やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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五話目です。


接触

「ねえねえゆきのん、最近ヒッキー見た?」

 

「……どうして急にそんなことを?」

 

読んでいた本を置いて彼女はそう尋ねる。

 

「最近ヒッキー見てないなあって思って……」

 

「確かにそうね。この一週間ほど彼の姿を見てないわ。だからといって私たちには関係ないけれど」

 

「………ヒッキーみたいなこと言うね、ゆきのん」

 

「……どういうことかしら?」

 

「実は昨日ヒッキーにメールしたんだ。どうして来なかったのって」

 

「……彼はなんと言っていたの?」

 

由比ヶ浜はおもむろに鞄から携帯を取り出し、雪ノ下に差し出す。受け取った彼女はその画面を見て少し寂しげな表情を浮かべて、静かに携帯を返した。画面には『お前たちには関係ないから気にするな。それと俺は奉仕部を辞める。今までありがとう』という非常に短い文が映っていた。

 

「…………またなのね、比企谷くん」

 

「………そうみたい」

 

暗くなった部室を消し飛ばすかのように勢いよくドアが開かれ、一人の女子生徒が入ってくる。二人は入ってきたその生徒を見てひどく驚き、開いた口が塞がらない様子だった。

 

「…………姉さん」

 

「ひゃっはろーん、雪乃ちゃん、由比ヶ浜ちゃん」

 

「姉さん、どうして学校にいるの?そもそもその格好はどういうつもりかしら?」

 

平静を装いつつ彼女はそう尋ねるが、内心穏やかではなかった。自分の姉が高校生の格好をしていることもそうだが、それ以上に自分の姉から何かを企んでいる意思のようなものを感じたからだ。何か大きなことをしようとしている。彼女はいつだって自分の姉が行ってきたことを側で見てきた。だからこそわかる。彼女は小さいことなんか絶対にしない。

 

「何をしようとしている?」

 

「何でそんなこと聞くの?」

 

「……姉さんはいつだって大きいことをしようとするときは必ず私に顔を見せてきた。どういう理由があって姉さんが大きいことをしようとしているのかは分からないけど、少なくとも、私たちの学園生活に関わるくらいのことをしようとしているのでしょ?そうでなきゃわざわざ制服を着ることなんてしないはずよ」

 

「まあ着てると何かと便利だからね。いや〜、やっぱり楽しいなあ高校生って。みんな純粋で可愛いよね。汚れてるなんて嘘だよ」

 

「姉さんから見ればそうでしょうね。で、何か用かしら」

 

「そう焦らないでよ雪乃ちゃん。今日は雪乃ちゃんたちに少し大事なお話があって来たの。だから聞いてくれる?」

 

「……比企谷くんのことかしら?」

 

彼女はそう尋ねざるを得なかった。なにせ彼は彼女の姉である陽乃と会った次の日から部室に来なくなった。彼女はそうは思いたくはなかったが、それでも彼女はそう考えることしか出来ず、心の底では否定をして欲しかったが彼女は半ば諦めの気持ちを持っていた。

 

「察しがいいね、雪乃ちゃん。その通り。比企谷くんとあなたたちの今後についてよ」

 

「……聞かせてちょうだい」

 

「由比ヶ浜ちゃんも聞いてくれる?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけてる、つくづくふざけたやつだよお前。何が隠し切れないほどの武器を持つスキルだ。隠し切れてる武器があるなんて聞いてねえぞ」

 

「勝手に解釈したお前が悪いだろ。俺は別に隠し切れないぐらい武器を持つことができるだけで、当然のことだが何個かは隠し持つこともできる。どちらかといえば落ちてる武器を使う方が楽でいいんだけどな」

 

彼はそう言って持っていた刀を放り投げ、人指し指をクイッと動かすと別の場所から新しい刀が彼目掛けて飛んでくる。刀に一瞥もくれることなく彼はそれを掴むと返見に向かって斬りかかった。返見は溜息をつきながらも視線は一切彼から離さずに、迫ってくる彼の腕や足、目線に至るまで彼の次の手を読むためにあらゆる彼の要素を観察しつつ攻撃を時にはいなし、時には避けながら反撃をしつつもやはり手数では返見は彼には勝てず、傷ばかりが増えていった。

 

彼の武器は包丁しかなかったため、比企谷の変化し続ける攻撃方法に為す術なく破れ、増えた傷は今度は深くなっていき、彼はとうとう膝をついた。同時に顔を下げたほんのわずかな間に彼の四肢は全て拘束され、彼は何も出来ないまま仰向けに倒れた。意識はあるものの体力がなくなり、呼吸することすら意識しなければ出来ないほど疲弊しきっていた。

 

「…………負けか」

 

「いい加減言ってくれよ。もうこれ以上いくと本当に死ぬぞ」

 

