「人間、駆逐、計画…?」
「ああ…。我々、竜の世界の王3兄弟。その長兄であるミラルーツが、大陸から人間たちを排除するために、動き出したのだ…」
「なんだって…!」
ジュンキは大地の揺れる中、大空に放たれた炎のブレスをもう一度見上げた。
その時、視界の端に、動く山が見えた。
「何だ?あれは…」
見た目はダイミョウザザミと呼ばれるモンスターに似ているが、大きさが桁違いにデカい。小さな山くらいある。
その巨大モンスターが、ゆっくりと移動していく。
「あの方角…あの先には、ミナガルデの街がある…!」
クレハはジュンキの隣で、悲鳴に似た声を上げる。
「大陸の各地で、ミラルーツの考えに賛同した竜たちが行動を起こしているはずだ…。ジュンキ、いや、竜人よ…」
ジュンキは突然ザラムレッドに呼ばれて、顔を上げた。そこには、真剣な表情のザラムレッド。
「竜人よ…。どうか、人と竜が共存しているこの世界を…守ってはくれぬか…」
「…もちろん」
「…当たり前だよ」
ザラムレッドの要請に、ジュンキとクレハはしっかりと頷いた。
「セイフレム、儂はこれから子供たちを避難させた後、ミラボレアスを探しに行く。お前はジュンキ達竜人と、行動を共にするのだ」
「ええ。気をつけてね、あなた…」
ザラムレッドはセイフレムと頬を擦り合わせると飛び上がり、巣の方へと飛び去った。見送ると、セイフレムはジュンキとクレハの方を振り向いた。
「さあ、これからどうするの?」
「…一度、全員で集まろうと思う。今ここにいる4人を乗せて、大陸最北端の村へ飛べるか?」
「私は飛竜リオレイア。それくらいは朝飯前よ?」
「ありがとう、セイフレム」
ジュンキとクレハはセイフレムにひとつお礼を言うと、リヴァルとリサの元へ駆け寄った。
リヴァルはリサに抱えられて、起き上がったところだった。
「あ、ジュンキさん、クレハさん…。一体、何が起きているんですか…?」
「リサちゃん、ごめんね。一旦全員で集まって、それから説明するから…」
クレハにそう言われると、リサは頷くしかない。
「リヴァル、立てるか?一緒にポッケ村へ戻って欲しい。そこで詳しく説明する―――」
「…ふざけるな」
リヴァルはジュンキの言葉を遮るとリサの手を振りほどき、ジュンキの前に立った。
「何が起きてるなんて、知ったこっちゃないね…。俺はリオレウスと、そこのリオレイアを殺す。それだけだ…」
「…リヴァル君。今、この大陸では、多くの人が竜によって殺されそうなの。私達に、手を貸してくれない?」
クレハの説明も聞かず、リヴァルはゆっくりと目の前のリオレイア―――セイフレムに向かって歩き出す。
「知ったこっちゃないねぇ…何人死のうと…俺には関係ないからなぁ…」
「リヴァル!それは、お前の本心か?」
ジュンキの辛辣な声が、リヴァルに背後から響く。しかし、リヴァルは口元が緩むのを感じていた。
「…ああ」
答えた瞬間、リヴァルは右頬に衝撃を感じて吹き飛ばされた。殴られたと理解したのは、大地に伏せてからだった。
「ふざけるなよ…!」
殴られた痛みを堪えて顔を上げると、そこには握り拳を作って怒りを顕にしているジュンキの姿があった。
「人の死を、家族の死を目の当たりにしてきたお前が、この状況下で出した答えがそれか!?」
ジュンキはそこまで言うと、リサとクレハの方を振り向いた。
「リヴァルは置いていく。リサは一緒に付いて来てくれるか?」
ジュンキからの誘いに、リサはそっと首を横に振った。
「…ごめんなさい、ジュンキさん。私は、リヴァルさんとゆっくり話がしたいです。後から必ず追いつきますから…」
「…そうか、分かった。クレハ、行こう」
「うん」
ジュンキはクレハと一緒にリオレイアの脚の上に乗ると、飛び去ってしまった。
「すごい…」
