魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》   作:オウガ・Ω

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WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



第十四話 心滅(三)

「ハアッ!」

 

魔導筆で素早く円を描き正面の頑丈な扉へ魔導文字作られた無数の槍状の波動を飛ばす。轟音と共に砕け迷わず中へと進んだとき凄まじい邪気が溢れだしてきた

 

《エアーリーズの野郎、この船ん中を邪気で満たしやがったな!!》

 

「…タカヤ、少し離れてなさい…」

 

母さんが一歩前に出ると魔導筆を構えながら滑らかで優雅に舞いながら炎…白金に輝く魔導火を辺りに浮遊させ鈴の音を響かせ魔導筆を奮うと邪気が消え去り内部が浄化されていく

 

「…弱い邪気は祓ったわ…強い邪気が集まる場所にヴィヴィオ様、アインハルト様、赤か…ノーヴェ・ナカジマがいる…どうしたのタカヤ」

「…何も…」

 

ただそう告げ急ぐ僕の後ろを黙って母さんがついてくる

 

…母さんが僕の前に姿を見せるようになったのはいつ頃からだろう?

 

あの日、旅行の帰りに次元港であってからだった気がする

 

「………………」

 

「………………」

 

 

互いに言葉を発せず薄明かりに照らされた通路を走る…

 

「…タカヤ」

 

「…何ですか」

 

「……た、鍛練は怠ってないようね…でも動きに無駄が残ってるわ…」

 

 

「……………」

 

「…特に術を放つ時に魔導筆を構えるのが…」

 

「……………………」

 

「…あと剣斧の切り替えを…」

 

「…母さんはいつもそうだ…」

 

「え?」

 

「…剣斧を奮うのに無駄がある、術の発動が遅い…何時も其ればかりしか言わなかった!」

 

 

 

「そ、それは」

 

あの時と変わらない口調に今まで溜まりに溜まった感情が胸の奥から溢れだす

「…父さんが死んでから母さんは毎日、毎日、魔導火、ソウルメタル、界符、旧魔界語、魔界の知識、魔導筆を扱う訓練ばかりで、怪我をしても母さんは何もしなかった…気絶して倒れた僕を介抱して部屋へ運んで怪我を治してくれたのはデルクだけだった!」

 

「違う!」

 

「何が違うんですか!僕を…ホラーを刈る道具としてしか母さんは見なかったんだ!」

 

「タカヤ聞いて!私は…私は!!」

 

第十四話 心滅(三)

 

《いい加減にしないかタカヤ、メイ!喧嘩してる場合か。今は嬢ちゃん達を……不味い強い邪気だ!!》

 

言い争うのをやめ辺りを警戒する二人、魔導火を構え乾いた音と共に照らす

 

 

―シャアアアアア~―

 

魔導火に照らされ黒い布を被った不気味な姿、それも一つじゃない天井、壁、ありとあらゆる場所に張り付きて様々な武器を持ち襲いかかろうとしている

 

「ホラー!?」

 

「ホラーじゃないわ!コイツらは【傭兵】…夢界に残留した強い負の思念がエアリーズの邪気を受けて形となったもの知能は低いけどその戦闘力は高いわ!」

 

魔導筆を構え叫ぶと八卦符を使い術を発動する母さんの背後に火の鳥が舞い群がる傭兵を焼き尽くし僕は剣斧を斧形態に切り替え回転ぎりの要領で凪ぎ払い切り裂かれた【傭兵】は霧散し数を減らしながら前へと互いの背中を守りながら進む

――――――――

―――――――

 

なぜ私はこんなことしか言えないんだろう…ヴィヴィオ様が私たちの親子関係に心痛める姿と突然執務室に現れたある少年の言葉

 

 

―貴女が自分の過去を受け入れない限り、共に前に進めない…【今】を認めてない貴女に息子の想いを背負う決断が出来て居ない―

 

その言葉は私が過去と今と向き合うきっかけを与えてくれた…その直後に新たなホラーの出現を魔導机の魔針盤が反応し向かうと夢界の結界に入るタカヤの姿を見てすぐに追いかけ苦戦する姿に迷わず術を使い防御しあの子達と対峙する私たちの前にアキツキ家に伝わる古の魔戒騎士達の助勢を受け今こうして背を合わせ戦っている…こんなに近くにいるのに私は素直な想いを言葉にして伝えられない

 

次元港で、上級ホラーリブラとの戦いの時も…タカヤと話す機会はあったのに…何で私は何時も素直になれないの

―キシャアアアア!―

 

