アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
side 影月
翌朝ーーー分校での後片付けが終わり、負傷者(主に透流たち)たちの傷跡が癒える間もなく、伊万里たち分校組との別れがやってきた。
「最後はともかく、この一週間楽しかったぜ」
「あははっ、それはあたしも同じよ。みんなと……何より透流とまた会う事ができて、本当によかった」
船着き場まで見送りに来てくれた、伊万里や分校組。
俺たちはこの臨海学校で、それぞれが仲良くなった相手と別れを惜しんでいた。
「……なあ、朔夜」
「人前でそう呼ぶのは控えてほしいですわ。なんですの?」
俺は朔夜の突っ込みをスルーして、透流と伊万里が楽しく笑いあってるのを見て言う。
「今度は分校組を本校の方に呼んでみるってのはどうだ?もちろん授業はするが……分校組にも癒しは必要だろうし……」
「……だろうし、なんですの?」
「皆さんとまた会えるようにーーーですね?兄さん」
「その通りだ。朔夜、前向きに検討してみてくれよ」
「……そうですわね……考えておきますわ」
朔夜が苦笑いをしながら答え、俺は優月と顔を見合わせ笑った。
「ねぇ!影月と優月!」
すると伊万里がこちらに向かって歩いてきた。
「伊万里さん、お世話になりました!」
「本当に世話になったな……ありがとうな?」
「あははっ、お礼もありがたいけどいいのよ。貴方たちも
伊万里はそう言って笑みを浮かべる。それに俺と優月も笑みを浮かべる。
「ふっ、また近い内に会えるかもな。理事長に今さっき提案した事があるからな……」
「えっ、本当!?何を提案したの!?ねぇ!?」
「今回の逆パターンを提案してみた!つまり分校組が本校に遊びーーー授業しに来るのはどうだって!」
「ちょっと影月!?確かに提案されましたけど、私はまだどうするかはーーー」
「真面目に考えてくださいね?理事長♪期待してます!」
そう優月に言われた朔夜は珍しく頭を抱え、唸るのだった。
そんな朔夜を見て、苦笑いを浮かべた伊万里は俺たちに向き直りーーー
「それじゃあ、二人ともーーー
「「また(な)(ね)、伊万里(さん)!」」
波止場に立ち、船を見送る分校組。
彼らの判別がつかなくなって来ると、船尾デッキにいた十人近いクラスメイトが一人、また一人と船内へ入っていく。
そして俺たちも船内へ戻った。しかし向かう場所は皆がいる船室ではない。
俺たちはある一室の扉をノックして返事を待たずに中へと入る。
「失礼します。朔夜さん」
「……せめていいと言う返事を言うまで待っていてほしかったですわ」
部屋で朔夜は船の窓際近くに立ち外を眺めていたようで、ため息をはいて、こちらを見る。
「で、ここに来た用件はなんですの?」
「ああ、今回分校が襲撃される前に本校も攻撃を受けていたと言ったが……本校が無事か、被害状況を聞きたくてな」
「その事ですのね。安心してくださいな、負傷者は重軽傷共にありますが、誰一人死亡してないとの事ですわ。ですがーーー」
「ですが?」
朔夜は非常に言いづらそうに、どう言うか考えながら言った。
「……昨日、私がメルクリウスに警備を頼んだと言いましたわよね?」
「はい。……黒円卓が本校にも来たって事ですか?」
「そうなんですけれど……三國の報告によると……その警備き来たと思われる者が黒円卓大隊長二名だと……報告を受けましたわ」
「「!!?」」
朔夜の言葉に俺たちは驚く。
まさか分校では大隊長の一人、シュライバーが現れ、本校では他二人の大隊長が現れるなど誰が予想出来るだろうか?
