翌日、リヴァルはハンター専用の宿泊施設―――通称マイハウスの前で、リサと合流してから大衆酒場へと足を踏み入れた。まだ朝ということもあって夜ほど混んではいなかったが、真昼ほどの閑散ぶりでもない。綺麗に敷き詰められた石畳の上に並べられた長テーブルのひとつにジュンキ達の姿を見つけて、リヴァルとリサはジュンキ達の隣に―――リヴァルはショウヘイの隣に、リサはクレハの隣に座った。
「おはよう、リサちゃん」
「おはようございます、クレハさん」
「おはよう、リヴァル」
「…ああ」
リヴァル達とリサが挨拶を済ませると、その時を狙ったかのようにユーリが現れ、注文を取り始めた。各々朝食を注文し終えたその時を見計らい、ショウヘイがユーリを呼んだ。
「ユーリ、出現したモンスターについて、何か分かったか?」
ショウヘイの問い掛けに、ユーリはいつになく真剣な表情で口を開く。
「各場所に現れたモンスターが何なのか、分かったわ。雪山にクシャルダオラ。砂漠にテオ・テスカトル。沼地にキリン。火山にラージャンよ」
ユーリが淡々と述べたモンスターの名前を聞いてリヴァルとリサは驚いたが、ジュンキ達は冷静にユーリの話を聞き、驚愕よりは納得しているようだった。どのモンスターも古龍か、古龍に等しいくらいの危険なモンスターなのにである。
ユーリがカウンターの方へ戻っていくと、リヴァル達はジュンキを中心に、今後の作戦を練り始めた。
「相手は古龍級のモンスターばかりだが、みんな一度は狩猟経験があるだろう?変に気負う必要はない」
ショウヘイの言葉にジュンキ、クレハ、ユウキ、カズキが頷いたので、リヴァルとリサは驚き、絶句してしまった。
リヴァルとリサはポッケ村での生活を通してジュンキ達の実力をある程度把握しているつもりだったが、ジュンキ達5人の実力はその更に上をいっているようだった。
「あ、リヴァルとリサはまだ狩猟経験は無いか?すまない」
「いえ…」
ショウヘイが謝ってきたので、リサは「気にしないで下さい」と申し訳なさそうに微笑んだ。
「…さ、どうやって狩る?」
「いくら緊急事態でも、7人で狩りに出ることは出来ないだろうな。4人で出て、3人は留守番か…?」
「それだと非効率だ。3人で狩りに出られないか?」
「3人は危険だろう。ミラルーツが送り込んだモンスターだ。そう簡単に狩れるとは思えないな」
「あの…」
ジュンキ、ショウヘイ、ユウキ、カズキが考え込んでいるその時、リサが口を開いた。
「3人の方に、竜人を2人置いたらどうですか?」
「あ~なるほどね。確かにそれなら安心かな…?」
と、ユウキが天井を見上げながら言った。
「だとすると、ジュンキとクレハが3人の方だな」
「だなー」
「なー」
「えっ?」
「へっ?」
突然ショウヘイが言ったことにユウキとカズキがいきなり賛同したので、ジュンキとクレハは驚いて言葉に詰まってしまった。
「クレハはジュンキから離れたくないんだろ?」
「えっ…まあ…。そう…かな…」
カズキに直球で聞かれたので、クレハは顔をジュンキから隠すようにして肯定の意思を出した。
「わ、私はリヴァルさんと一緒がいいです…」
「えっ?」
突然リサがリヴァルと行動したいと言ったので、リヴァルは驚いて言葉に詰まってしまった。
「おお~っ!熱いのが2組も!ヒュー!」
「そ、そんなんじゃないですっ!」
カズキがはやし立てる中、リサが全面否定する。しかし、ジュンキとクレハは互いに顔を赤らめているものの、否定はしないのだった。
「…閑話休題。ジュンキ、クレハは3人側。リヴァルとリサ、そして俺は4人側だが…。ユウキとカズキはどちらに入るんだ?」
「俺はガンナーだから、メンバーが多ければ多いほど俺の気配を隠せる。俺は4人側で行きたい」
