魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》   作:オウガ・Ω

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《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らいつづけた、人々は闇をホラー恐れた



闇《ホラー》あるところ《光》あり。古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人をまもる者達の名を《魔戒騎士》という



今回のスペシャルゲストは、すし好きさんの作品《インフィニット・ストラトスー龍の魂を受け継ぐ者ー》から碓氷カズキくん、ザンリュウジンです


第二十五話 鷹矢ー再起ー

「返してよ!」

 

 

「グアッ!?」

 

 

「返しなさいよ……アナタが私から奪った大事な……」

 

 

「ううっ……はぁあ…ゴホ、ゴホ」

 

何度も殴られ宙を舞う僕に投げかける言葉…冷たい地面の感覚と口いっぱいに広がる血の味、むせあがり吐きながら咳き込む。そんなのをお構いなしに頭を掴みあげ力が籠もる、鋭利な爪が容赦なく食い込んでいく

 

「何か、何かいいなさい!この偽善者!!」

 

乳白色の体躯に背中に石化した子供を無数背負う女の人がデスマスクを想わせる仮面の目から見える憎しみ、悲しみが込められた瞳を向けながら拳を何度も鳩尾を殴りつけ言葉を浴びせ、なすがままに殴られ続けた。

 

 

「返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返してよ!」

 

 

コレは報いなんだ…僕はこの人から大事な…世界で一番大事なものを奪ったんだ

 

 

「………返して……私の子供を返してよ………この人殺し!」

 

 

この人から大事な子供の命を奪った……僕は人殺し…人殺しなんだ……記憶を喪う前の僕が右手に握る鎖がんじがらめに巻かれた剣で命を奪ったんだ

 

「…違う…やめて秋月タカヤは……魔戒騎士は…」

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー再起ー

 

 

「ん…」

 

ぼうっとしながら起き上がった僕の目に天井に書かれた不思議な文字。身体を起こそうとした僕の手に何か柔らかくて暖かな、何というかささやかで控えめな膨らみを感じた

 

 

「………や、ん……激しくは…壊れる」

 

 

……………ま、まさか…ギギギと手があるほうに目を向けると魔女みたいな格好をした女の子が僕に添い寝してる。手はその胸を掴んでる。慌てて離したけどパチリと目をあけた子がジッと手を見て視線をむけた

 

「…………あ、あの!コレはその!?」

 

 

慌てて手を離そうとしたら逆に手を掴まれ押し付けられた…や、やわらか…はう!?ち、違う離して?不思議そうな顔をしながら《いえす》《べつにかまわない》って文字がかかれた枕を手にして交互にひっくり返してる?

 

 

「………するの?…ワタシはいつでもできる」

 

 

「するってナニを?ねえデキるってナニをするの!?あの、ココは?」

 

 

 

と訪ねると、女の子は自分の家だと答えてくれた。無表情だけど、頬がすこし赤くしながら、起きあがろうとした僕を横に寝かせ毛布を掛けて飲み物を取りに行くと言って部屋を出た。一人になった僕の周りには古びた無数の本が収められた棚が並び、壁には色とりどり飾りが打ちつけれてる、その内の一つ、小さな棚に置かれた本に目がとまった

 

何度も読まれ表紙の縁や表装がこすれた本、それに描かれた絵を見た瞬間、何かが浮かんだ

 

 

ー………鷹人様。どうですか?ー

 

 

ー………悪くないけど、こんなに可愛いらしくなるのかな?僕たちの鎧って…ー

 

 

ー誰が描いたと思うんですか?クロゼルクの魔女の手にかかれば…………の鎧を可愛いらしく出来ますよ?ー

 

 

真新しい本を手に読んでいく男の人、タカヒトさんの隣にいる魔女みたいな格好をした女の人が自慢げにえっへんと腕を組んでる……この人、さっきの女の子とどことなく雰囲気が似てるような気が

 

 

ーそうだったね…それにコレが皆に取って希望になることを願いたいかな……題名は?ー

 

 

ー……今回は自信があるんだよ……たいとるはー

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

 

 

 

「………………黒い王様と白金の牙………あれ?なんで……僕は……あれ…」

 

 