リサはこれまで何度もジュンキやクレハ達の信じられない場面を見てきたが、またも驚かされてしまった。竜に乗るハンターなんて、聞いたことも見たこともない。
しかし、いつまでも感傷に浸っている場合ではない。リサは倒れているリヴァルに駆け寄ると、リヴァルのリオソウルヘルムを取り外した。
「…!」
そこには、涙を流すリヴァルの姿があった。
ベースキャンプまで戻ると、リヴァルとリサはテントの簡易ベッドに腰掛けた。
「…」
「…」
沈黙。
リヴァルもリサも、何から話せばいいのか分からなかった。
「…なあ、リサ」
「…はい」
「俺は…何がしたいんだろうな…」
「…」
「俺は、父さんと母さんと妹の敵を取りたいが為に、ハンターになった…。復讐さ…」
「…」
「俺は、この世界から、全てのリオレウスを消したい…。けど…何なんだろうな、この気持ち…」
「…?」
「どうして俺は今…ジュンキなんかの言葉を真に受けて…人を…命を助けなきゃって…思っているんだろうな…」
「…」
「俺は復讐者で…ハンターで…命を…奪う方なのにな…」
「…それは」
ここでリサが言葉を発したので、リヴァルはリサの方を向いた。リサは、穏やかな笑みでリヴァルを見つめていた。
「それは、リヴァルさんの本心です」
「本心…?」
「はい。リヴァルさんは、本当は優しい人です。リヴァルさんに、復讐者なんて似合いません」
「…」
「本心に、素直に身を委ねてみてはどうですか?リヴァルさんは、もう少しだけ、正直になった方がいいですよ」
「正直に…?」
「…リヴァルさんも気付いているはずです。例えこの世界からリオレウスを消し去っても、何も変わらないことを」
「…!」
「死んだ人間が、生き返る訳がない。…そうでしょう?」
「それ以上―――」
「言います。はっきり言います。リヴァルさん、リオレウスをこの世界から消すなんて考え方は、やめましょう」
「…!?」
「はっきり言って無駄です。…過去に縛られて、未来を失うのはあまりに悲惨です。過去の事は過去のことにして、これからのことを考えませんか…?」
「…」
「…私も両親と、兄を失っています」
「えっ…!」
「だから、リヴァルさんの気持ちも分かります。だからこそ、リヴァルさんには今を生きて欲しい。過去と、現在と未来を切り離して…」
「…リサは、強いな」
「…強くないですよ」
「ありがとう、リサ…。ほんの少し、落ち着いた」
「…」
「本心に従え、か…。確かに今は、考えて行動したくない気分だ…」
「…リヴァルさん」
「…リオレウスのことは、憎い。この気持ちは変わらない。けど今は、本心に従うことにするよ」
「それでは…!」
「…これ以上、俺みたいな復讐者が増えるもの、気味が悪いからな」
リヴァルはここまで言うと立ち上がり、胸元から首飾りを外した。リヴァルの両親の、婚約指輪である。
「リサ、これを預かっていて欲しい」
リヴァルはそう言うと、リサに差し出した。リサの手の平の上に落とす。
「俺の父さんと、母さんの婚約指輪だ」
「…!」
リヴァルに手渡された一組の指輪を見て、リサは呼吸を忘れるくらいの衝撃に襲われた。この一組の指輪を、リサは知っている…!
「どうかしたか?」
「い、いえ…」
リサは受け取った右手が震えないように細心の注意を払いながら、アイテムポーチの中にしまった。
「さてと…これからどうするかだが…」
「今、私達に出来ることをやりましょう」
「俺達に出来ること…。あの、巨大なダイミョウザザミみたいな奴を狩ることかな」
「そうですね。クレハさんが、確かミナガルデの街に向かっていると言っていました」
「じゃあ、先回りしよう。そのミナガルデの街で、ジュンキと合流できるはずだ」
「はい」
リヴァルとリサは各々の装備を確認すると、ミナガルデの街を巨大なモンスターから守るために、まずはココット村へ向かって第一歩を踏み出した。