして上階への階段はラウンジ前にある為、すでに通り過ぎている。

 

「ユリエと話があるのだ。あまり人に聞かせる内容ではないから、そちらの部屋へお邪魔しようかと思ったというわけだよ。なあ、ユリエ」

 

「ーーーっ!ヤ、ヤー!」

 

話を振られ、こくこくと頷くユリエ。

 

「なるほどな。……あ、だったら俺は席を外した方がいいか?」

 

「い、いや、キミも同席してくれたまえ」

 

「ーーー?ああ、分かった」

 

橘が僅かに焦ったような口調になったが透流は承諾してくれたみたいだ。

そしてドアに手を掛けた所で後ろを振り向いてくる。

 

「ん?もしかしてトラたちもか?」

 

「僕らも話があると言われたんだ」

 

そう言って橘を見るトラ。

 

「……そうか」

 

「くはっ、先頭なんだから早く部屋に入れっつーの。それとも俺は早くないぜって性的アピールか、んん?」

 

……何故月見先生までいるんだ。てか呼んだの誰だ!?

 

そんなツッコミを内心思っていると後ろからトントンと肩を叩かれた。それを確認した俺は視線を後ろに向けずに手のひらを上にして後ろに出す。その出した手にある物を手渡された。

それは他の皆の所にも渡されていた。

そんな事は気付く事もなく透流が首を捻りながらも、ドアを開けて部屋に入った途端ーーー

 

パァン!!

 

派手な火薬音と同時に五色ほどの紙テープが舞った。

 

「ぶほぉっ!?」

 

透流は驚いて声をあげ、紙テープのいくつかが透流に纏わりついた。

 

「わっ、ぷはっ……!な、なんだこれ……!?」

 

透流の視線の先には部屋の中でバズーカ砲のような物を構えるリーリスと、その後ろにサラがいた。

 

「え?リ、リーリスにサラ?これは一体ーーー」

 

パンパンパァン!!

 

「な、なな……!?」

 

透流は振り向き、俺たちの姿を確認して驚く。

透流にはきっと部屋で話をすると言ってついてきたうちの七人がクラッカーを手にしていて驚いていることだろう。

茫然自失となっている透流へリーリスが飛び込むように抱き付いていった。

 

「誕生日おめでとう、透流ーーーっ♪」

 

「わわっ!?リーリス、ちょっと、え、誕生日!?」

 

「そうよ。今日は透流の誕生日でしょ。だから、おめでとう♪」

 

透流の首に手を回して体を寄せたまま、リーリスが言う。

そこで俺たちもお祝いの言葉を言う。

 

「誕生日おめでとう、九重」

「おめでとう、透流くん」

「くはっ、一つ大人になったか。更に大人の階段を上りたかったらいつでも言えよ?」

「ふんっ。祝ってやるから感謝しろ」

「すまないな、透流。そしておめでとう」

「透流さん!おめでとうございます!」

「僕からも言ってあげよう。おめでとう」

 

ーーー尚、タツは例の(ごと)く大笑いしていたので割愛。

 

そして最後にユリエが透流の前に立つ。

 

「おめでとうございます、トール。それとーーー」

 

一旦言葉を切り、透流とリーリスを引きはがす。

 

「トールにくっつくとまでは聞いていません」

 

またそのやりとりか……と内心思うが、皆と笑いながら、彼女たちのいつもの言い合いを見て楽しむ。

 

「はいはい!ユリエさんもリーリスさんもそれくらいにして……パーティ楽しみましょう!」

 

室内には至る所に飾り付けがされていて(何故かイルミネーションまである)、部屋の中央には大きなテーブル。しかもそれにはハート形の大きなケーキが用意されていた。ーーーハート形?

 

「何故ハートなんだい?」

 

「あたしと透流のウェディングケーキの予行演習も兼ねているのよ」

 

「……真っ二つにしていいですか?」

 

「どうしてよ!?ーーーって、《焔牙(ブレイズ)》は許可無く具現化するのは違反でしょ!!」

 

焔牙(ブレイズ)》を具現化したユリエに、リーリスがツッコむ。

 

「三秒以内ならセーフです」

 

「んなわけないわよっ!!」

 

「くははははっ!アタシが許可するぜ、銀髪♪やっちまえー!!」

 

「ユリエ!俺も面白そうだから協力してやるぜ!」

 

「わーっ、待て待て!とりあえず落ち着こうぜ、ユリエ!リーリスも!月見も影月も焚きつけるんじゃねーっ!!」

 

 

 

 

数分後、落ち着いた面々と共にケーキを囲んで座る。

 