本を手にしていた僕は知らず知らずのうちに泣いていた…わからない。でもページをめくるたびに何かこみ上げてくる…何か大事なことを思い出せ…って言われてるような気が

 

 

「……秋月タカヤ…」

 

 

「え?」

 

 

目の前が真っ暗になる。でも暖かい温もりと甘い匂いが包む…頭を優しく撫でられた

 

 

「………ココにはワタシしかいない。だから、おもいっきり泣いていい……」

 

 

いつの間にかに戻って来てた女の子が僕を抱いてる。少し感情のこもった声に堰が切れたように泣いた……前にもこんな事があった気がする

 

…それにその時、誰かがいた気が……思い出せるのは赤い髪の……だめだ、わからない

 

 

「……ワタシがアナタを守るから……絶対に。恩知らずの王やエレミアには…」

 

 

女の子の言葉を聞きながら、僕は意識を手放した…あの赤い髪の人は誰なんだろ…

 

 

 

「………よく寝てる…」

 

…ワタシの絵本を読んで泣き出した秋月タカヤを落ちつかせ寝ついたのをみて少しホットした。真っ白になった髪を撫でる…なんで秋月の魔戒騎士ばかりこんなつらい目に、それを知らないで護られて当然だと思っている覇王、聖王、エレミアの子孫、あとの二人は何もわかってない

 

いなくなったと聞いたワタシはあそこから抜け出し家に居候しててるマダO…タキとムラサメと一緒に探して見つけた時の秋月タカヤの姿に胸が痛かった…

 

 

ワタシは秋月タカヤを護る…クロゼルクの悲願も叶え、曾祖母様みたいに我慢は絶対にしない…そのためには《破滅と忘却の刻印》をみる、まずは脱がさないと。ジッパーをおろすときめ細かで瑞々しい肌、それに男の人の匂いはクラクラしながら胸に刻まれた黒く脈打つ刻印に撫でるように指を滑らせ触れた

 

複雑な魔導式が魂と記憶を奪うように組まれた回路はリンカーコアの流れに魔戒の力が根っこのように結びついてる。やっぱり絵本に描いてある方法でしか解けない、でもリスクが大きいし《アレ》が無い。アソコに残したデビルズに探らせてはいるけど場所までは掴めてない

 

 

「嬢ちゃん、坊主の具合はどう……って何やってんだ!?」

 

 

考えてたワタシを現実に戻した声と勢いよく開いた扉には買い出しに行ってたマダ……タキとムラサメがジイッとみてる…別に変な事してないのに。とにかく事情を説明しないと

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「居たか?ソウマ」

 

 

「いや、見当たらない……せめてキリクがいれば場所を知ることができるんだが……」

 

 

「……く、僕たちが早く来ていれば」

 

 

夕焼けに染まるクラナガンの高層ビル、その屋上に四人の人影…山刀ソウマ、布道レイジ、四万十ジロウ、そしてユーノ・スクライアの姿、今の時間まで四人は魔戒殿から姿を消したタカヤ、そしてファビアの捜索をしていた。しかし探そうにも手がかりもない。さらに追い討ちを掛ける事態か迫っていた

 

空に浮かぶ二つの月が少しずつ動いて重なろうとしている…コレは三十数年前にも起こった死者蘇生の儀式に用いられた二重皆既日食とは違い、2日後の夜に完全に重なる。つまりはアギュレイス復活の兆候に間違いない

 

いま、儀式が行われている場所の特定にメイが魔戒殿から意識を飛ばし探している、月が重なれば復活の準備が整い生け贄にされたノーヴェ達の命が喪われてしまう…事態を知ったギンガ、チンク、ウェンディ、オットー、ディードが協力をすると言ってきた。最初は断ろうとしたのだがチンク、ギンガ、ウェンディから「そんな目立つカッコウしていたら捕まる」「妹の命と未来を護りたい」「私とジロウさんの将来の為ですから」「ソウマっちは少しは人に頼ることに素直になるっす!」と言われ無理をしないことを条件に了承した。もちろん、万が一に備え界符と護符を渡しているが

 

「おい、ユーノ・スクライアといったな………」

 

 

「はい、あの山刀ソウマさん」

 

 

「俺はお前を信じた訳じゃない……経緯はどうあれ暗黒騎士オウマの師事を受けた…」

 

