アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹   作:ザトラツェニェ

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水銀「《生存闘争(サバイヴ)》後半だ。今回と次でおそらく原作二巻分が幕を閉じるだろう。所で最近作者が「この小説読んでる人いる!?感想無いのか……つまんないのかな……」と割と本気で落ち込んでいた……別に知らないと言ったり、「勝手に落ち込めバカヤロー」と思うのは構わんが、出来れば何か一言言ってもらいたいとさすがの私も思うよ。さて、前置きはこれくらいにしてーーー本編を始めようか。今回の歌劇をお楽しみあれーーー」




第十六話

no side

 

遠くからヘリのローター音が近付いてくる。

リーリスの所有するそれとは違い、タンデムローター式の大型機。

あらもーど屋上にて、月見璃兎(つきみりと)は東京湾上空に見えるヘリから特設モニターへ視線を移し、呟く。

 

「そろそろクライマックスって所だな」

 

生存闘争(サバイヴ)》開始より四十分ーー

館内の一年生は透流、ユリエ、トラ、みやび、橘、影月、優月以外はリーリスの手によって倒されていた。

 

「最初はあの金髪お嬢様がやられそうになったし、さっきは銀髪がやられそうになってたな……」

 

「もしやられたら、見どころはほぼ無いままに終わりですわね」

 

静かにモニターを眺めていた朔夜(さくや)はくすりと妖しく微笑み、サラの淹れたミルクティーで唇を湿らせる。

「にしても優月のあの……雷速だっけか?文字通り速すぎるぜ」

 

「ええ、それに影月の《焔牙(ブレイズ)》もかなり変則的ですわね。あの二人は私の望む高みには至りませんが、別の意味では至るかもしれませんわね」

 

「やっぱり真に至るのは銀髪と《異能(イレギュラー)》ってか?」

 

月見の言葉に、朔夜はただ妖しく微笑むだけだった。

 

「あー、ところで話は変わるけどよ」

 

「何ですの?」

 

()()はアンタの招待客かい、理事長?」

 

璃兎が天を指し、問う。大空へ浮かぶは大型輸送ヘリ。先ほど湾岸上空に見えたものだ。

 

「少なくとも、私にはお招きした(おぼ)えはありませんわ」

 

「……私もです」

 

これまで後ろにて無言で控えていたサングラスの男ーー三國が口を開く。

 

「ふぅ、残念ですわね……せっかくのクライマックスを見ている暇が無さそうですわ」

 

朔夜は嘆息すると、ミルクティーを飲み干し立ち上がった。

 

 

 

降下したヘリから二十人近い屈強な男が降りてくる。

どの男も口元しか見えないヘルメットを被り、戦闘服(ボディスーツ)の上から胸部や腕を装甲で覆い、手には突撃銃(アサルトライフル)を持つという物々しい姿をしていた。

 

「見た事の無い部隊ですね」

 

無駄無く動き、左右に分かれて道を作る男たちを見て三國が言う。

様々な情報関連を扱う事を主としている彼は、世界中の特殊部隊、組織の事が頭に入っているーーが、その三國をして目の前の男たちは正体不明(アンノウン)であった。

しかしながら三國は勿論の事、朔夜たちにも動揺の気配は無い。

 

 

やがて男たちの中央を悠々と歩いてくる二人の人物があった。

一人は左右に並ぶ男たちと同様、戦闘服に身を包んでいるが、他の者とは違いヘルメットを被らず素顔を(さら)している。

年齢は透流と同じくらいで、射るような双眸(そうぼう)を持つ白人の少年だった。

もう一人の男は白衣を着込んだ痩躯(そうく)の老人だ。

白い髪は元は何色であったのか定かではないが、青みがかった瞳と高い鼻からこちらも西洋人と(うかが)い知れる。

男たちが足を止めると、朔夜は一歩前に出てスカートを摘まみ、一礼をする。

 

「はじめまして、お客人。本日はどのようなご用向きでこちらへ?」

 

「なぁに、少々散歩をな」

 

朔夜の問い掛けに返したのは老人の方だった。

 

