魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》   作:オウガ・Ω

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WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


最終話 明日(前編)

新暦108年…春

 

 

春の陽光が木々を色づかせ暖かな風が咲き誇る桜の花びらが舞いながら、古い洋風の屋敷へ流れ開け放たれた一室へ舞い込み天蓋付きのベッドに眠る男性と隣に座り、彼の手を握る女性の身体をさけながら顔へ落ち、かすかにまぶたが動いた

 

 

「………ん」

 

 

「……!!…良かった…《真魔界》から帰って来ていきなり倒れたから…みんな心配、すごく心配したんだからな!」

 

 

「あ、ごめん……すこし疲れが溜まってたからかな…あれ、みんなは?」

 

 

柔らかなベッドから身体を起こし、赤い髪を肩まで伸ばした女性に笑顔で応える男性。その肌は血の気も薄く髪は真っ白で首の後ろで結ぶ彼はとても40を過ぎたばかりには見えず80ぐらいにも見える…夫の肩に手を貸し寄り添い起こす女性の表情は一瞬暗くなるもすぐに隠した

 

 

「…みんなは今、すこし出かけててクロウはエルトリアにアミタとキリエを迎えに、マユ達はメイとデルクとリームが見てて…今はあたしとあなただけしか居ないから」

 

 

 

「そっか………なんか懐かしいね。二人っきりなんて。そうだひさしぶりにデートしようか?外は桜が咲いてて天気もいいから」 

 

 

「……あ、ああ…そうだな」

 

 

「じゃあいこうか…」

 

 

微かに笑みを浮かべ窓から入り込む春の風を感じながらベッドからでる彼に肩を貸す彼女の目に涙が伝い絨毯へ落ちる。ゆっくりと支えるように歩き出しドアノブに手をかけ扉を開いた……皆に託された、最期になるかも知れない《ひさしぶりの二人っきりの時間》を過ごすために………

 

 

 

 

 

最終話 明日(前編)

 

 

 

新暦79年 秋月屋敷別邸

 

 

 

 

「ほら、気合いいれろよ!試合は間近なんだからな!!」

 

 

「はい!」

 

 

元気よく声が庭園に響く。そこにはスパーをするヴィヴィオとノーヴェ、少し離れた場所ではアインハルトと…

 

 

「ほな、少し打ち合おうか?」

 

 

「よろしくお願いします…えと」

 

 

「ジークでもエレミアでもええんよ?うちはハルにゃんって呼ぶから」

 

 

「で、では…エレミアさん。いきます」

 

 

軽く構えたアインハルト、対するは次元世界最強の少女ジークリンデ・エレミア。風を切りすらっとし脚から放たれる蹴り、構えた拳がぶつかるたびに風が舞い打撃音が木霊する、もう一つの場所では

 

 

 

「ミツにぃ、こうでいいかな?」

 

 

「ん、悪くないかな…あとは先の先の動きを見切れば次の相手のトライベッカさんとやり合えるよ」

 

 

「本当に!?」

 

 

「う、うん…でも今はコロナちゃんと練習をしよう……?」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

「い、いや、誰かに視られてる氣がしたんだけど…」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「やっぱり十字架仮面と動きが似てる……」

 

 

ミツキに視線を注ぐのはツンデレガンナー執務官…ティアナ・ランスターの手元にはココ数日の行動を記録した分厚いファイル。夜に現れる怪物を無手で倒す白い鎧に十字架を模した仮面の戦士のありとあらゆる角度から納められた写真、さらには様々な書き込みがびっしりと手書きで白いノートが埋め尽くされている

 

 

 

「………じかに聞いた方が……でもそうしたら私の家から出て行ってスバルの家にまた……ダメダメダメ!私がスバルからミツキを守らなきゃいけないし……あ!?」

 

 

 

悩むティアナの手から分厚いファイルが落ちページが開き止まる…そこにはミツキが個展に向け絵を真剣に描く姿、無防備にフにゃあとした寝顔、絵筆を構え一点を視てキャンパスを前にする姿が収められている

 

 

そっと一枚を撫でるように手にしファイルへ挟みだした…

 