 

「待ってソウマ!落ち着くんだ。今は…」

 

 

「不安要素を残すわけにはいかな「止めろソウマ。それ以上は言えばオウガも否定する事になる……」…………っ…すまん言い過ぎた」

 

 

「……ユーノ。お前の太刀筋には邪念、翳りも曇りもなかった……レイジ、ソウマも間近でみていたならわかるはずだ……今はタカヤとクロゼルクを探し……ぐっ……」

 

 

言いかけた時、激しい痛みに胸を押さえるジロウ…それは刻まれた破滅の刻印による痛み。ソウマ、レイジ、ユーノも苦しみだす…それでも四人は気力を振り絞り行方を探すためにギンガたちと合流するため夕焼けに染まる空を駆ける

 

この世界に住む人々をホラーから護るという確固たる信念を満ちあふれさせ忍び寄る《闇》を切り払う為に

 

 

 

 

ータカヤ……今どこに……はやく儀式の場所を突き止めないとー

 

無数の魔導文字があふれる空?を駆ける女性…秋月メイ。肉体から意識を飛ばして儀式の場所を探る表情は普段から見せない程暗い

 

儀式の場所を探す前にキバットバット二世に告げられた事が心をかき乱していた

 

 

『あの、キバットバット二世様。私に何か?』

 

 

『秋月メイよ、コレから告げるのはお前の子《タカヤ》についてだ………もう二度と鎧を召還させ纏わせ戦わせるな』

 

 

『な、なぜですか鎧を召還をしてならないと?魔皇石は封印されたのではないのですか?』

 

 

パタパタと飛びながら私に告げた言葉は信じられないものだった…なんで、なんでこんな事に

 

 

『……確かに封じた。だが私と息子。闇のキバの鎧と黄金のキバの鎧の管理をする我々の力をもってしても一時しのぎの封印だ……そしてコレからが本題だ、今タカヤの魂ともいえるライフエナジーは漆黒の魔皇石に吸い尽くされる寸前で我々の力で止めることができた。過去に人間でありながら闇のキバの鎧を纏った紅オトヤと同じ現象が起こっている可能性がある……』

 

 

『ま、まさかタカヤは……』

 

 

『今のタカヤの魂…いやライフエナジーは限り無く0だ。空に近い。もし鎧を召還し戦いの中で我々の施した封印が解かれた瞬間、残されたライフエナジーはすべて漆黒の魔皇石に吸い尽くされ待つのは……死だ』

 

 

………キバットバット二世様に突きつけられた残酷な事実…目の前が真っ暗になり倒れそうになるのをこらえた。タカヤが魔戒騎士となった日から覚悟は出来ていたはずなのに…タカヤを喪うのが怖い…愛する人をまた喪う恐れで胸の中が一杯になりそうになるのを振り払い、気がつくとキバットバット二世様の姿はそこにはなかった…ジロウ様方が必ずタカヤとファビア様を見つけてくれる…私は今出来ることをやらなければいけない。お父様が儀式をおこなう場所を見つけだし阻止する

 

再び意識を集中し私は気の流れを探るためアストラル界へ潜り込んだ…タカヤの気配も探るのを同時並行で進めながら

 

 

 

秋月メイは知らなかった……キバットバット二世との会話を聞いてしまった者が近くにいたことを。ふらふらとその場から逃げるように立ち去りシャワールームでノズルを前回にし身体に浴びながら泣きじゃくっている乙女の声は水音にかき消されていった

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ん、朝…」

 

 

寝ぼけながら身体を起こそうとするでも左腕に重みを感じ見る。白くすきとおる布地のネグリジェ姿の女の子…ファビアさんがやや乱れた金色の髪を広げ身体をあずけるみたいにして寝てる

 

「……あう。どうしょう……起こさないように…」

 

力を加減しながらファビアさんを優しく枕をあてる。ん~と寂しそうに身体を丸めるような仕草に猫みたいだなってかんじながら目をそらした。だってネグリジェが薄すぎてその…透けて見える黒いレース柄の下着が…

 

 

「っつ!?」

 

慌てて鼻を押さえ僕は部屋から出て古い作りの扉を開ける…朝の爽やかな空気と微かに見える陽射しが落ちつかせてくれた…でも右手に握られた剣?に少しだけ心が重くなる

 

