アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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なんか早く出来ました……(苦笑)
それではどうぞ!



第二十二話

第二十二話

 

「此度の作戦名(オペレーションネーム)は?」

 

とある場所で射るような双眸を持つ少年が相手に問う。

問われた相手ーー老人は(わら)いーー答えた。

 

「《品評会(セレクション)》ーーーとでも、名付けようかの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 影月

 

東京より百八十キロ程離れた南東の海上に、一般人の立ち入りを禁じられた島ーーーそこで迎える臨海学校二日目の朝。

 

「ふわ、あぁ……」

 

「眠そうだな。優月」

 

俺たちはテントを出て、広場でストレッチをしていた。

 

「さて、それじゃあ走りますか」

 

「はい……」

 

まだ眠そうな優月と共に島を走って行く。

島内に棲息する生物もまだ大半が眠りについているのか、時折遠くから鳥の声が聞こえてくるも、基本的にはとても静かだ。人工物とは無縁のこの島は空気がとても美味い。

風景も森の中から砂浜を見渡せる道、海辺の近くなど、様々な所がある。

 

「綺麗ですね!」

 

「ああ、全くだ」

 

優月の言葉に同意する。しかも朝早く誰もいないのでのびのびと走れるのだ。

 

「今日も頑張るか!」

 

「はい!」

 

 

 

 

臨海学校は、二日目以降も中々ハードな訓練が続いた。

本校で行われる基礎訓練や戦闘訓練のみならず、島の環境を活かしてのサバイバル技術やロッククライミング、果てはトラップ設置まで。

厳しい訓練は、気を抜けば大怪我も(まぬが)れない、危険と隣り合わせの内容ばかりで、気の抜けない日が過ぎて行く。

 

 

 

 

四日目ーーー本日はこれまでと違った趣旨の訓練が始まった。

 

「…………」

 

俺は現在、森の中で草に紛れて身を隠していた。

なぜか?それは午前の訓練内容のせいである。内容はーーー鬼ごっこ。

月見先生が言った時はどういう事だと耳を疑ったが、始まってみるとかなりきつい。

走るなら木の根やでこぼこの足元で体幹がぶれ、障害物だらけの環境は集中力を持続させなければ本当に走るのも辛い。

さらに七十キロ程の砂の詰まった布人形も抱えさせられている。曰く、捕まった要人を連れて脱出、というのがコンセプトらしい。

逃げるのは本校組、追っ手は半数の分校組。ただし、分校組はこの島で生活し、慣れているので猟犬のように追って来るのだ。

こちらは鬼ごっこで逃げるという立場上、追っ手に攻撃してはならない。

隠れ、()き、時に走り抜けて、勝利条件である山稜(さんりょう)に複数設置されたゴール地点の一つを目指す。

がーーー

 

「見つけたわ!」

 

追っ手である美和が姿を現す。

 

「くっ、携帯型端末か!」

 

「ええ、捕まえてあげるわ!」

 

美和が木の幹を蹴って飛ぶ。

地を、岩を、幹を、枝を蹴って、時折こちらを捕まえようと向かってくる。

だが、俺はそれを全て避ける。何しろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くっ……なんで捕まらないのよ!」

 

俺はおもむろに近くにあった木の(つる)を手にし、美和に言った。

 

「簡単な事だ。全部見えてるんだよ!それともう一つ忠告だ。スカート抑えておけよ!」

 

俺は蔓で輪を作り、仕掛けてくるのを待った。そしてーーー

 

「それはどういう事よっ!」

 

美和の攻撃を避けると同時に着地点へ蔓を投げた。

そして着地の瞬間を狙い、蔓を引っ張った。

 

「なっ!?」

 

そのまま美和は逆さ吊りになっただろう。しかし俺はそれを見ずにすぐに引っ張った蔓から手を離した。その一瞬の足止めをした後、俺はゴールに向かい走り出した。

 

「しまっ……!待ちなさい!」

 

後ろから美和の声が聞こえた。予想以上に早く復帰したらしい。

しかし俺は木の枝などを蹴って飛び、一気にゴール地点へ向かった。

 

 

結果ゴール出来た。他にゴールしたのは僅か数人。ちなみに優月や透流たちはゴール出来ず捕まったとの事だった。

 

 

 

 

