やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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第14話

「本当に良いタイミングであんたたちは来るな」

 

若干あきれた様子で比企谷は振り返る。辺見、紀尾井、陽乃の3人はすでに自分の武器を取り出し、真っ直ぐに比企谷を捉えていた。3人は各々武器を変え、陽乃は銃を、紀尾井は短刀、辺見は大太刀を武器として静かに呼吸を整えている。

 

「真黒さんも本当に余計なことをしてくれる。武器にまでアドバイスされたら厳しいっつーの。鬼に金棒とはこのことだ」

 

比企谷のスキルの所持数は大幅に減少し、前のように攻撃を全て受けた上で、ズタズタになったその姿を一瞬にして再生し、強力なスキルで俗に言う舐めプと呼ばれるような戦いをする彼はもういない。今は目の前にいる三人も油断出来ない相手になってしまっている。

 

「何分稼げば良いかしら?」

 

「まあ、十分稼げば良いっすよ。十分が充分になれば良いですけどね」

 

「そんなこと言ってる余裕があるなら大丈夫そうね」

 

彼女はそう言って取り出していたハンドガン二丁の安全装置を外し、指を引き金にかける。紀尾井は持てるだけの短刀を持ち、辺見は背中に背負っていた大太刀を自身の腰の右側まで滑らせる。

 

「行くわよ」

 

彼女はそう言って引き金を引くと同時に紀尾井と辺見は彼との距離を縮め、紀尾井は左手に持っていた短刀の全てを彼の足元にばらまく。そのすぐ後を追うように辺見が大太刀を引き抜き、ばら撒かれた短刀を掬い上げながら比企谷へと斬りかかる。

 

「やっぱ速くなってるな」

 

大太刀をギリギリでかわす比企谷を予想していたかのように、彼がしゃがんだところに彼の眼球めがけて二発の銃弾が飛んでくる。しかし彼は避けることなく銃弾2発を目に受け、しゃがんだ体勢から一気に彼女との距離を詰めようとしたところで彼は突然その場で倒れ、辺見が掬った短刀を背中に浴びた。思わず痛みで顔を歪めるが、すぐさま立ち上がり背中にある一本を抜いて真っ直ぐ投げると、ガキン!という音と共に陽乃の手から一丁のハンドガンが滑り落ちる。

 

「その状態でよく出来るわね」

 

地面に落ちた銃口に短刀が突き刺さったハンドガンを彼女は見下ろす。引き金を引けば暴発するのは見なくても分かるが、その程度の事を自分が予想できないわけがない、避けることは容易だった筈なのにどうして今の状況があるのか、彼女の頭に浮かんだ疑問は些細なことかもしれないが、彼女にとっては大きすぎる疑問だった。

 

「目はもう治っているのかしら?」

 

動揺を見せまいとしたさりげない質問だったが、彼女は質問をしたことをすぐに後悔した。

 

「まだ見せていないですけど、現状を維持するっていう今の俺の主力スキルのおかげで、めちゃくちゃ再生が早いんですよ。お陰で撃たれた目も治り始めてますし」

 

まるで赤い絵の具を目の周りに塗りたくったとでもいうように、真っ赤な彼の目は本来の形と機能を取り戻したようにあちこち動いている。決して彼女はグロテスクなものに耐性がないわけではない。しかし彼の目の状態よりも彼自体、彼の存在そのものに少しずつ嫌な感じという曖昧なものを彼女は感じざるを得なかった。

 

「ちょっとは堪えろよ」

 

彼女の様子の些細な変化に気づいたのか、辺見と紀尾井は彼女と比企谷の間に彼女を彼から守るような形で立ち塞がった。

 

(何が起きたか知りませんが気をしっかり持ってください。ここで折れたら負けますよ)

 

小声で話しかけてくる二人を見て自分が足を引っ張ってどうすると思った彼女は、即座に少し前のように真剣な表情をし、真っ直ぐ彼を見据えた。

 

(分かってるわ。でもありがとう)

 

「お前らスキル使わなくなったのか?」

 

その場の空気というものに一ミリの配慮もしていない発言が飛ぶ。

 

「…温存だよ」

 

「そこまで簡単に抜けられると思われてたのか。まあ今の俺は前みたいに無茶できるような体じゃなくなったしな。せっかくだし試させてくれ。俺の新しいスキル」

 

「じゃあこっちも試させてくれよ、あの変なJKから貰ったスキルをよ!!」

 

辺見はそう叫び再び比企谷へと斬りかかる。大太刀を振り下ろし、比企谷は当然のように避けるが二撃、三撃と続く攻撃によって、少しずつだが小さい傷を彼は増やしていく。辺見が繰り出す攻撃一つ一つはまるで太刀が意思を持って辺見を操っているかのような攻撃もあれば、本来の武器と所有者の関係のように、彼が意思を持って太刀を扱って繰り出す攻撃もあった。その複雑な攻撃を比企谷は受けながらも何故か視線は辺見でもなく、陽乃でもない、ただの壁を映していた。

 

「何が見えてんだよ」

 

彼の視線を遮るかのように現れた紀尾井は、手に持った短刀を彼の目めがけて投げると同時に拳を握り、彼の顔面を殴りつけた。

 

「『ぶっ飛べ』」

 

紀尾井がそう言うと同時に比企谷は遥か奥まで吹き飛んでいった。何かが衝突した音が聞こえてくるのを確認した彼らは一旦見合って話し合いを始めた。

 

「明らかにおかしくありませんか?」

 

口を開いた紀尾井の言葉に賛同するように辺見は頷き、意見を言い始める。

 

「俺もそんな感じがする。手応えがあるんだがイマイチ……なんていったらいいか分からねえほど曖昧なんだが、それでも違和感がある。あそこまでの再生能力、攻撃の回避速度は別に前のあいつよりは遅いがそれでも早い。だから別に疑問に思うこともねえ。上の空なのも同じだ。ただ、明らかに何かが違う」

 

「…接近して戦っているあなた達だからわかる、そういった違和感は決して忘れては駄目。仮にも彼は通常の異常なら入れないこのフラスコ計画に関わっている。十二分に警戒しておいて」

 

「はい」




ありがとうございました。

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