やはり俺は異常なのか?   作:GASTRO

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よろしくお願いします。


第10話

「……で、何か用かな?陽乃さん」

 

「私たちを強くして欲しいのよ、真黒くん」

 

無機質な黒い部屋には、巨大なモニターが数個、夥しい数の彼の妹である黒神めだかのお手製グッズ。そして幼少期から撮り貯めたであろう今時古いビデオテープの数々が棚にずらりと並んでいる。どのくらい彼が妹を溺愛しているのかが嫌でもわかるが、できれば知りたくなかったというのが彼女たちの今の心情だろう。雪乃と結衣は『部室に朝から集まっておいてね』と陽乃に言われ、集まったのを確認した彼女によってこの部屋へと連れて来られた。

 

「あの〜、本当に生徒会長のお兄さんなんですか?」

 

「そうとも!僕の名は黒神真黒。めだかちゃんのたった一人のお兄ちゃんさ」

 

腰の下まで伸びた紫がかかった黒い髪をなびかせ、高らかにそう言う彼を三人は少し冷ややかな目で見ていたが、そんなことで折れるような男ではないということは初対面であるはずの結衣と雪乃にもすぐに分かった。

 

顔立ちが整っていることや髪の毛の色などの様々な共通点を持ち合わせている彼、黒神真黒は正真正銘の黒神めだかの兄である。身長は黒神めだかよりも頭一つ分大きく、手足も長い、さながらモデル体型のような彼だが彼自身もまた、妹同様にこの学園の十三組に属していた。しかしながら彼は卒業をしたわけではなく、中退という形でこの学園を去り、現在では旧校舎の管理を任され、皮肉にもこの学園から出られずにいた。

 

「で、どうして陽乃さん、あなたがわざわざ僕に強くしてくれなんて言うんだい?知っての通り、僕は今、妹と弟を育成するゲームを進めていてね。今佳境を迎えているんだよ」

 

彼はそう言って少しあきれた様子で、親指で後ろのモニターを指す。そこにはボロボロになりながらも必死になって機械を相手に戦っている男女の姿が映っていた。

 

「あなたに弟なんかいたかしら?」

 

「いたさ。人吉善吉君っていう可愛い弟がね」

 

「……比企谷君に勝つために私たちを強くして」

 

その言葉を聞いた瞬間、おちゃらけていた彼の顔から笑顔が消えた。

 

「僕の聞き間違いだといいんだけど、陽乃さん、もう一回言ってくれないかい?」

 

「比企谷君に勝つために私たちを強くしてって言ったのよ。聞こえたでしょ?」

 

「……諦めたほうがいい。彼には勝てない。君たちじゃ」

 

「なんでですか!?」

 

結衣はそう言って真黒に食ってかかった。そうなるのも当然の反応だったが、雪乃と陽乃は対照的に食ってかかることなく、静かに彼を見ていた。

 

「……コピーするという異常性を持った彼にとってはこの学校はまさしく宝の山というべきものだろう。自慢じゃないが今の彼はある種僕が作ったと言っても過言じゃない」

 

「……どういうこと?」

 

「……話は最後まで聞いてからにしましょう、姉さん」

 

「……彼はこの学園の全十三組生の異常性をコピーした。例外なく僕もコピーされたわけだが、彼の怖いところはその異常性は全て中途半端なものという点だ。だから彼に抑える術を教えたわけなんだけど、彼はそれを逆手にとって抑えを効かなくするようにした。抑えが効かなくなった彼はキャパオーバーするまでスキルを取り込み、それらを全て劣化させていった。僕にはスキルなんて大層なものはない。ただマネジメントが人より上手なだけなんだ。だけど、こんな僕の異常性ですら彼は喜んで取り込み、劣化させた。僕は肉体に負担はあれど、長期的に見ればその負担もわずかなものになる様にして強化を行う。だけど彼は劣化版。後先考えずに凶化する。それをまた無理やり修復系のスキルでごまかす。これを幾度となく続けてきたおかげで彼の体はもうボロボロだが、それでも異常な強さを手に入れた」

 

「つまり極論を言えば、あなたと彼が会わなければ彼はあそこまでにはならなかった、ということかしら?」

 

「そういうことだ。だが、別に僕は悪いことをしたと思ってはいない。彼も僕が育成したキャラクターの一人に過ぎないしね。そもそも、ついこの間も陽乃さん、あなた別の人間連れて来ましたよね?次は自分の妹も目的を果たすための駒として使うんですか?」

 

「駒じゃない。彼らだって駒なんかじゃないわ。私の数少ない仲間よ」

 

「ならばその彼らだけで戦えばいいんじゃないですか?正直言って、僕はあなたのやり方にはいささか違和感を覚えるんですよ。どうして一人でやらないのですか?仮に仲間を募るにしてもあまりにもコロコロ変えすぎですよ」

 

ニヒルな笑みを浮かべながら、彼が吐く言葉の一つ一つに不思議な力でも込められているのか、聞く彼女たちを納得させていく。もはや感情論以外の反論は不可能とまで思えるほどに彼女たちは納得し、納得しないのは彼女たちの身内だからかわいそう、守ってあげないと、庇ってあげないとというような極めて人間らしいものだけだった。

 

「……まあ冗談はこのくらいにして、はっきり言えば強化するのは構わない。ただ、強化された君たちが、凶化された彼に勝てるのかといえば、難しい、いや、不可能に近い。だが君たちは非常に運がいい。僕の妹、めだかちゃんがいる。さしずめ、陽乃さんの目的はフラスコ計画を潰すこと。そして、妹さんとお友達は彼を部へ戻すこと。二つは今めだかちゃんがやろうとしていることと非常に関係している。めだかちゃんもまた、フラスコ計画を潰そうとしている」

 

「じゃあ、強化はしてくれるってことかしら?」

 

「まあね。雪ノ下家は仲良くしておくに値する家柄だって言ってる人もいるし」

 

「……そんなことを言う人間がいるのかしら?」

 

「まあほら、昔からの付き合いらしいし」

 

両手を上げてため息をつきながら彼は三人をある部屋へと促した。暗く冷たい空気が漂うその部屋に三人は恐る恐る入るとガシャンと大きい音を立てて扉が閉まり、部屋が明るくなっていく。

 

「君たちにまずは基礎体力をつけてもらうよ。年上だろうと手加減しないのでお願いしますよ、陽乃さん」

 

「望むところよ」




ありがとうございました。

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