モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 重なる想い ずれる思い 10

雪山からの帰り道。

ショウヘイはリヴァルに、竜人について説明することにした。

「…リヴァル」

「なんだ?」

「まず先に言っておくが、お前は竜人だ」

「だから、竜人って何なんだ?俺は人間だ。竜人族じゃない」

「竜人族と竜人は、根本的に違う者だ。竜人族は、太古の昔から人間と同じく、基本的に同種族間で生まれるものだが、竜人は、人と竜の間の子なんだ」

「な…!?」

リヴァルは深い赤色の瞳を見開いて驚く。ショウヘイは一拍置いてから説明を続けた。

「驚くのも無理はない。俺でさえ、信じきれていないからな。人と竜の間に生まれたのが竜人…。お前は、その末裔だ」

「…どうしてそう言える?」

「説明が難しいな…。お前、ティガレックスを…倒した瞬間、何か感じなかったか?」

「…抑えきれない殺意に、不思議なくらいの高揚感があった。あと、こう…何かが、内側から這い出てくるような、そんな感覚があったな…」

ショウヘイが頷く。

「お前はまだ、竜人として完全に目覚めてはいない。あと少し、何かキッカケがあれば目覚めるはずだ」

リヴァルとしては、ショウヘイが言っていることを信じることができなかった。話が飛躍しすぎている。

しかし、ここでショウヘイの話を頭から否定すれば会話が続かなくなってしまうので、リヴァルは自分が知りたいことだけを尋ねることにした。

「それはそうとして…俺が竜人だと、一体どうなるんだ?」

「…竜人は、世界の均衡が崩れそうになると、それを正すために目覚めるらしい。そして、お前が感じたその感覚…。それはまさしく、お前の中の竜が目覚めようとしているからだ。そこで俺としては、お前の竜の力を貸して欲しい」

「力を貸す?何に対して?まさか、世界を正すため、とか?」

「それは俺達にも分からないんだ。だが近々、何かが起こる。そんな気がしてな…」

「…次の質問いいか?俺が竜人だとして、俺に何か影響があるのか?」

「そうだな…。影響はいくつかある。ひとつ、瞳だ」

「瞳…?」

「ああ。竜人になっている間…俺達は竜人化と呼んでいるが、その間は瞳が竜のそれになる。竜人である目安だな。さっきも、お前の瞳は竜のそれに変化していたぞ。自分じゃ気付かないだろうが…」

リヴァルは黙ったまま頷いた。

「ふたつ、筋力が増強され、回復力も上がる。竜人ということは、竜の強靭な筋力と体力、精神力と回復力を備えていることになる。だからその肩の怪我も、恐らく完治するだろう」

「便利な身体だな」

「まあな…。最後に、竜と会話ができる」

「…!」

リヴァルは黙ったまま、深い赤色の瞳を見開いた。

「竜にも言葉がある。人間に聞き取れないだけだ。だが、竜人ならそれを聞き取れる」

「…馴れ合いは御免だ。ところで、ひとつ聞いてもいいか?」

「何だ?」

「ショウヘイは「俺達」って言っていたな。ということは、ショウヘイも…?」

「ああ。俺も竜人だ。ミラボレアスの血を引いている」

「血…?」

「…説明してなかったな。自分が何の竜の血を引いているか、俺達は知っている。俺はミラボレアスだ」

「ミラボレアス…?聞いたことないな」

「人々の間では伝承と化しているからな。けど、実在する。俺はミラボレアスと人間の末裔さ」

「じゃあ、俺は…?」

「それは俺にも分からない。ミラボレアスに聞かないと」

「そのミラボレアスが知っているのか?」

「知っているというより、判別できるが正しいか。ミラボレアスは、竜の王だからな」

「そうか…。話を戻すが、ショウヘイは俺達は竜人って言ったよな。ということはショウヘイだけでなくて…?」

「ああ。俺以外にも竜人がいる」

「誰だ?」

「死んだ、チヅル」

「…」

「クレハ」

「あのリオレイア女か」

「そして…ジュンキ」

ショウヘイがジュンキの名前を出した瞬間、リヴァルは一瞬だが「にが虫」を噛み潰したような顔をした。

「…その3人は、何の血を引いているんだ?」

「…チヅルはイャンガルルガ。クレハはリオレイア。ジュンキは…リオレウス」

「がああッ!」

チヅル、クレハ、ジュンキと話を進めるごとにリヴァルの顔は凶悪になり「リオレウス」の部分でリヴァルは野獣の如く吠えた。

「くそっ!何から何まで腹が立つ奴だ!」

リヴァルは道端の小石を蹴り飛ばすと早歩きで先行してしまったので、ショウヘイの説明はここで終わってしまった。

 

