やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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第19話

「おいおい、何だよあれ。あることにするスキル?あれじゃあ神と同じじゃないか。僕は何かしくじったのかな」

 

「初めからじゃないですか?」

 

「比企谷くんのスキルを逐一で剥奪していたせいでこうなってしまったのかな?いや、剥奪するだけならよかったんだ。なのに僕はどうしてあげてしまったんだろうか?」

 

「まあ何はともあれ。また減りましたね」

 

「大丈夫さ。まだ比企谷くんが出来なさそうな事が一つあるよ」

 

「多分もう出来ますよ彼なら。私のおもちゃですから」

 

「君のおもちゃだったらそうかもね」

 

「最後まで見届けましょうよ。その後でもいいんじゃないですか?直接彼らに会うのは」

 

「そうだね。でも妹さんはいいのかい?彼女負けちゃったけど」

 

「負けただけで折れる程度なら雪ノ下を名乗らせるわけにはいかないですよ」

 

「手厳しいね」

 

「タダでは倒れない位にはなってて貰わないと、到底、彼、彼女を理解なんてできませんよ」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけてるだろお前。さっきから」

 

「嫌。別にそういう訳ではない。これが俺なりの『過負荷』(マイナス)ってやつだ」

 

「人が真剣なのに手を抜くのがか?」

 

「違うんだよ。そういう視点で見るから、お前は勝てないんだよ」

 

「は?」

 

「手を抜いてるんじゃないんだよ。本気を出せないんだよ。お前相手じゃ」

 

「………………じゃあ何か?今までのは全部全部芝居だったってわけか?」

 

「いや、そういう訳じゃない。お前が学校でこんな事をしでかすのは昔と同じだから予想は出来た。だけど、事前にメンバーを集めておいて準備をするっていうことは予想できなかった。そこは想定外だったよ。そこだけは対処の仕方を考える必要があった。あとはタイミング。てっきり俺の目の前でやると思ってたんだが。そのせいで対応も遅れた」

 

「はあ。もうどうしろってんだよ。スキル使ってもお前はすぐに治っちまう。死さえもだ」

 

「だから言っただろ。熱い勝負がお望みだったらルールを設けとけって。囲いで俺があのスキルを使った時点で、外に出て俺がこのスキルを使った時点で、お前はもうほぼほぼ詰んでるんだ」

 

「だったらせめて華々しく散らせてくれよ!!」

 

次々とスキルを使ってくるが何を使われてもこのスキルさえあれば問題は何もない。攻撃を受けながら攻撃を仕掛ける。彼の顔が少しずつだが歪んでいく。それでもなお彼はひたすらに攻撃を続ける。だが俺自身へのダメージなんてほとんどゼロに近いから対応に困る。やはり華々しく散らせるためには多少の演技は必要なのか?

 

「またお前に負けるのか」

 

「安心しろ。俺は勝った訳じゃねえから」

 

彼の頭を掴んで地面に叩きつける。

 

『馬鹿正直者』(オールリアル)お前をっ!!何だ?」

 

俺の身体には見慣れた螺子が刺さっている。

 

『「脚本作り』《ブックメーカー》』

 

俺の後ろに立っているのは見慣れた学ラン。そしてへらへらした顔。

 

『そこまでさ、比企谷くん』

 

「邪魔しないでくださいよ。華々しく散らせてくれって言ってるんですから」

 

『君このままだと彼を殺しかねないだろ?』

 

「そんな野蛮なことしませんよ」

 

『ただもうこの戦いはやめなよ。僕達で彼の仲間は一人を除いて倒しちゃったし』

 

彼が指差す方へ顔を向ける。気付かないうちにあちらの戦いは終わっていたようだ。ボロボロの服装でみんなが俺を見ている。

 

『君達がやりあってる間に君達の足元にいた彼女達はもう解散させたよ。スキルを持ってない子をいたぶる趣味はないんだ』

 

そうだった。こいつのスキルで今こいつの仲間はみんなスキルをこいつに貸してる状態だった。

 

「ははは。やっぱり悟ってくれたか」

 

「お前、何がしたいんだよ」

 

「ははは、俺にもよく分かんねえよ。ただ、スキルをあげて仲間になってもらうって行為が虚しく感じ始めてたんだよ」

 

