アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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ちょっと久しぶりの投稿です。
今回はちょっと色々心配事が……(苦笑)
では、どうぞ!



第二十九話

 

side no

 

昊陵(こうりょう)学園の理事長室にて朔夜は、先ほど話をしたいた安心院の転入届を確認していた。

あのお茶会の後に安心院に理事長室まで付いてきてもらい、転入届を書いてもらったのだ。正直、《七芒夜会(レイン・カンファレンス)》や、少し準備しなければならない事があるのでこんな面倒な事はあまりしたくなかったのだが、形式的には必要なものであり、そもそも自分から言い出したので仕方の無い事なのだがーーー

 

「ふわぁ……」

 

朔夜はあくびをして、目をこする。朔夜はここ最近黒円卓の団員の情報集めを指示したり、学園で目を通すべき書類を夜通し確認したりしていたので、あまり睡眠をとっていないのだ。

 

「……う〜……眠いですわ……」

 

朔夜は書類を一旦机の上に置いて、体をイスの背へと沈み込ませながら呟く。

だが今は転入届に目を通して、今日中に出来る事を処理し、それが終わった後は例の宴に備えてあるものを用意しなければならない。

いくら立場的にやらなければ仕方が無い事だろうと、彼女はまだ十代前半の少女ーーー流石に辛いものがあるだろう。

 

「……影月にちょっと膝枕でもしてほしいですわ……優月でもいいですけれど……」

 

そんな辛い日が連日続いたからかーーー朔夜は最近、らしくない発言をするようになった。そうは言ってもこうして誰もいない時に呟いているし、自分らしくないと自覚はしているので、まだ理性的にも精神的にもあまり問題は無いと思われる。

 

「……ここに影月か優月がいたら…………くすっ、ああでもこんな事もしてみたいですわ……」

 

ーーー訂正しよう。問題ありだった。何やら一人、少しにやけながら妄想の世界へと旅立ったようだが、彼女の年齢でこの量の仕事ーーー改めて思うが、このような事になっても仕方が無いのではないだろうか?

 

 

 

 

「普段の冷徹な面とは打って変わって、今は年相応の妄想をしているみたいですな」

 

ーーーそれにここには朔夜以外の者もいたようで、その者は彼女を見てニヤニヤとしながら姿を現した。

 

「っ!!!??」

 

突然何も無い所から声が聞こえ、朔夜は肩をビクッと震わせて驚く。その驚きは怖いものを見てとか、突然背後から声をかけられてとかとは違い、何と言うかーーー人には見せられなくて、見られたくない事をしている時に見られてびっくりしたような驚きと言われればイメージしやすいだろうか?そのような驚きだ。

 

「驚かせてしまったかな?だが、御容赦願いたい。私とて貴方の空想を邪魔する気は無かったのだが、あいにく少しばかり用があってね」

 

「あ、ああ、貴方……一体いつから見てましたの!?」

 

突然現れた男ーーーメルクリウスの発言内容を無視して、朔夜は頬を染め、狼狽えるながら質問する。

 

「ふむ……安心院(彼女)をここに招いて、書類を書いてもらっている時から、かな」

 

「〜〜〜っ!!」

 

それはつまり彼女が人前ーーー側近である三國にすら見せないあくびを見られ、さらに眠いと言った弱音や空想などを最初からこの男に全て見られていたと言うわけで、朔夜はさらに顔を赤く染めて悶えた。

 

(見られましたわ……よりにもよって見られたら一番面倒そうな人に!!)

 

「ああ、別に他人に言うつもりは無いから心配は無用なのだが……そんなに睨まないでいただきたい。私は約束を反故にはしない主義だし、ここへはただ話に来ただけで断じて覗きをしていたわけではないのでね」

 

朔夜に睨まれたメルクリウスは肩を竦めながらそう言う。

しかし、最初から黙って部屋でおそらくニヤニヤしながら見ていた者の言葉など誰が信用するだろうか?少なくとも朔夜はしないだろう。

 

「それで話ーーーというより用事だが……これを是非とも試してもらいたくてね」

 

メルクリウスは特に気にした様子も無く、あるものを懐から取り出し机に置いた。それを見た朔夜はまだ頬は赤いものの、それを気にせず目を見開いて驚く。

 

「これは……特殊形状の噴射式注射器(ジェットインジェクター)……?」

 

