やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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第16話

「ええ〜もうどうしよ〜」

 

「何を悩むんだ一色?」

 

「だって!!私の思ってた後悔って私が生徒会長になっちゃうことだと思ってたんですよ!!」

 

「俺たちだって本気でお前を生徒会長にするつもりだったんだ」

 

「……………本当ですか?」

 

「ああ。本当だ」

 

「………分かりました。今回はそういうことにしておいてあげます」

 

「…………あざと」

 

「あざとくないです!!」

 

「八幡」

 

「どうした材木座」

 

「あやつも八幡の知り合いか?」

 

「ん?…………いや、知らねえ奴だ」

 

「どうしたんですか?誰かいる………有紀?」

 

「いろは!!ここで何してるの?」

 

「ちょっとね。有紀は何で?」

 

「道に迷っちゃって」

 

突然現れた彼女に対して彼は違和感しか感じられなかった。

なぜなら彼らがいる場所は普通の人間が入ろうと思わない山奥であり、更に登る途中でいくつも急傾斜がある。

とてもじゃないがよっぽどの山登り好きじゃない限り登ろうとは思わないだろう。

彼が最初に違和感を感じたのは彼女の服装だった。

彼らはスキルでここまで来たため、正直服装など上下ジャージでも構わない。

だが普通の人間がこの山に入るならかなりの重装備をしてくる。

以前流行った弾丸登山なんて無茶な真似をする輩でも水ぐらいは持っていたが、彼女は水すら持っていない。

どう考えても彼女が嘘をついているとしか考えられず、彼は今まで以上に警戒し始めた。

そんな様子を見た材木座も何かを察したようで、少し後ろへ下る。

 

「その二人は…………1人は知ってるけど」

 

「残念だが俺はお前のことは知らないんだ」

 

「そうだよね。あんたは私を知らなくて当然よ。でもいいの。もう二度と知ることはないから」

 

「急に何を言ってるんだ?」

 

「いろはから離れて」

 

「………………」

 

彼はひとまず言うことを聞こうと思い、素直に背を向けて彼女から5、6メートル離れた場所まで移動した。

 

「どのくらい離れればいいんだ?」

 

「ずっと」

 

彼はまた彼女たちに背を向けて歩みを進めた。

刹那彼の背中に有紀が手を当てる。

すると彼は凄まじい勢いで茂っている木々をなぎ倒しながら吹き飛んで行った。

彼は呑気に下を向きながら、勢いに身を任せていた。

 

「吹っ飛ばされたってことか?……………まあいい。使っといてよかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いろは!!大丈夫!!?」

 

「有紀、どうしたの?」

 

「もう大丈夫だよ!!本当にごめんね、ごめんね」

 

有紀は泣きながら一色の肩を掴んでいるが掴まれている彼女はどうして泣いているのか全く分からず、ひたすら彼女の背中をさすりながら宥めていた。

 

「落ち着いて、有紀。どうしたの?」

 

「私ずっと後悔してたの!!いろはの名前書いて投書するなんて悪ふざけどうして止めなかったんだろうって!!でも止められなくて!!結果いろはにあんな事させちゃったことに!!ごめんね、ごめんね、本当にごめんね」

 

「大丈夫だよ有紀。もう分かったから。有紀は悪くないよ」

 

「でも………」

 

「それにあの先輩ってそんなに悪い人じゃないんだよ?」

 

「…………いろは、本気で言ってるの?だって、いろはにあんな事させたんだよ?気づいていろは!!あの人はいい人なんかじゃないんだよ!!?」

 

有紀が吐く彼を否定する言葉を聞いても彼女はイマイチ実感が湧かなかった。

彼女は少なくとも目の前で泣く有紀よりも一緒に過ごしてきたため、彼女よりも自分の方が彼を理解しているという自負がある。

しかし何を言ってもまるで彼女の方がおかしいかのような感じで話を進められていることに困惑した彼女だったが、材木座に助けを求めることは彼女の気が引け、更には彼もいない。

彼女はオロオロしていると後ろから声が聞こえる。

 

「無理だよ。俺がスキル使ってるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

「先輩!!」

 

「八幡!!」

 

「材木座、お前もう帰っていいぜ」

 

「え?しかしだな」

 

「頼る時は呼ぶ」

 

「……………!!分かったぞ!!さらばだ八幡!!」

 

「ああ」

 

呼び出されて、すぐに帰らされた彼を可哀想と思った者はこの場においては一人もいなかった。

しかし肝心の彼はというと終始嬉しそうな顔で帰っていった。

 

「どうやって戻って来た!!」

 

「俺は本来のスキル取られててな、代わりのスキル使ってるんだけどよ、そのうちの一つを使ったんだ。『過負荷』(マイナス)『平行線』(ノーリスクノーリターン)

 

「何ですかそれ?」

 

「現状維持しかできないスキルだ」

 

「そんなものでどうやって戻って来たんですか!!?」

 

「まあまあ、これ以上は喋りたくないから勘弁してくれ。話を戻そう。一色には俺がいい人にしか見えないスキルを使った」

 