「…………お前だって仲間いるだろ」

 

「スキルで繋がった関係だけどな」

 

「燕尾はどうだったんだよ。あいつにスキルはあげてないだろ?」

 

「燕尾は…………燕尾だよ。それ以上でもねえし、それ以下でもねえ」

 

「まあお前はお前でけじめつけろ。俺にもつけなくちゃいけないけじめがあるみたいだから行くわ」

 

頭から手を離し立ち上がる。向かう先は一つ。球磨川先輩が言っていた一人を除く全員。その一人は薄々分かってる。

 

「よお、由比ヶ浜」

 

「久しぶり、ヒッキー」

 

「………………何を言えばいいんだろうな」

 

「何も言わなくてもいいんじゃない?」

 

「そうか」

 

「私のスキルってね、ゆきのんのスキルとほとんど一緒なんだ」

 

「通りでお前らの身体が強い訳だ」

 

「……………ヒッキー、私頼りないかな?」

 

「…………ああ。頼りない」

 

「そっか。やっぱりそうなんだ」

 

「…………」

 

「…………ヒッキー。私達ね、巻き込まれる事は全然怖くないよ。だって三人一緒なんだもん。むしろ巻き込まれないことの方が怖いよ。だって、気が付いたらヒッキーが居ないんだよ?気が付いたら二人だけなんだよ?」

 

「俺が居なくなったところで別段問題はないだろう」

 

「問題あるよ。だって、仲間じゃん」

 

仲間か。初めて聞いた気がする。そんな言葉。

 

「強がらなくていいよヒッキー。わたしたち、大丈夫だから」

 

強がらなくていい。俺は何かを強がっているように見えるのだろうか。俺自身は何も強がっている気は無い。

 

「いろいろ聞いたよ。ヒッキーのこと。ごめんねヒッキー、わたし気が付けなくて」

 

「俺が勝手にやってたことだ。お前達には気が付いてもらいたくはなかった」

 

「それってさ、私たちを巻き込まないため?」

 

「っ!!……………」

 

「巻き込んでよ。頼ってよ。ヒッキーがどう思ってたかはわたしは分からないけど、わたしは辛かったしゆきのんも辛かったと思う。何も言ってくれないから」

 

「俺は…………『まどろっこしいなあ。いったいいつまで押し問答をやるつもりなんだい?君は本当に捻くれてるうえに素直じゃ無いなあ。僕だってここまで捻くれては居ないよ。なあみんな』

 

球磨川先輩は黒神達の方を向く。だが誰一人として彼と目を合わせる奴はいなかった。

 

『……………』

 

そうだよ比企谷くん。さっきからうじうじしてイライラするんだよ。君はもう背負うものはなくなったんだぜ?晴れて自由の身だ。おまけに君が喉から手が出るほど恋い焦がれていた本物ってやつが目の前にあるんだぜ?君はみすみすそれを逃すのかい?

 

偽物でもいい、誰かの贋作でも良いと思っていた。でも現実は違った。黒神に負けた。その時点で既に薄々気が付いていた。贋作じゃ勝てない。本物じゃないと勝てないって事を。生まれてこの方世界は偽物、どんな人間も所詮は誰かの贋作だと思っていた。でも初めて周りが偽物だらけで怖くなった。贋作しかいない事が辛くなった。

 

君は見ていなかっただけだ。見ようとしなかったんだよ。君にとっての本物は生半可なものじゃないという印象だったかもしれないがね、現実は違うのさ。思ったより君の周りは本物で溢れてるぜ。

 

そうかもな。

 

また会おう。

 

ああ。

 

「…………怖かったんだ。お前達が俺を見て離れて行くと思ったんだ。俺ははっきり言って異常だし、お前らから見て化け物だ。でも、奉仕部で過ごした時間があって、偽物の関係でも初めて失いたく無いと思ったんだ」

 

「…………ヒッキー、約束して。これからは何があっても私たちを頼って。一緒に悩もうよ」

 

「……………ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日経った。あの一件の後俺は再び奉仕部に戻ってきた。

 

「比企谷くん。紅茶いるかしら?」

 