 

無数の傭兵に向け素早く展開した八卦符数枚を穂先で撫で投げつけ当てる、傭兵は瞬く間に爆散、跡形もなくなりやがて数を減らし少し開けた場所へ出るタカヤとメイが辺りをうかがったとき手を軽く叩く音が響く、それと共に傭兵がかき消すように消えていく

 

「いやいや、よくここまで来ましたね~魔戒騎士に魔戒法師…」

 

「…ヴィヴィオとアインハルト、ノーヴェさんはどこにいるんですか…」

 

「…それを聞いてどうするんですか~ああ君にとって戦闘機人は仇ですからね~何せ四年前に【父親】を剣で刺し貫いた戦闘機人の仲間…ナンバーズを自分の手で…」

 

「違う!僕は…ノーヴェさんに…」

 

「でもまあここまで着たから三人は返してあげますよ……」

パチンと指をならすとエアリーズの居た場所から離れた場所に明かりが光るとBJを纏ったヴィヴィオとアインハルト、タカヤの魔法衣を着たノーヴェが佇んでいる

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさん!」

 

「……!待ちなさいタカヤ!!」

 

わずかな違和感を感じメイが叫ぶ。タカヤが駆け寄るや否や三人が拳打、蹴りを放ち当たる寸前で右で受けながらバックステップでかわすも腕を押さえる…

 

「…誰だテメェ?きやすくあたしの名前呼ぶんじゃねえよ!」

 

「…魔戒騎士…覇王の強さを証明するのにふさわしい相手ですね…」

 

「…魔戒騎士…わたしのママを返して!」

 

《あの野郎!三人の記憶をいじりやがったな!!》

 

すさまじいまでの速さで繰り出される拳打と蹴打をかわし弾きながら防ぎかわすタカヤを見て界符で援護しょうとするメイ、しかしエアリーズが不適な笑みを浮かべ立ちはだかる

 

 

「ふふふ、貴女の相手は私がしましょうオウガ・アキツキの血を引く魔戒法師…」

 

「く!(不味いわ…今のタカヤは親しい人…守る者を攻撃できない…)」

 

三人がタカヤに襲いかかるのを目にし気持ちが焦る、だがエアリーズはメイの焦りを見透かしたように足刀、回し蹴りから二連撃の蹴りを放ち壁へ吹き飛ばしタカヤと三人から引き離していく

 

「ウッ!」

 

「おやおや、そんなに自分の子が心配ですか?我々を狩るための【道具】にしたてあげた貴女が…」

 

「……」

 

「…貴女のお陰で我々は数を減らされました…さすがは百年前に我々を封印した【魔戒騎士オウル・アキツキ】の孫ですね…子をそういう風に育て鍛え上げろといわれてたんですね~…【道具】として…アハッ!」

 

 

 

「違うわ!」

 

地を蹴るや否や正拳、更に裏拳、軽くジャンプと同時に魔導力を溜めた蹴りを頭めがけ叩き込む

 

「私は、私は…ホラーとの戦いでタカヤに、ユウキみたいに死んでほしくなかった!…もう誰も失いたくなかった!!」

 

「フッフ~その結果が【これ】なんですよ…」

 

メイは最初【ホラーに絶対負けない魔戒騎士】にする為、魔界の知識、祖父譲りの剣技、体術を教えていた。しかし時が過ぎるうちにそのような目で見てしまったのも事実だった

 

「…そうかも知れない…でも!」

 

裏拳がエアリーズの顔面を捉え綺麗に決まり続けて回転回し蹴りと共に魔導力を溜める

 

「…私がタカヤにしてしまったことは変えられない事実だとしても!」

 

 

その足を軸にし空いた足で首を挟むように捻り回転させ地面へ叩きつけると同時に魔導力を流し込み放電しスタンさせた

 

「…それらを全て受け入れて、タカヤに何度も拒絶されても…全力で守る!母として!!」

 

「ガハッ!」

 

あまりの衝撃と流し込まれ魔導力に身体をしびれさせ悶えるエアリーズを息を切らしながら自身の想いを言葉にしながら見下ろした…が異変がおきエアリーズの身体が一枚の札へ変わり砂のように消え去る

 

「まさか、私をタカヤから引き離すために…いけない!!」

 

直ぐ様駆けるが行く手を傭兵達が遮る

 

「そこを退きなさい!ハア!!」

 