日が落ちて空が暗くなると、食事の準備を始める時間となった。

二日目以降の夕食は、訓練の一環として生徒だけで飯盒炊爨(はんごうすいさん)をしているからだ。もちろん、主食だけではなく惣菜(そうざい)も自分たちで作る事となっている。

訓練でくたくたになっている上でやっているから手間ではあるが、皆でワイワイ言いながら調理するというのは、中々楽しいものだ。

それと同時に意外な一面が分かる事もある。

リズム良く包丁を動かす橘ーーーしかし、意外な一面というのは橘では無い。

 

「これくらいでいいか、みやび」

 

と、隣で下ごしらえしているみやびへと話し掛ける。

 

「えっと……もうちょっとだけ薄い方がいいかな」

 

「そうか、分かった」

 

橘が再び包丁を持つ手を動かし始めた。

すると息つく暇もなく、今度はユリエが話し掛ける。

 

「みやび、ナスを切り終わりました。次は何をしたらいいのですか?」

 

「え、えーっと、今度は人参(にんじん)を一口サイズに切ってくれる?」

 

「ヤー」

 

まるで漫画の一コマのように野菜を宙に放っては、一瞬で切り刻み始めるユリエ。

一方みやびはーーー

 

「みやびちゃーん。味付けはこのくらいでいいー?ちょっと薄い気がするけどー」

 

「んっ……ずずっ…………そうだね。ちょっと薄いから小さじ一杯分の塩を足してみてくれるかな?それでも薄く感じたら、小さじ半分を入れてみてね」

 

話し掛けられて味見をしたみやびは、吉備津(きびつ)にそう言い、吉備津は分かったと言い持ち場へ戻って行く。

 

「何度見ても意外、といった顔だな」

 

「ああ。みやびには悪いけど、物事の中心に立つなんてタイプじゃ無いと思ってたからさ」

 

「ふん、それについては僕も同感だ」

 

みやびが今のような立場になる出来事が昨日あった。

昨日、あるグループが味付けを失敗して険悪な雰囲気になったのだ。

訓練の後の楽しみーーー料理がそうなってしまい、台無しになったのだ。無理も無い。

その場の空気と料理の味を変えたのがみやびという訳で、先ほどの光景になったのだ。

 

「それも意外だが、あっちも意外だと僕は思うがな」

 

「ああ……」

 

透流とトラがこちらを見てそう言った。

さて、俺と優月は現在、絶賛料理中だ。何を作っているのかと言うとーーー

 

「ご飯出来ましたか?」

「ああ、もう少しだ!」

「野菜早くくれよ!透流!」

「ああ!待ってくれ!」

 

カレーだ。定番中の定番である。

 

「……あの二人が作る奴も美味しいんだよな……」

 

「そうだな。まあ優月は貴様が入院した時にクッキーを作ってきたがな」

 

そんな会話を聞きつつも、俺は料理する手を止めない。するとーーー

 

「ーーっと、おぅわっ!?」

 

そんな声が聞こえ、見てみると透流がジャガイモを落としていた。拾おうとしても何か慌てていたのか、ジャガイモを蹴飛ばしてしまい、さらに遠くへ転がっていった。

 

「ま、待てーっ!」

 

「何をしているんだ、バカモノが……」

 

トラの呆れ声を背に、透流は駆けていった。そして俺は先ほどからずっと気になっている事でため息をはく。

 

「……はあ……」

 

「?兄さんどうしました?」

 

ため息に反応した優月が問いかけてくる。それに対し俺は答える。

 

「ん?いや……ずっと気になっててな」

 

「……兄さんもですか?」

 

「……ああ、後で理事長に言いに行くか」

 

しかし、そんな手間は省けた。なぜならーーー

 

「こんばんは。皆さん」

 

戻ってきた透流とリーリスの後ろから朔夜がやってきた。

 

「丁度いいな。ちょっと言ってくるから優月、後は任せたぞ」

 

「はい!」

 

俺は後の調理を優月に任せ、朔夜の元へ行く。

 

「こんばんは、理事長」

 

「あら、こんばんは。どうしましたの?」

 

理事長は俺を見るなりくすりと笑ったが、こちらに来た目的を真面目な顔に戻し、問う。

 

「ちょっと、話があります。付き合ってもらえますか?」

 

「構いませんわ。ならば向こうに行きましょうか」

 

「あら?なら私もいいかしら?」

 

話を了承してもらい向こうへ行こうと思ったら、リーリスがそう言ってきた。

 