「ああ、悪い。もらうわ」

 

またこうやって過ごせるなんて思っていなかった。ある意味五徳がいたからこうやってまた過ごせるようになったかもしれないな。肝心の五徳は燕尾と共にこの学園に通っている。本来なら追い出されるはずだと思うのだが、さすが俺たちの生徒会長である黒神だ。五徳に対して三時間ごえの説教もとい説き伏せを行い彼をここに留めてしまった。

 

「でね〜、あそこのケーキが美味しかったのよ。だからまたみんなで行きましょうよ」

 

「そうだね!!」

 

「わたしは遠慮するわ」

 

「どうしてよゆきの〜ん」

 

「最近食べ過ぎてしまったいる気がするから」

 

「大丈夫よ!!ゆきのんスレンダーなんだから!!ねえ燕尾ちゃん!!」

 

「うん。羨ましいくらいだよ」

 

「なんでお前らここにいるんだよ」

 

「つれないわね〜。ライバルだったよしみで許してよ」

 

どういうわけか奉仕部に入り浸るようになった。たった数日経っただけでみんなこいつのしたことを気にしていないような感じだ。箱庭の生徒本当に器でかいな。

 

「わたしがやったことも許してくれるなんて本当にここの生徒さんは凄いわね」

 

「此処にいる間は死なない限り多分なんでもしていいんだと思うよ」

 

「まあ、そうかもな」

 

ドアがノックされる。

 

「どうぞ」

 

おずおずと誰かが入ってくる。懐かしいなこの感じ。

 

「じゃあ私たちは行くわ。じゃあねえ〜」

 

燕尾と五徳は手を振りながら入れ違いで出て行った。本当に何もしていかないんだよなあいつら。

 

「ひ!!比企谷!!」

 

あれ?俺なんかしたっけ?つーか誰?…………ああ、川なんとかさんか。

 

「川崎」

 

彼女は不機嫌そうにそう言った。ああ、川崎か。

 

「女子ってみんな頭の中覗けるの?ねえ」

 

「座って」

 

雪ノ下が座るよう促す。彼女は適当に椅子を見つけて俺たちの前に座った。

 

「二年一組の川崎沙希」

 

「今日はどうしたのかしら?」

 

「えっと、その、うちの弟のことなんだけど………」

 

「へえ、沙希って弟いたんだ」

 

「中学生のね」

 

「弟さんがどうかしたのかしら?」

 

「えっと、なんか、その、アイドルにハマって…………」

 

「アイドルにハマるくらい普通じゃない?ねえヒッキー」

 

「まあ、現実の女子に相手にしてもらえない彼なら言えてるわね」

 

「………………懐かしいな」

 

「えっ!!何ヒッキー急にどうしたの!!」

 

「病院に行ったほうがいいんじゃないかしら?救急車を呼びましょう」

 

「待て。全く問題はないぞ。早く依頼を聞かないと」

 

「ごめんなさい。それで?」

 

「ええっとね、ハマるのは別にいいんだけど、なんか様子がおかしいんだ」

 

「どういうことかしら?」

 

「帰ってくるなり、すぐに部屋に籠るんだよ。うちの家って部屋のドアに鍵ついてなくてさ、こっそり開けて何してんのかなって見てたら…………」

 

健全な男子中学生の部屋に鍵が無いなんて大変だな。同情するぜ。川崎弟。

 

「その、えっと、イヤホンして…………」

 

やばいな。こんなの黒歴史確定じゃねえか。弟、心底同情するぞ。大丈夫、俺は仲間だ。

 

「泣いてたの」

 

「泣いていた?」

 

「うん。それも号泣とかじゃなくて、静かに泣いてたの」

 

「それがどうしてアイドルにつながるのかしら?」

 

「少し前に聞いたんだ。よくイヤホンしてるけど何聴いてるのって。あいつ、最近は食事中以外ずっとイヤホンしてるからさ。そしたら、アイドルの歌を聴いてるって言ってて」

 

予想を斜めいく結果になった。

 

「でもさあ、そのくらいだったらまだ大丈夫じゃない?」

 

「まあ、家の中でずっとイヤホンするって変といえば変だが、悩むほどのことじゃねえと思うぜ。すぐに飽きるだろ」

 