無数の八卦符が傭兵達の体に貼り付かせ動きを止め爆発させながらメイは急いだ…今度こそタカヤを守るために

 

 

―――――――――

――――――――

 

「オラアア!」

 

「ぐあ!」

 

ノーヴェ渾身の拳を両腕で交差し防御し踏みとどまるタカヤにアインハルトとヴィヴィオがすかさず蹴りを拳打を放つ…が動きが止まる。見ると三人の身体をバィンディングシールドが縛り上げてる

 

バリアジャケットは破れ装甲にヒビが入りながらタカヤは声をかけた

 

「やめて、ノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト…」

 

「……だから、あたしの名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!さっさとコレを解きやがれ!!」

 

「そうです、私たちは貴方に会うのははじめてですよ」

 

「わたしもだよ…」

 

 

「僕は知っている…ヴィヴィオはすごく元気で前向きでよく笑って格闘技の練習をがんばる子なんだ。さっきヴィヴィオはママがいないって言ったけどフェイトさんとなのはさんがママなんだ!」

 

 

 

「!わ、わたしにママが二人?…フェイトママ?なのはママ……」

 

「…アインハルトは物静かだけど覇王の記憶を受け継いで、たくさん悩んで一人で苦しんでいた…でも今はヴィヴィオや、ウェズリーさん、ティルミさん、ティオと一緒にインターミドルに向け頑張る素直な子で、あとティオとよく遊んでるのを知ってるよ!」

 

「な、何で…あなたが私の覇王の?…ティオ…アスティオン…」

「…ノーヴェさんは、少しぶっきらぼうで怖い人だって思った…でも、本当は優しくて面倒見がよくてみんなから慕われる優しい人だって…それにすごく甘くていい匂いがするんだ」

 

「な、何言ってやがんだ!あたしは…人じゃねぇ…戦闘機人だ!!」

 

「違う!ノーヴェさんは人だ!!」

 

 

 

「う、うるせぇ!!」

 

バィンディングシールドが破壊され三人は再び襲いかかる…が突然動きが鈍くなったのを感じながらかわしていくタカヤ

 

「いい加減くたばれ!」

 

殴るも寸前でかわされアインハルト、ヴィヴィオの攻撃もタカヤには当たらなかった

 

「…なんでかわされるんですか」

 

「どうして、あたらないの」

「…心が悲鳴をあげているんだ…こんな事をしたくないって」

 

タカヤの言葉を聞いた三人は頬に熱いのを感じ手でさわるとわずかに濡れた感触…瞳から涙が流れている

 

「な、なんなんだよ…あたしに涙…」

 

「…むねが痛いです…」

 

「…すごく苦しい…」

 

「ホラーの術に負けないで!本当の自分を強い意思で取り戻して!!」

 

 

 

頭を押さえ涙を流す三人、心の中では術で産み出された人格と本来の人格が激しくせめぎあっている…奇しくも母メイがエアリーズに重い一撃を与えたのと同時だった

 

 

《タカヤ、俺の口に剣斧を噛ませろ!今なら嬢ちゃんたちの術を解くことができるかも知れねえ!!》

 

「わかった!」

 

素早くキリクを外しフレーム部分、龍の顎を型どった部分が開き剣斧の刃を入れ正面に構え魔導力を流し込みながら思いっきり滑らしソウルメタルの振動音と魔導力の波動からなる音色が三人を包み込む

 

 

―ギイィィィンンン!―

 

 

 

三人の額から黒いモヤ…邪気が姿を変え魔界文字と変わりながら吹き出しやがて消え去った

 

《後は前に教えた【呪詩】を唱えればいい…やり方はわかるな?》

 

「えと確かこうやって…」

邪気が抜け放心状態の三人に近づきそっと抱き寄せ、耳元まで顔を寄せ軽く息を吸い呪詩を唱え始めた

 

「ヌレヌヒテスイヒト、ハリイユメハラヌヲサマスチ…ヒツモノニシスイヒテスイヒテヌムドッチ…ヌレヌヒテスイヒト…」

 

魔導力を込め手から流し優しい口調で呪詩、旧魔界語が紡がれて三人の心へ染み渡っていく中、タカヤの脳裏にあることが思い出された

 

 

―ヌレヌヒテスイヒト、ハリイユメハラヌヲサマスチ…ヒツモノニシスイヒテスイヒテヌムドッチ…ヌレヌヒテスイヒト…―

 

 

 

