アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

22 / 68
三巻突入!臨海学校編です!上手く書けてるでしょうか……。それと超今更ですけど、朔夜が軽くキャラ崩壊してる……。



第二十一話

side 影月

 

「……いい天気だな」

 

「……そうですね、兄さん」

 

俺、影月と妹の優月は目の前の風景を見ながらそう呟いた。

視線の先に広がるのはどこまでも続く青い空と青い海。そして鼻からは強い潮の香りがしてくる。

 

俺たち昊陵学園(こうりょうがくえん)の一年生は今日から一週間の臨海学校を行う為、船に乗って南の島へ向かっているのだ。

 

「……後どれくらいで着く?」

 

「一時間くらいでしょうか、このままここにいるんですか?」

 

「……そうだな、気持ちいいからしばらくいようぜ」

 

俺は船尾近くでしばらくそうしていようと言い、手すりの近くで二人揃って全く景色が変わらない広い海を見ていた。

そうして十五分程経っただろうか、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「お二人共、何しているんですの?」

 

そう声を掛けられ後ろを向くと、漆黒の衣装(ゴシックドレス)をまとった少女がこちらに向かって歩いて来ていた。

彼女は昊陵学園(こうりょうがくえん)の理事長、最高責任者である九十九朔夜(つくもさくや)だ。

 

「理事長……あれ?三國先生は?」

 

そこで俺は、いつもなら後ろについている三國先生の姿が無い事に疑問を持つ。

 

「三國は今、別の事をしてもらっていますわ」

 

「そうですか、私たちはただ海と空を眺めていただけですよ。理事長はなぜここに?」

 

「風に当たりたいのと、貴方たちと話がしたいからですわ。それと貴方たちならば周りに誰もいなければ(わたくし)の事を朔夜と呼んでもらって構いませんわ」

 

「?分かりましたが……それで話って?」

 

理事長ーーーもとい朔夜の前半の言葉に対し、俺は再び疑問の声を上げた。

それに対し、朔夜は「ええ」と頷きながら俺と優月の間に入ってきた。

 

「まずは昨日の説明会、お疲れ様ですわ。そしていつかはしなければならない説明をしていただき、ありがとうございます」

 

「いいんですよ。私たちがーーー兄さんがやろうって言って、私は手伝いをしただけですから」

 

「……で、ここに来た目的はなんだ?」

 

俺も優月も朔夜がここに来た理由が昨日のお礼を言いに来ただけとは思っていない。それは朔夜も分かっているようで、表情を引き締めここに来た目的を話始めた。

 

「実は数日前……貴方たちが九重透流の見舞いに行った日にある人物と出会い、話したのですけど……」

 

「知ってたんですか」

 

「あれだけ騒がしくしていれば、嫌でも分かりますわ」

 

それを聞き、騒がしくし過ぎたかなと思って優月と顔を見合わせ苦笑いした。

 

「で、誰と会ったんですか?」

 

優月が聞くと、次に朔夜が言った言葉で俺も優月も驚き固まった。

 

 

 

 

 

 

 

「カール・クラフトーーーメルクリウスですわ」

 

「「!!?」」

 

予想外の人物の名前を聞き、耳を疑った俺と優月。何しろその人は昨日の説明会でも説明した黒円卓副首領だったからだ。

 

「どこでですか!?」

 

「学園の庭で、ですわ」

 

「……色々聞きたいが一個ずつ聞いていこう。まず彼の容姿は?」

 

まず、容姿について聞いた。知っておけば色々と判断出来るかも知れないからだ。

すると朔夜がじっと俺を見つめてきた。そのまま十数秒程。

……流石に女の子にじっと見られたら、いくら俺でもドキドキする。

 

「な、なんだよ……」

 

そう声を上げると朔夜は小さい声で言った。

 

「……そっくり、ですわね」

 

「え……?そっくりってなんですか?」

 

優月が疑問の声を上げ、そう言った理由を問いた。それに朔夜は少し妖艶な笑みを浮かべながらーーー

 

「あの方は影月と瓜二つでしたわ。あの時はあまり驚かないように配慮はしたのですけれど、内心すごく驚きましたわ」

 

「兄さんと瓜二つ……」

 

「…………分かった。じゃあ次に、何を話した?」

 

容姿については分かった。俺と驚く程似ているーーーまさに瓜二つであるという事。

次に聞いた事はその時に彼と何を話したのか、である。

その質問に対し、朔夜はその日あった事を話し出す。

 