目を覚ました僕はなんとかして手から剣?を離そうとしたんだけど、離れないし鎖が手首に巻き付いている

…どんな事をしても外れない剣?と鎖は僕の心、気分ですごく重くなる…

 

 

「よう!タカヤおきたのか?」

 

 

「あ、えと…滝さん、ムラサメさん、おはようございます…いまからどこか行くんですか?」

 

 

「ああ、さっきクロゼルクに買い出しを頼まれてな。ああ、お前がいないって血相を変えて探していたぞ?」

 

「ファビアさんが?」

 

僕と他愛もない会話をする滝さん、ムラサメさん。ファビアさんから家の居候って聞いていた。聞いた話だとタチバナって言う人が里帰りしてるらしくて鍵を預かるのを忘れて途方に暮れていたところをファビアさんに来ないかと誘われ今に至るらしいんだけど

 

 

「タカヤ、早く帰らないとクロゼルクが心配し……」

 

 

「うわっ!」

 

 

いきなり金の光が僕に体当たり…あまりの衝撃に倒れそうななりながら踏みとどまれた…まさかと思いみたらファビアさんが背中に手を回し抱きつく姿…すうっと顔をあげ僕をみている

 

 

「………あ、あの」

 

「………心配した…アナタに何かあれば…ワタシは…」

 

 

「ご、ごめん。ファビアさん…」

 

 

「……滝さん、俺たちはお邪魔虫なようだな」

 

 

「ああ、しゃあねえな。嬢ちゃん、買い出しに行ってくるわ」

 

 

 

 

抱き合う二人(どちらかというとファビアが一方的に)に手をひらひらさせ、バイクに乗り走り出す二人…なお買い出しのリストは《メテオガーリック》《エア》《ニワトラの卵》《ビリオンバード》《オゾン草》《ドッキリアップル》………どこかの美食家を呼ばない限り入手不可能なものばかりだった

 

 

 

「………ファビアさん…あの離して」

 

 

「……スウゥゥ……ハアアアアア……」

 

 

「あのファビアさん?なにをされてるのでしょうか?はう!?」

 

 

胸元で深く深呼吸するファビアから惚けた吐息と共に下半身にさわさわと手が滑り大事な部分でとまりギュッと握られた。あまりのことに腰が引けそのまま芝生に倒れ込んだ。

 

「たた、大丈夫ファビアさ………はあああああ!?」

 

 

タカヤの目に映ったもの。黒のレース柄のショーツにガータベルト。ギギギと目を上にずらすとスカートの裾を持ち上げ潤んだ瞳でファビアが見てる。しかも馬乗りで色々ヤバメな体勢

 

「……大胆……こんな朝から…」

 

 

「イヤイヤイヤ!これは、その…はう!?」

 

 

「ふふ元気いっぱい。溜めるのはよくないから…優しくするから」

 

いつの間にか大人モードに変わり体を預けるように抱きつくファビア、いつの間にかに露わにされた胸板の上で指でノの字を書いてる…色んな意味でヤバい。その頃…

 

 

魔戒殿

 

 

「どうしたんですヴィヴィオさん?」

 

 

「いま、タカヤさんの大事な何かが狙われてる気が…」

 

 

「ヴィヴィオさんもでしたか」

 

 

「僕もそれ感じましたよ…」

 

 

「そうやなあ~」

 

 

……笑顔で互いに頷く4人…ただ背後から凄まじいまでのどす黒いオーラがあふれ凄まじき戦士、欲望の王すら裸足で逃げ出す程の気に満ちあふれさせる…しかし

 

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、あとチャンピオン。練習やるぞ!ったく試合まで時間無いんだからな!!」

 

 

「は、はい!」

 

ノーヴェの言葉にパッとオーラが途絶え四人は次の試合に向けての練習を個々に始める…押しつぶされそうな心の苦しみ、タカヤを失うかもしれない恐怖にワザと元気に振る舞い耐えるしかなかった

 

 

 

 

 

「うっ!?」

 

 

「………どうしたの?元気なくなった」

 

 

「い、いや、なんか凄く懐かしい感じが…何だろよく知ってるような……」

 

 