―おかあさん、その言葉は何て意味なの?―

 

―…この言葉はね『私の愛しい人、悪い夢から目を醒まして…何時もの優しい貴方に戻って…私の愛しい人よ』…って意味なの…―

―いとしいひと?―

 

―タカヤにもいつか見っかるわ…愛しい人【守りし者を守る者】は…あなたが全力で、命をかけて守りたい人は…でも私よりも強い娘じゃないとね…フフフ―

 

父が亡くなる二年前の記憶、母メイの膝で眠る父ユウキを優しい眼差しを向けタカヤの髪を鋤きながら交わされた会話が甦りながら旧魔界語で語り終えると三人の瞳に光が戻った

 

「え?私、今まで何を?」

 

「あれ、なんで私ここに…」

なぜ自分がここにいるかわからないと言う顔をするアインハルト、ヴィヴィオを見てホッとする…がノーヴェだけ目を覚まさず倒れ慌てて抱き止める

 

 

「ノーヴェさん!!…キリク解呪は上手くいったんじゃないの!?」

 

《…俺にもわからね……タカヤ!危ない!!》

 

 

背後から黒い剣が迫り三人を守るように立つタカヤの前に人影がはしり鈍い音が響いた

 

「くっ…うう…」

 

「か、母さん?」

 

黒い剣が魔法衣ごとメイの腹部を突き抜けタカヤの身体に触れるまで後僅かな所で血を滴らせながら止まり乾いた鈴の音と共に魔導筆を手からこぼれ落ちた

 

「…タカヤ、いつも言ってるでしょ…最後…ま…で…気を抜いたらダメ…っ…て…」

 

「か、母さん!」

 

言葉が続かず力無くグラリと倒れるメイを抱き抱え魔導筆で治療しょうとするが焦って落とすも拾いあげ黒い剣を抜き捨て穂先へ想いを込め傷口に向け構えた

 

 

 

――――――――

 

 

―メイ!タカヤを殺す気か!!…まだ十才にもなってないんだぞ!!―

 

―……ヤムレ!!―

 

魔導筆を振るいキリクを眠らせ私は傷つき倒れたタカヤの傍に寄り魔導火を魔導筆の穂先へ移し傷や打ち身だらけの身体に押し当てる

 

―…ごめんね…こんなひどいことをするお母さんで…私をずっと恨んでもいい…でもタカヤはワカチヌツイチナクドム…ワカチヲヒノチニキヌテムクナラズムモッチアグル(私の大事な子供…私の命に変えても必ず守ってあげる)…―

 

 

―――――――

――――――

 

「ヴィヴィオ、アインハルト…母さんとノーヴェさんをお願い」

 

魔導筆から流れ込んできたイメージ。タカヤはこの魔導筆が自分のではなくメイのモノであることに気づくも治療を続けやがて終えるとアインハルトとヴィヴィオにメイを任せるとゆっくりと立ち上がり背後を見る

 

 

 

「あ~あ、まさか魔界法師が魔戒騎士を守るなんてね~四年前からの仕込みが台無しになったじゃないか…」

 

ニヤニヤと笑いながら宙に浮くのはメイと戦っていた筈のエアリーズ…その手には先程の剣が握られ顔をうつむかせたタカヤに対しさらに言葉を続ける

 

「…あの人形達の心を操って四年前、アキツキの名と剣技を使う男を殺そうとしたんですがまさか【魔戒騎士】ではなく【魔戒法師】だったなんてね…あと少しのところで人形にかけた術を解かれ…やむ無く手を下しましたがね…あの時、私の剣が肉を切り裂くのが伝わる感覚は最高でしたよ…食べても良かったんですが生憎男は興味なくてね~」

 

手を下しました…その言葉を聞きゆっくりと顔をあげ怒りと悲しみに満ちた瞳でエアリーズを見る

 

 

「…おやおや~なんですかその目は?まさか仇が人形、戦闘機人ではなく私だったのに驚いたって感じですね~わざわざ【私】が父親を殺した場所を夢界で再現してあげたんですよ…最高だったでしょ!!あの人形達も四年前の記憶に戻したんですよ…貴方のためワザワザね♪」

 

「……………黙れ」

 

ユラリと剣斧を構えた瞬間、姿が消え背後に回り込むヤ否や魔戒斧形態に切り替え大きく振りかぶり力任せに切る

 

「あは!そんな感情に任せた攻撃は当たりませんよ~ハイな!!」

 

「ガアっ!?」

 