「たわいもない世間話ですわ。具体的には《生存闘争(サバイヴ)》についてだとか貴方方についてどう思ってるだとか……それくらいですわ」

 

「……本当にそれだけですか?もっと他に話をしてーー」

 

「朔夜は俺たちの事どう思っているんだ?」

 

「ちょ!?兄さん!?他の事は聞かなくてーーー」

 

朔夜の返答の中に気になる所があったので、それを拾い上げ朔夜に聞く。優月の質問を無視する事にして。

ちなみに優月の質問を無視した理由としては世間話以外の事を話していたとしても、この人が言うとは思えないからだ。なので質問を変えたのだ。

聞かれた瞬間、朔夜は少し顔を赤くして俯いて波の音にかき消されそうな、だがかろうじて聞き取れる声量で言った。

 

「……とても信用していますわ。頼りにもなりますし、お二人共優しいですもの……」

 

朔夜の普段は見せないこの仕草や表情、そしてその言葉に俺と優月は驚き、顔を互いに見合わせた。

どうやら俺たちは知らぬうちに彼女にかなり気に入られているようだ。

それも《焔牙(ブレイズ)》が関係していない、純粋な好意ーーー。

 

「……そうか、ありがとうな。朔夜」

 

「私と兄さんも貴方の事を信用していますよ、朔夜さん」

 

「ーーっ!!?」

 

その言葉で驚いて勢い良く顔を上げる朔夜。その顔は羞恥故なのか頬が赤く染まっていた。

しかし俺は構わず続ける。

 

「そんなに信用されているなら……色々手伝ったり守ったりしないとなぁ?優月?」

 

「そうですね〜♪もっと頼ってください!」

 

そう言って優月は朔夜の頭を撫で始めた。撫でられた朔夜はーーー

 

「っ!!な、撫でないでくれません!?ちょっと……影月!助けてーーー」

 

「俺も撫でようか?」

 

「ええっ!!?」

 

 

 

そんなじゃれあいをしたり色々話をしたりして大体四十五分程たった頃ーーー

 

「おい、影月と優月。うさぎ女が集まれとーーー理事長?」

 

「あら、もう間も無く着くようですわね。私は戻りますわ、頑張ってください」

 

「ああ、後でな。理事長」

 

「ありがとうございました!」

 

優月のお礼を聞き、朔夜は少し微笑んでそのまま踵を返して去って行った。

 

「……何を話していたんだ?」

 

「別にたわいもない“世間話”だ。それで月見先生が集まれって?」

 

「ああ、臨海学校について話があるからデッキに出てる奴らを呼んでこいと言われたんだ」

 

「分かりました。じゃあ戻りましょうか」

 

そして俺たちは船室へ戻る事にした。

 

 

 

 

「よしよしよーっし、全員揃ったねー?この船は間もなく目的の島にとーちゃくしまーす☆デッキに出てた子は島の姿が見えてたよね♪で、船がもうすぐ停まるから降りる準備をするよーに♡なお、皆の荷物はスタッフが美味しくーーじゃなくて、スタッフが運ぶから安心してねー♪」

 

月見先生が船室内を見回しながら言う。

今回の臨海学校は、学園の敷地内では行えないサバイバル等の訓練を行う事となっている。故に多少の危険を伴うとの事で、合宿のサポートスタッフとしてサバイバル技術に精通している学園の卒業生ーー《(レベル3)》の《超えし者(イクシード)》が五人程同行している。

 

「月見先生。いくらスタッフとしての参加とはいえ、先輩方に私たちの荷物持ちをさせる訳にはいきません」

 

橘がいつもの凛とした声で月見へと意見する。

 

「気にしない気にしない。あっちも仕事なんだから♪それより今からこれを配るから、名前を呼ばれたら取りに来るんだよー☆」

 

と言って月見先生が頭上にあげたのは、時計のような何かだった。

 

「何ですか、それ」

 

透流が質問を投げる。

 

「きゅーなん信号スイッチあーんどライト付きアームバンドだよー☆本気でやっばーって思ったら押してねー。マジで死んじゃう前に、ね♪おっけー?」

 

一瞬船内がざわめく。そんなものが用意される程なのかと。

しかし《越えし者(イクシード)》がスタッフとして同行している時点でそれ相応のものなのだろう。

アームバンドを受け取ると、臨海学校が終わるまで常に身につけているようにと念を押される。

全員の装着を確認し、既に停船しているとの事で船室を出たのだがーー

 

