魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》   作:オウガ・Ω

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《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らい、人々は闇を、否。ホラーを恐れた



しかし、闇《ホラー》あるところ《光》あり!古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた……


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人を守る者 



その名を《魔戒騎士》という!!


第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

「う、嘘だ……」

 

信じられなかった…声を漏らすタカヤの目に映るのは凛とし自他共に厳しい白夜騎士打無の称号をもつ山刀ソウマ。魔法衣から夥しい血をたらし血溜まりを作り開いた門に寄りかかり立つ光景

 

「なんで……ぼくがもっと速く…」

 

 

 

…秋月家の伝承に語り継がれていた三騎士の一人《山刀ソウマ》の変わり果てた姿に言葉はなく力無く首をたれた、もっと速く駈けつけていればと深い後悔の念に押しつぶされかけた時だった

 

 

「まだ死んでいないわよ」

 

「え?」

 

 

突然響い声に振り返る。ぴっちりとした薄紫に青の湯浴衣を思わせる魔導衣に身を包んだくすんだ腰まで伸びた金髪を揺らし立つ女性がソウマの胸元に顔を近づけ右手の人差し指でススット軽くなでる…ふわりと光が見え少しずつ顔に血の気が戻りまぶたが動いたのをみた

 

 

「………あと少ししたら目をさますわ。さあ、いきなさい」

 

 

「え?で、でも…」

 

 

「……今はなすべき事をやりなさい…でも、その前にいいかしら。アナタの顔を見せて?」

 

その言葉に無条件で頷き解除した。驚きながら手をゆっくりと添え撫でる表情は目元まで覆った仮面で解らないが少し懐かしく愛おしさを指先から感じる。いやずっと昔にこうして頬を撫でてくれた人とかさなった

 

 

「……………いい、コレからが正念場。どんなに辛いことが待ちかまえても、アナタの想いを込めた剣が闇を切り裂き光へ導くわ……ヌクサヌツミヌヌッイク。これで少しは楽になるわ」

 

 

柔らかな声で後押しする女性の言葉に頷く気がつくと痛みが少しだけ楽になってる。しかしどうやって先を進めばいいかわからない…ふと門へ何気なく目を向ける。半ば開いた状態に疑問を感じ見ると形状変化した握り手が赤く染まったソウマの愛槍《白夜槍》が閉じないよう挟み込まれてた。恐らく閉じるのを防ぐために挟み込んだのだとわかった

 

 

「…さあ、いきなさい………」

 

 

『……は、はい…あの、ありがとう』

 

 

促され門へと向けすれ違いざまにかけられた言葉に静かにうなづく、蹄音を鳴らしタカヤと白煌が共に中へ駆けていくのを見届け彼女は静かに魔導筆を構え振り返る。門から少し離れた先の地面から群青色のおぞましい獣…素体ホラーが無数に沸き出す。ソウマの血の匂いと、若い女の肉を味わうため我先にと襲いかかる…が寸前で動きが止まり、ズルリ、ズルリと身体が生臭い悪臭を放ちながら真っ二つ、ダルマ落としのように細切れになり落ちていく

 

目を凝らし見ると極細の糸…繊維状に織り込まれたソウルメタル製ワイヤーが門と目を覚まさないソウマ、彼女を囲むようにはりめぐらされている

 

 

「…ふふふ、よく斬れるでしょ?クロウちゃん直伝《水鳥の刃陣》は。次に消滅したいのは誰?」

 

 

怯むも、再び襲いかかる素体ホラー…薄く笑うと右手首から下に装備された銀色の鉤爪…その先端から伸びたワイヤーを弾く、張り巡らされたワイヤーが細かく震え何かがその体をすり抜けた。あと少し、手を伸ばした先から輪切りにされ断末魔の叫びをあげるまもなく消滅。他の数体も微塵切りと言わんばかりに刻まれていく

 

 

「……………(あんなに小さかったのに見ないうちに大きくなって。みんなを連れて必ず帰ってくるのよ…私もここで頑張るから、未来へ繋ぐために)……さあ、次は誰?」

 

 

数年(死んでから)ぶりにタカヤの成長した姿を生で見て触れ、内から沸き起こる高揚感を胸に鉤爪をキシキシ鳴らしワイヤーを操る彼女…ドゥーエの静かな声が辺りに響く、再び群れをなし襲いかかる素体ホラーを切り刻んでいく。タカヤが皆を連れて無事に帰ることを信じながら