声と共に背後にローキックを受けのぞけるが魔戒剣形態に切り替え横凪ぎに斬りかかるが余裕と言わんばかりに手で反らされ逆にボディ、顔に重い拳が叩き込まれ地面へ倒れる

 

 

 

 

「どうしました~貴方の父親の敵はここにいますよ~ア~ハハ♪コッチですよ魔戒騎士♪」

 

《落ち着けタカヤ!怒りに心を支配されるな!!》

 

「ハアッ!セイ!!」

 

「あの人形二体がこの四年間苦しむ姿は最高でした~本当は殺してないのに、まあ私がやった記憶操作もありますけどね…フフ…その苦しむ様はまさに甘美でしたよ…さぞかし美味しいでしょうね…あのノーヴェという女の肉は…」

 

「…だまれえぇぇ!!」

 

――――――――――

―――――――――

 

「…先程の強い邪気を感じたか」

 

「はい、急ぎましょう…嫌な感じがしてなりませんし」

 

「…ジロウ、レイジ、この女たちはどうする?」

 

「はなせ!はなせっす~!!」

 

 

「ウ、ウェンディ…私たち負けたんだから仕方ないよ」

 

術で拘束されたウェンディ、ディエチを抱き抱えた引っ掻き傷だらけのソウマ

 

「…ま、負けた…この姉が…」

 

「…すいませんチンクさん…もしもの時は責任を取ります」

 

申し訳なさそうな顔をし界符で拘束されたチンクに謝るレイジ

 

「なぜ止めを指さないんですか」

 

「僕も知りたいです」

 

「…お前たちから悪意は感じなかった…ただそれだけだ」

 

ディード、オットーを縛符(レイジのと同じもの)で縛りながら話しながらもジロウはタカヤとメイが向かった船と辺りを見る

 

「…連れていくしかないな…邪気が溢れだしつつあるこの場に放置するのは危険すぎるからな」

 

「そうですね…少しだけ僕たちと付き合ってくださいねチンクさん」

 

 

 

「う、うむ///」

 

「暴れるなまな板女!」

 

「誰がまな板女っすか!アレはまな板じゃなく…」

 

「ケ、ケンカはやめてウェンディ!?」

 

「少しだけ付き合ってもらうが構わないか?」

 

「「(コクリ)」」

 

 

三人の魔戒騎士とウェンディ、ディエチ、ディード、オットー、チンク、地中に埋もれたセインと共に船…ゆりかごへと急いだ

 

―――――――

――――――

 

「どこを狙ってるんですか魔戒騎士?」

 

「ぐあ!う、うおおお!!」

 

頭上に真円を描くと同時に光が降りオウガの鎧を纏いタカヤは再び斬りかかりながら突き、横凪ぎ、袈裟斬りする…がエアリーズも羊の巻き角に黒い毛、筋骨隆々な本来の姿へ変わり毛を無数の黒い剣へ変えオウガへなったタカヤを斬りつける

 

 

 

『ガアッ!』

 

『ヒハハハハ、スンナモノズスカマクイクス(アハハハ、そんなものですか魔戒騎士?)』

 

黒い剣を切り払うもその隙を縫い黒く重い蹄で胴体へ掌を当て切り裂く度にソウルメタルが軋み粒子が舞う

 

《タカヤ!時間がないぞ!!》

 

『ウオオ!!』

 

鎧を纏い既に六十秒が過ぎ焦りに似た声をキリクがあげるが怒りにとらわれたタカヤの耳には届かない

 

只あるのは父ユウキの本当の仇、自分を道具として育てた筈の母メイの真実の想い、ノーヴェ達を仇だと思ってしまった自分に対する怒り、四年前にノーヴェ達姉妹の心を操り弄んだエアリーズを倒すしか頭にない

 

『ハアア!』

 

『ガハアア!!』

 

―09.9秒、08.0秒…―

 

怒りに彩られた太刀筋がエアリーズの身体を捉え逆袈裟に切り払い壁に吹き飛ばされ打ち付けられるのを見逃さず魔戒斧形態へ切り替え大きく振りかぶり力任せに袈裟、返して逆袈裟する無数の黒い剣に防がれたその時、魔界にある砂時計が勢いよく弾け飛んだ

 

 

―00.0秒―

 

『ガハッ!』

 

身体をを大きくのぞけらせ辺りに血に似た液体が飛び散り変化が起こり始める

 

『グ、グウウウウ!?』

 