「…………やっぱりかぁ……」

 

俺は目の前に変わらず広がる海を見て、肩を落とした。

 

「…………なあ、月見」

 

「先生を付けろよ」

 

「何で陸が無いんだよーーですか!?」

 

デッキに出た皆や透流が唖然となるのは無理も無い。確かに目的地の島は見えるのだ。

 

 

……遠く数キロ先に。

 

「泳げって事♡」

 

「ここからかよーーですか!?」

 

「もちろん、着の身着のままね♪」

 

「制服着たままかよーーですか!?」

 

「透流さん……大変ですねぇ……」

 

「本当、裏表のある性格ってのも大変だな、《異常(イレギュラー)》……」

 

優月が涙を拭くような仕草をわざとらしくして、月見先生が哀れむように言った。

というか、優月が珍しく透流を若干煽ってる……。

 

「ってなわけで、今回の臨海学校は着衣水泳の実地訓練から開始だよー♪到着したら、島の中央にある合宿所を各々目指すよーに☆」

 

月見先生の発言に当然ながら驚きの声が上がるも、戦闘訓練に始まり、応急医療、サバイバル、その他諸々(もろもろ)ーーー特殊技術訓練校ならではのカリキュラム。

着衣水泳もその一つで、先週教わったばかりの技術だ。

服を着たまま泳ぐのは想像以上に大変で、一キロ泳ぎ終わった後はとても疲れ、ヘトヘトになる程だ。

そんな覚えたての技術を、いきなり臨海学校の最初に実地させるとはーーー

 

「仕方ねぇな……やるか」

 

俺はため息をつき、気を引き締めた。

 

 

クラスメイトが次々と海へ飛び込んでいき、船上に残ったのは俺たちだけとなった。

 

「それではまず私が飛び込むから、後から来てくれ。すぐに(そば)へ行くから落ち着くようにな。浮き上がったら私の肩に掴まるんだぞ」

 

「う、うん……。お願いね、巴ちゃん」

 

透流の隣でみやびと橘が海へ入った後のそうだんをしている。

反対側ではトラとタツがーーいつものような喧嘩腰でーーどちらが先に陸まで泳ぎ着くかを勝負すると騒いでいる。

 

(仲がいいのか悪いのか分からないな……)

 

「ふふん、泳ぎで僕に勝てると思うなよ、タツ、透流、影月!!」

 

「「えっ、俺も!?」」

 

「何を驚いているんだ、当然だろう」

 

「当然なのか……」

 

「待て待て!俺はなんで巻き込まれたぁぁ!!?」

 

そう叫ぶも聞く耳を持たれずーーーそんな俺たちへ、うさぎ耳の担任がにやにやしながら話し掛けてきた。

 

「おいおい、勝負なんて余裕ぶっこいてんのも今の内だぜ?この辺りは潮の流れが複雑だからなぁ。油断してっと痛い目見るぜーーっつーか痛い目見やがれ、くはははっ」

 

(相変わらずだなぁ……ってそういえば……)

 

相変わらずの月見先生はほっといて、俺は優月に話し掛ける。

 

「なあ、優月。あれを試してみるか?」

 

「あれ?…………ああ、でもいいんでしょうか?今は着衣水泳って実習中ーーー」

 

「どうせこの後も着衣水泳の訓練はやるだろ。それよりもあれを前から試してみたかったんだよなぁ……勝負にも負けたくないし」

 

最後は百パーセント個人的な意見だが。しかし優月は少し考えた後に苦笑いして言った。

 

「分かりましたよ、それじゃあ行きますか。もう皆飛び込んだようですし」

 

優月がそう言うので周りを見回すとデッキには誰もいなかった。

なので、海面の方へ顔を覗かせると橘たちやトラたち、少し離れた所に透流たちがいたーーーユリエは透流にしがみついていたが。

 

「おーい、影月、優月、お前たちが最後だぞー!」

 

「分かった!でも先に行っていていいぞ?さあ、行くぞ優月!」

 

「はい!」

 

そう言って、俺と優月は足を下にして飛び降りる。そして海面に足が触れると同時にーーー()()()()()()()()()()

 

「「「「「えぇぇぇ!!?」」」」」

 

「おお、出来たぜ!じゃあ先に行くぞ!俺の勝ちだ!」

 

「皆さん、頑張ってください!お先に行きます!」

 