「くすくす、ご冗談を。散歩とはご自分の足で行うものですわよ」

 

「ふはは、これは手厳しいが一本取られたわい。では……遊覧ついでに若い者と世間話をしに来た、というのはどうじゃね?」

 

「ええ、それでしたら喜んで」

 

銃を手にした男たちを前にしているというのに、朔夜にはまるで物怖(ものお)じする様子は見られない。

 

「しかしまあ、降下する時には撃ち落とされやしないかと冷や冷やしていたものじゃよ」

 

「いやですわ、ここは日本ですのよ?そのような物騒な事は私たちは出来ませんわ。」

 

「ははは、それもそうじゃったな。どうりでそちらの彼も身軽そうなお姿じゃの」

 

「必要がありませんので……」

 

視線を向けられた三國が答えた。軽装なのは当然で、彼ら《超えし者(イクシード)》は、銃などの武器を携帯する必要は無い。

 

「なるほどなるほど、さすがは噂に名高い《超えし者(イクシード)》と言ったわけじゃな」

 

常人なら知り得ない単語を口にし、短く拍手をする老人。

だが、朔夜たちに驚く様子は無い。当然だ、銃を手にした部隊を引き連れた相手が、常人であるはずが無いのだから。

 

「おや、少しばかりは反応を見せてくれると思ったのじゃが……」

 

「ご期待に応えられず申し訳ありませんわ……ところで、そろそろお名前をお伺いしてもよろしいですの?それともこちらから名乗った方が?」

 

「ふははっ。それには及びませんぞ、九十九朔夜殿。いやーーー《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》とお呼びするべきかの」

 

「…………」

 

ここで初めて朔夜の表情が動く。

 

「さすがにこちらは反応がありましたのう。いやぁ、よかったよかった」

 

僅かにではあるが確かに見せた驚きへ、まるで悪戯(いたずら)が成功したかのように老人はひどくなった楽しそうに笑った。

 

「申し遅れてすまなかったの。(わし)の名は《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》ーーーエドワード=ウォーカー。噂に聞く魔女殿に一目会いたくてこうして推参したわけじゃ」

 

「ーー《七曜(レイン)》の一人とは存じず御無礼を。お会い出来て大変光栄ですわ、《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様」

 

にこやかな表情を浮かべ、朔夜は改めて頭を下げる。

老人の二つ名を知った事で、目前の男たちの所属する組織まで到達する。

敵ーーーではない。()()()()()()()()()()

 

しかし、警戒するべき組織であるのは確かで、本来ならばここから当たり障りの無い会話に交えた腹の探り合いが始まるのが世の常なのだがーー

 

「あのさ、じいさん。まどろっこしい会話とか抜きで本題に入ろーぜ。どーでもいい話がだらだら続くと眠くなるっつーの」

 

言葉通り、璃兎が退屈そうに大あくびをする。

あまりにも空気を読めていない発言と行為に、《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》と名乗る老人は目を見開きーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くもってその通りだぜ。おい、いつまで黙って聞いてりゃあいいんだ、マレウス?俺は陽の光を浴びすぎて干からびそうなんだが?」

 

「あーあ、もうちょっとで本題に入れたのに……ベイはもうちょっと空気を読んでよね」

 

『!?』

 

先ほどの璃兎の発言に対し、大笑いしようとした《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》も、朔夜たちも、そして戦闘服(ボディスーツ)を来た男たちも例外無く驚き、声のする方へ振り向いた。

そこにはーーー

 

「ああ?空気なんて読めるかよ。お前は俺と付き合い長ぇからそこんとこよく知ってんだろ?正直、目の前にいるのはほとんど劣等だぜ?そこまで読んでやる義理はねぇよ」

 

「待てなくても、さっきのは空気を読む所よ?ハイドリヒ卿ももしかしたら何を話すのか気になっていて聞いていたかもしれないじゃない」

 

白髪白面でサングラスを掛けた、軍服を纏う男と、朔夜と同じくらいの年齢の少女が驚いている一団へ向かって歩いてきていた。

 

「……貴方たちは」

 

「……その軍服に腕章、貴様らはまさか!」

 