オウガの鎧の腰にある紋章がガコンッと音をたて回り逆位置へかわり胴体が膨れ、次に両腕が鋭利な突起が生え尻尾が伸び狼をもした兜が形状変化と共に白金から闇よりも深い黒へ色が変わり降り立つ

 

 

その姿はあまりにも異形…まるで理性と言う名の鎖から解き放たれた狂暴な獣

魔界の力で産み出されたソウルメタルの鎧を纏った魔戒騎士が現世での召喚限界時間魔導刻99.9秒が過ぎても鎧を返還せず纏い続ける事でなる禁断の姿

 

 

―心滅獣身―

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

巨大な黒い狼へ姿を変え壁を破壊しながらその姿に思わず狂喜するエアリーズ

 

 

 

 

 

『ヤハハハハ!ホレデホウヲヨミグエルホホガデクル!【アルター】スマノクイカクドヌリ…ハトハホホロヲハヤツヨグケ(アハハハ!これで王が甦る事ができる!アルター様の計画通り…あとは心を操りだけだ)』

 

 

心滅獣獣身オウガに術をかけ制御しょうと心を覗いたエアリーズ…だが強い感情に弾き出された

 

―コロス、コイツヲコロス…コロス、コロス、コロス、コロス、コロス―

 

『ハヒィ!ハヒィィィィ!!』

 

強烈な殺意に逃げようとするが素早く掴み吠えながらエアリーズの両腕を軽く握りつぶした

 

『アグバアアアア!?』

 

『グウウウウウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

叫びながら地面へ殴り付けソウルメタルの突起に刺し貫かれ身を焼かれるエアリーズの悲鳴が響き渡る

 

 

 

 

「ん、私は…」

 

「メイさん、タカヤさんが…タカヤさんが!」

 

ヴィヴィオの視線を追い唖然となるメイ…アキツキの伝承にある心滅獣身の姿に身体がガクガクと震える

 

「何でなの、何で【心滅獣身】に…ヴィヴィオさん、アインハルトさん、その子を連れて逃げて!!」

 

立ち上がると魔導筆を構えるメイ…八卦符を数枚展開し止める方法を考える

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

『…ハサカ、ハサカアルタースマフ…ホウヌルクトヲ…ヤマシタナアアナ!!(…まさか、まさかアルター様は…こうなる事を…騙したなああ!!)』

 

巨大な腕に殴られソウルメタルに焼かれながら宙を舞いながら叫ぶエアリーズ。その頭を手で掴みあげもがく胴体めがけ巨大な尻尾で刺し貫く。何度も何度も貫き最後に下へと切り裂いた

 

 

『アアアアアアアアアアアア!?』

 

 

叫びが辺りに響かせながら消滅するエアリーズから目を離しメイ達がいる場所に地響きをたてながら歩く心滅獣身オウガは色違いの瞳を輝かせながらやがて地を蹴り弾丸のような速さで襲い掛かる寸前で八卦符で防壁を張るメイ…だが力任せに殴られ亀裂が徐々に入りギシギシと悲鳴をあげ始める

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

「ダメ、このままじゃ結界が…」

 

 

《頼む…タカ…ヤの鎧…を解除…して…くれ…タカヤが鎧に喰われ…る…》

 

 

キリクの苦しみに満ちた声と同時に限界を超え障壁が破壊され心滅獣身オウガの拳がメイに迫ろうとしたとき何かが横切った

 

 

「……お祖母ちゃんに何してんだああ!くそ親父いィィィィィ!!!」

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

 

叫び声と共に勢いよく何かに蹴り飛ばされる心滅獣身オウガ。呆気にとられるメイの前には袖を捲った魔法衣に黒く長い髪にアホ毛、タカヤより少し年上の少年が四人を護るように立っている

 

「あ、あなたは?」

 

「…クロウ…クロウ・オーファン…」

 

それだけ告げると立ち上がった心滅獣身オウガを見据える少年の腕辺りで何かが軋みながら文句をいう

 

「キリ…ライバ…ばれなきゃいいから…とにかく親父を止めるぞ!」

 

少し変わった長めの双剣を魔法衣から抜き構えながら呟いた

 

心滅(三)

 

心滅(四)へ続く




キリク
《突然現れ【心滅獣身オウガ】を蹴り飛ばした少年クロウ…正体は気になるが…今はタカヤを助けないと不味い…次回、心滅!(四)…古の三騎士と未来の騎士揃い踏み!!》


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