やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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四話目です。


戦闘

「やりやがったなこの野郎」

 

家に帰ってきた俺を迎えてくれたのはたたまれていた服の上で鎮座し、太々しい表情を浮かべたかまくらことうちの猫だった。俺を見てもなんか用か、とでも言わんばかりの表情でくつろいでいる。では何をやらかしたのかといえば、俺の服だけをぐちゃぐちゃにしやがった。しかも最初からたたまれていなかったわけではなく、明らかにたたまれた後にぐちゃぐちゃにされていたのだ。

 

「ああ!!かーくんまたやった!!」

 

そう言いながらかまくらを抱えてどこかに連れていき、戻ってきた小町はぐちゃぐちゃになった俺の服を見て溜息をついた。

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

 

「おう」

 

「今日お父さんとお母さん遅くなるって」

 

そう言いながら小町は近くで座り、ぐちゃぐちゃになった俺の服をたたみ始めた。

 

「そうか。たたまなくていいぞ小町、俺がやるから」

 

「いいよ。お兄ちゃん今日は疲れたでしょ?」

 

相変わらず察しがよすぎて怖い。こいつ自体も確かに異常(アブノーマル)であるが、別に察しがいいスキルというわけでもないのに、どういうわけか察しがいい。嫌になるくらいに。

 

「……なんもねえから安心しろ」

 

「嘘ばっかり。どうせあれでしょ?ばれちゃったとかじゃないの?お兄ちゃんいっつも詰めが甘いっていうか、どこかで気が抜けちゃうことが多いんだから。お兄ちゃんはもう奉仕部にはいられないし、何人かから敵視されてるでしょ?全く、小町を見習って欲しいよ」

 

そう言いながらせっせと服をたたむ彼女の後ろを申し訳ない気持ちになりながら俺は二階へと上がり、自分の部屋へと避難した。鞄を下ろして着替えていると、鞄の中からバイブ音が聞こえる。携帯を取り出して画面を見れば『メールが一通あります』と表示されている。どうせセールスか何かだろうとも思ったが一応開いて見ると、『どうして部活来なかったの?』という短いメッセージが送られてきていた。送り主には『由比ヶ浜』という文字。

 

「………記憶消去できるスキル……ねえか」

 

返信が思いつかない。そもそも返信すること自体躊躇われる。俺は決別したはずなのにどうしてこうも揺れ動くのか。携帯をベッドに投げて俺は一階に戻る。一階では小町が晩御飯の準備をしてくれていた。

 

「今日はカレーだよ」

 

「そうか」

 

「……気になるならメールの返信すればいいのに」

 

「……小町ちゃん?あなた神か何かなの?」

 

「小町はお兄ちゃんのことに関しては神以上だよ!」

 

小町からの愛をすごく感じられたので席につき、カレーを頬張る。うまいが、なんだか今までのカレーとはなんか違う気がする。なんだろう、何かが足りない。

 

「小町はお兄ちゃんに言われれば協力はするよ?なんなら解決してあげてもいい。だけど今お兄ちゃんが抱えてる問題はお兄ちゃんが解決しなきゃいけないことでしょ?まあどうしようもなくなったら言ってよ。何ならフラスコ計画抜けてもいいし〜」

 

「小町ちゃん、あなた軽すぎないかしら?」

 

「小町はお兄ちゃんの味方だよ。だけどフラスコ計画の味方かって言われた疑問詞が語尾に着いちゃうよ」

 

「………頼らねえように頑張るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、返信は……するか」

 

携帯とにらめっこを続けて一時間近く経った。画面には先ほどから考えていた返信がいくつか映っている。ため息が止まらない。いっそ全部送ってやろうかなんて思ったりもしたが、そんなんじゃ伝えたいことが余計に伝わりにくくなる。なにせメールの相手は由比ヶ浜だ。遠回しの表現や比喩は受け取る側にもそれなりの頭を要求する。つまり俺がそれらを使って返信をしても、由比ヶ浜があまり分かってくれない割合の方が高い。ならば俺が苦手な直接的な表現で伝えるという選択肢しか残っていない。だから悩んでいるのだ。

 

「………はっきり言うしかねえよな」

 

返信を送る。携帯を充電してベッドの上で仰向けに寝た。今日は小町の言う通り疲れた。久々にあんなにスキルを使った上に、異常性を抑えるのが若干ではあるがきつくなってきた。スキルを使わずとも異常性は常時発動している。人を見るだけでもかなりの異常性が現れる。ひとえにそれは殺したいとか、助けたいとか、そういった感情ではあるが、異常(アブノーマル)の連中はその想いだけが他の人間の何十倍、何百倍強いためにそうなるので、湧き上がる感情の強さもいくら劣化版とはいえそれなりだ。