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

 

 

 

「はああ!」

 

 

「かあっ!!」

 

 

無機質な石舞台の前に並べろれた無数の界符、不規則的に地面、岩肌に刻まれた溝を赤黒い仙水が流れ輝き始める…死醒王アギュレイス復活の為に描かれたゲートが開く兆候。それを目にし焦り始めるユーノ、対するアギュレイスの代行者アルターこと秋月オウマは笑みを浮かべ魔戒斧、魔戒剣を嵐のように振るうたびに双剣で防御、受け流しつつ機を伺うも隙が無い

 

 

「ふふ、わかるぞ、わかるぞ、ユーノ?お前の焦りがな。ここまで来たことは誉めてやろう。だが我が王アギュレイス復活は間近だ」

 

「…くっ!やめてください!こんな事して何になるんですか!!」

 

 

互いの魔戒斧、魔戒剣がぶつけ弾かせながら何度も斬りつける。しかし簡単にいなされがら空きの胴へ蹴りが打ち込まれ踏みとどまりながら逆手に構えた刃で胴から顔へ向け逆袈裟に凪ぐ防がれ辺りにソウルメタルの振動音と共に衝撃波が空気を震わした

 

 

「何故?………しれたこと、王を復活させ我が妻マヤをよみがえらせる…」

 

 

「そのために、今を生き未来へ歩む無関係な人達の…ヴィヴィオ達の命を奪っていいんですか!あなたは過去に捕らわれ、失ったモノを人ならざる力…アギュレイスの力でよみがえらせて何にもならない!!」

 

 

「……かつて我が王アギュレイスを封じるに助力した憎々しい覇王、聖王女、冥王、クロゼルク、エレミア……ククク、今世において冥王を除き揃った最高の供物を使わぬ手はあるまい?」

 

 

「…………っ!」

 

 

「それにお前も言えた義理では無かろう?同胞の命、ともに戦う魔戒騎士を葬りココへ来たのだからな…お前は私と同じ…」

 

 

「ちがう!それに彼は……友は死んではいない!!」

 

 

「何を……偽りを…なっ!?コレは……グアッ!?」

 

 

何度めかになる刃と刃を打ちつけソウルメタルの火花を散らし優位に立っていたオウマの顔が驚愕の色に染まり歯軋りしながらユーノを睨みつけ力任せに切り払う。が、腰を沈め地面に手を着け捻らせると回転、連続回し蹴りを顔面に決め反動を利用し距離を離し降り立つ

 

 

「………僕が誰から秋月家に伝わるも喪われた魔戒の術を学んだか知っているはずです……アナタからだ!!」

 

 

「ぐ、ユーノ!私の術式を!?」

 

数刻前、ユーノとソウマは門を通るために互いの命を賭け刃を交えていた…そのさなかでも、この絶望的な状況の打破をする術はないかと門に仕掛けられた術式の系統を読みながら解術を試みた。だが複雑な術式と残された時もわずか。刃をぶつけながら念話を飛ばした

 

 

ー聞こえますか、ソウマさんー

 

 

「!?……」

 

 

ー言葉には出さないで頭に念じてください…ー

 

 

ー……いまさら何だ。お前の命を絶とうとする相手に話すとは余裕だな?ー

 

 

ー………聞いてください。この門の開放条件を《相手の命を奪う》から《サバック》のルールを強制的に上書きします……ー

 

 

ー《サバック》だと……お前はソレが何か知っているのかー

 

 

サバック…それは魔戒騎士が生まれるより古き時代。屈強な剣に腕のある戦士達が命を賭けて戦い、最後に生き残った一人をホラーと戦う戦士として選抜するための神聖な儀式。しかし今現在(ソウマ達が生きていた時代)からは、その課程で命を落とした戦士たちの英霊を悼むために開かれ、ソウルメタルの武器、術を使わず鉄製の剣を用いおのが剣技を駆使し戦い相手から血を一滴流させたら勝利するというルールへ変わり勝者は《死者の間》と呼ばれる場所で僅かな時だけ逢うことを許される

 

(このサバックで勝利を収めることは最強の騎士として名を知られ、ゆくゆくは元老院付きの魔戒騎士への道が開かれる。ただ黄金騎士、黄金騎士牙狼は参加できない)

 

 

ーたとえ上書きが出来たとしても、サバックの掟通りにはなるかわからん!ー

 

 