その二人を見た朔夜はやはり来たかと思い、三國や月見はより一層警戒を強める。

装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》はその姿を見てある組織の証である事に驚き、他の者は何者か分かっていないでいた。

 

「何者ですか!?」

 

何者か分かっていない者の一人ーー白人の少年《K》が問いかける。

 

「人に名前聞く時は自分から名乗れやガキ、戦の作法も知らねぇのか?」

 

「……私の名前は《K》。以後、お見知りおきを」

 

「《K》くん?本名は教えてくれないのね〜」

 

軍服を着た少女は笑顔を浮かべながらそう言ったが、《K》の顔は険しいまま少しも反応しなかった。

 

「コードネームだろうが何だろうが、強くなけりゃ覚える気も無いがなーーーじゃあこっちも名乗らせてもらうぜ。聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ・カズィクル・ベイだ」

 

「同じく第八位、ルサルカ・シュヴェーゲリン・マレウス・マレフィカルムよ。よろしくね♪」

 

「……彼らが、ですか」

 

「ああ、まさしくあいつら(影月と優月)が言ったとおり、来たな」

 

三國は目を細め、月見は薄い笑みを浮かべながら言う。

 

「ーーー《K》くん。すぐに《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》殿と、ブリストルの娘を確保し、撤収するのじゃ。こやつらが儂の思うあの軍団だとしたら、すぐにでも撤退したいのじゃが、今日のような機会は次はいつ来るか分からんからのう」

 

「…………分かりました。お前は二人ほど連れて館内へ。ブリストルの娘を確保するように。抵抗するなら死なない程度に痛めつけて構いませんよーーさあ、行きなさい!!」

 

《K》の号令で三人の男が館内へと走っていく。

 

「ヴィルヘルムさんとルサルカさんと言ったかしら?追わなくて良いんですの?」

 

ここで朔夜は館内へ入っていく男たちに何の反応も示さず、ただ黙っているヴィルヘルムたちにそう問いかけた。

 

「中には、俺が前殺りあった影月と優月がいんだろ?なら()()()()の奴らなんて敵にもならねぇ。それと下にいる他のガキ共の中にも良いのがいるかもしれねぇから、潰さず見逃してやったんだ。まあ、()()してる奴ばかりだがな」

 

気絶してると言った事で、彼らは館内に入らずとも、館内の中にいる生徒たちの位置や気絶してるかどうかまで分かっている事が今の発言で判断できた。それに気付いた者はどのような反応をするのかーーーやはり只者(ただもの)ではないと改めて認識するだろう。

 

「ふふっ、ベイったら結構買ってるのね?二人の事」

 

「まあな……メルクリウスが手を加えてる、てのも理由としちゃああるが、前のは久々に魂が震える戦いだったしな……」

 

「くすくす、ありがとうございますわ。貴方に言われるとは言え、少しは嬉しく思いますわね」

 

「少しは、じゃねぇぜ?俺が言うのはどうかと思うが、初見でこんなに高く俺は評価しねぇ。だから喜べや」

 

世界的な敵とは言え、教え子を褒められ少しだけ嬉しそうにする朔夜だった。

それに対し、ヴィルヘルムはぶっきらぼうにそう言って、視線を他の男たちへと移した。

 

「にしても、その戦闘服(ボディスーツ)はあれか?強化外装って奴か?」

 

「……そうじゃ、まだ試作段階じゃがのう」

 

「まあ、試作だろうが正式だろうがあまり関係ねぇが……マレウス、何人か捕まえるか?」

 

「最低二、三人くらいほしいわ。もちろんそれ以上でもいいわよ〜」

 

「少しは傷付くだろうがーー分かったぜ!!」

 

ルサルカの返事を聞き、ヴィルヘルムが頷き、構えたと思った瞬間、ヴィルヘルムが姿を消しーーー

 

「ぐわっっ!!」

 

ヴィルヘルムの近くの戦闘服(ボディスーツ)を来た男が悲鳴を上げながら吹っ飛び、地面に落ちた後動かなくなった。ヴィルヘルムが目にも止まらない速さで男を殴ったのだ。

手加減してるのか、殴られた男は気絶しているようだ。

 

