「なんだそのスキル?」
「言った通りだよ。ある一定を基準にし、それをスキルを発動している間、常にその状態を維持する。俺はこのマンション、俺、そしてここに住んでる人間全員を対象にこのスキルを発動している。損傷が酷ければ酷いだけ時間はかかるが、それでも一分あれば完全に元に戻る」
「そんなにご丁寧に説明されると粗探ししたくなるもんだ。じゃあ、酷い傷を一分間負わせ続ければ、再生が間に合わなくなるという仮説を立てて、行動してみるか!!」
歪な兵士は先ほどの兵士同様に彼に襲いかかるが、彼はそれらを全ていなし、襲ってくる彼らの腕や足の関節を破壊しつつ確実に救世との距離を詰める。彼女は自身の新しい武器を試そうと考えたその時、視界の隅に怯えた様子でこちらを見ていた一人の女子に目がいった。
「そうか!まだ居たわ!!」
嬉々として彼女は懐から大量の親指ほどの藁人形を取り出し、部屋中へとばらまいた。ギシギシと音を立てながら立ち上がった人形たちは、比企谷を無視し、後ろで様子を伺って居た川崎めがけて一目散に移動を始めた。無論比企谷が彼女への攻撃を許すはずはなく、小さい兵士たちに攻撃を加えようとしたところで、彼らは一斉に立ち止まり爆発した。
「いいでしょ?対不死スキル持ち専用爆弾、
「そんなふうに喋れるんだったら最初からそうすればいいじゃねえか、救世」
未だ続く爆発の中から聞こえた声に神経を尖らせた彼女だったが、彼女が気が付いた時にはフローリングと壊れた眼鏡が彼女の目に映っていた。上から強い力で押さえつけられていると分かった彼女は、手をどけようと必死だが、彼女の手は全く動くことなく、床に固定されたかのようにぴったりとくっついて居た。
「俺の二つ目のスキル|『生辛操作』《マニューバー』。体を操れるスキルだ。爆発の間に壊れてなかった人形の腕をもいでお前の後ろに移動させておいた。お前の腕は悪いがしばらくは動かねえ。俺がその頭を掴んでる手とお前の両腕の神経を繋げたからな。その手が力一杯お前の頭を掴んでいる間、お前の両手は同じように力一杯何かを掴む。だからまあ、俺が手を離さない限り、お前は両手が使えないままだ」
「人形にとって貰えばいい話じゃねえか」
「お前はいつだって両手をフリーにして戦ってる。それはお前が人形を操るための必要な動作だろ?お前は人形を操っている間、絶対に自ら攻撃してくることはなかった。それがお前の弱点だ。手の内バラしたくなかったのはわかるが、露骨過ぎたな」
彼はそう言って彼女を肩に担ぐ。あれだけ活発に爆発して居た人形たちは一斉に活動を辞め、本来の姿である自らの意思で動けない存在へと戻った。
「燕尾じゃなくてお前を返すべきだったな」
彼はベランダに出ると彼女の頭を掴んでいる手を持って、ベランダの外へ彼女を吊るす。彼女は暴れ続けるが、両手は使えず、足も振り回すだけしか出来ないことに苛立ち、大声で叫び続ける。
「比企谷、やめてあげて」
ポソッと彼の後ろでそう呟いた川崎を、彼は一瞥したが、表情を変えることなく視線を元に戻す。
「おい!!聞こえたか、比企谷!!女の子にこんなことするのはクズのすることなんだぜ!その子が言ってるだろ!!?やめろよ!!」
「悪いな、救世。俺は男女平等主義なんだ」
彼はそう言って手を離した。叫び声と共に何かがこちらへと急接近していることに気がついた彼だったが、彼は迎撃することもせず、ただただ黙ってその物体を見ていた。
「よう、八幡ちゃん」
数秒しないうちに現れたのは巨大な軍用ヘリだった。いつのまにか回収した救世を小脇に抱え、彼のいるベランダの前で彼に不敵な笑みを見せる人物は彼のよく知る人物だった。
「……五徳」
「久しぶりだな。相変わらずの容赦のなさだが、まあ救世ちゃん相手ならしょうがないよな。今回はちょっとこいつもやりすぎたし。ここはお互い様ってことで、手を打とう」
「さっさと行けよ。俺はあんまりお前を視界に入れたくない」
「酷いやつだよ全く。まあいいや、今回は救世ちゃんの回収がメインだからね。じゃあな比企谷。今度は俺が勝つからな」
そう言った彼は軽く会釈をすると、扉を閉めた。轟音を轟かせながら離れていくヘリから彼は視線を逸らすことなく、見えなくなるまでの間ずっと見続けていた。彼はまた繰り返すのか、と憂いつつも次で終わらせる、という強い決心をしてベランダを後にした。
「…………悪かったな、巻き込んじまって」
そう言った彼は、一目散に鞄を持って彼女の家を出ようとしたが、彼女は彼の鞄を掴んだまま離さなかった。
「……何だよ」
「…………あんた、本当に比企谷なの?」
「……好んで俺になりたがる奴がどこにいる?俺は俺だ」
「……あんた私と同じ一組じゃないの?何でそんな……」
「まああれだ。嘘ついてたってことだ。もういいか?俺がいると別の奴が来るかもしれないからさっさと居なくなりたいんだよ」
「…………あんたみたいな奴じゃないと出来ないの。あんた以外頼れないの」
俯きながら震える声でそう呟く彼女を見て、何とかしてやりたいと少しでも思ってしまった自分に彼は呆れた。どれだけ異常でも自分の根が変わらないこと、やるべきことがあるのにも関わらず彼女のために何ができるかと既に考えている自分がいること。
「…………話してみろ」
書き方を変えました。ありがとうございました。