驚く透流たちを尻目に、俺と優月は海面を水飛沫をあげながら走る。

途中、先を進んでいたクラスメイトたちを追い抜く際、「きゃ!何!?」とか、「おい!影月てめー!」とか聞こえた気がしたが聞こえないという事にしておいた。

なぜ走れるのかは簡単な事だ。海に足が沈む前に足を交互に素早く出し続けているだけだ。特殊な技術でも何でもない力技ーー正直出来るかどうかは分からなかったがやるだけやってみようという訳でやったらーーーこのように出来た。

 

「一番乗りだな!このまま行くと!」

 

「はい!でもこんなに早く来るとは思ってないでしょうね!きっと()()()()()()()()も!」

 

優月が走りながらそう言い、笑う。

待ち伏せしてる側ーーー月見先生は「島の中央にある合宿所を各々目指すように」と言っていた。島の中央ーーつまりどういう道のりで目的地に行くのかは俺たちの自由だ。だが目的地に向かうその道中に何かあってもおかしくはない。

 

それこそ待ち伏せをしていてもだ。

 

戦闘技術を教えるこの昊陵学園でただ普通に何の障害も無く、目的地へ着く?そんな事があるだろうか?

俺と優月はその質問に否と答える。絶対に何かあると思っている。

そしてもし待ち伏せをしているならば、何かしら向こうが有利な状況で奇襲してくるのは想像に容易い。つまり細工されている可能性があるのだ。

例えばーーー

 

「このアームバンドか?もし細工してあるとしたら……」

 

船から島まで約数十分。目的の島の砂浜に上陸し、腕に付けたアームバンドを見る。

もし本当に俺たちに対して事前に細工してあるとしたら……これが一番怪しいのだ。

と言ってもーーー

 

「まあ、ここで考えてても仕方ないですよ?私たちが一番ですから……考えながらゆっくり目的地へ向かいましょう?」

 

「そうだな……もし何か来たら退ければいいしな」

 

どうせやる事は変わらないのだ。障害を超えて目的地に行くのは。

俺たちは水飛沫で少し濡れた服を乾かしてから、目的地へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

俺たちが上陸した砂浜は入り江となっていて、周囲は数十メートルくらいの高さの絶壁で囲まれている。

だが、しばらく歩くと多少緩やかな岩肌が見えてきた。

 

「よし、ここから登るぞーーって優月?」

 

後ろを振り向いたが優月がいない、「あれ?」と思って辺りをキョロキョロと探しているとーー

 

「兄さ〜ん!上ですよ〜!早く登ってきてください!」

 

上から声が聞こえたので見上げると、優月がこちらに向かって手を振っていた。

しかし、俺は少し視線を彷徨わせる。なぜならーー

 

「優月ー!見えてるぞ!」

 

「何がですか〜?」

 

何が見えるのか?分からない人の為にまずは状況整理してみよう。

俺は崖の下で上を見上げている。対して優月は崖の近くで下にいる俺に向かって手を振っている。

ここまでは想像出来ただろうか?では次に考えていただきたいのは優月の服装だ。言うまでもなく制服。

 

ーーーここまで書いたなら分かるだろう、下からなら……その、見えるのだ。スカートの中のp(そのような事を言う結末は認めんよ!)……何か電波というか謎の規制が入った気がするが……それはともかく。

さすがに今は俺以外誰もいないのでいいといえばいいのだがーーいや、本当はよくないのだが。

すると優月は合点があったように言った。

 

「……ああ!前にも言いませんでした〜?兄さんにならーーー」

 

「優月!ちょっとそこで待ってろ!さすがに兄に対しても恥じらいを持てと叱ってやらなければならないみたいだな!」

 

そう言って俺は壁を蹴りながら上へ上へと登って行く。恐らく優月も同じように登ったのだろう。

そして俺は崖を登り切り、優月を睨む。

 

「ちょ、兄さん!?」

 

「お前なぁ……ちょっとは自重をーーーっ!!伏せろ!」

 

「っ!?」

 

その時、俺は何かを感じて優月に指示を出して俺も同時に伏せた。

そして伏せると同時に頭上を何かが通り過ぎた。

そこから俺たちは素早く起き上がりすぐ近くの木の後ろへと身を隠す。

やはり待ち伏せか?などと思考を巡らせていたがーーー

 

「兄さん!」

 

優月の声により咄嗟に姿勢を少し低くし横に飛ぶと、先ほどまで俺の頭があった所にナイフか何かが飛んできて近くの木へ突き刺さる。俺は飛んだ勢いのまま地面を転がり、すぐ近くの別の木陰へと身を隠す。

 

(どこだ!?)