ー………確かに、あの人が組み上げた術式には隙がない…でも、万が一上手くいかなかったら………あなたにすべてを託しますー

 

 

ーなんだと?ー

 

 

ー………この門を進むのは山刀ソウマさん、あなただ……僕に師を…オウマ先生を斬ることは出来ない…それに魔戒騎士としてあなた方に劣ります。だから僕をー

 

 

驚くも槍を振るう力を緩めることない。ソウルメタルの刃がぶつかり火花が散る…それは言葉を交え返すようにも見えた…

 

 

ー……ふざけるな。それは逃げているだけだ!今こうして俺と刃を互角に交えているのはユーノ・スクライア、おまえだ!!ー

 

 

ー!ー

 

 

ーお前と俺達と力量の差は無い。ただ足りないのは己の弱さと向き合う覚悟だ!………もはや言葉は無用、上書きはもう終えたな、ならお前が剣を握り何故ココにいるかを刃にて応えろ!!ー

 

 

 

ーソウマさん………く!ー

 

 

裏拳を顔面に入れた反動でバックステップ、槍を上段に構え横凪に構えたソウマから濃厚な殺気と剣気を感じ本気だと感じとり、ユーノも魔戒双剣を逆手に腰を沈める…僅かに風が凪いだと同時に上書きが終わるのを感じ二人は駆け出す。ソウマは踏み込みと同時に鋭い突きを連続で放つのに対しユーノは避けようとせず刃の嵐へ飛び込む。双剣を逆手に構え最低限の動きで槍をそらしながら交わすも鎧を深々と切り裂き血が空を舞う

 

 

「はあ!」

 

 

「う、うわああああ!!」

 

 

力強く踏み込まれ白夜槍の刃が胴を捉え深々と突き刺さろうとした時、鎧が光と共にはじけた。視界が塞がれ槍に微かな手応えを感じたソウマ、しかし胸元に何か熱いモノを感じた

 

 

「ごほ………」

 

鎧の胸元には魔戒双剣が深々と突き刺さり血が純白を赤く染め滴り落ち足元に血溜まりが広がる…ふらふらとしながら門にもたれ掛かると同時に閉ざされた扉が獣の叫びを思わせる音と共に開く。開いた理由、それは上書きされたサバックの掟が適用されたからだ。しかし血は一滴ではなくより多く血を流ささせた時に解錠されると言うモノだと知りユーノは後悔し声を漏らすしかなかった

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「……見事だ……ごほ…」

 

 

「ソウマさん!」

 

 

光と共に鎧が返還され胸元を赤く染めたソウマに近づこうとするユーノ。だが手で制し開いた扉が閉じぬように血まみれの手に握られた白夜槍を力いっぱい挟み込んだ

 

 

「行け、ユーノ………俺の負けだ……」

 

 

「ま、まさかワザと僕の剣を」

 

 

「ちがう…お前の実力だ……急所は反らした問題はない…早くいけ……そして奴の企みを止めろ……それはおまえにしか出来な……い。行け、ユーノ・スクライア。いや無銘騎士狼無」

 

 

少しだけ笑みを浮かべ先へ行くよう促すソウマに拳を強く握りしめ頷き踵を返し門へ入り今に至る

 

 

「よくも術式を……許さんぞ」

 

 

「許さないのは僕も同じだ………アナタだけは倒す!!」

 

競り合いながら叫ぶと頭へ頭突き、たまらず後ずさりするオウマに向け刃を擦りながら鎧を召喚するべく素早く円を描こうとした。しかし胸に刻まれた破滅の刻印が焼け付くように痛み出し動きが鈍る、必死に耐え剣を振るうも魔戒斧の石突きが右手首を打ち据え左手の甲を魔戒剣が凪ぎ血が舞い、たまらず取り落としたユーノの鳩尾に重い蹴りが深々と入り、足場代わりに駆け上がり、胸板、そして頭に両足首を挟み込みぐるりと回転、頭から地面へ叩きつけようとするも傷付いた手を庇いもせずぶつかる寸前で手をつき逆に空へ跳躍、離れた場所へ降り立つ

 

 

「はあ、はあ…」

 

 

「刻印の痛みは苦しかろう?もはや王アギュレイスの復活も間近、三騎士も無駄なあがきを止めぬようだ。おとなしくみているがい……」

 

 

