やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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七話目です。


第7話

「休戦だと?何ふざけたこと言ってやがる」

 

「別にこのまま戦い続けてもいい。だけどよ、さっきにも言ったがこの世界は俺の不完全なスキルで作ったせいで完全なものじゃない。いずれは崩壊するわけだが、崩壊の時に誰かがその中にいようがいまいが御構い無しに一瞬で中の物も一緒に消えていく。つまり、このままいけば俺とお前は死んじまうわけだ」

 

「つまり死にたくねえから止めようってか?ふざけてんのか。お前の目的は俺に諦めさせることだろ?まだ終わってねえぞ」

 

「まあそれも確かに大事だがもうやりたいことは終わった。だから正直帰りたいんだ」

 

「つくづくふざけた野郎だ」

 

悪態をつき続ける彼であるが、正直彼自身願ってもみない提案だった。どういう意図が彼にあるかは分からないままだが、このままでは泥仕合になるのは必然であるが、今自分たちのいる場所にタイムリミットがあることで泥仕合にすることはできない。おまけに比企谷が本気を出していないことは彼には分かっていた。

 

「それと言っておくが仮に俺を殺しちまった場合、お前帰れないから気をつけろよ。行き来するには俺と一緒じゃねえと出来ねえから」

 

何となくそんな気がしていた彼だったが、この瞬間に、はなから彼には勝機がなかったことが分かった。そんな事実に気がついた時、彼はふと疑問に思ったことがあった。それは突然現れた彼女の存在だった。いきなり比企谷を攻撃したかと思うと自分にスキルをくれた彼女の存在が妙に引っかかった。おまけにスキルをもらった直後に休戦を提案してきた彼の行動を考慮すると彼と彼女には何か関係性があるのではないかと疑わざるを得なかった。

 

「お前、さっきの人と知り合いか何かだろ?」

 

「どうしてそんなこと考えるんだ?だいたい俺に向かって攻撃してきた奴がどうして仲間だなんて言えるんだよ。俺が死なないようなスキル持ってなかったら俺は普通に死んでた多様なくらいの攻撃だったし」

 

「知ってて攻撃してたんだろ。だいたい、お前の停戦を申し出るタイミングがおかし過ぎるんだよ。俺がもらってすぐにお前は言ってきたが、そこらへんのやつなら俺がもらったスキルが強すぎてお前が恐れをなしたとか考えるかもしれねえけど、俺は違う」

 

「………そろそろか」

 

彼がそう言うと周囲に散らばった武器が浮遊し、次々と彼目掛けて飛んでくる。彼はそれをキャッチしては自分のきている学生服の下や襟の部分にしまい始めた。明らかに入らないはずであろうロケットランチャーや大太刀などもスルスルとしまっていく彼を尻目に返見はひたすらに比企谷の目的を考える。

 

「さて、帰るか」

 

いきなりそう言って彼は先程と同じように返見の顔を強引に掴んで放り投げるとそのまま自分も彼の後を追うように飛び、二人はその世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね、由比ヶ浜ちゃん、雪乃ちゃん」

 

門の前で陽乃はそう言って笑顔で手を振っている。二人は用意された車に乗り、ドアを閉めると車は静かに発進した。

 

「……さてさて、どうなるのかな?正直、比企谷くんがどういう意図で僕の偽物を作り、さながら僕のようにその偽物に振舞わせているのかが分からないけれど、まあ暇つぶしにはなるからいいか」

 

笑いながら彼女は自身の住む屋敷へと軽い足取りで戻っていき、門はそれに伴ってゆっくりと閉ざされた。

 

 

 

 

 

車内は沈黙に包まれ、二人は向かい合って座り、時折互いを見てはすぐに視線をそらすということを繰り返していた。

 

「………ねえ、ゆきのん」

 

重い空気の中で最初に口を開いたのは由比ヶ浜だった。彼女は少し前に出て雪乃下を見る。

 

「…由比ヶ浜さんはもう決めたのかしら?」

 

由比ヶ浜が話したい内容は大方分かっていた彼女だったが、彼女は自分自身の答えをまだ出すことができてはいなかった。察しがいい由比ヶ浜はそれを察したように少し間を置いて口を開いた。

 

「私は……陽乃さんと一緒に行動しようと思うんだ」

 

「……つまり、姉さんと一緒に比企谷くんと戦うということね」

 

「うん」

 

彼女の迷いのない返事を聞いて雪乃下はどうしてかときき返そうとしたが途中でやめた。そんなことを聞くのは野暮なことであるというのはすぐに考えればわかることだったからだ。この決定がこの先の学園生活にとってどれだけ大事で、どれだけ重いものかというのは分かっている。そのようなことをこれだけはっきりと答える彼女はもう覚悟が決まっているということに他ならない。

 

「………ゆきのんはどうするの?」

 

「……私は………私は……」

 

次の言葉が出てこない彼女を、由比ヶ浜は責めることなくただただ優しく見守っていた。どうしてここまで彼女は優しいのかと雪ノ下は思いつつも、彼女の優しさに甘えている自分がいることに苛立ちを覚えた。どうして自分は彼女と違って弱いのか、勉強やスポーツができてもこういった時に決断できる覚悟が無いのでは意味がないと思ったが、それでもなお彼女は決めあぐねていた。