「どこまで卑劣なんですか!!!」

 

「卑劣はどっちだ?俺にクラスのほとんどで闇討ちしやがって」

 

「どういうこと?」

 

「一色。俺は言ったよな?お前のクラスメイトを後悔させるって。お前の姿を見てクラスのほとんどは後悔したとも言った。そのうえ人吉にもめちゃくちゃ怒られた。そしてどういう思考回路してんのか知らねえけど怒られた後に俺のとこに人吉と数人を除いて来てたんだ。各々武器………まあバットとかだけどな。持ってたよ。お前のクラスどういう思考回路してんだよ」

 

「あいつらはいろはを連れていったあなたがいろはにあんな事をさせたと思って罪滅ぼしのためにあなたを攻撃しようとしたらしいわ」

 

「そうか。次から事前に通達をくれ。危うく全員殺しかけた」

 

「…………殺しかけた?」

 

「あれ?一色は知らないのは当然だがお前も知らなかったのか?」

 

「嘘ですよね?先輩」

 

彼は目を閉じる。

刹那二人の目に映ったのは、暗い道路。

そして暗闇の中からゆっくりと人影が現れる。

一人、二人という数ではない。

十、二十、それ以上の人間が各々手にバットなどを持っており、何人かの手には街頭で照らされ輝く物体があり、それはすぐに包丁であるとわかった。

彼らは何かを言って一斉にこちらに向かってくる。

目の前の人間が次々と傷だらけになって倒れていく。

やがて、目の前に立っている者は誰もおらず、下を向けば赤い液体が足元まで流れている。

その中を移動していく。

そんな風景が映った。

 

「…………何これ………」

 

「……何なのよこれ」

 

「昨日のことを俺の視点から見せた」

 

「………先輩、嘘ですよ………ね?」

 

「本当のことだ。それよりどうする?俺を倒さない限り一色の洗脳は解けないぜ?」

 

「五徳さん!!」

 

「はあ〜い」

 

どこからともなく一人の男が現れ有紀の後ろに立つ。

その男は彼の会いたくない奴ランキングの最上位に三年連続でトップを飾っている五徳だった。

 

「五徳…………」

 

「久しぶりねえ。八幡ちゃん」

 

「お知り合いでしたか?」

 

「勝負をしてるの」

 

「してねえよ。お前が勝手に勝負とか言ってるだけだろ」

 

「でもちゃんと乗ってくれるのよねえ。律儀ね」

 

「お前が引き起こす事象の規模を考えたら動かざるを得ないんだよ」

 

「まあいいわ。お話はもう少し先でしましょ。康介君!!」

 

「何だ!!?」

 

「次から次へと何人いるんだよ」

 

「ふふ。彼女もいるわ」

 

「彼女?」

 

「もういいわよ。出てきて!!」

 

「……………燕尾、由比ヶ浜」

 

「康介君、私たちを運んで」

 

「了解!!」

 

またしてもいきなり現れた康介と呼ばれる男の姿が段々と変化していく。

最終的に彼の姿はヘリとなった。

 

「今日はヘリなのね。まあいいわ。結衣、いろはちゃんを連れてきて」

 

「うん」

 

「えっと、どなたですか?」

 

「いいから来て」

 

「有紀、この人たち誰?」

 

「大丈夫よいろは。この人たちは味方よ」

 

「味方?」

 

「私とあなたのね」

 

「出発して!!」

 

「いいんですか?」

 

「有紀ちゃんがやりたいと言ったんだもの。邪魔してはダメよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備も救出も成功し、本来なら今頃彼女は喜びで満ち満ちているはずだったが

思わぬ誤算があった。

目の前にいる彼の異常なまでの不気味さが、全く計算に入っていなかった。

彼女は今なら誰にでも勝てるという自信で満ちており、彼を目の前にしてもそれは変わらなかった。

だが彼女の心はもう折れそうだった。

勝つとか負けるとかそう言った次元ではない全く違う次元に彼はいると彼女は思った。

 

「救出作戦は成功したな」

 

「っ!!?………気づいてたの!!?」

 

「いや全く」

 

「は!!?」

 

「でも俺と一色を遠ざけようとしてたのはわかってたからまあ何となく推測でな」

 

「あんたを倒せば、いろはをもとに戻せる」

 

「かもな」

 

折れそうな心を何とか支え、彼女は今にも目を背けてしまいそうなほど不気味な彼を正面に静かに構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はもう面倒くさくてしょうがなかった。

本格的に始動しているのはわかってよかったが、彼の仲間は少なくとも彼の知り合いも当然混ぜ込んでいるであろう。

できれば彼だけを相手に戦いたい、せめて彼の仲間だが比企谷があまり知らない奴までが彼が戦う相手の最低のボーダーラインである。

知り合いと戦いたくないのもそうだが、目の前にいる彼女のように仲間のためと動くやつが一番厄介だった。

ゲリラ的に異常(アブノーマル)を増やしてくる以上、できる限り敵となるであろう人間は減らしておきたいが、このような人間は一度倒しても帰ってくることがある。

それによって計画がずらされることが以前あった。

彼女はまさに処理に非常に困るタイプだった。

 