「……理事長、どうします?」

 

「私は別に構いませんわ」

 

「なら遠慮無く、一緒に行かせてもらうわね」

 

尚、この会話の最中に本校組と分校組がとても不思議な顔をしていたのは言うまでもないだろう。朔夜と話があると言うだけでそれなりに珍しいというのに、リーリスまで着いて来るのだから。

そして俺とリーリスと朔夜、そして三國先生は広場から僅かに離れた、少し薄暗い小道までやって来て、朔夜が振り返った。

 

「で、どのような要件ですの?」

 

「その前に口調を崩していいですかね?」

 

そう言うと、朔夜は少し考え込みーーー少し顔を赤くしてーー答えた。

 

「……この方々の前ではいいでしょう。優月にも言っておいていいですわ」

 

「ありがとな。朔夜、それで要件っていうのはーー」

 

俺が口調を崩し、朔夜と呼び捨てにした時点で三國とリーリスは少なからず驚いたのだが、続く言葉でさらに驚く事になった。

 

「前にあらもーどで見たーー《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》だっけ?ーーそいつの部隊が今現在も俺の《焔牙(ブレイズ)》にちらちらと映ってるんだが」

 

「「「っ!?」」」

 

俺の言葉で三人は驚き、固まる。

 

「……いつから気付いていたの?」

 

「二日目からだ。リーリスは?」

 

「……三日目からよ」

 

「そうか、姿見てみるか?」

 

「「「見れる(の)(ですの)(ですか)!!?」」」

 

三者三様の驚きを見せてくれて、嬉しくなる俺であった。

 

「見れるさ。手を繋げばな?」

 

そう言って、手を差し出した。それに対しーーー

 

「……分かりましたわ。三國、手を」

 

「…………承知しましたが、朔夜様を呼び捨てにする程の仲になっているとは思いませんでした」

 

「あたしもよ。影月、一体何をしたらそんな親しくなるのかしら?」

 

「……さあな」

 

俺は適当に返事をし、朔夜は俯きながら三國先生と俺の手を握る。

リーリスもやれやれと言った感じで手を繋いできた。

そして繋いだ瞬間、俺の視覚を共有する。三人に見せているものは俺の《焔牙(ブレイズ)》を通したリアルタイムの映像。

そこには見覚えのあるーーしかし、少し外見が変わった戦闘服(ボディスーツ)をまとった者が映っていた。その者がいる場所は先ほどいた広場を見渡せる場所で、その侵入者は広場にいる学園の生徒をただ静かに見ていた。

 

そして俺は視覚共有を解除した。

 

 

「……便利ですね。影月君の能力」

 

「本当ですわね。偵察には役立ちますわ……」

 

「お褒めに預かりまして。それよりどうするんだ?奴らは……」

 

三國先生と朔夜の賞賛の声を聞きながら、今後の事を聞く。

 

「と言っても、動くつもりも無いんでしょう、朔夜?」

 

「ええ、ここには璃兎に三國、貴方や優月、それにリーリスや彼らもいますわ。なので問題は無いですわ」

 

彼らーーとは誰の事なのか言うまでもない。彼女の目的に至るかもしれない二人の事なのだから。

 

「学園の方はいかがなさいますか?」

 

三國がそう問うと、朔夜は妖艶な笑みを浮かべて言った。

 

「そちらも問題無いですわ。警備隊や上級生も残っていますしーーいざという時の保険もしてありますわ」

 

「保険?」

 

俺が気になって聞き返すと、朔夜は笑みを浮かべながら「秘密ですわ」と言った。

 

「とりあえず、大丈夫でしょうから……お腹が空きましたわ。影月、今日は何を作りましたの?」

 

「ああ、カレーだ。食べるのか?」

 

「そうですわね……では遠慮無く」

 

そうして四日目は終わった。

ちなみに朔夜はカレーを食べた途端、キラキラとした顔で美味しいと言ってくれますた。

 

 

 

 

 

 

 

side 優月

 

五日目の訓練が終わりました。

臨海学校という名の強化合宿は本日まで。

六日目の明日は完全自由行動で、島外へ出る事は(かな)わないまでも、生徒たちがどのように過ごそうとも構わないとされています。

そんな誰もが心待ちにするだろう明日を控えた夜ーー

食堂へ複数の女子が集まりました。

 

 

