魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》   作:オウガ・Ω

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これが最後のタカヤ様の戦いとなります…いままでお読みしていただき本当に感謝申し上げます


秋月家 家令デルク・シルヴァーニ



最終話 明日ー新暦108年ー

新暦108年

 

 

秋月屋敷、英霊の塔付近

 

 

 

「ハアッ!」

 

 

『せい!』

 

 

桜舞う中に刃と刃がぶつかり、ソウルメタルの振動音と火花が幾度も散り、巻き起こる刃風に桜の花びらが激しく乱れ散る

 

 

『やるな秋月タカヤ…』

 

 

 

「…………無駄話はいいです…」

 

 

 

声を発するのは碓氷カズキ…いや魔弾闘士リュウジンオーがザンリュウジンの刃を向けるのに対し、灰色がかった作務衣姿、薄い赤みがかった鞘に収められていた古びた魔戒刀を構え立っている

 

 

(…強い…気を抜いたら負ける…なら)

 

 

カズキ…いやリュウジンオーは地を蹴るなり一気に間合いを詰めるや大きく上体をひねりザンリュウジン・アックスモードで切りかかる。それを正眼の構えから八双に変化させ迫る刃を撃ち防ぐ。僅かな隙が生まれる

 

 

(かかった!)

 

 

左手に花びらを掴み顔面へと投げつける…いわゆる目潰し攻撃…しかし当たる寸前でタカヤは身体から力を抜き地面すれすれに沈むように回避しながら刃を滑らせば擦り足元を切り払う

 

 

『くっ!』

 

 

それに気づき、軽く跳躍と同時に蹴りを叩き込む。生身同然のタカヤが受ければ間違いなく致命傷を負うであろう一撃。しかし魔戒刀と鞘を交差し防ぐも勢いを殺せず近くの桜の幹に叩きつけられた

 

 

「かはっ………っ…」

 

 

 

ふらふらと立ち上がるタカヤをみてカズキは違和感を覚えていた…何故、鎧を召還して戦わないのか?ある結論にたどり着く

 

(鎧を召還しないのではなく出来ない…前は《変なコート》を着て、スラッシュアックス擬きの剣を使っていた………まさか)

 

 

そう、今のタカヤは魔戒騎士を引退し先祖より受け継いできた魔法衣、魔戒剣斧オウガ、魔導身具キリクを息子《秋月九狼》へ継承させたため鎧の召還は出来ない

 

つまり全力で戦えない状態なのに関わらず互角の戦いをしている…防御、攻撃の面で圧倒しているのに関わらずに

 

 

「…………碓氷カズキ君、もう一度だけ言うよ………《悪魔手帳》を渡すんだ…」

 

 

 

『………………』

 

 

 

「…………手遅れになる前に」

 

 

息を荒くしながらも魔戒刀を右斜めにだらりと下げ《無形》の型を取る…何度目かになる問答を耳にしながら何故、悪魔手帳を渡せというのか理由がわからない

 

《手遅れになる前に》の言葉を聞き…何か深刻な事がカズキ自身の知らないところで起きつつあるのではと思い。再びタカヤの目をみる

 

その瞳には29年前と変わらない強い意思の光…カズキは僅かに逡巡しザンリュウジンを左手に持つと何かを取り出した。黒い皮の表装の手帳《悪魔手帳》をタカヤへと投げ渡した。パシッと受け取り驚いたよう眼差しを向けてくる

 

 

『しかたないな…ほら確かに渡したからな』

 

 

「…ありがとう。コレでなんとか間に合った……」

 

 

 

穏やかに魔戒刀を鞘に収め幹に立てかけ、懐から目をモチーフにした装飾が目立つライター《魔導火》を取り出す。何をと思いみているカズキの前でカシュンと乾いた音と共に燃え上がる白金の炎で《悪魔手帳》に火をつけた

 

 

 

『お前!な、なにを!………っ!?』

 

 

いきなりのことに胸元を掴み上げたカズキの動きが止まる…燃え盛る悪魔手帳から《この世のモノ》ではないおぞましい声、さらに黒い無数の影が炎の中で踊り狂うように燃やされていく

