リヴァルとショウヘイは、無事にベースキャンプまで戻ることができた。
ショウヘイはリヴァルを倒木の上に座らせると、ベースキャンプの中に備えられている緊急治療セットを取り出してきた。そしてリヴァルのリオソウルヘルムを取り、リヴァルの右隣に置いた。
「ショウヘイ…っ!」
「今は話すな。…防具、脱げるか?」
「…無理だ」
「だろうな」
リヴァルの答えは、ショウヘイも予測できていた。
この左肩の状態では、リオソウルメイルとリオソウルアームを脱がすことはできない。リオソウルの甲殻は非常に硬く、人の手で切り裂くことはとても困難で、防具を破壊することもできない。
「仕方ない。このままの状態で手当てをするぞ」
「…ああ」
ショウヘイはやむなく、このままの状態で応急手当てをすることにした。
まず防具の上からリヴァルの左肩口をロープで縛り、出血量を減らす。次に傷口を確認するが、傷はとても深かった。左肩の肉は半分程が無くなっており、骨が見え隠れしている。
「…まずは骨を取り除くか。リヴァル、これを咥えていろ」
ショウヘイはそう言って、リヴァルに適当な太さの枝を与えた。リヴァルも黙ってそれを咥える。
「いいか?いくぞ」
ショウヘイは緊急治療セットの中から大型のピンセットを取り出すと、リヴァルの左肩の中の砕けた骨を取り除き始めた。
「うう…ッ!ぐう…ッ!」
「辛抱しろ。痛いのは生きている証だ」
時間をかけて丁寧に、ショウヘイは目立つ砕けた骨を取り除いた。
「次は止血だな…。リヴァル、激痛で気を失うかもしれないからな」
ショウヘイはそう言うと、焚き火の中から熱せられた焼け石を火鋏で摘まみ上げた。
「…行くぞ」
ショウヘイはリヴァルを一度見てから、傷口に焼け石を当てた。
「んぐうううああああああああッ!!!!!」
今までに体験したことのない激痛が、リヴァルの左肩を襲った。リヴァルの咥内で、ショウヘイが渡した枝が噛み砕かれる。
「…暴れるな。我慢しろ。もうすぐ終わる…」
強引な手段だったが、どうにか止血を終えると、ショウヘイは次にアイテムポーチから薬草を取り出し、水で洗う。
「包帯を巻くぞ。薬草を挟んでおくからな」
ショウヘイの提案を、リヴァルは頷くことで返事とする。
ショウヘイは水で洗った薬草をリヴァルの傷口に当て、きつく包帯を防具の上から締めた。
「…よし、とりあえずはこれで大丈夫だろう。よく耐えたな」
ショウヘイが安堵してリヴァルの顔を見ると、リヴァルは眉間にシワを寄せ、口の中の枝の欠片を「ぺっ」と吐いたところだった。
「食べながらでも話そう。時間はたくさんある」
ショウヘイはそう言うと立ち上がり、焚き火の上のこんがり焼けた肉を取り上げた。
「テントのベッドに腰掛けながらでも食べようか」
そう言って、ショウヘイがテントの中の簡易ベッドに腰掛けると、リヴァルは無言で立ち上がり、ショウヘイの隣に微妙な距離を置いて座った。
「…ありがとう。助かった」
「危なかったな。危うくティガレックスのディナーになるところだった」
「ふん…」
リヴァルが不機嫌そうにショウヘイから目を逸らすと、ショウヘイは小さくため息を吐いてから、リヴァルにこんがり焼けた肉を差し出した。
「ホットミートだ。肉に香辛料を混ぜ込んである。食べると温まる」
リヴァルはショウヘイとホットミートを見比べた後、渋々受け取ってかぶりついた。意外に美味しく、ひと口ふた口と食が進む。
すべて食べ終わるまで、ショウヘイは何も話さず待っていた。
「…感謝する」
「どういたしまして、だな。さて…」
ショウヘイは真剣な顔になるとリヴァルに尋ねた。
「どうしてリヴァルはひとりで狩りに出ていたんだ?確か、ジュンキが付いているんじゃなかったか?」
ショウヘイに痛い所を突かれて、リヴァルは押し黙ってしまう。
しかし、ショウヘイなら話しても大丈夫な気がして、リヴァルは簡単にだが、事の経緯を説明した。
「…なるほど。ジュンキを驚かせ、村人から感謝され、街にも戻れる。確かに一石三鳥だな」
「…」
「だが、お陰で危ない目に遭った」
「…どうしてあんたがここにいるんだ?まさか、ジュンキに遣わされたとか…?」
リヴァルの言葉に、ショウヘイは小さく笑った。
「いや、違うよ。ある薬草を探しにきたのさ」
「薬草?」
「ああ。パーティメンバーのひとりに、カズキという奴がいてな。そいつが酒に酔って外で寝たらしく、風邪を引いたんだ。今では熱も下がったけど、一応な…」
「そうか。…前から気になっていたんだが」
「何だ?」
「お前たちは、いつからあの村にいるんだ?あの村の出身じゃないんだろ?」
「…どこから話せばいいかな」
ショウヘイはしばらく考えた後、シュレイド王国軍から追われ、ドンドルマの街を出たところからリヴァルに話した。
「そうか…。じゃあ、チヅルというのは?村の中では見たことないが…今はソロで活動中か?」
「…」
ショウヘイはドンドルマの街を出た時の話に、チヅルの名前を出してしまっていた。そして、チヅルはもういない。ショウヘイは事実をリヴァルに伝えることにした。
「…死んだよ。俺達が追いつく前に、ひとりでリオレイアと戦ってね」
ショウヘイは、ジュンキから聞いたというチヅルの最期を話してくれた。
「そうだったのか…。すまない、こんなことを聞いて…」
「いや、いいさ。チヅルは、ハンターとして誇り高く死んだんだよ。本人も満足していたって、ジュンキは言っていた」
「…」
「…さて、そろそろ俺は村に戻るよ。リヴァルも戻るか?普通なら動けない怪我だ。戻るのが妥当だと思うが?」
ショウヘイはそう言って立ち上がる。
しかし、リヴァルは立ち上がらなかった。
「…すまない、ショウヘイ。俺は、何としてもあいつを狩りたい」
リヴァルの答えに、ショウヘイは小さくため息を吐いた。
「その腕は使い物にならないだろう?右腕だけであの重い大剣を振り回す気か?」
「そのつもりだ」
リヴァルの答えを聞いてショウヘイは目を閉じ考え、目を開くと同時に口も開いた。
「ふたつだけ言わせてくれ。ひとつ、絶対に死なないこと。これ以上葬儀に出たくないからな。ふたつ、俺も付いて行く」
ショウヘイの言葉を聞いて、リヴァルは眉間に皺を寄せた。
「…あいつは俺が狩る」
「邪魔はしないさ。遠くから見ているよ」
「…勝手にしろ」
リヴァルはそう言うと立ち上がり、狩りの準備をした。
傷口は今も痛むが、この際仕方ない。もしこれで腕が動かなくなりハンターを引退することになってもそれでいい。
リヴァルは準備を終えると、ショウヘイを伴ってベースキャンプを後にした。