「………なあ、取引しねえか?」

 

「何だ急に」

 

「一色の洗脳を解くから解散しねえか?」

 

「!!ふざけるな!!?あんたはさっき倒さないと解けないとか言ってたじゃん!!」

 

「嘘だ。で、どうだ?」

 

「ふざけるな!!私はあんたを倒す!!それが私の罪滅ぼしだ!!」

 

「そうか。分かったよ。じゃあ俺も本気でやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と少し話しただけで彼女はもう逃げたくなった。

足が震え出し、筋肉がこわばる。

今まで感じたこともない悪寒が彼女を襲い、ボロボロと涙が流れ出す。

 

「来ないのか?じゃあ、俺からいくぜ」

 

「来るな、来るな、来るな、来るな!来るな!!来るな!!!」

 

「お前は向いてないよ。罪滅ぼししたいなら別の事にしたら?」

 

「うるさい!!」

 

彼女は近づいて来る彼の腹に手を当てスキルを使った。

 

「お前みたいに一心に友達のことを思う奴のことだからてっきり友達がいると強くなるとかだと思ってたんだけど、触れたものを爆破させるスキルって感じか?全然印象と違うな」

 

「何で!!何で何で何で!!?」

 

彼女が驚くのも無理はなかった。

目の前に立っている男は腹に風穴が空いているのにもかかわらず平気そうな顔をして彼女と話を続けようとしているのだ。

彼女は言葉にできない恐怖と直接当てて使ってはいけないと言われていたスキルを直接当てて使ってしまったことに対しての罪悪感で頭がぐちゃぐちゃになった。

 

「やべえな。めちゃくちゃでかい穴が開いてる。なあ、えっと、有紀だっけか?」

 

「やめて、やめて!!やめて!!!」

 

彼女はもうその場にしゃがみ込み大声で泣き出した。

 

「大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなっちまうんだろうな」

 

うずくまりながらひたすらに泣き続ける彼女。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん…………」

 

彼女は先程からずっとごめんなさいを連呼している。

彼はどうしようか迷った末に彼女の記憶を少し改ざんすることにした。

手を彼女の頭に起き、スキルを使う。

 

「…………あれ何で私泣いてるの?」

 

「知らねえよ急に泣き出しやがって。まあでも戦わなくて済むんだからお互いのためだろ?洗脳は解いておいたから」

 

「……………分かったわ」

 

「俺はもう帰る。もう一色には何もしねえよ」

 

「できれば姿も表さないでほしいわ。私たちの前に」

 

「残念だがそれは無理だ。俺は五徳と話したいことがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、随分と厄介なことをしてくれるねえ」

 

「何がですか?」

 

「比企谷くんがまた元に戻ろうとしている」

 

「ダメなんですか?」

 

「ねえ陽乃ちゃん。僕は彼から『贋作作り』(コピー)を奪ったわけだけど、これは何でだと思う?」

 

「彼が負けたからですか?」

 

「それもそうだけどね、一番の目的は彼を助けるためだったんだ」

 

「助ける?」

 

「彼のあのスキルは彼が一番持ってはいけないスキルだったんだよ」

 

「というと?」

 

「彼は自我というものが存在していて存在していない。言って仕舞えば何者にも染まれてしまうんだ。そんな彼があんなスキルを身につけた結果、彼の自我は消失しかけていた」

 

「消失というのは?」

 

「彼の性格は知ってるだろ?ひっそりと一人でも何でもやっちゃう。でもね、これはしょうがなくなってしまった性格なんだ」

 

「しょうがなく?」

 

「彼のスキルは何でもコピーするスキル。異常性やスキルですらもコピーして自分のものにしてしまう。あらゆる人間の異常性を取り込んだ結果、彼はいろんな衝動や想いに苛まれながら日々を過ごすことになってしまったんだ。フラスコ計画に彼を入れたのは異常性との向き合い方を教えるためだったんだが、彼は僕の期待とは裏腹に異常性を取り込むだけ取り込んでしまった」

 

「いけないことなんですか?」

 

「彼はあんな風に装ってたけどね、彼はあの時誰かを殺したくて、誰かに触れて欲しくて、そして異常(アブノーマル)に異常なまでの憧れを持ち、不幸を愛し、自身を王だと思いながら、ルールは人より上と考えていた。彼は比企谷八幡でありながら、宗方であり、高千穂であり、名瀬であり、古賀であり、都城であり、行橋であり、雲仙だった」

 

「何だかよくわからないですね」

 

「まあ、彼は人間じゃなくなりかけてたのさ。だから人間になってもらうためにスキルを奪ったんだけど、僕はあんな風にスキルを改造するとは思わなかったなあ。完全に計算外だ」

 

「どうしますか?」

 

「陽乃ちゃんは雪乃ちゃん達を見てて。僕は彼をまた人間に戻して来るよ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 


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