 

 

「そうよね…ミツキが十字架仮面な訳ないわよね~そうよ。将来は絵描きになるっていうんだし…」

 

 

現在ティアナがいるのは秋月屋敷別邸から500メートル離れたD&P社の屋上(無許可)…夜にしか起きない《ガイスト事件》は管理局内部でも問題になってるのだが捜査は何の進展もみせないどころか手を引くよういわれていた

 

だが、それがティアナに火をつけた…そしてガイストが現れる場所には十字架仮面が姿を見せる事を掴み遭遇するも質問する前に逃げられ、逆に助けられた事、そして

 

 

 

ー……ち、ちょ!はなしなさいよ!……さわるなったら!っ痛!?ー

 

 

 

ー……じっとして傷が残る……アナタは女の子…顔と髪は女の子にとって命なんです?ー

 

 

 

深く斬られた右頬に手を添える白い装甲に包まれた手が淡く、太陽のような暖かさを感じ目を閉じた、次に目を覚ました時には管理局の医療施設にいて頬の傷が綺麗になくなっていた

 

あとで聞いた話によると十字架仮面が意識を失ったティアナを伴い現れ医療局員に預け瞬く間に姿を消したらしい。しかも《お姫様だっこ》されてたと聞いて事情聴取にきた局員が退室してから顔を真っ赤にしベッドの枕に顔をうずめ悶えていた

 

 

「………十字架仮面……必ず正体をつかんでやるんだから!そしてミツキは私が守るし………でも、リオと仲良さそうだし……もしかして…し、調べてみる価値はあるわよね…そう!コレも捜査の一環なんだから…不純異性交遊はやめさせなきゃ!!」

 

 

 

無理やり納得させ再び黒字に金のXの刻印が目立つ双眼鏡を片手にミツキの観察(またの名をストーキング)を始める………家に帰ればいつものようにエプロン姿のミツキが夕食を用意して笑顔でむかえてくれるに関わらず

 

 

 

「クシュン!?風邪引いたかな?」

 

 

「ミツ兄!早く早く!!」

 

 

「よろしくお願いしますミツキ先輩」

 

 

「うん、じゃあ構えて…」

 

知らぬところで三角ならぬ四角関係になってることを気づかずリオに急かされコロナに春光拳の型を教えていくミツキ…またの名を十字架仮面、仮面ライダーイクサ…彼のゴールは果たして?

 

 

 

 

聖王教会にある墓地…古い墓が並ぶ中、真新しい墓にひざを突くのは無限書庫司書長にして新たな系譜の魔戒騎士、ユーノ・スクライアが花を手向け目を閉じていると背後に気配を感じ目を開け振り返る。なのは、はやて、フェイトが花束を手にし歩き出し止まるとそっと墓へと添え目を閉じひらいた

 

 

「ユーノくん、このお墓は?」

 

 

「……僕の先生…秋月オウマ先生のお墓だよ……嫌じゃなかった?みんなにとって先生はヴィヴィオたちの」

 

 

 

「いいの…ユーノくん」

 

 

 

ヴィヴィオ達の命を狙いホラーを差し向け、さらには攫った…といいかけたユーノの言葉を遮るなのはの隣にたつフェイトが口を開いた

 

 

 

「ヴィヴィオたちを攫ったのは許せない…でもユーノにとって大事な先生だったんだ。なんでそうなった理由も」

 

 

 

「誰だって過ちはする…でも最期は正気を取り戻して

ユーノくんを連れてきて、開きった真魔界に繋がるゲートを閉じてくれた……ウチらの大事な人とみんなが暮らしてる世界を守ってくれた…だからええんよ」

 

 

 

「…………ありがとう………じゃあ行こうか。ヴィヴィオたちの練習も終わっている頃だし」

 

 

なのは、はやて、フェイトの言葉で澱んでいた自身の心が少し軽くなり立ち上がるユーノと三人は共に墓地を後にし秋月屋敷別邸へ向かおうとするが、ふと何かを感じ目を向け息が止まった

 

 

(オウマ先生!?)

