モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 雪山と砂漠 沼地と火山 08

「着いたニャ~」

リヴァル達が乗っている竜車が止まると同時に、御者のアイルーが教えてくれた。荷台の出口に一番近い場所に座っていたリヴァルが腰を上げ、雨が入ってこないように天井から垂らしてある革張りの布の隙間から外へ出る。

「…」

足を降ろすと、長雨のせいでぬかるんだ地面に両足が少し沈み込んでしまった。リヴァルは心の中でため息を吐いてから、空を見上げる。厚い雲に覆われた空は、晴れそうにない。防具の隙間から入ってくる雨はモンスターとの戦闘で熱くなった身体を冷やすには丁度よいだろうが、今では少し寒いくらいだ。

「きゃ…っ」

ばしゃっ、と音を立ててリヴァルの横にリサが降り立った。そこは水たまりができていて、リサが着地する衝撃で泥水が弾け、リヴァルに掛かってしまう。

「す、すみません…」

「いや、いいさ。もう濡れてるし」

リヴァルは気にするなという意味で言ったが、それでもリサは「すみません…」と小さく頭を下げた。

「荷物を運ぶから手伝ってくれ」

竜車の中からユウキの声が聞こえ、続けてショウヘイが竜車の中から今回の狩りで使う予定の様々な道具が入っている木箱をリヴァルとリサに差し出した。これはひとりでは持てない重さなので、リヴァルはリサと協力してベースキャンプ内に設営されているテントへと運ぶ。その間2人は口を開かなかったが、テントの中へ運び入れた木箱の上にリヴァルとリサが並んで座ったところで、リサが口を開いた。

「リヴァルさん、あの…」

「ん…?」

リヴァルはリオソウルヘルムを被っているので、表情を伺うことはできない。唯一、目を保護するバイザーが今は上げられていて、そこにある深紅の瞳は疑問の眼差しだった。

リサは口を開きかけて、閉じてしまう。リサはリヴァルに対し、ある可能性を疑っていた。もしその可能性が、リサの考えが当たっていたら、それはリサにとって、そして恐らくリヴァルにとっても良い事だと思っている。

しかし、これからキリンと呼ばれる古龍と戦うのに、この事をリヴァルに伝えてしまうとリヴァルは混乱し、最悪狩りに支障が出てしまうのではないか。リサはリヴァルから目を逸らし、話題を無理矢理切り替えた。

「今回の相手…キリンは、ショウヘイさんの説得に応じてくれるのでしょうか…」

「今までの流れからすると、無理だろうな…」

リヴァルはそう言って立ち上がった。ショウヘイとユウキが4人分の武器を持ってきたからだ。

リサは立ち上がったリヴァルの姿を見て、今はまだ話さなくてもいいだろうと思った。ハンターという仕事上いつ死ぬか分からないが、少なくともリヴァルが死ぬことはないと、何故かリサはそう思えるのだった。

 

リヴァル達は準備を終えると、ベースキャンプを後にした。

この沼地の北部に枯れ草地帯があるらしく、まずはそこを目指すことになった。雨が降り続く沼地を4人は黙って歩き続ける。聞こえてくるのは雨音とリヴァル達の行進する音、装備同士が擦れる音くらいである。

(幻獣キリン…)

ショウヘイやユウキの話によると、キリンと呼ばれる今回のモンスターは見た目こそ巨大化した草食獣ケルビらしいが、その能力は古龍に分類されるだけあって強大だ。

その身体に似合わず俊敏な動きを見せ、遠距離からは雷を操って攻撃してくるらしい。体表は見た目とは裏腹に強靭で、なかなか刃が通らないらしい。

「雨っていうのは、気力も洗い流してくれるのかねぇ…」

最後尾を歩くユウキが愚痴を漏らしたが、リヴァルを含め誰も返事を返さない。ユウキは寂しそうにため息を吐き、それ以上何も話さなかった。

やがて枯れ草が目立つようになり、地図の最北端へ着いた頃には一面枯れ草の原っぱだった。高さが腰の上くらいまであるので邪魔になるかと思ったが、あっさり折れてくれるので、その心配はなさそうだった。

突然、先頭を歩くショウヘイが立ち止まった。リヴァルやリサ、ユウキも歩みを止める。そのまましばらくの後、右へ湾曲しているこのエリアの奥から白い光に包まれたモンスターが歩み寄ってきた。

「キリン…」

リヴァルは思わずその名前を口にしていた。確かに大きな白いケルビに見えなくもないが、威厳とプレッシャーが違いすぎる。身にまとう雰囲気は、まさに古龍だった。

キリンはある程度の距離を置いて歩みを止める。それを合図に、ショウヘイは3歩ほど前に出た。先に口を開いたのはキリンだった。

「初めまして、竜人さん。お会いできて光栄です」

凛とした女性の声だった。ショウヘイは少し驚きながらも口を開く。

「俺がここに来た理由を知っているんだろう?」

「もちろん。この計画を中断させるためでしょう?残念だけど、それは無理なお願いです」

「どうして?俺達竜人は、人と竜の間に生まれし者…。種族間の仲介者だ。人間側に問題があるなら、俺が交渉人になってもいい」

ショウヘイの言葉を聞いたキリンは考え込むように小さな目を閉じていたが、やがて静かに目を開いた。

「その言葉はありがたく思います。しかし…我々竜の指導者である祖龍ミラルーツ様の決定は、絶対なのです」

「…」

「祖龍ミラルーツ様は多くの反対意見を押し切り、計画を実行なさいました。それを今から撤回することはできないのです。私もその祖龍ミラルーツ様のご意志に賛同した身…今から覆ることはありません」

「どうしても駄目か…?」

「…」

ショウヘイの問いかけは、キリンの真剣な眼差しによって返された。

「ならばせめて、祖龍ミラルーツが人間を滅ぼそうとした理由を聞かせてくれないか?俺達竜人がその原因を解決できれば、お前たち竜の侵攻は止まるだろう?」

「竜人には何も教えるなと、祖龍ミラルーツ様から口止めされています。それに今回の件の知ったところで、竜人たちは何もできず、結果我々の侵攻は止まらない。と、祖龍ミラルーツ様の言葉です」

「…分かった。ならば俺達竜人は、全力でお前たちの計画を止めてみせる」

「もとより、竜人が出てくるのは覚悟の上です。いざ…!」

キリンは言葉を切ると、前脚を掲げて天高く咆哮した。それに応呼するように周囲へ落雷が発生し、枯れ草に引火して炎を上げた。

ショウヘイはキリンから目を離さないようにして後退り、リヴァル達と合流する。

「説得は無理だったか」

「ああ。…戦うぞ」

ショウヘイが背中の太刀を抜くのと、キリンが駆け出したのは同時だった。


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