ふらふら立ち上がるユーノに目をくれず、儀式を執り行おうとしたアルター…秋月オウマの手が止まる。地獄の底から響くような重厚な蹄音が鳴り大きくなる。まさかと感じた時、狼の唸る声がアルターの身体を貫くよう木霊し、空を舞う白金の影を捉えた

 

『ハアアアアア!』

 

牙をむいた狼を思わせる面がつけられた兜、西洋の意匠を感じさせる造形、胸に封印の鎖《カテナ》が巻かれた至る所がひび割れ垂れ落ちた血に染まる白金の鎧を纏い魔導馬《白煌》を駆る騎士の姿を目にし、わなわなと身体を震わした背後で、ユーノは痛みに堪えながら魔導筆に光を集め、そのまま力強く儀式の陣に押しつけ叫んだ

 

「いけ!タカヤくん!!」

 

 

「な、なに!」

 

 

狼狽するアルターの瞳に映るのは儀式の陣に広がる光輪…そこへ力強く、迷うことなく手綱を引き締めたタカヤ…白煌騎士オウガ、その手に込められた信念に応えるよう嘶き魔導馬《白煌》が円を描きながら駆け開かれた光輪の中へ突入と同時に閉じ、光の残滓が漂ったのをみて歯噛みするアルター。ユーノのイヤリング型魔導具《クトゥバ》がけたましく軋ませ声を上げた

 

《ヒャッハアアア!やったな~ユンユン?どうでぇみたかオウマ~?手前より一枚も二枚も上手なんだよ?》

 

 

「ま、まさかクトゥバ、お前が知恵を貸したのか!我が魔導具でありながら裏切るか!」

 

 

《イエス、イエス、イエス、イエス!悪いんだけどさ手前の後ろ向きなマインドは嫌いなんだYO!裏切るっうか契約どころかテスタメントなんかしてないんだもんな~裏切るなんか関係ない?ナイナイ、ナ☆☆ティ☆イ~ン♪それにだユンユンの作戦勝ちだな》

 

 

軽口を叩くクトゥバとは違い安堵の表情を浮かべるユーノ…先ほど使った術は月光陣を独自にアレンジしクトゥバの意見を元に組み直したオリジナルの術。王復活の為に供物として捕らわれたヴィヴィオ達がいる《狭間なる魔界》へ直接繋ぐ為のモノだが使うには儀式を行ってる最中にしか発動出来ない代物。ユーノが現れた事で儀式が半ば中断し直接対決する一方ででクトゥバに儀式の構成を読み解かせていた

 

何よりタカヤがこの場に来る事を門に配置した界符を通じて知り、時を伺っていたのだ…術の発動は早すぎても遅すぎてもいけない。オウマが中断した儀式に意識を傾け集中し、タカヤがその場に姿を見せ生まれた隙を狙っていたのだった

 

 

「おのれ……だが、魔弾の戦士《碓氷カズキ》から受けた傷は軽くはない。それにだ我が刻んだ刻印よりも深い……どのみち望まぬ子であるヤツにトドメをし刺されたのも同じだ……無駄だったなユーノ?死人を送り込んで何になる?」

 

 

 

「無駄じゃない……僕は、いや。ジロウさん、れいじさん、ソウマさんはタカヤ君に託したのは…

無駄なんかじゃない…」 

 

 

《そうだぜ?ユンユンの言うとおりだな?こっからががclimax・jumpだぜ!!》 

 

 

 

「そうだね。クトゥバ……僕と一緒に戦ってくれるかな?」

 

 

《当たり前だのクラッカーだぜ?》

 

 

クトゥバの軽口に鼓舞され再び魔戒双剣を構え立つユーノ…師であるオウマとの第二ラウンドが始まろうとしていた

 

 

『…く、ぐうう…』

 

 

眩い光の中を駆けるも、破滅と忘却の刻印からくる痛みは激しさをます、身体に激しい痛みが耐えることなく襲いながら白煌の手綱を握る手に力は緩まない、砕け散りそうな記憶を必死に維持するタカヤの前に光が広がり見えたのは力なくその場に座り込むノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビア。手綱を引き止まるとタカヤに気がついたのか目を向けるも俯かせる皆に近づき白煌の背からおり鎧を返還し駆け寄る

 

「みんな、良かった無事で……どうしたの?」

 

 

何も答えない…ただ一人だけ、ゆっくりと立つのはノーヴェ…タカヤの傍へ歩み寄るも手が届くか届かない微妙な位置で止まる

 

 

「…………もう戦うな……タカヤ」

 