 

 

『な、なんだよコレは…』

 

 

 

「………邪気、いや陰我だ。あと少し遅れていたら君自身がホラー召還のゲートになって憑依されていた…29年前に感じた邪気の源だったんだ」

 

 

悪魔手帳を見ながら淡々と語るタカヤ…しかしカズキは何故、こんなおぞましいモノが悪魔手帳に宿っていたんだと疑問を感じていた、まるでソレに答えるように言葉が続いていく

 

 

「………人がもつ闇の側面か生まれる邪な欲、負の思念が年月をかけモノ、人の心に宿ることで《陰我》は生まれる……《我、陰にあり》と読めるようにホラーは《陰我》宿りしオブジェの陰から現れる性質を持ち同じ《陰我》をもつ人間に憑依する。君の持っていた黒い皮の手帳には陰我を呼び蓄積する言葉…もしかしたら《人の弱み》を書いていたんじゃないかな?」

 

 

正鵠を射る言葉と共に燃え盛る火がやがて消え悪魔手帳が完全に灰になると、ゆっくりと掴み上げたタカヤを離した…額には汗が見え息も少し荒い、それに顔色はさらに悪くなっている

 

『なんでだ、なんで俺にここまで』

 

 

「なんでって?………僕が魔戒騎士だからさ…それに君には大事なモノを思い出させてくれた。それだけだ」

 

 

 

(………なんなんだよコイツ…人が良すぎるのに程があるだろ!俺が29年前にあんな事をしたのになんで恨み言一つ言わないんだ…)

 

 

真っ直ぐな裏表すらない言葉に困惑するカズキ…今まで出逢ってきた人間は必ずと言っていいほど利己的な輩が多かった、しかしそんな彼等とは全く違う。何故ここまで純粋に人の為に行動できるかがわからないし《魔戒騎士》という人間がわからない

 

 

「さあ、あと少ししたら《オーナー》さんとコハナちゃんが迎えにくるはずだから、少し花…………」

 

 

カズキに振り返った時、くぐもったような音が響きタカヤの身体が揺れる…胸からこみ上げる熱い何かが血が口いっぱいにあふれ地面に落ち桜の花びらを赤く染め上げていく…胸元をみると鋭く細かな棘が目立つ巨大な角。それが伸びた先には

 

 

『な、なんだよコレは!』

 

 

 

「…………ッボア……」

 

 

カズキの胸元…傷口のように広がる空間から無数の魔導文字が円環状に並び中から勢いよく飛び出したのは龍とムカデの頭が融合し無数の人骨と体液を滴らせる巨大な龍。そのまま首を振りまわし自身の角に刺さったタカヤをゴミのように桜の幹へ叩きつけた

 

 

『な、なんだよ……俺の身体から……なんなんだあれは!!』

 

 

「あ、あれは………し、死徒ホラー……ドラグヌスだ………間に合わなかった……逃げるんだカズキ君、ホラーは魔弾の力、君が持つ力、身に付けた力では討滅は不可能だ…」

 

 

傷口を押さえながら語り薄い赤みがかった鞘から魔戒刀を抜き放ち、空に滞空し伺う死徒ホラー《ドラグヌス》に刃を向けるもふらつきひざをついた。みると手にステンドグラスが広がり始めている

 

 

(こ、こんな時に、もう残された時は……あと少しだけ、あと少しだけもってくれ)

 

 

 

『いくぞザンリュウジン!』

 

 

ーおい、話を聞いていたのか、カズキ!?ー

 

 

 

『……タカヤの話が本当ならアレは俺が生み出してしまったモノだ…なら俺が奴を倒す』

 

 

魔弾キーを手にしザンリュウジン・アーチェリーモードに変え牽制の光弾を放ちながら、龍の顔に当たる部分が開き、ファイナルキーを差し込み滞空するドラグヌスに狙いを定めた

 

 

ーファイナル・クラッシュー

 

 