 

辺りを素早く見回すが、木々や草が生い茂っていて見通しはよくない。さらに日の光も木々の葉によって遮られている為、尚更視界は悪い。不利な状況だ。

 

「兄さん!」

 

そんな声が聞こえ、声がした横の木を見てみると優月が近くの木の陰に隠れていた。どうやら少しずつ俺の方へ向かってきたらしい。

 

「どうするんですか!?これ!」

 

優月の悲鳴を聞きながら、思考する。

俺たちの目的は合宿所に向かう事なので実際この戦闘自体に意味は無い。

しかし今この木陰から出て目的地へ向かおうとしても、背後から襲われるのは目に見えている。

なので取れる行動は、目くらましをして急いで目的地へ向かうかーーこの襲撃者を倒すか。

ちなみに今も隠れている木の後ろ側では先ほどの何かが絶賛突き刺さり中である。ものすごく突き刺さる音が聞こえている。

そんな音をBGMにしながら考え、視線を彷徨わせるとーー倒木に刺さっているナイフのような何かーーよく見るとまるで《苦無(クナイ)》のようなーーが目に止まる。

 

「ん?あの模様……」

 

俺はそれに書かれている模様に見覚えがあった。その模様が毎日のように見ているものとよく似ていたからだ。

 

(なるほど、となると相手は恐らく……)

 

考えて一つの可能性に至った俺が確認すべき事は一つだーーーだがまずは相手を無力化する事にした。

そうと決まれば、俺は早速自らの《焔牙(ブレイズ)》を形成した。

そして別の木陰へと移動しながら槍を投げ、また隠れる。

そして目を閉じ、俺は槍が見ている風景に対して集中し始める。

槍は投げてすぐに透明になったので相手に悟られる事は無いだろう。そうして目を閉じてから僅か数秒ーー俺が今いる位置から数十メートル離れた所に素早く移動して木にも隠れながら手に持っている《苦無(クナイ)》を投げている全身黒色の装束をまとった者が見えた。

それを確認した俺は槍を実体化、操作し背後から急襲させると同時に俺も走り出した。

 

「ーーっ!?」

 

黒色の装束をまとった者は突然現れた槍に驚き、咄嗟に回避したがーーー

 

「せいっ!」

 

その隙に一気に距離を詰めた俺は、黒色の装束をまとった者を地面に投げ飛ばした。

 

「うっ!はぁ!」

 

そして地面に倒した襲撃者に対して、手元に呼び戻した槍の穂先を首に突きつける。

 

「さあ、終わりだ。大体の検討は付くが……何者だ?」

 

襲撃者に問うと顔を隠していた頭巾を取り、観念したように言った。

 

美和(みわ)……分校の生徒よ」

 

「やっぱりか……」

 

これで襲撃者の正体が分かった。俺が相手を《超えし者(イクシード)》だと思った理由は《苦無(クナイ)》の模様だ。

焔牙(ブレイズ)》は皆、独特な模様が入っている為、見た時に大体確信したのだ。

 

「……やっぱり待ち伏せしてたか……そういえば、優月は……」

 

俺は優月の姿が途中から見えなくなっていたので周りを見渡す。

するとーーー

 

「こっちです。私の方にも別な人が襲い掛かってきましたよ……」

 

「あはは、返り討ちにあっちゃったけどね」

 

優月が黒色の装束をまとった女子と共にこちらに歩いて来た。

俺はその女子に見覚えがあった。

 

「君は確か入学式で透流の隣に座っていた子か?」

 

「ええ、覚えててくれたのね」

 

その少女は入学試験で透流に倒された子だった。その後は互いに自己紹介し、目的地ーー分校校舎へと共に向かう事になった。分校生徒で優月と闘った永倉伊万里(ながくらいまり)は《絆双刃(デュオ)》の美和と共に俺たち、本校生徒を正体を隠して襲えと言う指示を受けたと言った。

 

「つまり、屋外での《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》をして来いって事か?」

 

「そうよ。他にも分校生徒が様々な場所で待ち伏せしているわ。それにしても貴方たちは上陸が早かったわね……」

 

「まあ、海面を走って来たからな」

 

「へえ、海面をね……」

 

伊万里は納得したように頷きーーー

 

