モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 雪山と砂漠 沼地と火山 06

リヴァル達が退却した洞窟は地底湖になっていて、リヴァルは先に退避していたショウヘイやリサに脇目も振らずに地底湖へ駆け寄り、テオ・テスカトルに焼かれた右腕を、防具を着けたまま水の中へと入れた。

「ぐぅおおおぁぁぁ…!!!」

右腕を襲う痛みに全身が痙攣してしまう。右腕のリオソウルアームは水につけると、ジュージューと音を立てた。

「リヴァルさん…。大丈夫…ですか…?」

隣にやってきたリサが、恐る恐るリヴァルの状態を心配する。

「大丈夫だっ…。まだ、感覚がある…ぐっ!」

リヴァルはそこまで言うと水の中から焼かれた右腕を抜き、リサと共に休んでいるショウヘイやユウキの横に座った。そして無事な左手を使い、右腕のリオソウルアームを静かに外していく。その様子をリサ、ショウヘイ、ユウキは黙って見守った。

「…っ」

黒コゲのリオソウルアームから出てきたのは、真っ赤になった右腕だった。水膨れができているわけでも、ましてや皮膚の表面が炭化しているわけでもなかった。リヴァル達4人に安堵の空気が流れる。

「きっと、火耐性の強いリオソウルの防具だったからですよ。良かったですね、リヴァルさん」

「そうだな…」

リサがそう言いながら自身の水筒を取り出し、リヴァルの右腕に掛ける。

「うっ…!」

リヴァルは走った痛みに一瞬顔をしかめたが、すぐ痛みは引いていった。

「まだ戦えるか?」

「…もちろんだ」

リヴァルはショウヘイの言葉にできる限りの力を込めて答え、ショウヘイもしっかりと頷き返した。

「リサは大丈夫なのか?」

見たところ、そこまで大きな怪我を負っているようには見えないリサだが、先程のテオ・テスカトルとの戦いの中で、リサはショウヘイに支えられながら退却しようとしていた。もしかしたら、今のリサはリヴァル達に心配をかけまいと無理をしているのではとリヴァルは心配になり、リサに声を掛けたのだ。そのリサは明るい赤色の瞳を一瞬驚きに見開いた後、すぐ笑顔を浮かべた。

「大丈夫ですよ。粉塵爆発の爆風に吹き飛ばされただけですから」

「でもお前、ショウヘイに肩を貸して貰っていたじゃないか」

「吹き飛ばされた影響か、まっすぐ立って歩けなかったので…。本当にそれだけです」

「…そうか。よかった」

「他人の心配より自分の心配をして下さい?リヴァルさん」

リサはそう言って、リヴァルの隣に腰を下ろしたのだった。

 

リヴァル達はしばらく休憩をとった後、再び夜の砂漠へと足を踏み入れた。テオ・テスカトルは既に他のエリアへ移動していると思っていたリヴァル達だったが、テオ・テスカトルはエリアを動かずにリヴァル達が洞窟から出てくるのを待っていた。

リヴァル達が初めてテオ・テスカトルと会った時と同じように、歩いてテオ・テスカトルに接近する。テオ・テスカトルも動かない。やがて月の光でお互いの顔が見分けられる距離にまで近づいたところで、リヴァル達は歩みを止める。

そして、ショウヘイが一歩前に出て口を開いた。

「俺達を待っていたのか?」

「無論だ」

テオ・テスカトルの短い返事を聞いてショウヘイが言葉を返そうとしたが、その前にテオ・テスカトルが言葉を発した。

「もはや言葉は不要だろう?」

「…そうだな」

ショウヘイはそれだけ言うと一歩下がり、リヴァル、リサ、ユウキに声をかける。

「始めるぞ」

「ああ」

「はい」

「任せろ」

ショウヘイがリヴァル、リサ、ユウキの返事を聞くのと、テオ・テスカトルが咆哮を上げたのは同時だった。

 

テオ・テスカトルは今まで以上の速度でリヴァル達に突進した。リヴァル、リサ、ショウヘイはテオ・テスカトルの背後に回りこむように動き、ユウキは距離を置く。

テオ・テスカトルは急停止をかけると身体をショウヘイの方へと向け、突進する。ショウヘイは避けようとせず、姿勢を低くして太刀を構えた。そしてテオ・テスカトルと衝突する寸前に回避し、テオ・テスカトルの突進の勢いを利用して斬りつける。斬り裂かれた左翼から出血し、砂漠の砂に吸い込まれる。

このままテオ・テスカトルが通り過ぎると思っていたショウヘイ。しかし、テオ・テスカトル通り過ぎる前に油断していたショウヘイに向かって強靭な尻尾を振り回した。ショウヘイはこれを避けることができず、腹部に一撃を貰ってしまう。

「ぐふっ…!」

衝撃に息が詰まり、肺の中の空気を失う。ショウヘイは砂の大地を転がったが、すぐに起き上がることができた。「大丈夫かー?」と聞いてくるユウキに、右手を上げて返事を返す。