凄まじいまでの閃光がドラグヌスを飲み込む。勝った…カズキは確信しザンリュウジンをおろした。しかし爆発の煙から踊り出ると大きくひらいた口から溶解液を飛ばしてくる。かわすも僅かに飛沫がリュウジンオーの装甲に付着、瞬く間に虫食いみたいにに腐食し始める

 

 

 

ーやばいぞカズキ!装甲が溶けているぞ!?ー

 

 

『ちっ!(エ、エイリアン並みの体液か!?……どうする)』

 

 

 

一部分を強制解除、廃棄した装甲が溶け落ちるのをみてゾッとしながら、対策を練るカズキに再び溶解液を複数飛ばすドラグヌス…当たらないように回避するが追いつめられていく

 

 

 

『しまった!』

 

 

 

溶解液が眼前に迫る。しかし影が、タカヤが口から血をあふれさせながら魔戒刀で切り払うと霧散、消え去る…溶解液に触れたはずなのに刀身は腐食すらしてない事に驚いている

 

 

「はあ、はあ………は、早く逃げるんだカズキ君………ホラーは魔戒騎士にしか討滅出来ない……」

 

 

『な、なにを……お前一人じゃ………っ!?』

 

 

「いいから退くんだ……君の手に負える相手じゃない!」

 

 

血を吐きながら叫ぶタカヤの声に気圧される…今まで切り結んでいた時とは違う…思わず身を引いてしまう。肩で息をしながら魔戒刀を構え切っ先を向けるもすでに死に体。手のひらから腕にかけステンドグラスが広がる姿に息を飲む、この現象を過去にみたことがあるからだ…こんな状態で戦えば間違いなく死ね。それに鎧を召還出来ないタカヤに勝ち目はないと

 

しかし、そんなカズキの前で地を蹴り滞空するドラグヌスへと果敢に切りかかり、顔面へと蹴りを叩き込み、怯んだわずかな隙をみて上段に構えた

 

 

「………リュウツイセン!!」

 

 

『ピグガアアアアアア!?』

 

 

抜き放たれた魔戒刀の一撃が硬く強固な鱗に覆われた頭部へ力一杯叩きつけられ、苦悶の叫び声をあげ落下するドラグヌス…自由落下しながら刃を構え足元にラウンドシールドを展開、足場代わりにけり瞬く間に追いつくと円を描くように構え切っ先をむけ構える

 

 

「…………クズリュウセ…」

 

円環状の斬撃…九頭龍閃を放とうとするも激しい脱力感に加え胸に穿たれた傷口から溢れ出る血が止まらず作務衣を真っ赤に染め上げ、さらにステンドグラスが右腕、左手まで浸食し始めている

 

29年前、父親である秋月ユウキが存命していた年月の命が、今まさに尽きようとしていたのだ

 

 

『ドルャラアアアア!!』

 

 

 

「グアッ!」

 

 

ーやばいぞカズキ!ー

 

 

 

『わかってる!』

 

ムカデの外郭と無数の人骨を鳴らしながら、勢いよく尻尾を身動きできないタカヤを下へ叩きつけ、さらに追撃と言わんばかりにウロコを逆立たせミサイルのように打ち出すのを目にしたカズキはザンリュウジン・アーチェリーモードへと変え撃ち落としていく…しかし一つが光弾に弾かれ巨大な桜の幹へと落ちていく

 

 

ーマズい!あそこに人がいるぞ!!ー

 

 

ザンリュウジンの声に慌てて目を向ける。桜の幹には赤い髪を肩まで伸ばした女性が穏やかな表情で眠る姿。なぜ人が入ると思う前に駆け出し《烈風》を発動。超加速し迫るウロコの前に立つとザンリュウジンをアックスモードに変え斬りつける

 

 

『っ、なんて重さだ』

 

 

地面に足をめり込ませながらようやく切り払う。地面を跳ねるようえぐりながらウロコは埋まり無数の魔導文字を立ち上らせ消滅していく。降り立ったドラグヌスへ視線を向けるもタカヤの姿を探し見つけた…地面に倒れ伏し血を水たまりのように広げ沈みステンドグラスが浸食する姿を