「走って来たぁ!?」

 

時間差で驚いた。

 

「ちょっ、えっ?そんな事出来るの!?」

 

「はい、伊万里さんや美和さんも出来ると思いますよ?」

 

優月が二人にそう言い笑顔を向けた。

 

「……影月、この子本当に貴方の妹?性格も顔も似てないように見えるけど……」

 

「悪かったなぁ!似てなくて!」

 

とりあえず、失礼な事を言う伊万里にツッコミを入れた。

 

「……そういや、なぜ場所が分かるんだーとか聞かないのね?」

 

「ん?ああ……このアームバンドだろ?それくらいしか細工しようが無い」

 

「あらら、やっぱりバレてたか」

 

そう言って伊万里は舌を出しておどけた。話によると、このアームバンドに発信器が仕込まれていて、分校組は携帯端末で本校生徒の位置が分かるとの事だった。

 

「っと、到着ね」

 

伊万里が指した先で森は開け、抜けた先には南の島には不似合いな洋館があり、俺たちが普段過ごしている寮と何処と無く似た雰囲気があった。

 

「ここが目的地の……」

 

優月が建物を見上げて言うと、伊万里が先立って建物へ駆け寄り、振り返る。

 

「ようこそ、昊陵学園(こうりょうがくえん)分校へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昊陵学園(こうりょうがくえん)分校ーーー三ヶ月前の《資格の儀》を終え、敗者として講堂を立ち去った後、伊万里たちは敷地内の建物に連れていかれ、選択させられたらしい。

系列であるが、ごく普通の高校へ編入するか、もしくは厳しい環境になるが《越えし者(イクシード)》となる為にこの分校へ編入するか。

伊万里は自分で分校という道を選び、ここにやって来たそうだ。

 

と、まあ分校に関しての説明はこれくらいにして。

俺と優月は洋館の中に入り、教えてもらった食堂へと向かう。

伊万里と美和はいない。森でまた待ち伏せをするそうだ。

特に伊万里は個人的な理由ーーー三ヶ月の成果を透流に見せる為ーーーと言って、張り切っていた。

 

ギシギシと音を立てながら、目的の部屋へとやって来た。

中を覗くと、数人のスタッフだけがいて、俺たちが一番最初に着いたと改めて思った。

 

「……とりあえず他の人が来るまで、お茶でも飲むか……その前にシャワー浴びるか」

 

「あ、私も行きます!」

 

そして、シャワーを浴びた後、優月が淹れたお茶を飲みながらゆっくり他の人たちを待っていた。

そして色々と優月と話していると、少しずつ本校クラスメイトがやって来た。

ちなみに俺たちの次に早く着いたクラスメイトの第一声は「影月!お前ズルイぞ!」だった。

 

そうして段々クラスメイトたちが集まってきて、日が西に傾いた頃ーーー透流たちが最後にやって来た。

 

「お、やっと来たか」

 

「……影月、お前なぁ……」

 

「伊万里さん、勝ちましたか?」

 

「いや〜、負けちゃったよ。やっぱり強かったね。じゃあ、あたしたち分校組は準備があるからこれで。また後でね」

 

伊万里は別れを告げて、どこかへ去って行った。

 

「ふんっ、随分と遅かったじゃないか」

 

トラが開口一番、『先に到着したから僕の勝ちだ』とでも言わんばかりの笑みを浮かべるトラ。だがーーー

 

「実際、俺たちがトラよりも早く着いたんだけどな」

 

「っ!貴様らは泳いでなかっただろう!」

 

「そうだが気にしたら負けだ!要はトラ、お前はまた負けたんだ!」

 

「何ぃ!?」

 

そんなやり取りをしていると橘とみやびがこちらに加わってきた。

 

「そういえば透流さん、ユリエさんは?」

 

「トイレだとさ」

 

「そうか、それにしてもこの部屋にいるって事は分校組を退けたな?」

 

「と、巴ちゃんが護ってくれたから……」

 

「ふふっ、私だけじゃないさ。トラたちが居なければ、どうなっていたかは分からないさ」

 

話を聞けば、橘たちはトラの案で六人程のグループで行動して、誰も欠けずに分校へ着いたらしい。

 

「……トラが集団行動をしようって言ったのは俺の空耳か?」

 

「奇遇だな、影月。俺もそんな空耳が聞こえたぞ」

 

「本当だぞ」

 

俺の質問に橘が証人となり、みやびも頷いた。

 

