やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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よろしくお願いします。


第13話

「随分と見違えたね、みんな」

 

彼は優しい笑みを浮かべながら一人ずつしっかりと確認していく。皆、疲労困憊という言葉がふさわしいぐらいにボロボロになっており、立っているのがやっとの様子だが誰一人として座り込む者はおらず、達成感と自信に満ち溢れた表情を浮かべている。

 

「ここまで頑張った君達に厳しいことを言うようだが、君達が勝てる可能性は今は高い。だがそれはあくまで僕の妹であるめだかちゃんがいるからだ。もし万が一にでもめだかちゃんが戦えなくなった時、君達はめだかちゃんの代わりに戦わなくてはいけない。勝率は極端に下がるし、大きな痛手を負うだろう。だがそれでも君達は目的を果たすために戦わなくてはならない」

 

「大丈夫ですよ、お兄様。私が皆を守り通してみせます」

 

「随分と驕った考えだな、黒神」

 

声の主はいつのまにか入ってきていた二人の男だった。

 

「迎えに来ましたよ、陽乃さん」

 

「紀尾井くん、辺見くん、ありがとう」

 

「紀尾井二年生に辺見二年生じゃないか。貴様らは雪ノ下OBと何か繋がりがあるのか?」

 

「繋がりも何も俺らは今の今まで一緒にフラスコ計画をぶっ潰す為に色々やってきた仲だ。陽乃さんと打ち合わせした通り迎えに来たんだよ。今日はもう無理だろうから明日にでも潰しに行く予定なんだ。今日はその最後の打ち合わせってところだ」

 

「なんだ、貴様ら私たちと目的は同じか。ならば共に戦おう!」

 

「めだかちゃん!?いいのかよ、そんな行き当たりばったりで!」

 

「救世も燕尾もどっかに行っちまったから正直手が足りねえ。生徒会長さんが加わってくれるんなら大歓迎だけどな。ひとまず今日は「今日だ」……なんて言った?」

 

「今日だと言っているんだ。この後我々は都城二年生と会う約束がある。奴もまたフラスコ計画に参加している人間の一人だ。私もフラスコ計画がいかに恐ろしいものかを知っている。だからこそ一刻も早くあれは潰すべきなのだ。だからこそ今日だ。今日中にフラスコ計画を叩く!!」

 

いつのまにかその場にいた彼らは彼女に賛同し、準備を始めた。

 

「私たちも頑張ろう、ゆきのん!」

 

「……そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小町、エレベーターやってくれ」

 

「お兄ちゃん自分でやればいいじゃん!」

 

頬を膨らませながらも、彼女は慣れた手つきでキーボードを叩く。すぐさまドアが開き、彼らは中へと入る。

 

「スキルがだいぶ変わっちまったせいで開くかどうか分からねえんだよ。パスワードは浮かぶんだが前と違って若干ぼやけてるんだ」

 

「しっかりしてよお兄ちゃん。昨日だって帰ってきたと思ったらいきなり血を吐くんだもん。自分で掃除してくれたからいいけど、無理は良くないよ?」

 

「今までは無理してせいぜい70%くらいの力が精一杯だったけど、今じゃ無理すれば100%が出るんだ。なんだか無理したくなってな」

 

「根はバカなのはいつまで経っても変わらないんだね」

 

「……小町ちゃん、もう少しオブラートに包んでくれない?流石に傷つく」

 

「根バカ!」

 

笑みを浮かべながらそう言う妹にいささか心配になった彼だったが、気にせずに話を続け、気付けば彼らの目的の階まで降りていた。扉が開き、二人は真っ直ぐに進む。既にメンバーは集まっていたようで、彼らが入ってきたのを最後に、部屋のドアは閉まり、メンバーは立ち上がった。

 

「遅いぞ、比企谷」

 

「悪いな、遅れた。そもそもだ。どうして俺ら二人が呼ばれた?お前らだけで十分だろ」

 

「念には念をだ、八幡。偉大なる俺の王道に狂いはない。だが、相手は黒神めだかだ。用心しておいて損はないとは思わんか?」

 

「……まあ」

 

「といっても、お前たちを呼び出したのは俺ではない。理事長だ」

 

「あの人本当に人を動かすの好きですよね」

 

「何をさせたいんだよあのおっさんは」

 

「崇高な理念を持つもの同士でしか分かり合えないことがある。八幡、お前はその意図を知らずにいて良いのであれば良いが、もし知りたいのであれば、俺のようになれ」

 

「…………うす」

 

「俺はこれから未来の妻となる黒神めだかを迎えに行く。あとは頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今のこの状況があるわけか」

 

フラスコ計画に加担している比企谷兄妹だが、小町と違って八幡はあまり彼らと関わろうとしない、というか関わりたくないのだ。明らかに人間離れ、まさしく化け物と呼ばれる奴らしかいないあの環境では、彼らの異常性によっては些細なことですぐに殺し合いとも言えるほど激しい戦闘に発展することがある。彼らは自身の異常性を十分に理解し、その上で彼らは自らの能力を活かした戦いをするわけだが、殆どがこの施設が壊れることを全く気にしない。だからこそ、静かな環境を望む彼は他のメンバーとそりが合わないのだ。