本校からはユリエさん、巴さん、みやびさん、吉備津さん、そして私と、その他一人。

分校からは伊万里さんと女子が三人。総計十名の女子が、お菓子を(つま)みつつお喋りをしています。

私たちは今日までの五日間の訓練で特に交流を深めた間柄で、お喋りを始めた発端は、明日の過ごし方だったのですが、今はもっぱら日常的な雑談へと移り変わっていました。

そして、夜もそろそろ更けてこようという時刻になった頃ーーー

 

「ねえねえ、本校の男子ってどう?」

 

分校の女子ーー《苦無(クナイ)》使いの美和が発した一言で、本校生たちは色めき立つーー訳でも無く、私が見る限り反応したのは一人でした。

反応しなかったのは私を含め、ユリエさん、巴さん、吉備津さんで、私以外は意味が分からないと言った表情を浮かべました。

みやびさんは一瞬肩をびくりと震わせただけで、私以外その様子には気が付いた様子はありません。

 

「どう、とは?」

 

「気になる男子はいないのかって話だよ、巴」

 

本校の女子がフォローを入れると、巴さんは理解したように頷きました。

 

「……ふむ。気になると言うと、やはり九重かトラか影月だな」

 

巴さんの言葉に、ユリエさんと吉備津さんと私を除いた六人が反応しました。

 

「三人とも中々の使い手だ。私としてはーーーむ?どうしたのだ、皆?」

 

またしても六人が反応ーーと言うよりこけていました。

私はため息をつきながら話題の説明をする。

 

「巴さん、これはガールズトーク。ようは恋愛に関する話ですよ」

 

苦笑いしながらそう言うと、巴さんは勘違いを察して赤面しました。

 

「す、すまない、てっきり……」

 

巴さんの反応に何人かが笑った後、今度は分校の女子の一人が口を開きました。

 

「本校って、かっこいい男子が多いじゃん?(いずみ)くんとか。ハズレばかりの分校組からすると、(うらや)ましい話なのよね」

「あいつ女好きだから注意した方がいいよー」

「あ、私はトラくんかな。ちっこくて可愛いし」

「でもちょっと怖くない?」

「私は断然タツくん!筋肉ある男子っていいよねー」

「「「それは無いわ」」」

 

誰かが男子の名前をあげると、反応してきゃいきゃいと誰かが騒ぎます。

それを私は緑茶を飲みながら聞いています。

 

「そうだなぁ……あたしはーー透流、かな」

 

「ーーっ!!」

 

伊万里さんが透流さんの名を口にした事で、幾人かが反応しました。

 

「やっぱりそうなんだ。なーんか怪しいと思ってたんだよねー。でも分かるかな、九重くんって結構顔がいいもんね」

「さんせーい」

「ちょっと筋肉が足りないかな」

「スルー」

「違うってば。顔がどうこうじゃなくて、性格が合うからって事。話しやすいのよね、すごく」

 

笑いながら話す伊万里さんの様子に気が気でなさそうなみやびさんがいました。

そこで、ずっと黙っていた私に分校の女子から話を振られました。

 

「優月ちゃんは?気になる男子はいないの?」

 

「私ですか?特にいませんけど……」

 

私は物心ついた時からずっと兄さんに頼っていて、兄さんが一番好きなので気になる異性なんてほとんどいませんでした。

 

「えー、影月くんは?」

 

「う〜ん……やっぱり兄妹ですから、家族的な感情ですけど……兄さんは好きですよ」

 

そう答えると、また他の女子たちが今度は兄さんのことを言い始めました。

 

「私も影月くんいいなー。かっこいいし、運動も出来るし」

「それに影月くん、優しいのよ。勉強とか分かるまで教えてくれるし、辛くて退学しようとした人たちを説得したりしてたからね」

「いいなー。本校組は本当に羨ましいよー」

「私はちょっと微妙かな。顔も中性的だし」

「あっ、分かる!女装とかしたら似合いそうだよね!」

 

兄さんの印象を聞きながら再び緑茶を飲む私。正直に言うと、あまりこういう話題は得意ではないのでこうして黙って聞いているのが楽しかったりします。

 

「まあ、あたしたち分校組は、臨海学校が終わったら次に会うのはいつだって話だから、本気になったりしないけどね。何よりあたしには、やるべき事があるしさ」

 

「あ、ひっどーい。伊万里ってば私より大事なものがあるなんて……」

 

「あははっ、心配しなくても、世界で一番愛してるってば♪」

 

茶目っ気たっぷりに美和さんへ返す伊万里さん。

 

(ん?あれ?もしかしたら美和さんって……?)

