アブソリュート・デュオ 覇道神に目を付けられた兄妹 作:ザトラツェニェ
ではどうぞ!
side 影月
『……分かりました。すぐ対処します』
「お願いします。俺たちは少し用があるのでもう少ししたらそちらへ帰ります。では―――」
あらもーどで透流たちがトラブっていたのをなんとか解決した後、俺は携帯で三國先生へ電話を掛けていた。内容はあらもーどで起こった出来事の後処理。
それについて仔細を話すと、三國先生はすぐに対処してくれると言った。
「はぁ……」
通話を終え、携帯をしまった俺は溜息を吐きつつ、目の前に居る人たちを見渡した。
ちなみにここはあらもーどから徒歩三分、駅からは二分の場所にあるカフェで席に座っているのは俺と優月の他に透流とユリエ、橘にみやび、それとベアトリスさんに戒さんに螢さんだ。
とりあえず一旦気持ちを落ち着ける為に頼んだコーヒーで口の中を潤していると、透流が口を開いた。
「あの人たちは大丈夫なのか?影月」
「ああ、気絶させただけだからな」
俺はあの後一応男たちの脈を確認、外傷も無かったので即座にあの場から離脱した。まあ、その後あの場所で多少騒ぎは起こっただろうが、あの時の事を詳細に理解出来た人は誰も居ないだろう。
そして先ほど学園に後処理を頼んだのであらもーどでの心配事は大体片付いた。……まあこちらの心配事は片付いてないが。
「ところで影月、改めて聞きますがそちらの人たちは?」
「ああ……こちらは……」
ユリエに質問され考える。別に彼らに聖槍十三騎士団という組織について透流たちはまだ知らないだろうが、ヴィルヘルムの一件もあった事だからいずれ知ることになるだろうし……かと言って今ストレートに言うのも色々とマズイ。とりあえず今は誤魔化す事にしよう。
「この方たちはあらもーど内のカフェで偶然相席になった方たちです。武術も心得ていたので先ほどの無力化の時も協力してもらったんです」
優月も少し誤魔化すようにそう言った。嘘は言っていない……筈だ。
「そういう事。そういえば自己紹介がまだだったね」
戒さんもどうやら誤魔化しに乗ってくれるみたいだ。
戒さん優しいな……そう思いながら視線を螢さんに向けるとこちらをチラッと見て頷き、ベアトリスさんも微笑みながら頷いてくれた。二人も乗ってくれるらしい。なんともありがたい事だ。
その後は互いの自己紹介をした後―――
「それで、そちらの方たちはどんな武術を習っているんでしょうか?」
橘がベアトリスさんたちにそんな事を聞いてきた。確かにあらもーどでのベアトリスさんたちの動きは普通の武術の動きでは無かったので気になるのは当たり前だろう。
「一応剣と体術を少しね。大して強くないし、教える程のものでもないよ」
「む……そうですか」
「ところで貴方たちは、なんか離れた所に居た金色の髪の少女を見て驚いていたけど……何を驚いたの?」
今度はベアトリスさんが俺たちにそんな質問をしてきた。この質問に対して、俺たちはどう返せばいいのか顔を見合わせる。
これについてはリーリスの《
ベアトリスさんたちは優月が夢で話したり、先ほどの情報交換を行った際にある程度教えたので《
幸いにも透流たちの様子を見るに、どうやら彼らは誤魔化すつもりのようだ。なので―――
「……見とれていただけです」
一言、俺は無難にそう言った。
「……そう」
ベアトリスさんは少し瞠目した後少し悲しげな顔をした。
(ごめんなさい……影月くん、優月ちゃん)
念話でベアトリスさんに謝られた。答えづらい質問だった事を察してくれたようだ。
その後はたわいもない話(ベアトリスさんの出身地は?とか、戒さんたちはベアトリスさんとどういう関係なのかとか)をみんなの飲み物がなくなるまでした。
「それじゃあ、また今度会ったらゆっくり話しましょう?」
そういい、駅前でベアトリスさんと別れ俺たちは学園へと戻った。
夜になり、あらもーどの一件がニュースで小さく取り上げられた。
ただし、少年四人が
原因不明の失神というわけでもなく、また、倒れる直前まで誰かと言い争いをしていたといった事に触れられる事も一切無かった。
「ふむ……情報操作か」
「この学園の影響力はかなり大きいみたいですね。はい兄さん、緑茶入れましたよ」
