モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 重なる想い ずれる思い 07

リヴァルは飛び出した。それと同時に、ティガレックスもリヴァルに跳びかかる。

リヴァルは避けたりせずにティガレックスの懐をくぐり抜け、ティガレックスが通過する勢いを利用して一閃。鮮血が飛び散る。

リヴァルは雪原を転がりながら起き上がり、ティガレックスを見据える。ティガレックスもすぐにリヴァルの方を振り向き、口を大きく開けて突進。リヴァルはこれも避けようとせず、大剣「オベリオン」を構える。

徐々に迫るティガレックスの口。リヴァルはタイミングを合わせて大剣「オベリオン」を後ろに引き、ティガレックスの下顎目掛けて振り上げた。大剣「オベリオン」はティガレックスの下顎に直撃し、ティガレックスの突進は止まった。リヴァルはすぐに大剣オベリオンを横に一振りし、さらにダメージを与える。

しかし、ティガレックスもただ攻撃を受けるだけではない。ティガレックスが四肢に力を入れたことにリヴァルは気付き、大剣「オベリオン」に重心を乗せ、ティガレックスから離れた。次の瞬間にティガレックスはその場で回転した。リヴァルの目と鼻の先をティガレックスの強固な尻尾が通り過ぎ、リヴァルは息を飲んだ。

ティガレックスが後方に飛び下がり、リヴァルとティガレックスの間に距離ができる。

「…」

リヴァルはティガレックスの意図が分からず駆け出す。するとティガレックスは右半身を後ろに引き、右翼を使って降り積もった雪を突き飛ばした。

「…!」

リヴァルの身長くらいの雪玉が3つ、リヴァル目掛けて飛んでくる。リヴァルはスライディングして雪玉の下をくぐり抜け、ティガレックスに肉薄する。

「…死ね」

リヴァルはティガレックスの頭部に大剣「オベリオン」を振り下ろした。ティガレックスは悲痛な叫び声を上げて、数歩後退する。リヴァルの顔が、リオソウルヘルムの下でにやけた。

ティガレックスは四肢に力を込めると一気に飛び上がり、翼を広げて山頂エリアを脱していった。

「…無駄なことを」

リヴァルはひとり呟くとその場にしゃがみ、アイテムポーチから砥石を取り出して大剣「オベリオン」を砥いだ。使い終わった砥石は投げ捨てて立ち上がり、リオソウルシリーズに故障がないか確認した後、リヴァルはティガレックスを追うために山を下った。

ペイントボールを使ってマーキングするのを忘れてしまったが、雪原に残された血痕を追いかけると、すぐ見つけることができた。今回は隣のエリアだったので良かったが、この猛吹雪では血痕もすぐ雪に埋もれてしまうだろう。リヴァルはアイテムポーチからペイントボールを取り出すと向こうを向いているティガレックスに臭いが届かないよう風下から近づき、ペイントボールを投げると当時に駆け出した。猛吹雪がリヴァルの足音を掻き消してくれていて、ティガレックスはペイントボールが右翼に当たって弾けるまでリヴァルの接近に気付かなかった。

ティガレックスが振り向いたと同時に、リヴァルは再び頭部を斬りつけた。奇襲に驚き、ティガレックスは数歩後退し、そして大きく後ろに飛んだ。

リヴァルは再び雪玉を投げてくるのだろうかと思ったが、ティガレックスは口を大きく開けて突進してきた。

「芸の無い奴め…」

リヴァルは腰のアイテムポーチに左手を突っ込むと閃光玉を取り出し、ティガレックスと自分の中間で破裂させた。

ティガレックスは驚き、その場で停止した。その間にリヴァルはティガレックスに駆け寄る。そして背中の大剣「オベリオン」を構えて頭部に攻撃しようとした。

しかし、ティガレックスはその場で回転し、リヴァルはその場で倒れることによってティガレックスの回転攻撃を避けた。

「ちっ…!」

リヴァルは仕方なくティガレックスから距離を取る。様子を見ると、ティガレックスはその場で無闇に自身を回転させ、咆哮していた。

「閃光玉は使いにくいか…」

リヴァルは呟くと右手をアイテムポーチに突っ込み、小さな円筒管を取り出した。それをこのエリアのほぼ中央に半分埋めるとティガレックスを見据えた。

ティガレックスは視界が回復したようで、頭を振った後にリヴァルを探し見つけた。リヴァルは円筒管の上に、大剣「オベリオン」も構えずに立った。ティガレックスは最初警戒していたが、結果として好機と見たらしく、リヴァルに飛びかかった。

