やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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第15話

「そういや、燕尾や救世はどうした?」

 

聞かれた紀尾井と辺見は彼を睨みつける。その目は怒りや恨みなどがこもった強い目だった。

 

「お前がそれを言うか。2人をどこへやった」

 

「…………返した。元の場所にな」

 

そう言った彼だったが、見ている方向は相変わらず彼らではなく壁である。彼らはつられて彼の見ている方向に目を向けるが、やはりそこには何もなく、他と同じような無機質な壁があるだけで別段気になるところもない。

 

「……どういう事だそれ」

 

「…まあ後のことはお前らが知るのは少し後だ」

 

瞬間辺りは暗くなり、彼らの視界は闇で覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何があったの?」

 

闇が晴れ、彼女の目が機能した時、映った景色は信じ難いものだった。ズタズタになった通路、血まみれになって倒れる紀尾井と辺見。無残にも身体中に恐らくは紀尾井の武器である短刀が一定の間隔を空けて刺さっており、目も例外ではなかったようで本来ある眼球がない、ただのくぼみとなっている。

 

「二人とも!!「動くと撃ちますよ」…」

 

彼女の後頭部には冷たい何かが当てられ、カチッという静かな音がする。彼女のよく知るこの音は、銃の撃鉄を引く音、そしてそれが意味するのは一歩動けば即座に撃たれる。即ち殺されるということ。

 

「瞬間移動するスキルを使えばいいんじゃないですか?まあやらせませんけど」

 

そう言うと静かに彼女の背後にいる誰かは銃を彼女の頭から離し、ゆっくりと歩いて彼女の前へと現れる。

 

「どうですか、陽乃さん。これはあんたが最も想定する最悪の状況だ」

 

「……あの一瞬で、どうやって……」

 

「細かい話はいつでもいいでしょう。単刀直入に聞きます。何故あの二人を使った」

 

いつになく冷淡で、鋭い目つきで彼女を見る彼に彼女の抑えていた恐怖心が再び起き上がり、彼女を蝕んでいく。

 

「……君には、関係のない話じゃない」

 

「ふざけるのもいい加減にしてください。いつからあいつらと結託していた」

 

「……私も知ったのは最近。君が救世ちゃんを返した時、燕尾ちゃんに教えられたの。君を引っ掻き回すために、内部から徐々にバラすために彼女たちは私に近づいた。決してうまくいくとは思っていなかったけど、予定外に君に色々あったおかげで良い方へと流れている。君さえよければ彼はいつだって君の前に現れるとも言っていたわ」

 

彼は話を聞き終えると深くため息をつき、持っている銃を眺める。彼女は銃を見て不思議に思った。6発しか入らない、黒いリボルバー。彼が片手でその銃を扱っていることは何ら不思議ではなかった。彼女が不思議に思ったのは銃そのものだ。彼女が所持していたのはただのハンドガンだ。どちらも撃鉄を引く必要のない、いたって普通のものだった。となれば彼が今手にしている銃は彼が持ってきたもの、だが先程まで彼がそのような銃を持っているそぶりはなかった。

 

「その銃は……どこから持ってきたの」

 

「……これですか?まあ、知る必要はないですよ」

 

彼は銃については濁し、1発何処か適当なところへ発砲する。耳を塞ぎたくなる爆音がし、煙が彼らの鼻腔をくすぐる。

 

「問題なく動くな。じゃあ、……一か八かやってみるか」

 

「……何をして……」

 

銃口を彼は自身の頭につきつける。そのまま撃鉄に指をかけ、ゆっくりとおろし引き金に指をかける。近づこうにも何をされるかわからない、そんな警戒心が彼女に一歩足りともその場から進むことを許さない。彼女はただただ彼を見ることしかできなかった。

 

「多分痛いでしょうけど一瞬で済むので」

 

彼がそう言って引き金を引くと、まるで狙っていたかのように二人は同時に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先程から銃声が聞こえてくるな』

 

『……姉さんだわ』

 

『最も、あの男を銃程度で倒せたのなら、今頃フラスコ計画は破綻しているだろうな』

 

 

モニターに映る彼らを彼女は見ていた。侵入され、侵略されている側であるにもかかわらず、その目は爛々としており誰が見てもこの状況を楽しんでいるとしか考えられなかった。モニターに映る黒神たちを食い入るように見つめ、一人一人の状況を細かく覚えていく。

 

「お!二階に到着したね!ていうかお兄ちゃん何やってんの。確かにそっちも大事だけど、こっちも大事でしょ。さっさと終わらせてくれないと来ちゃうじゃん!」

 

別のモニターに映る頭から血を流して倒れる自分の兄を見ても動揺することなく、いつもの私生活のように軽い罵声を浴びせる彼女に誰かが近づく。

 

「小町」

 

声をかけられた彼女は椅子から降り、声をかけてきた人物の前に立つ。

 

「何でしょう、名瀬さん」

 

「お前のにいちゃん大丈夫なのかよ。仮にも元奉仕部のメンバーだったんだろ?情が湧いて手加減とかありきたりな展開はやめてくれよ」

 

 

「大丈夫ですよ〜。兄はそこら辺は厳しい人ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び目が覚めた時、彼女は不思議な感覚に襲われた。今までにないくらい頭が軽く、まるで先程まで鎧をつけていたかのかと思ってしまうほどだ。起き上がって辺りを見れば、先程までの景色が嘘のような光景が広がっていた。紀尾井と辺見は何故か息を切らして、彼女の前に立っており、どこからも血を流していない、傷ひとつない体でいた。

 

「どうですか、雪ノ下さん」

 

二人の間に立って彼女を見る彼を、今の彼女は別段恐れることなく、立ち上がって目を合わせる。

 

