「リヴァル、交代しよう」
「リサちゃん、交代だよ」
「カズキ、交代だ」
ジュンキ、クレハ、ショウヘイと入れ替わり、リヴァル、リサ、カズキはシェンガオレンの下から抜け出した。ある程度の距離を取ってから、各自で回復薬を飲む。
「もうあんなに接近してる…!」
リサの心情はリヴァルもカズキも同じだった。気が付けば、シェンガオレンはミナガルデの街の目と鼻の先にまで迫っていた。
「そろそろガンナー達の出番…。始まったか」
カズキの声を聞いて、リヴァルとリサはミナガルデの街へと視線を移した。ミナガルデの街からは無数の黒点が放たれ、シェンガオレンに当たって爆発したりしている。
「ガンナーの射程距離まで接近されているんですね…」
「おいおい、マジかよ…!」
リサが不安気に声を上げたが、カズキの声を聞いたリヴァルはシェンガオレンの方を向いた。そこにはミナガルデの街の手前で動きを止め、巨大な一対の鋏を高々と掲げるシェンガオレンの姿があった。あの鋏が振り下ろされればミナガルデの街に甚大な被害が出るだろうことは想像に難くなかった。ガンナー達の攻撃が止まっているのは、あの鋏から逃れようと退避したからだろう。
しかし幸いなことに、その鋏が振り下ろされることはなかった。シェンガオレンの本体を支えている4本の脚で、その中の1本が赤色に変色したのだ。そしてシェンガオレンは体勢を崩し、高々と振り上げられた鋏はそのまま下へと降ろされた。
「危ねぇな…」
カズキの漏らした言葉はリヴァルの心境と同じだった。あんな巨大な鋏を振り下ろされたら、街が真っ二つにされかねない。シェンガオレンは4本の脚をボキボキッと鳴らし、再び姿勢を低くした。そしてその場で旋回すると、ミナガルデの街に背を向ける体勢をとる。
「今度は何をする気だ…?」
シェンガオレンは一対の鋏を地面に突き刺すと、背中の甲羅の口を開いた。
シェンガオレンに限らず、ダイミョウザザミやショウグンギザミ等の甲殻種は背中にヤドを背負っている。ダイミョウザザミはモノブロス、ショウグンギザミはグラビモスの頭蓋骨というのが一般的だが、目の前のシェンガオレンは巨大な竜の頭蓋骨を背負っている。
その口が開くと、中から黄色の霧が溢れ出した。何かを吐き出そうとしているのだろう。
「まずい…!」
リヴァルのハンターとしての勘が、危険を感じていた。シェンガオレンの巨体が震え、力を込めているように見える。ミナガルデの街の方からは悲鳴が聞こえ、ガンナー達が混乱しているのが想像できる。
そしてついに、シェンガオレンの背中の頭蓋骨の口から黄色い液体が発射された。それは放物線を描いてミナガルデの街へ飛んでいき、衝撃でリヴァル達が立っている場所まで揺れた。
「…!」
リヴァルもリサもカズキも、声が出なかった。それはこの場にいる全てのハンターも同じで、リヴァル達の近くで待機しているハンター達も絶望したように黙り込み、シェンガオレンの足元で戦っているハンター達は戦うことをやめてしまっている。
「街を…守れなかった…?」
リヴァルは膝の力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまう。リサもリヴァルに続いてその場に崩れるように座った。
「くそっ…。くそっ…!」
カズキはシェンガオレンを睨み、罵る言葉を吐く。リヴァルは自分の両手を見つめると、きつく瞼を閉じた。
ミナガルデ防衛戦は終わったのだ。…ハンターの負けで。
「リヴァルさん…」
リサが声を掛けてくれたが、目を開けることすらためらわれた。目を開ければ、見たくない現実を見てしまう。それでも再度リサに名前を呼ばれて目を開けたその時、リヴァルはシェンガオレンが悲鳴を上げたのを聞き逃さなかった。
慌てて顔を上げると、そこには脚を4本とも赤く染め上げ、その場に崩れ落ちるシェンガオレンの姿があった。シェンガオレンの足元で戦っていたハンター達が慌てて退避する様子が、ここからでも見て取れる。
しかし、その場を動かないハンターが3人。ジュンキとクレハとショウヘイだ。
その3人はシェンガオレンの巨体に潰される直前、人間ではあり得ない跳躍力でその場を飛び退き、紙一重で回避してみせた。そのまま膝関節を巧みに使って着地すると、バネのようにシェンガオレンの元へと跳んで戻る。
その先はまさに芸術だった。右にジュンキ、左にショウヘイ。中央にクレハがいて、一寸の狂いもなくタイミングを合わせてシェンガオレンの本体に攻撃を加えていく。それを見たハンター達が次々と攻撃に加わり、シェンガオレンを囲んでいく。
「…!」
突然右肩を掴まれたので振り返ると、カズキが一度頷いてシェンガオレンを指差した。
「俺達も行くぞ」
「はい!」
リサがそう言って立ち上がったので、リヴァルも負けていられないと立ち上がる。
「…行こう」
リヴァルは自分にそう言い聞かせると、先陣を切って走り出した。
ジュンキ、クレハ、ショウヘイはシェンガオレンに攻撃を仕掛ける際、一切言葉を交わしていなかった。一心不乱でそれぞれが己の武器を振り回しているのに、タイミングが一致する。呼吸が合う。
そしてジュンキがクレハとショウヘイに目配せすると、まるでこうなることが分かっていたかのようにクレハとショウヘイも目を合わせて頷いた。
「はああああっ!」
「やああああっ!」
「たああああっ!」
ジュンキとショウヘイがそれぞれの太刀を振るい、クレハが鬼人化して2人の間で舞う。そしてジュンキとショウヘイが太刀を、クレハが双剣をシェンガオレンに突き立てた。シェンガオレンがビクビクッと痙攣し、脱力してその場に崩れる。
ハンター達からは歓声が上がったが、ジュンキ、クレハ、ショウヘイの3人は黙ったままシェンガオレンの顔の前に立った。
「流石は竜人…。竜人に本気を出されると、敵わんな…」
シェンガオレンが口元から泡を噴き出しながら、竜人にしか聞き取れない声を上げる。
「しかし…私を止めたところで…計画は終わらない…。せいぜい…頑張ることだな…」
これが、シェンガオレンの最期だった。