「行くぜ、オラァ!!」

 

「なっ……撃ちなさい!」

 

「理事長、こっちだ!」

 

呆気に取られた《K》だったが、すぐに攻撃命令を出し、月見は安全な場所まで朔夜とサラを掴み連れていく。

そして、命令を受けた男たちはヴィルヘルムを狙い突撃銃(アサルトライフル)の引き金を一斉に引いた。

男たちはしっかりとした訓練をやはり受けているようで、銃弾はほぼヴィルヘルムの全身へ叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

がーーー

 

「そんな豆鉄砲効くかよ!」

 

『ーーーなっ!?』

 

そこには全身に銃弾を浴びても無傷で立っているヴィルヘルムがいた。

 

「ほらよ!」

 

「うぐっ!?」

「うわっ!?」

 

皆が驚いて固まってる隙にヴィルヘルムはまた別な男を掴み、別の男へ投げて二人を気絶させた。

 

「こんなもんか?さて、後は殺ってやる……」

 

瞬間、ヴィルヘルムから凄まじい殺気と血の匂いを彷彿とさせる死臭が発せられた。

周りにいた男たちや《K》は、今まで感じた事の無い殺気で冷や汗が止まらず、死臭の匂いよって顔をしかめた。

 

「くはっ、凄まじい殺気だなおい!」

 

少し離れた場所に朔夜とサラを連れ、退避した月見もこうして普通通りに話したが、屋上駐車場に広がる殺気と死臭のせいか、多少の冷や汗をかいていた。それでも多少は離れているためまだ大丈夫だった。

しかし、朔夜と《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》とサラは戦いと言うものをしないいわば一般人。三人とも冷や汗をかき、表面上は冷静を装っているが膝は震え、死臭の匂いもあって、気を抜けばすぐに気絶しそうになっていた。

そこへーーー

 

「待ってください」

 

三國が口を開いた。彼も若干の冷や汗をかいていたが、平然とこの空気を作り出しているヴィルヘルムへと話しかけたのだ。それだけで彼の精神力がかなり強いと分かる。

 

「あん?んだよ?」

 

「この下に生徒たちがいるので、あまり大変な事をされると後始末が面倒です」

 

「んな事俺らには知った事じゃねぇな。困るって言うならテメェが退けるなりお帰りいただくなり何とかしてみろや」

 

ヴィルヘルムは狂気的な笑みを浮かべながら三國に、そう言った。

なぜ笑みを浮かべたのかーーそれはヴィルヘルム自身の感が目の前の男もまた違った強さがあると確信したのだ。彼は戦闘における感や強さを見極める事に至ってはかなり高い。故にヴィルヘルムは言外に俺が始末するのが嫌ならお前一人で圧倒してみろ、と言って実力を見るのも悪くないと思っているのだ。

 

「なら、この方々は私が相手します」

 

「……くくっ、じゃあやってみろよ」

 

そう言うとヴィルヘルムは先ほど発していた空気を収め、先ほど気絶させた二人の男を担ぎ上げてルサルカの元へと戻っていった。

殺気と死臭が無くなり、他の者たちは心の中で安堵の息を吐いた。

下がっていくヴィルヘルムを見送った三國は一つため息をついてから、《焔牙(ブレイズ)》を具現化させた。

その手に現れた武器を見た《K》は嘲笑する。

 

「まさかとは思いますけど、その貧相な《突錐剣(スティレット)》一本で我々の相手をしようとでも?」

 

「貧相、ですか……むしろ私から言わせて貰えば、そこ程度の戦力で覚醒した《超えし者(イクシード)》を相手に出来るなどと思われた事が大変不本意です。それからもう一つーーー」

 

「ーーっ!!それは……!?」

 

直後、()()()()()()()()()()()()()()()()》を目にし、《K》は息を呑んだ。

 

「ほう……」

 

そして離れて見ていた、ヴィルヘルムも感心したように、声を上げて再び狂気的な笑みを浮かべた。

そして、両手を広げるようにし、三國が答える。

 