「…………秋月タカヤ…思い出さなくていい。ワタシと一緒に旅にでる…管理世界、ううん誰も知らない管理外世界にいって静かに暮らすの」

 

少し怒ったような目でファビアは言い続けた、今までと違う感情が込められている…

 

 

「………あんなにたくさん傷ついて、たくさん血を流して守ってきたのに、あの恩知らずの王達は何もしなかった…護られて当然だって……昔から変わらない。今も…秋月タカヤ、ワタシと一緒に。もうアナタが傷つくのを見ていられない、見て…られな…い」

 

 

タカヤの心は揺れ動いていた、ファビアの言葉は真摯で純粋に自分を思っている…名前以外覚えていない自分の為に…穏やかな世界で暮らす自分とファビアの姿が浮かんだ時、右手が重くなり現実に引き戻された。鎖でがんじ絡めに鞘と柄を拘束、手首に巻き付いている剣斧…一瞬、頭に白金に輝く牙をむいた狼の造形の兜、西洋の趣を感じさせる鎧を纏った騎士が睨むように佇む姿。その瞳は逃げるなといっているようだ。かき消すように消えた。右手に握られた剣斧に目を落としファビアの目と合わせた

 

 

「ファビアさん…僕の事、知ってるんですよね……教えてください。僕が何者で、持っている剣は何の為にあるのかを」

 

「……やめて、あなたがコレ以上は、おねがい秋月タカヤ。私と一緒に」

 

「…一緒にファビアさんと違う世界にいきたいと最初は思った…でも、それはやっちゃいけないって、僕の心が逃げるなって言ってる気がするんだ…ファビアさん…」

 

 

「…いや…」

 

 

「ファビアさん、教えて…僕が誰なのかを」

 

 

じっと互いの瞳を見つめるタカヤ、ファビア…しかし辺りの空気が揺らぎ始める。慌てたように空を見るとうっすらと文字…筆で描かれた円の中心にある文字がはじけ得体の知れない何かが辺りに満ちる

 

 

「……秋月タカヒトさまの結界が破られた?」

 

 

「見つけたわよ…ファビア・クロゼルク。秋月タカヤ……いえ、人殺し」

 

 

驚くファビアとタカヤの耳に入った声に身を起こす。二人の前…正確には地面から黒塗りの外套に身体を包んだ女性が姿を見せ愛憎入り混じった目を向け手をかざす。瞬く間に無数の布が現れる巻きつくとグイッと引き寄せファビアの頬を撫でた

 

 

「や、はなして」

 

「可愛いわねぇ~その未成熟な肉と血は我が王の生贄に相応しいわ。まだ破れてはいないわねぇ?さてとアナタをアルター様に届ける前に……」

 

 

つっぅと血色の悪い肌の手で胸から腹部を滑らせ止め口角をつり上げ笑みを浮かべる女性の瞳がタカヤを捉える…極寒の吹雪荒れ狂うモノをみた瞬間、身体がくの字に折れ曲がる。肺から一滴残さず空気が吐き出され膝をつこうとする…が寸前で頭を捕まれた

 

 

「あなたを殺すわ…秋月タカヤ……いえ人殺し!」

 

 

「が、はあた!ぐが!」

 

堅く握られた拳が胴を捉え殴り抜くたびに苦悶の声が挙がる。休むことなく、背中から地面へ叩きつけても止まらない、何度も足蹴にし蹴り飛ばし踏みつける…

 

 

「やめて!アナタの目的はワタシ。秋月タカヤは関係ないはず…やめて」

 

 

「…やめないわ…この人殺しはいきる価値なんか無いわ!だから私はコイツを殺す……コイツは私の、私の世界で一番大事な子供の命を奪ったのよ!!ハアアアアア!!」

 

女性の口から語られた事実にファビア、特にタカヤは衝撃を受けていた、自分は右手に握られた剣でこの女性の子供の命を奪った。じゃあ自分は人殺しなのかと剣斧は何も答えない。足音が響き再び頭を捕まれ指の隙間から見えたのは女性…いやデスマスクを思わせる仮面に眼帯がつけられ異形の女神像が乳白色の全身を構成、背中に幼子を想わせる天使がうめこまれた姿…最後の上級ホラー《バルゴ》が顕現している

 

 

 