「ああ、ありがとう」
今は部屋でテレビを見ながらくつろいでいる。
「はぁ……今日は色々あって疲れたな……」
「そうですね。買い物は楽しかったですけど♪」
「……だが、聖槍十三騎士団か……」
「……どう思います?敵対すると思いますか?それとも……」
今日の買い物は楽しかったが、ベアトリスさんたち聖槍十三騎士団についてはよく分からなかったり、実感が湧かない事ばかりだった。
「敵対するかは分からない。別の目的っていうものが分からない限り、なんとも言えないんだよなぁ……」
結局、その別の目的も教えてもらえなかったので判断のしようがない。
「それにヴィルヘルムはこの学園に来て攻撃してきた。聖槍十三騎士団も一枚岩では無いかもしれないから油断は出来ない。もしかしたら別の理由で襲ってきた可能性もあるけどな」
「別の理由?」
「考えつかないけどな……」
結局別の理由は思い浮かばず、時間も時間なので寝る事にした。
side out…
「ふむ……」
場所は変わり、ヴェヴェルスブルグ城では今日一日ずっと兄妹の行動を見ていたラインハルト・ハイドリヒは手を顎あごに当てて思案していた。
「…………」
「いかがしたかな。獣殿」
そこへ、カール・クラフトがラインハルトが座っている玉座の右隣にいつの間にか出現していた。
「……カールよ。私は今まで卿の行動を予測する事は出来なかった。しかし大体の展開というものは卿の永劫回帰にて様々に体験してきたし、私はその未知なる行動というものを楽しんできた。だが今回は今までより読めん。本来ならその未知を楽しむべきなのだろうが……」
「ならば楽しめばよろしいではないか。貴方らしくない」
「卿の方がらしくないぞ。今回の歌劇、確かに面白く未知だ。だが明らかに今までの卿のやり方と違う。趣向を変えた、と言えば聞こえはいいが、私から言わせてもらえば何と言うか……とても不気味に感じるのだ。……本当になぜあの兄妹を気にかけるのだ?流石に気になるぞ」
カール・クラフトをよく知るラインハルトですらこの展開を読めず、さらに不気味でもあると言わせた。
それほど、今回の歌劇は異様なのだ。
その質問にカールは薄っすらとした笑みを浮かべた。
「私の目的か……女神の為だよ」
「それは知っている。卿が女神の為以外で動く事などほぼ無いだろう。だが今回女神の為だけとは思えんのだ」
「……そうだな。貴方にはもうそろそろ教えてもいいだろうか」
この言葉にラインハルトは少なからず驚いた。この男は真実や歌劇の事、演出などもほとんど言わない。ましてや目的などは絶対に言わないだろう。
ラインハルト自身も知りたいとは言ったものの、簡単に教えてくれるとは思っていなかった。
しかし―――
「座を拡張するのだよ」
「何?どういう意味だ、カールよ?」
さらっと理由を言い、さらに座を拡張などと訳が分からない事を言われた。
まず、座とは何なのか―――
宇宙の中心、核、その理を流している神が坐ざする所である。その座に行けるのは覇道の願いを持つ者のみーーつまり外側せかいに向けて放つ願いを持っているものだけ座に行けるのである。ちなみに内側じぶんに向けて放つ願いを持つ者ーー求道は座には行けない。現在座にいるのは第五天黄昏の女神である。そして、座に着いたものは自らの覇道を世界に流せる。黄昏の女神が流している理は輪廻転生。彼女より前の理は四つーーー正確には六つあり、内三つは健在しているので別の覇道は流出可能である。
「まず座についてですが、女神の治世になってから座に負担がかかっているのはご存知かな?」
「何?」
「ならばそこから説明しましょうか。この世界を収めている我らが女神は「全てを抱きしめる」という渇望故に我ら覇道神が存在出来ている事は獣殿も知っているだろう?」
「無論だ。本来座に覇道が二つ以上同時に流れ出した場合、全てを塗りつぶすという性質上必ず勝った方が座につき、自らの覇道を世界に流し、負けた覇道を持つ者は消滅する。故に共存は不可能なのだが……女神はそれを成した」
「それで今、座にある覇道は女神と刹那と獣殿と私……いくら、「全てを抱きしめる」といっても座にも容量というものがある。正直もう限界を超えていると言っても過言ではないのだよ」