「然り、ただこれは君の作ろうとしていたものとは違い、使えば普通に《位階昇華(レベルアップ)》するがーーー《(レベル4)》程度の力と特異な能力に目覚めるように少々手を加えさせてもらった」

 

「……まさか……この中には貴方が生み出した新しい永劫破壊(エイヴィヒカイト)が入っている……?」

 

朔夜は以前、メルクリウスと話をした際に彼が新しい永劫破壊(エイヴィヒカイト)を生み出したと言う事を聞いていた。

まさかと思いながらメルクリウスに問うと、彼は頷く。

 

「これは試作品だが、効果は心配いらないだろう。後は君が(透流)にこれを渡せるかどうか次第だがね」

 

「……どういう意味ですの?」

 

「これは君が作ったものを私が真似て作ったものだ。故に私なりのアレンジを加えてある。そのアレンジがどのような影響を与えるかは私にも分からぬが、どちらにせよ君の夢が潰える可能性は高いと言えよう」

 

「ーーーそれはつまり、私の目指す《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に彼らが至るかどうか、この選択で決まると?」

 

「君がその夢を追い求めるか……それとも(透流)が新たなる力を得て、君の祖父から続いた夢は潰えるか、私は君がどちらを選ぶにせよ構わない。しかし彼が復讐の力をつける為、この学園に来たというのは君も知っているのだろう?それも考慮しながら結論を出してほしいーーーこれを受け取ってもらえるかな?」

 

朔夜は考える。自らの夢、そして《操焔の魔博(ブレイズ・イノベーター)》と呼ばれた祖父から受け継がれた夢を叶えるか、それともーーー

この刹那の間に、朔夜は色々な人物の顔を思い出していた。透流やユリエ、リーリス、橘、みやび、トラ、安心院、そして彼女が一番信頼している影月と優月の笑う姿が脳裏によぎる。

 

 

 

「ーーーはぁ……貴方は本当にいやらしい方ですわね。後々の事といろんな人の事を考えたら……それを受け取らないわけにはいかないじゃないですの」

 

朔夜は苦笑いしながら、机に置かれた噴射式注射器(ジェットインジェクター)を手に取る。

ーーーきっと彼女がそうであった世界の彼女ならここではいつものような冷徹な面を見せ、自らの夢を追い求める為にこれを受け取る事は無かっただろう。

しかしこの世界の彼女は違うし、何より変わった。メルクリウスに全てを聞かされた事も変わった理由としてはあるだろうが、やはり彼女が変わった理由として一番大きいのは影月と優月、そしてその周りにいる仲間たち(透流たち)の影響だろう。彼女の望みは、自らの夢を叶える事より大切な人たちの力にーーー助けになりたいというものになっていた。

 

「重畳、ならばこれは貴方にーーーこれが導き出す未来が私にとって未知であり、君たちの希望とやらになれるように祈ろう」

 

メルクリウスは薄く笑いながら踵を返し歩き始める。

が、ふと思い出したかのように止まって振り返り、朔夜を見て言った。

 

「ああ、忘れる所だったな。一つ頼まれてほしいのだがーーー」

 

 

 

 

 

 

 

「……分かりましたわ。私から連絡しておきます」

 

「ふむ、ではこれで用も済んだし私はこれで……たまには早く休むといい。でなければその美しい顔が台無しになって、君の愛しい人が悲しんでしまうだろうからね」

 

「っ!?」

 

その言葉の内容を即座に理解した朔夜は再びメルクリウスを睨みつけようとしたが、彼はもうすでに姿を消していてどこにもいなかった。

 

「…………はぁ、彼と話すと本当に疲れますわ。とりあえずもう休みましょう……」

 

朔夜は睡眠をとる為、理事長室の隣にある自室へと入っていき、理事長室は静寂に包まれる。

 

『彼女の望みーーー渇望もいずれは全てを変えるものになるかもしれぬ。まあ……どのようなものになるのかは今はまだ、私にも分からないがね。ふふ、ふふふ……』

 

そして夜は静かに更けていったーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 安心院

 

 

「ーーーとゆーわけで、彼女が昨日色々な事情があって、転入してきた安心院(あじむ)なじみちゃんで〜す☆みんな仲良くしてあげてね〜♡」

 

「ってわけだから、皆よろしくね。僕の事は親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼んでくれよ♪」

 

やあ、皆元気かな?安心院さんだよ。

現在僕は、昊陵学園一年生の教室で担任の月見先生に紹介をされていてね……。なぜこんな事になっているのかは前話を参照してくれよ?