 

『……タカヤ!』

 

 

駆け寄ろうにも眼前には興奮し最高の餌を見つけよだれをたらす死徒ホラー《ドラグヌス》が白く濁った目を細めにいいと牙をむき出し笑うようにみている…魔弾キーの力は通用しない。必殺のファイナルクラッシュすらも体表に微かに傷をつけただけ

 

 

手の打ちようがない事に気づきながらも打開策を必死に考えている中、タカヤのステンドグラスへ変質した指が微かに動き地面にあとをつけながら握りしめられ膝を尽きながら血と泥に塗れながら立ち上がった

 

 

「はあ、はあ…………」

 

 

息も絶え絶え、胸にうがたれた致命傷の傷口からいまだに血は止まらず、膝はガクガク揺れるも左手に構えられた魔戒刀を強く握りしめホラー《ドラグヌス》へ一歩、また一歩、踏みしめ近づいていく

 

 

『やめろタカヤ!……鎧も召還出来ないお前がたたかっても』

 

 

 

「…死ぬかもね…でも僕は魔戒騎士だ…この剣はホラーに襲われる者を守るためにのみ振るう……男が一度、剣を手にしたならば倒れることならず。ならば僕は立ち上がりホラーを斬る!君と妻を守るために!!」

 

 

地を蹴り、ドラグヌスの背へ魔戒刀を突き立て勢いよく切り裂いた…無数の魔導文字が血飛沫のように舞い、たまらず身をよじらせはねのけ、無防備状態で空を舞うタカヤへ再び溶解液を飛ばし、鱗を無数に打ち出す

 

 

『ザンリュウジン、ファイナルクラッシュだ!』

 

 

 

ーダメだ、このまま撃てばタカヤに当たるぞー

 

 

ギリっと拳を握りしめるカズキ、魔弾闘士リュウジンオー、無言で見守るザンリュウジン…もう打つ手はない誰もがそう感じていた中、タカヤは左手に握られた魔戒刀へ目を移す

 

 

倒れるひと月前、真魔界で魔法薬に使う鉱石を探していた際、時間の流れが狂った不思議な洞窟を見つけ、中へ入ると破損した《六つの鎧》とほぼ無傷の魔戒剣、魔戒鎚、魔戒鎌、魔戒刀、魔戒弓、魔戒坤がそれぞれの鎧の前にある岩場に突き刺さっていた

 

今、タカヤが手にしているのは一番、破損が激しく何色かわからなくなるほどくすんだ鎧の前に突き立てられていたモノ…装飾は完全に砕け薄い赤みがかった鞘に収められた魔戒刀を握るとするりと抜けた…レイジやユーノに話してみると『跡を継ぐ者が居なくなり最後の所有者が一縷の望みをかけ残したモノかもしれない』と返ってきた

 

 

現在、見つけた鎧と魔戒坤、魔戒弓、魔戒鎌、魔戒剣、魔戒鎚はユーノ、レイジに預けられ修復されることになり預けられ、魔戒刀と対の鎧はタカヤ自身が修復する事になった…が真魔界から帰還した直後に倒れてしまい今に至る

 

 

迫るウロコと溶解液を防ぎかわすらタカヤの目には自分を支えてくれた最愛の妻の一人、そして自身に大事なモノを思い出させてくれた恩人《碓氷カズキ》の姿が映る…鎧と魔戒剣斧、魔法衣、キリクは息子《九狼》に継がせた今、自分は魔戒騎士ではない

 

 

しかし魔戒騎士に必要なのは剣でも、鎧でもない…守りし者としての信念!強く握りしめ溶解液を、ウロコを切り払う姿からは死に向かおうとする者に全く見えない。しかし斬撃を逃れた鱗が意志を持つように楕円を描き背後から迫ろうとしたその時、魔戒刀が震えだし瞬く間に赤地に金の装飾が柄、鞘に広がるのをみてハッとなる

 

 