 

お茶を飲みながらそんな疑問が頭をよぎったものの、すぐに思考を切り替えます。

私が他人に言う事でも無いし、下手に突っ込んでも変な事になるからです。

 

ちなみにこの話題の最中、みやびさんの反応はかなり分かりやすいくらい動揺していました。

透流さんの事が気になるが故に、落ち着いていないようですが……。

ちなみにみやびさんは男子の中ではそこそこの人気らしく(兄さん情報)、『守ってあげたい女子ナンバー1』『胸に顔を埋めたい女子ナンバー1』との事です。

 

「そういえば、九重くんといえばー。みやびちゃん、好きなんだよねー」

 

「っっ!?」

 

ぽやっとした口調でとんでもない発言をした吉備津さん。

当然動揺したみやびさんに注目が集まります。

 

「も、も、ももちゃん!?わわ、わたしはーー」

 

「だってー、九重くんの事よく話すしー、すごく仲がいいでしょー」

 

吉備津桃さんに悪気は無いでしょう、ただその性格故に、思った事をそのまま口にしてしまう事が多々あるだけです。それが良い方向に働く事もありますが、少なくともみやびさんの反応を見るに、今のはあまり嬉しくない発言なのでしょう。

 

「お、お友達、だから。たた、確かに他の人よりは話しやすいなって思うけど……!」

 

「そーなのー?」

 

「うん、うんっ……!」

 

ぶんぶんと大きく頷くみやびさんでしたがーーー

 

「……あの、みやびさん、皆さん気付いてますからね?貴方は態度で丸分かりですよ?」

 

はっきりと言った私に全員の視線が動き、すぐさまみやびさんに戻りました。

 

「ふぇっ……!?」

 

「そ、そうなのか、みやび……?」

 

この場で最も多くみやびさんと接し、ですが全く彼女の想いに気が付いていなかった人物ーー巴さんが唖然とした表情を浮かべたまま、尋ねました。

 

「あ……あ、ぅ……あの…………」

 

最後は顔を真っ赤にし、無言で俯いてしまいました。

それにはさすがの巴さんも察しーー

 

「そうか、みやびは九重の事を……」

 

「あははー。やっぱりそうだったんだねー」

 

「う、うう……あの、ももちゃん。透流くんには内緒で……」

 

「うん、もちろんー」

 

「九重の事で忘れちゃいけないのは、《絆双刃(デュオ)》で同居人のユリエだよね。今の話を聞いて何か言いたい事ってある、ユリエ?」

 

本校女子の一言で、視線が一気にユリエへ動きました。

当の本人はーーー

 

「…………。すぅ……すぅ……」

 

「あ〜……先ほどまで起きてましたけど……もうダメみたいですね。そろそろ就寝時間ですから」

 

私が苦笑いしながら言うと、他の皆がイスから滑り落ちそうになりました。

その後は明日もあるからテントへ戻ろうという事になり、お開きとなりました。

 

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー時は少し遡り、女子会がもう間も無く終わろうという頃ーーー

 

「よっ……と、この辺りでいいか?朔夜」

 

「ええ、ありがとうございますわ」

 

女子たちに話題された影月は朔夜をお姫様抱っこをし(朔夜本人の要望)、分校の屋根へと跳躍し、上へとたどり着いた。

そして朔夜を屋根の上に降ろすと、二人は揃って月を見上げた。

わざわざ屋根に登ったのは、朔夜自身が月を見ながら話をしたいと言ったからだ。ちなみに三國はいない。これもまた朔夜の要望によるものだった。

 

「で、わざわざこんな他の人が簡単に来れない所に連れて来てほしいって言って……何の用だ?」

 

「まずは座りましょうか」

 

そう言って、朔夜は自らの漆黒の衣装(ゴシックドレス)が汚れるのもあまり気にしない様子で座った。

 

「こっちに近付いてくださいます?」

 

そう言い、自分の隣に座るように促す朔夜。

影月は言われた通りに隣に座る。

 

「で、何だ?」

 

問う影月に対し、朔夜は俯いて何も答えない。

 

「……朔夜?」

 