 

「お兄ちゃん!!おふろ上がったよ!!」

 

小町がそう言いながらドアを開けて入ってくる。疲れた様子の俺を見た小町は、椅子に腰掛け俺をじっと見てきた。

 

「……小町ちゃん、何かしら?」

 

「お兄ちゃん、相当辛そうだね」

 

「………まあな。人見ただけでいきなり色んな感情が溢れ出る。どれもこれも全部強烈なまでにな」

 

「……一時期やってたあれやれば?」

 

「………敢えて失明して生活するあれか?」

 

このスキルを得てからしばらく経った中学一年生の時、俺は一年間目が見えない状態で生活していた。当時も今程ではないが、それでも人を見ると治したいとか壊したいとかそういう想いが湧き上がり、それを抑えるのが非常に辛かったため、いっそのこと見なければいいという極論に到達し、俺はそれを実行した。結果としては非常に楽だった。なにせ目には誰も映らないため、何も湧き上がらない。そのまま生活すればよかったじゃないか、と言わそうだがそうは問屋が卸さない。見えないぶん大変なことは多かった。全てを感覚と耳や鼻に頼らなければならない上に、当時はさほどスキルの扱いが上手いわけでもなかったし、それほどスキルも持っていなかったため、毎日ヘロヘロで帰ってきていた。だからやめたのだ。

 

「あの時はお兄ちゃんもまだ人間て呼べるくらいだったでしょ?でも今は違うじゃん?だからすごく楽になるんじゃないかって思うんだよね〜」

 

「さらっと人間じゃないと言われてお兄ちゃんはショックだよ。でもまあ、やって見る価値はありそうだな」

 

「だけどスキルがあるおかげでそうなれる事には感謝しないとね」

 

「まあな」

 

 

 

 

翌日の朝はすこぶる調子が良かった。目が見えないことは不便だが幸いにも俺には超音波が使えるというスキルがある。モスキート音よりも高い常人じゃ聞き取れないような音を常時出しつつその音の反射を頼りに周囲の状況を知るわけだが、それ以外にもいくつかスキルを使い、見えないが見えるという状態になっているため、ほとんど問題はない。

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「おはよう、八幡」

 

「おはよう」

 

「……おはよう」

 

久々に全員が揃った。一見すればただの家族、だが実際のところは俺とこの人たちは血が繋がっていない。正しく言うならば、この人たちは俺の親戚で、小町は従姉妹だ。小さい時に俺の両親が死に、よく世話になっていたこの家にそのまま引き取られた形で今日まできた。

 

「今日は珍しいな」

 

「こんな日には何かいいことでもありそうだな」

 

こういう日に限って俺はいつも嫌なことがある。だが久々に揃ったのは少し嬉しかったのは事実だ。久しぶりの全員での朝ごはんはなんだかいつにもまして美味しかった。だが、この前に比べたらやはり劣る。一体何が欠けているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まじか」

 

学校へ行ってみれば生徒が一人増えていた。おまけに俺のいるニ年一組に。

 

「よく溶け込めてるな。燕尾は回収したから、認識を変えるのは不可能だと考えるとこれもあの人の力というか、魅力というか。やはりあの人の社交性がそうさせるのか」

 

彼女は話しかけてくる奴ら全員に飛び切りの笑顔を振りまき、さながら同年代のように振舞っているが一部の俺のようなひねくれ者の目は誤魔化せないぞ。……前言撤回だ。ちょろい。俺みたいなやつが一番ちょろかったわ。今あいつ絶対あの人のこと好きになったな。つくづく人間の扱いに慣れてると感心させられる。さすが雪ノ下の名に恥じない生き方をしようとしている人、雪ノ下陽乃だな。

 

携帯が鳴る。画面には『小町』とだけ映っており、俺は携帯を耳に当てる。

 

『お兄ちゃん!聞いた!?』

 

『雪ノ下さんのことだろ?』

 

『お姉さんがまた入学してくるなんて聞いてないよ!ていうか大学生でしょあの人!』

 

『黒神家に比べたら小さいがそれでも日本有数の財閥の一つだ。こんなこといくらでも出来るだろ』

 

『どうする?あの人たち召集する?小町的はお兄ちゃんが全部やってくれると嬉しいだけど』

 

『俺もあいつらは好きじゃねえから、まあ、出来る限りやってみるわ』

 

『よろしく〜』

 

さてどうしてものか。日和ったわけではないだろうが、今のところは休戦みたいな状態なのかよく分からないが一人ずつ潰していくか。束になって来てもらっても困るしな。

 

 

 

 

 

 

「………正直、狙われるとは思ってなかったわけじゃねえけど、まさか昨日今日で来るとは思わなかったよ」

 