 

 

視線の先には魔戒法師の正装に身を包んだ《秋月オウマ》と導師服姿の女性…その顔は自分が知るモノと違い穏やかで険が取れ澄んだ瞳をむけている…隣にいる女性がゆっくりと頭をさげてきた

 

 

ーつらい役目を負わせてすまなかった…お前の言葉は魔戒剣で斬られるよりも効いた…ー

 

 

ーでも、僕は…先生を…ー

 

 

ー…私が正気にもどるには想念を込めし剣にて討たれるしか無かったのだ…もう気にするな、私は望んで討たれたのだ………ユーノよ、私の死を悼むつもりならば尚更、守りし者として剣を振るえ…男が一度、剣を手にしたらば倒れることならず。魔戒騎士として、守るべき者達を強く想い戦え……ー

 

 

 

声が響くと強い風が舞い墓に添えられた花が舞うと師と女性の姿は消えている

 

(先生…僕は誓います…魔戒騎士、いえ守りし者として戦うと……そして皆が明るい明日を過ごせるように)

 

 

心の中で師オウマへの誓いをたてた時、柔らかなぬくもりを感じる。ハッとなり見るとなのは、はやて、フェイトが手を握り締めている

 

 

「大丈夫だよ…ユーノくん」

 

 

「もし折れそうなったら支えるから」

 

 

「ウチらがユーノくんの還る場所になるから…元気だしてな」

 

 

「……うん」

 

 

うなずくと、笑顔になる三人…そのままゆっくりと墓地を後にするユーノの顔から迷いは消え、守りし者として戦うという強い意志に満ちあふれていた

 

 

 

ユーノ・スクライア

 

 

無限書庫司書長にして魔戒騎士。無限書庫を完全に整理し各部隊からの資料請求等への対応を常どおりなくキーワドを検索可能なシステム構築したことでスムーズにかつ正確な資料を提供できるようにした

 

魔戒騎士としては新しい系譜だが喪われた秋月家の魔導術を駆使しエレメント封印、呼びかけに応じ呼ばれた世界でホラーを討滅。その実力は三騎士からも認められるようになった

 

……しかし、これから3ヶ月後。なのは、はやて、フェイトの妊娠が発覚…鬼いちゃんs、お義父さん、赤いゴスロリハンマー、ミスターブシドーとの生死をかけた鬼ごっこが繰り広げられるも義母sの口添えがあり許しをもらい結婚(笑。一男二女に恵まれる

 

 

 

余談だが、本来ミッドでは一夫多妻制は無いのだが数ヶ月前に婚姻にまつわる法制定で《対象者の人格、経済、婚姻関係になる相手との同意が在れば認められる》と改正された

 

 

その改正に関わった一人…クロ…K(敢えて名前は伏せておく)提督によると

 

 

『……家族になって十数年になるけど、母さんと母さんの友達を前で話す義妹と親友達の目は今までに見たことがないほど恐ろしかった……出来れば二度とあの目は見たく無い……』

 

 

と、語る関係者の身体が震えていたそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンクさん、どうかな?」

 

 

 

「ん~なかなか好い出来ではないか」

 

 

銀色に輝く十字架に翼を組み合わせた細工を見たチンクはマジマジと手にとり、触り心地と質感に簡単の声を上げる。それをみて緊張していたレイジも笑顔を見せた

 

 

「来週《お~ぷん》までに数を作らなきゃ……チンクさん、ありがとうございます。僕の為にフドウサンやら改装費も」

 

 

「いいのだ。それより今は店の開店に向けて準備をしなければ」

 

 

「あ、あの…チンクさん……休憩しませんか!?」

 

 

「う、うむ!?なら、今日はわたしが作ったケーキと一緒に食べようではないか」

 

 

「じゃあジロウから貰ったコーヒーを入れますね」

 

 

席を立ち上がり《ジロウ特製コーヒー豆》をミルで挽き始めるレイジの隣でいそいそとクロスを広げ皿を並べ瑞々しいイチゴとふんわりとデコレートされたケーキを切り分けていく。二人がいるのはナカジマ家から少し離れた場所にある一軒家を改造した店舗。中は空のショーケースが並び所々白い布がかけられている