タカヤは知っている…金の装飾が施された朱鞘、柄に刻まれた《赤い三角形に金の円環》の刻印を……自然と腕が迫る鱗、溶解液を無視し頭の直上に素早く円を描き入れ中心が砕け散ると同時に黄金の光と狼のうなり声があたりに木霊し鱗、溶解液が光に飲まれ完全に消え去りドラグヌスが怯む。それにつられるようにカズキがみたモノ

 

 

…光の中に見えたのは朽ち果てる寸前の鎧、しかし瞬く間に損害した部分が修復、薄い氷を割るように下から現れたのは、鋭い牙をむき出しにした狼の顔を模した兜、鋭くも流線的な黄金の鎧。背中には光がリング状に幾重に重なり輝き、背後に魔界文字が翼を広げると、凄まじいまでの光が周囲に満ちる

 

 

 

タカヤが真魔界で見つけた主無き鎧と魔戒剣の一つ…それは全ての魔戒騎士達の頂点に立つ《希望》の名を持つモノ

 

 

 

     ー黄金騎士・牙狼ー

 

 

 

光のリングから凄まじいまでの炎が吹き出し加速、その勢いで顔面を殴り抜き、堅い外郭に拳のあとが残るのをみずに殴る、殴る、ひたすら殴る

 

 

 

『ドヌーヴ!デニュバアア!?』

 

 

 

『ぅおおおおおおおおおお!』

 

 

 

殴り抜く速さが目でとらえることが出来なくなり、みるみるうちにその巨体が浮き上がり始める光景に息をのむカズキ…生身であんな動きを見せたタカヤが鎧を纏いさらに力を上げた事に驚きを隠せない

 

 

『はあ!!』

 

 

浮かび上がっ身体めがけ腰を沈め、捻りを加え足が地面にめり込み罅がはいり込ませながら渾身の一撃を顎?へ叩き込むとドラグヌスは空へ高く打ち上げられもがくのを目にし、魔戒刀…巨大化し、両刃の大剣へ変化した牙狼剣を構え地を蹴り上げ飛翔、さらにリングから炎が燃え盛り加速、その姿は伝説にある黄金の狼と重なる

 

 

『ゲートより生まれし死徒ホラードラグヌスの陰我、今断ち切る!!』

 

 

『ギニャアアアアアーーーーーーーーーー』

 

 

全身に炎…烈火炎装を激しく燃え上がらせもがくドラグヌスの顔面を牙狼剣の刃が切り裂き、首、長い胴を焼ききり真っ二つにした瞬間、ボコボコと膨れ上がり爆発四散するも魔導火に跡形もなく燃やし尽くされ消滅する様を呆然と見るカズキの近くに黄金騎士牙狼が降り立つと瞬く間に鎧が魔界へと返還され、タカヤが姿を見せるも、ぐらりと体を揺らし倒れた。変身解除しかけよりみたのは真っ赤に染まった作務衣、血の気を完全に失った顔に虚ろな瞳から意識が混濁しているのがわかる、それに脈も不規則で全身にはステンドグラスがほぼ広がる様に言葉を失い思った

 

………もう助からないと

 

 

そんなとき、微かに声が聞こえる

 

 

 

「な、なんだよ……なにいってるんだ」

 

 

「はあ、はあ…返り血は浴びてないみたいだね……よかった」

 

 

「た、他人のことより自分を心配しろ!お前は、お前はなんで…なんで……」

 

 

「守りたかったんだ……君と妻………ノーヴェを……すこし頼めるかな…僕を…」

 

 

「わかったからしゃべるな!……連れて行くから黙ってろ」

 

 

 

肩を貸し歩き出す…手から朱鞘に収められた魔戒刀が落ちる…ステンドグラスと変化した四肢から乾いた音と共にガラス片に似たものが血のあとのように落ちていくのを目にし心が重くなる…やがて桜の幹に寝かせつけられたノーヴェの隣に座らせるように下ろした。タカヤは最後の別れを告げようとしてるのだとカズキは悟った

 

 

「少し待つんだ。カズキ君、ジッとしてくれるかな」

 

 

「な、なにを?」

 

 

 