「……つまり、ザミエルとマキナですか……」
「戦闘の証拠映像も送られてきましたわ。私もまだ見てないのですけれど……お二人も見ます?」
「もちろんだ」
そして俺たちは、本校から送られてきた映像を見た。
それから形成すら唱えず、圧倒的な強さで敵を蹂躙し、その強さで俺と優月が頭を抱えるのはまた別の話だーーー
本校からの映像を見た俺たちはしばらく無言だったが、とりあえず何かを言おうと口を開く。
「……ま、まあ、死亡者がいなくてよかった……な?」
「……そうですね。本当によかったです」
「お二人共、大丈夫ですの?その言葉に似合わず、軽く現実逃避しているように見えますけれど……?」
その後はその話を一旦置いて、俺たちはそれから朔夜の部屋でたわいもない話をした。
「そういえばお二人共、仲がよろしいですわよね?」
そうしたたわいもない会話の中、ふと朔夜がそんな事を言い出した。
それに対し、俺は何を当たり前の事をと思いながら返す。
「兄妹なんだから、当たり前だろう?普通は仲がいいものじゃないのか?」
「それはそうですが……その、優月?」
「はい?なんでしょう?」
朔夜は確かめるようにーーーしかもなぜか若干頬を赤くしながら、優月に聞いた。
「……貴方は、え、影月と……その……」
「俺と?なんだ?」
俺と優月は朔夜が何を言いたいのか分からず、首を傾げる。
俺は紅茶を飲みながら、その言葉の続きを待つ。
そして朔夜は意を決したような顔をしーーー
「その……キスや、あ、ああいう行為をした事はないんですの?」
「「っ!!!??」」
爆弾発言を言った。その不意をついた言葉に俺は飲んでいた紅茶が気管に入り、むせる。
「げほっ!ごほっ!!」
「な、な……!?何を言ってるんですか!?」
俺はむせて、優月は激しく動揺する中、朔夜が慌てたようにそう聞いた訳を話す。
「い、いえ、別に深い意味は無いですわ!ただ単に気になったから聞いただけですわ!ただ、皆気になっている所でもあると思ったからですわ!」
「げほっ……はぁ、紅茶飲んでる時に言わないでくれ……」
「そんな事ありませんよ!?私と兄さんは家族であって……その、そんな事は……」
「か、家族であっても、キスする所はありますわよ?」
「それは日本以外の話だろ!?俺たちはそんな事はした事無いぞ!?」
「…………う、うう……わ、分かりましたわ……」
ーーーそんな騒ぎもあり、またしばらくたわいもない話を楽しんでいると、優月がトイレに行くと言って、席を立った。
必然的に俺と朔夜は二人きりになる。優月がいないこの隙に俺は朔夜に先ほどの事を聞いた。
「なあ、なんでさっきはあんな事聞いたんだ?」
キスやそういう行為ーーー俺は朔夜があまり気にする事では無いような気がして聞いた、
すると朔夜は驚いた顔をした後に少し俯き、喋り出した。
「……私は、気になったのですわ。そして先ほど聞いて思ったのですが……優月よりも先にキスやあんな事してよかったのかと思ったのですわ……」
「先に?」
「……あの後、考えましたの。優月は貴方の事が好きだというのは分かっていましたわ……誰だって分かるでしょう。まあ、それは家族としてというのも当然あるでしょうし、周りから見てもそう思われているでしょうけれど……私や一部の人はきっと彼女が無意識の内に貴方を一人の男性として見ている時があると察している筈ですわ……そして、彼女はいつかその気持ちを自覚して……もしかしたら私のように想いを伝えるつもりだったとしても不思議では無いと考えました……」