「いきなりでびっくりしたけどーーー嬉しいぜ。リーリス、それと皆もありがとな」

 

「急な話だったのでプレゼントは用意出来ませんでしたが……」

 

「いやいや、これで十分だって」

 

「あら、あたしはきちんと用意したわよ」

 

「リーリスー、プレゼントはあ・た・し♡とか言ったら、ユリエが真っ二つにするぞー」

 

「……影月、真っ二つにしていいんですね?」

 

「いいわけないでしょ!!」

 

俺の返しに反応したユリエが再び《焔牙(ブレイズ)》を具現化しようとして、リーリスがツッコんだ。

 

「ところで、どうして俺の誕生日を知ってたんだ?」

 

「あたしが《特別(エクセプション)》だって忘れたの?生徒のデータベースくらい、いつでも見られるわよ」

 

さらっととんでもない事を口にしたリーリス。

彼女が悪用するとは思えないが……個人情報の保護はどうなっているんだ?

 

「彼女からキミの誕生日を聞いてね。準備は自分がするから、皆を夕食後に集めてくれと言われていたのだ」

 

「あっ!もしかして昼間の立ち話ってーーー」

 

「ご明察、だな」

 

「……で、こいつは何で居るんだ?」

 

そこで透流が月見先生を指指す。

 

「くはっ、委員長と銀髪が話してる所に通りがかったんだよ。なーんかおもしろそーな話してっから、アタシも参加させてもらう事にしたのさ」

 

「参加させなければ、トールにバラすと言われましたので……」

 

「月見先生らしいですね……そういえば気になったんですが、この部屋ーーー鍵掛かってたんじゃないですか?」

 

「ああ、サラが開けてくれたわ」

 

「この程度の鍵、造作もありません」

 

「得意げに言ってるけど、不法侵入だよねぇ……それに僕に言ってくれれば中から開けれたのに」

 

「貴様のそれも不法侵入だ!」

 

サラの言葉に安心院がそう言い、トラがツッコむ。

 

「しかし、何だってまた俺のデータを見たんだ?」

 

「……あたしが転入してきた理由、忘れてない?」

 

「なるほどな、よく覚えてたもんだ。……そういえば皆の誕生日っていつなんだ?」

 

「ふふっ、未来の伴侶たるこのあたしのプロフィールを知りたいのね?」

 

「……リーリスさん、皆って聞いたでしょう……」

 

「あたしは五月だから結構前なのよね。ちょうど転入してきた頃よ」

 

優月のツッコミはスルーされ、リーリスが話を続ける。

 

「だから来年の誕生日は楽しみにしておくわね、透流。プレゼントは日本式に給料三ヶ月分の指輪がベストなお薦めよ♪」

 

「…………。皆の誕生日はいつなんだ?」

 

透流がビシッと指を指したリーリスを無視して周りに話を振ってきた。それに対して、皆もリーリスの発言を無視して返す。

 

「わたしは三月だよ」

 

「近いですね。私は四月です、みやび」

 

「へぇ、ユリエ、四月生まれだったのか」

 

「ヤー、四月一日ですーーーってトール?何か?」

 

「い、いや、なんか意外だなって……」

 

驚愕している透流と、その様子に不思議がるユリエ。

確かにクラスで一番小柄な彼女が最も早い生まれだとは思わなかったが。

 

「後一日遅ければトールと出会えなかったと思うと、滑り込みセーフでした」

 

「どういう事だ?」

 

「学校教育法で色々と決まっていまして……確か四月一日はその学年における早生まれ最後の日になる……で合ってましたっけ?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「へぇ、そうだったのか……」

 

優月の説明と橘の肯定の言葉を聞き、透流は納得する。

 

「影月はいつなのですか?」

 

「俺は九月だ」

 

「私も兄さんと同じです」

 

「ふふっ、仲がいいからなんだか納得するよ。なじみは?」

 

橘が安心院に向かってそう質問する。ちなみに一部の女子(橘含む)は安心院を下の名前で呼んでいる。

 

「僕?誕生日なんて忘れたなぁ……誰か逆算してくれるといいけど……」

 

「ええ、してみますよ?失礼ですけど……教えてください。何歳なんですか?」

 

皆が安心院の言葉を待つ。それがとてつもない数字だとは知らずにーーー

 

「僕は3兆4021億9382万2311年と287日位生きてるんだぜ。……それを逆算してくれないかな?」

 

『……は?』

 

「僕自身、やろうと思えば逆算出来るけど面倒だし、誰か代わりに逆算してくれよ」

 

「………………また今度にしましょうか」

 

「というかキミはそんなに生きていたのか!?そんな宇宙誕生より前にーーー」

 