「私の刃は十三本です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方あらもーど内ではリーリスと共闘している透流たちが空の広場で激戦を繰り広げていた。

現在、透流たちの戦力は透流、ユリエ、みやび、トラの四人だけだった。

優月とリーリスの戦いの後、リーリスはどこかに隠れていたようだがその後リリース本人の奇襲によりタツが倒されてしまい、橘も腹部を撃ち抜かれ、魂の精神ダメージのせいで動けなくなってしまった。

そして残った四人のうち、ユリエは脱臼してしまい、剣を振るえるのは右のみだった。

だが、そのような怪我を物ともせずに彼らはリーリスを追い込んだ。

 

そしてついに、ユリエの攻撃によってリーリスの手から《(ライフル)》が落ち、勝負は決まったかのように思えた。

 

「リーリス、《銃》を握れないんじゃ、これ以上はもう無理だろ」

 

透流がリーリスに言う。確かにユリエの斬撃によってリーリスは腕を上げる事すら難しく、このまま闘ったとしても勝ち目は無いだろう。

 

「…………」

 

「リーリス、もうーー」

 

「二度も言わないで」

 

「え……?」

 

「……まだよ」

 

リーリスの瞳には強い意志の光が浮かんでいた。

 

「あたしはまだ諦めない!!」

 

「ーーっ!!」

 

リーリスは《銃》を蹴り上げた。斬撃によって右腕はほぼ動かない、それでも《銃》を掴む。

透流は咄嗟に自らの技ーー雷神の一撃(ミヨルニール)の衝撃波で薔薇を散らせようと拳に力を入れた。リーリスの掴む《銃》の引き金を引く指先に力が入り、透流は拳に宿った力を解き放とうとした刹那ーーー

 

パァンッ!!

 

リーリスの《銃》とは違う乾いた音が響き渡り、透流の肩を貫き透流は膝をついた。

 

「がっ、あっ……!?うう、ぐ、ぁあ……な、何が……?」

 

透流が痛みを堪えつつ後ろを振り返ると、戦闘服(ボディスーツ)に身を包んだ三人の男が立っていた。

中央の男の手には拳銃が握られていて、その先端からは硝煙が上がっている。

 

「危ない所だったなぁ、リーリス=ブリストル」

 

その男が、野太い声でリーリスの名を口にする。

 

「リーリス……誰なんだ、こいつらは……?」

 

「知らないわ。誰よあんたたち、一体何のつもり!?」

 

睨み付けながら、リーリスは男たちに正体を明かせと詰問する。

 

「《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》殿の手の者ーーこう答えれば分かるだろう?上官殿(サー)の命でアンタを迎えに来たって事さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いよいよ終局だな」

 

「……そうですね」

 

影月と優月は入り口の真下の一階で手を繋いで目を閉じてそう言った。

何をしているのかと言うと、影月の《焔牙(ブレイズ)》を通して、空の広場での様子を見ているのである。

優月が手を繋いでいるのは、そうすれば他の人にもその映像を見る事が出来るからである。

透流たちと男たちは初めは言い合いをして次に戦闘へ、そしてついにリーリスが襲撃者に仕方なくついていくという所まで見た後、影月と優月が揃って目を開いた。

 

「さて、最後の始末を付けに行くか!上にもお客さんがいるみたいだしな」

 

「ええ、まずは上に来る男たちを待ち伏せしましょうか!」

 

そう言って、二人は走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらもーど北館の最も東に位置する渚の広場、その二階。

エスカレーターの前で影月と優月が男たちの到着を待っていると、透流が細い通路の方から走ってきた。

 

「お疲れ様です、透流さん」

 

「お疲れ、透流」

 

「影月と優月!?なぜここに!?」

 

そうしているうちに、リーリスと男たちがエスカレーターを上がってきた。

 

「九重透流……そして貴方たちは!!」

 

リーリスが、男たちが影月たちの姿を見て、驚く。

 

「……さっきのガキ、どうやって先回りした」

 

「幾つか裏通りがあってね。お前らがのんびり歩いているうちに先回りしたってわけさ」

 