ショウヘイの問い掛けに、ユウキは持論を言った。それに対してカズキは「それでいい」と答え、リヴァル達7人のパーティはリヴァル、リサ、ショウヘイ、ユウキの4人とジュンキ、クレハ、カズキの3人に、ふたつへと分割された。
「後は、どの場所へ赴くかだな」
「適当でいいか?クシャルダオラとラージャン」
ジュンキが適当に狩猟対象を選択したが、これに関しては誰も異議を唱えなかった。
「じゃあ、テオ・テスカトルとキリンだな」
「よし、それでいこう。みんなもそれでいいか?」
ジュンキが話をまとめると、丁度その時を見計らっていたかのように朝食が運ばれてきたので、リヴァル達は早速食事を始めたのだった。
ジュンキ、クレハ、カズキの3人は、朝食を済ませ次第ドンドルマの街を出発した。最初の狩猟対象はクシャルダオラと3人で話し合って決め、雪山へと向かう竜車に乗り込んだ。今はザラムレッドやセイフレムに頼むわけにもいかないので、雪山の麓のポッケ村に到着した頃には5日が経ってしまっていた。
「かなり時間がかかっちまったな」
「陸路で行くのは大変な村だからな」
「う~、お尻が…」
カズキとジュンキは颯爽と竜車から降りたが、クレハは尻を撫でながらゆっくりと竜車を降りた。
「パッと見、異変は無さそうだけど?」
「中に入ってみないと分からないだろ?」
カズキが腰に手を当てて前向きな事を言うので、ジュンキは一応釘を刺す。
「それじゃ、村へ入ろうぜ」
カズキが先陣を切って歩き出し、その後ろにジュンキとクレハが続く。3人揃ってポッケ村の門をくぐり村の中を見渡すが、これといった異常は見受けられない。
「クシャルダオラによる直接的な被害はまだ無しか」
ジュンキが安堵する中で、クレハが心配そうに口を開いた。
「村長さんの話を聞こう?目に見えない被害があるかもしれないし」
「ああ、そうだな」
クレハの意見はもっともで、ジュンキとカズキは頷いた。クレハも一度小さく頷いてから、いつもの場所で焚き火にあたっている村長に駆け寄った。
「村長さん!」
クレハに呼ばれた村長は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐにいつもの温和な笑みに変わった。
「おや、クレハ殿ではないか。ジュンキ殿にカズキ殿も。他のみなさんはどうしたのかの?」
ここでジュンキは村長に、これまでの経緯を簡単に説明した。
「…なるほどの。空に放たれた炎のブレス。突然現れた雪山のクシャルダオラ。これで納得ができたよ…」
村長は「ふう…」とため息を吐いてから、言葉を続けた。
「今、この雪山に、クシャルダオラと呼ばれる古龍がいる。あまりに危険なので、村人は雪山への立ち入りを禁じているところだよ」
「今のところの被害はどうですか?」
「幸い、誰ひとりとして怪我してないよ。村もまだ襲われていない」
「そうですか…」
村長の言葉を聞いて、ジュンキ、クレハ、カズキは互いの顔を見合わせて頷き合った。
「なあ、村長。そのクシャルダオラと戦わせてくれないか?」
カズキの持ち出した話に、村長は驚きの表情を隠さなかった。
「あまりに危険じゃ。許可はできないよ。と言いたいが…その為だけにわざわざこの村まで戻ってきたんだよね。それに、竜人…だったかの?その力を信じてみようかね…」
村長はそこまで言うと、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、ジュンキ達に差し出す。それはクシャルダオラの討伐依頼書だった。隅に雪山立ち入り許可の旨も記されている。
「支給品はちゃんと届けさせるからね。気を付けるんだよ」
「ありがとう、村長」
クレハの感謝の言葉に、村長は「無理はしないんだよ」と暖かく見送ってくれたのだった。