「夢か何かだったのかしら?」

 

「……戻ったみたいですね、本来の雪ノ下さんに」

 

「このおかしな感覚は君が私に何かしたってことでいいわね?さしずめ、先の自害に見せた共倒れの攻撃の際に何かスキルを使ったんでしょ?」

 

「少し違いますよ。スキルをあんたに使ったのは事実だが、何かしたってよりは解放したっていう言葉の方が正しい」

 

そう言って彼は両隣にいる紀尾井と辺見の肩を掴む。

 

「悪かったな。もう帰ってきていいぞ」

 

彼がそう言うと同時に二人は膝から崩れ落ち、仰向けで寝そべった。大きく息を吸い、必死に落ち着こうとしているが、そんな二人を待たずして彼は話を続ける。

 

「あんたは今の今までスキルで制限をかけられていた。本来のあんたなら絶対にしないような取引だったり、作戦だったりを躊躇なく行った。後から聞いたら恥ずかしさのあまりおかしくなりそうなレベルのな」

 

「……それもどうせ救世ちゃんや燕尾ちゃんの仲間がやったんでしょ?」

 

「ようやくいつもの雪ノ下さんに戻ってくれてよかったですよ」

 

「…君、陽乃さんって呼んでなかったかしら?」

 

「呼んでいたんだとしたらそれはあんたの夢だ。俺のスキルの一つ『空想』(リアル)。他者に夢を見させるっていうただただ単純なものだが、これは少し扱いにくいんですよ。俺は、最悪、最高、普通といった夢を見てその人が抱く感情しか選択出来ない。つまり中身は指定できないんですよ」

 

「…じゃあ君が自分を撃ったと同時に私が目が覚めたってことよね」

 

「…このスキルとは別にもう一つ『情報社会』(シェア)っていうスキルを使うことで、夢の内容を俺は知ることができ、なおかつ干渉できるようになるんですよ」

 

「なにかを共有できるスキルってとこかしら?」

 

「ええ。指定したものを対象と共有できます。視覚、聴覚、味覚、思考、感触等々を指定さえすればなんでも。おまけにこれは対象が実在していなくてもいい」

 

「夢の自分と共有することもできる」

 

「そうです。自分に限らず、他人の夢の中の他人と共有することだってできます。おまけにこれは自分と他人もできますが、他人と他人も共有できます」

 

「……そこの二人は今も夢を見させられているってことよね。息が上がっているということは、何かを夢の中の彼らと現実の彼らが共有しているってことよね」

 

「二人とも普通の夢を見てもらってますよ。そして全部を共有してる。体力も当然含まれてる。だから夢の中で戦えば、その分だけ現実に疲労が蓄積されていく」

 

「解除するのは……どうせ君しかできないんでしょ?」

 

「全てを共有しているのであれば、死をもって解除できます。外側から解除するのは俺が解除しようとする、もしくはスキルの効果がなくなったときくらいですね」

 

「……つまり私の夢が解除されたのは、君が夢の中の自分と全てを共有して、さらには私とも共有した上で自害したからってことよね」

 

「このスキルは生死ですら共有できる。そして雪ノ下さんの推理は大方あってます。脳にかかった制限は死ぬかかけたやつが意図的に解除するの二つの方法でしか解けない。かけてきたあいつらが解くなんてことは絶対にありえない。だから死んでもらって強制的に解除したんです」

 

「なぜ君が私を解放する必要があったのかしら?私がバカのままだったら君にとっても都合がいいんじゃないの?」

 

「俺のここでの仕事は二つ。箱庭学園全生徒の安全をフラスコ計画完成まで確保すること。そして、邪魔するやつを排除すること。この相反した二つの仕事をこなす上で、俺だって少なからず情がある。知ってるやつの方を優先的に守りたくなっちまう。もう手遅れだが、これから先も下手に情報を流されると困るんでね」

 

「多分私はもう君と奉仕部、雪乃ちゃんと由比ヶ浜ちゃんとの関係を彼らには喋ってると思うわ。そこらへんの情報は知られていいのかしら?」

 

「いいわけないでしょ。ただこのまま馬鹿だったら雪ノ下さん、あんたが困る」

 

「いざって時に雪乃ちゃんたちを守れないからでしょ?ただ残念なことが一つ」

 

彼女はそう言って持っていた銃を捨て、両手を広げる。彼女の顔はどこか寂しそうでもあるが、晴れ晴れとしているようにも思える。

 

「私のスキルが消えたわ」

 

「…予定よりかなり早いな」

 

「君はどうせ私のスキルが消えるタイミングを分かっていたはず。正直言って私ももう少し後に消えると思っていたわ。けど、君が短刀を私の銃に当てた時、私は本当なら私ごと君の後ろに移動してもう1発ぐらいお見舞いしてやろうと思ってたの。ただあの時、私は君を見て急に怖くなった。形容できない恐怖が私を包み、足がすくんだ。その時は分からなかったけど、今の馬鹿じゃない私ならわかる。私は普通の人間になった。だから君が怖いのよ。自分と違う化け物が」

 

「…やられた」

 

「……私のスキルが消えたのも君の敵対する人がやったってことかしら?」

 

「……別の奴ですよ。俺らじゃ勝てないような」

 

「じゃあ君に一つ質問。無視するのが長すぎじゃない?どうせいるんでしょうから、早めに対応した方がいいと思うけど」

 

「そうっすね。ひとまず、この二人を解除します」

 

「帰って来いって言ったじゃない、さっき」

 

「嘘ですよ、あれは。どのタイミングで攻撃してくるのか探ってたんですけど、どうやらタイミングは今っぽいです。出て来い、燕尾、救世」

 

「そして……」

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

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