再び問うも、何も答えない。

ーーーそうしてどれほど待っただろうか。朔夜が顔を上げ、影月を見つめた。

 

(……可愛いな……って俺がロリコンっぽいじゃないか……)

 

しかし、朔夜の顔は幼いながらもしっかりと整っている、いわゆる美少女だ。さらに今は月明かりに照らされ、尚更魅力的に見えるのは仕方のない事だろう。

 

「……以前、貴方たちについてどう思ってるか……言いましたわよね?」

 

「……あ、ああ……」

 

朔夜の容姿に見惚れ、考え事をしていた影月は少しだけ返事が遅れてしまったが、朔夜は気にせず続ける。

 

「あの時の言葉は嘘偽りの無い言葉ですわ。でも、私はまた貴方たちーーいえ、貴方に少しだけ嘘をついてしまいましたわ」

 

朔夜はそこで区切り、また言葉を紡ぐ。

 

「……私は貴方たちを信用し、頼りにし、その優しさに好意を抱きましたわ。でも……」

 

今度はしっかりと影月の目を見つめて言う。

 

「貴方に対しては……頼りになるとかの感情以外にも……本当に好意を抱いてしまったようですわ」

 

朔夜は顔を赤くし俯いてしまった。彼女の中ではついに言ってしまったと思い、内心恥ずかしさでいっぱいだった。

 

「それって……」

 

影月は朔夜の言葉を聞き、まさかと思いながらも次に来る言葉を思い浮かべた。その思い浮かべた言葉は予想通りーー彼女自身の口から言われた。

 

「ええ、知り合って短いですが……好きですわ。とても……」

 

その言葉を聞いた瞬間、影月の頭の中は真っ白になってしまった。

それは無理の無い事だろう。いきなりの告白ーーーそれも全く考えもしていなかった人からだ。

 

「……付き合ってほしいという訳ではありませんわ。それにこれに対して無理に答えなくても結構ですわ。なので……今までと変わらず、優月と共に頼れる存在としていてほしいですわ」

 

朔夜の頬はまだ赤く染まっていたが、言いたい事を言えてとても嬉しそうなーー清々しい顔をしていた。

それに対し影月は少し納得していないような顔をしていた。

 

「……そうか、朔夜の気持ちはよく分かった。なら一つ俺がしたい事をしてみていいか?」

 

「何ですの?ある程度ならーーー」

 

そう朔夜は問い、彼のしたい事を聞こうとしたが、そこから先の言葉が紡がれる事は無かった。

なぜならーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ!……ん…………はぁ……んっ……」

 

「…………ん…………」

 

 

朔夜の口が影月の口で塞がれた為に。朔夜は初めは驚いて目を見開いたが、段々と気持ちが落ち着いてくると影月にその身を委ね始めた。

それに対し、影月も慣れたのか舌を朔夜の口の中に入れていった。

朔夜は今度は動揺せずに、舌を影月の舌に合わせていった。

 

 

 

 

 

ーーーそうして唇を合わせてから何分程経っただろうか。

 

「……ぷはぁ……はぁ……はぁ……」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

ようやく二人の舌が唇が離れて互いの口から先ほどのキスでお互いの唾液が混ざった糸が繋がり、それが二人の服に垂れた。二人は互いに呼吸を整える為、無意識に肩を上下させる。

すると朔夜が一層顔を赤らめて影月を見る。

しかしその顔は若干恍惚としていた。

 

「……どういう事ですの?いきなりキスーーーそれも、こんな、ディープなキスを、して……」

 

「……したいからしただけだ。……それと俺に面と向かって告白してきたのは朔夜が初めてだ。だから……ファーストキスを朔夜にやってもいいかなって思っただけだ」

 

影月も柄にも無く、頬を赤く染めて顔をそらした。

影月のファーストキスはすでに優月が取っていったと皆、思っていただろう。実際、朔夜も兄妹ながらそんな事をしていてもーーと思っていたのだ。

だが、実際は優月もそこまでしようとは思っていないらしく(もしくはまだしないのかもしれないが)、朔夜が一番最初のーーーようはファーストキスが出来たのだ。

影月の言葉を聞き、今まで以上に耳まで真っ赤になる朔夜。下手をすれば頭から煙が上がっていてもおかしく無い程に赤くなっている彼女の内心はーーー

 

(は、初めて!?わ、私が!?そ、そんな事が……はぅ……)