 

 

……え?一応ちゃんと説明してほしい?…………仕方ないなぁ、この僕が説明してやるから耳の穴かっぽじってよく聞くといい。

昨日僕はこの学園内の寮で、影月君たちと話したんだけど、そこから詳しい事は少し省くけど紆余曲折あって、僕自身も望んでこの学園に入ったってわけだ。

ざっくり言うとこんな感じかな?まあ、あまり意味の無い説明かも知れないけどね。

それにしてもこの学園の対応には驚いたよ。朝起きたら学園関係者の人が寮まで来て、制服と学生手帳と通学証を手渡してくれたし、そしてその後こうやってよく漫画やラノベで見る「○○ちゃん、入ってきて〜♪」みたいな感じで紹介されるとは思わなかったね。

 

『…………』

 

「ん?」

 

そんな昨日までの出来事を画面の前にいる皆に話している間にクラスが静かな事に気付く。

さっき何か変な事言ったかな?と思っているとーーー

 

「可愛い!!」

「うおおぉ!!美人が!!美人がいる!!」

「僕っ子か……いい!」

「ここに来てよかった……!!」

「優月ちゃんや、ユリエちゃん、リーリスさんと違って大人な女性な感じ!!」

「ねぇ!今言った人!なんであたしだけさん付けなのよ!?」

 

クラス中が耳を塞ぎたくなるような大声で騒ぎ出す。実際反射的に耳を塞ごうとしたけれど、予想よりは大きくなかったし、言っている内容も気分が悪くなるようなものではないから、正直悪い気はしない。

 

(うん?あの子はショッピングモールで見た子かな?)

 

そう思っていると、教室の後ろの方の席に座っているあの時話した少女を見つけた。少女は僕を見て驚いたような顔をしているけど……僕何かしたっけ?まあ、単に驚いてるだけだと思うけど。

だって昨日話した人が実は今日から一緒に学ぶ仲間でした〜なんて言ったら驚くだろう。

後で話に行ってみようかな。

 

「オラァ!!ガキども黙れ!!…………ちょっと静かにしようね〜♡」

 

『……はい……」

 

隣にいる月見先生がかなりの剣幕で騒いでいたクラスの皆を黙らせた。……僕も少しびっくりした……。

 

「じゃあ、安心院ちゃんは影月君の前の席に座ってね〜」

 

月見先生に促され、僕は指定された席へ移動し、座った。すると肩をトントンと叩かれて、後ろを振り返ると影月君が笑みを浮かべながら言った。

 

「安心院、よろしくな」

 

「うん。改めてよろしくね。優月ちゃんも」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「皆、彼女に色々と質問したい事とか聞きたい事はあるだろうけど、そういうのは一時間目が終わってからにしてね☆」

 

そして僕はこの学園で初めての授業に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、終わったぜ……」

 

一時間目が終わってちょっと一息ついていると、影月君と優月ちゃんが僕の席へと集まって来た。

 

「お疲れ様……だが、まだまだ授業は続くぞ?それに……」

 

「安心院ちゃ〜ん!」

 

「クラスメイトから色々質問攻めされるでしょうから、休む暇はないでしょうね」

 

そうだ、転入してきた人ってのは在籍している人たちからしたら当然ながら珍しいし、新しい友人関係を築く為や、色々知りたい事がある為、色々聞いてくるのは普通に想像出来る事だ。

まあ、僕のいた箱庭学園ではこういう事は無かったからこのような出来事は興味もあって嫌ではない。少し面倒だと思うけど……。

そんな事を考えていたら、近くにいた男子や女子も揃って、質問攻めを始めた。

 

「どこ出身なの!?」

「前の学校の成績は?」

「なんか影月君たちと仲良いけど知ってる仲なの!?」

 

「おおう……」

 

でもいきなりこんなに四方八方囲まれて質問攻めされるとは思わなかった……質問に一つずつ答えている内にあっという間に休み時間が終わってしまう。

 

「あ、チャイム鳴っちゃった……安心院ちゃん、また後でね!」

 

「あ、うん。(休み時間が……ショッピングモールで見たあの子の所へ行こうと思ったのに……でも仕方ないかぁ……)」

 