 

手に職をと探し始めた頃、チンクと共に歩いていた時に見かけた銀細工…シルバーアクセサリーに興味を持ち材料を集めて作ってみてそれをチンクが同僚に見せた所、評判が良く噂を聞きつけた局員も《どこの店のだ》と聞きに来るほどだった

 

 

レイジの意外な才能に驚きながら、そのことを話してみると「やってみていいでしょうか?」と前向きな返答にチンクは喜んだ。開店する場所から改築工事する費用、その間に造形と経営学の勉強をしようやく目処がたった

 

 

「はい、できましたよ。さすがはジロウ特製だ」

 

 

「そうだな……レイジ……ワタシに話とは」

 

 

 

「……あ、あの……そのう……」

 

 

淹れ立てのコーヒーのなんてもいえない香りが二人しかいない店舗に漂い、チンクの質問にあたふたするレイジの姿は見ている彼女には新鮮で笑みを浮かべてしまう…

 

軽く口につけ飲むコーヒーは程よい酸味と濃厚な味わいはケーキとよくあい食指が進む中、今まで顔を伏せていたレイジが顔を上げ真剣な表情で見つめてきた

 

 

「チ、チンクさん………あの………こ、コレを受け取ってください!!」

 

 

「こ、コレは…レイジ殿……」

 

 

 

「……こんな僕ですけど、魔戒騎士で、いつ死ぬかわからないですけど……け、け、結婚を前提としたお付きあいをお願いします!」

 

 

「ひゃ、ひゃい!こ、こちらこそよろしく…た、たのむ!」

 

互いに頭を下げ渡された小さな小箱を開けるとレイジはチンクの白魚のように滑らかな左手薬指に初めて作ったペアリングを嵌め、見つめ合い手を絡めキスを交わす

 

 

《やれやれ、見せつけてくれるねぇ》

 

 

今すぐにでも特濃ブラックを飲み干したい気分のエルヴァをよそに2人っきりの甘い空間が形成されていくのを見るに絶えず眠りについた

 

 

 

布道レイジ

 

 

閃光騎士狼怒の称号をもつ…コレから数ヶ月後、シルバーアクセサリーショップ《フドウ》を開店。彼が生み出した銀細工は老若男女を問わずに魅了したちまち有名になり様々な管理世界から注文が殺到するほどになった

 

 

もちろん魔戒騎士としての務めを果たし、秋月家に残された絵図面をもとに新型号龍を開発。エレメント封印が容易になるよう尽力した

 

 

銀髪眼帯の臨時美人店員《チンク・ナカジマ》目当てにくるのも多いが《ワタシはレイジ殿の妻だ》と広言しあっさりと玉砕している

 

 

これから二年後に入籍、双子(二卵生双生児で男の子と女の子)を授かった

 

 

 

 

 

 

 

「よし!今日はココまで全員整列!!」

 

 

 

「「「「はい!ジロウ先生!!」」」」

 

 

聖王教会にある騎士達の練武場に響く声に剣、トンファ、槍を納め整列する少年少女達。その先には魔法衣をぬぎ訓練服を来たジロウが鋭いまなざしをむけ一人一人の顔を見ながら簡単なアドバイスをしていく彼らの胸や腰にはアギュレイスとの戦いに赴く前に手渡した御守りが風に揺れている

 

 

「次の指導までに各々、互いに指摘と研鑽を続けろ……《鐘割り》まであと一週間。しっかり励め。では解散!!