 

珍しくとても混乱していた。少なくとも彼女はこれから先、これ以上の混乱は無いだろうと思う程に混乱していたのだ。

 

「……なあ、月が綺麗だな」

 

「ーーえっ!?ぁ……そ、そうですわね……」

 

先ほどまで唇を重ね合った相手からの何気無い言葉を聞き、我に返る朔夜。

しかし、返事をした彼女は未だ胸の高鳴りは高く、頭もぼうっとしていて、恍惚な表情が未だ浮かんでいた。

一方影月はそんな彼女の内心と表情を知ってか知らずか、月から朔夜へと視線を移し、言った。

 

「……さっきの返事をさせてもらうぞ?……俺も好きだ。じゃないとさっきのような事はしないし……ただし今は付き合うかどうかは分からない。俺と朔夜じゃ立場が違うからな。でもーーー」

 

朔夜は付き合うかどうか分からないと言われて少しだけ気分が下がったが、続く言葉を聞く為に見つめ返す。

影月も朔夜の目をしっかりと見て、問う。

 

「俺が一緒に来てほしいと言ったらーー来てくれるか?」

 

その問いに朔夜は呆然とした。

てっきり自分は付き合うどころかこの気持ちを伝えて終わりだろうとーーー叶う筈の無い願いだと思っていた。

だが、想いを伝えた彼は来てもいいと言う。それどころか来てほしいと言ってくれた。

 

ならば私が答えるべき事は決まっていると、朔夜はいつもと変わらないーーーしかし、今まで以上に嬉しそうに笑みを浮かべーーー

 

 

「もちろんですわ!私のーーー初恋の相手からの頼みですもの!」

 

 

そう答えた。それが彼女の心からの本心であり、願いだった。好きな人の為なら……好きな人の頼みなら喜んで引き受けようと言う気持ちでいっぱいだった。

それに対し、影月も笑みを浮かべながら言う。

 

「ありがとうな。さてと、それじゃあーーー少し早いが戻るか?それとももう少しさっきのをやるか?」

 

「くすくす……ならばもう少し、でもたっぷり味合わせていただきますわ」

 

そう言って朔夜は影月に抱き着き、再び唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそれから時は経ち、夜が明け、波乱が巻き起こるだろう六日目の朝日が現れ始めた。

 

朝日が段々と姿を見せると同時にそれに合わせて、笑みを深める男が島から約数キロメートル離れた上空で浮かんでいた。

 

「ほう……これはこれは……」

 

男は例の兄妹の片割れーーーその行動を一晩中一ミリもその場から動かずに見ていた。

もうこの時点で立派なプライバシー侵害なのだが、あいにくとこの男は訴えられる事は無いだろう。

まず数キロメートル離れた上空から見られているなど誰が思うだろうか?

さらにこの男を知っている者たちからしたら覗き程度、プライバシーの侵害にならないと言うだろう。この男はもっと凄まじい事をしているのだから。

 

「彼女と恋仲になるとはね。こんな展開は私も未知だよ。それにあの二人はまだまだ別な者たちと出会い、その者たちと絆を深める事になるだろう」

 

男は笑い、この展開を心底楽しそうに見ていた。

 

「ふふ、では《超えし者(イクシード)》と《神滅部隊(リベールス)》、そして私が力を与えた者たちよ。私に未知をーー至高の結末を見せてくれ!フフ……フフフフ……ハッハッハッハッハッハッ!!」

 

男の姿はいつの間にか消えていた。が、男の笑い声だけはしばらく辺りに不気味に響き渡っていた……。

 

 

 

 

そうして、波乱の巻き起ころうとしている臨海学校六日目が始まるーーー

 




……どうしてこうなったかなぁ?朔夜が好きで書いたらこうなってしまったけど……なんでこうなったかなぁ……(遠い目)
現実逃避はこれくらいにして、朔夜がヒロインに……(苦笑)
作者の好きなキャラを書いた結果こうなってしまいました!ちなみに私はロリコンではありません!
キスの表現で糸引くのはR15ギリなんでしょうか……?ダメならば消します。そこも意見くださるとありがたいです!意見無ければそのままで(苦笑)

……そしてこの小説の評価がよく分からないです。実際どうなのか……誰か……教えてください……(涙)
誤字脱字・感想意見等よろしくお願いします!
追記、11月2日に一部修正、追加致しました。

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