そこで一旦言葉を切り、顔を上げた朔夜を見て、俺は頭の中が白くなる。朔夜は目がうるうるとしていて、今にも泣き出しそうなーーーいや、泣いていて、涙声になっていた。
「そんな事があるかもしれない優月よりも先に、私なんかが……ひっく……貴方の初めてでよかったのでしょうか……ううっ……もしかしたら、私よりもいつか好意を抱く彼女が貴方の初めてをーーー」
「いいんだよ。朔夜」
俺はそう言って、彼女の頭を撫でた。
「え……?」
「朔夜が好きだって言ってくれたから俺もしたんだ。朔夜が初めて面と向かって好きだって言ってくれたんだから……な?まあ、これから優月とはどうなるかは分からないが……君がそこまで悩む事じゃない」
頭を撫でられている朔夜はその潤んだ目で俺をじっと見ていた。
彼女はあの時、その場の勢いで俺への想いや様々な事を俺とした後、冷静になって考えると、優月の事などが思い浮かび(優月がそれ程の好意を俺に抱いていたとは思わなかったが)、何やら先に告白した事による罪悪感などが出てきたのだろう。
同時にこうして泣き出してしまうという事は、あれから短い時間しか経っていないが、色々考えて、悩み、自分自身を追い詰めていたという事になる。
「ごめんな?そんなに悩んでるとは思ってなかったよ……まあ、なんとかなるだろうし……大丈夫だ」
そうして約一分くらいだろうかーーー朔夜が泣き止み、俺も落ち着いて自分の席へ座った。
朔夜は頬を若干赤くしながら俺へ謝った。
「ごめんなさい。お恥ずかしい所を見せてしまいましたわ……」
「構わない。そこまで思い込まなくていいからな?それに泣きたくなったら、遠慮無く頼ってくれよ?」
俺はそう言って笑うと、朔夜の顔にも明るい笑みが浮かんだ。
そこへーーー
「ふぅ……戻りました」
軽く息をはきながら、優月が戻ってきた。
「兄さん、透流さんが呼んでましたよ?なんでも聞きたい事があるとか」
「ん?なんだろうな……行ってくるか。それじゃあ朔夜、また今度な。優月はゆっくりしてていいからな?」
「ええ」
「分かりました」
そう言って、俺はその部屋を後にした。
side out…
「聞きたい事がありますわ」
side 優月
「あ、はい。何でしょう?」
兄さんが部屋を出てから少し経った頃、朔夜さんから突然そんな事を言われました。
「……貴方は、影月の事をどう思ってますの?」
「……はい?兄さんの事ですか?ならさっき話しましたけど……」
「いえ、そうではなくて……家族として好きと言いましたわよね?」
朔夜さんの発言に頷く私。
以前も言いましたが、私は物心がついた時から兄さんに頼ってきました。どこに行くにも兄さんの後について行って、何かを食べるのにも二人で分け合って、親に怒られた時も庇ってくれたり……兄さんは優しくて、思いやりもあって、かっこいいし、頼りにもなるので大好きなんです。
「なら……異性としてはどうですの?」
兄さんを異性として……先ほどの話が頭をよぎりましたが、冷静に考えるとーーー
「そうですね……私は妹ですけど、やっぱり……あーーー」
「どうしましたの?」
朔夜さんの問いかけが聞こえましたが、私の頭の中は別の事でいっぱいでした。
兄さんを異性として考えた事はよくよく考えてみれば今まで一度もなく、朔夜さんがそう聞いてきたので、家族としてでは無く、異性として兄さんを考えてみたらーーー
「……先ほどより顔が赤いですわよ?」
なぜか顔が自分でも分かるくらい熱くなっていた。
兄さんは兄さんです。私と血の繋がった兄妹で……だから今までは兄妹としてーーー頼れる兄として
でも、兄さんを異性と考えると……なぜこんなにドキドキとする気持ちになるのでしょうか?