 

 

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

元気よく声を上げる教え子達にいつも厳しいまなざしを見せる顔が思わず緩ませながら魔法衣を手にした時、スッとタオル、ポカリが左右から現れた

 

 

「あのジロウ様。汗を吹いてください」

 

 

「喉も乾いてますよね。さあコレを」

 

 

「ん、すまないな」

 

 

ジロウへタオルとポカリを差し出す二人…柔らかな笑みに頬に朱をささせる聖王教会執事(?)オットー、顔を真っ赤にしながら俯かせタオルをだすシスターディードから受け取りのどを潤しつつ汗を拭く様に見ほれている

 

 

(………ジロウ様。細身に見えてすごい筋肉……逞しいです……)

 

 

 

(……大きい手……ボクの……もしアソコ以外に触られたら………ダメだ僕……はしたない)

 

 

 

「どうした二人共。顔が赤いぞ……風邪か?」

 

 

「い、いえ!なんでもありません!!」

 

 

 

「そ、そうです。それより今日はコレから時間はありますよね…実は新作メニュー出来たので試食を…」

 

 

「ジロウさ~~ん」

 

 

精一杯の勇気を出したオットーの声が遮られた…陸士隊制服に身を包んだギンガが練武場の出口で手を振る姿をとらえた。片方の手には大きなバスケットが握られているのをみてディード、オットーは顔を見合わせ焦っているのを気にとめず駆け寄り腕を絡めてきた

 

 

「ギンガさん?どうしてココに」

 

 

「ひさしぶりにスバルと一緒にお弁当を食べようかなって届けにいったんです…でも先に昼食とってたんです。この量は私一人でさすがにたべきれなくて……お昼まだですよね?一緒に食べませんか?」

 

 

「ああ、別に構わな………」

 

 

「ギンガ、ジロウ様は私たち姉妹とコレからお昼をする約束があります。残念だけど」

 

 

「ふ~ん。でも教会の食事って味が薄くて、お肉が少ないって聞いたんだけど。ジロウさんってお肉が大好物なんだけど」

 

 

 

「肉ばかりじゃ栄養が偏りますよ…聖王教会で取れたて野菜で作った人参、セロリ、スプラウトたっぷりサラダが好きだってジロウ様は言ってます」

 

 

練武場におどろおどろしい気が立ち込め近くで片付けをしていた生徒達は戦々恐々する

 

 

 

「ディード、オットー、ギンガさん、俺は食べられれば別に…」

 

 

「「「ジロウ様/ジロウさん/は黙ってて!!」」」

 

 

ギンッ!と使徒ホラーをも凌駕する気迫と鋭いまなざしを向けられ拭いたハズの汗がたらりと流れ出すジロウ…やがて三人に引きずられるように練武場を後にした

 

 

 

(ジロウ、ギンガ、オットー、ディード凄く怖いよ)

 

 

 

ウルバも三人から感じるオーラにおびえるしかなく無言を貫いた…

 

 

 

 

 

四万十ジロウ

 

 

雷鳴騎士破狼の称号を持つ魔戒騎士。アギュレイスとの戦い後、聖王教会の剣技指導教官として騎士カリムに招かれる。

 

 

鍛錬は苛烈では在るものの、見捨てたりはせず根気よく指導する姿と、騎士としての姿勢と人柄により教え子達からは慕われている

 

 

鷹矢たちと共に様々な世界からの呼び掛けに応えホラー討滅、エレメントとオブジェの浄化など魔戒騎士として務めも怠ること無い

 

 

 

コレから四年後、オットー、ディード、ギンガからの熱烈なアプローチに自分の想いを告げ遂にゴールイン…その際に教え子達数人(女性騎士)、神父たち(ディード、オットーのファン)の悔し涙を見せていた

 

 

ークイント~俺の娘がまた嫁に行ってしまった~うれしいんだけどよ~ー

 

 

と嬉し泣きする義父の姿があったとか

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、ウェンディ…さすがにコレは」

 

 

「………ナ~ニいってるんっすか。今日はソウマッチとの初めてのデートなんすからね♪はいあ~んッスよ?あ~~~ん♡」

 

街中にあるオープンカフェ《甘兎庵》。互いに向き合うよう座るソウマに様々な季節の果物をちりばめた九寿餅に黒く香しい糖蜜たっぷりかけられたカップル限定スイーツ《甘い口づけ》を掬い差し出すウェンディに冷や汗を流す……実はソウマは甘いモノが苦手。しかもお客さんがいる店内での『あ~ん』攻撃は更に拍車をかけるばかりだ

 

 

ーチッ!リア充め……ー

 

 