自由に過ごせなかった事とあの少女と話せる暇が無かった事に対して少しの不満を覚えたけど、転入初日ならこんな事になっても仕方のない事だなぁと気持ちを割り切って、僕は次の授業が始まるのを待った。

 

 

 

 

 

その日の三、四時間目は格闘訓練が行われた。

訓練内容は打撃や投げという格闘術の基礎を主としてやった。僕はスキル無しでも格闘はそれなりに出来るからある程度の事は出来たけど、最後の《無手模擬戦(フィストプラクティス)》ではどうしようか悩む事になったよ。

 

「う〜ん、誰と組もうかな……」

 

「考える必要は無いと思うぞ?」

 

誰と組むか悩んでいると影月君が僕にそう言った。なぜだい?と彼に聞き返そうとした時ーーー

 

「それじゃー《位階(レベル)》ごとにグループになってねー♪で、その中で誰かとペアを組んだら合図と共に組手開始で、後は三分ごとに交代って事で♡あ、安心院ちゃんは《(レベル3)》だからね♪」

 

と、月見先生から指示が飛ぶ。影月君の言う通り、これなら誰と組もうか迷わなくて済んだ。

三つのグループに分かれて、集まった《(レベル3)》のグループは僕を合わせても少数の八人。

でも怪我が治りきっていない橘ちゃんは壁際で見学をする事となっていた。

透流君はユリエちゃん、リーリスちゃん、トラ君に囲まれて誰と組むのか迷っているようだった。

僕もグループに分かれたとはいえ、今度はこの中から誰としようか悩んでいるとーーー

 

「なあ、悩んでるなら俺と組まないか?」

 

「影月君とかい?……そうだねぇ、僕は構わないぜ」

 

「なら私は見学させてもらいますね」

 

優月ちゃんはそう言って、橘ちゃんの元へと走っていった。このグループの人数は七人で、一人だけ余ってしまうから仕方の無い事だね。

 

「まあ、優月は後で「私とやりましょう!」とか言ってくるだろうな」

 

「そう言われても僕は構わないぜ。じゃあ、話してても仕方ないから……始めようか?」

 

「ああ、あんたとは戦ってみたかったんだ……手加減無用で来いよ?」

 

僕たちは互いに不敵な笑みを浮かべながら、準備をする。

 

「さーて、それじゃあはっじめるよー☆《無手模擬戦(フィストプラクティス)》ーーーレディー……」

 

月見先生の宣言で、手を合わせてから距離を取りーーー

 

「ゴーッ♪」

 

開始の合図と共に、僕も影月君も駆け出す。

そして影月君が右アッパーを繰り出し、僕はそれをかわしながら右ストレートを繰り出す。

この時、僕は攻撃を繰り出しながら内心驚いていた。

相手は《黎明の星紋(ルキフル)》で超化された膂力(りょりょく)を持つ者(と説明された)ーーーその力はかなりのものだと思っていたけど、かわしてみて改めて分かった。あれは今、スキルを使っていなくても、それなりの力がある人外の僕よりも数倍強い威力を持っていると確信した。

 

今は模擬戦なので彼も手加減してくれているだろうけれど、先ほどの攻撃も当たったら、数メートルくらい吹き飛んでしまう威力があるとすぐに感じ取る。開始してまだ一回目の打ち合いーーー秒数もまだ二桁に達していない内に僕は内心それだけ驚いた。

そして僕の右ストレートはそのまま影月君の胸に当たったけど、決定的なダメージは与えられた感覚は無かった。それどころか彼の体は少しも揺らぐ事なく、逆に僕の右腕は硬い岩かそれより頑丈なものを殴った後のようにジーンと痺れが広がる。その事にさらに驚きながらも即座に後方に飛んで距離を取る。

 

「……硬い……ちょっと本気で打った僕の攻撃が効かないなんてね……」

 

「悪いけど、ちょっと確かめさせてもらった。……耐久力も聖遺物の使徒と同等近くになるのは本当みたいだな……朔夜から聞いた時は実感無かったが、今攻撃をくらってみて実感したよ」

 

影月君が苦笑いをして言う。一方僕の方は彼に対する攻撃のほとんどは威力が無いに等しいと言われたようなものなので、どうするか思案しているけど……彼の事が少しは恐ろしく感じてしまうね。