ですがーーー
「っ……異性として見ても大好きです。でも……さっき言ったような行為や、そんな感情は妹である私が持ってはいけないし、やってはいけない事です……」
そうだ、私は兄さんの妹ーーー軽い兄妹愛は持ってもいいとは思いますが……好きな人に対して思う恋愛の感情は……妹である私が持つべきものではありません。それは世間的に見ても……異常だと思います。
「妹が兄に対して恋愛対象として思う……何がおかしいですの?」
「おかしいじゃないですか!家族ですよ!?決していい事では無いですし、世間的にもーーー」
「周りから見られるだろう意見は聞いていませんわ。貴方自身はどうなんですの?……もし好きだと言うなら、言ってみてもいいんじゃないですの?」
「っ……」
それはーーーそうだと思いますが……でも……
「好きなら好きと……言ってみるのも、それもまたいい思い出になると思いますわ。結果がどうであれ。それにそんな気持ちを持っていながら言わないのは……同じ女性として勿体無いと思うのですけれど……」
「……ううっ……」
ーーー確かに朔夜さんの言っている事は分かります。でも私はある気持ちが最後に邪魔しています。それはある日、無意識に兄さんに惹かれてーーーそれと同時にもし言ったら兄妹という関係が壊れるかもしれないと恐れる感情がーーー
「怖い……という気持ちですの?今のこの関係が壊れてしまうかもしれない……それがとても怖い……そんな所でしょうか?」
「…………そうです」
「その気持ちは分かりますわ。でも、それでもやってみた方がいいと思いますわ。これはやって後悔する方がいい事だと……私は思いますわ。上手くいけばもっといい関係になれると思いますし……それにそれを理由に気持ちを言わないのは自分に嘘をついているのと同義では?」
「…………確かにそうですね。ふふっ、朔夜さんは案外お節介焼きですね」
私は苦笑いしながら、朔夜さんに言う。
ーーー怖くて言わないのは、自分にも嘘をついている気分なので私も嫌だ。それに確かにやって後悔した方がいい気もする。
「……そうですね。今度二人きりの時に好きだって……言ってみます。……朔夜さん、ありがとうございます!」
「いえ、気にしなくてもいいですわ。私も気になっていた事ですし」
そんな話もあり、本土に着くまで私たちはゆっくりと話していました。
side out…
「で、聞きたい事ってなんだ?」
船室にいる透流の元へ来た、影月は早速透流に問いかけた。
「ああ、昨日の広場での事でーーー」
透流のその一言に、船室でわいわいと話をしていた者たちが静まり、影月たちに注目する。
「な、なんだ?皆揃ってこっち見て……」
「そういえば、昨日はお前とユリエは《K》だかいう者を追って船の上にいたんだよな。知らないのは当たり前か」
「そ、そうだ。だから何があったのかって……他の奴に聞いても、誰も答えてくれなくてな……」
広場で別れた後、透流とユリエは執務室で傷だらけになったリーリスから《
つまり彼らは広場であったあの事を知らない。それで周りから昨日広場で何があったのか聞こうとしたが……誰もが教えるのを拒んだので、仕方なく影月を呼んで、事情を聞こうと思ったのだ。
「なんで皆言わないんだ?」
影月が周りのクラスメイトを見回しながら言うが、誰もが俯いている。
彼らは未だ昨日起こった事の状況が整理出来なくて上手く説明出来ないのだろう。
それも無理は無い。いくら彼らは訓練生とはいえ、まだ実践を経験した事の無い普通の生徒である。そんな彼らが昨日のような戦闘ーーー非日常へ放り込まれたら、それだけでも十分整理がつかない事だと思う。
しかもそれと同時に、黒円卓の大隊長が乱入して来たのだ。もはや自分の目で見たものすら信じる事が出来ない位の気持ちだろう。故に誰も彼らに言えないのだろう。
「まあ、仕方ないか……で、昨日何があったかだよな?」
「ヤー」
「……聖槍十三騎士団黒円卓、第十二位のシュライバーが乱入してきたんだ」
「なっ!?シュライバー!?」
「た、確か大隊長の人でしたよね!?」
透流とユリエはその人物名を聞いて驚く。
そして影月は昨日あった事を詳しく、細かく二人に説明し出した。
「ーーーという事が昨日あったんだ」
「僕たちも森で生徒を探していたからな……そんな事があったのか……」
影月の話を聞き、丁度あの時いなかったトラがそんな声を上げる。
「(そういえば、トラや橘たちもいなかったな……忘れてた……)それと学園に帰れば、耳に入る話だろうから言うが……本校でも黒円卓団員が現れたらしい」
『えっ!!?』
影月の発言で船室内にいる全員が驚きの声を上げた。その反応に苦笑いを浮かべながら、影月は本土に着くまでその事について説明を始めるのだった。
今回は駄文かもしれません……いや、駄文だ!申し訳ありません……。
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