やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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久々です。よろしくお願いします。


第8話

「おはよ〜、ゆきのん」

 

「……おはよう、由比ヶ浜さん」

 

朝から二人は部室で集まっていた。本来ならば教室に行かなければならないのだが、授業よりも大事なことが彼女たちにはあった。

 

「授業サボるのなんて初めてだよ〜。なんか、ワクワクするね!」

 

「……私も授業を体調不良や用事以外で休むのなんて初めてだわ。少し罪悪感があるけれど、それでも私たちには授業よりも優先するべきことがある」

 

「そうだね。でも、まずはどうしようか?」

 

「昨日のうちに大まかに計画は立てておいたわ」

 

「さすがゆきのん!!」

 

「……ただどうやっても私たちは姉さんに頼らざるを得ない。何せいくら調べてもフラスコ計画なんてものは出てこないし、何処でどのようなことが行われているのかもわからない。比企谷くんに聞くなんてことは不可能な上に私たちの知り合いにはフラスコ計画に関わっているものはおろか十三組にいる生徒だって一人もいない。だから姉さんだけが頼りなのだけれど……」

 

「……何か問題があるの?」

 

「…………あの後私の家に姉さんが来たの。色々なことを聞いたわ。スキルのこと、異常(アブノーマル)のこと。そうして聞いたものの中の一つが今、姉さんに頼ることをためらわせているの」

 

「それはどんなこと?」

 

「……スキルは一生使えるものじゃないということよ。おまけにスキルが使えなくなるのは速くて19歳、遅くても二十代前半まで。姉さんは今二十代の前半。いつスキルが使えなくなるのかも分からない上に、もし仮に姉さんと誰かが戦っている状態でスキルが使えなくなれば、姉さんはどうなるか分からない。本人は気にすることはないと言っているけれど……」

 

「ゆきのんはお姉さんが大事なんだね」

 

「………苦手だけれどそれでも家族だから」

 

「雪乃ちゃ〜ん!!お姉ちゃんのことがそんなに大事だなんて」

 

突然現れた陽乃に背後から抱きつかれ、為す術もなく雪乃は彼女に好きなようにされているその間に、由比ヶ浜はただただ二人の様子をまるで猫がじゃれあっているのを見守るような優しい目で見ていた。途中、何度か雪乃は由比ヶ浜に助けを求めるような視線を送ったが、彼女の申請はことごとく受け入れられず、彼女はただただ心を無にして陽乃からの可愛がりを受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪乃ちゃんたら可愛いんだから」

 

そう言って微笑みながら彼女は静かに紅茶を飲む。不服そうな顔をしながらも、突然の来客である自分の分まで紅茶を用意してくれた雪乃の成長を感じながらも少しずつ自立して行く彼女に、少し寂しさを感じていた彼女だったが嬉しさの方が大きく、再び口角が上がる。

 

「何がおかしいの?」

 

「なんでもないよ。それよりも雪乃ちゃん、お姉ちゃんは気を使ってくれるのはすごく嬉しいけどそれ以上に、私に頼ってくれたら、一緒に戦えたのならもっと嬉しいわ。私はもう覚悟は出来てる。だから一緒に頑張らない?」

 

「………分かったわ。その代わり、無理だけはしないと約束して」

 

「…勿論だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「………まあな」

 

小町を心配させるなど兄として失格だな。だが正直なところ結構きつい。俺が作った偽の安心院さんを維持するのにもそれなりの体力を使う上に、スキルを勝手に譲渡するのは想定外だった。まさかとは思うが、俺が操れないくらい強力になったのか。だがさっきはしっかりと操れていたはずだ。

 

「お兄ちゃん、もう休んだら?」

 

「まだだ。ここまで来たんだから、最後までやってやる」

 

「でも、お兄ちゃんこのままだと勝てないよ。全部を救うことが出来ればそれは最高だけど、何かを捨てることも大事だと小町は思うよ」

 

「………捨てたら軽蔑しないか?」

 

「もちろん!お兄ちゃんとはもう一生口きかないよ!」

 

笑顔で矛盾したことを言ってくるのが小町で良かった。他の奴らだったら遠慮なく手を出しているところだ。しかしまだこんな風に考えられるならまだ余裕はある方だな。

 

「でも、本当に駄目なら考えてね。小町はお兄ちゃんの無謀なとこは信じてるから、すぐに無理しようとするのはよく知ってる。けど、無理しようとしたらすぐに止めるからね」

 

「………分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ、比企谷」

 

時計塔の屋上で一人パンを食べている彼の後ろからそう声をかけたのは、いつものように周りを人が囲み、その中心で笑顔を振りまくのではなく、真剣な顔つきで誰一人として寄せ付けないオーラを放った紀尾井だった。

 

「お前らしくないな、紀尾井。いつもなら女子が周りに大勢いるのに、今日のお前は誰一人として連れてねえ。風邪でも引いてるのか?」

 

「………返見を最近見ないんだよ。気になってメールをしてみれば、お前に会えばわかると言われたんだ。お前はどういうわけか返見の時は自ら赴いたんだろ?」

 

「理由は特にはねえ。もうじきお前に会いに行こうと思ってたからな。手間が省けて良かった」

 

そう言いながらもパンを食べる手を止めない彼の横に、おもむろに紀尾井は座った。

 

「なんか用でもあるのかよ。飯食ってるんだからもう少し待て」

 

「何でお前はこんな計画に加担している。何がお前をあの計画に駆り立てるんだ」

 

「……分かってたら俺だってお前らを全力で潰そうとするさ。素晴らしい理念を理解できないお前らなんて必要無いってな。だけど実際、そういうのは出来てない。正直俺だってこんな計画に真面目に取り組んでるあいつらや真面目に加わろうとしてる奴らを見ても、アホなんじゃねえかとしか思わない。むしろアホとしか思わない。だけど、やりたくなくてもやらなきゃいけないことだってあるだろ。これは俺にとってその一つなんだよ」

 

パンを平らげた彼は自前のMAXコーヒーのキャップを開けてグビグビと飲み、空になったボトルをキャップを閉めてそのまま口に放り込み咀嚼して飲み込んだ。

 

「まあ、お望みならやってやるよ」

 

そう言って彼は紀尾井の胸ぐらを掴んで下に向かって投げると、服の襟から取り出した彼の背丈の十倍以上はありそうな槍を飛んでいく彼めがけて放った。

槍は彼のズボンとベルトの間に器用に入るとそのまま彼と一緒に消えてしまった。

 

「………まずいな。結構きてる」

 

そう言いつつも彼も紀尾井の後を追うようにその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

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