 

「え?」

 

 

「このまま、このまま戦ったらタカヤは……死んじゃう…あたし達の事も忘れてしまうのに。なんで、なんで、そうまでボロボロになるまで戦うんだよ…」

 

 

「タカヤさん、ごめんなさい。私たち……タカヤさんが辛いのを知らずに……ごめんなさい」

 

 

「……ホラーから守ってくれる。タカヤさんに守られて当たり前だって…」

 

 

「アキツキさをんは誰よりも強いっておもってた。でめボクと年も変わらないのに、命がけで…あの時も」

 

 

「ごめん、ごめんなあ……ウチ、タカヤくん魔戒騎士やって知ってた。なのになんも出来んかった…悪い夢見てるんやと思ってたんや」

 

 

 

「……ワタシも…アナタを通して過去の秋月の魔戒騎士を重ねてた……今のアナタの気持ちを無視していた」

 

 

ごめんなさい…謝罪の言葉がタカヤに届く。ファビアが皆に言った秋月家の先祖たち《魔戒騎士》が歩んだ歴史、そして今代の魔戒騎士であるタカヤの身に降りかかった苦難、そして命を賭けたホラーとの戦いの中で刻まれた破滅と忘却の刻印がもたらす皆との思い出と命を減らし、鎧に埋め込まれた魔皇石が命を吸い尽くす事実…いままで守られて当たり前だと無意識に思い続けてきた自分達に突きつけれた真実。《無知》の罪は気づかせるのに十分だった

 

 

しかしタカヤはゆっくりと皆に向く。その瞳は透き通ってる…ノーヴェの手を取るとピクリと震えた

 

 

「ノーヴェさん、アインハルトさん、ヴィヴィオ、ミウラくん、エレミアさん、ファビアさん出会わなかったらココには居られなかった…それに……僕は皆を守りたい」

 

「え?」

 

 

「………僕はホラーを斬ることしか出来ない。でも皆には夢がある…インターミドルという表舞台で見る人の胸を熱くして鮮烈で眩しくて、その人に夢を与えてくれる…僕は皆が夢に向かいどんなに辛い練習を重ねて、悩んで、壁に何度も当たっても乗り越えていく姿が好きなんだ」

 

 

少し恥ずかしそうに一人、一人に語りかけるように言葉を紡ぐ…飾り気もない。ただ心から湧き出すモノが声に変え、目に涙を溢れさせた皆の心に響かせた

 

 

「……皆が居たから、あやふやでアンバランスで、目的もなくただ本能で剣を奮ってた僕に、みんなの夢へと進む姿をそばで見てた………その時からかな、夢の舞台に立つの皆をみてみたいようになったんだ……」

 

 

「でもあたし達…」

 

 

「だから。皆の…ノーヴェさん、アインハルトさん、ヴィヴィオ、ミウラくん、エレミアさん、ファビアさんの夢を、皆の夢が叶う為に必要な未来(明日)を僕に守らせてください」

 

真剣で真っ直ぐ、強い信念が込められた声と色違いの瞳に吸い込まれる。静かに頷いたのを見て笑顔を返しボロボロの魔法衣を翻した。が背後から手が伸ばされ強引に引き寄せられ唇に柔らかな感触、そして安らぐような甘い香り、目に入るのは赤い髪に涙で腫らした瞳を閉じた見慣れたノーヴェの顔。愛おしそうに添えられた手が撫でられながら羨ましそうな、嫉妬混じりな視線がガンガン突き刺さる、名残惜しそうに重ねられた唇と共に離れた

 

 

「い、いまのは……その……必ず勝つおまじないだ!もし帰ってきたらコレよりスゴいことやるから……み、みんなで…」

 

 

「……は、は、はい……じゃあ行ってきます!」

 

 

顔を真っ赤にしゴニョゴニョ呟くノーヴェ。最後あたりには小さく聞こえなかったが背を向け駆け出した。タカヤが向かうは真魔界…無数の魔導文字があふれる中を抜けた先には。一切の生を感じさせない灰色の空、下には広大な無色の大地

 

それを見下ろす形で建てられたら古びた祭壇…初代オウガが施した封印に立つと彼方で赤黒い雷光が無数に降り注ぐ。やがて大地を食い破るように盛り上がり見えたのは禍々しく伸びた腕、そして這い出るように現れたのは真っ黒な体躯と血よりも赤いつり上がった目前頭姿勢で大地を踏みしめ立つと、大地がひび割れる