 

「なら、僕もちょっと本気を出そうかな?」

 

僕はそう言って格闘系スキルを複数使用する。

間合い把握のスキル『末端距離走(ベリーショートレンジ)』、急所を突くスキル『人の一刺し(ピンホールショット)』、フェイントのスキル『手品師の左手(フェイクハンド)』、相手の打撃を予測するスキル『知識の方向(プロットファイト)』、動体視力向上のスキル『誰かさんが転んだ(アイフォールダウン)』、カウンターのスキル『節明責任(アカウンタビリティ)』、足技特化のスキル『手ですることを足でする(ヒールアンドトー)』、予想不可能な一撃のスキル『奇想憤慨(ミスアンガースタンド)』を纏い、構える。実際これだけ使っても効かないだろうね。実際ただの足掻きみたいなものだし。

そして先制のスキル『先出しじゃんけん(サービスエース)』を使い、影月君に接近し、みぞおち目掛けて拳を突く。

命中したと同時に相手の打撃を予測、影月君の攻撃がぎりぎり当たらない場所まで下がる。下がると同時に影月君の蹴りがさっきまで僕がいた場所へ突き出される。

みぞおちを狙って打ったのに彼は全く効いている様子がない。

 

「よっーーーと!」

 

そこからはある程度のパターンで攻める。とは言っても大きな流れはあまり変える事無く、攻撃方法を色々変えている。

胴体の急所をフェイントを交えながら拳や足技で攻撃した後、相手の攻撃を回避したりカウンターを叩き込む。

影月君はそんな僕の打撃を一部防御して、後はガードせずに受け止めていた。実際予想不可能な攻撃を放っている筈だけど、最低限の防御は出来ているって事は、瞬時に判断して防御してるって事だ。なんつー反応速度……。

そして彼の攻撃速度も僕の予想以上に早かった。打撃を予測したり、動体視力向上のスキルを使っているから、なんとか僕は回避やカウンターを出来ているわけだけど……二分ほどそんな攻防を続いたけど、突如それまでのパターンと違って唐突に影月君の膝蹴りが迫ってきた。影月君の攻撃をカウンターで返したら彼もカウンターをしてきたのだ。どうやら時間も無いから決めにかかってきたみたい。

 

「ーーーっ!?」

 

予測してなかったわけではないけど、今までのパターンに慣れてしまっている時の行動だったので回避が遅れてしまった。

結果、僕の胴体に彼の膝蹴りが刺さった。

 

「うっ!!」

 

そのまま影月君は僕の腕を掴んで、地面に倒されるけど倒れた状態から即座に二段蹴りを彼に放ち、彼が防御した隙に転がり脱出する。

 

「しゅーりょー☆それじゃあ、次は別の人と組んでね♪」

 

するとそこで三分が経ったらしく、月見先生が手を叩きながら次の指示を出した。

 

「大丈夫か?安心院」

 

「うん。途中スキルをいくつか使ったけど……それでも強いね、君は……」

 

「そんな事は無い。本格的な《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)とか実戦だったら、あんたに勝てるかどうか分からないし……」

 

「兄さん、安心院さん、大丈夫でした?安心院さんは最後の方に兄さんの膝蹴りが当たってましたけど……」

 

「問題無いぜ。あれでも手加減してくれたみたいだしな」

 

そう返答しながら、僕は別の事を考えていた。

さっき影月君はああいう風に自分の事を言ってたけど、実際僕よりも彼と優月ちゃんは強いと思う。多分その《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》ってものでも彼らに勝てるかどうか分からない。

そう思う理由は、僕は人外で皆平等だって思ってるけど、彼らは僕より格上で平等じゃないと感じているからかもしれない。正直そんな事を思った事も感じた事も今まで無かったけど、その感情自体は悪くないし、むしろ面白いと思ってる。

ーーー前の世界で僕は生も死も、幸せも不幸も、僕以外は全て平等でカスだと思っていた。それはあの世界では僕以上あるいは僕と同等の存在がいなかったからそう思っていたんだと思う。だから全てがくだらなく見えて、面白そうに見えなくて、何もかもつまらないと思ったんだ。

でもこの世界では、そうはならなかった。今僕の目の前には多分僕と同等くらいの存在が二人もいるし、メルクリウスっていう僕よりも絶対格上の奴もいる。そんな奴らがいる世界が、僕にとってはつまらないわけがない。