「二ヶ月ずっとでも?」

 

「……………それはちょっと変だな」

 

「うん。だからさ、ちょっと見てもらえない?」

 

「俺たち医者じゃねえぞ」

 

「でも頭いいんでしょ?なんか分かるかもしれないじゃん」

 

「ゆきのん、わたしやりたい!!久々の三人でだよ!!」

 

「………ええ、そうね。川崎さん、やるわ。弟さんと会わせてくれないかしら?」

 

「頼むよ」

 

やっぱり俺の意見は聞かれないのね。此処は変わらないのか。まあいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大志!!人前ではイヤホン取りなさい!!」

 

「待ってよ姉ちゃん!!今サビなんだ!!」

 

「……………」

 

「すいません。はじめまして、川崎大志です」

 

「由比ヶ浜結衣です!!」

 

「雪ノ下雪乃です」

 

「比企谷八幡だ」

 

「皆さんは姉ちゃんのお知り合いですか?」

 

「ええそうよ。でも用があるのは川崎さんでなくてあなたよ大志くん」

 

「俺、ですか?」

 

「大志くん!!その曲ってそんなにいいの!!?」

 

「はい!!もう最高ですよ!!聞きます?」

 

「うん!!」

 

おいおい由比ヶ浜。目的を見失ってないか?何を聴いているかじゃなくて何で聴いているかを聞き出すのが目的だろ?由比ヶ浜は普通に大志から音楽プレイヤーを受け取ると自分のカバンからイヤホンを取り出し早速聞きはじめた。

 

「由比ヶ浜さん。目的を見失ってるわよ。今日はどうして大志くんがイヤホンをずっとつけているのかを聴くために来たのよ?」

 

「ゆきのん、静かに」

 

「ごめんなさい」

 

負けちゃうのかよ雪ノ下。言ってることはお前の方が正しいんだぞ?もっと強気で行こうよ。ほら見ろ、川崎が何とかしろって顔で俺を睨んでるじゃねえか。もう聴くか。薄々は気づいてたけど。

 

「えっとだな、一つ聞きたいんだが大志。お前、『STS』って知ってるだろ」

 

「はい!!…………まさか!!先輩もそうなんですか!!?」

 

「その『STS』というのはどういうものなのかしら?」

 

「まあなんだ。少し待っててくれるか?少し準備がいるんだ」

 

「また一人で何かをしようということではないでしょうね?」

 

「大丈夫だ。安心してくれ」

 

「凄いよこれ!!超いい!!これどこで買えるの!!?」

 

突然由比ヶ浜が大志にくい気味で尋ねた。

 

「完全受注生産なんですよこれ」

 

「何で?」

 

「分からないんですけどあんまり知られたくないそうなんです」

 

「珍しいわね。普通は知られたいものだと思うのだけれど」

 

「まあ取り敢えず、解決策はもう出来てる。少し準備あるから……………お前ら手伝ってくれるか?」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜八時過ぎ。俺たちは狭い路地を歩いていた。

 

「ヒッキー、どこに向かってるの〜これ〜」

 

「もう少しだよ」

 

「答えになってないわ」

 

「着いたぜ」

 

何もない更地。草も生えていなければ積まれた土管もないし、木もない。まして漫画を読みながら俺たちを待ち構えるガキ大将と金持ちもいない。

 

「何にもないじゃ〜ん」

 

「………………あった。おい、こっちだ」

 

見つけたドアを開ける。当然透明なのだが、触れば一発で分かる様に作っておいた。

 

「あ!!これって私たちが作ったドアじゃん!!」

 

「そうだよ。俺たちがせっせと作ったドアだ。今は別空間の入り口用として使ってるんだ」

 

決して某どこにでもいけるドアではない。決して。

 

「行くぞ」

 

「待ってよ〜!!」

 

俺の後に続いて彼女たちが入ってくる。

 

「うわ〜!!何これ!!」

 

中にあるのは巨大なライブ会場。中には数えるのが面倒になるほどの人数の人が入っている。作るのに苦労した。いかんせん前の様にスキルを持っているわけではないので、ちょっとやり方が違うだけで時間が何倍もかかってしまったが無事間に合った。