「次こそは…!」

テオ・テスカトルはショウヘイが戦闘不能になっていないことに気づくと急停止し、三度ショウヘイのいる方へと身体を捻った。

「たあああああっ!」

そこへ、リサがハンマーの重い一撃を頭部に与える。

「あ…っ!」

―――バキッという乾いた音が夜の砂漠に響いた。

続けてテオ・テスカトルの悲鳴。

トスッと乾いた音が聞こえたので振り返ると、そこには一本の角が落ちていた。

「リサ!」

「…!」

リヴァルの声に我に帰ったリサはすぐにテオ・テスカトルの方を見た。そこには横倒しになり苦しそうに暴れているテオ・テスカトルと、この隙を逃さないと言わんばかりにショウヘイが太刀を振るい、ユウキがライトボウガンを撃っていた。リサは慌てて駆け出し、その横にリヴァルが並ぶ。

「よくやったな」

「えっ…?」

「角だよ、角」

「…はい!」

二人は短い会話を済ませるとリヴァルはテオ・テスカトルの頭部に、リサは腹部に向けて駆け出す。

「はああああっ!」

「やああああっ!」

リヴァルの大剣「オベリオン」とリサのハンマー「アイアンストライク改」が同時にテオ・テスカトルを捉える。リヴァルとリサはさらに攻撃を加えようと武器を握る手に力を込めたが、ここでテオ・テスカトルが体を起こしてしまったので断念し、距離を取ろうと背を向けた。

「ぐっ…!許さん…!」

ショウヘイにしか聞こえない声を出してテオ・テスカトルは起き上がると、距離を取ろうとするリヴァル、リサに向けて炎のブレスを吐き出した。

「避けろ!」

ショウヘイの叫び声を聞いて、リヴァルとリサの2人は砂漠の砂に頭から突っ込むことも気にせず跳躍した。テオ・テスカトルの炎はギリギリ2人に届かず、空振りに終わる。

「ショウヘイ!離れろよ!」

背後からのユウキの声を聞いて、ショウヘイはテオ・テスカトルから飛び退く。直後に、テオ・テスカトルの周囲で爆発が起きる。粉塵爆発ではない。ユウキが撃った拡散弾である。

「ぐうううおおおあああ!!!」

テオ・テスカトルは怒りの咆哮を発した。直後、翼を広げて粉末を辺りに振り撒く。粉塵爆発攻撃を仕掛けるのだろう。

「死ねぇぇぇえええええ!!!―――!?」

テオ・テスカトルが着火しようとした寸前で、ショウヘイが閃光玉を破裂させた。テオ・テスカトルは視界を奪われて混乱してしまい、粉塵爆発を起こせない。

「たあああああっ!」

その隙にショウヘイがテオ・テスカトルの尻尾を一閃―――尻尾は根元から切断されて宙を舞った。テオ・テスカトルは突然尻尾を失った影響かその場に転んでしまう。そこへショウヘイが駆けつけ、更に一太刀、二太刀浴びせる。

「ぐおッ!ぐうぁッ!がああああああああああ!!!」

テオ・テスカトルは狂ったように、闇雲に駆け出した。

「はあっ!」

そんなテオ・テスカトルの左後脚にリサが一撃、骨まで砕く。

「らああああっ!」

次にリヴァルがすれ違い様に右翼を一撃、本体から切り離した。それでもテオ・テスカトルは止まらず、ユウキ目掛けて突進する。

「…」

ユウキはテオ・テスカトルの突進を避けようとせず、静かに「グレネードボウガン改」のスコープを覗く。

そして一発。

それはテオ・テスカトルの右目を撃ち抜き、後頭部を抜けていった。テオ・テスカトルは駆けたまま体勢を崩し倒れ、砂の大地を転がり、ユウキの手前で止まった。

「ふう、流石に冷や汗モノだな…」

ユウキは独り言を呟くとスコープから顔を上げた。

「ユウキ!無事か!?」

慌てて駆け寄ってくるショウヘイやリヴァル、そしてリサに向かってユウキは右手を上げ、無事を知らせる。最初にユウキの元へ着いたショウヘイは、一度テオ・テスカトルを見てからユウキを振り向いた。

「…死んだのか?」

「ああ。死んだよ」

ユウキはそれだけ言うと立ち上がり「グレネードボウガン改」を背中に戻した。

「ユウキさん!大丈夫でしたか…!」

リヴァルとリサもユウキに駆け寄る。

「…終わったな」

「ああ。だが全てじゃない。ジュンキ達が上手くいっていても、あと2匹残っている」

ショウヘイがリヴァルの言葉にそう返すと、背中から剥ぎ取りナイフを抜いた。

「もうすぐ夜が明ける。昼間の砂漠は過酷だから、剥ぎ取ってキャンプに戻ろう」

ショウヘイはそう言って、剥ぎ取りナイフをテオ・テスカトルに突き立てた。


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