そんな世界に来れて、そして今、こうしてちょっとずつ楽しくなってきてーーー今まで僕にとっては、白黒にしか見えなかった世界に色があるように見えてきた。

 

「次は私とやりましょう!」

 

「ほら、言ったろ?さてと安心院、優月は強いから頑張れよ!俺はリーリスとでも組んでくるからな」

 

優月ちゃんは明るく笑いながら僕と向かい合って構え、影月君も僕に笑い掛けた後、リーリスちゃんの元へと向かって行った。

 

「分かったよ。お手柔らかにな?」

 

「はい!」

 

「皆準備はいいかな〜?それじゃあ、二回目始めるよー☆ゴーッ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそんなこんなで訓練は終わって、現在数時間くらい経った。

 

……ん?なんでいきなり数時間も飛ぶのか、だって?あの後の優月ちゃんとの訓練の結果は?だって?

そう焦るなよ、一つずつ話していくからさ。

まず場面が数時間飛んだのは作者のご都合らしいよ。さっきなんか作者本人から報告されたよ。僕はちゃんと画面の前の皆にも分かるようにその飛ばされた数時間の間も語ってたんだけどねぇ……作者め……。

……とまあ、メタ話はこれくらいにしておいて、次の質問の優月ちゃんとの訓練の結果は?それについてだけどーーー最終的な結果は、彼女からも一発もらったよ……うん。

まあ、勝ち負けっていうものは無いけど……なんか負けた気分。

 

 

二人の闘い方は僕にとって面白いものだった。影月君は全体的にバランスが取れた闘いをしていたけど、優月ちゃんは影月君とは違って速さを主体にした闘いをしてきた。

素早い打撃や、投げ技をかけるまでの動作も早かったし、動きが予想以上に早くて気を抜いたらすぐに後ろを取られるような感じだったぜ。取られなかったけどな。

まあ、前の世界でも僕は彼らのようにバランスよく戦ったり、速さ重視で戦っていた人たちはいたし殺りあった事もあるけど、それとは少し違った感じがした。

ともかくーーー他の世界に来ると、僕の知らない戦い方が本当にあるんだと思ったぜ。

 

ちなみに今は夕食を食べ終え、お風呂に入った後、部屋でのんびりとしている。

もちろん二人の部屋でね。

 

「なあ、今思ったんだけど……」

 

「なんだい?」

 

僕は暇つぶしに寮のラウンジから持ってきて読んでいた少年○ャンプから視線を外して、影月君を見る。

 

「あんた「安心院さんと呼べよ」……安心院、さんは昨日俺の中にいるって言ったよな?」

 

「うん」

 

「そして部屋もいらないって言ったよな?」

 

「うん。言ったよ」

 

「……なら、なんで普通にここにいて漫画読んでるんだよ……」

 

うん?何言ってるんだ彼は?なんでかってそりゃあーーー

 

「今、君の中にいても暇じゃん。それに少しくらいはいいじゃないか」

 

「……そうだな、まあそれくらいの理由なら許容できる。言っといてあれだけど、暇つぶしっていうのも分かっていた。が!なぜパジャマ姿で、なぜ、俺のベッドの上で寝転がって漫画を、読んでいるのか答えてもらおうか!」

 

影月君は指をビシッと差しながらそう言う。

でも……何か問題ある?

 

「君は僕に対して何が言いたいんだい?」

 

「勝手に人のベッドの上に乗るなとか色々言いたいんだが……まず一つ、昨日から気になってたんだがその態度から察するに……今日もこの部屋で寝るつもりか?」

 

そういえば、昨日も朔夜ちゃんの所で色々とした後に、影月君たちの部屋で寝させてもらったんだっけ。

 

「そうだけど、ダメなの?」

 

「…………いや、ダメじゃないけど……優月の機嫌が悪くなるから……」

 

影月君は視線を彷徨わせながらそう言った。

そういえば、昨日は影月君のベッドで寝たっけ……まあ、彼自身が寝ていいって言ってたし、優月ちゃんも何も言わなかったけど……。影月君が床で寝てたのを見て申し訳ない気持ちにはなったけど。

 

「兄さん、そう言うって事はベッドで寝たいんでしょう?なら、安心院さんと一緒に寝ればいいじゃないですか♪私は気にしませんよ〜♪……何か変な事をしなければ」

 

……ああ、なんか優月ちゃん怒ってるなぁ……。って彼女の手に持ってるお茶のカップからなんか「ピキッ!」って音が聞こえた気がするし……。

 

「優月!?そんな事言ってないし、思っても無いんだが!?それになんか怒ってますよねぇ!?」

 

「怒ってませんよ〜?ええ、全く怒ってませんよ〜♪」

 

絶対怒ってる……音符付いてるけど絶対怒ってるよね!?