 

「どういうことなのこれは」

 

「スキルで作った別空間にスキルで作ったライブ会場だ」

 

「すげえ!!」

 

「何これ」

 

「八幡さん!!」

 

少し細い男が俺に話しかけてくる。

 

「ああ、芹田さん。今回もよろしくお願いします」

 

俺は頭を下げる。

 

「こちらもよろしくお願いいたします。…………そちらの方々は?」

 

「ツレです。ちゃんと席はとってあるのでご心配はなく」

 

「では今日も楽しみにしています。後これ、リストです」

 

彼がカバンから取り出した紙を受け取る。

 

「…………こいつまたやったのかよ」

 

「どうしましょうか?」

 

「後で俺個人でやっとくから大丈夫です。…………分かりました。では逃さない様にお願いします」

 

「はい。それでは」

 

彼はそう言ってさっていった。

 

「ヒッキー、さっきの誰?」

 

「知り合いだ」

 

「比企谷くん、いい加減教えてもらえないかしら?これは一体どういうことなの?」

 

「ああ。これからここで始まるライブがあるんだが、そのライブは大志がはまっている歌を歌っている歌手だ」

 

「え!!まじですか!!」

 

「まじだよ。それでまあ、一回ライブ見せてやろうと思ってな」

 

「まるであなたが関係者みたいな口ぶりね」

 

「ああ。俺は現にギター担当だからな」

 

「え?」

 

「あと由比ヶ浜、雪ノ下、ちょっと来てくれ。川崎たちはこの地図で前にあげたチケットに書いてある番号と照らし合わせろ。そこがお前らの場所だ」

 

「分かったよ」

 

「ありがとうございます!!感激っす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何か彼女たちに聞かれるとまずいことでもあるのかしら?」

 

「まあ、スキル絡みなもんでな。お前らならすぐに分かってくれると思って」

 

「確かに沙希には分かんないかもね〜」

 

「まずな、大志だが、あいつはスキルを使われている状態だ」

 

「誰にだと言うの?」

 

「あの曲を作ってるアイドルだ」

 

「なんで分かるの?」

 

「まあ見せたほうが早いか。おい小町」

 

「はいはーい!!あ!!結衣さんに雪乃さんじゃないですか!!」

 

「小町さん?」

 

「そうだ。アイドルってのは小町の事だ」

 

「その通りなのです!!」

 

「小町ちゃんってアイドルだったんだ!!でもテレビとか出てないよね?」

 

「テレビとかには出たくないんですよ。私生活とか赤裸々に語られちゃうじゃないですか」

 

「つまり小町さんが大志くんにスキルを使っているということかしら?」

 

「小町のスキルは脳を弄るスキル。このスキルをライブ前に使って小町の歌を聴いてないとなんか落ち着かない状態にするんだよ。そして、ライブが終わるとそれを解除する訳なんだが、多分大志はライブの途中で止むを得ず帰っちまったんだろうな」

 

「なるほどね。つまり途中で帰ってしまったがためにスキルの効果が消えず、彼は小町さんの歌を聴いていないと落ち着かない状態で過ごさざるを得なくなった」

 

「結果あいつは家の中じゃ食事中以外はずっとイヤホンをつけるようになっちまったって訳だ。さすがに爆音で家の中に永遠と流し続けるわけにもいかねえしな」

 

「では小町さんに解除をしてもらって依頼は終了ということかしら?」

 

「ああ。ただまあ、詫びっつー事も含めてライブに招待したってわけだ」

 

「これは小町も悪いです。後でちゃんと大志くんには謝っておきます」

 

「お知り合いなの?」

 

「こいつ自分の脳も弄って一度見たら二度と忘れないようにしてあるから、顔と名前一回見ればすぐに覚えちまうんだよ」

 

「へへへ〜」

 

「そろそろ最終準備だ。お前らにもチケットあげたろ?番号書いてあるから番号のとこ行けよ」

 

「うん!!頑張ってね!!」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいはーいみなさん!!こんばんわーー!!」

 

『こんばんわーー!!』

 

ライブが始まった。小町さんの呼び掛けに周りの人が一斉に応える。正直私はこういう場にきたのは初めてのせいもありあまり積極的にできなかった。一方の由比ヶ浜さんは、すぐにこの場の空気に慣れてしまった。