「返しなさいよ!……アナタが私から奪った大事な……」

 

 

「ううっ……はぁあ…ゴホ、ゴホ」

 

何度も殴られ宙を舞う僕に投げかける言葉…冷たい地面の感覚と口いっぱいに広がる血の味、むせあがり吐きながら咳き込む。そんなのをお構いなしに頭を掴みあげ力が籠もる、鋭利な爪が容赦なく食い込んでいく

 

「何か、何かいいなさい!この偽善者!!」

 

デスマスクを想わせる仮面の目から見える憎しみ、悲しみが込められた瞳を向けながら拳を何度も鳩尾を殴りつけ言葉を浴びせ、なすがままにただ殴られ続けた。

 

 

「返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返してよ!」

 

 

コレは報いなんだ…僕はこの人から大事な…世界で一番大事なものを奪ったんだ

 

 

「………返して……私の子供を返してよ………この人殺し!」

 

 

この人から大事な子供の命を奪った……僕は人殺し…人殺しなんだ……記憶を喪う前の僕が右手に握る鎖がんじがらめに巻かれた剣で命を奪ったんだ

 

「…違う…やめて秋月タカヤは……魔戒騎士は…」

 

 

「あの子はインターミドルに出るんだって頑張ってた。間違った事が嫌いで真っ直ぐで…それをあなたはホラーに憑依されたからって殺したのよ。魔戒騎士は偽善者よ、人殺しを正当化する詭弁よ!!死んで!」

 

ギリリと頭の骨が鳴る音を聞きながら、意識が遠くなっていく…もしこの人が言うのが事実なら、死んだ方がいいのかもしれない…

 

ータ★ヤ※◐……タカヤ!ー

 

 

まただ、知らない声と顔がよぎる……赤い髪の女人、元気いっぱいな子、少し大人しい子、不思議な訛りでしゃべる子、まっすぐな子…そして

 

 

「…秋月タカヤ…」

 

弱々しく今にも泣き出しそうな小さな声…頭から流れる血でぼんやりとしか見えない…でもしっかりと声の主を捉えた…魔女みたいな帽子をかぶり涙を目にいっぱい溜めた女の子ファビアさん。記憶の無い僕を助けてくれた女の子

 

助けたい…あの子には笑顔が一番似合うはずだ…でも人殺しの僕に助けられるのか…その時、声が響いた

 

 

ー……迷うな秋月タカヤ…ー

 

ーえ?誰?ー

 

 

ー誰かは今は関係ない。聞けタカヤ。その女の言葉が真実だとしても、おまえの手にある剣は守るために振るわれていたはずだ………ー

 

 

ーでも僕は…ー

 

 

ーたった一つでもいい…自分にとって命をかけて守りたいモノがあったから、守るための剣だからこそお前の手から離れない。お前の中にある内なるナニかが必ず導くはずだ………お前が剣を手にし刃を振るわせたモノは何だ?ー

 

 

それっきり言葉は途絶えた…再び痛みが襲いかかってくる中で想う…記憶を喪う前の僕が剣を振るっていたのは何なんだ…何かが、割れたガラスが次々と組み上がっていき見えた

 

二つの月の光が照らす室内で剣を構える僕の姿と…

 

 

ー………、僕はヴィ★※◐、ア◐ン※ルト、ノー★ェさん達を、みんなの夢をホラーとの王から守る為に剣を…オウガを振るう…ー

 

 

「…確かにアナタの言うように僕は人殺しかも知れない」

 

 

「なによ、今更命乞い?そんなこと認め…」

 

 

「それでも、ホラーに憑依された人を斬ることになっても、ホラーに襲われ夢を、未来を奪われる人達を守るために剣を振るう!」

 

右手に握った剣斧の鞘、柄に巻きついた鎖が震え亀裂がピシリと入り広がる。頭を捕まれながら正面に構えた。鎖が弾ける。あまりの衝撃に頭を掴む手が緩んだのを逃さず腕を蹴り宙を舞う、飛び散った鎖が花びらのように舞う中で鞘から剣を抜き自然に身体が動き円を描いた。光が包み込み狼のうなり声が聞こえた

 

「……白煌騎士…」

 

 