 

「ちょっと外に出て帰って来たらこれかよ」

 

あれだけ分厚かったはずの門は人が1人通れるくらいの穴が開いており、誰かが通った形跡がある。

 

「見張りの右脳、左脳はいない。……パスコードを入れる入れない以前にこんな物で穴開けたってのかよ。黒神が開けた可能性もあるにはあるが、だとしたらあいつはこの門を粉々に粉砕するぐらいのことはするだろうから……一筋縄じゃ行かなそうだな。……どうせやるなら」

 

彼はそう言って軽く膝を落とし、左手を引く。迷わず門の中心に向かって左手で掌底を放つと門は砕け散った。散乱する瓦礫を足で避けつつ、奥へと進む彼だがあることに気がつくと大きくため息をついた。

 

「……エレベーター使えねえじゃん俺」

 

地上に上がった時に彼は小町に一緒に来てもらったため、エレベーターを使うことが出来たが、彼女は彼を送ると彼を待つことなく下へと戻ってしまった。彼は地下14階まで階段で降りる以外に仲間と合流する手立てはない。瞬間移動や高速移動等のスキルを使って、今まで移動のほとんどを省き、怠惰の限りを尽くしていた彼は帰ろうとも思ったが、そんな事をしては後で妹から罵詈雑言を浴びせられることは確実だ。ただでさえない兄の威厳が塵になることだけは避けようと自らを奮い立たせ、彼は階段を降りる。

 

「後13階か」

 

淡々と階段を下りながら、彼は先日出会った五徳の顔を思い出した。不敵な笑みを浮かべ、彼の前から姿を消した五徳の意図を彼は今だに掴めずにいたが、何かしてくることは十二分にあると考えると自ずと身が引き締まる。どうせならついでに侵入して来た、恐らくは黒神と他数名がどこら辺にいるのか確認しておくのもいいだろうと考えた彼は、地下一階を少しうろつくことにした。

 

「…………あちこちボロボロじゃねえかよ、なんだこれ」

 

形容し難い傷が至る所に付いているが、彼にとってこれは目印になったようで、その証拠に傷を辿りながら進んで行けば行くほどに傷は深く太く周囲に刻まれ、彼に戦闘があったこと、そしてそのおおよその被害規模を予想するための材料を提供してくれた。

 

「一階は高千穂先輩だったよな。まあこの被害を見る限りじゃあの人負けたな多分。ただ、段々と血の匂いがして来たことから察するに、黒神もそれなりの傷を負ったってことか」

 

歩みを止めずに傷を辿れば、特に傷が酷い場所に辿り着いた。辺りには赤い点がいくつも見られ、足元には何かでえぐったような跡があり、そこをはじめとして後ろへと傷が広がっている。

 

「ここからか。喋り声が聞こえるってことは、まだそれほど遠くへ行ってないってことだよな。挨拶ぐらいはしとくか」

 

辿るものはないがただただひたすらに進んで行くと、通路に数人が固まって何かをしているのを見つけた。彼らは彼に気がついていないようだったが、彼はいつものことだと思いながら彼らに近づく。ふと、1人が彼の方へと振り返った。

 

「…………比企谷くん」

 

「……雪ノ下か」

 

再会を喜ぶ気持ちと、敵を見つけた時の警戒する気持ちが混じった複雑な気持ちをしているのが一目でわかるほど、彼女は複雑そうな表情で彼を見ていた。他も彼に気がついたようで、何かを守るように皆前に出る。

 

「……お前らの後ろにいるのが黒神か」

 

「何の用だい、比企谷くん」

 

「……阿久根高貴、破壊臣だっけか。……お前か、あの門あんな開け方したの」

 

「……そうだが、謝れと言われれば謝るよ。壊したのは事実だしね。ただ、それはこの依頼が終わったらにさせてもらう」

 

「いや、すげえと思うわ。よくもまあ、あんな飾りで破壊したよ。俺だったら絶対出来ないし」

 

「何の用だ、比企谷二年生」

 

前に立つ彼らをかき分けて出て来たのは、至る所を包帯や湿布で保護し、片腕に至っては骨折した際に施される治療と同じ治療がされている。

 

「満身創痍って感じか」

 

「何の用だと聞いているんだ比企谷二年生。貴様に構っている暇はない」

 

「いや、エレベーターで帰ろうとしたんだけど帰れないから階段で降りてるだけだ。ついでに、お前らがどのフロアにいるのか知っておいて損はないかと思ってよ。進んでないようで安心した。まあ頑張れ」

 

「応援のつもりか」

 

「ここで戦いたいなら戦うでも俺は構わないが」

 

「俺らの相手になってくれよ、比企谷」

 

彼の後ろから聞こえた声に反応し、振り返れば彼のよく知る人物たちがいた。

 

「姉さん!」

 

「ごめんね、雪乃ちゃん。ちょっと遅れちゃって。ここからは私たちに任せて」

 

「行け、お前ら」

 

「しかし「めだかさん、今は先を行くべきだ。今のこの状況じゃ僕たちは勝てない。僕たちがやるべき事を忘れるな」…………頼んだぞ!雪ノ下OB!」

 

 

 

 




ありがとうございました。

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