 

「………ごめんなさい、私はまだ決められないわ」

 

「大丈夫だよゆきのん。大事なことだし、今すぐに決めちゃう私がバカなだけでさ〜」

 

「違うわ、由比ヶ浜さん。あなたは決して馬鹿なんかじゃない。馬鹿なのは私。彼を取り戻すといっておきながら決めあぐねている。でも、怖いの。彼が十三組生だということが、フラスコ計画というおぞましい計画に加担し、箱庭生全員を危険に晒せるようなことを平気でできてしまう彼が」

 

「……ゆきのん、私ね、ヒッキーのこと信じてるんだ。ヒッキーはまた私たちに隠れて依頼をこなしてるんだよきっと。だからまた帰ってきてくれる」

 

「……でも、どうして彼と戦うの?」

 

「ヒッキーに私怒ってるんだ。いいかげん私たちに隠さず依頼とかをやらないでほしいし、もっと頼ってほしい。だから、ヒッキーがやってる依頼をやめさせて一から話し合いをしたい。そのためにはきっとそのなんちゃら計画をなくす必要があると思うんだ!……私変かな?」

 

「いいえ、変ではないわ」

 

「……私はゆきのんが一緒にいてくれたら嬉しい。でも無理はして欲しくない。ゆきのんが戦いたくないなら全然それでいいし、戦わないからって私はゆきのんと話さなくなったりはしないし、部活にはちゃんと行くよ」

 

「………由比ヶ浜さんは怖くはないの?」

 

「……怖いよ。だって、十三組生はスキルっていう不思議な力があるんでしょ?私はそんなもの持ってないし、頭がいいわけでもないし運動ができるわけでもない。でも、ヒッキーが話を聞いてくれるのは、私とゆきのんだけだよ。私とゆきのんだけが、ヒッキーを取り戻せると思ってる」

 

「……由比ヶ浜さん、あなたは立派だわ。私もあなたと一緒に戦う。そして、彼を戻って来させるわ」

 

「がんばろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何の用かしら?」

 

荒廃した学校の校舎の一角に対面する二人は互いを見合ってはいるが、夕日に照らされ互いの顔がはっきりと見え、片方は机に座り非常に余裕を感じさせる様子で不敵な笑みを浮かべている。もう片方はといえば、ただただ死んだ魚のような目で目の前にいる人物を冷ややかに見ている。

 

「決まってんだろ。こいつを返しにきたんだよ」

 

彼はそう言って肩に担いでいた女子を床に落とした。簀巻きにされた彼女は特に手をつくことも出来ず、苦悶の表情を浮かべてもぞもぞと動いている。頭を打ったようで時折転がりながらも、机の上に座っている人物の傍まで移動して行き、その人物の隣にいる男の足元で止まると男は静かに頭を撫で始める。

 

「随分と乱暴な扱いじゃない。女の子には優しくって習わなかったのかしら?」

 

「悪いな。俺は男女平等だから女子にも男と同じような扱いするんだわ」

 

「……この子がどうかしたの?」

 

「しらばっくれるなおかま野郎。わざわざ監視寄越しやがって、心配しなくてもお前が出てくることなんてないから安心しろ」

 

突風と共に彼らのいる教室の外に軍事用ヘリが現れると備え付けの武器の矛先が全てそう言った彼の方に向く。

 

「やめなさい、椰子我手(やしがて)。通用しないわ。ね、そうでしょ?比企谷?」

 

笑みを浮かべたまま首を傾げてそう尋ねる人物に、彼は何処からともなく取り出した大太刀の刃を首につきたてる。そしてその人物の後ろでは同じように大太刀を持った巫女服姿の女子生徒が一人宙に浮いたまま首に刃をつきたてていた。

 

「おやおや、安心院さんまでお前に加担しているのか?素晴らしいね。コピーだからといって侮れないよね。なにせ彼女から大量のスキルを無断コピーしまくった君だ。きっと保持しきれないスキルのほとんどを彼女に渡すという形でストックしているんだろ?」

 

「いつもの女口調はどうなったんだよ」

 

「知ってるくせに。俺はマジの時はあんな口調しないってこと」

 

そう言って彼は静かに笑うと静かに指を鳴らす。瞬間、外のヘリは消え二人が持っていた大太刀も消えていった。だが、大太刀が消える直前に二人はそれを振り抜いていたもののそれは無意味に等しく、切られたはずの彼の首には赤い線が出来ただけでそれ以外のことは何も起こらずに、何かあったとでも言わんばかりの様子で比企谷を見ている。

 

「相変わらず手が早いよね、お前。正直そんな男は嫌いだよ」

 

「お前に嫌われることほど嬉しいことはねえな」

 

「この劣化安心院さんは、まさか性格までお前が考えたわけじゃないだろ?」

 

「本家のコピーだから性格もコピーした。だけど所詮はコピーだから完璧じゃねえけどな」

 

二人は互いにそれ以上の言葉を発することはなく、その場を後にした。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

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