「宇宙誕生なんかよりよっぽど前よ……」

 

「本当にそんな年齢なのかよ……」

 

「まあ、僕は人外だからね」

 

ここで安心院に関する新事実が明らかになった所で、話は元に戻る。

 

「巴はいつなのですか?」

 

「私は七月だから先月だな」

 

「トールと近いのですね」

 

「うむ、ちょうど一週間違いになるな」

 

「えっ?どうして言ってくれなかったんだ?」

 

「どうしてと言われても……そんな事言ったら、祝ってくださいと言っているようなものではないか」

 

「それはちょっと恥ずかしいな……」

 

「……それでしたら、ご一緒にお祝いをしたら如何(いかが)でしょう?」

 

するとそこまで口を閉ざしていたサラが発言する。

 

「お、それ僕も賛成だよ。僕たちは知らなかったから祝わせてくれよ」

 

「いや、しかしだな……」

 

「いいじゃない。それだけ近いなら、巴も今日の主役の一人に決定ね」

 

「祝ってもらえよ、いいだろ?」

 

「……分かった。少々気恥ずかしいが、一緒に祝ってもらうとしよう」

 

その後はお祝いの歌を歌ったり、ケーキを切るのに一悶着(サラが透流と橘でケーキを切れと言ったり、それに対してリーリスが突っ込んだり)あったりしたが、楽しくパーティは続いた。そんな一悶着が落ち着いた後ーーー

 

「リーリスさん、これシャンパンですか?」

 

「ええ」

 

「ちょっ!?未成年が酒飲んだらまずいだろ!!」

 

「堅いわねぇ……今日くらい無礼講って事でいいじゃない」

 

「くはっ、全くだ!酒くらいアタシが許す!」

 

「あんたも未成年だし、教師だろーが!!」

 

そんな透流のツッコミを聞きつつ、俺はシャンパンと言われた物を開ける。

 

「開けるなーーっ!!」

 

「透流ってば、さっきからうるさいわねぇ」

 

「……リーリス、私も飲酒はどうかと思うぞ?」

 

「……安心院、ちょっと飲んでみるぞ」

 

「おっ、いいのかい?まあ、僕は年齢が年齢だから、君たちと違って問題無く飲めるんだけどね」

 

透流のツッコミを聞き流しながら、安心院にそう言う。安心院は嬉しそうに言いながら全員分のグラスを出す。

俺はまず、ひとつのグラスに琥珀(こはく)色の液体を注ぎ、安心院に渡してみた。

 

「ありがとう……って、んん?これは……なるほど」

 

グラスを渡された安心院は少しその液体を飲んだ後、何か納得したような表情をする。

 

(やっぱり、そうなのか)

 

俺は安心院の反応を見て、液体の正体を大体予想した。まあ、これなら大丈夫だろうと思い、とりあえず全員分のグラスにそれを注ぐ。

 

「ほら透流。あんたが主役なんだから乾杯の発声をしなさいよ」

 

リーリスに促され、透流はグラスを掲げた。

 

「えっと……皆、ありがとな。それじゃあ、乾杯!」

 

『かんぱーい!』

 

皆、グラスへ口を付けてそれを飲む。その味はーーー

 

「……なんかジュースみたいだ」

 

「これ、ノンアルコールシャンパンか?」

 

「酒じゃねーのかよ!?」

 

「その通りよ。ちょっとした悪戯って事でね」

 

なんて人騒がせなーーーと思っていると、ふと視界の端でふらふらと揺れる銀髪が見えた。

 

「……ユリエ、まずくないか?」

 

「あ……さっき本人が言ってましたけど……以前、ワインの香りだけでダウンしたほど弱いそうです」

 

「これ、ノンアルコールなのにねぇ……暗示にかかりやすいって事かな?」

 

「ユリエーーーっ!?」

 

「ヤー……」

 

 

その後ユリエはダウンしてしまったが……パーティはまだまだ続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてーーー

 

「じゃあ皆、明日な」

 

あの後、ユリエを除く皆で、ラウンジから持ってきた運生ゲームで楽しく遊んだ後、消灯時間も近くなったのでパーティはお開きとなった。

 

「影月、優月、安心院、今日はありがとな」

 

「ええ、楽しかったです!」

 

「ああ、そうだな。まあ、ユリエがダウンして楽しめてないのがちょっと残念だけどな」

 

「ははは……寝てしまったからな」

 

「仕方ないけどね。それじゃあ、そろそろ戻ろうか?おやすみ、透流君」

 

「おやすみ、三人とも」

 

俺たちは隣の自室へと帰り、眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「こちらが例のものですか……」

 