ガラス片を零れる手に握られた魔導筆から放たれた光がカズキの身体へと入り無数の魔導文字が浮かび消えたのをみて困惑するのをみて静かに話し始めた

 

 

「君の陰我…ゲートを押さえ込んだ……でも…コレは根本的な解決にはならない……君、自身の陰我は深いところにある……それに最悪な事がわかった。君の世界に死徒ホラーが六体、悪魔手帳をゲートにして限界している事が……くっ…」

 

 

 

衝撃の事実に驚くカズキ…しかしすぐに現実に引き戻されたピキピキと亀裂が入る音が聞こえる…もうタカヤに時間がない…

 

 

 

「すまない……もっと早くに君をオーナーさんに見つけて貰うようにして入れば……だが息子なら。君を助ける事が出来るかもしれな…い…」

 

 

 

「しゃべるな。今は…」

 

 

 

「そうだね…本当にごめん」

 

 

 

目を閉じ謝罪するタカヤから離れていくカズキ…ゆっくりと体を起こし桜の幹に身を預け眠る妻、ノーヴェの髪に触れる…もうこうして髪を撫でることも互いの肌のぬくもりも、言葉もかわすことはもうできない……何度もゴメンと心の中で呟いた時、ゆっくりと瞳が開いた

 

 

「タカヤ、どうした?またそんなにボロボロになってしようがないな」

 

 

 

「あ、ノーヴェ…僕は」

 

 

 

「いいの。あたしは…アナタをこうして最期を看取る事が出来るから……」

 

 

 

強くもなく柔らかい力でタカヤを包むように抱きしめるノーヴェは悟っていた…もうこれが最期になるんだと、あの日、みんなと一緒に逆プロポーズに近い告白をし付き合い始め結ばれ…たまに喧嘩したり、意地を張り合ったり、Hの回数で揉めたりしながら楽しい日々が思い浮かんだ

 

ヴィヴィオ達もその日が来ることを覚悟していた…今年が最期になることを知り、全員で思い出作りをたくさんしたり、フロニャルドやルーフェン旅行も子供達を連れ楽しく過ごした。全員で一日交代でタカヤと過ごすようになり、ノーヴェと過ごす一日が最後の時になるなんて誰も予想もしていなかった

 

 

「ねぇノーヴェ、少しさ不思議な夢をみたんだ…」

 

 

「不思議な夢?」

 

 

「僕が魔戒騎士じゃなくて、学生でオモチャを《がんぷら》で戦う夢を…そこにはノーヴェがいて皆もいて…魔法とかはないみたいだったけど…」

 

 

 

「なんだよそれ?………でもそれも悪くないよな…学生服のタカヤ似合ってるかもな?じゃああたしも着てみようかな」

 

 

 

「うん…そうだね…………ノーヴェなら何を着ても魅力的だ……ねえ僕と一緒になって幸せだった?」

 

 

 

ピキピキと乾いた音と共に絞り出した声に胸が張り裂けそうになる…でも今は、最後まではと我慢し互いの顔を見る…顔にステンドグラスが広がり色が薄くなり瞳はもう混濁しているのにかかわらず、まっすぐみながら言葉を紡いだ

 

 

 

「幸せだったに決まってんだろ………タカヤ」

 

 

 

「うん、僕も………ノーヴェに、ヴィヴィ、ハル、ミア、クロ、ミウがいたから。でも急いで来たらダメだよ………ゆっくりコッチに来てね……みんなにもつたえて。ノーヴェ、愛し…てる…よ……」    

 

 

その言葉を最期にステンドグラスが広がり砕け崩れ落ちた。微かに残った温もりがある作務衣とステンドグラスを抱きしめた…もう離さないと言わんばかりに

 

 

「バカ、先に逝ったこと後悔するなよ………ばか…バカ………ひっ、っつーーーーーーーーー」

 

 

静かにすすり泣く声が響きわたる。その泣きじゃくるノーヴェの姿を桜の花びらが舞い隠した…

 

 

 

 

 

 

秋月タカヤ

 

 

