ジュンキ、クレハ、カズキの3人はクシャルダオラから武器や防具に使えそうな素材を剥ぎ取ると、雪山からの下山を始めた。誰ひとりとして口を開かなかったが、クシャルダオラを倒した山の中腹エリアから麓まで繋がっている天然の洞窟に足を踏み入れたところで、ようやくクレハが口を開いた。
「…クシャルダオラのあの言葉」
クレハの声を聞いて、ジュンキとカズキの歩みが止まる。クレハは言葉を続けた。
「あのクシャルダオラ…気になることを言ってたよね…」
「…そうだな」
「俺には聞こえないけどな」
「えっと…クシャルダオラが移動して、隣のエリアで会った時に言ったのが、私達の世界を守るために、だったかな…?」
クレハは自信が無いようで小首を傾げたので、ジュンキは正解と小さく頷いてから口を開いた。
「あと、最期の瞬間に、必要だから人を滅ぼすとも言っていた…」
ジュンキとクレハからクシャルダオラの言葉を聞いたカズキは「う~ん」とわざとらしく右手を顎に当ててまで言葉の意味を考えていたが、結局「分からん」と投げ出して歩き出したので、ジュンキとクレハは苦笑いした後に歩きながら考えを話し合うことにした。
「守るために人の世を滅ぼす…。必要だから滅ぼす…?」
クレハは再び小首を傾げた。
「要するに、竜の世界を守るために、人の世界を滅ぼす必要があった…?」
「そうなるのかな?でもどうして…?ハンターズギルドは過度の狩猟を行わないように、ハンターへの依頼を調整しているはずだよ?」
「だよな…。ハンター以外に原因が…?」
「う~ん…」
ジュンキもクレハもこれ以上の考えが出ないまま、とうとう洞窟から麗に出てしまった。このエリアを横切ればベースキャンプである。
「これ以上考えても仕方ないな。これからの事を考えよう?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、ポッケ村で祝杯だな!」
突然カズキが元気に声を上げたので、ジュンキとクレハはおおいに笑ったのだった。
※
夜の砂漠は驚くほどに寒い。昼は照りつける太陽が砂を熱し、大気が揺らぐ程に気温が上昇するが、これは草や木が日光を遮ってくれないからである。反対に夜は熱をため込んでくれる草や木が生えていない為、気温が下がる。そう、息が白くなるくらいに。
リヴァル、リサ、ショウヘイ、ユウキはドンドルマの街でテオ・テスカトルの討伐依頼を受けると、すぐに出発した。場所は砂漠。到着した時間帯は夜遅くだった。
「ホットドリンクとクーラードリンクが入っていますよ?」
支給品ボックスを覗いたリサはそう言うと一度蓋を閉じ、みんなのところへと戻る。リヴァル、ショウヘイ、ユウキの3人はテントの前で砂の大地の上にこの砂漠の地図を広げていた。そこにリサも合流し、作戦会議を始める。
「ギルドが確認した状況によると、テオ・テスカトルは主に砂漠エリアにいるらしい」
ショウヘイの言葉に一同頷く。
「問題は今から狩りに出るか、それとも朝を待つかだが…」
ショウヘイはここで言葉を切った。どちらかを選んで欲しいということだろうとリヴァル、リサ、ユウキは受け取り、各々の意見を述べる。
「俺は夜の方がいい。暑いと狩りに集中できないからな」
「それに関しては同感だ。集中できないと、当てられる場面で当てられなくなる」
リヴァルの意見にユウキは賛同した。
「リサは?」
「私も夜の方がいいです。長い間ポッケ村にお世話になっていて、暑い場所に慣れていませんから…」
「リサはポッケ村出身じゃなかったのか?」
「…私の生まれた場所は、もうありません。ハンターになったのは、生きる為です」
リサの言葉にユウキは「すまない」と謝ったが、リサは「気にしないで下さい」と元気の無い笑みを浮かべたのだった。
「じゃあ、今すぐにでも出発しよう。放っておくと、ミナガルデの街のように、集落が襲われるかもしれないからな」
ショウヘイの言葉はもっともで、リヴァル達4人はそれぞれの準備を終えるとホットドリンクを飲み、ベースキャンプを後にした。
ベースキャンプも寒かったが、風のある広い砂漠地帯の方がもっと寒かった。ホットドリンクを飲んでも、立ち止まっているとすぐに身体が震えてくる。そんな砂漠の中を、リヴァル達は一列に並んでテオ・テスカトルを探し始めた。大きな月の光のおかげで、砂漠は夜でも遠くまで見渡すことができる。
「ショウヘイさん、ユウキさん」
リサに声を掛けられて、先行しているショウヘイとユウキは歩きながらも上半身だけ振り向いた。
「どうした?」
「私やリヴァルさんは、まだテオ・テスカトルを見たことがないので、どんなモンスターなのかを知りたいのですが…」
リサの言葉を聞いて、ショウヘイとユウキは一度顔を見合わせると、ユウキがショウヘイに向かって顎で指示し、ショウヘイは呆れるように肩を落としてから説明を始めた。
「テオ・テスカトルは炎を自在に操る古龍だ。動きは速いし、隙も少ない。そして賢い。攻撃パターンとしては、突進がメイン。炎のブレスは強力だ。それと、広範囲の爆発攻撃もある」
「広範囲の爆発攻撃ですか…。ありがとうございます」
「後は実際に戦ってからだな」
ショウヘイは最後にそれだけ言うと正面を向き、ユウキも一度頷いてから正面を向いた。
この後は特に誰も話さず、静かにテオ・テスカトル探しが続いた。やがてエリアを跨いで別の砂漠地帯に差し掛かった時、砂漠の中心に佇む龍が目に入った。
「あれが…?」
「テオ・テスカトルだ」
リヴァルの問い掛けにやや緊張したユウキの声が返ってきたので、リヴァル自身も緊張してしまう。先日のシェンガオレンのように、今回のテオ・テスカトルもリヴァルやリサにとっては初めてだ。
やがて、テオ・テスカトルの顔が見て取れるくらいにまで近づいたところでショウヘイが立ち止まったので、後続のユウキ、リサ、リヴァルもその場で立ち止まる。
「竜人が人間を連れてくるとはな…」
ショウヘイにしか聞こえない言葉を発して、テオ・テスカトルは笑ったのだった。