つぶやくファビアの前には胸元に鎖が幾重にも巻かれたオウガの鎧を纏い立つタカヤ。鎧の胸、つま先、肩、拳部分が漆黒から白金へ変わり剣斧を蜻蛉の構えを取りながら地を蹴り上げファビアを拘束する布を切り裂き上半身の鎧を一部解除、抱きかかえ安全な場所に下ろした

 

「………ファビアさん。ここから動かないで…」

 

 

「うん、秋月タカヤ」

 

ファビアの声に応え、再びバルゴと相対するタカヤ…再び布を飛ばしてくるも、それを足場代わりに駆け抜け迫ると同時に素早く魔戒斧へ切り替え横凪に切り払おうと力を込める…が、寸前で刃が止まる

 

 

「くっ、くあああっ!?」

 

胸に刻まれた刻印が激しく痛み出し、頭を抑え苦しみ出すタカヤ…

 

 

「コレで終わりね魔戒騎士…人殺し。私の子供の命を奪った罪の重さを感じながら潰れなさい!!」

 

『ぐ、グアアア!』

 

無数の布が巻きつきタカヤを締め上げていく。オウガの鎧が軋み、ソウルメタルの粒子が舞い始める…このままだと圧殺される。しかし今のタカヤは刻印からくる激しい痛みが力を奪われていく。もうダメだとファビアも思った時、締め上げる力が収まる

 

『な、なにが』

 

 

ーもう、やめてお母さんー

 

 

「り、リーネ……なんでココに」

 

 

タカヤの視線には半透明の子供が守るように立つ姿、ゆっくりと歩きソッとデスマスクに触れる。アイマスクの下から涙があふれ出し左手がゆっくりと撫でた

 

 

ーお母さん、お兄さんはボクをたすけてくれたの…ホラーに弄ばれるボクの魂を……だから恨まないで。お母さんにコレ以上苦しんで貰いたくないよ…ー

 

 

「そ、そんな……じゃあアルター様は………う、ううああああ!いたい!痛いいいっ!!」

 

 

突然、身をもだえさせるように苦しみ出すバルゴを見て驚くタカヤ…全身から血にも似た液体を撒き散らし異臭をあふれさせ暴れまわる。彼女がタカヤへの復讐心溢れる陰我で適合したホラー・バルゴの力を飲み込んでいた。しかし亡き子供の魂と邂逅しタカヤへの復讐心が薄れ、陰我の不適合を招いた結果だった

 

「い、痛いいいっ!!熱いいいっ!!……ああ、アナタはリーネをこの苦しみから救うた…めに?……ごめんなさい。あ、あああああ!?」

 

 

ーお兄さん、お母さんを救ってあげて………おねがいー

 

涙を貯めながら苦しむ母を救ってくれと頼むリーネ…僅かな逡巡の後に頷き、横を通り抜けゆっくりと剣斧を構え立つたまま動かない

 

 

『………………』

 

 

「はや…く……わ、わたしの……陰我を……」

 

 

……無言のまま振り下ろされた剣斧はバルゴの身体を切り裂いた。苦しみ悶えていた姿は消え変わりに私服姿の女性が仰向けになり倒れている…リーネはゆっくりと近づき手に触れた

 

 

ーお母さん、いこう。今度は寂しくないように一緒にー

 

「リーネ……一緒よ………あ、あ、ありが……」

 

涙を一筋光ると同時に肉体は消滅、リーネの隣に魂に寄り添うように母親が穏やかな笑みを見せている。軽く頭を下げ二人は光となり天へ帰っていく

 

ーお兄さん、お母さんを助けてくれてありがとうー

 

 

その言葉と同時に、鎧が魔界へ返還され肩で息をしながらゆっくりと立ち上がった…その瞳から涙を流し空を見上げ目を閉じた。僕は人を守る為にホラーに憑依された人を斬る…

 

でも、それでも…

 

 

「…秋月タカヤ……え、ナニ?コレ!?」

 

 

「ファビアさん!」

 

 

僕に近づいてきたファビアさんの身体に無数の御札が包み込んでいく。手を伸ばし助けようとしたけどふれる前に御札ごと消え去った……な、なにが起こったの?