 

「かわいいね、小町ちゃん。ねえゆきのん!!」

 

「ええ、そうね。彼の妹さんとは思えないわ」

 

『今日もメンバーを紹介するよー!!』

 

『いえーーーーす!!』

 

『まずはギター!!お兄ちゃん!!』

 

へこへこしながら出てきたわ。やはりどこか頼りないわね。

 

『八幡さーーーん!!!』

 

野太い歓声が聞こえる。彼って実は…………いや、まさかそんなことがあるはずはないわ。

 

次々とメンバーが紹介されていく。紹介が終わるといきなり曲が始まった。周りは一斉に声をあげながらエールを送っている。由比ヶ浜さんも漏れずにその一人だ。

 

「わたしね、ゆきのん。こんな風にまた三人で一緒に居られるって思ってなかったんだ」

 

「そうだったの……」

 

「うん。だって、バラバラだったじゃん?わたしたち」

 

「そうね」

 

「わたしなんてヒッキーもゆきのんも倒そうとしてた。わたしが頼りになるってとこ見せるために」

 

「ええ」

 

「でもさ、ゆきのんは必死にわたしを分かりたいって言ってくれたし、ヒッキーもわたしたちを頼るって言ってくれた。わたしの願ったこと叶ったからさ、むしろ良かったのかな?」

 

「仲間だからって、対立しないなんてことは決してないわ。むしろ仲間だから対立することだってある。でも、そんなことがあっても最後はまた集まる。そういうのが仲間ってことなんじゃないかしら?」

 

「…………そうだね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか今は毎日が楽しい。あの人から仮に解放されていてもいなくても、昔はなんだか日々がつまらなかった。何処か虚しかった。でも、今は違う。

 

『次がラストでーす!!』

 

『そんなあああ!!』

 

「比企谷せんぱーい!!」

 

「比企谷二年生!!」

 

「八幡!!」

 

『頑張れ小町ちゃん!!』

 

…………あれ?なんか見知った顔が最前列にいるぞ。…………夢だな。これは夢だ。

 

『現実だぜ?』

 

恥ずかしい。なんかノリノリでヘドバンとかしてたのが思い出される。急に恥ずかしくなってきた。控え室に戻りたい!!

 

「小町ちゃん。どうしてあの人たちがいるの?」

 

「だって小町が呼んだんだもん!!」

 

「………………」

 

『いっくよー!!』

 

『おーーー!!』

 

その後羞恥心を捨て俺はやりきった。…………恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったよ!!ヒッキーも小町ちゃんも!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

「川崎たちは?」

 

「ゆきのんが呼びに行ったよ!!」

 

「ごめんなさい。遅くなったわ」

 

「小町さん!!初めまして!!」

 

「初めまして大志くん」

 

「え!!覚えててくれたんですか!!?」

 

「みんな覚えてるよ」

 

少しがっかりした表情になった大志。自分だけなんてことはないぞ。

 

「ごめんね」

 

そう言って小町は大志に握手をした。大志の顔が真っ赤になり忙しなく首を動かしている。

 

「来てくれてありがとうね!!またよろしく!!」

 

「…………はい」

 

泣くなよ、大志。その後川崎たちを見送り、俺たちだけが残った。

 

「終わったのかしら?」

 

「問題無く終わった」

 

「依頼は完了だね!!」

 

「そうだな」

 

「そう言えばSTSって一体なんのことなのかしら?」

 

「スモールタウン親衛隊。頭文字を取ってSTSだ」

 

「スモールタウンって、そういうことだったのね」

 

「そう。小町親衛隊の略称だ」

 

「なんかかっこいいね!!」

 

「ですよね!!」

 

「うん!!かっこいいよ!!」

 

「そろそろ行くぞ」

 

「ええ」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『小町さん実にいいライブだったよ!!僕は感動した!!』

 

「…………なんでまだいるんですか?」

 

『出待ちってやつさ!!』

 

「STSに見られたらやばいですよ」

 

『そこは大丈夫さ。僕の号泣を見て一回だけならということで許してもらったから』

 

「マジすぎるだろ」


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