「いや、死ぬのは君かもしれないぜ」

 

瞬間、複数本の槍が比企谷の四肢と胸を貫いて彼はそのまま倒れた。ダラダラと口から血を流しながらも体を起こして目の前に起きた現実を確認しようとしたが、トドメと言わんばかりに脳天を槍が貫き、彼は完全に動かなくなった。

 

「……誰だか分からねえけど助かったぜ。ありがとう」

 

「僕のことは親しみをこめて安心院さんと呼びなさない。礼には及ばないぜ、何せ彼は死んでないし、まだ戦いは終わってないぜ」

 

彼女はそう言って返見を拘束していた一切合切のものを取り払い彼を立たせて、じっと彼を見つめる。だが、見られている彼自身はどういうわけか不思議といい気がしなかった。まるで自分をなんとも思っていない、それこそそこらへんに転がっている石でも見るかの様な目が向けられている、そんな気がしたのだ。

 

「さて、返見くん。僕から一つ提案があるんだが、聞いてはくれないかい?」

 

「なんだ藪から棒に。そもそもあんたは誰で、どうしてここにいて、どうやって比企谷をあんな風に出来たのか、聞かせてもらえないか?」

 

彼女は比企谷を一瞥して、少しニヒルな笑みを浮かべながらその場に座った。もちろんそこに椅子はなかったにも関わらず、彼女は一定の場所まで腰を下ろすとぴたりと止まり、さながら空気椅子の様な状態になった。彼女はそのまま足を組み、顔を上げた。

 

「まず、僕は安心院なじみ。親しみをこめて安心院さんと呼びなさい。僕がどうしてここにいるかといえば、僕がいるからだ。比企谷くんをあんな風にしたのは僕のスキルだ。さて、もういいかな?」

 

「………まあいい。で、あんたは俺に提案があるって言ってたな。それはどういう提案なんだ?」

 

「君は比企谷くんに勝ちたいだろ?で、僕は比企谷くんに負けてほしい。互いの利益が一致すると思うんだよね。だから僕がスキルを君にあげるから、君には何とかして彼を倒して欲しいんだ」

 

「スキルをくれる?あんたは何か?スキルを上げる『異常』(アブノーマル)だとでも言うのか?」

 

そう言った彼の口を塞ぐ様に彼女は静かにキスをする。あまりに急な出来事で彼は動揺し、彼女を突き飛ばすが、彼女は再び椅子に座る様に静かに空中に座り足を組んだ。

 

「何しやがる」

 

「今君にあげたスキルは物体に主従関係を作るスキル『宝物』(オベイ)。このスキルは例えるなら君と君の愛用している包丁の関係を、使用する側とされる側というものから従える側と従う側という関係にするというものだ。何が違うのかといえば、前者の関係はただただ君が一方的に動かすことしかできないが、後者は使われるから従うというものになり、受動的ではなく能動的な振る舞いを見せるようになる。付き合いが長ければ長いほどその関係は色濃く顕著に現れ、君は手をポケットに入れたままでも戦うことができるようになるのさ」

 

「要するに俺が武器との間に主従の関係を作っておけば、武器が勝手に攻撃をしてくれるようになるスキルってことでいいか?」

 

「そうだね。更に君の場合は大小を操るスキルだろ?それと併用すれば彼を倒すのも夢じゃない。そもそも、先ほどの戦いで君はスキルを使用するそぶりを見せなかったが、あれは俗にいう舐めプというやつかい?」

 

「ちげえよ。意味がねえから使わなかったんだよ。あいつ相手じゃいくら大小が操れてもすぐにスキルで対処される。それに、俺はスキルを使ってる間は隙が大きいからそのせいで余計に使えないんだよ」

 

「でも今の君は違う。何せ今までずっと一緒に戦ってきた彼らがいるだろ?君ならできるよ、期待してるから」

 

彼女が消えるのを待っていたかのようなタイミングで比企谷が起き上がり、自身の体に刺さっている槍を抜き始める。どこに刺さっていようが御構い無しに力で無理やり引っこ抜いていく彼の姿を見て、改めて彼が異常の中でも相当な異常であるということを認識した返見だった。

 

「話が終わるまでご丁寧に待っててくれたのか」

 

「まあな。あの人の会話を止めると本当に俺が殺されかねないし」

 

そう言って脳天に刺さった槍を抜いた彼は、そのままそれを逆手で持つと返見に向かって投げる。対処が遅れた彼は目を瞑りを死を覚悟したが、金属同士が擦れる音がしたと思うと何かが二つ地面位落下したような音が聞こえる。恐る恐る目を開けるとそこには、弾かれて地面に突き刺さった槍が一本、そして彼が愛用している包丁があった。

 

「……スキルでももらったか?」

 

「ああ。突然現れた美人なJKにな」

 

 




ありがとうございました。

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