 

 

『ヌルワアギュレウス!ヲルハフッカツヌタサクチ!!』

 

 

雄叫びと共に叫ぶと空は震え、狂気と歓喜とも取れる叫び声が響き渡り空気を振るわせる中、タカヤは静かに折れた右腕に左手を添え魔戒剣斧オウガの切っ先を天に向け素早く円を描いた。

 

眩い光がタカヤを包み込み、狼のうなり声が響き白金に輝くもひび割れたオウガの鎧に身を包んだタカヤ、魔導馬《白煌》が現れかけ声と共に地獄の蹄音を響かせ駆けていく

 

 

『ハアッ!』

 

 

『マキイクス、オウガヌチツグルスムヌカ……』

 

 

何気ない感じで小さく呟くアギュレイス。ため込まれた地獄の蹄音が魔戒剣斧オウガを《オウガ重剣斧》へと変化、力いっぱい地を蹴り飛翔、捻りを加え大きく横に構え叩きつけるように斬りつけた。が、意にも介さないようにかざされた巨大な手に防がれ重剣斧を握りしめ一気に岩肌へ叩きつけた

 

 

『ガアッ!』

 

 

白煌の身体とオウガの鎧が軋み、ソウルメタルの粒子が滲み出した血と共に舞う。魔弾闘士リュウジンオーこと碓氷カズキとの戦い(一方的に)で罅の入った肋、折られた右腕が痛み、ザンリュウジンの刃でついた傷から血が流れ始めた

 

 

『ぐ、ぐうう……』

 

 

再び立ち上がる白煌と共に重剣斧を構え再び駆け出すと、アギュレイスとの間合いを一気に詰めへ大きく振りかぶる…がいきなり身体が別方向から何かに吹き飛ばされる。必死に手綱を握りしめ蹄から火花を散らし踏みとどまる

 

 

『今の攻撃は……』

 

 

思考するも再び何かが襲いかかる。寸前でかわた目に映り込んだのはいきなり現れたアギュレイスの巨大な拳、それがかき消えると死角から再び現れる…この攻撃方法を自分は知っている。上級ホラー《カプリコーン》の空間転移攻撃だと気づく。今度は無数の矢…無数の人骨が埋め込まれた矢が降り注ぎ重剣斧を楯代わりに防ぐも再び吹き飛ばされた

 

 

『う、ぐうう……コレはサジッタの……』

 

 

『ヌルハクヌシタワヌイチズク。スヌツタソデヌルワレガツクウヌルツイゾンダ』

 

 

 

十三体の死醒ホラーを従える王《アギュレイス》…かつてタカヤが倒してきたホラーの特異能力を行使できる事を告げられ驚く。だが《守る》、そう約束したのだから自分がココで王を食い止めなければヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア…ノーヴェの命、そして世界が滅ぶ

 

 

それだけは絶対に防がなければいけない。剣斧を握る手に力がこもり、全身の痛みが消えかわりに闘志に満ちる。それに応えるように白煌が強く蹄を踏み鳴らすと白金の炎、魔導火が包み込み《烈火炎装》を纏い再び駆ける。次元跳躍する拳を紙一重でかわし降り注ぐ巨大な矢を砕き燃やし尽くしながら遂に眼前まで肉、突きの構えで一気に頭をとらえ貫いた。しかし手応えがない分厚く鋭いソウルメタルの刃から溶け落ちるように頭が消えた瞬間、白煌ごと巨大な手に握られ引きはがされると圧倒的な力で握りしめられた

 

 

『う、うわ!……くあああ』

 

 

『スヌッチナ。オウガヌチヒキクス…ヌレニチュスイチクウバヌフズウヨウニイニカナチリシ(残念だったな、オウガの血を引く騎士…我に忠誠を誓えば祖父同様に永遠を与えよう)』

 

 

『い、いやだ……僕は永遠なんていらな……ぐあっ!?』

 

 

『ヌルハシツクルヌゼ……ムズハヌドウビダダ(ならば死を与えよう……まずは魔導馬からだ)』

 

 

『!?白煌!戻るん……』

 

 

もどれと言い切ろうとすることも許さず、アギュレイスの手に力が込められる。嘶く声とナニかが音を立て砕け散り隙間から墜ちていく…千年近く歴代オウガ継承者を守る楯、そして共に戦い続けた魔導馬《白煌》の躯が開かれた手から零れ落ちていく姿に言葉を失うも激しい痛みに我に返る