 

ーなんてあたしたちに見せつけて楽しいわけ?ー

 

 

 

ーデルクちゃん、はいあ~ん♪ー

 

 

ーリ、リーム様!さすがにコレは……ー

 

 

ーデルクちゃん、様つけは無しって言ったじゃな~い………もう少ししたらこんな風にデートできなくなるんだしー

 

 

ーうう~わかりました……リ、リームー

 

 

 

ーよろしいっ!じゃ改めてあ~~ん♪ー

 

 

 

舌打ちする独り身女性達……それに負けないぐらい甘い空間を形成する結婚間近のカップルの睦言が薄い襖越しに響くなかさしだされた甘い黒蜜たっぷりの九寿餅に意を決して食べようとするも空を噛んだソウマの頭がガシッと手に掴まれ、唇に柔らかな瑞々しいウェンディの唇が触れ滑り込まれた舌と共に甘いナニか、先ほど《あ~ん♡》をさせ食べさせようとしていた黒蜜たっぷりかけられた九寿餅だと気づいた時には名残惜しそうに唇が離れ悪戯っぽい笑みをむけている

 

 

 

「はあ~どうっすか甘兎庵の限定スイーツは?」

 

 

「う、う、う、ウェンディ!?な、な、な、なにをぅ!?ま、周りの客が見てるだろう!?こういうのは……」

 

 

 

「こういうのは何っすか?あいかわらず恥ずかしがり屋さんっすねソウマッチは~………パパりんが居ないときはそれよりすごい事してるのに♪新婚さんプレイに外で青か…」

 

 

 

「わ~わ~!?お、大きな声で言うな!もし知り合いに聞かれたら………っ!?」

 

 

 

あわてふためきガタンと席をたちウェンディの口を押さえる…しかし背後に魔戒槍、魔戒剣、魔戒根、魔戒斧が突き刺さるような殺気、いや怒気が浴びせられギギギと振り返った先には

 

 

 

「ほ~う……オレが居ないときにそんなことやっていやがったのか…………」

 

 

「「パパりん!/ゲンヤどの!?」」

 

 

二人の目の前には怒りのオーラを纏わせた鬼…いや陸士隊制服に身を包んだ壮年の男性《ゲンヤ・ナカジマ》三佐の姿……ゆらりと歩きながらゴキキ、ゴキキと指を鳴らす度に周りの空気が歪む様に周りの客達は戦々恐々し、中には気絶、あるいは『いいぞ!リア充なんか消しちゃえ~時代はやはり可愛い男の子よ!!』と声を上げる金眼つり目、胸が残念な赤い髪の女性客からの声援があったのは気のせいだろうか?

 

 

「……さてと覚悟はできているなソウマ、いや嘱託教官補佐《山刀ソウマ》」

 

 

 

「……に、逃げるぞ!ウェンディ!!しっかり捕まってろ!!」

 

「ま、待つッス!いきなりお姫様抱っこは……」

 

 

「だまって俺に抱かれていろ!ウェンディ!!」

 

 

 

立ち上がるや否やウェンディを抱きかかえ駆け出すソウマ…その後ろを凄まじい戦士をも凌駕するプレッシャーを全身から漲らせ追いかけるゲンヤ…もちろん代金を支払って………

 

 

 

(…………ソウマよ。ゲンヤどのを説き伏せられるのは至難の業よのう………ひさしぶりに力を貸すとするかの)

 

 

龍を象った魔導輪具《ゴルバ》が必死の形相でウェンディを抱きかかえ街中を疾走するソウマをみてため息をついていた

 

 

 

 

山刀ソウマ

 

 

白夜騎士打無の称号を持つ魔戒騎士。千年前とは全く違う文化に困惑しながらもなんとか馴染みアギュレイス討滅後、居候先のナカジマ家…ゲンヤ・ナカジマ三佐がいる陸士108部隊の嘱託教官補佐として表向きの職を得た

 

 

厳しくかつ礼儀を重んじ、苛烈な指導に音を上げる隊員たちもいたが誰一人脱落せず教練を終えた彼らはめぐるましい活躍により108部隊は最強の部隊だとうたわれるようになった