 

同じ頃、鉄壁の守りを誇る魔戒殿では異変が起きていた

 

「なぜココを……」

 

 

「ふ、私が此処を知らぬと思ったか?ソコをどけデルク」

 

「いいえ退きません!あなた様は変わられた、昔のオウマ様はどこに行かれたのですか!」

 

 

「………余り時間がない。すべてはメイの為に……生贄は貰っていくぞ。後一人もすで我が手にある」

 

軽く振るうとファビアが無数の御札《眠符》で包まれ眠らされている姿にデルクは覚悟を決め構える…かつての家族であり幼少期からみてきたオウマを殺す事を再びギラファファンガイアへ姿を変え二度と使うまいと決めた《吸生牙》を飛ばし突き刺す…が不死身のアルターには意味がなかった

 

 

「ふ、本気かデルク……」

 

 

「な、リーム様……」

 

 

ボロボロの修道騎士服姿のリームに息をのむデルクに僅かな隙が生まれ、口角をつり上げデルクに投げつける。慌てて抱き止め命に別状がないか看て安心したのもつかの間、首筋に強い衝撃を感じ振り返ると自らを見下ろすオウマの姿

 

「デルク、弱くなったな……さて、生贄を貰っていく……」

 

 

「お待ち……くださ……あう…」

 

 

必死に追いすがろうとするも変身がとけ人間態に戻るデルク、ただリームを守るように抱きしめたまま意識は落ちた。それからしばらくして異変を感じ駆けつけたジロウ達が目にしたのは意識を失い倒れたデルク、リーム。ヴィヴィオ達がいた部屋はもぬけの空だった

 

 

すべてが終わりに向かい始める…だが、まだ希望は残されている

 

 

真魔界…メシア、ラダン、レギャレイス、ギャノン、使徒ホラーが生まれ、邪心溢れる陰我をゲートが開くのを虎視眈々と待ち、限界し人を喰らう魔物《ホラー》が跋扈するグ○メ界以上に一瞬たりとも気を抜いてはいけない。ホラーと闘う魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師のみが立ち入れる禁忌の世界…そこに人影、いや龍を想わせる造形の鎧に身を包んだ人物が歩いている

 

やがてその足が止まる。目の前には無数の界符が無造作に貼り付けられた見上げるほどの巨大な岩を前に誰かにはなしかけている

 

 

『ココで間違いないのかザンリュウジン?』

 

 

ーああ、間違いない……アイツの魂を感じる。世話が焼けるが約束してたからな。いそがないと使徒ホラーやラダン、メシアにレギュレイスに感づかれる。《魔弾》の力やお前の持つ力じゃホラーには太刀打ち出来ないからなー

 

 

『ふ~ん、そっか~じゃあいっちょいくか………』

 

と言い手にしたのは特大メガホン。それを口元に近づけボリューム最大に設定し大きく息を吸い込んだ

 

『お~い、寝坊助~?自分の事を忘れたからってひねくれた意気地なしのエロめがね~♪そんなことで友達を見捨てる薄情な奴~聞こえてるよね~ノックしてモシモ~シ?ん、聞こえてないか…』

 

大音量で声が目の前の巨石《鬼龍岩石》に響く。さらに言葉はつづく…かすかに亀裂が走った事に気付いていない

 

 

『引きこもるなら、ずっと引きこもってなよ、ヒッキ~お前にとって友達ってのは命を1日分もらえる程度のヤツ何だな~悔しかったら出てこいよ~ほら、カモオオン!』

 

 

ーお、おいカズキ、言い過ぎだ!……ヤバいー

 

 

ビキビキ…と音が鳴り響き、巨岩全体が亀裂が大きく走った瞬間、大きく爆ぜ巨大な何かが踊り出した

 

 

『ヌ、ヌルガツクヅシルミスチルカアアアアアアア(だ、誰が友達を見捨てるかああああああああ)!!』

 

 

ソウルメタルの鱗をギシギシ鳴らし空を舞う巨大な魔龍が翼を広げ長い身体を揺らし見下ろす姿と旧魔界語の咆哮があたりに響きわたる中

 

 

「……さてと寝坊助は起こしたからもうココはいいかな。魔戒騎士いや白煌騎士か…少し様子見してみるかな」

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー再起ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




………魔導刻 01,0秒

次回 第二十五話 鷹矢ー散華ー

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