リヴァルはティガレックスと激突する寸前まで待ってから横に飛んだ。そして、先程までリヴァルが立っていた円筒管の上に、ティガレックスが乗る。

すると、ティガレックスは身体を痙攣させ、呻き声を上げた。

「どうだ?シビレ罠の味は…。死にゆく気分は…!」

リヴァルは起き上がるとティガレックスの正面に立ち、大剣オベリオンを上段に構えた。そして全身の筋肉を使い、一気にティガレックスの頭部に振り下ろした。

ティガレックスの頭部はリヴァルの攻撃によって雪原に半分ほど埋まり、割れた甲殻から出血を始めた。リヴァルはさらに頭部へ攻撃を加えようと再び大剣オベリオンを上段に構え、振り下ろす。

「…死ね」

しかし、ティガレックスはリヴァルの攻撃が当たる直前に、頭を引いて回避する。

「なっ…!」

慌ててリヴァルは顔を上げてティガレックスを確認した。シビレ罠の効果は早々に切れたらしく、ティガレックスは身体を持ち上げていた。

(まずいっ!逃げ―――)

リヴァルはティガレックスと距離を取ろうとして、誤ってティガレックスと目を合わせてしまった。蛇に睨まれた蛙の如く、リヴァルは硬直してしまう。ティガレックスの純粋な怒りがリヴァルの本能的な恐怖を呼び起こし、リヴァルは呼吸すら忘れていた。

全身から嫌な汗が吹き出し、心拍数が急上昇する。猛吹雪の音は消え、爆発しそうな心臓の鼓動のみがリヴァルの頭に響いていた。

(動け…!動けよ、俺の身体…っ!)

必死に呼び掛けても、リヴァルの身体は言うことを聞かなかった。その間にティガレックスは大きく息を吸うと、至近距離のリヴァルに対して咆哮した。

「ぐあああああああああッ!!!」

目の前でティガレックスに咆哮され、リヴァルはその場に両手で耳を塞いでしゃがみ込むしかなかった。

リオソウルシリーズの防具は飛竜の咆哮をある程度防ぐことができるのだが、ティガレックスの咆哮はそれ以上の威力があったようで、リヴァルを行動不能に陥れた。もしリオソウルシリーズの防具を装備していなければ、リヴァルは気を失っていたかもしれない。

そして、ティガレックスは無力なリヴァルの左肩に噛み付いた。

「ぐっ…!」

そのまま、ティガレックスは上体を起こす。すると、リヴァルは足が地面に付かなくなってしまった。

「何をする気だ…?」

リヴァルがティガレックスを睨みながら言葉を発した次の瞬間、ティガレックスは顎に力を入れ始めた。

「なっ…!ぐ…ッ!」

リオソウルメイルが悲鳴を上げて砕かれ、牙がリヴァルの素肌に突き刺さる。

「殺すなら…一思いに殺しやがれぇ…ッ!ぐああ…ッ!」

ティガレックスは今までの恨みでも晴らそうとでもいうのか、じわりじわりとリヴァルを殺すことに決めたようだ。徐々に徐々に力を加えていく。

「殺せ…ッ!殺せぇええええッ!!!」

リヴァルが叫んだ次の瞬間、ティガレックスは一気にリヴァルの左肩を噛み砕いた。リヴァルの左肩の肉が弾け、飛び散る。

「があああああああああああああああッ!!!!!」

リヴァルは身体を反らせて絶叫した。声が裏返り、全身が痙攣する。

 

「…眼を閉じろ」

 

突然声が聞こえ、リヴァルは本能的に目を閉じた。次の瞬間爆発的な光が瞼を通して感じられ、落下する感覚の後に地面に叩きつけられる感覚。

「立てるか?逃げるぞ」

右肩を支えられ歩き出す。リヴァルが目を開けると、その男には見覚えがあった。確か―――。

「ショウヘイ…!」

「話は後だ」

ショウヘイに身体を支えられながら逃げる中、リヴァルは後ろを振り向いた。そこには視界を奪われて暴れているティガレックスの姿があった。


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