 

 

もちろん魔戒騎士としての務めも怠らず(ゲンヤには自身が魔戒騎士である事を告げている)、鷹矢たちと共にホラー討滅、エレメント封印に勤しむ

 

 

この日の追いかけっこから四年後にウェンディとぎこちないながらプロポーズしたゴールイン♪♪

 

 

『ウェンディ………そのだな………お前の……一生をオレにくれ!!』

 

 

……一世一代の告白に笑顔でハイと受け止めたウェンディ…その様子がウェンディのデバイスにコッソリ隠し取られていたのは秘密

 

 

後に男児を授かりツバサと名付けられた

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませんワタルさん、何から何までお世話になってしまって」

 

 

「いいよ。それに今日は招いてくれてありがとう…でも本当にいいの?」

 

 

 

「はい。コレは本来ワタルさんのお兄さんが持つべきモノですから」

 

 

秋月屋敷別邸にある地下…様々な薬品、未完成の魔導具と魔戒剣が所狭しとおかれた室内の中央に鎮座する白金に輝くも亀裂だらけのオウガの鎧。その前には2つの人影…いやファンガイア族の技巧匠ポーン、ナイトが様々な修復工具を分厚い皮手?にも似たモノに腕を包みしらべ、周りをキバットバット二世、三世親子がパタパタと飛び回っている

 

 

「…………闇のキバの鎧に使われし《漆黒の魔皇石》……取り除くにはしばし時が必要なり」

 

 

 

「…されど他の部分は我ら技巧匠が必ず修復しよう……オウガの血を引くものよ」

 

 

 

「……ふむポーン、ナイトよソナタ等に修復を任せよう。息子よ、我らはしばらくこの場に止まる」

 

 

 

「え~!せっかくキリリンと遊べると想ったのになあ~」

 

 

「あ、キバットバット三世さん。キリクは母さんが修復しているからまだ遊べないかな…変わりにオムライス腕によりをかけて作りますよ」

 

 

 

「ホントか!オレはオムライスに関しちゃうるさいぜタカヤ」

 

 

 

キリクがいない事を残念がるもタカヤ特性オムライスに目をキランと輝かせるキバットバット三世に二世はため息をもらした。なぜファンガイアのポーン、ナイト。さらにキバットバット親子がここにいるのか

 

 

それはタカヤが漆黒の魔皇石の本来の持ち主であるファンガイアの現キング《登タイガ》へ返す為、それを秋月家に招かれたワタル、スバル夫妻に伝えた所、そのためにオウガの鎧に埋め込まれた魔皇石を取り外す事が出来るファンガイア族の技巧匠ポーン、ナイトを呼び、万が一に備えキバットバット親子もこの場にと赴いてくれたのだ

 

 

「………タカヤくん。キミはあの子達に言わなくていいの?」

 

 

 

「………」

 

 

作業を見守りながら心配そうにたずねるも無言のまま頷くタカヤ…その指先がわずかに色を失ったステンドグラスへ変わり瞬く間に戻るのをみて悲しみの表情を見せた

 

 

 

「…………大丈夫です…皆が夢へ向かって、夢を叶える姿を見るまで……それに明後日はデルクとリームお婆ちゃんの結婚式だから…………まだ………………いきませんから」

 

 

「………タカヤくん」

 

 

タカヤの言葉は鎚の鳴る音にかき消された…聞こえたのはワタルだけだった。しばらくしてキバットバット三世さんにオムライスを作るためにその場をあとにし白いエプロンにデフォルメされた可愛らしい狼が描かれたのをまとい鶏肉、卵、バター、トマトにデミグラスソースを手早く用意していく

 

 

「タカヤさん。ボクも手伝っていいですか?」

 

 

振り返った先にはミウラとファビアの姿。二人とも可愛らしいフリルがついたエプロンに身を包んでみていた

 

 

「うん、じゃあお願いできるかなミウラくんはチキンライスを、ファビアさんは卵を割って溶いてくれるかな」

 

 

 