「……テメェらは?」

 

「俺たちはさっきまで隠れて様子見していたのさ。ずっと見てたぜ?そしてーーー屋上の事もな」

 

影月が薄く笑った。それを見た男たちは何か見透かされているような気がして多少背筋が冷たく感じたが気のせいだと思い込んだ。

 

「……何しに来やがった?」

 

「決まってる。リーリスを助けに来たんだ」

 

「右に同じくだ」

 

「私もです」

 

影月たちの返答に男たちは下卑た笑いを上げ、リーリスが怒鳴る。

 

「バカな事言ってないで退きなさい!貴方たちで勝てるとでも思ってるの!?」

 

「勝つ……!俺はーー俺たちは勝ってみせる!!」

 

「思うね!俺が皆に勝利をもたらしてやる!」

 

「私は貴方にも笑顔でいてほしいーーだからそこの三人を倒して、勝って、笑顔を見せてください!」

 

「……バカ!!」

 

影月たちが言うと、リーリスは若干頬を赤く染めながらそう言った。

 

「透流!時間は稼ぐ!!」

 

「頼む!!」

 

「行きますよ!!」

 

影月と優月は青い《焔》に包まれてその《焔》が弾けると同時に、優月は《刀》を携えて男たちに向かって走りだし、影月は自らの《焔牙(ブレイズ)》の《槍》を振りかぶり、透流は拳を固め、弓のように引き絞った。

 

「生意気言うんじゃねぇぞ、ガキどもぉ!!」

 

男たちは突撃銃(アサルトライフル)の標準を合わせ、引き金を引こうとしたが、影月の《槍》が様々な方向から襲いかかってきて男たちは驚きながら咄嗟に回避した。

様々な所に置いた《槍》を呼び寄せ、様々な方向からの攻撃にしたのだ。その数は百以上ーーーとても避けながら撃てるようなものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

優月は男たちに向かいながら、この間会った、螢の言葉を思い出していた。

 

あらもーどから逃げる最中に少しだけ話しかけられたのだ。

 

 

『貴方は、皆の笑顔を守り照らしたいのよね?』

 

『はい。私は絶対に皆の笑顔を守っていきたいんですーー何があっても』

 

『そう……なら、その渇望を抱き続けて。燃やし続けて』

 

『……はい!』

 

『そうしたら、私も力をーー貸してあげる』

 

 

そう言って、彼女は笑ったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、私は何があってもこの願いを叶えて見せる!燃やし続けて見せる!

 

 

「Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba

かれその神避りたまひし伊耶那美は」

 

「an der Grenze zu den Landern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.

出雲の国と伯伎の国、その堺なる比婆の山に葬めまつりき」

 

優月の口から紡がれるのは、リーリスと闘った時とは違う詠唱ーーーそれと同時に彼女の体に赤い炎が上がり始めた。

 

「Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,

ここに伊耶那岐」

 

「das er mit sich fuhrte und die Lange von zehn nebeneinander gelegten

御佩せる十拳剣を抜きて」

 

「Fausten besas, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.

その子迦具土の頚を斬りたまひき」

 

いつまでも情熱を絶やす事無く燃やし続けた女性の渇望を感じ取り、共感した故に使える能力ーーー

 

「Briah―

創造」

 

「Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.

爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」

 

 

先ほどとは違い、今度は炎を纏いし少女が現れる。

 

「くっ!?何だあれは!?撃て!」

 

《槍》を全て交わし終えた男たちに待っていたのは炎を纏った少女の攻撃だった。

その姿に一瞬動揺した男たちだったが、すぐに突撃銃(アサルトライフル)の引き金を引いたがーーー全ての銃弾は炎と化した少女の体を通り抜けて当たらなかった。

 

「クソガキがぁああ!!」

 

男はそう叫ぶものの、優月は構わず炎を纏った剣を振るった。

瞬間、三人の男の全身に灼熱の炎が襲いかかった。

 

「……どれほどの火傷になるかは分かりませんが……運が良ければ生きられるでしょうね。それならまた仕返しにでも来てくださいね?何度でも、私たちは追い返しますからーーー透流さん!!」