「…………トラ、海で体を冷やして熱でも出したのか?」

 

「いやいや、陸地に上がった時に滑って転んで頭打ったんじゃないか?」

 

「そんな訳あるかっ!!鈍くさいのが怪我でもしたら、自分がいればなどと貴様が言い出して鬱陶(うっとう)しいだろうと思ったから提案したまでだ」

 

「なるほど、納得」

 

「私も納得しました」

 

「う……鈍くさくてごめんなさい……。だけど、ありがとう、トラくん……」

 

「べ、別に礼などいらんっ!!」

 

照れくさいのか、そっぽを向くトラ。

 

「でもまあ、トラの言う通りだな。誰かが怪我をしたら気にしていたと思う。だからーーありがとな」

 

「ーーっ!ふ、ふんっ、存分に感謝するがいい……!」

 

明らかに透流に対する態度が違う気がする。

 

「トール、戻りました」

 

そこへユリエが戻ってきて、いつもの顔ぶれで雑談をしているとーー別室で分校組にやられ、休んでいた人がちらほらと姿を見せ始めた。

全員が揃った所で、朔夜が三國先生を従え室内へと入って来た。

 

「本日はお疲れ様ですわ。これより三國から滞在中のお話がありますが、その前に私から皆さんへ、一つ謝罪をしなくてはならない事がありますの」

 

それは《資格の儀》で嘘をついた事だった。

 

「闘わなければ道が開けない時、強い意志を持ちて立ち向かうーーその為に入学を認めないなどと虚偽(きょぎ)を口にした事、ここにお詫び致しますわ」

 

深々と頭を下げる朔夜に室内は多少ざわめいた。

彼女にとって俺たちは成果を試す為の実験体(モルモット)であるというのは学生皆が一度は耳にした事がある噂だ。

そんな人物が、自らの非を認めて頭を下げたのだ。印象が変わった人も多いだろう。

 

(本心は分からないがな……)

 

そう思ったが、内心に押し留めて三國先生の話を聞く。

内容は事前に話した事の確認に近く、一週間この島で過ごし、本校で出来ない訓練を分校生徒と共に受ける事、訓練は多少なりとも危険を伴う為アームバンドは決して外さない、最終日前日は自由行動等々……。

 

「この後は夕食ですが、本日は既に分校の皆さんが準備をしてくれています。各自、外の広場へ向かって下さい」

 

夕食という単語に喉を鳴らした多数の生徒(俺含む)が、話が締めくくられると同時に音を立てて立ち上がる。

 

「兄さん……お腹空いてるんですか?」

 

「……まあな」

 

優月に指摘され、恥ずかしい為少し顔を逸らした。

 

 

 

外に出ると、夏の宵とはまた別の熱気が吹いてくる。広場にはバーベキューコンロが幾つも設置され、分校生徒が準備をしていた。

俺たちの姿を確認し、分校生の中から代表人物が一人、近付いて来る。

その人物はーーー伊万里だった。

 

「ようこそ、昊陵学園(こうりょうがくえん)分校へ!!入学式やら本日の《焔牙模擬戦(ブレイズプラクティス)》やら色々あったけど、その辺りは水に流すと言うかお肉と一緒に飲み込んで!今日から一週間よろしくお願いします!!」

 

それを見ていた俺だったが、肉の香りが漂ってきた為、コンロの方を見てみるとーーー

 

「という訳で、今日は夕食兼親交を深めるバーベキューだよ、みんなー♪」

 

「ちょっと、月見先生でしたよね?まだ乾杯していないのに、どうしてお肉を焼き始めているんですか!?」

 

「伊万里、気にしちゃダメだ。その先生は(色んな意味で)自由だからな」

 

俺は慌てる伊万里に向かい、そう言った。

それに対し苦笑い(一部の人は呆れ)する本校組と分校組。

その間に紙皿と箸、紙コップが各自配られる。

 

「コーラいかーっすかー?オレンジジュースもあるっすよー」

「コーラお願いしまーす」

「俺、ウーロンで」

「あ、俺もウーロンで」

「じゃあ、私も」

「ぎゅ、牛乳ありますか……?」

 

などといったやり取りがしばらく続き、全員に飲み物が行き渡る。そして大半が今か今かとそわそわしていた。

 

「それではーー乾杯!」

 

「「「かんぱーい」」」

 

一口飲むと、広場が騒がしさに包まれた。

 