学校の隅で一人座っていた彼の前に現れた人物は何をいうまでもなく、いきなり彼の顔面を掴み、そのまま外に向かって放り投げた。壁を破壊しながら吹き飛んでいく彼をその人物は上から踏みつけて地面に叩きつけたかと思うとどこからともなく銃を取り出し、しゃがんで彼の頭に銃口をぴたりと付けた。

 

「いきなり容赦ねえな、比企谷」

 

「当たり前だろ。正直殺すつもりはないが、諦めるの一言を聞くまで俺は攻撃をやめるつもりはねえからな」

 

「………くそ、少ししかねえか」

 

突然動いた彼は、自身の額に突きつけられていた銃を切り刻み、そのまま比企谷の手首に長くした包丁を突き刺して地面に腕だけを磔にするとそのまま後ろに下がり、背中から包丁を取り出してさながら剣のように構えた。

 

「まあ、あの人に鍛えられてんならこれぐらいは出来ねえとな」

 

「……つくづく嫌になるな本当に。今頭の中で必死に勝つための策を練ってるのに全部が全部勝つビジョンが見えねえ」

 

「気にするな。初めから勝たせるつもりなんかねえし、俺は諦めさせるためにきたんだ。とっとと諦めると言ってくれればいいんだがな」

 

「……どうなってんだ。どうして他の生徒が来ねえんだ。いくら箱庭生だからってこんな騒ぎになるようなことすれば絶対来るはずなのに」

 

あたりは異様なほど静かで、まるで彼ら以外の人間や動物が世界からいなくなってしまったかのように彼は感じていた。しかし、一方で比企谷は特にそんなこと気にするわけでもなく、刺された包丁を抜いて出来た傷口を仕切りに撫でていた。やがて傷が塞がると、軽く手を動かし地面に置いた包丁を持った。

 

「まあ、そもそもいねえから。この世界は俺が作っておいた謂わばスペアだ。お前を投げた瞬間に俺らがいる世界を入れ替えた」

 

「なんだよそれ。マジの化け物じゃねえか」

 

「まあ劣化版だから所々作りが雑な上にあんま長い時間維持は出来ねえが、それでも戦うためのステージには十分だろ?ここは俺たちが本来いる世界とは別にリンクしてるわけじゃねえから、好きなだけ壊してくれて構わない」

 

「……あいにく俺は救世みてえに派手な攻撃ができるわけじゃねえ。せいぜい学校ぶった切るくらいが関の山だ」

 

そう言って彼は静かに左手に包丁を持ち変え、腰のあたりまで持っていくと逆手に切り替え、ゆっくりと息を吐く。そして息を止めた瞬間に彼は包丁を全力で振り抜いた。彼らを囲む校舎が二つに切れゆっくりと崩れていく中で目の前にいる比企谷だけは切れている様子がなかった。

 

「目が見えてないからよ、お前の表情とかがあんまり分からないんだ。しかしお前こんなことできるならどうしてはじめからやらねえんだよ」

 

「これをやっちまったら大勢の箱庭生を巻き添えにするとさっきの俺は思ってた。だが今、使わなくて本当に良かったと思う。なにせお前だけが切れてないんだから、俺は普通に使ってたら大量殺人をするところだった。礼を言う」

 

「気にするなよ」

 

銃声が響くと同時に、金属同士が擦れる音がこだまする。地面には二つに切れた弾丸と、先ほどのように包丁を構える彼と銃を持った比企谷。

 

「どっから出してきやがったそんなもん」

 

「俺の先輩に暗器っていうスキルを持った人がいるんだ。その人は身体中にありえないぐらいの武器を隠して日々生きてる。俺がその人を知っているということはつまり、俺もその人のスキルを劣化版であれど持ってるってことだ。あの人は隠しきれるだけの武器を持ってた。だが生憎、俺のは劣化版。隠し切れないほどの武器を持つっていうのが俺のバージョンだ」

 

いつの間にか辺りには銃や剣をはじめ、手榴弾や弓矢などの様々な種類の武器が無造作に落ちていた。

 

「これらは別にお前が使えないわけじゃない。だから別に使ってもらっても全然構わないんだが、オススメはしない。いくつかは手入れを怠って使い物にならなくなったやつがあるから気をつけろよ」

 

そう言っておもむろに剣を一本拾うと、彼に斬りかかる。ある程度は予測していたため、剣に関しては対処ができていたものの、比企谷の手にいつの間にか握られていた散弾銃の対処がやや遅れ、彼の頰を弾丸がかすめる。

 

「ふざけたスキルしやがって!」

 

「こっちも結構本気だからな」

 

 

 

 




ありがとうございました。

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