「さよう。此れこそが其方(そなた)らが纏う《装鋼(ユニット)》の為の外部兵装じゃよ。……最も、完成までは今しばらくの時間を必要とするがの」

 

《K》が、その射るような双眸を、組み上がりつつあるそれへ向ける。

そして《K》の前に立つ痩躯(そうく)の老人ーーー《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》が口角を上げて、そう言う。

 

「ところで、《K》くん。ここに来た用は何かの。まさかこれを見る為ではあるまいて」

 

「お察しの通りです。……幹部会より警告が」

 

《K》や《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》の所属する組織ーーーゴグマゴグは、表向きには存在しない非合法組織だ。

それ故、組織の存在が明るみに出るような行動や、作戦は極力控えており、仮に人目に晒されるような事があっても、ある程度の事柄までなら闇に葬り去ってきた。

 

だがしかし、数週間前の襲撃、《品評会(セレクション)》はあまりにも大掛かりな作戦過ぎた。

あの日、度重なる爆音や一部の施設が燃え上がった事で、臨海学校が行われていた島は一時、夜闇を照らす巨大な篝火(かがりび)とまで化した。そんな事態になったのなら当然人の目を引く。

しかし、ガス爆発による火災ーーーしかも怪我人が一人も出なかったという事で数日も経てば世間の記憶から忘れられていった。

翌日、大手商社の不正取引問題が発覚した事もその一因である。

前者はドーン機関、後者はゴグマゴグの情報操作によるものだ。

互いの思惑が一致したとは言え、二つの組織が手を取り合う形で隠蔽した事は、ある意味皮肉だ。

 

「『確かに我々は《装鋼(ユニット)》がどれ程のものであるかを鑑査させて頂きたくと伝えた。けれどそれは、組織の存在が明るみに出る危険性を背負ってまで行うべきではない』との事です。今後は独断行動を自重されよといった警告でした」

 

「ふははっ、笑わせおる。揺り椅子にでも座っていろという事か。これまで散々、儂の生み出した《力》の恩恵に与ってきた分際で」

 

老人の言う通り、彼の作り出してきた数々の兵装は組織の勢力をこの十年で大幅に拡大させてきた。しかし老人の独断行動によって組織が被った被害を総合しての警告である。

 

「話は変わるがの。キミに一つ頼まれて貰いたいのじゃがーーー」

 

「よろしいのですか?」

 

「構わぬよ。元より儂はどのような事にも縛られるつもりなど無いわ。故に古巣など捨てたのじゃからな」

 

「……承知しました。では、用件とは?」

 

老人は頷くと、用件について語る。

 

 

「……頼まれてくれるかの」

 

「貴方に従う事ーーーそれが私に与えられた任務ですのでね」

 

「では、頼んだぞ。ただし、くれぐれも答えは受け取らんでくれよ。宴で直に聞かせてもらうと伝える事を忘れずにの」

 

(かしこ)まりました」

 

老人の言葉を聞き、悪魔の使いは飛び立つ。悪魔の撒いた種子を芽吹かせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

しばし後ーーー老人は移動し、一つの格納庫にいた。

 

「《K》くんにも言ってなかったが……これももう少しで完成するのう。旧世代の兵器とはいえ、役立つじゃろう」

 

そう呟く老人の目の前には、二種類の大型兵器があるーーーいや、正確に言うと三種類だ。

一つ目は丸い胴体に三本の腕が生えたような形状をした小型ロボット。この格納庫の中で一番多く作られているーーー仔月光(トライポッド)

二つ目は、五メートル程の大きさで上部は硬そうな装甲をしているが、脚部はどこかの生き物のような柔らかそうな見た目をしている。この格納庫で二番目に多く作られているーーー月光(IRVING)

三つ目は月光よりもさらに大きい。それは朔夜が回収したメタルギアREXのように機械のように角ばった形では無く、まるで大昔に滅んだ恐竜のような見た目の兵器ーーーメタルギアRAY。

 

そんな一昔前の兵器が広い格納庫の中にいくつもあった。

 

「後は少し調整をすればーーーこちらは宴には間に合うかのう」

 

老人は笑みを浮かべる。

 

「見るがいい、九十九よ、ブリストルよ……。儂はここまで来たぞ……ついに、な……ふっ、ははは……ふはははははは!!」

 

老人は自らの研究成果を見て嗤う。その胸の内に生涯をかけて成し遂げた研究に対する歓喜と様々な感情を抱きながらーーー

 




次回、戦闘する予定です。ただし、dies要素はほとんど無い……かも?

誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!

追記・今更ながらですが……お気に入り100件越えありがとうございます!

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