ポッケ村の集会場に戻ったリヴァルが最初に見たものが、リサ、ジュンキ、クレハ、ユウキ、カズキ、村長、受付嬢が集まって話をしているところだったので、リヴァルは帰還早々機嫌が悪くなった。狩りが終わった報告をしようとカウンターに近づいたどころで、案の定ジュンキに声を掛けられたので、不機嫌な表情のまま、リヴァルはジュンキを睨んだ。

「…ティガレックス狩りに出たんだな?」

「…だから?」

ジュンキが何を言ってくるのか大体分かっていたので、リヴァルは面倒臭そうに答えた。

「…どうしてひとりで行った?」

「俺ひとりで問題無いからだ」

「…その怪我で、よくそんな事が言えるな」

「フン…。何が言いたい?」

「…分からないのか?お前は、自殺しに行ったようなものだ」

「俺の命は俺の勝手だ」

「お前な…知っているのか?こちらの受付嬢が、どれだけお前を止めなかったことを後悔し、村長や俺が心配し、クレハ、ユウキ、カズキが怒り、ショウヘイに迷惑を掛けたことを―――」

「あああッ!!!うるさいんだよお前はいちいちよぉ!!!えぇ!!?生きて帰ったんだから別にいいだろうが!!!ティガレックスは死んだ!!!俺は村を出る!!!それでいいだろうがぁ!!!」

リヴァルは大声で怒鳴り散らしたが、誰ひとりとして反応しなかった。それが、リヴァルをさらに苛立たせる。

「…リヴァル。ティガレックスの件はもういい。お前に話がある。突然で驚くだろうけど、お前は竜人―――」

「ごちゃごちゃうるさいっつってんだろ!!!大体なぁ―――!!!」

 

 

 

「女ひとり守れなかった奴に、あれこれ言われる筋合ねぇんだよ!!!」

 

 

 

リヴァルの言葉は、場を凍らせることに絶大な威力を発揮した。

「リヴァルッ!!!手前ぇぇぇッ!!!」

突然カズキがジュンキの前に出て、リヴァルに殴りかかった。

カズキは怒りに任せてリヴァルを殴ろうと右腕を振り上げたが、誰かに右肩を掴まれたので、カズキは怒り顔のまま振り返った。そして驚く。

カズキの右肩を掴んだのは他の誰でもない、ジュンキだった。

ジュンキは俯いたまま、今にも消えてしまいそうな、弱々しい声を出した。

「いいんだ、カズキ…。チヅルを助けられなかったのは…俺のせいなんだから…」

カズキは言葉に詰まったが、すぐリヴァルを睨みつけた。

リヴァルはフンッと鼻息を荒げると集会場を出ていった。

「リヴァルさんっ!」

リサが慌ててリヴァルを追いかけて集会場を出て行くと、沈黙がジュンキ達を包んだ。

 

リヴァルは自宅のドアを思いっ切り蹴って開くと中に入り、壊れても不思議ではない勢いで閉めた。しかし、その扉はすぐリサの手によって開かれる。

「リヴァルさん!どうしてあんな事を言ったんですか!今すぐ、ジュンキさんに謝って下さい!」

「お前もいちいちうるせぇ女だな!ああっ!?ティガレックスは死んだんだ!それで満足だろ!?山道が開通したら、すぐにこんな村、出ていってやるよ!」

「…」

「な、なんだよ…?文句あるのか…?」

「…リヴァルさん、最低です」

リサは涙目でそれだけ言うと、リヴァルの家を出ていった。


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