「押さないでー。肉も野菜もたっぷりあるよー」

「そこの人!まだその肉焼けてない!」

「っせー、俺はレアが好きなんだ!」

「通は玉ねぎを楽しむものさ♪」

 

既に今日は皆体を動かしまくった為、空腹は頂点に達している。

おかげで焼き上がる肉や野菜が間に合わなくなる程に皆が食事に夢中となった。

 

「……兄さん……」

 

「ん?優月、どうした?」

 

優月が項垂(うなだ)れながらこちらにやって来た。

皿には野菜ばかり乗っている。

 

「……肉、やるよ」

 

俺は大方肉が取れなかったから俺に頼ってきたと感じ、そう言う。

すると優月は顔を上げ、嬉しそうに笑った。

……こんな事もあろうかと、多く肉を取ってきておいてよかったと思う。

 

「ありがとうございます!では、これとこれをもらいますね!」

 

そう言って、優月は肉を食べ始めた。それを見て俺も肉を食べる。中もしっかりと火が通っていてとても美味しい。

そうして、肉と野菜をたんと食べるだけ食べた俺はーーー焼き担当として、スタッフに頼んで交代してもらいコンロの前に立った。

 

「これ丁度焼けてるから取っていけ!タレもあるぞ?」

「じゃ、このタレ使わせてもらうね!」

「おい、影月!レアは無いのか!?」

「これだ!丁度いいくらいのレアだぞ!」

「野菜は……?」

「これはどうだ?」

 

本校組と分校組の人たちの要望などを聞きながら、次々と焼いて行く。そこに透流やいつもの顔ぶれもたまに来てーーー

 

「影月、肉をくれ!」

「やるが、野菜もくれてやる!橘の視線が俺にも向いて怖いからな!」

「なっ!?」

「すまないな、影月。私は野菜を頂こう。肉は少しでいい」

「兄さん……大変じゃないですか?」

「いいや、慣れると中々楽しいぜ?あ、そこの人、肉ならこれ持っていけ!」

 

などと(さば)きつつ、夕食終了までやっていた。

 

 

 

夕食後、スタッフから荷物の入ったバッグを受け取り、外に出た。

広場は先ほどの騒がしさが感じられず、そこかしこにテントが設営されていた。

臨海学校中は、野営して過ごすーーもちろん《絆双刃(デュオ)》でーー事となっている為だ。

透流とユリエは橘や伊万里から変な事をしないようにと釘を刺され(主に透流)、男子連中は冷やかしていた(主に透流)。

俺たちは兄妹と言う事であまり言われなかった(あまりであって何人か言う人はいたが、まあ兄妹なら……とか言っていた)。

 

「この辺りにするか」

 

「はい!」

 

そして手早くテントを設営すると、中に入る。

中はダブルベッド程の広さがあり、足元にはインナーマットが敷いてある為地面の固さは感じない。天井と側面にはメッシュ製の窓があり、風通しも良さそうだ。外側はフライシートで覆われて二重構造(ダブルウォール)となっているので、プライバシーの保護もばっちりだ。

 

「さて、兄さん。寝ましょうか?」

 

「ああ……」

 

そして俺は掛け布団を被り寝ようとしたーーーが。

 

「……優月さん?近いんですが」

 

「仕方ないじゃないですか。それに一週間もこうして寝れるのは私も嬉しいですし〜♪」

 

まあ、テントの中なので近いのは仕方ないといえばそうなのだが……。

 

「くっついてるし……」

 

背後から堂々と抱き付いて寝ようとしている優月。なので俺はーーー

 

「よっ……と、寝るなら腕枕でもするか?」

 

「えっ……お、お願いします♪」

 

体勢を変え、優月と向き合う形になった。

優月は俺の提案通り、腕を枕にして寝始めた。

数分後、隣から規則正しい寝息が聞こえてきて、俺自身の意識も段々と(もや)がかかってきてそのまま俺の意識は暗闇の中へ落ちて行った。

 




微妙に長い、臨海学校一日目でした!
小説の内容とはあまり関係無いですけど、安心院さんって可愛いですよね……ね?
……小説に登場させるかなぁ……まあ出すとしたら色々考えますけど……。なんか色々展開が思い浮かびますし。もちろん出すならばしっかりと勉強してきます!
まあ、それはそれとして……誤字脱字・感想・意見等よろしくお願いします!

それとお気に入り登録してくれている方、そして読んでくれている方に感謝です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。