「ふむ……卿の説明は分かった。して、それが卿の目的と何の関係があるのだ?」
今の座は歴代から見てとても異様で平和である理と言えるだろう。本来塗り替えようとする覇道神も恐らく彼女の理と彼女自身を見れば共存を望むだろう。だが、それはさらに座に負担をかける。そうしていけば、座が破壊するかもしれない。もし破壊したらーーー何が起こるか誰にも分からないだろう。世界に何かしらの影響が出るか、それとも何も出ないか。座の争いが無くなるか、激化するか。最悪全てが消滅する可能性もある。
どちらにしろわからないのだ。
「どちらにしろ、先の事を想定していないと支障が出るのは明白だ。私の選択肢は三つだ。その内の二つは守護者の排除とさらに別な覇道神ーーこのような状況を何とか出来る覇道神を見つける事だ。前者は女神が自衛の手段を持っていないし、私個人の意見としては貴方や刹那などを
「あの兄妹の渇望では座の負担を解消出来ないと?では、三つ目は何なのだ?」
「簡単な事だ、あの二人と我らが衝突すればいい」
その言葉は想像してもいなかったとラインハルトはまたしても驚いた。しかも明らかに分かるほどに。
「……卿の言いたい事が分からん」
「簡単な事だと言っただろう。座に坐る神は段々と強くなり、その度に座も拡張する。私はその拡張を狙っているのだよ。強力な覇道神同士の戦いにより座を拡張するーーそれが私の目的だよ」
「……なるほど、つまりは全て卿の手のひらの上というわけか」
カールは覇道神に至り、自分たちとぶつかり合いが出来るようにその可能性とそれに足る魂の輝きを持つ兄妹に自らの力を少し与え、後は覇道を自覚しここに戦いに来るのを待つと言うことだ。
そして挑みに来た時に、座が拡張されれば目的達成という事らしい。
「座の拡張が確認されたら、兄妹はどうするのだ?もしや……」
そこでラインハルトがその黄金の双眸を細め、カールを見た。その目には殺すのか?全力を出せるのか?という意思が伝わってくる。
それを受け、カールは冷静に言う。
「どちらにしろ座の拡張をするには覇道を流す故、全力を出せるが……出来れば、守護者として引き込みたいのが私の本心だよ。もしそうするとしても、色々演技をせねばいけないがね」
その答えにラインハルトはまたも驚いた。いつも通りのようで、どこかが決定的に違う気がするこの目の前の親友にーーー
「……カールよ」
「何かね?」
「……頭でも強く打ったか?それとも、どこかの誰かに頭をいじられたか?」
「何を言っているのか分からないが、とても失礼だと私は思うのだが?まあ、私はこれで失礼する。ではな、獣殿」
そう言い、カールは瞬きする間に消えてしまった。そこに残されたのはラインハルトのみーー
「……やはりいつものカールらしくないな…………本当に目的は
その問いに答える者は無く、その声は虚空に消えていった。
「……はぁ……」
カール・クラフトーーーメルクリウスはどこまでも暗闇が続く空間で一人ため息をついた。ここは誰も干渉出来ない空間の為、メルクリウス以外には誰もいない。
「…………」
そこで彼は先ほどまで話していた親友を思い出していた。そしてその記憶に繋がって、刹那やその仲間たち、黒円卓の団員たちを思い出した。過去に自分の目的の為に、刹那と同じように作り出し刹那とぶつけ合わせ、最終的には三つ巴をするほどに戦いあった者たち。
ただの目的を達する為に作った者たちーーーしかし共に過ごす内にまだ知らぬ未知を感じ始めた者たちーーー
「ーーーん?これはーーー涙……?」
そんな事を考えていると、頬に伝う雫の感覚を感じた。見るとほぼ人前では見せる事がない涙を流していた。女神以外はどうでもいいと思っている男も色々と変わってきているようだ。それもそうだろう、永劫何回も繰り返していれば愛着や慣れ、安心が出てくる。それはこの男も同じ事らしくーーー
「……私は変わったのだろうか……」
親友にらしくないと言われ、変わったのだろうかと悩み、呟いた水銀の言葉を返すものは誰もいない。
後半分かりにくかったらすみません!私の文才の無さが……(涙)
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