「わかりました!お母さん直伝のチキンライスを精一杯作らせていただきます!!」

 

 

 

 

「わ、わたしも頑張る………秋月タカヤ」

 

 

 

「じゃあ、みんなの分もまとめて作るよ」

 

 

 

秋月家厨房にタカヤ、ミウラ、ファビアの気合いがこもった声が響いた。数分後、皆の分を作り終えたタカヤはキバットバット二世、三世、ポーン、ナイト、ワタルへオムライスを持って行った所……………

 

 

 

「おおおおお!!…………………香ばしいバターは手作り、チキンライスの鶏肉はジューシーかつ繊細。さらには半熟ふわふわなオムレツに使われた卵は…………ニワトラの卵だな!!」

 

 

 

 

「はい、実はコマツさんからお裾分けしてもらったニワトラの卵、ニンニク鳥、ベジタフルスカイのトマトを使ってるんです」

 

 

「まさに至高………タカヤよ一度スバルに享受してくれ!」

 

 

 

「まさに極み………」

 

 

 

「…………至極の境地」

 

 

 

 

「うん、すごく美味しいよ……(でもスバルさんのほうが美味しいかな)」

 

 

 

魔戒房にタカヤ特製オムライスにポーンとナイトは静かに歓喜、熱の籠もったキバットバット二世のマシンガントークに満ち溢れた…

 

 

 

新暦108年

 

 

 

 

「もう少しだな」

 

 

 

「うん………うわあ綺麗だね」

 

 

肩を貸し歩く夫婦がたどり着いた先には満開の桜の木々が並び立ち、その奥には樹齢千年を超える巨大な桜が花を咲かせ二人が来るのを待っていたかのように花びらが舞う

 

 

花びらが舞い、穏やかな風が流れ地面いっぱいに敷き詰められ道を進むと巨大な幹に二人でもたれ掛かるように座りこんだ

 

魔戒騎士として剣を振るいホラー討滅、異世界に呼ばれてもソレは変わらない…守りし者として戦い続けた彼が手をあげるとヒラヒラと花びらが乗りやがて風が舞い雪のように花が降りていく

 

 

不思議と穏やかな気分になる彼は昔の事を思い出し笑みを浮かべた

 

 

「どうしたんだよ」

 

 

「いや、色々あったなってね…なんか懐かしいな」

 

 

「……そうだな………って、来年もみんなで花見しような。絶対楽しいから」

 

 

「うん、また皆で……そうだね」

 

 

夫を抱き抱える形で幹に座る彼女は初めて出逢った日の事を思い出していた。色んな意味で衝撃的な出逢いと夢へ向かって共に歩んだ日々は今でも鮮烈によみがえる……魔戒騎士である夫と結ばれて子ども達が生まれ息子は立派な魔戒騎士になった

 

娘達は法師になるか市井にでるかわからない…夫が自由だと言ったのもあり他の皆は納得してくれた。魔戒騎士、法師になる道以外の生き方もある、子ども達が自分で考え決めたのならそれでいいと

 

 

でも夫がもうすぐしたら…と想うと胸が張り裂けそうになる…不安で一杯な彼女の手が暖かなぬくもりに包まれた。夫の手が重ねられていると感じた時、強烈な眠気に誘われ抗う暇すらもなく意識が落ちていった

 

 

「ごめん。少しだけ眠っていて……………」

 

 

 

愛おしく手を握り離すとゆっくりと立ち上がると魔戒剣を手に振り返る…桜の花びらが舞う中にひとりの青年の姿を捉えた

 

 

 

「29年ぶりかな……碓氷カズキくん」

 

 

 

「ああ、ずいぶん老けたな秋月タカヤ…」

 

 

 

それっきり言葉は絶え、ただ風にまう桜の花びらが二人の姿を覆い隠した

 

 

 

最終話 明日(前編)

 

 

 

後編に続く

 

 

 




長く続いたタカヤ、そして嬢ちゃん達の物語も終わりを迎えるときが来た


なに?寂しい………終わりが在るからこそ新たな物語が始まるんだせ?



次回 明日(後編)



秋月タカヤ、最後の戦い



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