……どうも僕は今、彼女にとっては邪魔者というか嫉妬(しっと)の対象?になってるみたいだ。でも僕自身は今は自分で作った世界や、影月君の中にいたくないんだよねぇ……。もう少しこの世界のこの状態を楽しみたい(今のこの空気も含めて)。

でもこの状況もあまりよくないだろうし、何かこの空気をよくする方法は……。

 

「あ、なら優月ちゃんも影月君の所で寝ればいいと思うんだけど?」

 

「……え?い、いきなり何を……」

 

「だって僕が影月君と寝るのに文句があるなら、君も一緒に寝ればいいんじゃないかな?ちなみに僕は今日も影月君の所で寝るから」

 

そう言うと、優月ちゃんは顔を赤くしながらうろたえる。可愛い。

 

「いいよね?影月君?」

 

「う〜ん…………どうせベッドから追い出しても勝手に入ってくるんだろ?……はぁ、仕方ない……」

 

ちょっと考え込んで、渋々ながら了承した影月君。ふと、優月ちゃんを見ると、少し俯きながら小声でブツブツと呟いていて、顔は耳まで真っ赤になってた。

 

「に、兄さんと……い、いやいや、でも安心院さんがいますし、そもそも安心院さんと兄さんが何か変な事しないか見張るのが目的ですし……」

 

「どうするの〜?」

 

「……う〜……わ、分かりましたよ!」

 

あ、了承してくれた。

 

「そうと決まれば寝よっか?」

 

丁度話が決まった時にはもうすぐ消灯時間になろうとしていたので僕はそのまま壁の方に詰めて、真ん中に影月君、そして外側に優月ちゃんが寝転がる。

影月君は寝る位置からして分かってらっしゃるね!

 

「なんかこうやって寝るの久しぶりだな……優月?」

 

「えっ?あっ、はい……」

 

「前も寝た事あるのかい?」

 

「ああ、数ヶ月前に数回な」

 

ベッドに入った後も僕たちはそんな話をしばらくしていた。

まあ、特に特筆するようなものではないけどね。兄妹仲良いねとか、どこ出身とか昨日聞けなかったような事だ。

 

「へ〜……仲が良いね?」

 

「まあ、兄妹だしな……」

 

「そうです……ふわぁ……」

 

 

 

 

ーーーそれから少し時間が経つと、隣から二つの寝息が聞こえてきた。二人とも寝たみたい。

僕はしばらく寝転がって、二段ベッドの上段の底面を見つめていたけど……やはり気になって眠れない。二人を起こさないようにベッドから起き上がって、部屋の中を見回した。

 

「……いるんだろう?何の目的で僕の事を監視してるんだい?」

 

僕は部屋の中心で二人を起こさないように、少し声を小さくしながら言った。

普通の人なら僕の事を怪訝そうな顔で見るだろうその言動に返事を返す者が、やはりいた。

 

「あら?いつから気付いてたの?」

 

その返事は僕の後ろから聞こえ、僕はゆっくりと後ろを振り返りながら答える。

 

「そうだね……今日の訓練の後くらいから気付いたよ。それくらいから見張ってたんだろう?」

 

そこにいたのはピンク色の髪をした幼い少女。でもその服装は軍服だったし、何より雰囲気が普通の女の子の感じじゃなくて、異質な雰囲気を纏っている。

 

「ご名答ーーーまあ、正確には訓練の最中から見てたんだけどね。貴方だけよ、私に気付いていそうだったのは。まあ、もしかしたら影月君たちも気付いていたのかもしれないけどね」

 

少女が肩を竦めながらそう言い、僕の目を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「で、なんで貴方の事を見ていたのか……だったわね。別に対した事じゃないわよ。ただ変わった人がいるなって思ったからね。それに……貴方も普通の人じゃないって思ったからかしら」

