ショウヘイ達がドンドルマの街に戻り、報告のために大衆酒場へ足を踏み入れると、そこにはジュンキ、クレハ、カズキの姿があった。見たところ怪我をした様子もないのでショウヘイ達は安堵し、ジュンキ達が座っているテーブルに向かった。
「無事みたいだな」
ショウヘイが声を上げると、ジュンキ、クレハ、カズキはそれぞれ料理と格闘する手を止めて振り向いた。
「ショウヘイ!ユウキにリヴァル、リサも…!」
クレハが驚きの声を上げたが、ショウヘイは軽く頷いてから言葉を続けた。
「偶然だな。落ち合う約束もしていないのに」
「偶然じゃないよ。ユーリに聞いたらまだ戻ってきてないって言うから、ショウヘイ達が戻ってくるのを待とうって話になったの」
クレハに説明を受けて、ショウヘイは一度頷いてから口を開いた。
「どれくらい待ったんだ?」
「2日くらいだよ」
「悪いな」
「気にすんなって」
カズキの言葉にショウヘイは静かに頷き、席に着いた。リヴァルやリサ、ユウキもジュンキ、クレハ、カズキと向かい合うよう席に着く。
「テオ・テスカトルはどうだった?」
ジュンキに促されたので、ショウヘイは先に話す事にした。
「無事討伐できた。だが、リヴァルが腕に軽い火傷を負った」
「リヴァルが?」
ショウヘイの言葉にジュンキはリヴァルの方を向いた。リヴァルはそれを合図に、テーブルの上に自信の右腕を置く。リヴァルの腕を守っているリオソウルアーム、それが炭化している。
「こりゃあ修理できるか…?」
カズキの言葉に、リヴァルは無言で頷く。
「…大丈夫なのか?」
ジュンキに声をかけられ、リヴァルは深い赤色の瞳を見開いて絶句した。
「リヴァル…?」
ジュンキの声を聞いて、リヴァルは我に返った。
「お前…俺を心配してるのか…?」
「リヴァル…。仲間を心配するのは当然だろ?」
「仲間…」
ジュンキは今「仲間」と言った。その言葉の意味を鵜呑みにすれば、ジュンキは自分をひとりのハンターとして、それ以上に背中を預けられる人物として認めてくれたことになる。果たしてジュンキは本心からそう言ったのだろうか―――リヴァルには分からなかった。
「まあ、大丈夫そうでよかった。じゃあ次はこっちだな」
カズキの声を聞いて、リヴァルはいつの間にか見つめていた自身の両手から顔を上げた。
「俺たちの担当したクシャルダオラも倒すことができた。目立った怪我もない。ただ…」
カズキはそう言ってジュンキに目配せした。それを受けてジュンキは頷き、口を開く。
「クシャルダオラが、気になることを言っていたんだ」
ジュンキの言葉にリヴァル、リサ、ショウヘイ、ユウキは各々小さく頷く。ジュンキは言葉を続けた。
「クシャルダオラとの戦闘中に、奴が竜の世界を守るため、って言ったんだ」
「息絶える直前にも、必要だったから人の世を滅ぼすって言ったよ」
ジュンキの言葉にクレハが付け足す。
「そうか…。俺たちが担当したテオ・テスカトルも、妙なことを言っていたな…」
「と、言うと?」
ジュンキが促すと、ショウヘイは一度頷いてから口を開いた。
「我々の世界を守る、だそうだ」
「我々の世界を守る…。一体どういうことなんだろう…?」
「そのままの意味なんだろうが…」
クレハの考え込むような声を聞いて、ユウキも腕を胸の前で組んで考え込む。そのまま静まり返ったテーブルに、ユーリの明るい声が響いた。
「みんなお帰りなさい!大きな怪我もなく無事でよかった!」
ユーリはそう言って、リヴァル達のテーブルに皮袋を7つ放り投げた。クシャルダオラとテオ・テスカトル討伐の報酬金だ。
「さあ、何を食べる?じゃんじゃん注文してね!」
ユーリはそう言いながらエプロンの腰紐の間から注文用紙と鉛筆を取り出す。その姿につい笑みがこぼれてしまうリヴァル達だ。
「食事にしようか」
ジュンキの提案に、誰ひとりとして反論しなかった。
「ユーリ、ちょっといいか?」
食事を終えて空になった皿を下げに来たユーリを、リヴァル達は呼び止めた。ユーリは持ち上げかけた皿をテーブルに戻してから口を開く。
「なぁに?追加オーダー?」
「キリンとラージャンのことを聞きたいんだけど…」
クレハがそう言うとユーリの表情が引き締められた。ユーリは背後のテーブルから丸椅子をひとつ手に取り、リヴァル達のテーブルに座る。
「キリンとラージャンに関しては大丈夫。まだ人的被害は出ていないわ」
「そう、よかった…」
「でも、経済的損失は大きいの。沼地のキノコとかが入ってこないから物価が高騰するし、火山の良質な鉱石も入らないからハンター達は開店休業状態だし…」
そう言ってユーリはわざとらしくため息を吐いた。そして横目でリヴァル達全員を見渡す。そして再びため息。
「ああ、誰か優秀なハンターが早く狩ってくれないかしら。沼地のキリンと、火山のラージャンを…」
ジュンキ、クレハ、ユウキ、カズキ、リサから苦笑いがこぼれる。
「分かったよ。できる限り早く出発するからさ」
リヴァル達全員の言葉としてジュンキがそう言うと、ユーリはニコリと笑ったのだった。
「俺たちは、リヴァルの装備を修理してから出発することにする」
「えっ…!」
大衆酒場での食事と話し合いを終えて外に出たところで言ったショウヘイの言葉に、リヴァルは驚きの声を上げてしまった。
「どうした?」
「いや、俺なんかの為に全体の行動を遅らせるなんて…」
リヴァルはショウヘイやリサ、ユウキ。それにジュンキ達から目を逸らしてそう言った。
「確かに、今は急ぐべき時かもしれない。しかし、急いては事を仕損じる。それに防具の不備のせいでリヴァルが深手を負ってしまったら、何にもならないからな」
ショウヘイの言葉に、リヴァルは深い赤色の瞳を見開いて顔を上げた。そこには穏やかな笑みを浮かべるショウヘイと、その背後のジュンキとクレハ。満面の笑みのユウキに、背後のカズキ。そして静かに頷いたリサ。
「あ、ありが…とう…」
今度はジュンキ達が驚く番だった。あのリヴァルが「ありがとう」と感謝を述べたのだ。ショウヘイは恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向いているリヴァルの左肩に右手を乗せた。リヴァルが顔を上げるのを待って、しっかりと頷く。
「じゃあ、俺たちも少し休むか」
「出発は明日中だから、明日の深夜でも問題ないはずだよね」
「だな」
ジュンキ達も、リヴァルの防具の修理が終わるまで待つというらしい。
リヴァルは嬉しかった。
リヴァルの目尻に涙が浮かんだのを、リサは見逃さなかった。