 

「ああ!!」

 

そして透流が全力の雷神の一撃(ミヨルニール)を床へと叩き込んだ。

ここは()()ーーー一瞬で広がるひび割れが、男たちの足元まで達し、足場が崩壊した。

 

「リーリス!!来い!!」

 

「九重透流!!」

 

崩落して足場が失われていく中手を伸ばし、黄金の少女が透流の腕の中へ飛び込んでくる。

 

「後は任せたぞ、ユリエ、トラーーーっ!!」

 

「ヤー!!」

「任せろ!!」

 

一階で待機していた二人の頼もしい仲間の声が聞こえ、リーダー格の男の横にいた二人を切り裂きーーー最後にリーダー格の男を、二人の剣閃が交差した。

直後、凄まじい轟音(ごうおん)が館内に響き渡り、粉塵(ふんじん)が舞い上がった。

 

「透流!来るぞ!」

 

「このクソガキどもがぁああああっっ!!」

 

装甲を切り裂かれ、床に叩きつけられ、瓦礫(がれき)に押しつぶされて尚、リーダー格の男が立ち上がる。

 

「ぶち殺してやるぁああああっっ!!」

 

砕けたヘルメットの奥で血走った眼を向け、男はナイフを手に飛びかかった。

彼らは全身を炎で焼かれて少なからず、火傷していてかなり痛みなどで動けるとは思わなかったがそんな事を感じさせなかった。

だがーーー

 

「リーリス!!あんたの《(ちから)》を俺に貸してくれ!!」

 

その言葉に《焔》が舞い散り、リーリスの左手へ《銃》が現れた。

 

「狙いはあたしがつけるわ!!だから引き金はーーーあんたが引きなさい!!」

 

透流は頷き、リーリスの細くしなやかな指に手を重ねーー

 

「これで……終わりだぁーーーーっ!!」

 

「じゃあな……さらば、眠れ(アウフ・ヴィーターゼン)ってな」

 

影月の呟きと共に一発の銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……トールは無茶をし過ぎです」

 

透流の砕けた拳へ応急処置を施す最中、ユリエは若干怒ったような表情を浮かべた。

 

「いや、あの時はあれしか思いつかなかったし……」

 

「……だからって自分の拳を壊すなんて、バカじゃないのあんた」

 

壁に背をもたれかけたまま、リーリスから飛んでくる呆れた声にトラが無言で頷き、影月と優月は苦笑いをした。

 

「でもまあ……助けに来てくれてありがとう」

 

最後は小さくなったが、しっかりと周りの人には聞こえたようだ。

 

「どういたしまして」

 

「気にしないでください。それと……兄さん、上の様子は?」

 

透流と優月がリーリスのお礼に返事をし、優月は影月に問いかけた。

 

「大丈夫だ。三國先生が無双してるよ。あいつらも見てるだけだしな」

 

「……そうですか、なら大丈夫ですね」

 

影月の返事を聞き、優月は少し考えたが、すぐに安心した笑顔を浮かべた。

 

「上の様子?やっぱり何かあったのか!?」

 

「ああ、現在進行形でな」

 

影月はそう言い、苦笑いを浮かべた。

 

「さて、みやびと橘、そしてクラスの皆がそろそろ起きる頃だろうから迎えに行くぞ。余裕はあるみたいだしな。それとーーー」

 

そう言って影月は振り返りーーー

 

「リーリスとの決着を付けないとな」

 

そう言って、ポケットから一枚のコインを取り出した。

 

「透流、決着を付けろよ」

 

「ああ……分かった」

 

「リーリスさんもいいですね?」

 

「もちろんよ」

 

その言葉を聞いた影月はコインを指で弾き、高く上がった後に落下を始めーーコインが床に落ちた音を合図にし、リーリスと透流が同時に動く。

 

 

刹那の後、薔薇が散りーーー

 

生存闘争(サバイヴ)》は幕を下ろしたのだった。

 




水銀「誤字脱字・感想等があるならば書きたまえ……次は作者も戻ってくるだろう。では、私はこれで……」

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