 

「へぇ……そう思った理由は?」

 

僕は興味深くなってその少女に問いかけ、少女は少し考え込んだ後に答えた。

 

「そうねぇ……色々理由はあるんだけど、私の目にはある力が宿っていてね。いろんな物の(オーラ)を「色」で見る事が出来るのよ」

 

「へぇ〜……って事は僕は周りと色がおかしいから常人では無いと。ちなみにどんな色なんだい?」

 

「少し明るい茶色一色ね。一色のみで色味の変化が乏しいから、貴方はあまりまともな人じゃないわ」

 

「まともじゃないって言われてもねぇ……まあ、自覚はしてるけど」

 

「ちなみにこの学園の子たちは皆、普通ね。(だいだい)とか黄色とかだし、色味も感情次第で変わるし」

 

「この二人も……かい?」

 

僕はちらりと今だ眠っている二人に目を向けた。

 

「そうね。でもこの二人は貴方と同じで異質な時があるわ。優月ちゃんはまるで太陽みたいな橙色一色になる事があるし、影月君はメルクリウス(あいつ)よりも輝く銀一色になる事があるわ。二人とも一般人並みだけど……戦う時とかになるこの一色のみ状態がとても恐ろしく感じるわ」

 

「で、話を戻すけどその力が分かる目で僕が普通の人間じゃないって分かったと」

 

「まあ、大きい理由としてはそれかしら。でも今日一日見ていて、貴方はあまり問題無いみたいだし私は帰るわね。」

 

そう言うと、少女は暗闇の中へ溶け込んでいく。僕はその溶け込もうとしている少女に待ったをかけて尋ねる。

 

「待ってくれよ。君の名前を聞いてないんだけど?」

 

「あら?そういえばそうね。でもそういうのは自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら?」

 

「……そうだね。僕は安心院なじみだよ。君は?」

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第八位、ルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカルムよ。ルサルカとでもマレウスとでも呼んでちょうだい」

 

聖槍十三騎士団黒円卓ーーーもしかしてとは思ってたけど、やっぱりこの少女がその組織の団員か。その名前を聞いた僕はどうやら無意識に口角が少しつりあがったらしく、ルサルカちゃんが楽しそうに笑いかけてくる。

 

「そんなに私に会えて嬉しい?なら私も来た甲斐があるって思うわね」

 

「嬉しいねぇ。会ってみたいって思ってた組織の人が目の前にいるからね」

 

「……私たちに会ってみたかったの?貴方は私たちに何の興味があるの?」

 

ルサルカちゃんは目を細め、何に興味があるのか聞いてきた。

 

「僕の世界には君たちのような存在はいなかったからな。ああ、別に今戦おうって気は無いぜ?場所が場所だしな」

 

「ふ〜ん……貴方の世界ってのがどういうものなのか分からないけど……私たちと戦争がしたいって事?」

 

「そうは言ってないぜ?力試しをしてみたいだけだよ」

 

僕の答えにルサルカちゃんは少し考え込んだ後、先ほどの笑みとは違って少し妖艶な笑みを浮かべた。

 

「そうなんだ〜、まあ私の圧力を受けてもそんな平然としてる貴方なら、私たち平団員相手なら善戦するでしょうね。でもーーー」

 

ルサルカちゃんはそう言いながら、今度はその妖艶な笑みを浮かべている瞳の奥に不気味な光を浮かべながらーーー

 

「あまり甘く見てると、食べちゃうからね」

 

「ふっ、笑わせてくれるぜ。僕は食べても美味くないし、食われる気もないよ」

 

お互いに不敵な笑みを浮かべて、睨み合う。

 

 

 

その後はルサルカちゃんがさっきまで睨み合ってた雰囲気が嘘のように、明るく「バイバ〜イ♪」と言って帰っていった。

ーーーどうやら僕が思ってる以上にこの世界は面白そうだ。本当に楽しみだぜ。

 




まず、戦闘が上手く書けてるか心配です!
次に文脈おかしくなってないか心配です!!
最後に安心院さんの使用するスキルの使い方や、これはこんな効果のスキルかな?っていうのが自信無くて心配です!!!
後は……ええっと……安心院さんの口調かな……まあ、とりあえず温かい目で見てくれると嬉しいです(笑)

誤字脱字・感想意見等、是非ともよろしくお願いします!

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