歴代最強にして最年少のオウガ継承者。ホラーの王アギュレイス率いる十三体のホラーとの壮絶な戦いに身を投じ《守りし者》としての信念を会得し、伝説の三騎士、白夜騎士、閃光騎士、雷鳴騎士、新たな系譜の無銘騎士、先の未来から来た赤煌騎士と共に戦い遂にアギュレイス討滅を果たす

 

 

しかし、漆黒の魔皇石に命を吸われ尽くし死を待つだけだったが父親であるユウキの生きた年を継ぎ足すことで命を長らえ、ノーヴェ達からの逆プロポーズと自身の想いを告げ六年後にゴールイン

 

 

一男、六女に恵まれる

 

 

新暦108年、秋月屋敷から離れた桜舞い散る庭園で碓氷カズキと邂逅、直後にわたされた悪魔手帳を燃やすもカズキの身体に開いたゲートから現れた死徒ホラードラグヌスとの交戦により致命傷を負いながらも黄金騎士牙狼の鎧を召還、討滅直後にカズキのゲートを一時的に封印(期間は41日が限度)し妻の一人ノーヴェに看取られ生涯を終えた

 

 

 

享年42歳

 

 

歴代継承者のなかで二番目の早死になった

 

 

「……」

 

 

少し離れた場所にいるカズキの耳にも届き、拳をギリっと握りしめ血がにじんでいる。しばらく立ち尽くしていた…

 

 

「……待てよ」

 

 

声が聞こえ振り返ると真っ赤な髪に左胸に装飾品が目立つコートを纏う青年が呼び止めると同時に風が舞う…カズキの首筋にソウルメタルの刃が寸止めされた状態で止めたまま金色の瞳を向けている

 

 

「……あんたはお袋から、そしてオレの子供、シロウとユウから初めて会う爺ちゃんを奪った…」

 

 

 

「……」

 

 

「…親父はな、あんたを本気で助けようとしていた…命をかけてな……早く行けよ…オレがまだ冷静でいられるウチに………忘れるな、お前がホラーのゲートになってることをな……」

 

 

スッとソウルメタルの刃を首筋からのけ乾いた音ともに鞘へ収め踵を返す…向かうのは砕け散った破片と作務衣だけを抱きしめ泣き続ける母の元……声をかけることもなくカズキは電ライナーへ乗ると静かに走り出し空へ展開されたレールを走り去っていく

 

 

 

「……お袋」

 

 

「クロウ…」

 

 

「………ごめんお袋、オレがもっと早くエルトリアから……」

 

 

 

「いいの。あたしは覚悟…は出来てたから………大丈夫…」

 

 

 

ゆっくりと顔をあげる。目元を涙で濡らし真っ赤にはらしたまま無理に笑顔を作り父親の遺体を抱きしめる母に声がかけられない…しかし別な声が響いた

 

 

「と~さん、と~さん、この剣と~さんの?」

 

 

 

「シ、シロウ!?ユウと一緒にアミタとキリエと屋敷にいたんじゃ………こ、コレは!?」

 

 

黒髪に犬耳パーカー、ハーフパンツ姿のシロウが手にしモノに息を飲んだ…朱塗りの鞘に金の装飾が施された魔戒剣の束に刻まれた紋章が刻まれた剣…黄金騎士《牙狼》の称号を受け継ぐモノのみが許される牙狼剣を軽々持つ姿だった

 

 

コレでタカヤとあたし達の物語は終わり…あの日に出逢った事を一緒になった事は後悔していない

 

ヴィヴィオ、ジーク、ミウラ、ファビア、アインハルトも覚悟はできていたから…

 

 

あれから、タカヤが死んでからクロウは碓氷カズキのいる世界に行っている…

 

 

現界した六体の死徒ホラーを討滅するために…アミタやキリエもついて行きたがってたみたいだったけど、クロウが『お袋たちと、妹たちを頼む』って無理やり残らせた

 

 

 

メイはしばらく呆けていた…でもすぐに立ち直った。けど、たまに夜に一人で泣いてるのを目にしてる。まだ完全に受け入れられてないんだろう。あたしもタカヤが居なくなってから寂しくて仕方なかった

 

 

………でも、マユや子供達をみる度にがんばらなきゃと奮い立たせた。みんなも同じ気持ちだった

 

 

 

さて、がんばるか……待ってろよタカヤ。たくさんみやげ話を用意してっからな、アタシラらより先に逝った事をたくさん悔しがらせてやるからな?