 

メキメキとソウルメタルが軋みリュウジンオーのファイナルクラッシュで傷つけられた鎧の亀裂が広がり始めた。苦痛の声を漏らし脱出しようともがくもふわりと身体が軽くなった。落ちていると感じた時、巨大な拳がタカヤに襲いかかる…無意識に剣斧を構え防ぐもそのまま地面に殴りつけられ、追撃とばかりに立ち上がとした瞬間に無数の拳が殴りかかる

 

 

『う、ぐうう………』

 

 

必死に防ぐも重剣斧は剣斧オウガへ戻り、防ぎきれず拳が四方から襲い許容量を超えたダメージに遂に鎧が砕いていく…破片と血飛沫が舞いやがて嵐のような攻撃がやみ、その場には無惨に砕けた鎧を右腕、カテナが巻かれた胸鎧、左側半分顔をのぞかせた兜以外残し夥しい血を流すタカヤの姿。その瞳から戦う意思は消えていない

 

 

『ま……もる……み、みんなの……夢を………あし……たを』

 

 

剣斧オウガを突きつけ立ち上がろうとした時、胸鎧に巻かれた封印の鎖《カテナ》が小刻みに震えだした。みると微かな亀裂が無数に広がっているのがわかる…そして遂に弾け飛び下から見えたのは暗く深緑色の拳大の宝石、闇のキバの鎧につかわれている魔石《漆黒の魔皇石》が露わになる。キバットバット親子の力をもってして一時的に押さえ込みカテナで封印を施すしか出来なかった。二重封印が解かれた今、タカヤから命…ライフエナジーを無慈悲に吸い上げ始めた

 

 

『う、うわあ!あああああ!あ、あああああああ!?』

 

 

…身をかがませ苦しみ悶えるタカヤの姿は《狭間なる世界》にいるノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビアにも届いていた

 

 

しかし自分たちにはどうすることも出来ない。例え駆けつけられたとしても力になるどころか足手まといにしからならない事実。それで何か力になりたいと想いが胸を占めた時、ファビアの絵本が輝き出し光に包まれると、皆の前に黒を基調としたドレス、BJにも似た服に身を包み背中に身の丈ほどある筆を背負った黒く腰まで伸びた髪を揺らし歩み寄り一人、一人の顔を見た

 

 

「…………あなた達、あの子を助けたい?」

 

 

静かに響く声。いきなり現れた女性に応えるよう頷いた、ほんの少し懐かしそうな笑みを浮かべる女性になぜかわからないがヴィヴィオ、アインハルト、ジーク、ファビアは昔から知っている感覚に戸惑いながら言葉を待つ

 

 

 

「助けるって、どうやんだよ」

 

 

「祈るの……この場所は人の想いを形にする《アストラル界》と《内なる魔界》に近いの。あなた達があの子を強く想うなら…あの時みたいに」

 

 

「あの時って………お前、身体が!?」

 

 

「……大丈夫…ひさしぶりに強い想いに呼ばれたから…あなた達の想いは必ず…と、どく……強く願いなさい…」

 

 

すううと最初と同じように光へ変わり絵本に吸い込まれ、自然にパラパラとめくられある場面で止まった…

 

 

 

 

 

『う、うわああああ!あ、あああああああ!?』

 

 

地面に倒れ伏しながらも必死に立ち上がろうとする。だが漆黒の魔皇石はお構いなしに命を吸い上げていく中で刻まれた破滅と忘却の刻印が激しく痛み出した…離れた場所で戦うジロウ、レイジ、未だ意識の戻らぬソウマと刻印はリンクし激しい痛みに苦しみ出した

 

 

00,3秒……00,2秒……00,1秒……

 

 

 

そして立ち上がった。が、タカヤの苦しみに満ちた叫びが止まる。力なくぐらりと膝をついた……力強く握りしめられていた剣斧から手が離れ落ち、目から光が消え倒れた…

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よう!ながらくお休みだったオレの次回予告再開だぜ……って次回で決着じゃねぇかよ~ったくウチのバカ作者のやる気のなさには呆れたぜ


んなことよりだ。奇跡ってのは神が為し得る事を言うんだが、人間だってここぞっていう時には奇跡は起こせるんだ



次回 鷹矢ー白燐ー


《紅の牙》と《白燐の牙》……込められた想いが奇跡を起こす!!



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