 

 

 

 

  ーははは、いまでも充分悔しいかな……ー

 

 

 

ふと、タカヤの声が聞こえた気がした…さあ、今日も元気に生きようかな

 

 

 

 

それから15年、新暦1XX年にあたしの孫のシロウは黄金騎士牙狼の称号を受け継いだ……オウガの称号はユウの子供が継いで11の騎士の系譜が生まれたんだ

 

 

まるでユズリハのように次へと繋ぐように…それから70年が過ぎた。ヴィヴィオ達が先に行くのを見届けていた。でもあたしも永くはないかも知れない。最近ベッドに寝たきりになる事が多くなった

 

 

「…………」

 

 

もうあんまり見えないし、息もするのがつらい…カヤとの約束だけがささてたんだ

 

 

魔戒騎士の務めに奔走するクロウ、シロウ達はいない一人、放たれた窓から暖かな風に桜の花びらがかすかにみえた先にあたしより先に逝ったタカヤがいた。最後に言葉を交わした頃と変わらない。でもなんとなくわかった

 

 

「お。おそ……いよ……」

 

 

 

『………ノーヴェ、ごめんね寂しい想いをさせて…』

 

 

「いいの……たくさんはなしたいことがあるから……こんなにしわくちゃなおばあちゃんになるまで……待たせすぎだっての……バカ、バカぁ」

 

 

 

『ううん、キミは昔と変わらないよ…もう一度自分をみて』

 

 

 

「え?うそ……」

 

 

 

みるとタカヤと出会った頃の若いあたしの姿になっていた

 

 

『さあ、いこうかノーヴェ……みんなが待っているから』

 

 

 

「う、うん………タカヤ。もう、もう二度とあたしを離さないで、一人にすんなよ」

 

 

 

『うん、約束する。ずっと一緒だ……何回生まれ変わって離れ離れになったとしても、もう一度キミと』

 

 

 

「絶対、絶対だかんな!ウソつくなよ………タカヤ」

 

 

 

 

しっかりと抱きしめられたノーヴェの瞳に涙がらほほを伝い流れ落ちた……新暦1XX年、ノーヴェ・N・秋月。永眠

 

 

魔法世界に初めて生まれた黄金騎士《牙狼》の誕生を見届け、たくさんの息子達、孫達を見守る人生を終えた。その顔は笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………永きに渡る輪廻転生を魂は繰り返していく。辿り着く先は異なる世界…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Plaese set your GP-Bass》

 

機会音声が響くと青みがかった光の粒子があふれる中向かい合うのは少年と少女

 

 

《Beginning[Plavesky.particle]dispersal.Fiard3,corony……Please set your GANPLA》

 

 

 

「…アストレイベースの改造機体…楽しめそうだ…………Oガンダム・B!でるぞ!」

 

 

「秋月タカヤ、アストレイ・ブレイド!いきます!!」

 

 

《BATTLE START》

 

 

 

 

秋月タカヤ、中島ノーヴェ……二人を中心に織りなす鮮烈な物語は再び紡がれていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはVivid~守りし者~

 

 

 

 

 




長らく続いた《魔法少女リリカルなのはVivid~守りし者~》、三年強に渡る連載がようやく完結を迎えられました



コレもひとえにお気に入り登録していただいたユーザー様方、なろう時代、ハーメルンに移ってから応援していただ元気づけてくれたユーザー様方があってこそ書き上げることが出来たと言えます



この場を借りて、お気に入り登録していただいたユーザー様、なろう時代、ハーメルンで応援していただき元気づけてくれたユーザー様方、ハーメルンのユーザー様方、本当にありがとうございます!







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